コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

お前なんか大嫌い!!
日時: 2017/01/29 23:27
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs

「何でお前はいつもいつも邪魔ばかりしてくるんだよ!!」

「うるせぇ! テメェの方が邪魔をしているんだろうが!!」

「「お前なんか大嫌いだ、この野郎!!」」


 この物語は、
 世界の平和を守るために立ち上がった単純馬鹿のヒーローと。
 地獄の秩序を守るために立ち上がった俺様で我がまま死神の。

 超おバカな――アンチヒーロー小説である。


***** ***** *****

 こんにちこんばんおはようございます。また会いましたね、山下愁です。
 この作品は『アンチヒーロー小説』とのたまっていますが、実際にはただのギャグです。満載のギャグです。少しの青春も入っていますが、大体は馬鹿です。宣言できます。
 さて、クリックしてくださった心優しき読者様へ、この小説を読むにあたってのルールがございます。
 守ってくださるとうれしいです。


1 コメントは大歓迎です。
2 荒らし・誹謗中傷・パクリはお断りします。
3 これ別館行きじゃね? と思う方もいるでしょう。大丈夫です。これはここでいいんです。
4 山下愁が嫌い! な方はUターンを推奨します。
5 同じく神作が読みたいという方もUターンを推奨します。全力で。
6 こちらの小説はできるだけ毎週木曜日更新となっています。土日もある場合がございますが、要は亀更新です。


 以上を守って楽しく小説を読みましょう!
 ではでは。皆様の心に残るような小説を書けるように、山下は全力を尽くします。

お客様!! ↓
粉雪百合様 棗様 碧様 甘月様 甘味様 亜美様 noeru様 日向様 ドロボウにゃんにゃん様 猫又様 狐様
人差し指様 なつき様 モンブラン博士様 蒼様 立花桜様 彩様


目次

キャラ紹介>>01 >>03
プロローグ>>02

第1話『ヒーローの定義』
>>4 >>5 >>10 >>13 >>14 >>18 >>19 >>20 >>23 >>24
第2話『死神の定義』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>32 >>37 >>38 >>39 >>42 >>45
第3話『姫君の定義』
>>46 >>47 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第4話『合宿の定義』
>>56 >>59 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>71
第5話『劇薬の定義』
>>78 >>80 >>82 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91
第6話『幽霊の定義』
>>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104
第7話『処刑の定義』
>>105 >>107 >>109 >>111


テコ入れ>>112 >>113 >>114


第7話『処刑の定義』
>>117 >>118 >>120 >>125 >>126 >>127 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134
第8話『恋愛の定義』
>>135-155
第9話『家出の定義』
>>156-188
第10話『捜索の定義』
>>189-198
最終話『終幕の定義』
>>199-210

エピローグ
>>211

あとがき
>>212



番外編
・ひーろーちゃんねる


キャラクターに30の質問
・椎名昴>>74

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Re: お前なんか大嫌い!! ( No.203 )
日時: 2017/01/05 12:08
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs

 どこまでもどこまでも、深淵が続いている。
 だいぶ深いところまで落ちたところで、誰かが昴を呼びかけた。

「君の友達だよ」

 ――友達なんていたっけ。
 はて、と昴は思う。
 黒い髪に色鮮やかな紫色の双眼。優しげな笑顔に見覚えがあるのだが、どうしても名前が思い出せない。包み込むように昴の名前を呼んでくれる、彼の名前を。

「お前にゃ借りがあらァ」

 ――借りって一体なんのこと?
 昴は首を傾げる。
 透き通るような銀色の髪に、蒼穹を彷彿とさせる碧眼。高級人形のような顔立ちとは裏腹に、ガサツで男のような口調に聞き覚えがある。なのに名前が思い出せない。からかうように昴の名前を呼ぶ、彼女の名前を。

「ウチのこと、助けてくれたよね」

 ――助けた記憶なんてあったかなぁ?
 昴は疑問に思う。
 青空に溶け込んでしまいそうなほどに鮮やかな青い髪を持つ、狂ったように笑う少女。ケタケタと狂人のような笑い声に、昴は覚えがある。なのに、どうしても名前だけが思い出せない。楽しそうに昴の名前を呼ぶ、彼女の名前を。

「――いいか。貴様は、この俺様に殺されるのだ」

 ――何故殺されなきゃいけないんだ?
 最後に浮かんだ少年の顔を見た途端、焼けつくような怒りを感じた。
 艶のある黒い髪に、紅蓮の炎の如き赤い双眸。少女のような顔立ちをしているにもかかわらず、接する態度は王様のよう。聞いているだけでイライラするその偉そうな口調に、昴は覚えがある。覚えがあるのに、名前だけが思い出せない。忌々しげにスバルの名前を呼ぶ、少年の名前が。
 どこまでも深い闇の中に堕ちていく昴にはもう、誰の名前も思い出せない。次々と記憶が消えていく中で、最後の一人が昴をすくい上げる。


「君には為さなければならないことがあるはずだ。
 だからこんなところで死んでいられないだろう。
 人類を救うんだろう?
 人々の笑顔を守るのだろう?
 こんなところで立ち止まっていてはいけない。
 君には最大にして最高の宿敵がいるじゃないか」


 ――宿敵? そんなのいたっけ?
 問いかける昴に膨大な記憶の波が押し寄せてくる。いい記憶ではない、悪い記憶ばかりだ。

「このクソヒーロー、何故俺様の邪魔ばかりするのだ」
「死ね。二回ぐらい死ね。――いや前言撤回しよう。殺してやる。二度ほど殺してやる」
「貴様は存外馬鹿なのだな。ああ、すまない。脳味噌まで筋肉だから考えつかなかったか、この間抜けめ」
「いつか人類はこの俺様が征服してやるのだ。野望の為にな!!」
「何故朝から貴様の間抜け面を見なければならないのか」
「流れ星よ、どうかこのクソヒーローの頭に落ちてこい!!」
「――お前なんて大嫌いだッ!!」

 聞いているだけで苛立ちがフツフツと込み上げてくる。どうしてここまで罵詈雑言が並べ立てられるのだろうか。
 傷つく傷つかない云々より先に、ムカついてきた。怒りが増幅し、昴の許容量を突破する。この罵詈雑言を並べ立てた相手に、一言文句を言わなければ気が済まない。いや、もうぶん殴ろう。ぶん殴れば多少は気が晴れるかもしれない。
 それこそ本当に、宇宙の彼方までだ。無料で宇宙旅行に連れて行ってやろう。さぞ見ものだ。

「ああ、クソが。俺だってなぁッ!!!!」

 深淵を掴んで、力任せにブン投げる。
 起きた先にいるだろう、大嫌いな宿敵へ向かって叫んだ。

「――――お前なんて、大嫌いだッッッ!!!!!!!!」




 ゴボッ!! と気泡が緑色の液体の中に生まれる。瞳を開くと、昴はガラスケースの中に収納されているようだった。
 口には酸素マスクがつけられている為、呼吸はできる。ヘルメットや背中からはいくつもの配線が伸び、それらがガラスケースの蓋に繋がっていた。訳が分からない。
 両手足は枷によって戒められているが、なんてことはない普通の枷だ。昴の怪力でもってすれば、いとも容易く引きちぎれるだろう。面倒なのでしなかったが。
 昴は拳を振り上げると、渾身の力でガラスケースを殴った。ビシッとひびが入る。一度で壊れないガラスケースなど初めてだ。
 今度は蹴飛ばしてみる。バリンッ!! とガラスケースは割れて、緑色の液体と共に昴は外へ放り出される。ヘルメットと背中から生えた配線を引きちぎり、濡れた茶色の髪を掻き上げる。
 ヘッドフォンはないのに、不思議と音が聞こえていた。いや、もうこの際どうでもいい。早くあの怨敵をぶん殴らなければ。

「ンなろぉ。よっくもボロクソ言ってくれやがって!!」

 舌打ちをした昴は濡れた手術衣など気にも留めず、どこかを目指して部屋を飛び出した。


***** ***** *****


 本日で何人目かの椎名昴を黒焦げにして、翔は疲れたようにため息を吐いた。
 押し寄せてくる椎名昴の大群は、徐々に数を減らしてきてはいるがまだたくさんいる。もう数えるのも面倒になってきた。

「クッソー、これいつまで続くんだよ!!」

 ユフィーリアが椎名昴の首を刎ね飛ばしながら悪態を垂れた。最前線で戦い続けている彼女の疲労は、翔でも計り知れないほどだ。さすが最強の処刑人。
 グローリアも時たま椎名昴の動きを止めてはどこかへ転移させているが、それも無駄に終わっている。全てこのホールに戻ってきてしまうのだ。

「もう狙うのめんどくさい!! なんで狙撃銃なんだろう!! 機関銃とか使えないの何でだろう!!」
「黙れ、山本雫。気が散る」
「ウチだけかーい!!」

 あっははははは!! といつものように狂った笑いを上げる雫。宇宙人とは変人ばかりか。
 相も変わらずいやらしい笑みを浮かべた男は、高みの見物を決めている。翔はまず先にあの男を狙うべきかと考えたが、それよりも先に椎名昴が襲いかかってくるのだから行動に起こせない。

「クソ、これでは自滅するぞ!!」
「オイ、翔!! 戦略的撤退も考えておいた方がいいぞ!!」

 ユフィーリアの言葉に、翔はそれしかないと判断した。ここはひとまず引いて、体制を立て直すしかないだろう。
 その時だ。
 ドゴンバガンッ!! という轟音が聞こえてきて、椎名昴が溢れている扉が――何故か吹き飛んだ。

「「「「!?」」」」

 これ以上なにかいるのか、と四人は身構えた。
 扉を破壊して現れたのは、同じ椎名昴である。茶色の髪、ヘッドフォンはしていない、手術でもするかのような薄い布切れ一枚を纏った少年。ただしその全身は、まるで雨にでも打たれたかのように濡れている。

『ああ、最高のできである個体がようやく蘇った』

 男の恍惚とした台詞に、四人の顔から血の気が引く。
 椎名昴が人造人間タナトスの状態に戻っているのだとしたら、とんでもなくやばい。この集団を相手にするより遥かにまずい。
 全身を濡らした椎名昴は、自分自身をポイポイと無造作に投げ飛ばしながら迷わず翔のもとまで歩み寄ってくる。
 それから。
 言った。


「お前のせいで気分が悪いんだどうしてくれんだこの女顔死神ィィィィイイイ!!!!」


 握りしめた拳で殴りかかってきた。
 慌てて回避したが、翔はその罵詈雑言に聞き覚えがあった。間違いない、ヒーローだ。正真正銘の。
 帰ってきた最大の宿敵に笑みを送った翔は、お返しに罵倒をプレゼントする。

「貴様のせいで苦労させられたのだ覚悟しろクソヒーロー!!!!」

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.204 )
日時: 2017/01/06 12:01
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs

「寝起きにお前の罵詈雑言で起こされるとか、どんだけ胸糞悪い目覚ましだよ!! 死んで詫びろ、俺に!!」
「ふざけるな。貴様に詫びたところで、俺様に何の得もないだろう。むしろここまで迎えにきてやったことに感謝してほしいぐらいだ」
「ハァァ!? お前に感謝するぐらいなら野良猫に土下座して感謝した方がまだましだわ!!」

 昴の拳が炸裂し、翔の火炎が空を横切る。ドガンバカンヒュンヒュンブワッキラーンッ!! と訳の分からないカオスな戦場と化していた。
 ユフィーリアと雫、グローリアはせめてもの巻き込まれないようにと白いホールの隅に縮こまっているだけだった。
 訳も分からず巻き込まれた椎名昴の軍隊は、昴自身にぶん殴られて壁と衝突したり天井に頭から突っ込んだり、翔に燃やされたり、燃やされたりと着々と人数を減らされていった。なんだか全力で可哀想である。
 周囲の椎名昴が人数を減らしていっていることにも気づかず、昴と翔の馬鹿二人は激しい喧嘩を続けている。

「大体なぁ!! 何で助けになんだ!? 別に病院にきただけだっつーのに、何をそんなに心配してんだお前は!?」
「俺様にではなくグローリアに言え!! 玄関先で脅されてここまで引きずられてきたって言うのに、感謝の『か』の字もないではないか!! あとここを病院だと勘違いする馬鹿は貴様しかいない!!」
「どっからどう見たって闇医者の病院だろ!? 保険証持ってねえもん俺、仕方ねえじゃん!!」
「国民健康保険に入れ!!」
「高いから嫌だ!!」

 互いに最後の一撃と称して昴は拳を突き出し、翔は炎の鎌を薙ぐ。そして二人は一時的に距離を取った。
 肩で息をしながら、昴と翔はようやく気付く。
 周囲の人数が、何故か減っているということを。
 ぐるりと辺りを見回してみると、椎名昴の軍隊が壁や天井にめり込み、消し炭になっていたりしていた。惨憺たる状況に、昴が悲鳴を上げる。

「きゃぁぁぁああああああああああ!?!! 俺!? 俺!? どうなってんの俺ェ!?」
「なんだ貴様、随分と語彙力が低下したな」
「ッせーな女顔死神。余計なことを言ってんじゃねえよ殺すぞ!? そうじゃねえよ、何で俺が俺でおれおれおれ――あれ、俺ってなんだっけ?」
「やはり馬鹿だ」

 すでに俺のゲシュタルト崩壊を起こして混乱している昴へ、翔が一発ぶん殴った。死神の力は昴ほど強くないので、前のめりになる程度で被害は収まった。
 全てを唖然と見ていた白衣の男は、震える声で言う。

『な、なんということだ……全員、倒されてしまった……』
「あ、先生だ」

 昴は呆然とした様子の白衣の男へ手を振った。

「なんかガラスケースの中で寝てたら本当に治ったわ!! ありがとー、診療代っていくらですかー!?」
「貴様、殺されかけたというのに能天気な奴だな」
「ハ? 俺が? 殺される? お前が殺せねえのに?」

 余計な一言を言ったおかげで、昴の頬を火球が掠めた。翔が言っていたことは事実で、昴は記憶を消し飛ばされそうになったのだが、翔のおかげで生きながらえたことを昴は知らない。
 震えていた白衣の男は、目頭を吊り上げるとマイクへ向かって怒声を叩きつけた。そのおかげでハウリングが起こった。

『今に見てろ、貴様らなんぞこの手でつぶしてやる。タナトスなどなくても、私にはその力があるのだ!!』
「なあ、あいつ何言ってんの?」
「さあ?」

 昴と翔が揃って首を傾げると同時に、地震が襲ってきた。
 震度七を彷彿とさせる地震だ。これはまずいと判断した五人は、慌てて研究施設から飛び出す。昴など全身を濡らしたまま、そして裸足のままだったのだが、構うことなく外へ出た。
 しかし、地震が起きているのは研究施設付近だけで、他は何故か揺れていなかった。

「一体、何が」
「オイ、あれを見ろ!!」

 ユフィーリアの声に、全員の視線が研究施設へ集中する。
 突如として研究施設が二つに割れ、中から巨大な何かが頭を出した。
 鋭い眼球。爬虫類のような口。ゴツゴツした岩肌のような皮膚。そうそれは――。

「ゴ〇ラ?」
「恐竜か」

 世にも恐ろしい怪獣だった。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.205 )
日時: 2017/01/09 22:28
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs

 どんよりとした曇り空のはずが、いつの間にか怪しげな暗雲が立ち込める。ゴロゴロピシャーンッ!! と雷まで落ちた。
 二つに割れた研究施設を押しのけて、恐ろしい怪獣が第一歩を踏み出した。そんじょそこらの木の幹よりも太い足が地面に叩きつけられると、ズズンッと地震が発生した。逃げたはずの五人の体が少しだけ宙に浮いた。
 爬虫類のような口からぞろりと覗く純白の歯、そしてその向こうにある喉が赤く輝く。――炎でも吐くのだろうか。

「……なんか色々とまずくね?」

 ぽかんと怪獣を見上げていた昴は、ポツリと呟いた。
 この研究施設は、いくら白鷺市の端にあるとはいえ、この怪獣が二歩以上進めば民家にぶち当たる。そこに住んでいる人は一体どうなる。潰されて死ぬではないか。手軽なミンチの完成である。
 それだけはなんとしてでも避けるべきだ。昴は転がっていた小石を拾い上げて、野球選手よろしく大きく振りかぶった。

「とんでけェェェェッッ!!」

 第三宇宙速度で放たれた石ころは、小さな隕石となって怪獣の頭へ襲いかかる。
 しかし、ギロリと鋭い双眼で小型隕石を睨みつけた怪獣は、飛んでくる隕石の方へ炎を吐き出した。灼熱の炎が石ころを押し戻し、さらに昴へと襲いかからんとする。
 まさか押し戻されるとは思っていなかった昴は、予想だにしない展開にしばし唖然としていた。

「昴、ボーッとしちゃダメだよ!!」
「アッツゥ!! 殺す気か!?」

 昴の前に黒と銀がよぎる。
 同時に、ピタリと炎が止まり、押し戻されて滞空していた石ころと紅蓮の炎が切断される。グローリアとユフィーリアだ。完璧な二人の攻撃である。
 我に返った昴は、次の瞬間グローリアに首根っこを掴まれて引きずられていた。とりあえず退却するようだ。
 にしてもこの退却の仕方はないだろう。危うく死にかけた。

***** ***** *****

 行くあてもなく白鷺市を走りながら、五人は口々に叫ぶ。

「追いかけてきてねえ!? 追いかけてきてねえか大丈夫かあれ!?」
「時間は止めてるから大丈夫だけど、時間を解いたら追いかけてくるかも!! それまでに白鷺市の人を避難させておかないと!!」
「避難誘導は悠太にやらせるとして、問題は奴をどうやって片づけるかだ」
「人間相手なら攻撃が通りそうだけど、さすがに皮膚が硬そうだぜあっはっはっはっは!!」
「し、死ぬ……苦しい……」

 若干一名だけ三途の川を眺めている状態なのだが、そんなことも気にせず五人(うち一名は死にかけ)は逃げ回る。
 走る馬鹿五人の横を通り過ぎる通行人は、なにごとだろうかと首を傾げるばかりだ。ここからでは怪獣が見えないのだろうか。そんな馬鹿な。

「ぐろー、りあ、そろそろ、放せ……」
「あ、ごめん」

 キキッ!! と急停止をしたグローリアは、軽い調子で謝りながらパッと昴の襟首を掴んでいた手を離す。
 重力に従って落下した昴は、コンクリートと後頭部を衝突させることとなった。ゴシャッと音がした。痛かった。

「とにかく今はあの怪獣をなんとかせねばなるまい。――一応悠太に連絡する、他は対策を考えろ」

 紅蓮の鎌を担いだ翔は、鎌へ向かって話しかけ始めた。はた目から見るとおかしな人である。

「あの怪獣はぶった切れるもんかァ? いや、アタシに斬れねえもんはねえけどよ」
『わあすごい。怪獣を斬ったなんてなったら空さんすごく有名になるね。勇者の剣だね!!』
「怪獣を倒した勇者として祀られるかな。月に帰ったら褒めてくれるかな」

 女性陣は女性陣で、なんとものんきなものである。ユフィーリアの手に握られている大太刀の空華は、見当違いなことを考えている。お前はどこまで行っても大太刀のままだ。
 昴はヘッドフォンをしなくても音が聞こえていることに気づき、「そういえば補聴器ねえわ」などと呟いていた。どうりで頭が軽い訳だ。

「まあ、やれるだけはやるしかないよね。だって守らなきゃ死んじゃうんだから」
「だよなァ。処刑人の仕事が増えるのは勘弁してほしいぜ」
「銃弾が通ればいいんだけどな」
「フン。この俺様に燃やせんものなどない。――消し炭にしてくれる、ヒーローと一緒にな」
「第三宇宙速度で月までご招待だ。いやその前に火星か。――死神と一緒に飛ばしてやるぜ」

 ズズン、という音を聞いた。
 いつの間にか周囲には人がいなくなっていた。
 遠くの方で「翔様、無理はなさらず!!」とか「ぎゃははははモノホンの怪獣だ!!」とか「あれにチョークスリーパーかけてもいい!?」とか「昴ハン、頑張ッテー」とか「死んだら解剖させてね!!」とかなんかもうカオスな声援も聞こえてきた。

「悪いけど、君に負けるつもりは毛頭ないから」

 時計が埋め込まれた鎌を構えて、グローリアが言う。

「ハハハッ!! お前はアタシをどこまで楽しませてくれんだァオイ!?」

 狂気じみた笑みを浮かべて、ユフィーリアが叫ぶ。

「生き狂わせてやんぜェ覚悟しろ!!」

 藍色の瞳に真剣な光を宿して、雫が宣言する。

「さあ死ね怪獣よ。貴様が存在する世代ではない」

 灼熱の炎を吹き出す大鎌を担ぎ、翔が吐き捨てる。

「ヒーロー舐めんな、すぐに倒してやっからな!!」

 近くにあった街灯を引っこ抜き、昴が怒鳴る。
 そして五人で口を揃えて。
 お決まりのあの台詞を。


「「「「「お前なんか――大嫌いだッッ!!!!」」」」」

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.206 )
日時: 2017/01/12 11:45
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs

 ズズン、という地響きのあとにヌッと町へ姿を現した怪獣めがけて、昴は引っこ抜いた街灯を槍投げよろしく投げつける。
 ゴッ!! と空気を裂いて飛んでいった街灯は、怪獣の顔面と見事衝突を果たした。ガシャッ!! という破壊音。破片が飛び散り、鉄製の土台は簡単にひしゃげてしまう。怪獣の顔面と熱烈な接吻を果たした街灯は、無残な姿となって道路に転がることとなった。
 一見すると効いていないようにも見えるが、どうやら破片が目に入ったらしい怪獣は、ぎゃあぎゃあと喚きながら暴れる。蜥蜴のように長い尻尾が暴れ狂い、家屋や店舗を倒壊させていく。

「まったく、そんなに暴れないでよね!!」

 懐中時計が埋め込まれた鎌を掲げたグローリアが、高らかに唱える。

「適用『時間静止』!!」

 すると、暴れ狂っていた怪獣が途端に動きを止めた。時間を操る彼だからこそできる芸当である。
 その隙を見逃さなかったユフィーリアが、即座に反応する。大太刀の空華を構えると、一直線に怪獣へと突っ込んでいく。

「ハハハハッ!! 呆気ねえ終わりだったなァ!!」

 ユフィーリアの切断術があれば、呆気なく――本当に呆気なく怪獣の命が潰える。これで終わりだ。誰もが勝利を確信した。
 だが。
 突き進むユフィーリアの前に、立ち塞がる相手が一人。茶色の髪に虚ろな黒い瞳、入院患者が着るような薄い服一枚に裸足の少年――椎名昴だ。ヒーローではないから、おそらく研究施設から飛び出してきたタナトスの一人か。
 拳を握りしめた椎名昴は、ユフィーリアへ向かって突き出す。慌ててブレーキをかけたユフィーリアは、突き出された拳を半身を捻って避けた。

「嘘でしょ、まだいるの!?」
「ドッペルゲンガー!!」
「ヒーロー、あれは貴様の兄弟だろう。一体何人兄弟なのだ、貴様は」
「俺は生まれてからずっと一人っ子ですゥ!! 多分きっとそう、でも違うよな!? 世界に似てる人は三人ぐらいいるって言うけど、あれは絶対にドッペルゲンガーだって!!」

 俺死んだらどうしよう!? などと、もはやどうでもいいことを気にしだすヒーロー・昴。きっと馬鹿なのだろう。
 すると、ぞろぞろと怪獣の脇から椎名昴の大群が押し寄せてきた。こうも同じ顔ばかりいると気持ちが悪くなってくる。恐ろしい。

「ひええええ!! グローリア、あれやっぱり俺だよな!? 俺のドッペルゲンガー!?」
「説明するの面倒だからあとでいいかな」
「すげえ見放され方された!?」

 友人と宣っていたグローリアから見放され、昴は驚愕した。こいつが説明を面倒くさがることってあるのか。
 とにかく相手も一筋縄ではいかせてくれないようである。巨大怪獣に椎名昴の大群、全くあの研究施設にいた草臥れた医者のような男は嫌な敵である。本当に大嫌いだ。
 ユフィーリアは目標を変更し、椎名昴の大群から片付けることにしたようだ。バッサバッサと容赦なく大群を切り伏せて、首のない屍の平原を作っていく。グローリアもユフィーリアの援護に入り、じりじりと距離を詰めてくる大群の時間を止めたりしていた。

「……結局は、俺様たちがあの怪獣の相手をせなばならんという訳か。全く、損な役回りだ」
「本当にな。しかもお前とかよ」

 隣同士に並んだ昴と翔は、互いを鋭い目つきで睨み合う。いつもならばここで口喧嘩が始まるのだが、今回だけはそういう雰囲気はない。

「二人とも、援護射撃はしてあげるから怪獣の相手はシクヨロ」
「「分かってる」」

 銀色の狙撃銃を構えてまだ壊れていない店の屋上を陣取った雫に、二人は揃って返事をした。
 ユフィーリアとグローリアの二人は椎名昴の大群と交戦中、雫は屋根の上を陣取って昴と翔の援護射撃を行う為に準備をしている。
 怪獣と対峙する昴と翔は、お互いを見ずに言う。

「俺様は貴様が嫌いだ、クソヒーロー。常に俺の邪魔ばかりをするし、馬鹿で阿呆で間抜けでお人よしでお節介焼きで鬱陶しい貴様など反吐が出る」
「奇遇だなクソ死神。俺もお前が大嫌いだ。俺様で我儘で傲岸不遜で傍若無人で人を人とも思わないようなお前なんて、見ただけでぶん殴りたくなってくる」

 口喧嘩が起きてもおかしくはない罵倒の応酬。それでも二人は胸倉を掴み合わない。
 喧嘩よりも、やるべきことが目の前にあるのだ。


「協力するのはこれきりだ、椎名昴」
「せいぜい足を引っ張るなよ、東翔」


 どちらからともなく突き出された拳を叩きつけ、世界最大級に仲の悪い二人が手を組んだ。

***** ***** *****

 マンホールの蓋をフリスビーよろしくブン投げた昴は、そこら辺にあるものを次々と怪獣めがけて投擲していく。
 第三宇宙速度で投げられるマンホールその他の間を縫うようにして、翔が怪獣へ接近。炎が噴き出す鎌を振り上げ、怪獣へと叩きつけた。

「焼け焦げろ!!」

 翔の怒りが滲んだ声。その声を体現するかのように、火柱が上がる。
 空を焦がさんばかりに高く上がった火柱に怪獣が包まれるが、怪獣は体を包み込んでいた火柱を引き裂いてケロッとしている。なんと頑丈な肌なのか。

「なッ――」

 焦げ目のついていない頑丈な肌に驚愕する翔。
 怪獣は目ざとく翔の姿を見つけると、大きく開いた口から炎を吐き出した。
 が、炎を吐く口に自動販売機が突っ込まれて栓をされる。怪獣がもごもごと呻いた。

「椎名昴、さすがだ!!」
「お前の為にやったんじゃねえよ!!」

 ツンデレにも受け取れる台詞を、渾身の顰め面で吐き捨てた昴は地面を蹴飛ばした。
 空を舞う昴。怪獣の頭突きが振り下ろされようとしたが、背後から飛んできた雫の弾丸が眉間に突き刺さり、怪獣のくぐもった悲鳴が蒼穹に轟く。
 翔も昴を追いかけて飛んでいた。鎌を振り上げ、怪獣を狙う。


「「消し飛べェェェェェェェェェェェッェェェェェェエエエエエエ!!!!」」


 二つの怒号と共に放たれた拳と鎌の攻撃。昴のアッパーカットと翔のスイングが怪獣の顎に炸裂し、空の彼方へと吹き飛ばした。
 ちなみにこの時、人工衛星の一つが怪獣と衝突して破壊されたらしい。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.207 )
日時: 2017/01/12 23:20
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o
参照: http://From iPad@

こんばんは! 失礼しますm(*_ _)m

まずは最初に……小説大会の金賞おめでとうございます!!!
金賞のところに、山下愁さんの名前があってすごい嬉しくなりました!!←

私の拙いではとても足りないくらいの語彙力……日本語の力で言うのはとても伝わりづらいとは思いますが、ここまで思いっ切りな台詞などが多いのに、安定さを感じられる作品は無いな、と思っています!

もちろん本当にいい意味で、です!!
ちょくちょくとお邪魔させて頂いている者ですが、なかなか読むのが遅くてあまり読めていないのですがこれからも本当に応援しています!

頑張ってください!
本当におめでとうございました!

それでは夜分に失礼しました。

byてるてる522

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.208 )
日時: 2017/01/13 03:48
名前: 彩

山下様、金賞受賞おめでとうございます!

応援していた作品なので自分のことのように嬉しいです。

あまりコメントもできなくて申し訳ないのですが、ずっと追いかけてますよ!もちろん投票もしました!

もうすぐ終わっちゃうのは寂しいですけど、ラストまで応援してます。

新作があるかなーと期待してみたり……でもご無理はなさらないでくださいね。

もし出していただけるのでしたらそちらも全力で追いかけますね!(あれ、これってストーカー?)

とにかく、体調を崩さないように更新頑張って下さいね。なんなら一年でも待ちますよ((

おめでとうございました、では!


Re: お前なんか大嫌い!! ( No.209 )
日時: 2017/01/15 17:36
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs

てるてる522様>>


久々にお客様だわーい、と思っていたらまさかカキコでよく見かけるお名前でした……。
思わず二度見、三度見してしまったことを土下座で謝らせてください。そして土下座で歓迎します、こんな駄作を閲覧いただきまして誠にありがとうございます。

誤字脱字が多く、梃入れをしてしまった為に路線変更を余儀なくされ、よもや着地点はどこにすればいいのかという本当によく分からないアンチヒーローギャグ小説ですが、ようこそいらっしゃいました。
唯一最初から最後まで変わらないというのが、主人公たち二人の口喧嘩ですかね。罵り合いが酷くなっていってる気がする。

そしてまさかこんなクソみたいな小説が金賞を取れるとは思いもよらず……なんかもう、こんな小説を読んでくださった全ての皆様には足を向けて寝られません。
もうじきこの小説は終わりますが、それでも最後までしっかり書かせていただきたいと思っています。
今度はこちらから小説の方にお邪魔させてもらおうかなって思っています。

このたびはありがとうございました。



彩様>>

お久しぶりでございます。そしてありがとうございます。
今回の小説大賞の欄を見て、思わず画面の前で固まってしまいました。まさかそんな、と思いました。

閲覧してくれているだけでも、私の励みとなります。たびたびスランプを引き起こし、筆が止まることもありましたが、金賞を取れたのも読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
もうすぐこの(馬鹿)小説も終わってしまいますが、最後まで頑張らせていただきます。

ちなみにこの馬鹿ヒーローと馬鹿死神の喧嘩が織りなす『お前なんか大嫌い』は終わりますが、ヒーローと死神の登場する大長編をもう一本執筆予定です。

コメントありがとうございました。五体投地で感謝いたします。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.210 )
日時: 2017/01/16 12:08
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs

 昴と翔が恐ろしい怪獣を無料で宇宙旅行にご招待してしまったので、白鷺市に降りかかろうとしていた脅威は去った。ユフィーリアとグローリアも奮闘し、椎名昴の大群を退けた。これで研究施設からの刺客はいなくなった。

「あれ、そういえば昴。ヘッドフォンはどうしたの?」
「ん? そういえば頭が異様に軽いと思ったら――」

 グローリアに指摘されて、昴は自分の頭に触れてみる。湿った頭には何も乗せられていなくて、それなのに音はしっかりと聞こえている。あのヘッドフォンは補聴器代わりになっていたはずなのに。
 まあ、なくても聞こえるようになったことはいいことだが、心配なのであとで研究施設まで取りに行くかと決める。今度はすぐに帰ろう。パッと行って、パッと帰ろう。
 すると、背後の方で「……あぁ……」という絶望に満ちた声が聞こえてきた。振り向いた先には、四つん這いになって絶望している白衣の男の姿があった。

「……私の傑作たちが……こんな簡単にやられて……」

 椎名昴の大群――タナトスの集団も、あの怪獣も、全てこの白衣の男がやったことらしい。
 翔とユフィーリアが、「処刑するか」「首をすっ飛ばすしかねえな」と話し合っているところを制止して、昴が一人で白衣の男に歩み寄る。
 ブツブツと訳の分からないことを呟いている白衣の男を見下ろした昴は、努めて優しい声で告げる。

「風邪を治してくれたことには感謝してる。でも、人類を滅ぼそうとするのはさすがに許せない」

 だから、と昴は四つん這いになっている白衣の男と視線を合わせた。昴の視線と男の視線がかち合ったところで。
 昴はデコピンの用意をする。
 あの怪獣を吹き飛ばすほどの怪力を発揮した昴のデコピンなど、威力は想像に容易い。

「そいやっ」

 ボグッ!! と聞こえてはいけない――いや、もはやデコピンの音ではない音が男の額から聞こえてきた。頭蓋骨が叩き割られなかっただけまだましだろう。
 デコピン一発で脳震盪を起こした男は、うつ伏せの状態でコンクリートの地面に倒れ伏す。グローリアに脈拍を確認してもらい、翔に生きていることを確認してもらってから、昴は男の両足を掴んだ。

「このままちょっと市内一周してくるわ」
「市中引き回しの刑をこんな雑な方法でやるなど、やはり貴様は馬鹿なのか……」

 ため息を吐く翔に構うことなく、昴は男を引きずりながら白鷺市の町を残像が見える速度で走った。
 終わったあと、男の後頭部を確認すると見事につるっぱげになっていた。髪の毛は摩擦熱で燃えて、抜け落ちてしまったようだった。合掌。


***** ***** *****


 男の話に出てきた『誑かされた一人の研究員』というのが、橘理人だったようだ。常にパソコンでエロ動画を見ているしかやっていないのかと思いきや、彼は彼で昴がいない間に昴自身の体調をモニタリングしていたようである。
 研究施設からヘッドフォンを無事に強奪した昴は、ヘアバンドのように装着する。髪の毛が半分乾いた状態なので、なんかこう落ち着かない。

「ブフッ、昴の髪の毛が大人しい」
「笑うな雫。不本意だ、不本意」

 ていうか大人しいとは一体どういう意味なのだろうか。彼女に問い質したのだが、残念ながら笑いの渦に飲み込まれてしまった雫は、腹を抱えて地面の上にのたうち回っている。ビクンビクン、と痙攣ているところを見ると、命の危機を感じてしまう。
 ゲタゲタと下品に笑う雫を止めたのは――いや、気絶させたのはユフィーリアだった。「うるせえ」という辛辣な一言と共に、雫の腹を踏みつぶして気絶させる。死んだかと思った。

「昴、昴。元気になったんなら下剤飲んでくれるよね!? 新しい下剤を開発したから、実験台になってほしいな!!」
「嬉々とした目で見てこないでくれるかな小豆ちゃん!! 完治して三日でトイレの世話になりたくない!!」

 えー、と不満そうに唇を尖らせる小豆は今度隣人へ下剤を仕込むように指示をしよう。特に死神の方に。
 ふと昴は、珍しく大人しい翔の方へと視線をやる。
 町を修復しているグローリアと一緒になって、人の誘導と記憶の操作を行っていた翔は、昴の視線に気づいたようでこちらを睨みつけてきた。視線は物語っている、「貴様のせいで後始末を任されることになったのだぞこのクソヒーロー」と。
 いつもならぶん殴って然るべき相手だが、今回ばかりは事情が違う。昴を助けてくれたのだ。

「……ありがとな、翔」

 翔に対して礼を言った昴に、翔の反応は。

「気持ち悪い。俺様の名前を気安く呼ぶな、このクソヒーロー」

 …………せっかく昴から歩み寄ったというのに、これでは台無しである。全てぶち壊しだ。
 昴は土塊をつまみ上げると、翔にスタスタと近づいて目元の辺りで爆散させる。粉塵が目に入ったのか、翔は悲鳴を上げて膝から崩れた。

「貴様ァッ!! 命の恩人に対してなんたる行動だ!!」
「返せ!! 俺の素直な感謝の気持ちを今すぐ耳を揃えて返せェ!!」
「金銭ではないから返せんわボケェ!! 目が、目がァァ!! 失明したら貴様のせいだからなァァァ!!」
「目から炎を噴出させておいて何言ってんだお前!? 愉快なびっくり人間になってんぞ!!」

 夕焼け色に染まりつつある蒼穹に、今日も今日とてヒーローと死神の激しい舌戦が響き渡るのだった。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.211 )
日時: 2017/02/18 06:56
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs

エピローグ



「チェンジでェェェェェェェェェェェェェェェェェエ!!!!」
「それができたら苦労しねえわボケェェェェエエエエ!!!!」

 人の波も落ち着いた昼下がり。
 狭く、閑散としたコンビニの店内に、二つの怒号が響き渡った。
 レジ台を挟んで互いに胸倉を掴みあい、メンチを切り合う二人の少年。片方は茶髪で厳めしいヘッドフォンを装着し、もう片方は黒髪でニット帽をかぶり、銃刀法違反など「何それ食えるの?」とでも言わんばかりに死神が持つような鎌を携えている。
 唾が相手の顔面に飛ぶことも厭わず、ぎゃあぎゃあと口汚く互いに罵る。

「毎回毎回!! 何で!! 俺が!! バイト入ってる時に!! 限ってくるんだお前はァァァァァア!!」
「知るか!! 俺様とて貴様以外の店員に接客してもらった覚えなどないぞ!! 貴様は俺様に恨みでもあるのかァァァ!!」
「あるに決まってんだろボケ死ね今すぐ死ねセメントの中に頭突っ込んで死ねェェェ!!」
「何だと貴様今すぐ豆腐の角に頭をぶつけて死ね地獄へ送ってやるぞォォォ!!」

 どういう原理だろうか、レジ台がみしみしめきめきと嫌な音を奏でていた。レジ台の上に放置されていた板チョコとコンビニスイーツが完全に忘れ去られて、なんだか哀愁が漂っている。早く会計をしてくれ、とでも言っているようだ。
 しかしこの二人はお互いのことを心の底から嫌っているので、もう買い物もそっちのけで喧嘩をしているのだが。どのぐらい嫌っているのかというと、お互いに死んでほしいむしろ殺してやるというぐらい。
 二人が喧嘩している光景はもはや見慣れたものなのか、店長らしき女性はあらあらうふふとぽやんと微笑みながら、商品の品出しを行っていた。なんだか母親のような温かい視線である。

「糖尿病予備軍の死神様は今日も危機感がないお買い物ですなァァァ!!」
「どういう意味だコラァ!! 糖尿病とは何だ一体!!」
「お前本気で言ってんのか!? 生活習慣病の一つも知らねえだと!?」
「病なのか!? 俺様は病だったのか!?!! 死神だから風邪も引かなければ怪我もしないと思っていたのだが、俺様は……クソ、自分で気づけずこのクソヒーローに指摘されたのが悔しい……ッ!!」
「すでにお前は『馬鹿』っていう風邪を引いてんじゃねえのかなァ!!」

 ここでいつもなら殴り合いの大乱闘に入るのだが、今日はそう行かなかった。
 喧嘩をしている死神の背後に行列ができていた、という理由ではない。それが理由だったら、隣のレジで暇そうにしている店長がどうにかしてくれると思う。品出しは終わったのか知らないが、ほわほわと来客を待っていた。
 何故喧嘩が中断されたのかというと。

「か、金を出せェェェェェェェェ!!!!」

 二人の怒号に負けない絶叫が、店内に轟いた。
 レジ台を挟んで睨みあっていた二人の舌戦が、途端にピタリと止まる。ぐりん、と自動ドアへと揃って視線を投げた。
 サングラスにニット帽、おまけに輝くナイフ。引きずってきているのはボストンバックだ。どこからどう見てもコンビニ強盗である。
 店長は悲鳴を上げる訳でもなく、ただニコニコと「いらっしゃいませー」と出迎えていた。応対したのは今まで喧嘩をしていたこの二人だった。
 
「「表出ろ強盗が」」

 茶髪の少年は、棚に置いてあったカラーボールをコンビニ強盗へ向かって投擲する。普通に投げ放たれたカラーボールだが、その速度が凄まじかった。第三宇宙速度で投げ飛ばされたボールは強盗の頬を掠めて外へ飛び出し、大気圏の彼方へ消えた。
 黒髪の少年は、携えていた鎌から炎を生み出した。幻影とかではなく、本物。ごうごうと燃え盛る炎を弾丸のように丸め、同じく強盗へ向かって投擲する。第三宇宙速度とまではいかなかったが、強盗の反対側の頬を掠めた火球は外へ飛び出し、爆発した。
 へなへなとその場に座り込んだ強盗へ向かって茶髪の少年は拳を構え、黒髪の少年は鎌を握りしめた。
 強盗が今まさに二人の少年の手によってぶち殺されようとした次の瞬間のこと。
 ビカッ、とコンビニの外で眩い光が発生した。

「……え、何?」
「む?」

 二人して戦意喪失をしたコンビニ強盗を引きずり出しつつ、店の外へと出る。
 晴れ渡った蒼穹にふわふわと漂う巨大な円盤。漫画でよく見る未確認飛行物体そのものだ。少し感動してしまったのは言うまでもない。

『地球人諸君へ告ぐ。我々は地球を征服しにきた宇宙人である』

 オープン回線で朗々と告げられるその言葉に、円盤を見上げていた二人が反応した。

「ふざけんなよ。そんなのヒーローの俺が黙って見過ごすとでも思ってんのか!!」

 茶髪の少年――ヒーローの椎名昴は、足元に落ちていた小石を拾い上げる。

「人類を征服するのはこの俺様だ。地球を征服するなど許せん!!」

 黒髪の少年――死神の東翔は、身の丈を超すほどの大鎌を掲げた。
 そして二人して、敵である宇宙人に向かって。
 お決まりの台詞を叩きつける。


「「お前なんか――――大嫌いだァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアッッッッ!!!!」」






 END

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.212 )
日時: 2017/01/29 23:35
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs

長らく続いたお前なんか大嫌いも、ついに終わりを迎えることができました。


さて、こんばんは。
筆者の山下愁です。
拙作『お前なんか大嫌い』を閲覧いただきまして、誠にありがとうございます。

おそらく高校の時から書き始めたのではないのでしょうか。長いものですね。
この小説は山下愁が珍しく、三人称視点で書いたものです。一人称は一切入っておりません。完璧にラノベをベースにして書いております。
カキコでよく一人称視点で小説を書いてました。今では逆に一人称視点で小説が書けなくなっています。ていうか昔の小説を読み直すと本当に顔から火が出そうですわ。恥ずかしくて。

そんなことは置いといて。
この小説ではたくさんのドラマがありました。
主なドラマはそうですね、最後の最後で小説大会の金賞を受賞させていただいたことでしょうか。あれは本当に嬉しかったです。
長い間、お付き合いしていただいた読者の皆様には足を向けて寝られませんね。本当にありがとうございました。この場を借りて感謝を捧げます。

最後に。
この小説を最後まで閲覧してくださった皆様。
オリキャラを投稿してくださった皆様。
常に主人公が喧嘩をしているような仲の悪い馬鹿みたいな小説にお付き合いしていただきまして、誠に、誠にありがとうございました。
山下愁の次回作もどうか閲覧してくださいますよう、よろしくお願いいたします。

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