コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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やっぱなんでもないです。
日時: 2011/07/24 21:46
名前: 燈籠 ◆wRZA3wAIm6 (ID: Omw3dN6g)


 どーもはじめまして!
 燈籠(とうろう)とかいいます。

 えー、この物語りはですね、わかり難い異世界で、微妙な恋とかがあります、はい。
 それで結局くっつくことがわかってる二人が、何やら話数を延ばして、ラストが来る前に志半ばで挫折します。

 けど、自信作ですっ!


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Re: ( No.1 )
日時: 2011/07/24 21:42
名前: 燈籠 ◆wRZA3wAIm6 (ID: Omw3dN6g)

          *

 恐ろしくぼぉーっとしてて、恐ろしくくだらないことを考えていた。 
 自分は普段どんな食事をしていて、学校ではどんなことしてて、家では何をしてるのか。
 目指してるものは? したいことは? 好きなことは嫌いなことは?

 座り心地の悪い椅子に腰掛け、冷たい机に顔を伏せて、今日も僕はそんなことを思うのだ。


「……お嬢ぉ、僕に相談ごとを持ち込むなんて愚の骨頂ですよぉ。そういうのはですね、信用できて、なおかつ欲しい答えを欲しいところにくれる、優しいオトモダチにするのが一番です。くれぐれも、僕みたいなロクデナシにしちゃあいけません」
「いや、その……」お嬢は目を逸らして、指をモジモジさせる。「そのぉ、信用できて、なおかつ欲しい答えを欲しいところにくれる優しいお友達が、ワコくんなんだけど……」
「それは困りましたねえ」
 僕は頬杖をつき、偉そうに面倒そうに欠伸した。
 とてもじゃないが、どっからどう見ても<命の恩人>にする態度ではないだろう。
 うん。
 実際、<命の恩人>にする態度じゃあない。
 しかしそれは、お嬢が僕の<命の恩人>であれば、の話だ。
 ……まあ。
 お嬢は僕の<命の恩人>なのだけれど——。

 自らの通う高校に着き、しかしながら家を出る時間が早過ぎたためか教室にクラスメイトはおらず、バッグをおいたら読書かなーと、そんなときだ——なんて現在状況はどうでもよくて。
 お嬢の話。
 お嬢がどう、僕の<命の恩人>かという話をしよう。
 僕は、「いらない子」というフィクションにありがちなそれのようで、兄弟三人の内、一番わずらわしい嘆かわしい子供を棄てようなんて、御伽噺や世界名作劇場にありそうことがありまして——僕は両親に棄てられた。
 ——棄てる。
 施設に預けるとか、親権を放棄するとか、そーゆー話なら「殺さなくてありがとう」なのだけれど、嬉しくないことに、両親は 臓器売買的な、僕を解してお金にしようという、そんな考えがあったそうだ。
 そこをまあ、お嬢の祖父——獄條煉壱(ぎょくしのれんいち)に助けられ——
 ××××。
 早くして母親を亡くしたお嬢の相手をすることが僕の生存条件で、それを真っ当できているのか、居候をさせてもらっている。砕けた言い方をすると、お嬢が許してくれる限り、僕は行き続けられるのだ。

 <命の恩人>も同然である。


 で。
 まあ僕が「お嬢」と呼んでいるところから普通にバレるのだけれど、お嬢こと玖珂奈未鍵(くがなみかぎ)は、お嬢である。
 …………。
 失礼。任侠集団とは名ばかりの暴力団・獄條一家の孫娘だ。≪ごくせん≫のアレみたいな立ち位置でこそあれ、別に格闘技に秀でているでもなく、極道な言葉も遣わない。
 天然ものの茶髪を後頭部辺りで二つに括っており、整った目鼻立ちが大変綺麗で、どことなく蛇みたいな印象を受ける。
 くだらない世辞は抜きで、美人だ。
 異性には普通にモテる。
 いままで二、三回ほど告られたことがあるようで、陰険野郎溢れるこのご時世では十分なモテっ振りだろう。
 一部の男子曰く「ギャップがいい」とのこと。蛇みたいに鋭い感じがするのに、まあ話してみれば全然温厚なんだそうだ。
中身、まあ性格も普通にいい方で、成績は中の上、気立てよく「優しい」分類に入る。

 とまあ、紹介はこのくらいでいいだろう。

 お嬢に悩みがあるようだ。
「ワコくぅん」
 拾ってくださいと書かれたダンボールに、仔猫が入ってたのを目撃してしまったような気持ちになる、そんな声だった。
「……話すだけ話してみればいいじゃないですか、もぅ」
 果たして。
 お嬢といてうんざりするかといえば、そんなことはない僕だった。




 あ、ちなみに。

 お嬢の悩みとは、「なんか蛇みたいって言われるんだけど……わたしの顔って、怖い?」というものだった。
「釣り目じゃないし全然ですよ」と僕は返し、なぜだかお嬢はそれだけで上機嫌になった。
 僕一人の意見に傾くなら、それ悩むほどのことでもないんじゃね? と思ったのは秘密である。

Re: ( No.2 )
日時: 2011/07/26 13:49
名前: 燈籠 ◆wRZA3wAIm6 (ID: Omw3dN6g)

          *

 放課後だった。
 友人どもに「またな、こんど死ね」と別れを告げると「お前こそ死ね」「地獄で会おう」「すぃーゆー」と返ってきた。なかなか気のいいやつらである。
 お嬢にバレないようにさりげなぁく教室を出て、わずらわしい人の波をかわし階段を飛び降り、下駄箱で靴を履き替え全力疾走で校門を過ぎようとしたところで——なっぜっか、お嬢がいた。

 どうして? という疑問しか募らない。

「ワコくん、今日のはさすがに……露骨に逃げ過ぎじゃないかな……?」
 あんたはどうやって僕を追い越したんだ。「申しわけありませ——」
「んぁ?」すごまれた。
 しまった、とここで後悔する。人前でお嬢に敬語を遣うのはいけないんだった。
 お嬢にしてみれば僕は居候でしかないし、馴れ馴れしく図々しく接するのは気が引けるけれど、人前だとそうするように強要してくる。
 僕とお嬢が付き合ってる、なんて根も葉もない噂が立ちつつあるのだ。さぞかし辛いことだろう。

「まあいいや——ささっ、一緒に帰ろうワコくん」
「……た、たまには友達と帰ったらどう?」
「一緒に帰ろうワコくんっ」
「いや、だから——」
「わたしとごーとぅーほーむしようっ!」
 なんか、だめな気がした。
「さ、一緒に帰ろうワコくんっ」



 そう言っていただけるのは男冥利に尽きるし嬉しい以外の何ものでもないのだけれど。
 すっごく、個人的にはアリなのだけれど。

          *

 アリなのだけれど。
 どーして僕は、お嬢と手を繋いで帰らなければならないのだろうか。
「ううっ……」
 しかも指を絡める、どうにも中睦まじいと言わんばかりの手の繋ぎ方だ。
 さっぱりわからん。
「っ〜♪」
 お嬢が鼻歌を歌いながら、繋いでる腕を振った。離して欲しいのかと思ったので解こうとしたら爪が立った。「痛ちぢぢぢぢ……でぃいだぃッ」放せ小娘! 痛つつつつつつっ。
「ワコくん、キミは何がしたいんだいッ!?」
「いやあんたこそ何がしたいの!?」あー、痛たたたたたたっ。
「将来食いっぱぐれのない公務員になりたいです! まる」
「これからのことを訊いたんじゃねえよッ!?」痛たたたたっ。
 北斗のケンシロウとかになっちゃいそうだった。
「……! ワコくん、どうしたの? どこか痛い?」
「爪立てないでぇぇぇ……!」あんたリンゴ握り潰せるほど握力あるでしょうが!
 ゴリゴリいってるんですけど、僕の手が!
 ゴぉリゴリいってんですけどぉ!?
「わっつ?」
 この小娘……! 下手に出てればいい気になりおってからに。
 僕はお嬢にときめかない。「こんのぉー」とか「やぁったなぁー」とかなんない。
 海も駆けない! 手が痛い!!
 とか思っていたら、お嬢の方から手を離してきた。



「それにしても、空が赤いね」



 は?
 咄嗟に反応できなかった。「そう、ですねえ……」
「覚えてる? ワコくんがお爺ちゃん家にきたばっかのとき『なんで空赤いの?』て不思議がってたの。あれね、いまでもよくわかんない。——昼間なら空が赤いなんて当たり前なのに。『なんで青くないの?』って。そりゃたまに青いけどさ、別に毎日青いわけじゃないでしょ」
 そんなこともありましたなあ、うん。
「他にもさ、動物園行って『恐竜がいるぅ!?』って。動物園なんだから当たり前なのに」
「……んー」あれか。
 恐竜は絶滅してるとか、そういう常識を持っていたのだ。
 まあ何種類かは絶滅してるけど、ティラノサウルスとかトリケラトプスとか、そういうのは全然生きている。図鑑に載ってる昔の恐竜と、動物園で見るいまの恐竜は大分違ったけれど。
 図鑑の方が断然カッコよかったのはガッカリだった——しかし、恐竜を見たときの衝撃はいまでも覚えてる。
 言葉では語りつくせない、何かがあった。
「アレはですね、えと……お母さんだかお父さんだか、兄貴だかにそう教えられて……」
「え、お兄さんいたの?」
「ん? あ、はい。言ってませんでしたっけ? 二人兄弟がいて、兄と弟で……」
「聞いてない聞いてないっ! えー、教えてよー」
「別にいいですけど……」
 そういえば、いつの間にか敬語に戻ってた。
 そして、もう「家」の目の前だった。
「うぉーう、ついにワコくんの秘密が明かされるのだな!」
「いや、別に隠してないですし」
 かっこ笑い、とつきそうなくらい、気がつけば僕はほころんでいた。

 赤いペンキを塗りたくったような、透明度のない、赤い空。
 鉛筆でグシャグシャに書いたみたいに、形に違和感を覚える、白い雲。
 いつもは下向きで見上げなかった空には、動物園から逃げてきたのか、スネ夫みたいな恐竜が飛んでいた。

「あ、お嬢、スネ夫みたいな恐竜が飛んでます!」
「ぷっ、プテラノドン系統のだよあれは? スネ夫みたいな恐竜とか初めて聞いたよ……」
 くくくっ、とお嬢が笑いを堪えている。何が面白いのだろうか。
 形容し難い鳴き声が聞こえてきて、「糞落ちてきたらやだから早く家入ろ」とお嬢に急かされて、「ハトかよ」って笑いながら、僕は「ただいま」と——帰ってきた。



 自分は普段どんな食事をしていて、学校ではどんなことしてて、家では何をしてるかって?
 目指してるものは? したいことは? 好きなことは嫌いなことはだって?
 知ぃーらないっ。

 それがどんな風であろうとも、多分何にもならないのだから。


 少なくとも、いま幸せな僕はそう思っている。




 …………あー、やっぱりいまのなし。恥ずい、恥ずかし過ぎる……!
 やっぱなんでもないです、はい。
 気にしないでくださいマジで! お願いします!


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