コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ベイユニ★ヲタクラブ
- 日時: 2013/06/15 14:20
- 名前: N海 (ID: aeLeTDX9)
第0話「それは謎のクラブ」
時は、2015年、春。
東京湾に、人工的につくられた、大きな島が浮かんでいる。
その島は、大きな国立大学を建てるために、日本政府によって作られた島だ。
「学園都市」ならぬ、「学園島」だ。
大学の名は、「ベイユニバーシティ」。 日本の大学にしては洒落た名前だ。
設立されたのは、2000年だった。
日本中から、多くの人が集まるであろう東京湾を、改革していこうと思った政府が
1990年に『tokyo bay project』という計画を立て、
国家予算の5分の1の経費をかけて、この大学を作ったのだ。
さらに2006年には、付属高校が空きスペースに建てられた。
これにより、生徒数も大幅に多くなった。
この大学には、全部で5つの学部がある。
文学部、法学部、経済学部、理学部、そして医学部だ。
どの学部も、偏差値は70以上だ。
いくつかの大手予備校では、この大学のための専門講座がたくさん開かれている。
それだけ、レベルは高い学校なのだ。
さて、前置きはこのくらいにしておこう。
この大学は、サークルが多いことでも有名である。
一部のサークルは、高校と合同で行っている。
中でも、ボートレースサークルや、ウェイクボード愛好会などが、東京湾にある学園だけあって、人気だ。
他にも、美術サークル、テニスサークル、吹奏楽団や、さらにはオカルト研究会など、
数えきれないほどのサークルが、存在している。
・・・でも、本当にそれだけなのだろうか。
実は、この大学には、
隠されたサークルが1つある。
そのサークルは、学園内の都市伝説にもなっている。
活動場所は、島の中にあるらしいが、
やること、部員などは、
本当に、何も、わかっていないのだ。
ただ、部の方針、そしてサークル名だけは、
なぜだかわかっている。
「とにかく何でもやっちゃいましょう——ヲタクラブ」
この「ヲタクラブ」は、毎年春になると、
新入生「1人」を、「誘拐」という形で
無理やり入部させるだとか。
その新入生は、たいていの場合は高校生らしい。
しかし、今年は違うようだ・・・。
今日は、ベイユニバーシティの入学式だ。
たった今、式が終わったところである。
ホールから、背の高い、1人の少年が、出てきた。
皺ひとつない、グレーのスーツに、チェックの入ったネクタイをしめている。
黒い髪の毛は、とてもサラサラしていて、風に靡いている。
顔立ちも悪くはない。
「——ねぇねぇ、あの人イケメンじゃない?」
「——わぁホント! ああいう人いいなぁ」
彼に向かって、あちこちから、こんな声が聞こえてくる。
それを気にも留めず、彼は歩き続けている。
——彼の名は、武藤飛鳥(むとう あすか)。
1996年6月7日生まれ、O型。 身長は179cmある。
彼は、今年からこの大学の文学部に入るのだ。
「小説家」という、将来の夢をかなえるためだ。
勿論、サークルも、「文芸サークル」に入ろうとしていた。
彼は「ヲタクラブ」のことも、高校のときから知っていた。
「そんなクラブ、もしあっても、俺は部員にはなんねぇよ。
俺はベイユニ付属の高校じゃないからな」
などという会話を、同じ塾の友達としたりしていた。
しかし、悲劇(?)は起こった・・・
長い式を終えた彼は、喉が乾いていた。
「はぁ・・・ずっと座ってて疲れたな。 ジュース飲みたい」
彼は、近くの青い自販機のところに走っていった。
そして、『100% すっきり!オレンジジュース』のボタンを押そうとした——
そのときだった。
「今だ!!!」
謎の大声を聞いた飛鳥は、反射的に後ろを向いた。
「い、いったい何が・・・・」
と思う暇もなかった。
突然、2人の黒ずくめの人に、強い力で取り押さえられた。
相手の性別が、男なのか女なのかはわからない。
「わぁーーーーっ!!!!
何するんだお前らぁーーーー!!!」
飛鳥は大きな袋に閉じ込められた。
黒づくめの2人は、「誘拐、完了」とだけ言い、
暴れる袋を一緒に持って、
「侵入禁止」と書かれてある柵の向こうへと、静かに歩いて行った。
2人の声は低かった。だから、多分男だろう。
「おいっ!!出せっ!!出せよっ!!」
最初はずっと叫んでいたが、あまりに大きな声を出し過ぎ、
とうとう彼は疲れてしまって、揺れる袋の中で眠ってしまった。
彼は、この時は、考えもしなかった。
まさか、自分が「ヲタクラブ」の部員に、なってしまうなんて、と。
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- ベイユニ★ヲタクラブ ( No.1 )
- 日時: 2013/06/15 14:48
- 名前: N海 (ID: aeLeTDX9)
第1話「何で俺が!?」
——目を覚ますと、暗い部屋の中にいた。
俺は、悪い夢でも見ているのだろうか・・・・
そう思いながら、頬を抓った。
「・・・・うっ、痛っ」
どうやらこれは現実らしい。
とりあえず起きて何かしようと思ったが、駄目だった。
飛鳥は夜盲症なのだ。
目の前の物は、何も見えない。
「・・・かぁさん、俺・・・」
飛鳥は怖くなった。
このまま、この部屋に拷問されてしまうのではないか・・・。
ふと、飛鳥は、袋に入れられるときのことを思い出した。
(そういえば・・・
あいつら・・・『誘拐、完了』とか言ってたな・・・
・・・んっ!? 待てよ、『誘拐』だと!?
確か、「謎のサークル」って、そういう形で部員を増やすんだったな・・・。
俺の聞き間違いじゃなければ、もしや、ここは、謎の・・・)
その瞬間、突然電気がついた。
「わっ眩しい!!」
飛鳥は顔に手を当てながら、声を漏らした。
「こらお前、こんくらいで騒ぐんじゃねぇぞ!!」
目の前には、腰に手を当てた、1人の少年がいた。
そいつは少し長めの茶髪で黒ぶち眼鏡をかけていた。
グレーのパーカーをまくっており、Yシャツに紫のネクタイを締めている。
ズボンはダボダボのジーパンで、こちらもパーカーと同様、まくられている。ところどころ破けている。
ポケットのあたりのチェーンが、動く度にジャラジャラと音を立てている。
左腕には「wo」と書かれたリストバンドが、右腕には腕時計がされている。
左利きなのだろうか。
そして何より、そいつは身長が非常に低かった。
飛鳥には、150cm前後に見えた。
「き、君誰だよ!?」
飛鳥がパニック状態になりながら、尋ねる。
「ああ、オレ?
オレは、佐野郁未(さの いくみ)っちゅうんだ。
一応理学部だ。
ちなみに誕生日は10月3日、血液型はAだ」
そいつは冷静に答えた。 まだ顔はムッとしている。
「誕生日と血液型はいいよ!
あのさぁ・・・・、言いづらいんだけど・・」
「何さ。言ってみろよ」
「・・・もしかして、ここ、
『ヲタクラブ』の部室なのか!?
なぁ、教えてくれよ!!
えっと・・・郁未くん!」
「呼び捨てでいいよ、『郁未』で!
・・・・お前、正解だよ。
ここは、『ヲタクラブ』さ。」
「ええぇっっ!!! そんなぁっ!!!!」
飛鳥はますます怖くなってきた。
この、郁未という奴に、これから何をされるのか・・・。
「うっ、ううっ・・・」
飛鳥の額は、汗でいっぱいだった。
彼は座った状態で、後ずさりをした。
それにつれて、郁未も近づいてくる。
「お前、男のくせに、臆病モンだなぁ」
郁未が鋭い目つきで、こっちを見てくる。
飛鳥は震えながら、部屋中を見渡した。
部屋の中は、正直言って、少し汚かった。
棚にはアニメのDVDやCD、漫画本、ラノベ、そして様々なゲームハードとソフトがあった。
壁にはポスターが大量に掛かっていた。
有名バンドのメンバーのポスターや、アニメキャラのポスターなど、いっぱいだ。
部屋の中央には、ローテーブルがあり、その上にはたくさんのお菓子や
カップヌードルなどが食い散らかされていた。
その正面に、小型デジタルテレビと、パソコン、シンセサイザーなど置いてあった。
(—まさにここは『ヲタクラブ』だな・・・)
そう考えながら、後ずさりを続けていた彼は、
後ろの壁に背中を思い切りぶつけてしまった。
「わぁっ!!」
「だから騒ぐんじゃねぇって、さっきから言ってるだろ!! この野郎!!」
郁未がまた怒鳴った。
その時、郁未の後ろの廊下から、女の子2人の声が聞こえてきた。
「せんぱーいっ。何か大きな音が響いてきましたーっ。」
「どうしたんですか?大丈夫ですかー。」
郁未は声の方向へ振り向いた。
「あっ、珠絵莉、るか。
この新入部員が、困ったことにさっきから
騒ぎまくってんだよ」
さっきまで泣きそうな表情だった飛鳥は、ちょっとだけ、安心した。
(今の子たち、声からして良い子そうだな・・・。)
しかしやっぱり不安もあった。
郁未が怖いのもあったが、
勝手に「新入部員」呼ばわりされている・・・・。
今は、抜け出せそうにもない状態だ。
(あ゛あ゛あ゛ッッ!!!
俺は、俺は、どうしたらいいんだよーっ!!!)
- ベイユニ★ヲタクラブ ( No.2 )
- 日時: 2013/06/17 08:38
- 名前: N海 (ID: aeLeTDX9)
困惑し始めた飛鳥の前に、2人の少女があらわれた。
彼女たちは制服のようなものを着用している。
紫色のブレザーとスカートに、リボン結びした赤いスカーフを着用している。
どうやら2人は高校生のようだ。
「あ、さっき私たちが誘拐した、新入部員さん!!」
「お、お前たちが、俺を!?」
「はい、そうですよ♪」
「でも、声が低かったじゃないか!!」
「あ、あれはヘリウムガスを使ったので!」
飛鳥のさっきまでの安心が、恐怖に変わった。
(・・・やっぱり、可愛い顔してるけど、こいつらも危ないぞ・・・
どうしよう、1対3なんて・・・・)
彼が落ち着かないまま、左に立っていた少女が自己紹介をはじめた。
「始めまして! 私は枝元珠絵莉(えだもと じゅえり)といいます。
一応、力には自信ありますよ♪ 高校3年生です。
ちなみに、3月4日生まれ、A型です!」
「・・・・あぁ、よろしく。
(何でこいつも誕生日と血液型言うんだよ・・・)」
次に右の少女も自己紹介しだした。
「あたし、待田るか(まちだ るか)です。 高2です。
あたしも体力テストは学年の女子一位の成績なので、力は結構あると思います。
12月28日生まれ、B型です。」
「・・・・うん、お前も、よろしく。
(だから、何故、誕生日と血液型を!?)」
今の飛鳥には、「よろしく」という言葉しか口から出せなくなっていた。
もしここで黙ったり、「怖いよ・・」なんて言ったら、
絶対に、郁未に、殺される。
パニくっているのだ、彼は。
ふと、郁未の方を見た。
まだ睨んでいる。
しかし、さっきの睨みとは、違うようだ。
その目は、「お前も自己紹介しろ!」と訴えているようだった。
それが本当かどうかはわからなかったが、一呼吸置いて、飛鳥は話し始めた。
「——俺は、飛鳥。 武藤飛鳥。
身長高いのが、一応自慢だよ。
・・・6月7日生まれの、O型だ。」
皆につられて、自分も、誕生日と血液型を言ってしまった。
いや、つられてというか、郁未の目を見て、これは言わなきゃいけないと無意識に思ったのだ。
「へぇっ。おめぇ、アスカっていうのか?」
「ああ、そうだよ」
「結構派手な名前だなぁ。
オレ、てっきり『ヨワシ』だと思ったわwww」
「はぁ!? そんなわけねぇだろよ!!・・・・」
この時飛鳥ははっとした。
郁未に、暴言を吐いてしまった。
しまった。 いけない。 やばい・・・。
いや、ちょっと待て・・・・
それ以前の問題・・・・
俺、さっきから・・・・
郁未に、タメ口きいてる・・・・。
あいつ、チビだけど・・・・。
枝元や待田よりも身長低いけど・・・・。
あの態度からして・・・・。
もし郁未が、先輩だったら・・・・。
「ひぃっ!!! ごめんなさいっ佐野様!!
ごめんさないっ佐野様!!」
飛鳥は急に土下座をして、何回も何回も、郁未に謝り続けた。
「・・・お前。 どうしたのかよ。
急に敬語になっちゃって。 大丈夫か?」
郁未の喋り方が何故だか優しくなっている。
それも気にせず飛鳥は続けた。
「だっ、だだだ、だって、佐野様・・・・・
今日スーツも制服も、着ていませんよね・・・・」
「あったりまえだろ。」
「わぁーーーーーっやっぱりっ!!
佐野様の学年は大2か大3か大4ですよね!!!???
新入生なのに、タメで話してしまって、申し訳ありませーんっ!!!!!!」
飛鳥の目からは既に大粒の涙が流れ落ちていた。
昔から彼は臆病者だから、仕方がないのだ。
「・・・何勝手に言ってんだよ。 オレは大1だよ。 1996年生まれだ。 お前と同じ。」
郁未が静かに言った。
「・・・え、ほんと・・・・」
飛鳥が郁未の方に目を向けた。
さっきまでの涙のほとんどが、突然ひっこんだようだ。
「・・・・でも、何で、私服を・・・?」
飛鳥がこう言いかけたとき、るかが答えた。
「そういえば飛鳥先輩、知りませんでしたね。
郁未先輩は、ベイハイ卒業なんです。」
「・・・ベイハイって、付属高校のことかい?」
「はい、ベイハイスクール。
この学園、大学からの外進生が多いんですよ。
内進生と合わせて式をやると、ホールがパンパンになっちゃいます。
だから内進生の先輩たちは、入学式を既にやっています。 昨日に。」
「・・・今日は、高校生と、大学からの外進生の入学式だったわけか」
「そうですよ。 だから郁未先輩は私服で、あたしと珠絵莉先輩、制服着てるんです。
ベイハイ生が制服着るのは、式典の日だけでいいんです。
普段は皆私服ですよ。」
「は、ははぁ・・・・。」
るかの長い話を聞き終えた飛鳥は、樹絵莉の方を見た。
「なぁ、枝元。 『ヲタクラブ』って、大学生じゃなくて、
高校生を誘拐するんじゃないのか?
俺が知ってる噂ではそうなんだが・・・」
珠絵莉は明るく答えた。
「はいっ! そうなんですよ〜。
私も、高校1年生のとき、自販機前で誘拐されたんです♪
あの自販機、90%の利用者は高校生ですよ!
だって、高校校舎がめちゃくちゃ近いからです!
それで、いつもは高校生が誘拐されていたんです。
だから、貴方みたいな大学生の誘拐は初めてなんですよ♪」
「そうなのか・・・。 お前ら、自販機前で待ち構えているのか・・・毎年この時期は。」
横から、るかと郁未が
「はい」「そうだ」と続けた。
(そうか・・・こいつらもかつては、俺と同じような目に合ったのか・・・)
- ベイユニ★ヲタクラブ ( No.3 )
- 日時: 2013/07/04 14:53
- 名前: N海 (ID: aeLeTDX9)
部室に静寂が走った後、いきなり郁未が叫んだ。
「よし、じゃあ武藤ヨワシ!!
今日はこれでおしまいだ!!
明日から、3日に1回、ヲタクラブに寄ってこい!!」
飛鳥は動揺した。
「だから俺は『飛鳥』だよ!!
そして、ここの新入部員になるの、マジなのかよ!!
俺、文芸サークルに入りたかったんだけど!!」
そこへ、珠絵莉が入ってきた。
「あ、言い忘れてましたけど、ヲタクラブは他のサークルとの兼部OKです♪
だから、文芸サークルに入っちゃってもいいです。
実際、私も軽音楽部と兼部してます。
るかちゃんは陸上部、郁未先輩はゲームクリエイトサークルに入っているんですよ♪」
これをきいた飛鳥は、一言呟いた。
「よかった・・・・」
飛鳥は妙な安心感に包まれた。
みんな、ちゃんと表のサークルにも入っていたんだ・・・。
「ただ、3日に1回は来ないと、部長に叱られますよ」
るかが右手の人差し指で飛鳥を指差しながら言った。
「そうなのか・・・・あれ?
そういえばこの部の部長って、誰?
今、大2〜4の人がいないと思うんだけど」
飛鳥が尋ねた。
「あ、部長? 今年からオレだよ」
すぐ答えたのは郁未だった。
「で、でも、大学1年生だろ!?
先輩たちは、どうしたんだ!!」
「ああ、先輩ね、みんな事情があって部長できないんだよ」
「事情って!?」
「まず、4年生の渡辺杏菜(わたなべ あんな)先輩は、医学部なんだ。
4年生から『どうしても来れない』って言われちゃって・・・」
(医学部、大変だな・・・)
「そして、3年生のピエール・アダムス先輩。アメリカ人だ。
文学部の留学制度で、今イタリア文学を学びに、ヨーロッパへ行っているのさ」
(日本に住んでるアメリカ人が、ヨーロッパへ留学・・・なんか複雑だな)
「最後に、2年生の服部咲弥(はっとり さくや)先輩。 理学部だ。
・・・服部先輩の事情が、一番悲惨なんだよな・・・・
服部先輩、1年生ラストのパーティで、テンションMAXになっちゃったらしくて、
帰り道で転んで骨折してしまって・・・・
これが複雑骨折だったんだよ。
今、入院中なんだ。 全治半年だって」
「ははぁ・・・。 でも退院したら、その先輩が部長になるんだろ?」
「・・・いや。
先輩に言われちゃったんだよ。
『お前には部長の素質があるから、僕が退院しても、ピエール先輩が
帰ってくるまでは、部長やってよ』って。
やになっちゃうぜ」
「それじゃ、ピエール先輩に、帰国後の部長を頼んだらいいじゃないか!」
「頼んだ。 でもピエール先輩も言った。
『イクーミ。 ボクニ ブチョウ ナンテ デキマセーン!
アナタガ ズット ヤッテクダサ〜イ』って。」
「・・・それで、お前が『名誉部長』ってわけだな」
「ははっ。 そういうことさ、飛鳥」
——飛鳥・・・・。
はじめて、本当の名前で呼んでくれた・・・
飛鳥はちょっと嬉しかった。
郁未も微笑んでいる。
そういえば今こいつ、初めて笑ったような気が・・。
郁未、意外といい奴なのかもしれない。
飛鳥は微笑み返した。
———でも、だ。
さっきから、どうしても気になっていることが、一つだけある。
ちょっと躊躇った。
でも飛鳥は勇気を出した。
今のこいつなら——
「あの・・・郁未」
「何だよ。 また質問か?」
笑顔でこっちを見る郁未。
飛鳥は普通っぽく質問してみた。
「・・・身長、何センチ?」
そう尋ねた瞬間、
飛鳥は確かに感じていた。
部室内の空気が、突然冷えたことを。
時間が止まったようだった。
「・・・・」 さっきまで明るかった珠絵莉が、黙りだした。
「・・・・」 物静かなるかは、もっと静かになってしまった。
「・・・あれ、これいけないこと、だった?」
頭を掻きながら、飛鳥は郁未の方を見た。
とたんに、飛鳥の身の毛がよだった。
郁未の顔からは、怒りMAXな様子が伺えた。
両方の手をグーにしている。
彼の頭から、まるで炎でも出ているようだった。
その炎を色で例えるならば、鮮やかな赤であろう・・・。
「オレの身長に、一切口出しすんじゃねぇよ このブタめがっ!!!!」
次の瞬間。
郁未が飛鳥の顔面を、勢いよく殴ってきた。
拳の力は、ハンパなく強かった。
「わぁーーーーッ!!!!!」
飛鳥は絶叫するしかなかった。
そして、ついには目を回して倒れてしまった。
(やっぱり郁未、こえーよ・・・。)
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