コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 携帯電話で闘えてしまう世界 〜久々更新〜
- 日時: 2012/02/25 12:33
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: gWvD8deM)
プロローグ
新月の、夜の話。何かが、誰かが暴威を振るっていた。月明かりも照らさぬその日は、絶好の犯罪日和とでも言いたいのか大柄なその男は暴れていた。
警官がそれを止めようと束になって襲い掛かっていたが、全く手に負えない。それどころか、より被害は甚大なものになっている。止めようとする警官までもが犠牲になっている。
彼らは皆、その手に携帯電話を持っていた。
「オイオイ、まだ本気出してねぇぞ」
猛威を振るう男が嘲るように警官に呼び掛ける。それを耳にした警官の顔が苦渋に染まる。一矢報いてやろうとその手の内の、携帯電話のコールボタンを押した。
ピッポッパッとありふれた電子音が聞こえる。無表情だった一人ぼっちの彼の顔つきが一変する。狂気とも言える狂喜のような不吉な笑み、強い者とのぶつかり合いに応じるように、自分の携帯電話も開く。
「calling[コーリング]」
共に彼らは耳に携帯電話を当てた。その瞬間に、場を取り巻く雰囲気も変化する。
そして翌日——。
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>>23キャラ募集
皆さま、初めまして北野(仮名)と申します。
以前ここで書いていたのですが挫折して以来、ずっとファジーに引きこもってました。
それで、現在メールで友達に読んでもらっているのが個人的に気に入っているので出してみることになったんです。
注意書き
1、くどい文章お嫌いな方・・・見ない方がいいかも。
2、ヘタクソを見たくない人・・・他の人の読んでおいた方がよろしいかと・・・
3、コメントしてくれても部活で忙しくてそちらを読めない可能性が・・・
以上です、まあ読んでくださったら幸いです。
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calling。phoneを核として発動する契約者の解放と使役。契約とは多彩なものと交わせることができる反面、自分が何と契約するかは全くのランダム。洗濯機を呼び出せる者もいたら、砂糖なんてものを呼び出す奴もいる。中には動物を呼び出す者もいて、その人達はanimalfamiliar[アニマルファミリア]と呼ばれる。そして、最も強いタイプは、事象や現象といった類のものと契約しているEffect—Callerだ。竜巻のようなものと契約していたりする者もいるし、念動力のような者もいる。
次に、発動させる方法はphoneという携帯電話のような機械を用いる。phoneは見た目は完全に携帯電話だが、普通に電話をかけることはできない。callingしかできないという訳だ。そして発動させるのに、自分自身のphone-number[フォンナンバー]を入力する。声紋と同じように一人一人のphone-numberは違う。だが、他人の番号を使ってもその人のcallingskill[コーリングスキル]は使えない。callingを発動させるにはその人その人の体内を駆け巡る波動のようなエネルギーが必要だからだ。裏を返すと、波動と番号が正しいのならば、誰のphoneを使っても自分のcallingskillは発動できる。
三ケタと四ケタの数字がEffect—Callerだ。数字が小さくなるほどその力の強さは上がるが、110以下の数字だとその強さはイコールになる。
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序部
Chapter1 ELEVEN暴走編
一話>>1 二話>>2 三話>>3 四話>>4 五話>>8-9 六話>>14-15 七話>>16-17 八話>>26-27 九話>>28-29 エピローグ>>30
本部
Chapter2 第零班登場編
一話>>31二話>>32三話>>33四話>>34五話>>35
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 序部完結 ( No.31 )
- 日時: 2011/12/18 20:33
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: 4.fDTnfO)
二章開幕です
第零班、そういうものが警察にはあると言われている。表立って活躍しないため、彼らに変わって凶悪calling犯罪対策課第一班が最強の名を冠している。だが……彼らより強い者も、この世の中には存在する。
それが、同じく凶悪calling犯罪対策課である第零班である。その動きはまさに疾風迅雷であり、インターネット系の諜報作業などもお手の物。基本的に大概の任務に対応できる、月光直属の七人組。基本的に東北を中心に活動している。未確認だったphone-number100を見つけたのも、彼らだ。直後に月光に連絡した後に自分たちも加勢しようとした。
ただし、敵も相当な手練れであった上に多少人数的にも不利だった。直接的に任務に関わっていたのは二人程度だが、その者たちの同胞が、邪魔が入らないように道を封鎖していた。さらに、無理に突破しようとする者は実力で止めていた。
最後のELEVENに、警察が動かない、すなわち無能だと刷り込ませた張本人の一団、それがトランプ・シークレット。その集団を食い止めようとしたのが、例の第零班……通称“烏丸組”と呼ばれているようだ。
名前の由来は、その者たちに会えばすぐに分かるだろう。
「ちゃんと全員集まったか?」
大きなビルのとある階層、その一室で堅苦しいスーツ姿の者が十数人集まっていた。その中でも、最も年配の上司格の人間が皆に問い掛けた。全員集まったか、と。
これが、体面上警察最強と謳われる凶悪calling犯罪対策課第一班である。そしてその上司の問いにいち早く答えたのは奏白という青年であった。
「はい。ところでどういったご用件で?」
「ああ、実はここに第零班が来るらしい」
年配の男が奏白の問いに返答すると、その場にザワザワとどよめきが起きた。どの人間も皆口々に、本当に第零班が存在していることに関する、各々の意見を述べていた。
まさか本当にいたとはと茫然と呟く者もいれば、やっぱりいたのか! すげーな! と歓喜している者もいた。その中で二人だけ、訝しげな表情を浮かべていた。一人は奏白、もう一人は知君だ。考えていることはただ一つ、なぜそんな奴等が出て来なければならないのかということだ。
「第零班が出動……ということはもしかして……」
相当に不安げな表情を浮かべて知君は聞き取りづらい声でぼそりと呟いた。その表情にも神経質な感じがしていて、いかにも嫌な予感が頭の中で渦巻いていると言ったところだ。その呟きを聞き漏らさなかった班長、桜井 兼久(さくらい かねひさ)はさらに言葉を続けた。
「詳細な理由は上の連中しか知らん。お前たちはただ……俺もか。言われた通りに戦うだけだ」
威厳ある風にそう言い放とうとしたが、自分もトップから見たら持ち駒の一つに過ぎないと気付いた桜井は少しトーンを落とした。自分たちは組織と名乗る機械を支えるパーツだと言われたことより、あまり良い事が起こらないであろう未来に皆は落胆した。
事実、薄々は感付いていた。そんな実力派集団が出てくるなら、何か大掛かりな出来事が起きるだろうと。そしてふと奏白は気付いた。
「知君……knowingできないのか?」
「無理ですね。tyrantが睡眠中なので」
「タイラントが……寝てる?」
「はい。久々に力使ったとかでお疲れみたいです」
knowing、知君のcallingskillの内の一部の力。あらゆる事をknowing[ノウイング=知る]することが可能。ほとんどの事象を知ることができ、的中率は百パーセント。ただし、知君の口振りでは、その力は暴君が起きている時にだけ発動できるとなる。
tyrantが疲れて眠っていると、知君は言ったが本来そういうことは起こらない。なぜなら今回そのようなことが起こった理由として、知君が常日頃callingしない、という訳がある。久々に自身の能力を使役されて疲弊しているようだ。
「ELEVENって言ってもあんまり使い勝手良くねぇんだな」
「勿論ですよ。ELEVENなんて契約主の自我が強くて中々言うこと聞かないんですから」
「そう……か」
「所詮僕たちは契約主からその力を借りたり、契約主そのものを使わせてもらってるだけなんです」
calling、それは世にありふれるフィクションの中に存在する、超能力などの自分自身の持つ力なのではない。あくまでも契約者の使役と解放。そしてEffect—Callerだけが、契約主を上手く操り、超能力のように動かすことができる。
そんな風な理由からか、Caller、特にELEVENは契約相手の機嫌を損ねると何もできなくなる。しかもELEVENの力はただの現象などではなく、意思を持っている“化け物”のような連中の力なのだ。
「まあ良いだろう。到着するのは話では今日の——」
桜井が一旦閑話休題して元の話に戻し、第零班の到着時間を告げようとしたその瞬間、警報が鳴り響いた。緊急出動の時に鳴る類のもので、それか鳴っているのを聞くのは第一班でも、初めての者が多かった。桜井以外が初めて聞くこととなる。
「緊急時警報……! なんでこんなものが……」
「前回の事件も考慮に入れると……あの人たちしかありえません!」
急いで出撃しろと命令を下しているも同然の、けたたましいサイレンが部屋に反響する。その煩さに顔をしかめながら、なおかつそれにも負けない強い驚愕の色を顕にして、奏白が叫ぶ。だが知君には、出撃する原因となるグループの名前が大体分かっていた。
つい先日の、最後のELEVENが警察を大いに巻き込んで起こした惨事。それを引き起こした張本人たちに、近頃動きが見られると月光は知君に忠告した。トランプ・シークレット、callingの新たなステージに踏み出した者たち。
「まさかこんな早々に来るとはな。良いぜ、返り討ちだ」
階層を下に駆け降りるのとphoneを取り出してボタンのプッシュを平行して作業し、力強く言い放つ。知君はtyrantが起きるまで何もできないからとりあえず下に降りるだけ降りようとした時に、彼の悪い習性が出た。
器用、彼のその素晴らしさにはそれ以外に表現のしようが無く、盛大にその場で転倒した。なんでそんな何も無い所で転けることができるのだと思うが、毎度の事で一々気に掛けるのも面倒なので冷たい視線を外した。床に打ち付けた痛みに耐え、悶える知君を放って彼らは駆け出した。
please wait next calling
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 本部開始 ( No.32 )
- 日時: 2011/12/25 19:06
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: Zqou3CL2)
二章二話
「オラオラオラァッ!! そんなもんかよ!! あぁ!? コラ!」
「何だこいつ……callingしてない筈なのに……」
「callingだぁ!? 最初からずっとしまくってんじゃねぇかよ!! カスが!」
身の丈程もある大きな太刀を振り回して、大柄でやや痩身の男は暴れている。柄だけでその剣は、五十センチもの長さを誇っていた。白銀に煌めくその刀身には、所々黒ずんだ後がある。長年の戦闘の証といったところだろう。振り回す男の刀さばきにも歴戦の猛者と言うにふさわしい実力が見受けられた。隙の無い斬撃、歪み無く真っ直ぐと振り下ろされる鋭利な切り口。
コンクリートや大理石にまでその切れ味が及んでいるのを、ずっと目の当たりにしている男は終始怯えている。これが当たった時には……そう考えると冷や汗が止まることはない。必死で自らのcallingskillで回避を繰り返している。
「番号までは知らねぇけど、そいつはFloat[フロート=浮上]の能力だな!? ちょこまか逃げ回りやがって……ぶった斬ってやるから降りてこいコラァ!!」
Floatの効果は勿論、あらゆる物を浮き上がらせることだ。だが、それをしやすい順というものがあり、まず第一に自分、次に無機物、その後に有機物且つ無生物であり、最後に己以外の生命体だ。力量の無い者は目の前の敵を浮かすことができない。
そしてここで戦う警官も、それほど実力がある訳でなく、それができない方の一員である。よって相当な悪戦苦闘を彼は強いられていた。
「もう少しの辛抱……もう少しで、第一班が来る……」
止まらぬ冷や汗も、払えぬ恐怖も、湧き出る焦りも何もかもごちゃ混ぜになりながらも彼は桜井率いる一班を待っていた。もう警報は鳴った。ちょっと耐えたらもう良いのだ。だが……目の前の言葉が荒い男はただの者では無かった。
ぐっと足元に彼は全霊の力を、身体中から搾りだして込める。第三者から見ても明らかなほど、そのエネルギーの充足は見て取れた。なぜなら、彼の脚に黄色い何かが収束していたからだ。
「段階弐だぜ!! ドカスがぁっ!!」
そしてその絶大なパワーは瞬時に爆散する。彼が溜め込んだ力を一発で、無駄なく全て地に叩き込んだのだ。コンクリートの地面にハンマーで叩かれたようなヒビが入った。そしてその砕いた張本人の姿は消えていた。
相対する警官の口から声にならない悲鳴が漏れる。目の前には不敵に笑うあの男。見るだけでその重量感が伝わる大太刀はと言うと、いとも簡単に片手だけで振りかぶられている。
「覚えとけ!! これがトランプ・シークレットが一人、イプシロンの実力だ!!」
イプシロンと名乗った男性は迷い無くその刄を振り下ろそうとした。しかしその瞬間、横槍の合図であるコール音が耳に入った。
「calling、SOUND!」
表面積の広い太刀の側面に空気を伝わる波動がぶつかる。世の中に満ちあふれ、それを聞かぬ日はそうそう存在しない波動エネルギー、『音』だ。凄まじいまでの振動はイプシロンの手から脱力させ、剣を弾き飛ばした。
放物線を描いてその刀は地に墜ちた。重力に負けて軽々と着地したイプシロンは忌々しげにその方向を見つめた。そこにいたのは、ひと足早くcallingした奏白、そしてその他の第一班の連中だ。
「てめーらかぁ!? 邪魔したのは!?」
「だとしたら何だって言うんだ?」
代表として奏白がイプシロンに言葉を返す。挑発のための笑みを添えて。
「いーい度胸してんじゃねぇかぁ!! てめえの墓はここ、命日は今日だコラァ!!」
「言ってろ。今日はお前の記念すべき日になるだろうよ」
「んあぁ!? 新手の遺言じゃあねーか!!」
「天道様に長めの別れを告げときな」
舌戦は終わり、二人は身構える。互いに挑発には乗っておらず、どちらもまだ仕掛けようとしない。イプシロンはそうでもないが、奏白には彼のskillが分からない。迂闊に踏み込む訳にはいかない。
それならこうするしかないな、そう思いながら彼が標的にしたのは先ほど弾き飛ばした大太刀。武器は使われない方が有利に決まっている。音波を発する本体であるphoneを刀に向ける。幸いな事に刀と本人のいる方向は対して違わない。直前に気付いても音速には対応できない。今にも発射させようかと奏白がした時にようやく違和感に気付くことができた。
あんなにも長い剣を持っている、だと言うのにも関わらず彼は……イプシロンは……鞘らしき物を持っていなかった。
「考えても仕方ねぇ、SOUND!」
それでも策が読まれる前にどうにかするしか道は無く、高速の一撃を彼は放った。そろそろ自分が狙われていないことに彼も感付いたようで、それに対応すべく自身のcallingskillを発動させる。
しかしだ、ここで奇妙な事が起こる。イプシロンはcallingにphoneを必要としていなかった。
「calling! Expansion and Contraction[イクスパンションアンドコントラクション=伸縮]」
その瞬間、音速よりも速いスピードで太刀の柄の部分が伸びる。そしてそれを掴んだかと思った次の瞬間には、柄の長さは元に戻ろうとし、元のサイズに戻っていた。彼の手元にまたしても太刀が現れる。
標的を見失った音塊は地面を抉るだけに終わった。この事に奏白は茫然とする。今まで誰にも対応されなかった音の攻撃が、いきなり現れた一人の青年にあっさり対処された。
「馬鹿な……そんな事が……あるのか……」
あまりの衝撃に我を忘れて立ちすくむ奏白の、不意を突くなどという卑怯な真似はせずにイプシロンは高々に笑った。嘲るように、見下すように。「やっぱ敵にならねぇーなぁ」と鋭い目で睨み付けてくる。
「くそっ、まだだ!」
もう一度phoneを目の前に構える。本体のイプシロンならば音を回避などという超人的な事はできまい、そう考えた。
だが奏白はまたしても攻撃が無効化される。今回に至っては発射することすらできなかった。
さっきの柄同様に今度は刀身が伸びてきた。間一髪で躱そうとしたが、phoneは貫かれて使い物にならなくなった。
「しまっ……」
「終わりだクズ野郎ォ!!」
そして十数メートルにも及ぶ刄はそのまま振りぬかれ、奏白に襲い掛かる。これまでかと悟り、彼は全身から力が抜ける感覚がした。今までの記憶が走馬灯のように思い出される。ついさっきの知君の転けたことまでも。最後まで締まらない奴だったな、そう言い残そうかとも思ったが、いつまで経っても斬られる感覚は無かった。
「久し振りじゃなんじゃないか? イプシロン」
突如奏白の背後から声が聞こえた。奏白や桜井含め、第一班には声の主が分からなかった。
だが、イプシロンにとっては知り合いのようで、その表情には明らかな驚きが見て取れた。
「第零班班長、小島草太」
鬱陶しげに、イプシロンはそう呟いた。
please wait next calling
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 本部開始 ( No.33 )
- 日時: 2012/01/07 13:18
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)
二章三話
「どうした? 急に顔色が悪くなったな」
「うるせぇよ……んで、てめぇらなんでこんな所にいやがんだ?」
「答える必要性は無いな」
いきなり現れて、イプシロンに小島と呼ばれた彼は挨拶代わりの言葉を投げ掛ける。挑発か、心配か、余裕からか彼の台詞には情けをかけているような雰囲気があった。それでもイプシロンは特に怒るなどの反応は示さなかった。
示すことができないと言った方が正しいだろうか。小島の実力を既に見ているイプシロンには、一々皮肉や挑発に乗っている心のゆとりは無かった。冷や汗を垂れ流しにしてそこに立ちすくんでいる。鈍感な第一班には感じられないが、銃口を眉間に突き付けられたかのような殺気が放たれている。のしかかる巨大な緊張感、それはイプシロンの行動をことごとく邪魔している。
「少しは何かしたらどうだ?」
「させる気ねぇくせによく言うぜ。ネタは割れてんだ、隠す必要無いぜ、そのcallingskillは」
今度の場合は完全に挑発のために小島は問い掛ける。怖気付いたとでも言わんばかりのその言葉に苛ついたイプシロンは眉間に皺を寄せた。原因はお前が使うcallingの能力だと告げながら、殺気を込めた視線で小島を突き刺す。だがその程度の重圧はプレッシャーにならないようで、彼は顔色一つ変えなかった。
太刀を掴んでいる長身の青年は、柄を握り締める力を強くした。物事が上手くいかない苛立ちと、敗北に向かいそうな現状への屈辱と、そうならないために何とかしようとする焦燥感。焦りは肩にかかる重荷をさらに大きくする。刀を振り上げるその僅かな動作もとてもたどたどしい。
「くそがぁっ……tension and responsibility[テンションアンドリスポンシビリティ=緊張と責任]かよ、鬱陶しいんだよ相変わらずなぁっ!!」
「上手くいかないからと言って、負け惜しみは吐くなよ」
そう言われたイプシロンは負け惜しみなどではないと、激昂した表情を取り、血相を変えて目を見開いた。お前なんかに見下されるほど落ちぶれてはいないと猛り狂っている。やっとの思いで刃を振りかぶっても、重みに負けてまた地面に這わせてしまう。
そんな堂々巡りを繰り返すのを見て、そっと小島はほくそ笑んだ。確かにそっとなのだが、見せ付けるようにしてやったため、良いようにイプシロンは我を忘れた。
「調子ィ乗んなっつってんだろうがぁっ!!!! あぁあん!? てめえは殺す、今すぐ潰す。斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る、ぶった斬る!!」
硬直して中々動かない身体に鞭打って反撃しようとする。
だが、そろそろ奏白たちは感じていた。なぜ先ほどまで攻撃的だったこのイプシロンが動けないのかといった疑問だ。まだ小島のcallingskillを聞かされていない彼らにとってはその疑問は当然だった。
tension and responsibility、それは人の心に干渉する力。働き掛ける相手の心の中の責任感と呼ばれる感情を思い起こさせる。普通そんな事に責任を持つ必要の無いものでも、それは植え付けられる。足を一歩踏み出すことはさておき、まず最初に小島は『人を斬ること』に対する責任感を生み出した。大き過ぎる責任感は、鎖となってその人の行動を阻止するように縛り付ける。それこそが、プレッシャーというものだ。要するに小島のcallingskillの主な効果は、対象の相手の行動を止める、もしくは鈍らせることだ。
さっきのものは少し複雑だったが、イプシロンは打って変わって単純明快で、無生物の長さの『伸縮』という現象を起こしている。元々小さなサバイバルナイフを伸ばして大太刀にしたり、柄部分だけを伸ばして先ほどのように遠くの我が武器を回収したりだ。
「良い気になるなよ、もうすぐこんなもん打ち破ってやっからよぉ!!」
「別に構わない。もう、チェックメイトだからな」
「ん……だ…………とぉっ!!!!」
その瞬間、いきなり小島はイプシロンの硬直を解いた。急にそれが解かれた彼は勢い余って、太刀を振り上げる際にそのまま上空に投げ捨てようとしてしまった。だがそこはやはり実力者、本当に投げ捨てるなどという真似はしなかった。
そんな事よりも、彼は考える。なぜこのタイミングになっていきなり解除するのか分からなかった。まるで小島は時間稼ぎに過ぎないと宣告されているようにも見える。かと言って第一班の連中は、驚きのあまり何をすることもできていない。
「どーでもいいなぁ!! さっきのプレッシャーを解いたのは、間違いだとその身に刻んでやるさぁ!!」
「本当に子供なんだな。むしゃくしゃしたら何でも壊す」
「るせぇ!! 勝ちゃ良いんだよ!」
「……時間だ」
目を閉じて、踵を返して彼は歩みだした。さっきからずっと茫然としている第一班の所へ。その余裕しゃくしゃくといった態度はやはりイプシロンを刺激したようだ。ふざけるな、五文字の言葉が延々と彼の脳裏をぐるぐると渦巻いている。ドロドロした、赤く燃え上がるマグマのような感情。ただの怒りをも超えた耐え難い憤怒。何度も言っている通り、一人の男に舐められるほど彼は弱くないと自負している。
「段階弐ィっ……!」
当然のように我を忘れたイプシロンは暴走する。先ほど凄まじいまでの力を見せた段階弐と呼ばれるものを再び発動させる。果たしてそれがどのようなEffect[エフェクト=効果]を及ぼすかは、警察側はほとんど知らなかった。こんな不味い状況で何を余裕そうにしているのだと、奏白たちは彼の安否を危惧する。
見せ付けるようにゆっくりと腕を引く。余裕や笑みなどは一切見受けられず、イプシロンの顔にはいくら煮えても煮え切らない強い怒りが見える。持ち上げた足を上げたその時に、そろそろ本当に問題だと感じた奏白が叫んだ。
「馬鹿野郎! 後ろ見やがれ!」
「そう心配するな。時間だと言ったはずだ」
全霊の力でイプシロンは地面を砕き散らす勢いで踏みつけた。砕けたアスファルトが宙を舞ったかと思うと、粉砕される鈍い音が轟いた。イプシロンの姿が認知不可能になるほどの超高速にまで加速する。
刹那、まるで鋭利な刀で豆腐を両断するような小気味よい、スラッとした効果音がした。それも、ド素人や主婦が包丁で一刀両断するようなものでなく、居合いの達人が日本刀で斬るような、匠のような音。
気付いた時には、イプシロンの持っていた長い太刀は何欠片にもバラバラにされていた。金属製の刄がこうも容易く刻まれる姿に、皆は目を丸くした。誰がこんな事をできると言うのか、半分猟奇的な思いも入り交じり、眺めていた。しかも彼の持っていたのは決して刀ではなく、木刀だった。刀身の側面に龍の紋章が刻まれる、年季の入った木刀。
知君や奏白並に若い青年が、紫色の髪を揺らしてその場に降り立った。それだけだと言うのに、場の空気は一変した。
please wait next calling
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 〜最新話です〜 ( No.34 )
- 日時: 2012/01/22 10:08
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: jxbxTUdV)
二章四話
見えなかった、動きが。感じられなかった、気配が。一つも当てられなかった、攻撃が。手も足も出なかった、あいつには。初めての完敗だった、イプシロンにとって。あの時の屈辱を自分は忘れていないぞと、力強く唇を噛み締める。リベンジに燃える心意気が瞳に殺気を与える。たった今正面に颯爽と登場した青年はイプシロンの因縁の相手。
風になびく程度の長さの、特に髪型に気を配ってはいないだろう紫色の髪。相棒とも呼んで良いほど馴れ親しんだ一本の木刀。女性寄りだが、冷静でクールそうな雰囲気を放つ端正な顔つきをしている。戦闘時の剛力と比べると思わず目を見張るような華奢な体躯。この男は自他共に認める、Effect—Callerを除く全てのCallerの中で最強の人間。名を烏丸 紫表という。
「久々だな。あの村の一件以来だな」
「てめぇら本当にどういう用件だ。こんな所にてめぇらみたいな連中が来るなんてよっぽどだぞ」
「おいおい、何言ってんだよ。お前らのせいで来てんだぜ」
分かってないなと、茶化すように呟き、左右に頭を振った紫表にイプシロンは苛立ちを覚えた。一度勝った敵だとはいえ、そこまで余裕ぶっているその態度がそもそも気に入らなかった上に、自分のどこが何も分かっていない、なのかが気に障ったからだ。
ついこの間に今まで見つかっていなかった最後のELEVENが見つかった。しかしそのELEVENはなぜか警察を怨み、襲い掛かった。そうなるように仕向けたのが、イプシロンも属するトランプ・シークレットだった。そして村の殲滅中に道を封鎖し、烏丸組を止めようと奮闘したうちの一人にイプシロンがいた。その時のイプシロンは、紫表に対して完敗だった。
「何が分かってないっつうんだよ!! あぁん!?」
「お前らが馬鹿みたいに暴れるからその対処に俺たちが来たんだ。余計な仕事増やしやがって」
「そいつは気の毒だったなぁ!! でもなぁ、こっちにとってもお前らは一番邪魔なんだ!! サボりたかったら引っ込んでな!」
引っ込んでなと、イプシロンが言い放つと同時に紫表の姿が捕捉不可能になる。反射的に身構えようとすると、何かが地を蹴る音が響く。何事かと考える暇無く、右側から鈍い衝撃が走り、イプシロンの身体は殴り飛ばされた。
突然の事に身体は反応できなかったが、頭は嘘のように冴えていた。今、烏丸紫表は地面を蹴り、イプシロンの右手に回った。『音速並み、もしくはそれをも凌駕する』速度で。そのせいで姿が消えた後に音が聞こえたのだろう。そしてパッと見ひ弱そうなその体でイプシロンを殴り飛ばした。放物線を描いてコンクリートに叩きつけられると同時にイプシロンは我を取り戻した。
「て……め……」
今回の一発は相当に重く、しかと床に打ち付けられたイプシロンは声にならない悲鳴を吐き出しながら悶えるようにもがいていた。息を吸っても吸っても、呼吸ができている実感が無い。怒りは全て吹き飛び、ただ痛みと必死で戦っていた。
「サボりたかったら引っ込んでろ……だと? 思い上がるのもいい加減にしとけよ」
途端に場に夜空のように重苦しい漆黒の、恐怖が充満する。イプシロンの自分勝手極まりない先の一言に相当の怒りを感じたのだから。面倒だからやらない、そう考える数多の愚者がこのような世界を作っている。その事に対して常日頃から第零班は憤っている。
それなのにだ、そのような輩と同じ行動を取れなどという命令は、勿論アドバイスにはならない。それどころか挑発にしてもその領域を超えている。彼らにとってその言葉は愚弄に等しい。
「くそ……!! 尻尾巻いて逃げ帰るしかないのかよ……」
「逃げられると思っているのか、めでたい奴だな」
ほとんど消し飛ばされ、身体中にはもうほとんど残っていない体力という体力を彼は必死で掻き集めた。プライドの高い彼にしてはこの撤退はしたくない。しかしここで撤退しなかったら逮捕、そういう自分が最も嫌悪するエンディングが待っている。
「逃げ場は無い筈だ。方法もな」
「あるんだよ、それがなぁ!!」
彼のcallingskill、Expansion and Contractionの正確な説明は、自分の半径百メートル以内にいる無生物の長さをコントロールする力。よってまずは紫表の手にあるその木刀を剣が振るえなくなるほどに短くする。その後、自分の足場になっているタイルの厚さの部分を長さと設定し、高い足場を作り上げた。そしてゆっくりと、よろよろと逃げるように歩いて去っていった。
「逃がしちまったか……」
「構わない。とりあえず犠牲者が出なかっただけマシだな」
木刀の長さが元に戻ったのを確認した紫表は、取り逃したことを申し訳なさそうにして目を伏せた。その紫表を責め立てるようなことはせずに、小島は軽めに肩に手を置いた。カシャリと、複雑な絡繰りが折り畳まれるのによく似た音が小さく耳に入る。何が起こったのかと周りを見渡すが、特に何かが変わった様子は無い。
だが、紫表の方に視線を戻すと違いがはっきりと分かった。さっきまで握っていた木刀が、すっかり影を潜めている。どこに行ったのだろうかと探しても、知ってる者以外は分かる筈が無い。紫表の腰のベルトに、さっきまで付いていなかった十センチ四方の立方体が現れたことには、皆目を向けていない。
しかしそれこそが、先まで操られていた木刀だ。彼の持つ、刄の側面に隻眼の龍が刻まれた木刀には『龍紋木刀』という名前があり、戦闘時以外はコンパクトな匣になって収納できる。そんなもの、どうやって作ったかだなんて、数百年前に作り上げた張本人にしか分からない。信じがたい話だが、その不思議な刀の力は『烏丸紫表』のものではなく、『龍紋木刀』の性能なのだ。よって烏丸紫表のcallingの契約相手は別にいる。
ただし、もしも皆が彼の契約相手を知れば、どう思うだろうか。きっとそこでも驚きが起きると断言できる。彼の実力からは到底予想できない答えが返ってくるだろう。
最初に口を開いたのは桜井だった。皆を代表して礼を言うために。
「すまないな、助けてもらって」
「気にしなくて良いっすよ。そのために来たようなものですし」
「そういえば、あいつら遅いな。紫表、何か聞いてないか?」
桜井に返事をした後に、紫表は小島からの質問に反応し、後ろを振り向いた。そういえば先輩と基裏は買い物してるらしいです。十五分程前に言っていたことを紫表は思い出しながらそう答えた。非常時に何してんだよと嘆息する小島を紫表はなだめた。
それでも、すべきことが近づいているのだから個人的にしたいだけの用事は自重してくれと呆れる。
そしてそんな中で、一人だけ流れに乗れていない者がいた。そもそも到着自体が認識されていない彼には哀れとしか言い様が無い。
「えっと……この方たち……誰でしょうか?」
ようやく知君が登場したのだった。
please wait next calling
すいません、更新遅いくせにしばらく休みます。
多分二週間ぐらい更新できないかもです。
あっ、でも書くの止めるわけではないので……
そういや、元から二週間以内に更新してないか(苦笑)
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 〜短期間休載〜 ( No.35 )
- 日時: 2012/02/25 12:32
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: gWvD8deM)
二章五話
「で、この七人が今朝説明した第零班、烏丸組だ」
もう一度、さっきと同じ部屋に戻ってきた第一班の面々は、進出の第零班の登場に目を凝らした。しかし、いかにもベテランの、強そうな連中が出てくると思って身構えた第一班の皆は少し脱力する。現れたのは奏白や知君と同程度、あるいはもっと若い男女の七人組だったからだ。
それも皆が皆それぞれ個性的だった。一人はさっき戦闘にもその姿を見せた紫の髪の毛の男。大人びた雰囲気だが顔は少し幼い。そして、髪の毛の長さと背の高さ以外がその男と瓜二つの女。これには誰もがすぐに双子だと察することができた。隣に位置するのは赤十字のマークの入った白い箱、おそらく救急箱を持っている白衣の男。横ではパソコンを操作し、それ以外には目もくれない女。隣には身の丈ほどの豪弓を持った白い袴の男。アホ程買い物袋を持っている女もいる。そして最後に、たった一人だけ普通の服装で逆に浮いている男。
一通り自己紹介の終わった今、一人一人の名前は覚えた。先程の順番から、烏丸 紫表(からすま しひょう)、烏丸 基裏(からすま きり)、白谷 治(しろや おさむ)、早乙女 沙羅(さおとめ さら)、元眞 代介(げんま だいかい)、烏丸 美千流(からすま みちる)、そして最後に小島草太だ。
「にしても……ELEVENのくせに情けねぇ奴だなぁ」
弓を持つ反対側の手で髪を掻き上げながら代介がそう言った。その辺の不良がそのまま成長したように、常に眉をひそめる不機嫌そうな表情。気に入らないというだけの理由で射られるのではないかと、何人かの者は中々にびくびくと怯えている。見ているだけでもその弓の貫通力が伝わってきて、分厚い岩盤もそれなりに風穴を開けられるのではなかろうかと想像できる。後に判明するのだが、その気になればできるかもしれないらしい。
話を振られた知君は自分にいきなり視線が向けられて目を丸くする。きょとんとして、黙ってしまったその様子に、代介は軽く溜め息を吐いた。こんなに頼りないのが“あの”phone-number110なのだと思うと本当に行く末に対しての不安が煽られる。
「いきなり出てきて大層な物言いだな。まあ、否定できないが」
「否定できないと認めるならば下がっていろ。phoneを使わないといけないボンボンはな」
そのように過小評価を受けた知君のために横やりを入れた奏白だが、同様に見下されて一蹴される。道具を使わないと何もできないのならば引っ込めと、半ば命令されるように。
「あぁ? そんな邪魔な弓持ってるくせに矢を持たない馬鹿に言われたくねぇな」
「お前は眼中に無い。下がれと言った筈だぞ、ボンボ……いや、凡人か? それに俺は矢を持つ必要性が無いだけだ」
完全に見下されて弱者同様の扱いを受けた奏白は、感情を隠さずに代介にぶつける。気に入らないのならば一回戦ってから決めろと、挑発するように彼は口を開く。
「お前、俺とやんのか?」
「闘いにならないから、躾になるな。それで良いか?」
構わねぇ、そう言って奏白は吐き捨てた。幻だろうが伝説だろうが、第零班だからと言って調子に乗って良い訳ではない。寧ろ第一班を軽視するその態度を正すために奏白は喧嘩を売り、勝負を挑んだ。
代介は確かにこの売られた喧嘩を買おうとした。しかし隣の女に止められた。
「ちょっと代介、それは後にしなよ。どーせ似たような事、後でするんだしさ」
「…………それもそうか。紫表、こいつの担当俺な」
「俺じゃなくて部長に言え」
「そして却下だ」
最初に代介を止めたのは沙羅だった。ようやくパソコンを畳んで顔を上げたかと思うと、最初にした事は喧嘩の仲裁だった。このタイミングでそんなくだらない事をして、面倒に転がり込んだら困る。強大な組織に対抗しなければならないのだ、身内で割れてはいけない。
正論を述べられると、反論した場合ただの言いがかりになる。否定できなくなった彼は紫表に、後々の何かしらの作業の担当を自分にしろと言ってのけた。しかしながら、紫表は小島の方を見ながら部長に言えと指示し、もう一度言われる前に小島は提案を拒否した。
「なんでっすか? 別に誰に誰が付いても良いっしょ」
「仲が悪くなければな。だから却下だ。割り当てを言うと紫表が月光様、基裏が知君、奏白は沙羅、残り十人程度を残った中から治を抜いた三人で担当。治は怪我の治療だ」
別に良いじゃないかと反抗をする代介など構わずに桜井の方を小島は見た。グループのリーダー同士で納得の上で進めたい用事があるのだとか。一体どういった用事なのかと桜井が聞き返すと、簡単な話だと小島は切り出した。
まず最初にトランプ・シークレットは自分たちが想像している以上に強いと釘を刺した。これに関しては誰もがすぐに納得した。なぜならあの奏白が、イプシロンという男に全く歯が立たなかったからだ。第一班の中でもこと戦闘能力に特化する奏白が手も足も出なかったのだ。後にその話を聞いた知君も目を丸くしていた。
「これから一週間、俺たち第零班の下で、第一班の面々には強化プログラムを受けてもらう」
「強化……プログラム?」
「あんたらが目に余るほど弱っちぃからよ」
「うぐっ……」
あっさりと美千流が一班全員を弱いと切り捨てる。反論しようにも彼らから見たら自分たちは弱すぎる存在だ。抵抗はそれこそ無駄というもので、一回殺り合うかどうかと訊かれたら負けとしか言い様が無い。
そんな現状にイライラとした奏白は煮え切らない怒りをどこにぶつけることもできずにしまい込んだ。本来処理しないといけないタイプの感情の爆発を胸中にしまい込んでしまったために、後にとても不味い事態に陥ることを彼らは未だ知らない。奏白自身もだ。
「……総監もですか?」
「そうだ。月光も弱いからな」
「口を慎めよ。仮にも上司だろうが」
さっきの会話の中で一つ疑問に思ったことを知君は烏丸組に訊いた。なぜか月光の名が入っていたからだ。答えたのはリーダーの小島ではなくエースの紫表。彼にとっての強弱の判別はphoneを必要とするかどうか、ただそれだけだ。その事に奏白は失礼だろうと紫表を批判した。
「別に。お前は上司に一々敬意を払うか? 払う訳が無い。そこの桜井さんは知らないけど薄汚れた木偶の坊には絶対に払わないだろう?」
紫表の正論に何も返せなくなった第一班の面々は口を閉じた。口でも腕でも彼には勝てる気がしないからだ。救いとなっているのは烏丸紫表が元眞代介のように挑発的でないことだ。無駄な争いを嫌うのか、心根が優しいからか知らないがそれは大分ありがたい。
そうは言っても、烏丸組は月光直属の最強の部隊。今、烏丸紫表は桜井をさん付けして呼んだ。初対面の相手に敬意を払ったのに、直属の上司をぞんざいに扱うことが理解しがたい。それを察した紫表は興味深い一言を残した。
「あいつは決して、正義のヒーローなんかじやないさ」
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