コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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青い春の音【完結】
日時: 2013/12/07 21:38
名前: 歌 (ID: VXkkD50w)



「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。

「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。


2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。

投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。

改めて言わせてください。


本当に本当に、ありがとうございます!!!


まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m






出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”




性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。


そして、そこから始まるさまざまな音の物語。

それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、

私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。


純粋で自然な音を。


空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。


さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。

淡い恋心さえもそこには含まれていた。



楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を






—登場人物—



名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート


カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。


キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。


ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。


タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。


オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。


ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。


カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。


後にしっかり説明します。



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第30音 ( No.274 )
日時: 2013/07/19 02:44
名前: 歌 (ID: CvekxzGv)








「悠っ!!!!」





びくっ、と。



どこか遠いのにはっきりと私の名前を
呼び叫ぶ声が。


私を睡魔から、解放した。




「悠!!どこだ!?悠!!!」


「聞こえてたら返事して…っ…!悠!」


「悠ー!迎えに来たよー!」



………えっと、どんどん近づいてくる
この声たちは。


あ、そっか、これはきっと夢なんだな。


夢の中で起きた夢を見て、幻聴を聞いて
いるんだろう。


それなら、その声が迎えに来るまで
もうちょっとここで待っていよう。



夢でも、彼らが迎えに来てくれたことが
嬉しくって、そのままもう一度。



微笑みながら、瞼を閉じた。





………何だろう。



身体中が何かに包まれている感覚で、
とても温かい。


頭には優しい温もりがいくつもあるような
気がする。



安心する、大好きな温もり。





「……おはよう、悠」





ふわふわと気持ちのいい感覚から、薄らと
目を開けてみれば。


飛び込んできたのは、大好きな人たちの顔。



目の前には穏やかに微笑んでいる日向、
私の腰に腕を回しているのは玲央。


頭をゆっくり優しく撫でていたのは煌で、
今にも泣き出しそうな表情の大和に
愛おしそうに私を見つめる、築茂。



あぁ……迎えに、来てくれたんだ。



「みんな……夢でも、嬉しいや」



ふんわりと笑顔を綻ばせて、普段の私には
考えられないほどの甘い声。


きょとん、と驚いたような表情をするなんて、
夢の中の彼らも正直すぎるなぁ。


そう思いながら、もう一度ふふ、と微笑んだ。



「おい、何を寝ぼけている。夢じゃないぞ」



目の前の日向を割り込んで、ぐっと近づけ
られた眼鏡の奥の鋭い瞳。


ぞくり、と鳥肌が立ちそうな低い声に
思考停止。


……夢じゃない、って?



「とっとと目を覚ませ。バカ」



こ、このリアルな口調と声と瞳は………
本物だということでしょうか?



「え、っと……夢じゃ、ない?」


「あぁ、夢じゃないよ。悠」



くすくす、と何が可笑しいのか、笑っている
煌を見上げる。



「マジで?」

「マジで」

「現実?」

「現実」

「そっか……現実かぁ……」



……………って。





「えぇぇぇぇえぇ!?」






仰天、驚く、たまげる、びっくり。


全部同じ意味のような気がするけど、
でもとにかく、予想外の出来事にあって
心が動揺しています。



「うっせーなぁ」



私の叫び声がそんなにうるさかったのか、
耳を塞いであからさまに嫌そうな顔を
した大和だけど。


すぐにふっと笑いを吐き出した。


「え、いや、はい?夢じゃないのこれ!?」

「うん、夢じゃないですねぇ」

「ななな、何でここにいるの!?ここって
 フランスだよ!え、まさか瞬間移動してきた
 とか……怖いんだけどっ」

「科学的にあり得ないだろ。何バカげたことを
 言っている。さらにバカレベルがアップして
 いるな、お前」

「えぇ……」


にこやかに笑う煌に、思いっきり毒を吐く
築茂は本物としか思えない。


「じゃぁ…なぜここに……?」


1度心を落ち着かせてから口を開くと、
にやっと口角を上げた大和と視線が合った。



「お前を迎えに来たからに決まってんだろ!!」



迎えに……来た…?



「え、えーっと……わざわざ、フランスまで?」

「そうだよ、わざわざフランスまで」

「どうやって……」

「そんなの、飛行機に決まってるでしょ。空港からは
 タクシーで来たけどさ」

「いや、そういうことじゃなくてですね」


真面目に答えてくれている煌に苦笑を
向けながら、日向に答えを求めた。


「学校はそれぞれ休んできたんだよ。でもあまり
 長く休めないから、早く帰らないとね」


それはそれは、もちのろんでございます。


「悠……会いたかった」


腰に巻きついていた玲央の腕がさらに強まり、
くぐもった声が聞こえてきた。

この様子を見て初めて、本当にとても
心配させちゃったことを知る。



「みんな……ありがとう」



嬉しくて嬉しくて涙が溢れそうになるのを
隠すために、顔を両手で覆った。


視界は何も見えないはずなのに、ふっと
微笑む声がいくつか聞こえてきたから。



私も手の中で、頬を緩めた。





ゆっくりと顔から手を離して、もう一度
夢じゃないことを確認する。


あれ……誰か1人、足りないような。


「空雅なら日本でお留守番。青田さんが不安に
 しているから、ついているよ」

「そっかぁ……愛花にも心配、かけちゃったな」


察して説明してくれた煌に、空雅と愛花の
顔を思い浮かべる。

帰ったらいろいろと覚悟しておかないと、
愛花に殺されるかもしれないな、こりゃ。


「で、悠。いろいろ聞きたいことはたくさん
 あるんだけど。これからどうする?」


あ……そうだ、いろいろ話さないといけないし、
柚夢が今のこの状況を知ったらどうするだろう。


「ここにはどうやって入ってきたの?」

「誰もいないかったからすぐに入れた。ま、俺たちが
 ここにいたときも最低限の人間しかいなかったからな」

「鍵とか開いてたの?」

「いや、開いていなかったからピッキングをした」

「………それって、犯罪じゃ」

「気にするな」


気にするでしょ!!

築茂さん、さすがというかなんというか、その
素晴らしい脳が怖いよ。


「あぁ……でも本当に、悠が無事でよかったぁ…」


安堵のため息を漏らした日向。


「うん、本当に心配かけてごめんね」

「マジでお前、何でいきなり連絡できないとか
 言ってきたわけ?本当に繋がらないから
 ちょー焦ったんだけど」

「あ、はははっ……それも含めて、しっかり
 後で話します」


話すこと、多くてうまく話せないかもしれないけど。


「っていうか!事故に遭ったって聞いたけど大丈夫
 なの!?どこか痛くない?」

「あ、ううん。もう大丈夫。何だか1週間も
 眠っていたらしいから」

「………え?」

「そんな顔しないで。本当にもう大丈夫なの。
 かすり傷とちょっと頭を打ったくらいだから」


突然私の頬を挟んだ煌に、安心させるように
微笑むと逆効果だったのか。


顔の色が一気に青ざめていった。


「おい、悠……1週間眠っていたってどういう
 ことだ?事故に遭ったのはいつだ?」

「フランスに来てすぐだから、1月1日だと思う。
 で、一昨日目覚めました」

「………まぁ、いい。お前が無事なら」


一瞬、考え込むような仕草をした築茂だけど
すぐに小さく微笑んだ。



でもいつまでもこの幸せな余韻に浸っている
わけにはいかない。


「悠、記憶はすべて思い出したんだな?」


築茂の声が、心臓に刺さる。


私は動揺を悟られないように、ゆっくりと
首を縦に振った。

私の本当の過去を、彼らに話すことはとても
怖いし出来ればもう思い出したくない。


「悠」


無意識に震えていた手を、玲央が優しく
包み込んで私の名前を呼ぶ。


「話したくない、なら…無理しないで。
 悠の過去なんて……どうでも、いい。今の、
 悠が好き、だから」

「玲央の言う通りだよ、悠。俺たちは別に
 無理をしてまで話してほしいとは思わない。
 ただ、悠1人が苦しむのは嫌なだけ」

「玲央、煌……ありがとう」


すっと肩の重荷が少し軽くなったような気がする。



「悠……帰ろう」



差し出された、大和の大きい手。


目の前にある手は1つだけど、全員の気持ちを
乗せている、みんなの手。


これから私と一緒に歩いてくれる、導いてくれる
大切な手。


かけがえのない、大好きな手。



心からの笑顔で、迷うことなくその手を
握ろうとした。



その時。





「悠っっ!!!!」





たった、1人の声が。
この空間を暗闇に染めて。




私の手は、その場に落ちた。







第30音 ( No.275 )
日時: 2013/07/20 11:51
名前: 歌 (ID: Jhl2FH6g)





5人の顔つきと、雰囲気がさっと変わる。


私は震えそうになる手と心臓を一生懸命
抑えて、ゆっくりと振り返った。



「柚夢………」



私が名前を小さく呼べば、それだけで幸せ
そうに甘い笑顔を零す。

でもすぐに、私の周りにいる彼らを見て
表情が消えた。



「……どうして君たちがここにいるのかな?
 鍵は閉まっていたはずなんだけど。
 これって、犯罪って言うんだよ?」



ゆっくりと、じわじわ近づいてくる柚夢の瞳は
『憎悪』を見ているようで。


今にも誰かを殴り殺しそうな、殺気を漂わせている。


「ムウ……あんたが、悠の兄であった柊柚夢だな」


あれ……築茂、何でそれを知っているの?


「悠はもうそこまで話したの?」

「いや、これは俺たちが勝手に推測していたことだ。
 でもやはり、そうなんだな」


ふっと口角を上げて怪しげに微笑みを作った
柚夢に、ぞくりと鳥肌が立つのを感じた。



「改めて自己紹介をしようかな。僕は柊柚夢。
 2年半前に死んだはずの人間だ」



……何で、歪んだ表情をしているのに、そんなに
悲しそうなの。



「悠から昔の僕たちの話は聞いているはずだ。
 僕が生きていると知った今、悠は僕の隣に
 いる。さぁ、悠。こっちにおいで」



すっ、と伸ばされたキレイすぎる、手。


座っていたソファから立ち上がり、柚夢と
向かい合う。


手を伸ばせば届くけれど、伸ばさなければ
届かない距離にある私たち。


それは、心の距離なのかもしれない。



「悠、言ったよね?私の人生に柚夢がいない人生
 なんてないって。僕はその言葉……信じて
 いい、んだよね?」



儚くて、今にも消えてしまいそうな柚夢の
心が痛いほどに伝わってくる。

そうだ、私は柚夢から離れることも、柚夢を
1人にすることもできない。


ずっと、孤独の中にいた柚夢だから。



「大丈夫。日本には帰るよ。だからこの人たちとも
 一生の別れじゃない。ただちょっと、時間が
 かかるからその間待っていてもらうだけ」



この手を取らなければ、私は一生後悔するだろう。




ギリ、と誰かの歯を食いしばる音と、拳を
握る音が微かに聞こえたと思ったら。



「ふざけんなっ!!そんな言葉信じられるわけ
 ねーだろ!?二度と悠をここから出さない
 つもりなんじゃねぇのかよ!」



柚夢に掴みかかろうとする大和を、煌が止めた。


……大和の言う通り、もしかしたら柚夢は
私をあの地下の部屋にずっと閉じ込めて
おくつもりなのかもしれない。

あんなに純粋に愛し合っていた私たちは、
私の2年半の心の変化によって、慈愛に
満ちた歪んだ愛情になってしまった。


こういうの、『ヤンデレ』とかって言うんだっけ。


「そうだね。二度と悠を離さないことは否定しないよ。
 だけど、もし悠が自らそれを望むなら、
 何の問題もないでしょ?」


一斉に全員から向けられた視線。

私は真っ直ぐに、コバルトブルーの瞳だけを
見つめた。


「悠……?君は、僕のものだよね?僕たち、
 もう二度と離れないよね?離れたくないよね?」


究極の選択をしなければならないかもしれない、と
思ってはいたけれど。


思っていた以上に、辛い。



「こっちにおいで、悠」



再び差し出された、柚夢の手。



「絶対に行くなよ、悠!」



後ろから私の腕を掴んだ、大和の手。



どちらかを振り払って、どちらかを選ぶことしか
方法はないのかな。


必ず、どちらかを傷つけないといけないのかな。



どうして、こうなっちゃったんだろう。
どうして、こうさせちゃったんだろう。


昔の柚夢の心なら、柚夢の手を握る反対の手で
違う誰かの手を握ることを、許してくれていた
はずなのに。


……いや違う、許してくれていたんじゃなくて
『我慢』してくれていたんだ。



「愛してるよ、悠」



『愛している』が、泣いているように聞こえた。



思考の迷路に入り込んでしまった私が手を
差し出さないことに、苛立ちを感じて来たのか。

柚夢はさらに、追い打ちをかけようと
してきた。


「ねぇ、分かってる?ここに僕はいるよ。
 ねぇ、見えている?ここで僕はいるよ」


そうだね、私は柚夢のことを何も分かっていなくて、
見えていないのかもしれない。


「他の男とそんな距離でいられると今すぐ
 引きはがしたくなるよ。今も……悠の心が
 僕のところにあれば、そんなふうに
 思わなかったかもしれないけど」


やっぱり、分かっているんだね。


「君たちがフランスに来た時、本当に辛かった。
 悠が僕以外の男と、あんなに楽しそうに笑って、
 あんなにやさしそうに見て……」


あぁ……もう誰も傷つけたくないとか言いながら、
私はずっと無意識に傷つける天才じゃないか。


「あの笑顔、あの眼差し、全部僕のものだったのに
 ……って。本当に、苦しすぎてもう何が
 何だか分からなくなっちゃった」


ぐしゃり、と涙で崩れた笑顔。


柚夢の涙は私の涙と繋がっているんじゃないかと
思うくらい、同じタイミングで。


私の目からも、1粒の雫が零れた。



「ねぇ、聞こえてる?悠は僕を…忘れるのかな。
 ねぇ、知っている?だけど僕は悠をずっと好き」



好きだよ。


そう心から言ってあげられたら、こんな顔を
させることもないんだろう。



「涙が凍ってしまうほど、哀しい想いを知ってる?
 心が痛くなるほど、哀しい想いを知ってる?」



今、心が痛すぎて声が出ないよ。


どうしたらいい?
どうしたら柚夢を救える?



「ティッシュを1枚捨てればまた1枚出てくる。
 僕はそんなふうに悠のことでたくさん悩んだ。
 いつになったら空になるんだろう。今も
 ずっと取り続けているんだ」



私が流している涙なんて何の意味もない。


柚夢の苦しみと比べたら、こんなものは
踏み台にすぎない。



「悠がいなくなったら、僕は何もかも失う。
 なんにもない僕は、透明な水みたいだ」




その透明な水はもう、柚夢の瞳からは消えていた。




ゆっくり落とされた、キレイな手。


ふっと優しく微笑んだその表情は、すべてを
諦めたように色を失くしていた。


「……カッコ悪いな、僕。昔みたいに我慢すれば
 いいだけのことなのに……醜い嫉妬で悠を
 困らせているなんて。悠がモテるのは今に
 始まったことじゃないのにさ」


あまりにも弱々しい柚夢が、このままだと
壊れてしまいそうで。

手を伸ばすことはできなかったけど。



「でも本当に……愛しているんだ」



柚夢の胸の中に、飛び込んだ。



突然のことで受け止められなかった柚夢は
息を詰まらせる。

後ろで私と柚夢の姿を見ている彼らのことも、
忘れているわけじゃない。


だけど、私の人生のほとんどはこの人と
共に過ごしてきたから。


独りにするわけには、いかないの。



「…っ悠……!!」



強く、きつく、抱きしめられる。



「ごめん、ね……でも私はっ……柚夢を
 独りになんかできないよ。たくさん
 苦しんできたんだから……」



少し緩められた腕から、見上げるようにして
柚夢の顔を見つめる。


柚夢の左手は腰に、右手は私の頬に添えられた。



「好きだよ……」



重なった、唇。


後ろには彼らがこの状況を見ていて、どんな
想いでいるのか、嫌になるほどに考えてしまう。

彼らの気持ちを知っていながら、私のこの
行動を裏切られたと思うかもしれない。


彼らのほうから、私のそばを離れるかもしれない。


でもそれならそれでいいと、そのほうが
私が選ばなくてすむからいいかな、と。


心の逃げ道を作った。




第30音 ( No.276 )
日時: 2013/07/20 21:06
名前: 歌 (ID: VHEhwa99)




「……う」



僅かに聞き取れた、柚夢じゃない人の声。


それに気づかないふりをして、ただひたすら
柚夢の唇を受け止める。



「悠っ!!!」



ぐっ、と。
後ろに引っ張られた、身体。



「悠っ………」



強く私の両腕を掴んで、私の肩に頭を
乗せている煌の身体の震えが。


後悔の波を、起こさせた。



「ど、して……悠っ…」



聞いたこともない、煌の消えかかった言葉。


煌の後ろにいた彼らの表情がさらに、
私の胸をえぐった。



「……悠を、返せ。見ただろ?悠は自ら
 僕を望んだ。君たちじゃなくて、僕を
 選んだんだよ」



………そう、思われても仕方がない。


そう思われて彼らから離れていくことを
微かに期待していたのに。



彼らの表情が、それを絶望に変えた。



あぁー……やっぱり私、恋愛とか無理。


想うことも想われることもこんなに辛くて
こんなに苦しいなら、感情なんて失くしたい。



「嘘、だよな……?悠……」



いつもの迫力がない大和の顔が、よく
見えない。


瞼を閉じれば、彼らと過ごした大切な時間が
フラッシュバックする。

カレイドスコープのように、模様も形も
どんどん変わって行く。


7人で奏でていた音が、流れてくる。



「……っぱり、無理、だよ……」


「え?」



目を閉じたまま、湧き上がる感情を抑えられず。



「誰も失いたくない!!!」



私の叫び声が、響いた。



「どうして!?どうしてどっちかを選ばないとダメ
 なの…っ…?選べるわけないじゃん!!
 誰1人、無駄な存在なんていないんだからっ…」


彼らの前では泣かない、って決めたのに。

涙でぐちゃぐちゃになっている顔を
隠すこともせずに、ただ想いのままに
言葉を吐き出した。


「私は大切な人を守りたいだけなの……!傷つけたく
 ないだけなのっ……それなのに…どうして!?
 どうして私なんかのことでこんなに傷つけ合ってるの?」


いっそのこと、私さえ消えればそれでいいのかも
しれないと思うほどに。


私は、想われすぎている。


「ねぇ…っ…どうやったら全員が幸せになれる?
 どうやったら誰も傷つけないですむ?」


誰も失いたくないと思うのは、私の我儘なのかな。


「柚夢……私はもう、柚夢を苦しめたくないよ。
 でも彼らのことも苦しめたくないの…!
 だからっ…だから……」


誰も失いたくないと思うのが私の我儘なら、
いっそのこと。



「どっちかを選べなんて言うなら……私はもう、
 どっちも選ばない!!もう、柚夢とも彼らとも
 会わない…っ……!」



全てを捨てて、失えばいい。



「私といて傷つくなら……私の存在がみんなを
 傷つけるなら、私は目の前から消える!!」



がく、と叫びすぎたせいなのか、身体中の
力が抜けてその場に座り込む。

床に手をついてぎゅっと握りしめ、ひたすら
涙を流した。



だから恋愛は、嫌いなんだ。





いつから私は、こんなに弱くなったんだろう。


いつでもどんな時でも、何も考えていないかのように
笑って誤魔化して壁を作って、自分を守ってきた
はずなのに。

どんな状況でも、冷静に考えて取り乱すことなく
行動できていたはずなのに。

自分の感情は殺して、相手に合わせて平穏に
過ごしていたはずなのに。


いつから私は、こんなに人と関わっていたんだろう。



『お前に何が分かる。うざい。消えろ』


初めて出逢ったのは、拳銃のように鋭い視線に
殺気を立たせていた築茂。


『まーあれだ!お前は普通じゃない。
 つーわけで、変人同士よろしくしようぜっ』


初対面で話が全く繋がらない会話をした
今とあまり変わらない、バカな空雅。


『あ……あぁ、ごめん。えっともしかして
 君は神崎悠さんかな?』


音楽室で独特な世界観に優雅なメロディを
ピアノで奏でていた、煌。


『…そっか。本当に神崎さんは強いね』


広報委員会の委員長と後輩というだけの
関係だった、日向。


『てめーは何してんだバカ!』


大雨の中、1人海にいた私を物凄い形相で
叱り、そのまま家に乱入してきた、大和。


『好き。君の歌も、好き』


Amazing graceを歌っていたところに、キレイな
声のハモリを重ねてくれた、玲央。



今思えば、彼らとの出逢いはすべて、1か月間も
ない中の出来事だった。


まるで、出逢うべくして出逢ったように。


最初はお互いが警戒しながら、躊躇しながら、
距離を作っていたけれど。

次第に時を共に共有し、1つの音楽を奏でて行った
ことで私たちは何も言わずとも『仲間』になった。


アンサンブルをやり、ソロをやり、動画を撮って、
花火を見て、誕生日パーティーをやって、
ぶつかり合って、コンサートをやって。



恋愛を、した。




気付いたら、数えきれないほどの思い出が出来ていて
どれもが1つ1つ輝いていた。




「……だよ……」



やっぱり、嫌だよ。



「みんなと離れるなんて…っ…嫌だよ!!」



なんて、矛盾しているんだろう。


人間には傲慢や嫉妬、欲望なんていう感情は
いらないから、私はずっと前に
捨てていたつもりだった。


でも全然、捨てたどころか、いつの間にかこんなにも
膨らんでいる。


「どうしたらっ…いいの……どうしたら…」


涙と一緒に床に吸い込まれていく、言葉。


その床に、私じゃない1つの影が出来たと思ったら、
ふわっと優しく、抱きしめられた。


「悠……もう、泣かないで…」


優しくて穏やかな、だけど悲しげな日向の声。

温かくてちょっと頼りない日向の体温が、
すっと濡れた心に入り込んできた。


「俺は…悠の泣き顔をもう見たくないよ……?
 悠にはずっと、笑っていてほしいよ」

「…っ…私も、だよ。誰の泣き顔も見たくない。
 みんなと……笑っていたい…っ…!」


そばに感じた、日向じゃない人の温もり。


「悠……」


玲央が私の背中を、優しくさすってくれる。


こんなに感情のままに人前で泣くなんて、私には
一生できないと思っていた。


こんなになるほどに、私は大切な人がたくさん
できたんだね。

それはとても辛くて苦しいけれど、何もないときの
『無』よりはずっとずっと幸せだ。



「柊柚夢さん」



固く厚い、煌の声が柚夢の名前を呼んだ。


日向の腕が緩み、私も少し先に立って向かい合う
煌と柚夢を見つめる。


「俺たちは、彼女が本当に大切なんです。それは
 あなたと彼女が過ごしてきた時間には敵わないけれど、
 そんなのはどうでもいい」


煌の背中だけで、柚夢の表情も煌の表情も
分からない。


「ただ俺たちは、彼女に笑っていてほしいだけなんです。
 だから……だから、お願いします…!」


勢いよく頭を下げた煌に、目を見開いた。





「彼女と……悠と、一緒にいてあげて下さい!!」






第30音 ( No.277 )
日時: 2013/07/21 23:45
名前: 歌 (ID: CejVezoo)







え………?




「悔しいけれど……やっぱり悠の中にはあなたが
 いるんです。絶対に消せないんです。だから、
 悠のそばにいてあげて下さい」



ねぇ、煌。
それってさ。



私から、離れるってこと?



「……言われなくても、そうするよ。じゃぁ
 君たちは悠を諦めてくれるんだね?」



そう、なの?


しばらくの重い沈黙が、それを肯定として
いるような気がして。


私はずるずると、闇の中に引きずられているような
気に陥った。



「いいえ、諦めません」



………どういう、こと?



「悠を諦めることなんて、できません。俺たちは
 正々堂々と0から勝負します。だけどそのためには
 悠の心も0にならないといけない」


私の心を、0に?


「全員がこれから、同じスタート地点に立つんです。
 もちろん、あなたも。だから柊柚夢さん、俺たちと
 悠と一緒に、日本に帰りましょう」


ふっ、と煌が微笑んだのが分かった。


思いもよらない煌の言葉に、ただ広くて大きな
背中を見つめることしかできない。


今までに見たどんな背中よりもずっと、頼もしくて
強い背中に見えた。



「悠がそれを望んでいます。お願いします。
 悠の願いを、叶えてあげてください」



そう言って、もう一度頭を下げる煌。


ちらっと見えた柚夢の表情は悔しそうで、でも
どこか嬉しそうで、1度閉じられた瞼が
再び開いた時には。




「もちろん、叶えるよ」





柔らかい笑顔を、浮かべていた。




頭をゆっくりと上げた煌と柚夢が、固く
握手をしているのを見たとき。


こんな結末もあったのかと、信じられなかった。


振り返った煌が私の前に座り込み、深い
茶色の瞳を向けられる。

ふっと微笑んだ煌に、私もくしゃりと
表情を崩した。


「ふふっ……もう、煌カッコよすぎ…」

「でしょ?だって悠が大切なんだもん」


そう言って、また笑いあう。


「あーあ、煌においしいとこ全部持って
 かれちったわ」


軽口を叩いて私の頭をぐしゃぐしゃと撫で
回した大和の口元も、笑っている。


「全くだ。ま、たまには頼りになるな」

「たまには、って!いつも、の間違いでしょ」

「寝言は寝て言え」


築茂の素直じゃない言葉が、さらに
私たちを笑いに誘う。


「ちょっと、僕の悠に気兼ねなく触れないで
 もらえる?」


悪態をつきながらも相変わらず甘い声で
囁く柚夢を見上げる。


「………柚夢」


微笑んで手を伸ばせば、何の戸惑いもなく
手を握ってくれた。


「ごめんね、悠。監禁みたいな真似して」

「監禁されてたのか!?」

「別にひどいことはしてないから。ま、キス
 くらいはもちろんしてたけど」

「て、てめぇ……」


バチバチとにらみ合う柚夢と大和も、これから
時間をかければいい関係になれるんじゃないかと、
そんな予感がする。


「じゃ、改めて俺は春日井煌。今年で21になる」

「僕は柊柚夢。フランスではムウ・オーディアール
 っていう名前で24って言ったけど実年齢は19。
 悠の2つ上だ」


それぞれがしっかり自己紹介なんかしちゃって、
ちょっとこの光景が面白いかも。

半分、まだ夢見ている気分なんだけどさ。


「どうして死んだ人間として生きていたのかとか、
 いろいろ聞きたいことはあるんだけどさ……」


真剣な煌の表情が一転して。


「まずはご飯、食べない?お腹すいちゃった」


ころっとあどけない笑顔に変わった。


するとぐぅ〜っといくつかの腹の虫の音が
あちらこちらから鳴き始める。


「ぷっ……」


誰が一番最初にふき出したのか、さっきまでの
空間だとは思えないほど、一斉に笑いが起こった。



柚夢に、部屋から抜け出した方法を話して
目覚めた家政婦さんにも何度も頭を下げた。

苦笑しながら、快く許してくれた家政婦さん。

そしてすぐに私たち7人分の夕飯を作って
くれた。


どうして5人がここに来たのかとか、柚夢と
私の記憶のことも大まかにご飯を食べながら話して。


ちょっと重たい空気になると、空雅のこと
何かを思い出した。


「あーあ、こんなに贅沢な料理を食べてるなんて
 空雅が知ったら発狂するだろうな」

「確かに。よし、写メって送りつけてやっか」


ニヤッと笑って携帯で写メと撮り始めた大和に、
日向が呆れた顔をする。


「ピッキングして入ってきたのに、こんな豪華な
 料理をごちそうしてあげたんだから感謝してよ」


外見はムウさんの時と何も変わっていないのに、
口調1つでこんなにも違う人間に見えるものなのか。


「ってか柚夢、何かキャラ変わってない?」

「そう?でもちょっと自分でも驚いてる。もちろん、
 悠には変わらないけどさ」

「いやー……私にもちょっと変わってるような。
 あ、あれだ!ツンデレになってる!!」

「ツ、ツンデレ?」

「言われてみればそうだな。ヤンデレがツンデレに
 変わったんじゃね?」

「大和、喧嘩売ってるでしょ」

「喧嘩すっか?」


ふふ、まさかこんなふうに会話ができるなんて
思ってもいなかったな。

なんだかんだ、ずっと孤独の中にいた柚夢にとっても
こうやって同年代の男と話すのは、嬉しいんだと思う。


「でも悠と柚夢、って同じ名前だからどっちを
 呼んでいるのか分からなくならない?」

「言われてみればそうだな」

「僕のことはムウって呼べばいいよ。どうせ柊柚夢と
 しての戸籍はもうないんだし。でも悠だけは
 名前で呼んでもらうけどね」


日向の質問に、築茂は静かに頷く。

柚夢は何ともないように言い、煌たちも納得
したように首を縦に振った。


「で、日本にはいつ帰るの?僕はまだ帰ることは
 できないし、国籍も移さないといけないから
 もう少し時間はかかるよ」

「そっか。出来れば早めに帰らないと、日向は
 今年で卒業だからさ」

「私、まだ新学期になって学校に出てないしね。
 これ以上休むとみんない怪しまれる」


煌の言葉に、日向はちょっと苦笑した。



日向が煌たちと同じS大を受験していたと
ついさっき聞いた時は、びっくりしたけど。

それよりもずっと、嬉しかったな。

お父さんともしっかり話せたみたいだし、
自分の好きな道に行くことが一番だと思うから。


「とりあえず、チケットは明日の夜の便が
 今からなら取れるが、どうするか?」

「そうだね。今日の明日で早すぎるかもしれないけど、
 12時間も飛行機の中にいるわけだし」

「丁度日本に着くときは土曜日だから、
 休みも取れるね」


パソコンをいじりだした築茂に、煌と日向は
真剣に頷いた。


「分かった。じゃ、明日の夜に車を出そう」


柚夢も人が変わったように微笑む。

そんな変わりっぷりが激しい柚夢をじっと
見つめると、私の視線に気づいた。


「なに、悠?そんなに僕に見とれてたの?」

「……いや、柚夢が可愛くって」

「嬉しい褒め言葉だなぁ。あ、でも勘違いしないで。
 僕は全部悠のためにやってることだから」


にこっとポジティブ解釈した柚夢に
大和と玲央は冷たい視線を送っている。


やっぱり柚夢はどこまで柚夢だな。


「部屋はこの前使っていた部屋を使って。
 ここは風峰さんがいない時は僕が仕切るから。
 僕が許可するよ」

「あぁ、ありがとう」


見た目は完璧な紳士なのに、煌のほうが
対応はずっと紳士だな、これ。


「ふふふっ」

「どうしたの、悠?何か、面白い…?」


不思議そうに私の顔を覗き込んだ玲央に
ニカッと笑って見せて。



「私、幸せだなって思っただけ!」



幸せな気持ちを、惜しみなくさらけ出した。


はぁ、といくつかのため息が零れたと思ったら、
頭を抱えている私以外のみなさん。


「え、なに?」

「悠ってさぁ……笑顔だけで男心、殺せるよ」

「はい?」


柚夢の呆れたようで照れているような顔に、
思いっきり首を傾げれば。


盛大なため息が、私を包んだ。




第30音 ( No.278 )
日時: 2013/07/22 21:49
名前: 歌 (ID: Re8SsDCb)





冬の寒さにこすり合わせる手と手。


夜が濃くなろうとしている今、これから
空港へと向かう。


「悠、すっごく寒そうだけど…大丈夫?
 これ着てて」


相変わらず心配性な日向は、着ていたカーキの
ダウンジャケットを私の肩に乗せた。


「ありがとう」


温もりに触れる冬も、この肌を刺すような寒さも、
やっぱり好きだな。

沖縄に戻ったらこんな寒さはないから、少し
寂しいかも。


柚夢が車を出してくれると言って、今はその
車がペンション前に来るのを待っている。


「でもマジで寒いな。12月に来た時よりさらに
 寒くなってね?」

「今は4度だ。風も吹いているからさらに寒く
 感じるんだろう」


ぎゅっと私の手を握りしめた大和の手は冷たくて、
築茂の声音はいつもより温かい。


「でもやっぱり、冬は好きだな」


口を開くたびに出てくる白い息は、まるで
言葉が目に見えるようになったみたい。

またこうしてみんなと小さなことでも話せて
いることが、とても幸せに感じる。


「あ、来たよ」


柚夢が運転する大きなリムジンを煌が見つけ、
それぞれ軽い荷物を手に持つ。

目の前に止めた柚夢は一度車から降り、私の
前にひざまずいた。


「え、柚夢?」

「お迎えに上がりました、お嬢様」


何かの冗談のつもりなのか、大和が握っていた
手を無理やり取って、手の甲にキスを落とす。


「ふふっ……」

「おいおい、どんだけだよ」


私と大和が苦笑すれば、柚夢は立ち上がって
相変わらず甘い笑みを浮かべる。


「悠、すぐに日本に行くから少しだけ待っててね。
 僕が行くまでにこいつらに何かされたら言って。
 殺しに行くから」


物騒なことを本気とも冗談とも取れる言い方に、
思わず背筋が凍る。


「さ、乗って。飛行機に間に合わないよ」


しれっと紳士的にドアを開けた柚夢に、隣にいた
煌と顔を見合わせてすぐに、ふき出した。




風峰さんはどうしても仕事があって見送りに
来たかったけど来れなくて申し訳ない、と
おっしゃっていたらしい。

また必ず会おう、とも。


柚夢はこれから国籍を移したり、フランスでの
仕事を綺麗に片付けてから日本に来る。

もちろん日本に来たら私と住む、と言えば
大和が許さねぇ、と睨み付ける。

玲央も激しく頷いて、煌や日向は苦笑い。

眉間にしわを寄せた築茂も、何かと理屈を言って
柚夢を責め立てていた。


ま、それは日本に来てからね、と私が話を
止めたことで一件落着した、かな?



「ここまで本当にありがとう」

「いや、悠のためだからね。またすぐに会おう」

「あぁ」


煌と柚夢は最後に固く握手をした。


「柚夢、待ってるね」

「うん、すぐ行く」


私と柚夢はきつく抱き合って、身体を離した。


搭乗口に向かって歩き出し、最後にもう一度
柚夢を振り返って大きく手を振る。


笑顔のまま、前を歩きだした。


「あぁー……長かったなぁ」

「ん?何が?」

「悠の笑顔をすぐ近くで見ること」


歩きながら背伸びをした大和は、安堵のため息と
一緒にぽろっと言葉を零した。


「本当に心配したんだよ?1週間も連絡が
 つかなかったんだから」

「それは1週間も寝てたからね。でもまさか、壊れて
 いたと思っていた携帯を柚夢が隠し持っていたとは
 思わなかったけど」

「それほど、お前を閉じ込めておきたかったんだろ」

「うん、そうだね」


日向に苦笑を返せば、築茂が呆れたように言う。

でも本当に柚夢は私を閉じ込めておきたくて、
あんなことをしたんだと思う。

嫌だと思わなかった私も私だけど、やっぱり
自由を奪われるのは苦しいね。


「さーってと、空雅が寂しがっていると思うし、
 何か土産でも買っていくか?」

「あ、そうだね!」


煌の提案に私は大きく頷く。

今日の朝に、空雅とは電話で話しておいおい
泣くほどに嬉しかったらしい。

その隣で愛花に頭を引っ叩かれて、無理やり
携帯を奪われていたけど。

愛花も最初こそは物凄い怒っていたけど、
それは愛情のあるもので、すぐに泣き声に
変わっていた。


心配してくれる人がいる。
迎えに来てくれた人がいる。
帰りを待ってくれている人がいる。


ちょっとしたことが、こんなにも幸せなこと
なんだと、心から思った。


「ねぇ、みんな!」


突然立ち止まった私を、5人が不思議そうに振り返る。





「本当に、ありがとう!!」





心からの笑顔で、心からの言葉を。







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