コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 中途半端な俺と君は永遠に
- 日時: 2013/08/09 22:23
- 名前: 明衣 (ID: J7xzQP5I)
◇登場人物◇
榊原 怜 sakakibara rei
永瀬 紫乃 nagase sino
東海林 太郎 syouzi taro
星島 美沙希 hosizima misaki
長井 実紅 nagai miku
◇目次◇
◇プロローグ◇
————君に出会ったことで俺の人生は確実に変わった。
————愛とは何かを考える日が来るなんて思ってもいなかったさ。
————君に会ってから毎日の明暗が予想しない方向へ動き出したの。
————私は自分がこの世界に光を見いだすなんて思ってもいなかったのよ。
————この日々が永遠に続きますように。
————ずっと、ずっと。
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- Re: 中途半端な俺と君は永遠に ( No.1 )
- 日時: 2013/08/17 18:09
- 名前: 明衣 (ID: cm34dabg)
・第一章・ 【出会った少女は可愛かったという話】
Ⅰ.境ノ宮高等学校
入学式にはぴったりの、あるのどかな晴れた日。
この街の特徴である風が気持ち良く吹いていた。
今日、四月七日は境ノ宮高等学校の入学式。
海と山の境の街にあるからそんな名前が付いたとか。
新品のきれいな汚れ一つ無い制服を着た新入生が、緊張気味に校門を通って校舎内に入る。
今年の一年生のリボン、ネクタイは紺のチェック柄。
二年が深緑で、三年が黒のかかった紅色だ。
「怜ー!」
紺色のネクタイ、つまり一年生の男子生徒がある新入生の一人を呼んだ。
「太郎か。何だよ」
呼んだ方が東海林太郎。返事をしたのが榊原怜。
小学生の頃からの親友だ。怜曰く、腐れ縁。
「クラス分け表見たか?」
茶色っけの混じった癖っ毛を揺らしながら、にやっと笑って太郎が訊く。
「見てないけど。つーか当たり前だろ。ここまだ校舎外だし」
一年生のクラス分け表が張ってあるのは正面玄関だ。
「おれらまた一緒だったぜ。あ、それと」
「それと?」
意味ありげに言った太郎に怜は訪ねる。
「試験のときに話題になった可愛い子覚えてる?」
「ああ」
二月の試験の日、女子にスタイルの良いの可愛い子がいると噂になった。二人は実際会っていないが。
「同じクラスだぜ!彼女いないおれ達に神様が送って来てくれたかな〜」
夢見心地に太郎は話す。が、怜はどうでも良いと、跳ね飛ばして太郎にクラスを訊いた。
「D組だよ。二階だから楽だぜ、階段上る時間少ないから」
半分無視をして歩き出す。その間も太郎は話し続けた。
(良く回る舌だな)
長い間付き合って来て、印象も初めとは大分変わったが、その事だけは変わらない。
「でな、その子は噂に寄るとハーフなんだと。……おーい、怜、聞いてるか?」
「聞いてない」
「聞いてんじゃん」
(バレたか)
怜は別に聞いていた、というよりも、太郎の声が大きくて聞かされていたのだ。
一年D組。一年間過ごす予定の教室に着いた。
太郎がガラッと音を立てて開けると、数人の生徒が到着していた。
その中の女子何人かが、示し合わせたように声を上げる。
「怜君と太郎君じゃん!」
「うわっ」
「うっ……」
そして、二人とも嫌なオーラをただよせる女子に微妙な気分を感じていた。
「おい、やばくねーか?」
太郎がこっそり怜に耳打ちする。二人の額には冷や汗が浮かんで来た。
「誰?実紅の友達?」
実紅と呼ばれたの女子のそばに居た男子一人が、女子に訊いた。
「勇ちゃんごめん!」
「ええっ?」
突然頭を下げた実紅に、勇ちゃん、は驚きを通り超した表情を見せる。
誰なのか訪ねたらいきなり謝られる、このようなおかしな状況だったら当たり前の光景だ。
「あたし、勇ちゃんと別れる!」
「はい?」
何故、こんな話題に転じてしまったのかクラスに居た一同、目を丸くする。
もちろん、怜も、太郎も。二人には嫌な予感が耐えなかったが。
「じゃあ、そういうことで」
「いや、そういうことでって言われても意味不明なんだけど!」
必死のもがきも気の強い実紅には通用せず、あっさりスルーされた。
「この人は、福田勇生。中学校のときに知り合ったの」
そして、簡単な自己紹介を始める。
「で、勇ちゃんの訊いて来たこの人達は、榊原怜君と東海林太郎君。小学校一緒だった」
三人は勝手に紹介をされ、一応挨拶をした。実紅は後ろの女子を振り向いて、
「日向子と麻理は小学校一緒だったから知ってるよねー」
と、声をかける。日向子と麻理、二人も数分前に声を上げた数人に入る。
まあ、つまり、この三人が怜と太郎を知っていた事になる。
「よーし!怜君か太郎君を落とす作戦再開よ!!」
嫌な予感が当たった、と怜と太郎は瞬時に思った。
納得しない、というか、納得しようがない勇生は実紅に説明を求めた。
すると、実紅はポジティブに話し出す。
実紅は小学生の頃、顔はまあまあで、勉強がそこそこでき、スポーツ万能の二人に惚れていた。
けれども実らぬ恋で中学校も別れてしまい、勇生と付き合っていた。
「ってことで、よろしくー♪」
明るく軽く言った実紅の周りには暗い空気が流れた。
(長井。あいつは面倒だ。どうにかしないとな)
入学式の無駄に長い校長の話を聞いてるとき、怜は思う。
小学生の時はいろいろと大変だった。
と、そのとき、出席番号が前後で隣だった太郎がこそっと囁く。
「なあ、噂の美少女いないな」
残念そうな顔をし、ため息まじりに言った太郎に、怜は意外な気分だった。
「太郎は、あってもいない人に惚れてたのか?」
ちょっと声が大きくなり、やばいと感じた怜だったが、気付いたのは担任の緒方先生だけだった。
そこに、怜が安心した瞬間を見てたかのようなタイミングで、体育館の戸がそっと開いた。
いくらそっと開けたしても、校則をぐだぐだと言い続ける校長の声しか音の無い体育館には、ぎいっという遠慮がちな音でも良く響いた。
- Re: 中途半端な俺と君は永遠に ( No.2 )
- 日時: 2013/08/17 18:21
- 名前: 明衣 (ID: cm34dabg)
そして、今日新たに境ノ宮高校の一員となる生徒で到着していなかった人物が姿を現した。
噂の美少女。誰もが直感する事であり、真実だった。
ほとんどの男子が、その容姿に魅了された。
腰まで伸びる長い髪は金髪で、太陽の日を浴び輝いている。長いまつげに彩られた瞳は蒼。
一瞬外国人と間違えそうになるが、瞳の凛々しさは日本人らしく光っていた。
身長は結構高く、足もすらっとしていて長い。
そして、彼女の中で一番男子の目を奪うのは形の整った、美しい顔。
美少女とはこういうものかと、女子にあまり興味を持たない怜でさえ思った。
少女は静かに緒方の元へ向かい、初日早々遅刻した事を詫びた。
彼女が入って来てからの体育館は決して静かではなかった。
男子のささやき声のせいでもあったが、それに対する女子の目も恐ろしく光っている。
(女子の視線が……)
怜は微妙な顔をして時が過ぎるのを待った。
教室に戻ると担任になった緒方雅美が簡単に自己紹介をし、生徒にバトンタッチする。
あ〜か行が初めの名字の人達が終わると、さ行に移った。
「七星中出身の榊原怜。よろしく」
「東海林太郎。同じく七星中出身で彼女募集中!よろしくー!」
彼女募集中はやばかったかな、と実紅の方をちらっと見たのが分かった。
案の定にこにこ笑っている。それから、七、八人の自己紹介が終わると実紅の番だ。
「長井実紅!郷が矢中出身です。よろしくねっ!」
意外とあっさり終わって何故かほっとする怜と太郎。
次に立ったのは、実紅の後ろの席の金髪少女。
彼女の自己紹介だ。大半の男子が待っていた時間とも言える。
「永瀬紫乃。フィノン学園出身。よろしく」
透き通ったような美声。
クラス中の生徒達がため息を漏らす程容姿と繋がった。
「なあ、ヒィノン学園って何処?」
太郎が唐突に訊く。
皆、太郎の意外な質問に目を丸くして驚いている。
紫乃も勿論驚いて太郎を見つめていたが、しばらくして囁くように答えた。
「東京の田舎にある私立学園、とでも言えばいい?」
少しツンとした感じだなと怜は思う。
私立中に通ってた程だから、気高い金持ちかと想像が出来た。
そっとスーカートを庇い椅子に座る姿は上品で、女子さえも目を奪われる優雅さである。
その後、最後まで生徒が名前と中学校名を告げると高校生活のこれからについて先生が話しだした。
入学式の日は午前授業で意外にあっさりと終わってしまう。
帰り道、怜に太郎が紫乃の事を訊いて来た。
「どう思う?美少女だけど、何かお嬢様っぽいっていうか……」
「太郎もか。俺もそんなんだと思った。きっとあれだな」
怜が「あれ」と言って指差したのは山に挟まれた丘の上にある豪邸。
何年も人はいなかったが最近トラックが出入りしていると事を見たと言う人が多い。
「外国の方が住んでるらしいわ」と近所のおばさんが話していた。
「マジかよ?!でも、あそこは何か昔、政府の機密諜報員?みたいな人が住んでて争いごとが在ったって」
「またばあちゃんが言ってた、かよ?」
太郎の話の主な情報源は太郎が一緒に住んでるおばあちゃんだ。
「ばあちゃんもだけど、母さんも言ってた」
「変な話だな」
「ま、俺等には関係なさそうだし」
「永瀬さんのこと諦めんのか」
冗談まじりに怜が言ってみると、太郎は怜を小突いて笑った。
「手が届きそうにない人は早々に諦めるのがいいのさ」
- Re: 中途半端な俺と君は永遠に ( No.3 )
- 日時: 2013/08/17 18:14
- 名前: 明衣 (ID: cm34dabg)
Ⅱ.永瀬紫乃という少女
入学式翌日に、怜達の教室の前には人だかりが出来ていた。主に、男子だ。
「ちょいと失礼しますよ」
太郎がおどけたように間をそそそっと通って行く。予想通り、「永瀬紫乃」が到着していた。
太郎は誰とでも普通に接する。
例え、王族にでも友人のように接し、平等の好む。
その変なこだわり意外はいたって普通の人間なのだが。
そして、恋する事を諦めた女性に対しても。
まあ、怜にとっては太郎が本気で紫乃に惚れたのかは疑問だが。
「ね、永瀬さんってハーフなんでしょ?どこの人?」
机の上に春用のコートを置いてそっけなく訊く。
怜はというと、着席して文庫本を読んでいる。
紫乃は一瞬何か言おうとしたが、口をつぐんで飄々とした表情のまま逆に訪ねて来た。
「答えないって言う選択はあるの?」
(性格悪……)
大して面白みの無いどこにでもありそうな本を適当に読んでいた怜は、そう思った。
気にしてないつもりだったが、意外と頭に入ってくるものだ。
クラス内にいる人はみな同じなのだろう、ちらちらとそちらを見ている。
「そう来るかぁ。じゃ、永瀬さんが素直に答えてくれない理由は?」
にこやかに笑いながらも太郎は怜とまったく同じ事を考えていた。
「名前も記憶していないあなたの質問に答える必要性が見当たらないから」
「え?!名前くらい覚えてよー」
「……じゃ、覚えるから。名前は?」
相変わらず上から目線の口調で話す紫乃に怜がふっと笑った。
すると、「何?」と紫乃が不機嫌そうに訊いた。
「別に。太郎も物好きだなと」
「太郎?このしつこい人、太郎って言うの?」
怜はまだ手に本を持ったままこくりと頷いた。
「正確には東海林太郎だよ」
怜が今思い出したように付け足した。
すると、怜にも太郎にも予想しなかった応えが戻ってくる。
「君は、何て言うの?」
「へ?」
「君」と言って指差された怜から間の抜けた声が出る。
「俺?」と驚きながら訊き返す。
紫乃は当たり前と言うかのような動作で頷いた。
「怜。榊原怜」
怜でなく、太郎が「榊原」と行った時に紫乃が一瞬驚いた表情を見せたが、そのそぶりをさっと隠して口を開く。
「じゃあ、怜と東海林君、よろしく。何か君達にはおもしろみがありそう」
どんなおもしろみだよ、と突っ込みたい気分だったがあえて二人はやめる。
まだ先生も来ないし、怜はあの丘の上の家について訊いてみた。
昨日にはこんなに話す事を想定していなかったから、聞く機会は無いだろうと考えていたが、その時になってみないと分からないものだ。
「そう、それが私の住んでる家」
その返答に彼女は何に対しても、あっさりだということが分かった。
「じゃ、永瀬さんはお金持ちな訳?何でそんな人が公立のこんな学校にきてるの?」
怜がずばずばと訊いて行く。それに動じず紫乃はまたまたあっさりと答えてくれた。
「私立の学校に疲れたの。それだけ」
ふーん、と二人は同時に頷いた。そこに、いろいろと大変だね、と声がかかる。そこにいたのはクラスの女子一人だった。
「あっと……、星島さん!……だよ、ね?」
自信があるのが無いのか不思議な言い方だ。
怜はその太郎の言葉を聞いてもその女子の下の名前を思い出せない。
そこが人に興味が無いための短所だ。
「おお!よく覚えてくれてたね、東海林君」
「君も覚えてくれてるじゃないか」
- Re: 中途半端な俺と君は永遠に ( No.4 )
- 日時: 2013/08/17 18:24
- 名前: 明衣 (ID: cm34dabg)
二人して楽しそうに笑ってるのを見て怜と紫乃はぽかんとする。
紫乃も怜のような性格なのだ。まあ、人目を惹く怜と太郎の名前を覚えていなかったのだから、当然といえば当然だ。
「太郎、紹介しろ」
「榊原君、言っておくけど私は絶賛彼女募集中である東海林君の彼女じゃないからね」
そのくらい分かっている、と言うように怜が少しむっとする。
「それと東海林君、一応私、クラスメイト全員のフルネームを暗記したの〜!凄いでしょ?」
星島と呼ばれたその少女は鼻歌まじりに自慢げに言った。
「榊原君、永瀬さん、私は星島美沙希。う〜ん、私としては覚えてて欲しかったかもね。よろしく」
(覚えてなくて悪かったですね)
(私、誰一人覚えてなかった…………)
二人が心のうちで思ったことは肉声で言うといろいろと大変なので黙っていた。
美沙希は明るい感じだが、あの未紅程ではない。黒髪を肩につくくらいで切っていて、頬を桃色に薄く染めている少女。
比較的可愛い。比較してはいけないのだろうが、と怜は高校一年生男子らしくなく生真面目に思った。
「怜、高校入学早々にこんなに沢山の人と話すなんて思ってもいなかっただろ」
怜はそう、図星だ、と苦笑しながら言う。
何しろ、元々人付き合いが良い方ではないので話す機会など望んでいたとも言えない。
太郎は親友のことは何でも分かるつもりでいる。
一応はそれに相当するくらいの付き合いだ。
でも、こんなに女子と話す怜ははっきり言うと初めて見た。
それが少し寂しかったのは気のせいだと思うことにした。
そして、怜はまだ気付いていないこの体制。気付いた時の反応を楽しみにしている人間が若干一名。
「榊原君ってモテるんじゃないの?頭良さそうだし」
ふいに美沙希が不思議な笑みを浮かべて言った。
「そういえば昨日、長井さんだっけ?その人と何かあったって噂で聞いた……」
紫乃が眉をよせて言う。と、その時怜は自分の状況に気付いた。
(………、おい。おいおいおい。これはどういうことだ)
紫乃だけが椅子に座っていて、右側に怜。左側に太郎がいる。
美沙希が立っているのは怜の右横。結果論、怜は女子二人に囲まれているのであった。
「——あのさ」
『何?』
二人が同時に聞き返す。すると、逆に答えづらくなってしまったのか「うっ」っと黙り込む。
にやにやとその様子を見て楽しんでいる太郎に怜は悪意の籠った(大げさだが)目を向けた。
「ふう。ちょっとお手洗い。どいて」
美沙希の横を何とか通り抜け、ほっとしながら教室の外へ歩いて行った。
- Re: 中途半端な俺と君は永遠に ( No.5 )
- 日時: 2013/08/09 23:31
- 名前: 明衣 (ID: J7xzQP5I)
Ⅲ.意外な関係
「れーい!」
廊下に散乱している、とある生徒のシャーペンやボールペンを見ながら歩いていた怜は頭を上げること無く声の主に言葉を返した。
「女子って、いくつになっても相手をするの疲れるな」
「はは。あの人達は特に普通の女子と種類が違いそうだし」
「太郎君の言う普通の女子って言うのはどんななの?」
男同士の会話にひょこっと現れたのは未紅。相変わらず微妙なタイミングで登場する。
「そーだねー、あなたみたいな感じの女子ですよー」
太郎が興味が無いと言うより少し鬱陶しい感じに棒読みで答えると、未紅が頬をぷくっと膨らませて幼稚園生かなんかの子供のように反論した。
「何か、軽くあしらわれた感じなんですけど!?」
「まあ、それくらいの人間として見られてるってことだと思う」
本人は少し可愛げをアピールしたつもりだったが、彼女の好きな方々は意外とつまらない人であり、本当のことをはっきりと言われてしまった未紅であった。さすがに未紅はプライドが高いため落ち込んだ。
「もういいよっ」
「ほんっとよく分かんねーな」
太郎が何度も同じことを繰り返し言うことに怜がふっと笑った。自分もよく分からないと思っているが、今日は何故か怜にしては珍しく分かることもあったのであった。
「分からないんじゃない。分かれないんだよ」
「へ?」
唐突な親友の独り言の意味はあまりにも分かりにくく、理解をした所でもあり得ない発言だった。太郎はもう一度怜に向かって疑問符を浮かべた。
「どうゆうことだよ?同じじゃねーの。てか、お前……」
「さあね。俺にも不思議だよ」
肩をすくめる怜に太郎はふーんと納得しかけたように頷いた。
教室に戻ると紫乃と美沙希は仲良く女子トークというものをしていた。
「紫乃って読書家なんだ〜」
「うん、本を読むのは楽しいから。美沙希は趣味とか無いの?」
「う〜ん、特に無いかなぁ」
早速下の名前で呼び合って自分等の趣味について話しているらしい。
「あ、東海林君達戻って来たの?もうすぐホームルーム始まるよ」
「ああ、ありがとう」
怜が席に着こうと紫乃の机の前を横切る。その時、ひらっと何かが足下に落ちて来た。紫乃の机から落ちて来たものだと思ったため、怜は拾って渡そうとした。
「落としたけど、永瀬さ…………」
「え?あ、ありがとう」
途中で怜の口が開いたまま、一瞬閉じなくなったことに紫乃は気づかない。落ちた紙は、ただの紙ではなく、写真だった。美沙希がひょこっと覗いて「わぁお」と呟いた。
「美人さんだねー!綺麗な黒髪。紫乃のお姉さん?」
被写体は若い女性。室内の椅子に座っている様子だ。なかなかの美人で、美沙希の言った通りになめらかな長髪の黒髪である。身長も結構高い感じで、すらっとしている。
「ううん。お母さん」
紫乃はそれだけ言った。他のことは何も言わない、と言うかのように口を結んでしまった。授業が始まるため、皆席に着く。さっきまでうるさかった未紅も大人しく担任の到着を着席し、待っている。
その静けさに怜は少し緊張する。それは何故なのか。
(あの写真……本当に……永瀬の母親なのか……?)
怜は、そっと内ポケットにある学生証を取り出した。カバーの隙間から一枚の写真を抜き取って、見つめる。さっき、紫乃が持っていたのと同じ写真を。今は亡き母の、若い頃の写真を。
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