コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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僕のツレはヤんでいる...?(学園ラブコメディー)
日時: 2012/07/11 00:30
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/

・あらすじ

とある事情で入院中だった「ミカエル」は仲間たちに退院祝いの飲み会を設けられてそれに参加するが、途中で気絶してしまい宴は即、幕を閉じる。——翌日、馴染みの面々との再会や新たな出会いを果たした俺だったが、何て言うかホント……大丈夫か? コイツら……。

・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・ヒーロー凱旋篇

 プロローグ 〜ヒーロー凱旋 前 篇〜 其の一 >>01
 プロローグ 〜ヒーロー凱旋 前 篇〜 其の二 >>02
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の一 >>03 >>04
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の二 >>05 >>06
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の三 >>07 >>08 >>09 >>10
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の四 >>11 >>12
 第一話 〜久しぶりの登校〜 其の五 >>13 >>14
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の一 >>15 >>16
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の二 >>17 >>18
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の三 >>19
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の四 >>20 >>21
 第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の五 >>22

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(2)第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の二 ( No.18 )
日時: 2012/06/22 21:45
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/9/

 【バタン!】

 と、俺が飲料水を飲んだと同時にさっきまでテンションが高かった涼がグラスを掲げ笑顔のまま前方のテーブルに倒れ伏せる。
 その衝撃でテーブルは揺れ動き、置いてあったグラスなどは倒れてしまった。

 「お、おい! 涼!」

 テーブルに倒れ伏せた涼の身体を揺すってみたが反応はなく、どうやら気絶してしまっているようだった。

 ——何がどうなった?

 突然の事で杏とイリヤが目を見開き驚いた表情を浮かべ、キッチンで洗い物をしていた桜乃も大きな物音に気付いて様子を見にこちらへやって来る。

 「ど、どうしたの?」
 「わ、分からん」

 「もしや……」

 と、マスターがテーブルに倒れ伏せた涼の事をまじまじと眺めながら何か心当たりがあるのか神妙な面持ちで呟く。そして、唐突に辺りを見渡して卓上にあった飲料水が入ったとあるグラスを徐に手に取り、それを一気に飲み干した。

 「ふむ、これは——ぐっ! ぐはっ……」

 飲料水を飲んだマスターがいきなり苦しそうに首元を押え始めたものだから、その光景を間近で見ていた俺たちは騒然となった。しばらくして、マスターも涼と同じようにテーブルに倒れ伏せてしまった。
 倒れ伏せる際に見せたマスターのハニカミ姿はどこか清々しいながらもダンディリズムが滲み出ていたような……気がした。

 「お、お父さん!?」

 フリーズしていた桜乃が我に返り、テーブルに倒れ伏せたマスターに駆け寄る。
 すると、何かに気付いたのか桜乃がマスターの握り拳を解いてその中からくしゃくしゃになった紙を取り出した。

 首を傾げながらくしゃくしゃになった紙を広げて中身の確認をした桜乃は徐々に表情を曇らせた後に丁寧にその紙を折り畳んで、静かに俺に手渡して来る。

 「桜乃、どうした?」
 「……私、残ってる洗い物を片づけて来るね」
 「あ、ああ……」

 少し語気を強めて発せられた桜乃の言葉に俺は何が何だか分からず首を傾げたが、桜乃の様子がおかしくなった元凶である謎の紙を開いて確認する事にした……。


 ——もし、このメモを見ている者が女性なら真摯に聞いてほしい。
 (野郎なら紙捨ててとっとと失せろっ!)
 我らはとある持病に悩まされている。その持病と言う物は女性の甘い口付けを一定の間隔で供給されなければ発作が起こり、最悪死に至ってしまう悩ましい病で。もし、これを見ているアナタが女性なら人助けと思って、ここは一つ……。
 我らにその甘い口付けを施してはくれないでしょうか?


 ——と、紙に書かれており、俺は徐にテーブルに倒れ伏せた涼とマスターの顔色を窺うと……二人して唇を尖らせていて、何かを待ち構えているように見えた……。

 「ね、ねぇ〜。にぃに、二人はどうしたの?」
 「そ、そうじゃ。シン、答えよ。それには何て書かれていたのじゃ?」

 馬鹿共の事を本当に心配しているのか、二人は少し慌てた様子で俺に詳細をせがんで来る。

 ——くっ、心が痛い……。

 「二人とも、気にする事は無い。このメモにはとある男たちの妄言が書き記されているだけだ。だから、心配するな。それに見てみろよ。涼とマスター……幸せそうな表情を浮かべてるだろ?」

 俺の言葉に気絶のフリをしていた二人の表情が歪んで、少し悔しさに涙を流しているように見受けられた。

 「いや、悪夢にうなされているような表情を浮かべておるが……」

 目を細めて彼らの様子をまじまじと見ながらそう呟いたイリヤの言葉に俺は静かに頷いてみせる。

 「そうか、イリヤにはそう映るか……。まだまだ、お子ちゃまだな……」
 「——で、結局の所。二人は大丈夫なの? にぃに」
 「ああ、無事だ。だから、お前たちはもう家に帰れ。後の事は俺と桜乃に任せろ」
 「ん〜、何かはぐらかされているような気がするけど……分かったよ」
 「ふむ、そうか。シン、もしその者たちが目を覚ましたのなら、伝えといてくれ。——楽しかったぞ、と……」
 「ああ、分かった。じゃ〜気を付けて帰れよ〜」

 二人を店先まで見送ってから、俺は未だに気絶のフリを続ける馬鹿共にグラス一杯に入れた冷水をそれぞれの頭にぶっかけてやった。

 「——マスター。僕、涙が治まらないや……」
 「——奇遇だな、少年。私もだ……」

 俺に掛けられた冷水を自らの涙と例えて、悔しさを滲ませながら馬鹿共は合コンの反省会をテーブルに倒れ伏せたまま始めやがり。
 その光景を俺と洗い物を終えて戻って来た桜乃の二人で温かく見守りながら、彼らの反省会が終わるまで店は開かれる事はなかった……。

第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の三 ( No.19 )
日時: 2012/06/26 00:06
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/10/

 ——ガブリエルさんが来場しました。

 ガブリエル〈こんばんみ〜〉
 ミカエル「こんばんは〜」
 ラファエル『こんこん』
 ガブリエル〈今日は盛り上がったねぇ〜〉
 ラファエル『あれで盛り上がっていたように思えますか?』
 ミカエル「同感だ」
 ガブリエル〈ありゃ? お二人さんには不評だった?〉
 ラファエル『ええ、全くです』
 ガブリエル〈もしかして、ラファちゃん。怒ってる?〉
 ラファエル『怒ってないですよ〜。今日の収益が少なかったからって、別に〜』
 ガブリエル〈……怒ってるじゃない〉
 ミカエル「……色々と気苦労が絶えないんだろうよ」
 ガブリエル〈そういうもんかね?〉
 ミカエル「そういう物だろ」

 エミル[——あ、あのぉ〜]

 ガブリエル〈わお!〉
 ラファエル『わっ!』
 ミカエル「うお!」
 ガブリエル〈ばびった〜〉
 ミカエル「確かに……」
 ラファエル『えっと、どうかしました? エミルさん』
 エミル[お邪魔して、すみません!]
 ラファエル『良いんですよ。そもそも、ここはメンバーとのコミュニケーションの場ですから気にしないでください』
 ミカエル「まぁ〜今となっては、三人しか使用者はいないけどな……」
 ガブリエル〈んな事ないよ〜、ミカエルくん。会話に参加してないだけで僕らのやり取りをニヤニヤと眺めているメンバーもいるみたいよん〉
 ミカエル「マジか!?」
 ガブリエル〈だしょ? エミルさん〉
 エミル[え! こ、ここで僕に振りますか!? ——で、でも、ガブリエルさんの言う通り、他にもいると思いますよ。だって、お三方のやり取りはおもしろいですから]
 ラファエル『……恥ずかしいですね』
 ミカエル「……ああ、そうだな」
 ラファエル『で、エミルさん。何か要件がお有りなんですよね?』
 エミル[あ、はい。それが最近、巷で通り魔事件が多発しているそうなんですよ。メンバーの何人かが被害に遭ったとか遭わなかったとか……]
 ガブリエル〈それは、おもしろくない話だねぇ〜〉
 ミカエル「確かにな……」
 エミル[い、一応そのご報告だけでもと思って……。も、盛り上がっていた所、お邪魔してごめんなさい!]

 ——エミルさんが退場しました。

 ラファエル『あっ……』
 ガブリエル〈行っちゃった……〉
 ミカエル「ふむ、通り魔か……」
 ガブリエル〈……何だか、見計らったようなタイミングで起こってないかい?〉
 ラファエル『と、言いますと?』
 ガブリエル〈ほら、前の通り魔事件からちょうど半年だよ?〉
 ミカエル「そう、だっけか?」
 ガブリエル〈そうだよ。だって、ミカエルくんがちょうど半年前に起こった通り魔事件で負傷して、めでたく退院してからのこの通り魔事件でしょ? 裏がある様にしか思えないんだよね〜〉
 ラファエル『か、考えすぎじゃないでしょうか?』
 ガブリエル〈いやいや、それぐらいの疑いを持って事に当たった方がいいと思って言ったんだけどねぇ〜。——ラファちゃんも他人事じゃないっしょ?〉
 ラファエル『それは……』
 ミカエル「おい、ガブリエル。あたかも俺たちがこれからこの件に首を突っ込もうとしているような言い草じゃないか」
 ガブリエル〈でも、その通りでしょ? ミカエルくん〉
 ミカエル「……ああ」
 ラファエル『まぁ〜。首を突っ込むなら気を付けろって事ですよね』
 ガブリエル〈だぬ。半年前の事件と同一人物なら顔を見ちゃっているであろう、お二人が一番危ないからね〜〉
 ミカエル「……分かった、気を付ける」
 ラファエル『うん、私も……』
 ガブリエル〈じゃ〜活動は明日からって事で、今日は解散! おやす〜〉
 ミカエル「おやすみ〜」
 ラファエル『おやすみなさい』

 ——ガブリエルさんが退場しました。

 ミカエル「ラファ、大丈夫か? もし、怖かったら……」
 ラファエル『うん、大丈夫だよ。同一人物とはまだ決まってないからね』
 ミカエル「そうか……。じゃ〜無理するなよ」
 ラファエル『うん、ありがとう』

 ——ミカエルさんが退場しました。

 ラファエル『……違うよ、ね?』

 ——ラファエルさんが退場しました。




 ——レヴィアさんが来場しました。

 レヴィア【もう少し。もう少しで、アナタを救える。だから、私の勇姿をその目に焼きつけて……。そして、そのまま私を——】

 ——レヴィアさんが退場しました……。

(1)第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の四 ( No.20 )
日時: 2012/07/01 00:53
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/11/

 ——翌日。
 身体に妙な違和感を覚えた。
 何故だろうか? 背中から冷気ではなく、熱気が感じられた。
 幽霊の類ではない事ははっきりしたが、ここまで事実確認したくない事柄が今まであっただろうか?

 いや、生まれてこの方。そんな感情を抱いた事はないな。このまま、今あった事を綺麗さっぱり忘れて、新たな気持ちで今日一日を始め直したいと強く思う。

 ふむ、ならもう一眠りしてこの場はリロードする方向で万事解決だな……。
 この日をやり直す事に決めた俺はもう一度眠る事にし、少し疲れた態勢を変えるべく徐に寝返りを打つ。

 「ひゃん……」

 寝返りを打ったと同時にそんな甘ったるい声が微かに聞こえた。
 ……やべ、思わず出てしまったか。早くこの恥ずかしい癖を直したいぜ……。
 人には言えない恥ずかしい癖を早く直したいと思いながら、俺は眠りに就く——。

 「もう、甘えん坊さんなんだから、にぃには……」

 眠りに就く俺の耳元で聞き覚えのあるボイスがそう囁く。
 ……全く、妄想も大概にしろよ、俺。いくら、彼女が出来ないからって脳内彼女を創造するとは思いもよらなかったぜ……。
 恥ずかしい脳内妄想を払拭してから、俺は再び眠りに就く事に——。

 「ねぇ〜、にぃに〜。早く来て、杏——切ないよ……」

 払拭したと思われたが、再び耳元で聞き覚えのあるボイスにそう囁かれた。
 ……うん、これはアレだな。今日、病院に行こう。そして、かかりつけの医者に要相談だな。俺にはどうしようも出来ないらしい……。
 そうと決まれば話は早い。さっさと起きて、病院に行く支度をしないと、な。

 俺は徐に閉じていた目を開くと、視界にボサ髪童顔少女の微笑顔がほぼ正面で映し出されたが——スルーする事にした。そして、起き上がってクローゼットを開けた俺は身支度をさっさと済ませてから部屋を後にした。
 玄関で靴を履き終わって「さぁ〜行くぞ!」と、立ち上がっている際に二階から激しい足音を立てながら玄関に走って来た、ちびっ子に抱きつかれてしまい。少しバランスを崩しかける。

 「何で、無視するかな?!」
 「無視? おかしな事を言う妹だな。今、顔を合わした所ではないか」
 「ぶーぶー!」
 「豚のマネか? 上手いなぁ〜。さすが、俺の妹だ」

 憤慨して豚のマネをする妹を軽く流し、いつも通りに俺は妹を背負いながら学校へ向けて足を進めた。
 ご機嫌斜めな我が妹こと杏は、憂さ晴らしのつもりなのか俺の背中をポカポカと殴って来ているが……正直程良い塩梅で心地よかった。

 「あ、そういえば。お前、イリヤと知り合いだったんだな」
 「光ちゃん? うん、そうだよ。同じクラスだよ」
 「光ちゃんって……。もしかして、他の奴らからもそう呼ばれているのか?」
 「うん。私が佐藤光ちゃんって呼び始めた事がきっかけで、今ではイリヤ・シュガーライトと言う本名は忘れ去られて、佐藤光として扱われているよ」

 淡々とした口調でイリヤの本名を葬り去った原因を作った張本人の言葉にどうしてか俺の目頭が熱くなっていた。
 すまん、イリヤ……。新堂杏の保護者として、心より陳謝する。それと昨日、俺が君に対して行った数々の無礼。本当にすまなかった。許してくれ……。

 「ねぇ〜、にぃに。今日はマスク付けなくてもいいの?」
 「ああ、マスクね……。あれは災いを呼ぶ呪いのアイテムだ。だから、俺は金輪際マスクを付けんと誓った」
 「……意味が分からないよ」
 「ふっ……。大人になったら、分かるさ……」

 そう、大人になったらマスクの怖さが痛いほど分かる……。だから、マスクの怖さが分かるようになれば、お前も立派な淑女となるであろう。
 妹の成長を温かく見守る妹想いな俺は学校に向けて、杏と談笑を交わしつつ足を進め。ようやく辿り着いた学校の校門先では見慣れた美人系茶髪女子が微笑みながら生徒たちを迎い入れていた。

 「おはようございます。新堂慎くん、それと新堂杏ちゃん」
 「あ、おはようございます。会長」
 「えっと……お、おはようございます! 会長さん!」

 微笑みながら望月会長に挨拶をされて俺は昨日の事の失敗を踏まえて敬語で応え、杏は少しドギマギしつつもしっかりと挨拶を返した。
 挨拶を済ませた俺たちはさっさと校舎に向かおうと歩み始めると、

 「ちょっと待ってください。新堂くん」

 と、後ろから望月会長に声を掛けられてしまい、俺はその足を止めた。

 「どうかしたんですか?」
 「その敬語、似合ってないですよ。新堂くん」
 「……似合ってないも何も、目上の人に敬語を使うのは礼儀だろ?」
 「私はよそよそしくなっているようで嫌かな。昨日みたいな強引な新堂くんが私好みで良かったのになぁ〜」

 そう言いながら艶めかしい手つきで自分の身体を俺に視姦されているかのように隠し始め、その行動に伴って彼女の瑞々しい果実が強調された。
 彼女の動作に俺は苦笑いを浮かべたが、望月会長が発した言葉と奇行に何かを勘違いした杏は俺の頭をポカポカと殴る。

 「ちょ! 杏、痛いって!」

 背中を殴った時と違い、俺の頭を潰しにかかる勢いで殴って来た杏にやめるように説得するものの聞き入れる事はなく、一方的な暴行を受けざるを得なくなり。
 その和気藹々(?)とした兄妹のふれあいに口元を隠して微笑みながら見守る望月会長に俺は視線で助けを求める事に。

 俺のアイコンタクトが正確に通じたのか、望月会長は微笑顔のまま未だに一方的な暴力を加え続ける杏の頭をポンと軽く叩き、

 「ダメよ、杏ちゃん。これじゃ〜新堂くんが可哀想じゃない。それに新堂くんの場合——こっちの方が効果的よ」

 そう話した望月会長は突然、俺の耳に吐息をかけ、これはまだまだホンチャンまでの前戯とばかりに続けざまに俺の耳たぶを甘噛みする。
 不意に耳に吐息をかけられ、身体にこそばゆい感覚に襲われてしまっている中、間髪を容れずに耳たぶを甘噛みされてしまった俺の身体は自ずと強張ってしまう。

 「か、会長。ダメだって……」

 生まれて初めての感覚に見舞われてしまった俺は思うように声が出なくなっていた。
 その俺の反応を楽しんでか、次に望月会長は耳たぶをペロッと軽く舐めてから、耳輪と対輪の間を沿うように舌を這わせ、耳全体を焦らしながら舐め始める。

 卑猥に動かされる望月会長の舌使い。
 そして、耳にダイレクトで掛る、望月会長の艶美な吐息が俺の身体を徐々に浸食して行く……。

 ……やべ。
 これは本当にやばい。

 俺に背負われている杏が目の前で起きている光景に絶句して大人しくなってしまっているようだ。それに今もなお、次々と登校して来る生徒たちが気を遣ってか知らんが、俺たちの姿を見ないように顔をそむけながら通り過ぎて行く……。

 た、助けろよっ。お前ら……。

 彼らに助けを求めようにも上手く言葉を発せられない。それどころか、動悸が高鳴って息苦しい。
 このままだと、俺は望月会長に堕とされる……。
 快楽に溺れて行く意識の中で俺はどうにかこの状況を打破しようと画策したが、俺の理性がそれを拒否した。

 ——もう、俺の理性が知らず知らずの内に彼女に堕とされてしまっていたようだ……。

(2)第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の四 ( No.21 )
日時: 2012/07/01 00:55
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/11/

 「——ゴホン。会長、お取り込み中すいません。女子生徒が一人、状況変化に追いつかず失神してしまっているようですので、早く保健室に運んだ方がよろしいかと……」

 誰もが見て見ぬ振りして行く中、勇気ある人物が暴走する望月会長に声を掛け、それを制止する。
 声を掛けて来た人物の言葉に素直に従った望月会長は俺から身を引き、少し物足りなさそうな表情を浮かべた。

 ——た、助かった〜。
 どこの誰だか分からんが、感謝しないとな……。
 俺は制止してくれた人物に感謝の言葉を掛けようと、その人物に視線を向ける。

 「助かった、ありが——とう?」

 視線の先には黒髪ツインの前髪ぱっつん少女——摺木麻耶の姿があり、彼女は蔑むような冷たい視線で俺の事を見つめていた。

 「——ま、麻耶ちゃん。落ち着いて落ち着いて。これは軽いスキンシップじゃない」

 見るからにご機嫌斜めな摺木をなだめようと慌てた様子で望月会長が釈明するが態度は変わる事無く、俺たちの事を軽蔑し続ける。が、

 「……分かってますよ、会長。私はちゃ〜んと分かってますから……。——新堂くん」
 「あ、はい!」

 突然、話を振られ。俺はなぜか、優等生染みた元気の良い声を発してしまった。

 「早く、杏ちゃんを保健室に運んだ方がいいわよ。本当に失神してしまっているから……」

 そう淡々と語った摺木は校門前に向かい。
 望月会長が職務放棄した生徒たちの出迎えを代わりにし始めた。

 「えっと、新堂くん。私も職務に戻るから早く杏ちゃんを保健室に運んであげてね」

 真面目な副会長に触発された望月会長が笑顔でそう言い残し、持ち場に戻って放棄した職務を勤め始めた。
 ……はぁ〜。
 朝から疲れるなぁ〜。
 俺は摺木や望月会長が言うように杏が本当に失神してしまっているのかを確認するために少し強めに身体を揺すってみたが、無反応だった。なので、渋々ながら保健室に運ぶ事にした。

 高等部校舎一階にある保健室に入ると保健医の姿はなく、勝手に保健室のベットを使わせてもらう事に。
 ベットに杏を下ろすと——杏は目を見開いたまま失神してしまっており、年頃の少女が目を開けながら寝るのはいささか名誉に関わる事なので、俺は杏のまぶたを閉じてから横に寝かしつけ、布団をかけてやった。

 ——さてと、自分の教室に向かうとしようか……。
 やる事を済ませた俺は保健室を出て、自身の教室である二年二組に向かう。

 教室に入ると校門前で繰り広げていた俺と望月会長の行為をクラスメイトの誰かが目撃していたのか、クラスメイトたちがひそひそ話をしながら俺の事を奇異な視線で見据えて来るではないか……。
 ホント、昨日と今日とで、俺のお株はだだ下がりだな……。
 手厚い歓迎を受けながら俺は自身の席に向かい、ゆっくりとその重い腰を下ろした。

 ただ、小柄のなよなよした女々しい男子生徒の熱烈な眼差しが少し気になったが、これは俺の自意識過剰による勘違いだろと踏み。
 先方の事は気にせず、授業に臨む事にした……。

第二話 〜阿鼻叫喚の宴〜 其の五 ( No.22 )
日時: 2012/07/01 21:33
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0274ba/12/

 ——放課後。
 陽が傾き始めてそろそろ夕暮れ時の教室内。
 全ての行程を終えて帰る支度をしている最中に誰かの視線を感じた。俺は徐に辺りを見渡して様子を窺うと。教卓の前に摺木麻耶が立っており、こちらを見つめていた。

 「……摺木、まだいたのか」
 「いたら悪いかしら?」
 「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだが……」
 「そう?」

 摺木はゆっくりとした足取りでこちらへやって来て、俺の前方の机に腰をかけて不敵な笑みを浮かべながら俺の事を見据える。

 「ねぇ〜、新堂くん」
 「ん?」
 「——今日はあまり外を出歩かない方がいいわよ」
 「どうしてだ?」
 「最近、物騒な事に通り魔が現れたらしいの。だから——」
 「ああ——だから、今日会長やお前が校門前で登校して来る生徒たちを迎え入れていたのか」
 「……そういう事」
 「ふむ、ご忠告感謝いたす。じゃ〜俺は行くから、生徒会の仕事頑張れよ」

 俺は帰る支度を済ませた所で鞄を持って教室を出る。
 教室を出てから扉を閉めようとした間際に見た教室に残され佇む摺木の表情が印象的だった。
 天を仰いで口元を歪ませ、凄惨な笑みを浮かべていた摺木の表情に少し畏怖の念を自ずと抱かされた。

 ——だけど、今は摺木にかまっている場合じゃない。

 学校を後にした俺は駅に向かい、行きつけであるあの店に向かった……。



 ——Broken Angel Wings(翼が折れた天使)店内。

 「う〜ん、微妙な感じなんだよねぇ〜」

 テーブル席に腰掛ける菅谷涼がグラスを片手に覇気のない声でそう口ずさんだ。
 俺が店に到着するともう涼が来店しており、少し疲れたような表情を浮かべながら携帯を凝視していた。
 涼は自らが持つ独自のネットワークを駆使して、通り魔事件に関する情報を色々と調べ回ってくれている。

 ——まぁ〜独自のネットワークと言っても行く先々でナンパした女性経由での情報を集めているに過ぎないが……。

 「微妙ってどういう事?」

 バーカウンターで業務をこなす、本日は自身が通う制服(ブレザータイプ)の上にエプロンを付けた茶髪ボブカット姿の桜乃美嘉が首を傾げながら尋ねる。

 「うん。それがさぁ〜、やる事なす事全てが幼稚って言うか……」
 「幼稚?」
 「そう、何て言うか……。子供のイタズラ的な行為が所々で目撃されているみたいなんだよねぇ〜。それを通り魔だと解釈するのは少々言い過ぎな気がするけど、標的にされているのは全ておんにゃにょ子だから見過ごせないのよねぇ〜」

 片手に持っていたグラスに入った飲料水を一気飲みした涼は突然、怒り心頭とばかりにテーブルに勢い良くその空になったグラスを置く。

 「——全く、どこの誰だか分からないけどやめてほしいよね。スカートめくりは双方の理解があっての行為。謂わば、紳士淑女の戯れと言っても過言じゃない。なのに、汚しやがった!」

 唇を噛みしめ悔しさを滲ませながらテーブルに拳を叩きつける涼の姿に俺と桜乃はついて行けず呆気に取られてしまう。

 「——ふむ、少年よ。その通りだ。英国生まれの紳士のスポーツと謳われているスカートめくりは公式ルールに則ってのみ許される。だが、規定外の事をされると紳士の名に傷が付くからな」

 本日もオリジナルのカクテル作りに勤しむマスターがシェイカーを振りながら涼の意見に賛同する。ダンディリズムが漂う様相で……。

 「そうなんですよ! さっすが、マスター分かってらっしゃる!」

 賛同者が現れ、よっぽど嬉しかったのか涼は跳び上がってバーカウンターに駆け寄ると徐に手を出す。
 差し出された手を見てマスターは鼻で笑った後にシェイカーを下ろし、涼の手を掴んで力強い握手がなされた。

 『同志よ〜』

 熱い握手、視線を交わす馬鹿共を冷やかな視線で俺と桜乃は見つめる。
 そして、俺は桜乃にある助言をし、それに桜乃は素直に頷いてからエプロンのポケットから携帯を取り出して電話を掛け始めた。


 「あ、お巡りさん。変質者二名が私に——」

 通話途中で身の危険を察知した涼が桜乃から携帯を強奪し、通話を強制的に切って。
 ふぅ〜、と額を拭って安堵の表情を浮かべながら涼はテーブル席に腰掛けようとした瞬間——入り口の扉に激しいノックが響き渡った……。

 【美嘉ちゃん! 大丈夫かい!】

 聞き覚えのあるドスの利いた低い男性の声が聞こえるや否や、涼が恐怖に満ちた表情を浮かべながら身体を小さくして丸くなってしまった。

 ——は、はえ〜。

 桜乃が電話をしてからほんの数秒ぐらいしか経ってないのに、ここに駆けつけるの早すぎだろ……。
 少し呆れながらもここまで涼が縮こまるとは思いもよらなかった俺と桜乃は憐れに思い、駐在所の愉快な仲間たちの一人を丁重にお引き取り願った。

 「——さ、さて。通り魔事件についてだけど……」

 先ほどの事は何もなかったように話を切り出した涼は制服のポケットから写真を取り出してこちらに提示する。
 写真には深く被ったフード姿(派手な蛍光色)の小柄な人物の走り去る間際が写し出されていた。

 「こいつが……?」
 「うん、恐らくね」
 「何だか、子供っぽいよね。私はてっきりお父さんたちみたいな愉快な人だと思ってたよ……」

 写真をまじまじと見ながらどこか納得出来ないのか桜乃は眉をひそめながら、そう唸る。

 「……語弊があるような気がするけど、まぁ〜それは置いといて。——今はまだ、子供のイタズラ染みた事を繰り返しているみたいだけど……」
 「ああ。もしかすると、エスカレートして行くかも知れない。——最悪、誰かを怪我させるかも知れないよな」

 そう言いながら俺は横目で桜乃の様子を窺った。
 桜乃は未だに写真を眺めながら首を傾げている。
 全く、どこの誰だろうと良いだろうに……。
 だけど、俺は写真を見せられてホッとしていた。
 半年前に——桜乃美嘉を襲った人物ではなかったからだ。

 「で、どうすんの? この子、止めるの?」
 「止めるしかないだろ。これ以上、紳士のスポーツとやらが汚されてたまるか」
 「……ねぇ〜。僕をイジめてそんなに楽しいかね」
 「いや、心が痛いさ」
 「……感情こもってねぇ〜」

 「——はいはい。じゃ〜決まったのなら、さっさと済ませようよ」

 手を二回叩きながら仲介に入った桜乃は淡々とした態度で「Staff Only」と書かれた扉を開けて先に入って行った。

 「了解」
 「はいよ〜」

 と、空返事をした俺たちも桜乃の後を追うように足を進め。
 「Staff Only」と書かれた扉の向こうへマスターに見送られながら入って行った……。


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