コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ユキノココロ【番外編更新中】
- 日時: 2016/11/06 23:15
- 名前: ゴマ猫 (ID: 4J23F72m)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=33090
初めまして、ゴマ猫です。
コメディライトで3作目になりました。
読んで下さった読者様のおかげで、本作は無事完結する事ができました。本当にありがとうございます!
参照が10000を超えました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます!
下の作品は過去に自分書いた作品です。
もし興味があったら、コメントいただけると嬉しいです。
コメントをいただいた作者様の作品は見に行くようにしています。ちゃんと作品見たいので、コメントを入れるのは遅くなる事もあります。
【日々の小さな幸せの見つけ方】1作目です。(1ページ目にリンクあります)
【俺と羊と彼女の3ヶ月】前回作品です。(リンクは上にあります)
この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!
【お客様】
珠紀様
朔良様
華憐様
八田きいち。様
七海様
夕衣様
妖狐様
由丸様
杏月様
オレンジ様
いーあるりんす様
はるた様
アヤノ様
蒼様
あるま様
てるてる522様
——あらすじ——
高校2年生の冬、清川 準一(きよかわ じゅんいち)は、突如として深夜に自分の部屋にあらわれた不思議な女の子に出会う。彼女は準一の事を知っているようだったが、準一はまったく覚えがない。彼女の正体と目的とは……? それぞれの複雑に絡み合った運命の歯車がゆっくりと動き始めていく。
〜お知らせ〜
【短編集始めました】
ここと同じ板で【気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜】というタイトルで書いています。基本的にストーリーはラブコメです。コメディが強いもの、ややシリアス要素が強いもの、色々な書き方で挑戦中です。
タイトル通り、気まぐれに見ていただけたら嬉しいです。こちらからどうぞ。>>121
【目次】
登場人物紹介(更新)
>>18
(こちらはネタバレを含みますので、ご注意下さい)
プロローグ
>>1
始まりの場所
>>8 >>13 >>14 >>15 >>21
疑惑の幽霊
>>26 >>27 >>28
清川 準一【過去編】
>>31 >>34 >>35
ユキと渚
>>36 >>39 >>40 >>41 >>42 >>47
先輩
>>51 >>52 >>59 >>63 >>67
揺れる心【綾瀬編】
>>71 >>73
疑問
>>74 >>75 >>78 >>79 >>80 >>83
>>84 >>85 >>88
眠れぬ夜は
>>89 >>90
悪意と不思議な出来事
>>91 >>94 >>95 >>96 >>99 >>100
>>101 >>102 >>105
ユキと紗織
>>106 >>107 >>108 >>113
それぞれの想い
>>116 >>117 >>118 >>122 >>123
>>124
過去の想いと今の願い【ユキ編】
>>130
出せない答え
>>131 >>134
素直な気持ち【渚編】
>>135
大切な君のために今できる事
>>140 >>141 >>144 >>147
記憶【綾瀬編】
>>157
約束の時
>>158 >>159 >>160 >>163
すれ違う想い【渚編】
>>164 >>165
ユキノココロ
>>166 >>167 >>168 >>171 >>174
エピローグ
>>176
あとがき
>>179
【ちょっとオマケ劇場】
〜あの日へ〜涼編
>>184-191
〜未来への帰り道〜ユキ編
>>195-200 >>202-209 >>210-211
〜彼奴と私〜芽生編
>>212-215 >>218 >>221-222 >>223
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45
- 〜彼奴と私〜芽生編【6】 ( No.221 )
- 日時: 2016/11/03 23:33
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: QXFjKdBF)
「ふぅ〜、緊張したぁ」
清川が私の部屋に入るなり、そんな事を言いながら額の汗を拭う。
「お土産作戦は成功したみたいで良かった。あとは、夕食の時間を乗り切るだけだから頑張りなさいよ」
「夕食が一番怖い……何か言うならそこしかないしな」
確かにお母さんが見極めると言うのに、ここまで穏やかな雰囲気は少し妙な気もする。
風見鶏に来た時の事を考えれば、こんな和やかなムードで終わるはずはないはず。そう、言うなれば嵐の前の静けさだ。最後まで気を抜かないようにしなければ。
うん? 清川が何か見てる。視線の先を辿っていくと私のベットを見つめているようだけど……。
「ちょっと、あんまり部屋をジロジロ見ないで。普段ならあり得ないけど、今回は仕方なく部屋に入れてるんだから、気を遣って目ぐらい閉じておきなさいよ」
「……いくら何でも酷いだろ」
清川は不満そうにそう言うが、人の部屋を無遠慮にジロジロと見られるのはあまりいい気持ちではない。ましてや自ら招き入れたくて招き入れた訳ではないので尚更だ。
「当然でしょ。マナーよマナー」
「いや、ただベットの上のぬいぐるみが凄いなって思っただけだって」
「ベットの上のって————うにゃあぁぁぁ!!」
そう言われてから、私は気付いて絶叫した。
ベットの上に横たわっていた大き目の抱き枕。無愛想な顔とダレたように体を伸ばした猫のイラストが描かれた抱き枕。その周りを囲うように、小さな小動物達のぬいぐるみが沢山置いてある。
別に変な物じゃない。それは間違いないんだけど、この歳になって抱き枕に抱きついてないと快眠が出来ないというのは、子供っぽくて嫌なのだ。
さすがにサイズは小さいが、実はこっそり風見鶏にも小さめのぬいぐるみを置いてあったりする。そんな理由だけに、清川にはあまり見られたくない物ではあった。
「わ、私の秘密を知られたからには、生かしては帰さない」
「お、大袈裟過ぎるだろ! 別に笑ったりしないし、変だとも思わないぞ」
「……閻魔大王に誓って言える?」
「……嘘吐いたら舌抜かれるのか。あぁ、誓って言える」
……疑いの眼差しで清川を凝視するが、特に動揺した様子もない。
むぅ、この場限りの嘘を吐いている訳じゃなさそうだし、ここは信じるしかないか。
「……今日のところは信じてあげる。命拾いしたわね」
「お前と居ると、命がいくつあっても足りないな」
とりあえずの休戦協定が結ばれたところで、私はカーペットに腰を下ろす。
夕食まではまだ時間があるし、このまま話しているのもなんだし何かしようか? そう思い、部屋の中を探してみるが特に時間を使えそうな物はない。2人でやるようなゲームは持っていないし、漫画や小説はあるけど全部読み終わってしまったものだ。そんな事を考えていると、視界の端にある物が入った。
「暇だからトランプでもやらない?」
「いいけど、何やるんだ? 2人じゃ面白くないものばかりだろ?」
***
「あぁ、また負けた!」
清川とババ抜きをやり始めて約1時間。対戦成績は3勝27敗……ボロ負けだった。
悔しくてカードを床に投げつける。
「驚くほど顔に出るのな」
清川が苦笑しながらそう言う。
ジョーカーを持っている時はポーカーフェイスを貫いているつもりなのに、どうにも分かりやすいのか、私は圧倒的な大差で負けていた。
そもそも2人でやっているんだから、どちらがババを持っているか確実に分かる訳で。そう考えれば、これはもはや運だと言っても過言じゃない。だとしたら、私が顔に出やすい訳じゃなくて運が悪かっただけだ。そうに決まってる。ちなみに勝った3回は清川が最初からジョーカーを持っていて、私が最後まで引かなかったという内容。
「……何かむかつく」
「普通にやってただけなのに理不尽だろ」
「もう一回、もう一回やれば勝てるんだから!」
——コンコン。
白熱してきたババ抜きに水を差すように、部屋にノック音が鳴る。言うまでもなく、これは夕食の準備が出来たとお母さんが伝えにきたのだろう。ついに、決戦の時が来たようだ。
「残念だけどここまでか…………さ、正念場だからね」
「……あまりプレッシャーをかけるなよ。緊張し過ぎて胃がキリキリしてきた」
***
リビングに戻ると、テーブルには色とりどりの料理が並べられていた。
トマトとイカのチーズリゾット、バゲット、鮭のムニエルに、カット野菜の上には茹でた卵を賽の目に切って散らしていて、緑赤黄色と色合いが良いし、お店で出されても納得するレベル。さすがお母さん、料理も上手い。
「さ、どうぞ座って」
「そうそう、今日は一緒に呑もう」
お母さんとお父さんに促され、清川と私は隣同士の席に座る。
「ありがとうございます。夕食までごちそうして頂いて」
傍目で分かるほどの恐縮をしながら、清川が口を開く。
「あら、まだ口を付けていないのだから、お礼は最後で良いわよ」
「ささっ、清川君グラスグラス。今日は洋風だけど、この日本酒が旨いんだ」
「あ、はい。すいません——い、いえ、僕はまだ未成年ですので……」
お母さんに会釈をしながら、お父さんの誘いをやんわり断る清川。というか、お父さんもう既に酔ってるんじゃない? 下戸なのに、お酒好きだから困ったものだ。
「はいはい、早く食べましょ。せっかくの料理が冷めてしまうわ」
「はい、いただきます」
「……いただきます」
「はっはっは、いただきます」
お母さんの一言で全員食べ始める。
お父さんは少し楽しくなってきてるのか、変な笑いが混じっている。
「味はどう? お口に合うかしら?」
「はい、凄く美味しいです!」
お母さんにそう問い掛けられると、リゾットを頬張りながら清川がオーバーめにそう言った。私もそれに倣うようにリゾットを一口……うん、確かに凄く美味しい。
「いやぁ〜、嬉しいね。ついに僕にも息子が出来るのかぁ。芽生が産まれた時はね、それはもう可愛くて可愛くて。こんなに可愛い子がこの世に居るのかと思ったほどだよ」
お父さんがグラスを傾けながら思い出す様に話しだす。
「ちょっと、お父さんやめてよ」
「いいじゃないか。清川君はこれから僕らの家族になるんだ。芽生の昔話も聞かせてやりたい」
……家族って。そりゃ、演技とはいえ男の子を家に連れてきて、両親に紹介するのだからそれなりに意味は含まれているんだろうけど。本来なら。
けれど、これは演技。風見鶏に残る為の方便であって、お父さんのこんな嬉しそうな顔を見ていると、騙しているという罪悪感が襲ってきて胸がチクチクと痛む。
「僕はね、男の子も欲しかったんだ。あいにく、うちは芽生だけだけど」
「あら、芽生だけじゃ不満なんですか?」
お父さんの言葉にお母さんが突っ込みを入れると、お父さんが苦笑する。
「あはは、そういう訳ではないよ。ただ、男の子なら男同士色々分かり合える事も多いだろう?」
「つまり味方が居なくて寂しかった、と」
お母さんが「困った人ね」と言いたそうに微笑みながら、リゾットを口に運ぶ。
「女の子は年頃になると、どうしても父親を敬遠してしまうものだからね。それが大人になる事だというのは分かっているから、嬉しくもあり、寂しくもある。複雑な気持ちだよ」
お父さんはそう言って、少し寂しげに笑う。
別に私は避けている訳じゃないけど、確かに昔よりお父さんと接する機会は減ったと思う。お父さんは仕事で家を空ける事も多くなったし、私も私で家に居ない事が多くなった。自ずと話す機会も減っていった。でもそれは嫌いだからじゃない。……お母さんの事は少し苦手だけど。そっか、そんな事を思ってたんだ。言ってくれればいいのに。
「……別に敬遠なんかしてないよ」
「芽生、お父さんは寂しいのよ。最近は家に帰って来ない日もあるでしょう? そんな日は岩夫の家に居ると分かっていても。ソワソワと落ち着かないもの」
私の言いたいを察してか、お母さんがそう付け加える。
「いや〜ははは、僕は親だからね。芽生が大人になって、僕達から離れてしまっても、いつまでも心配はするだろうね。きっと」
お父さんは恥ずかしそうに頬を掻いて、グラスに入っていたお酒を飲み干した。
普段よりペースが早いのか、既にお父さんの顔は真っ赤だ。こんな風に昔話をしながら私の事を語る姿は新鮮で、なにより照れくさい。
「……良いお父さんだな」
いつの間にか空になっていたお皿に視線を落としながら、清川が小声で呟いた。
その目はどこか寂しげで、けれど穏やかで。色んな感情が入り混じっている。聞きたくても聞けない、私には触れられない心の壁があるようにも感じた。——そんな顔されたら、いくら私だって気になる。けど、今ここで聞くような内容でもないだろうし、私には聞く権利もないのだろう。
(続く)
- 〜彼奴と私〜芽生編【7】 ( No.222 )
- 日時: 2016/11/05 23:51
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: KIugb2Tf)
「あら? もう食べちゃったのね。おかわりする?」
「はい、お願いします」
リゾットのおかわりをお母さんが取りにいくと、私は清川の袖を引っ張った。
そろそろ当初の目的を果たしておきたい。清川が認められれば、私は風見鶏を辞めなくて済む。「打ち合わせ通りに」と、清川にアイコンタクトをしてお母さんを待つ。
「はい、お待たせ。うふふ、沢山食べてくれて嬉しいわ」
「ありがとうございます」
テーブルに置かれたお皿を合図に、私が話を切り出す。
「ねぇ、お母さん。これで分かってくれた? 私、お店辞めなくていいでしょ?」
私がそう問いかけると、お母さんが思い出したような仕草でパンッと手を叩いた。
「そうだったわね。ねぇ、準一くん、芽生のどこが気に入ったの? そのあたり是非、聞きたいわ」
お母さんは薄く笑みを浮かべながら、清川に質問する。
その言葉に私の背筋がスッと冷たくなった。さっきまでの和やかなムードに終わりを告げて、ここからが本番だと言われているような気がして。短期間ではあるけど、みっちりと練習はしたし、想定内の質問でもある。けれど、やっぱり不安は拭いきれない。
天に祈るような気持ちで清川に視線を向けると、なぜか少し困ったような表情を浮かべていた。
「どこって言われると、困るんですが……」
——打ち合わせと違う!? もしかして緊張で台詞飛んだの!?
私のそんな心配をよそに、清川は淀みなく言葉を続ける。
「芽生は言葉遣いが乱暴だったり、俺に対していつも突っかかってくるし、すぐ手が出たり——」
「ちょ、あんたねぇ!」
台詞が飛んだとしても、今のはさすがに聞き捨てならない。私に対する意趣返しだろうか? 気に入らない奴とは前から思っていたけど、私に協力してくれたりして少しは見直してきたのに。まさかこのタイミングで嫌がらせしてくるなんて!
止めに入ろうとした瞬間、清川は右手で私を制して僅かに笑みを浮かべた。
「でも、友達思いで、困っている友達は放っておけなかったり、不器用な所もあるけど根は凄く真面目で、仕事に対しても一生懸命で手は抜かない……俺は芽生のそんな所が好きですよ」
「————っっ!?」
不意打ちとでも言うのだろうか。想像もしてなかった事をコイツに言われ、一瞬息が止まって、顔が熱くなる。体温も一気に上がったような気がした。
「……そう、準一君は芽生の事よく見ているのね。安心したわ」
清川のその言葉を聞いたお母さんは、いつの間にかさっきまでの検分するような表情から柔らかな笑みへと変わっていた。
「ははは、母さんはそんな事を気にしていたのか。芽生が気に入った人なんだ。僕はそれだけで充分信頼していたよ。それに実際会ってみて、とても誠実そうな人柄だったしね」
空になったグラスを手に持ちながらお父さんがそう言うと、お母さんは口角を上げて「やれやれ」とでも言いたげな溜め息を吐いた。
「ふふふっ、あなただって最初は、どんな男なんだ! って、随分と鼻息が荒かったじゃない」
「そっ、それは僕にも親としての心配がだね——」
そのやり取りを見ていた清川がクスリと笑う。
「お転婆な娘だけど、私にとって大事な娘なの。それはもう本当に目に入れても痛くないくらいに、ね。だから清川くん、娘を宜しくお願いしますね?」
「あはは。はい、嫌われないように努力します」
「ちょっと、お母さん!?」
お母さんは意地悪な表情を一瞬だけ浮かべ、ぺろりと舌を出す。私だけに見えるように。
本当にもう……。でも——私の事あんなふうに思っていてくれたと知って、恥ずかしいような、なんて言ったらいいのか、むず痒い気持ちになる。
でもそっか。お母さんは私の事を心配していただけで、頭ごなしに反対している訳じゃなかったんだ。
ケンカして、いがみ合っていると思っていたのはどうやら私だけだったみたいで、どうにも居心地が悪い。それでも私は自分で思っているより単純なようで、恥ずかしさと同時に嬉しさも感じていた。…………今度から少しは親孝行でもしてみようかな。
「よーし、今日は泊まっていきなさい! 婚前祝いをしよう!」
「お父さんもやめて!」
***
最難関と思われていた夕食も終わると、私は清川を駅まで見送っていた。
玄関を出ると清川は、全てを出し切って負けた高校球児のようにガックリと崩れ落ちた。気を張っていたのだろう。そんな姿は普段見ないので印象的だった。
それにしても、さっき清川が変な事を言ったせいでまだ微妙に顔が暑い。春の夜はまだ寒いはずなのに、パタパタと手で扇ぎながら顔の熱を冷ましてみても、あまり効果はないようだ。
「あのさ」
「ん?」
私と清川は少し距離を置いて歩く。ほんの数歩の距離。今日が終われば明日からはまたいつも通り。こうして馴れ合う事もない。
街灯がぼんやりと道を照らし、夜も遅いせいだろうか? 私達が歩く音だけが周りに響いている。
「お前の家族っていいな」
「は、急に何言いだすの?」
私が怪訝な表情で問い掛けると、清川が言葉を続ける。
「俺さ、小さい頃に父さんを事故で亡くしてるんだ」
「…………」
「その事実を受け入れられなくて、父さんが亡くなってから引っ越したんだけど、高校に入ったら昔住んでた場所で独り暮らしを始めた。おかしいだろ? 高校生にもなって、現実逃避してたんだ」
清川は自嘲気味に笑いながら、歩くペースを少しだけ落として夜空を見つめる。それはまるで、失ってしまった大事な人に想いを馳せるように。
「だからさ、芽生の家で夕飯食べてた時、あぁ、きっと父さんが居たらこんな感じなんだろうなって思った」
「…………」
清川はなぜ苦学生だったのか、いつか感じた陰はなんだったのか、話していたら少し分かった気がした。私にとって当たり前の事。でも、それは清川にとっては当たり前ではない。欲しかった場所、手が届かなくってしまったもの。私とは違う。
私はただ現状に満足できなくて、子供のように駄々を捏ねてたんだ。そう思うと、途端に自分のしてきた事が恥ずかしくなる。
「……ごめん」
「なんで謝るんだ?」
「あんたと比べたら私は——」
そこまで言いかけたところで、清川は笑う。
「何がおかしいの!」
「いや、いつもの芽生らしくないなって思ってな」
「いつものって……」
「幸せなんて、誰かと比べるものじゃないだろ? 俺は偶々そうだっただけ。もちろん悲しかったし、苦しかった時もあったけど、今は乗り越えて幸せだぞ?」
そう言って清川は笑う。確かにそうだ。誰かと比べたところで、今の自分が幸せになる訳でもなければ、誰かを幸せにする事もできない。だから私が清川の気持ちを考えて、自分はダメだと卑下する事自体が間違っているのだ。
……でも、きっと理由はそれだけじゃない。私が気に病まないようにと、気を回したのだろう。まったく、コイツはどこまでお人好しなんだか……。なんだが腹が立ってきたので、頬をつねってやる。
「おい、痛いだろ」
「うるさい、清川の癖に生意気言うな」
「お前はどこぞの暴君か……上手くいったんだから、少しくらい俺に感謝ってものをだな——」
「…………あ、ありがと。今日は清川のおかげで、本当に助かった」
私は清川の頬をつねったまま、視線を逸らしながら素直に感謝の言葉を言う。
普段なら絶対言わないけど、今日に関しては本当に助かったから、特別サービス。協力してもらったのに少し冷たかっただろうか? ううん、これぐらいでコイツにはちょうどいい。もともと仲が良い訳でもない。いつか「参りました。芽生様」くらい言わせてやるつもりなんだから。
「……お、おう」
「ちょっ、なに顔赤くしてんの!?」
「い、いや、まさか本当に素直にお礼言われるなんて思ってもみなかったから……嬉しくなって。はははっ」
「ば、ばっかじゃないの!!」
慌てて清川の頬から手を離す。
本当、バカじゃないの! 冷めてきた頬にまた熱が帯びてくる。
今日の私は少し変だ。何でコイツの言葉にいちいち反応して動揺してるんだ。
やっぱりコイツは苦手だ。…………でも、少しだけ、本当に少しだけなら、考え直してもいいかもしれない。そんな私を、夜空に浮かぶ月だけが静かに見下ろしていた。
(続く)
- 〜彼奴と私〜芽生編【完】 ( No.223 )
- 日時: 2016/11/06 23:13
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 4J23F72m)
「おい芽生、こんな朝っぱらから何やってるんだ?」
「何って、クッキー作ってる」
翌日の開店前の店内。私が厨房でクッキーを作っていたら、岩夫が2階から眠そうな目を擦りながら降りてきた。合鍵は貰っているので、勝手したたるなんとやら。
「……クッキーだぁ? 一体どういう風の吹き回しだ?」
「うるさいなぁ、私だって偶にはお菓子くらい作るから」
「……どうでもいいけどよ、親の仇みたいに混ぜてるな」
岩夫が私の横に立ってブツブツ呟いている。やはり製菓は自分の分野のせいか、気になるのだろう。けど横に立たれて見られると、今度は私が気になって集中できない。
「いいでしょ、私のやり方なんだから」
「どうせ練習するならスポンジの練習してくれ。後釜を育てる為にも、教えておきたいからな」
寝起きでさらに伸びた顎鬚を触りながら感慨深そうに岩夫は言うが、私は別に店の為に作っている訳じゃない。ちゃんと材料は自分で買ったものだ。
岩夫の作るスポンジや沢山のお菓子、クリスマス限定のスペシャルケーキなんかは、私よりあいつが教わるべきだ。私にはとてもじゃないけど真似できないと思う。
バター、卵黄、グラニュー糖が入ったボールを丹念にかき混ぜていく。そうして固まった生地をラップで包み冷蔵庫へ。ここまでは順調、かな。
「それ、清川に直接言えばいいよ。あいつ喜ぶと思うよ。私は作るのは向いてないし」
「むぅっ……いや、準一がやってくれるって言うなら、俺は大歓迎なんだけどよ。でも、なぁ? あいつも自分のやりたい事だってあるだろうし……」
今度は頬を掻きながら小さく唸る岩夫。
……まったく、いつだったか「俺の後釜は準一しか居ない」とか言っていたくせに、素直じゃない。あいつなら岩夫の事を尊敬してるし、岩夫がやってほしいと言えば喜んでやるだろう。
でもまぁ、私も人の事は言えない。今だってこうして、昨日のお礼にあいつにクッキーなんて作ってやろうとしているんだから。
***
「おはようございます」
夕方になって、清川が店にやってきた。朝早く店に寄って、クッキーを作ったらそのまま登校。包装まで仕上げてから学校に行ったので、少し遅刻してしまった。
こういう時、自分の親戚がお店をやっているのは利点だ。家でやっていたら、お母さんに根掘り葉掘り聞かれて、また面倒くさい事になる。
「おう芽生、おはよ」
「お、おはよ」
清川は、まるで昨日の事なんて無かったかのような爽やかな笑みを浮かべて私に挨拶をする。妙に緊張したり、気にしているのは私だけの気がして少し腹が立つ。
「あっ、待て」
そのまま通り過ぎて2階にある更衣室に向かおうとしたので、呼び止めた。
「ん? 何か用か?」
「用って訳でもないけど……その、これ」
今日の朝から早起きして作ったクッキーを清川に渡す。
包装も綺麗にできたし、見た目は売り物と変わらないくらい……だと思う。味の保証はできないけど。
渡された袋を受け取ると、清川は少し驚いた表情でクッキーと私を交互に見つめてきた。
「ん、これはなんだ?」
「別に、大した物じゃないから。昨日の、その……お礼というか、なんというか」
肝心な所で口ごもってしまう。はっきり言えばいいんだ。「これは昨日のお礼で、それ以上でもそれ以下でもない」って。
けど、心のどこかで素直になれない自分が居る。なんでだろう? ありがとうって思っているのに、口に出して言うのはこんなにも難しい。昨日は言えたのに、今日になったらまた言えなくなっている。
「ん? 昨日のお礼って、芽生のお母さんの事か? それなら昨日——」
「だからっ、とにかく受け取ればいいの! それと、苦情は受け付けないから!」
ここで今から昨日の事からもう一回説明するなんて、絶対無理だ。昨日のお礼だけじゃ足りないからクッキーを作りましたなんて、言える訳ない。
私がそう言うと、清川は頬笑む。きっと、素直にお礼も言えない仕方ない奴だって思っているに違いない。確かに昨日は流れというか、勢いで言えただけだし、そう思われても仕方ないけど。
出会った最初の方は私に対して敵意を向けていた事もあったと思う。
だけど、いつの頃からか私に対して柔らかくなっていった。それはこいつが渚と付き合うようになってからだったろうか。その少し前は、この世の終わりみたいな暗い顔をしていた日もあったり、店を急に休んだ時もあった。今思えば、その時は清川が昨日言っていたように悩んでいた時だったのだろう。詳しい事は分からないけど。
「そうか、芽生が俺にわざわざ。嬉しいよ、ありがとうな」
「……あ、うん。まぁ、分かればいい」
少し照れくさくなって清川から視線を逸らす。
その先に傾いた日差しが窓から射し込んで、木製のテーブルの色が薄くなっていた。そろそろ混み出す時間だ。
まぁ、清川が喜んでいるなら早起きした甲斐もある……って、別にその為に早起きした訳じゃなくて、義理、義理を果たす為だけど。私は受けた恩も仇も忘れないんだから。
「ははっ、大事にするな」
清川はそう言ってにこやかに笑うが、大事にされても困る。
袋の中はクッキーなのだから、早く食べてくれないとダメになる。いや、この場合は大事に食べるという意味? それとも中に何が入っているか分かってないとか?
「なるべく早くたべ——」
「あの、入っても大丈夫でしょうか?」
一応、清川に言っておこうかと口を開いた瞬間、扉が開いてお客様が入ってきた。
思わず目を奪われるほど美人のお客様が、恐る恐るといった感じで問い掛ける。清川はそのお客様を見ると、軽く会釈をした。お客様が清川の様子に気付くと、嬉しそうに笑みを浮かべながら同じように会釈を返す。そして清川は急いで2階へと駆け上がっていった。
何? 知り合い? 少し気にはなったが、頭の中で瞬時に切り替えて営業モードへ。
綺麗なセミロングの黒髪を揺らしながら、そのお客様はカウンター席へと座る。まるで清流のように綺麗な所作は、その容姿も相まってとても目立つ。
こんなお客様来た事あるっけ? 一度来たら忘れなさそうだけど。おっと、いけない。
浮かんだ疑問を思考の外へと追い出すと、メニューとおしぼり、お冷をトレーに乗せてお客様の席へ。
「いらっしゃいませ、風見鶏へようこそ」
少しだけ変化した彼奴と関係性。今日も風見鶏で、私の1日が始まる。
〜END〜
- Re: ユキノココロ【番外編更新中】 ( No.224 )
- 日時: 2017/08/31 08:04
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: G1aoRKsm)
コメントはいつぶりでしょうか。随分久しぶりな感じがいたします。
このスレの方には完結した時に長ったらしくおめでとうございます!という文章送り付けた記憶が鮮明にございます。あれ、気のせいにしておきたいぞ(;´Д`)
さてさて随分前から愛しの芽生ちゃんを推していた私ですが、覚えていただいているようでうれしかったです。ユキノココロの完結の際に番外編でちょこちょこ続きます風なことを仰っていたゴマ猫ちゃんに「芽生ちゃん回をよこせー!」と叫んだのは紛れもなく私でございます←
姪っ子の芽生ちゃん。何だか響き良いなーとずっと思ってたんですけど、洒落っぽくて笑 そんな少し気の強くてツンツンしたデレ微量な可愛い可愛い芽生ちゃん。清川くんとの相性はやっぱり最高ですね。二人の会話にいつも和ませていただいております。
清川くんと芽生ちゃんの偽装カップル、最高過ぎまして……芽生ちゃんの可愛い恋人演技に「熱でもあるのか」と応える清川くんさすがです。
清川くんの意思関係なしで話が進む感じが、あぁ準一くん不憫なキャラだったなと思い出させてくれました。
やっぱり芽生ちゃんは可愛い、そう思ったのはやっぱり芽生ちゃんの「秘密」でしょうか。ぬいぐるみが好きだと? 可愛すぎではございませんか。もう芽生ちゃんにぬいぐるみを貢ぎたいです……((
少しずつ変わっていく芽生ちゃんと清川くんの関係性。最初はもっと仲が悪かったように感じますが、だんだんと距離が近くなって「友達」としていい関係を築いていってほしいなと思います。
手作りクッキーっていいですよね。中学生の時はクッキーにはまって型とか色々探しに街へ繰り出していき、可愛くできたら友達に配っていました。今でもお菓子作り系のコーナーを見ると、思わず目を止めてしまいます。こういうところだけでも女子力として置いておかないと辛い現実ですよね笑
最後のお客様はもしかして、と考えながらニヤニヤしております。
キャラみんな好きですので、こうやって番外編が見れることがとてもうれしいです。ありがとうございます。
新作も始まっているようなので(もう読んでいる)また、そちらの方にもコメントいかせていただきたいなぁと思っております。
これからもゴマ猫ちゃんの創作活動を応援しております。
- Re: ユキノココロ【番外編更新中】 ( No.225 )
- 日時: 2016/12/31 01:02
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 3hf5E.5D)
はるたさん >>224
こんばんは、こちらでは久しぶりでしょうか。でもあんまり久しぶりに感じないのはゴマ猫だけですかね?
はるちゃんに完結の時もコメント頂いて、凄く嬉しかったのは昨日の事のように覚えています。安心して下さい(笑)
はるちゃんのあの一言が無ければ、芽生が番外編にまで出てくる事はなかったと思うので、芽生は幸せ者だなぁ〜と作者的には感じます。
今回芽生編を書いていて、芽生って良い子だなって改めて思いました。距離を詰めるまでが大変だけど、思いやりがあって実は仲間思い。書かせてくれてありがとうございます。とても楽しかったです(深々)
その通りなんです。姪っ子の芽生という単純かつ何の捻りもないネーミングです(笑)
準一は鈍い&巻き込まれ体質ですから、色々不憫ですよね。書いていて思ったのですが、本編から芽生が主要キャラ枠だったら、色々と展開が変わってきたような気さえします。
芽生は少し子供っぽいので、バカにされないように隠しているんですよね。ホラー系とかめっちゃ苦手です。強がってても後でこっそり泣いちゃうタイプです。ありがとうございます、はるちゃんに可愛がってもらえて芽生は幸せですね。ゴマ猫にもはるちゃんのあ——げふん、何でもありません。
最初は最悪でしたね。勝手に芽生が敵視してただけですけど。
少しだけ変わった関係性が伝わってくれていれば嬉しいです。多分、なんだかんだ言いながら良い関係でいると思います!
あ、分かります。ゴマ猫もお菓子の型好きでよくお店に見に行ってましたよ〜。クッキーって作ると沢山出来て配れるから良いですよね!
ゴマ猫は富澤商店というお店に行くとついつい見てしまいます。パンとか製菓の材料が豊富で見ているだけでも楽しいからつい。
はるちゃんはお菓子や料理も作りますし、女子力高いのでは(*^。^*)
そうです、最後のお客様はあの方です。あの方の番外編か、準一達が子供の頃を書く番外編が多分本当に最後の番外編かなぁと今のところ考えています。
いえいえ! こちらこそこんなに長い作品を読んで頂いて、本当に感謝の言葉しかありません。いつも丁寧な感想を頂いて、その度にモチベーションも上っております!
新作も読んで頂けてるのですか!? ありがとうございます(泣)
ありがとうございます、これからも頑張って書いていきたいと思います!
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45
この掲示板は過去ログ化されています。