コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 陽の当たる部室
- 日時: 2014/06/10 16:47
- 名前: 藍里 ◆dcuKuYSfmk (ID: IfRkr8gZ)
初めまして!
普段は別館に入り浸っている藍里と申します。
拙い文章ですが、よろしくおねがいします!
◇目次◇
第一章 春
一話 >>1
二話 >>2
三話 >>3
四話 >>4
Page:1
- Re: 陽の当たる部室 ( No.1 )
- 日時: 2014/06/09 22:46
- 名前: 藍里 ◆dcuKuYSfmk (ID: IfRkr8gZ)
一話 健康より原稿
世の中には、〝健康より原稿〟という有名な言葉がある。
原稿を完成させられない者には、何も与えられないのだ。
地位も、名誉も、何も与えられない。
これは、とある文芸部の物語——
「細谷ー!」
天羽中学校・文芸部。
旧校舎の端にある小さな部屋で、長い黒髪の少女が叫んでいた。
「ひぃぃ!」
怯えた顔で、色白の少年は少女から数歩離れる。
少女は自分より二十㎝は身長が高い少年の頭を叩いた。
勿論、椅子に乗って。
「細谷君、この原稿用紙はどういうことなのかしら?」
少女は、マス目以外は何も書かれていない原稿用紙を指さす。
「お、俺……ずっと体調が悪くて……」
「だから何? 健康より原稿! 与えられた仕事は最後まできちんとやりとげなさいっ!」
「い、いえっさー!」
少年——否、細谷陽介(ほそやようすけ)は敬礼をした。
「分かってるよね? 十ページ! 今日中に完成させてね?」
少女は、妖しく微笑んだ。
少女——秋里千沙(あきさとちさ)は悩んでいた。
それは、部員数の減少だ。
年々部員数が減っていき、今はもう四人になってしまった。
一人目は、細谷陽介。二年生。さっきの少年だ。
二人目は、高村玲(たかむられい)。同じく二年生。
三人目は——
「こんにちはー!」
文芸部の部室に入ってきたのは、三年生で部長の遠藤拓海(えんどうたくみ)。
拓海は出窓に寝転がると、
「秋さん、俺寝るから」
と告げ、安らかに寝息を立て始めた。
「私の名前は秋里千沙です! おやすみなさい永遠に」
怒った振りをしながらも、切ない顔で拓海を見つめる千沙に、気づく者は居なかった。
「……この鈍感」
千沙が呟いた言葉にも、誰も気が付かなかった。
- Re: 陽の当たる部室 ( No.2 )
- 日時: 2014/06/09 23:04
- 名前: 藍里 ◆dcuKuYSfmk (ID: IfRkr8gZ)
二話 一昔前のヒーロー
「俺、参上!」
柑橘系の香りのワックスで髪を立てた少年が、部室に入ってきた。
「……まるで、一昔前のヒーローね」
千沙は、吐き捨てるようにそう言った。
そして、クスリと微笑む。
「お帰り、れーちゃん」
〝れーちゃん〟と呼ばれた少年は、満足そうにうなずいた。
「ただいま戻りました、千沙先輩!」
れーちゃん——否、高村伶(たかむられい)は、ホットココアの缶を千沙に手渡す。
「ありがとう。いやー、まだまだ寒いもんねー」
暦上は四月とはいえ、まだまだ寒い。
そう呟いた少女は、ココアの缶を開けた。
「あー、美味しい……」
一口飲み、ほっとした顔の千沙は、ふと拓海が寝ている出窓を見た。
「拓海先輩、受験生なんだよね……?」
「そうみたい、っすね」
陽介は原稿用紙と睨めっこしながら千沙に言った。
「そーいえば、千沙先輩って拓海先輩のこと好きなんですよね?」
千沙が、ココアの缶を落とした。
しかも、制服のスカートの上に。
ココアが飛び散り、本来なら叫ぶはず。
しかし、熱さなど感じぬといわんばかりの表情で、千沙は缶を拾い上げ、部室の隅にあるゴミ箱へ投げた。
そしてハンカチをブレザーのポケットから取り出すと、スカートや太ももを拭く。
「……何故、それを」
「そりゃあ見てれば分かりますよー」
ニヤニヤと笑う玲と陽介。
「でも、千沙先輩、彼氏居るんじゃ……」
「浮気されてるみたいだわー」
「えぇっ!?」
玲は椅子から立ち上がった。椅子が倒れる。
「あんなに仲良かったのに……毎日迎えに来てるのに……?」
「うん。だから、少しだけ〝お話〟しようと思って」
うふ、と千沙は微笑む。
玲と陽介は真っ青な顔で千沙を見ていた。
そんな二人に、千沙は耳打ちをした。
真っ青な顔で、二人は首を縦に振った——
「千沙ー! 帰ろうぜ!」
坊主頭で大柄な少年が、野球バッドと大きなエナメルバッグを持ち、部室の前に立っていた。
「うんっ! じゃあ、また明日ね。れーちゃん、陽介!」
時刻は、午後八時を回っていた。
「さ、さようなら〜」
「お、お疲れさまでした〜」
二人は顔を見合わせると、同時に呟いた。
「女って怖い」
- Re: 陽の当たる部室 ( No.3 )
- 日時: 2014/06/10 10:53
- 名前: 藍里 ◆dcuKuYSfmk (ID: IfRkr8gZ)
三話 別れ(前篇)
千沙は、大柄な少年——佐藤裕也(さとうゆうや)を、部室へ通す。
「千沙、話って?」
「……ちょっとね」
千沙は微笑み、部室の鍵を中から閉めた。
「れーちゃん、陽介」
「遅いですよ、千沙先輩」
玲が、カーテンの裏から現れた。
「あれ、その人ですか? 浮気した人」
陽介がニヤニヤと笑いながら、本棚の裏から現れた。
「そーそー。ね、分かるよね、裕也? あなたがここに居る意味」
千沙は、裕也に向かって微笑んだ。
その笑みは、黒く。そして、美しかった。
「ねぇ、裕也。私、一か月ほど前から知ってたの。貴方が私の親友と、浮気してたってこと」
千沙は、写真を並べる。
「誘ったのは、貴方からだってね? 親友——雪が言ってた。雪はね、全部教えてくれたの。貴方が言った言葉も、貴方と行った場所も、全部」
千沙は、自分の唇を噛んだ。
「私……馬鹿みたいじゃない。私ばかり好きで……大好きで……。裕也も、私のこと好きだって思ってた。少しでも、想ってくれてるって信じてた」
千沙の茶色い瞳から、透明な液体が零れ落ちる。
でも、と彼女は呟いた。
「それは、瞞し(まやかし)だった」
「千沙っ……!」
裕也の言葉を、千沙は手で制す。
「言い訳なら聞いてあげる、言って」
千沙の声は、驚くほど冷酷だった。
- Re: 陽の当たる部室 ( No.4 )
- 日時: 2014/06/10 16:46
- 名前: 藍里 ◆dcuKuYSfmk (ID: IfRkr8gZ)
四話 別れ(後篇)
重苦しい沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、拓海だった。
「もー、秋さんたち酷いよー」
「……ピッキングは犯罪です、先輩」
拓海に見られたくなかったから、千沙は扉に鍵をかけて居た。
「……あ、これ、返すね」
千沙は左腕からブレスレットを外した。
金色のチェーンに、貝殻やフォーク、ヒトデなどの金色のチャームが付いた、華奢なブレスレットを。
「これ、裕也が初めてくれたんだよね。去年行った、修学旅行の帰りに」
「これ買うの、恥ずかしかったー。でも、千沙の為に選ぶの、すごい楽しかった」
「……ありがとう」
裕也は、ブレスレットを握りしめた。
「それ、裕也が捨てて。……私には、捨てられないから」
弱弱しく、千沙は微笑んだ。
「……分かった。最後に、言い訳してもいいか……?」
千沙は頷いた。
裕也は弱弱しく、微笑んだ。
「俺、すごい寂しかった。千沙、甘えてくれなかったし、一緒に帰っても文芸部の奴らの話題ばかりだったから……」
「……うん」
千沙は目を伏せる。
「だから、浮気なんかしたんだろうな。ごめんな、千沙。俺……千沙のこと好きだったのに……」
「私こそごめんね、裕也。私、裕也のこと大好きだったよ」
千沙の瞳から、大粒の涙が流れた。
「ごめんな、千沙。本当にごめんな……」
今にも泣きそうな顔で、裕也は千沙の頭を撫でた。
「……ううん、もういいよ」
泣きながら、千沙は笑った。
「……今までありがとう。さよなら」
千沙は涙を拭き、とびきりの笑顔を作った。
「俺こそ、今までありがとう。……愛してた」
裕也も笑い、千沙に背を向けた。
そして、部室を出た。
「……幸せになってね」
後ろ手に扉を閉めた裕也に、その言葉が聞こえたかどうか、定かではない。
裕也は小さくうなずくと、そのまま見えなくなった。
「……あー、疲れた!」
足音が遠ざかると同時に、千沙は涙を拭き、笑って見せた。
「れーちゃん、陽介。私、喉乾いちゃった。ココア買ってきて?」
「Yes,sir!」
見事な発音で二人は言うと、部室を飛び出した。
その瞬間、再び千沙の瞳からは涙が流れた。
「……本気だったんだ? 彼のこと」
「当たり前です。大好きでした……」
無茶苦茶に、千沙は涙を拭った。
「……千沙」
「拓海先輩、初めてですね。まともに名前呼んでくれたの」
「そうだな、千沙」
ぱぁ、と千沙の顔が輝く。
「ありがとうございます、拓海先輩。そして、これからもよろしくおねがいします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
拓海と千沙は、顔を見合わせて笑った。
四月三十一日。
ひとつの恋が終わったと同時に、一つの恋が芽生えた。
この気持ちは、一人の少女以外気が付いていない。
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