コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 勇者パーティーです。【3話更新中ー】
- 日時: 2012/12/11 17:35
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
雪かきは重労働です。でも不思議と寒くない。
とか思っていたら予想以上に汗を掻いていてなんか脱水症状になっていたりしました。
皆さんも気をつけてください(笑)
というのはどうでもいい話。
はじめまして。
つたない文章ですが、ゆっくりと見守ってくれるとありがたいです。
感想、アドバイス等は遠慮なくおっしゃってください。
では以下、プロローグということで。
◆プロローグ
私たちは偶然か必然か——多分偶然だと思いますが——長い旅に出ることになりました。
あまりに“それらしくない”人たちの取り合わせ。これも偶然でしょう。
その偶然が私にもたらしたもの……これが成長というに値するものか、私には分かりません。けれど、それは私にとって大切なものです。これだけは確か。
だから私は、らしくも無く神様に感謝します。
それから、今までの仲間にも。
出来れば誰にも語らず、大切にとっておきたいんですけどね。特別ですよ?
みんなが知っている、美化された話じゃない、本当の物語。
それはこんなお話です。
◆◇◆
以下、登場人物。随時更新するかも。
◆フェルート
勇者の妹。主人公。
◆フィルザッツ
聖剣の勇者。めんどくさがりでだらしが無くて適当。フェルート曰く野生児。
◆ライクス
フィルザッツに同行する神官。毒舌家で人嫌い。
- Re: 勇者パーティーです。【3話更新中ー】 ( No.44 )
- 日時: 2012/12/19 17:47
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
その村にたどり着いたのは太陽がだいぶ傾いたころ。空の端っこから蜜柑色が滲み出している時間帯。
このまま夜になれば、魔物の時間です。
ユーグさん、ハクギさんが一緒になってからは、何かの偶然なのか一度も魔物に出くわしませんでした。意味の無い護衛になってしまいましたね。
ライクスさんはユーグさんの予想以上のはしゃぎっぷりに疲れたのか、若干口数が少ないです。それ以外、私やお兄ちゃんやユーグさん、ハクギさんは、道中魔物との戦闘も無かったので元気です。変わった人たちだと思っていましたが、なかなか体力もあるようですね。旅に慣れてます。
「皆さん、今日はここで宿を取りますか?」
「あぁ……そうする。そちらは?」
ライクスさんがちらりとだけ視線を向けて訊くと、ユーグさんは後頭部で手を組みながら答えます。どうでもいいですけど、あの状態で転んだら痛いことになりますね。
「俺たちもそうする。なー、ハクギ」
「えぇはい、そうですね。皆さんとは明日の朝別れることになるかと」
「はっ。そりゃ清々するぜ」
これまでの間散々ユーグさんにおちょくられていたお兄ちゃんは、不機嫌そうに言います。それに対しハクギさんは困り顔。ユーグさんはにやりと笑いました。
「せっかくだし、もう一回手合わせしやってもいいぞ?」
「ユーグ様!」
「断る。ぜってぇ嫌だ。お前、人じゃねぇ感じがするしな」
「ほぅ? そりゃどういう意味だ」
眉間に皺を寄せ、はっきりと警戒心、それから嫌悪を表すお兄ちゃん。珍しい顔です。こんな顔、余程のことがないと見せません。
それに対しユーグさんは、酷く好戦的な笑みを浮かべます。それを直視した瞬間、僅かに思考が止まりました。
彼は自信たっぷり、余裕綽々といった様子で、それは確かに笑顔でしたが。
思わず鳥肌が立つような。
背筋に寒気が走るような。
不敵で、無敵で。
絶対的な——なにかを含んだ、笑顔。
「っ、あ、うわああ! ほらユーグ様、早く宿を探して休みましょう!」
と。2人の間にハクギさんが割り込みます。いつの間に張り巡らされていた緊張の糸が、ふっと切れます。
お兄ちゃんはまだ不機嫌そうな顔で、顔をそらしました。
もう一度、ユーグさんの顔を見てみますが、その笑みは荒々しくちょっと粗暴で……ですけどやはり、人、ですよね?
す、と体の心が冷えます。やっぱりこの人たち、いえ、この人は、警戒するべき人です。
「……って。え、あれ?」
いつの間にか、ライクスさんの姿が見えなくなっていました。慌てて辺りを見回します。と、居ました。村の中に向かって一人で歩いてます。
どうやら痺れを切らしたのか付き合うのが面倒になったのか、先に行ってしまったようです。
「あれ? ライクスは?」
「うん、ほらあっち。先に行っちゃったみたいだよ」
「おいおい……。あいつは団体行動って奴をしないのか?」
「な、なかなか我の強い方なんですね……」
ハクギさんは引き攣り気味の笑顔を浮かべます。ユーグさんは呆れ顔。もうすっかり、さっきの緊張した空気はありません。
むしろ、それすら気のせいだったのではないかと思えてしまうほど、自然な空気。ですけど、いえ、あれが幻想のはずありません。
ちょっと足が笑ってるのが証拠ですよ。気を抜くな、自分。と、暗示をかけます。
私たちは早歩きでライクスさんの後を追いました。
その最中、私たちは村の様子を見ることが出来たのですが……。
はっきり言って、酷いものでした。
ここは川沿いの町なので水車や畑が多いのですが、いくつかそれらが破壊されていました。木片となって無残に散らばる物。元は綺麗に食物が並んでいたであろう畑は、地面が抉れたり焼き払われたりしています。
こんな村の中まで魔物が入り込むとは、相当事態は深刻ですね。皆さんもそう思っているのか、沈痛な空気が流れます。村人の方々は私たちを驚いたような珍しそうな顔で見てきますが、声まではかけてきません。自分のことで精一杯ということですか。
ライクスさんはまだ無事な建物の前で立ち止まっていました。
その建物は2階建てで、他の建物と比べて大きいです。ドアのすぐそばには、ベットの絵が描かれた看板が置かれていました。だいぶボロボロになってますが。
どうやら宿屋のようです。
ライクスさんは私たちが追いついたことを確認すると、さっさと中に入りました。我が強い、と言うのはそうかもしれません。ライクスさんはなんだか、自分は自分、と言うのをちゃんと持っている感じの人です。まぁ、それが強いのを頑固、とか強情、とか言うんですけどね。
入って正面の受付に座っていた男性は、私たちを見て驚いた顔をしました。
そしてさらに、ライクスさんの黒髪に目を留めると、その表情は急激に沈んでいきました。
「久しぶりの客が魔の色とは……。この商売も終わりだね」
あぁ、久しぶりに見ましたね、この反応。明らかに独り言でしたが、しっかりと聞こえました。ですがライクスさんは完全に聞こえない振り。受付まで歩いていきます。
「神官さんが、こんな村に何の用だい。それに、その……」
「宿がやっているなら、早く休みたいんだが?」
感情のこもっていない、けれど有無を言わせない声でライクスさんは割り込みます。男性はあからさまに顔を顰めます。
「明日の朝まで。3人だ」
「5人いるように見えますが」
「そっちは別だ」
「はいよ」
きょろきょろ受付の上を探し、上着のポケットを探し、ズボンのポケットを探ってようやく見つけたペンでさらさらと帳簿に書き込んでいきます。
よほど仕事が無かったんですね。
「人が少ねぇ、いや、居ねぇな」
「まぁ、これだけ被害を受けてればそうだろうね」
「私たちも明日の朝までお願いします」
「はいよ」
ハクギさんの言葉を受けまた書き込んで、パタンと帳簿を閉じ、男性はため息をつきます。
「お前さんたちが最後の客だろうな……」
「湿っぽい話を聞きにきたわけではない」
「はいはい」
ため息混じりに言いながら、男の人は後ろを向いて壁に掛かっていた鍵束をライクスさんに渡します。
それを受け取ったライクスさんは僅かに顔をしかめ、じゃらりと鍵束を持ち上げて見せました。
それはどう見ても……。
「多いが」
「あぁ、好きに使ってくれていいよ。大所帯だし。どうせ他に客はいないし。部屋は廊下をまっすぐ行ったところか、階段を上ったところね」
男性はめんどくさそうに言って、受付に頬杖を着き、陰気なため息を漏らします。
これはもう……経営者がこんなんじゃ、だめですよね。
ライクスさんは何も言わず、鍵を持って歩いていきます。
お兄ちゃん、ユーグさんも対して気にも留めず続きました。ハクギさんは、ちょっと困ったような悲しそうな顔で男性のほうを見てから、やっぱりその後に続きます。
私もそちらに向かいました。
- Re: 勇者パーティーです。【3話更新中ー】 ( No.45 )
- 日時: 2012/12/21 18:41
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
「よほど苦しいんだろうね。大変だなぁ」
「お前言い方が他人事だな。まぁ、他人なんだろうけどよ」
「そうですけど」
「……なぁ、ハクギ。何でこいつらこんなに開き直ってるんだ?」
「いえ、私に聞かれても」
前を歩いていたライクスさんは階段の前で止まります。
「上と下があるが」
「下」
お兄ちゃんが即答しました。続いて、ユーグさんが間延びした声で言います。
「じゃあ俺ら2階なー」
全員不満は無いようです。
ライクスさんは鍵束を軽く持ち上げて見せました。
「どの鍵か2階の部屋のものか分からないが」
「じゃあ、お先にどうぞ」
ライクスさんは軽く頷くと廊下を歩いていきます。お兄ちゃんと私も続きました。
部屋は廊下の突き当たりにある、一番大きな部屋を3人で使うことにしました。魔物が頻出するようですから、何かあったときのために備えないといけませんからね。
……あれ。そうです、この村はこんな被害を受けているのに、何故ここまで魔物に会わなかったんでしょうか。やっぱりそう考えてみると、変ですよねぇ。最初は偶然かとも思いましたが、この村の惨状を見た後でそんな生ぬるい事言ってる気にもなれません。
気になりますが、今は先に鍵を渡しにいかないと。私は鍵束から鍵を探し当てて、残りをユーグさんとハクギさんのところへ持って行きました。
そういえば夕食は出るのかどうか訊いていません。一度受付へと戻りますか。
「ん、おい。どこ行くんだよ?」
「さっきの宿の人のところです。夕飯について訊いて来ます」
「へぇん? 俺も行くかな」
何に興味を持ったのか、ユーグさんは2階に行かずにくるりと方向転換します。
何で付いて来るんでしょう。いえ、嫌ってわけではないんですが、まぁ、この人の傍若無人振りにはちょっと警戒してしまうものがありますよね。
それに気付いたハクギさんが、上りかけていた階段から足を下ろします。
「ユーグ様」
「大丈夫だって。情報収集ー」
ひらひら手を振るユーグさんを見て、ハクギさんは若干不安そうでしたが、それ以上引き止めはしませんでした。また階段を上っていきます。
ユーグさんは後頭部で手を組み、私の前を歩いていきます。だから、その歩き方は危ないですって。まぁ、あの戦い方を見てからじゃ、転ぶ程度なんとも無いんだろうと思いますが。多分それをやられたら私は噴き出します。
と、ユーグさんは斜め後ろ、つまり私のほうをちらりと見て口を開きました。
「ちょっと聞きたいんだが」
「何ですか?」
さて、何を聞かれるんでしょう。言えない場合ははっきりそう言わなければ。
ちょっと身構える私の予想に反し、質問する声はかなり軽かったです。
「魔の色って何のことだ?」
「……あぁ。それですか」
さっきの受付の人の呟きですね。ユーグさんは知らないんですか。
「魔の色って言うのはあれです、つまりは黒です」
「黒? と言うことはあれは、あの神官のことか。……明らかに嫌そうな顔してたよな」
「えぇ、まぁ、多分。黒っていうのは夜の色なので、転じて魔物の色、死の色と言われることがあるんです。ただでさえ、黒髪黒い目の人は珍しいので」
以下、ライクスさんの話より引用。この話をするときもやはり、ライクスさんは淡々としていましたね。
「実際、黒いからって何かあるのか?」
「いえ別に。黒いだけですね」
旅の間、特にライクスさんのせいで何かあったことはありません。むしろ一番知識の豊富なのはライクスさんなので、結構、いえかなり助けられています。
口は悪いですけど。
「ふぅーん。つまりあの神官は、髪と目の色だけで迫害されてるってわけか」
「迫害……というほどのことをされたのかは知りませんが。あんまり話していないので」
「見た目だけで悪いほうに区別されるんならそんなの立派な差別、迫害だろ」
そう……ですね。確かに、そうかもしれません。
一本筋の通ったことを言うユーグさんに、ちょっと驚きます。
受付に戻ると、男性は頬杖を突いて暇そうに壁を眺めていました。なんだか、見ているほうが悲しくなって来る絵面です。
「あのー、すみません」
声をかけると、私たちが近くまで来ていることにも気付いていなかったのか、はっと顔をこちらに向けます。
「あ、あぁ。さっきの子か。君もこのご時世外に出るなんて物好きだね」
「……あははは。そうですね」
もちろんそれなりの理由があるからそうしているのですが。言いませんけど。
受付の男性は沈んだ表情でため息をつきます。
「まったく、不吉な客が来たもんだよ。このご時世にね。最近魔物が多いと思ったらさ……」
まるでライクスさんのせいで魔物が出てきているような言い草です。面白い思考ですね。何を根拠に言っているのか聞いてみたいです。っていうか、連れの目の前で普通そういうこと言いますか?
いろいろ言いたいことが頭に浮かびましたが、結局やめます。どうせ一晩だけの宿ですし、わざわざ険悪な関係を築く必要も無いでしょう。
適当に相槌を打ってかわします。
「村からどんどん人はいなくなってきてるし、そろそろ潮時なんだろうなぁ」
「はぁ」
「どんどんって、引越しでもしてんのか?」
「逃げてるんだよ。こんなところに居たくないってね」
男性の台詞は投げやりです。それには諦めが見て取れます。もうちょっとこう、何かやってみたりしないんでしょうか。あぁ、魔物相手には、適わないと思ってるんでしょうか。
そうかもしれませんけど、でも。
私の育った村がもしこんなに寂れていたら、私なら耐えられません。
ユーグさんはそれに同情するわけでもなく「ふーん」と頷き、質問を重ねます。
「どんな魔物が出るんだ?」
「あぁ……気味の悪い、でかい魚みたいな奴さ。たまにそれを狙ってもっとでかい鷹みたいなのが来るけどね。ここ数日はそれがひどくて……」
思い出したように顔を上げて、男性は付け足します。
「そういえば、近くで盗賊が出たって話も聞いたな。お前らも気をつけなよ」
「盗賊……」
魔物が増殖して世間はそれどころではないと言うのに、下らない事をする人たちもいるんですね。
いえ、こんなときだからこそ活動しているんでしょうけども。よほど腕利きなんでしょうか。
「おい、何でこっちを見る」
「いえなんでも」
とりあえず夕食の事を訊こうと思ったのですが、それより早く男性が口を開いてしまいます。
「まったく。このところ嫌なことばかりだよ。さっきの男の、気味の悪いことといったらさ……」
そこからまたうだうだと、愚痴やら悪口やらを吐きます。だから、何で私たちに言うんでしょうか。
なんだかもう、聞きたいことがあって来たんですけど、出直してきましょうかね。私、人の愚痴を聞くのは苦手なんです。
「ユーグさん。私ちょっと戻ります」
言って、受付に背を向けたのですが。
私の真っ赤のローブのフードを、後ろから掴まれました。
- Re: 勇者パーティーです。【3話更新中ー】 ( No.46 )
- 日時: 2012/12/26 19:22
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
どうでもいいことを思い出しましたが、ユーグさんはこれを派手すぎるとか言ってましたね……。
「待てよ、おい」
「……えっと……。何でしょうか」
ユーグさんの顔を見上げると、わずかに眉間に皺がよっていました。ただでさえ私より背が高く、見下ろされる格好になっているのに、そんな顔されると威圧感が倍増です。
怒ってる?私、何かしましたか?
「お前、こいつに言うことがあるだろうが」
言うこと……。ユーグさんの言葉を聞き、私は一拍あけてパチクリとまばたきします。
確かに、訊くことはありますが。もしかするとユーグさんは、私に気を使っているんでしょうか。それで、わざわざ引き止めて……?
正直、かなり意外です。この人はもっと、周りに人のことを気にしない人だと思っていました。
受付の男性はどうしたのかと私たちの会話を聞いており、今は話が止んでいます。これなら聞けますね。
「えっと。今日の夕飯って出るんですか?」
「ん? あぁ、出るけど——」
「それじゃねぇだろ」
間髪入れず、せっかく教えてくれようとした男性の言葉を、ユーグさんが遮りました。
「……?」
えっと。違うって何のことでしょう。私これ以外にこの人に用はないんですが。
そういう意味を込めてユーグさんを見上げると、今度は呆れたようにため息をつきます。え、え?なんですか。
意図が分からず黙っている私をもう一度見て、ユーグさんはため息交じりに言葉を吐き出しました。
「お前さぁ……。あの神官はお前の仲間なわけだよな?」
「……? まぁ、そうですよ。一応行動を共にしているわけですし」
突然の話題に、思わず首をひねって答えます。この人は、何を当たり前のことを訊いているのでしょうか。今まで一緒にいたんですから、それくらい分かっていて当然のような気がします。それに、それって今関係のある話ですかね?
「じゃあさ、仲間が何か言われててなんとも思わないのか、お前は」
「…………」
話が思いも寄らない方向に転がって、答えようとした口を思わず閉じてしまいました。しかし、心の中では「あぁ、なるほど」と嫌に冷静に言いたいことを理解します。
なるほど、です。どうやらさっきの質問の意味を、微妙に取り違えていたようですね。
でもそれはユーグさんも悪いと思います、と1人で言い訳。
その質問に対する答えは、なんとも、です。……いえ、少なからず思うところはありますが多分ユーグさんの言っていることとは違いますね。
私は愚痴られていることにも、ライクスさんが悪く言われていることにも、確かに腹を立ててはいますが、それはきっとユーグさんが言っている「怒り」とは別物です。
「まぁ、少しはありますけど……」
「だったらけどとか言ってないで、こいつに言うことあんだろうが」
いらいらとした様子で、ユーグさんは言います。他人のために本気で腹を立てているようです。
この人は本当にいい人のようです。私なんかとは違って。まぁ、私が悪人と言うわけでもないんですけれど、この人とは方向性に明らかな違いがあるように感じます。
それは決定的な。
師匠が言っていたことですが、正義の敵は悪ではなく、また別の主張を持つ正義なのだとか。なら正義とはいったい何なのかという話になるんですが今それは関係ありませんね、はい。
「無いです。ありませんよ。私はこれで戻ります」
「あ、おい」
引き止められるのが面倒で、私はさっさと踵を返し歩き始めました。
何か言われているようですが、聞こえない振り、もとい無視です。私はこの話が不毛な結果に終わるであろうことを知っています。
ですがユーグさんはそんなことでは納得しないようで、後ろから追いかけてきました。
追いかけるとは言っても、ユーグさんはそれなりにでかい大人なので、大きな歩幅ですぐ前に回り込まれます。
「おい。置いてくなよ」
ちょっと身構えて、その顔を見上げました。
が、思ったより険しくないその顔を見て、ちょっとほっとします。怒らせてしまったかと思いましたから。
ユーグさんはむしろ不思議そうな、純粋に理解できないと言う顔でこちらを見下ろしてきます。
「お前、仲間の陰口とか言われていいのかよ?」
「良いか悪いかで言えば、よくありませんが」
それは明白。ここまではユーグさんも理解の範疇でしょう。
ですが。
「まぁ、はっきり言ってしまうと、あの人が陰口を言ったせいで、誰かが傷つきますか? あの人が悪口を言ったせいで、誰かが困りますか?」
「……は?」
ちょっと説明してみよう、と思って口を開いたのに、ますます訳の分からないといった表情のユーグさん。まだ言葉が足りませんか。
「つまり、それで一番考えられる被害者はライクスさんですが、きっとあの人は情けとか、怒りとか、軽い気持ちで言っても逆に迷惑がる人だと思うんですよ。あの人は自分の価値くらい自分で引っ繰り返せる人です。それに、黒が悪い色だなんて、偏見にもほどがありますよね。無知はそれが罪ですし罰だと思います」
「…………」
ふう、と軽く息をつきます。そしてちょっと、後悔しました。
何やってるんでしょうかね、私。こんなことをわざわざ他人に言ったのは初めてです。身内には言わなくても分かる、と言うか言う必要が無いという空気がありますから。しかも相手は大人です。私だって15ですからもう大人といって差し支え無いんですが、ちょっと気が引けますね。と言うか自分でも何が言いたいのか分からなくなってきましたし。
ゆっくりユーグさんの反応を伺ってみます。彼は、私の言葉を聴いてたっぷり30秒ほど黙ってから、なぜか右手を上げました。
挙手してます。えっと、今生徒の気持ちなんですか。私そんなに熱弁振るったつもりは無いんですが……。
何を言われるのはひやひやして待っていると、ユーグさんがようやく言葉を発します。
「よく分からん。もう一度頼む」
「もういいです……」
あまり伝わってないようでした。
どころか、まったく伝わってないようでした。
肩透かしを受けた気分です。
「ですよね。相手が悪いですよね……」
「聞こえてるからな。それは俺の頭が悪いと思ってるってことか」
「…………」
「黙るな」
ユーグさんが盛大にため息をついて、八つ当たりのように自分の髪をくしゃくしゃ掻き混ぜました。
うわ、お兄ちゃんもたまにやるんですが、長髪でやるとすごいことに。と、どうでもいいことを考えます。
「まぁ、細かくは分かんねぇが、最初の質問には言いたいことがあるな」
「最初の?」
思わず聞き返します。それはユーグさんの「言いたいこと」にちょっと身構えたからではなく。
……思いついたままに口にしていたので、さっき何を言ったか、もう覚えていないんですが。
首をひねる私の頭に、こつん、と。
軽く拳を落とすユーグさん。
「お前だろーが」
「…………?」
質問の答えが、私?
……ちょっと待ってください、私さっき、何て言いましたっけ?本当に思い出せません。
どうしましょう。ユーグさんに聞いてみますか。でもこの流れでさっき何て言いましたっけなんて聞くのは憚られます。
えぇー。どうしましょう。
そう思っている私をよそに、ユーグさんはもうこの話を終わったと認識したようです。自分で乱した髪を自分で整えながら、さっさと先を歩いていってしまいます。
その背を追いかけるか、追いかけないか迷ってから、結局体の力を抜きました。
別に機嫌を損ねたわけでもないようですし、大丈夫ですよね。多分。
「……まぁ、良いと言うことにしますか」
独り言です。それを尻目に、私も廊下を歩き始めました。
ライクスさんはどうせ部屋から出ないでしょうし、お兄ちゃんはもうとっくに昼を過ぎているにもかかわらず昼寝を敢行していたので、私も部屋でゆっくりさせてもらいます。
その後何事も無く夕食をとり、就寝。
ユーグさん、ハクギとは、特に何事も無く別れることになりそうです。いえ、あったといえばありましたが。
なんだかんだでユーグさんは、横暴ですが性格面ではいい人、というのが私の印象です。ついでに頭も軽そうですが。うちの馬鹿兄といい勝負……いえいえ、それはさすがに失礼ですね。
ハクギさんにはぜひとも「頑張ってください」と声援を送りたいです。ユーグさんも多少は大人しくしたほうがいいと思います。
◆◇◆
誰かに呼ばれたような気がして、いきなり眠りの中から引きずり出されました。
ぼやける視界。ゆれる思考。一瞬待って、ようやく意識が安定します。
部屋は真っ暗。まだ真夜中です。こんな時間に誰かが起きているとは思えません。きっと気のせいでしょう。夢でも見たのかもしれません。
そう思い、眠気に身を預け、もう一度ぬくぬくした眠りに意識を沈めようとしたのですが、その矢先。
「————っ、おい! おい、起きろ! 起きろつってんだろーが!」
耳障りな大声が降って来たため、あっさりと夢の世界は遠ざかりました。
- Re: 勇者パーティーです。【3話更新中ー】 ( No.47 )
- 日時: 2012/12/27 17:48
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
耳障りな大声が降って来たため、あっさりと夢の世界は遠ざかりました。
変わりに、ぼんやりとしていた音、視界、思考が、いきなりくっきりとしたものになります。
「ん、うぅ……何ですかぁ……?」
渋々身を起こして、声の主を探します。が、体はまだ醒めきっていないらしく、酷くだるいです。ゆっくりとしか動きません。
それでようやく見つけた人影は、やっぱりと言うかなんと言うか、お兄ちゃんでした。
「うるさぁい、です……」
「いいから、起きろ! 非常事態! なんか空気が変だ……」
窓から僅かに入ってくる月明かりが、部屋での唯一の光源。それでぼんやりと浮かび上がったお兄ちゃんの姿に、ちょっと違和感を覚えました。
あれ。なんでしょう。
無理やり頭を働かせてみると、そうです。お兄ちゃんが軽鎧を着ているのです。
確かにそれは日中常に身につけていますが、いつもなら寝るときは外しています。野宿のときはさすがにつけていますが。
それに、その片手に持っているのは、どう考えても剣、ですよね……?
「……なんだ、騒々しいぞ」
と。どうやらライクスさんも目が覚めたらしく、かなり不機嫌そうな声が聞こえました。
えっと、ライクスさんのベットはどこに位置でしたっけ。暗くてよく分かりません。
「ライクス! やばい、これは結構多分おそらくやばい」
「落ち着け。やばいのはお前の頭だ」
騒がしいお兄ちゃん。煩い、ですね。寝起きの頭にはきついですよ。そしてライクスさんは安定の口の悪さです。寝ぼけたりしないんでしょうか。
ごそごそ、と衣擦れの音が聞こえます。たぶんライクスさんがベットから出た音ですね。見えませんが。
「順を追って説明しろ。くだらない理由だったらただでは済まさないが」
「や、順を追うほど長い話でもねぇんだけどよ、とにかく空気が変で」
「具体的には」
「んー、なんかすごい危険な奴の匂いがする。結構近く。たぶん村のすぐ外」
お兄ちゃんの勘、ですね。無意識のうちに拾っている音や匂いが、本能的な警鐘を鳴らしているのです。これはなかなか的中率が高いのです。私はそれを身をもって知っています。
ここまで聞いてようやく、目が覚めてきました。私もベットから降りて、近くに立てかけておいた杖を手に取ります。
「数はどれほどだ」
「ん……多い。すげぇうぞうぞいってる感じ。やばいな。グズグズしてらんねぇぞ」
お兄ちゃんの声は珍しく真剣。夕方、異常な雰囲気をまとってわたったユーグさんに向けたものと同じくらいです。どうやら相当やばいらしいですね。
さっきまで寝ていたのに、突然に事態に目が回りそうですよ。寝起きは頭が重いんです。ですがお兄ちゃんの騒々しさによって、無理やり頭が働き始めます。
とりあえず体のほうも目を覚まさせようと、ぐっと伸びをしました。
ライクスさんはこんなときでも冷静に、行動を起こします。
「まず事態を把握しないことには始まらん」
若干早歩きではあるものの、ライクスさんは普段どおりに振る舞い、廊下に出ます。私たちも後に続き、入り口に向かいました。
申し訳程度の月明かりでは、足元がおぼつかきません。壁に手をつきつつ、最大限急ぎながら歩いていると。
前方から突然、足音。
「皆さん、起きていたんですか!」
記憶にはある、けれど馴染みは無い声が、静かだった空間に凛、と響きます。
ハクギさんの声でした。足音が先頭を行くライクスさんのすぐ前で止まり、どこかほっとしたような声音で、言葉が続きます。
「良かった。手間が省けました」
「良かった……?と言うことは、今から呼びに来るところだったのか?」
「ってか、お前今まで外にいたのか?」
ライクスさんとお兄ちゃんが、続けざまに質問します。お兄ちゃんの声は、あからさまに不審がっているようでした。ですがそれも当然でしょう。
今ハクギさんが走ってきたのは、宿屋の入り口のほうです。2階に続く階段は私たちの後方。外にいた、と言う結論を導くのはそう難しくはありません。お兄ちゃんでも分かることです。
夜は魔物が増長しますから、普通は外に出ようなんて思いません。いったい何を……と膨れ上がった疑問は、ハクギさんの緊張した声に遮られます。
「詳しいことは後で話します。今はとにかく、避難してください」
「ひ、避難? ってどこに? いや、何でですか?」
暗闇でよく顔が見えないものの、ハクギさんが切羽詰った顔をしているであろうことは、容易に想像できました。思わず聞き返してしまいますが、頭のなかにあるのは私たちが今起きている理由。
おそらくそれは、お兄ちゃんの言う「危険な奴」と関係があるのでしょう。むしろ、そうなんだろうと、私はほぼ確信しています。
非常事態がいくつも重なって起きるほど、事件のおきる余地は無いと思うんですよね。
「魔物です。何がきっかけになったか分かりませんが、かなりの数の魔物が村のすぐそこまで来ています」
それを聞いた瞬間、すっ、と心臓近くの温度が下がった気がしました。
魔物——、それが村に入ってきでもしたら、完全に此処は終わるでしょう。逃げ出すことは出来ても、守ることは出来ないはずです。
数は力です。それがどんな雑魚でも。いえ、雑魚だからこそより群れるのではないでしょうか。ましてや今は夜です。夜目が利かない人間には不利。ここにいるのは勇者ですが、それでも……。
「数は?」
間髪入れず、ライクスさんが尋ねます。取り乱した様子はありません。その様子に私も、表面上は何とか取り繕いました。いえ、暗闇なので多少顔が崩れても問題ないかもしれませんけどね。ここで気を緩めるのは、駄目です。
「少なく見積もっても20ほど」
「なっ……20!? 何でそんなんが一気に来てんだよ」
「お前は実際に見たのか」
「えぇ。川の方です」
何でそんなところにいたのか、と言う問いは今、意味を成さないでしょう。問題は。
「他の村人はどうしている?」
「何人かは起こして、避難してもらっています。これを幸いといっていいのか分かりませんが、もともと村人の数が少ないので、急げば被害を抑えることが出来るかと」
- Re: 勇者パーティーです。【3話更新中ー】 ( No.48 )
- 日時: 2013/01/07 19:21
- 名前: 桃弥 ◆TylvI6wUQw (ID: sdLb5.Z4)
誠に勝手ながら一旦この小説の更新をお休みさせていただきます。
いろいろと書き直したいところもあるので、再開するときはまた一から書き始めるかもしれません。
その時はまたおつき合いください。
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