コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜
- 日時: 2017/02/18 17:23
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=34896
初めまして、ゴマ猫です。
以前からやってみたいと思っていたのと、文章力を上げるためにも短編集を今回やってみる事にしました。
気まぐれに書こうと思ってるので、更新は基本的に不定期です。シェフの気まぐれサラダ的なやつです。はい。
ライトな話から、少々シリアスな話まで、色々な物語を書けたらなと思っています。読んで頂いて、少しでも面白かったと思ってもらえたら嬉しいです。
参照が8000を超えました!
読んでくださった皆様ありがとうございます!
以下は、自分が書いた作品です。短編集を見て「この人の違う作品も見てみたい」と思ってくださった、心優しい読者様は是非どうぞ。リンクをTOPページと1ページ目に貼りつけておきます。
【日々の小さな幸せの見つけ方】
こちらで初めて書いた小説です。騒がしくも穏やかな、日々を描いた作品です。文章が結構拙いかもしれません。完結作品です。
【俺と羊と彼女の3ヶ月】
2作目です。可愛いけど怖い羊が出てきて、記憶を消されないため、主人公が奔走します。完結作品です。
この作品は、2013年夏の小説大会で銀賞を頂きました。投票して下さった皆様、ありがとうございます!
【ユキノココロ】
3作目です。高校2年生の冬、清川準一はひとりの不思議な少女と出会う。主人公達の過去と現在の想いを描いた作品です。完結作品です。
【お客様】
スルメイカ様
記念すべき一人目のお客様。続きが気になると言ってくださった優しいお客様です。
朔良様
綺麗で繊細な描写をされる作者様です。とくに乙女の『萌え』のツボを知ってらっしゃるので、朔良様の作品を好きな読者様も多いです。かくいうゴマ猫もその一人ですね。
はるた様
爽やかな青春ラブコメを書かれる作者様です。甘酸っぱい成分が不足しがちな読者様は、はるた様の作品へどうぞ。言葉遣いなど、とても丁寧な作者様です。
八田きいち。様
さまざまな小説を書かれる多才な作者様です。いつも着眼点が面白く、続きが楽しみになるような作品を書かれています。
峰川紗悠様
長編ラブストーリーが得意な作者様。
更新も早く、一話一話が短めなので長編と言っても読みやすいですよ。
覇蘢様
ゴマ猫の中では甘いラブストーリーを書く作者様で定着しております。いつも読んでいる人を惹きつけるようなお話を書く作者様です。
コーラマスター様
コメディが得意な作者様。ゴマ猫の個人的な意見ですが、コメライでコメディ色を全面に出している作品、またそれを書く作者様は少ないです。おもわず笑ってしまうような物語を書かれています。
澪様
丁寧な描写で読みやすく、物語の引きが上手で続きが気になるような作品を書かれてる作者様。その文章のセンスに注目です。
せいや様
ストーリー構成が上手い作者様。
ゴマ猫の個人的な感想ですが、どこかノスタルジックな印象を受けます。物語のテンポも良いので、一気に読み進める事が出来ますよ。
佐渡 林檎様
複雑・ファジー板の方で活動されている作者様です。
短篇集を書かれているのですが、読み手を一気に惹き込むような、秀逸な作品が多いです。気になるお客様は是非どうぞ。
橘ゆづ様
独特な世界観を持つ作者様です。
普段はふわふわとした印象の作者様なのですが、小説ではダークな作品が多く、思わず考えさせられるような作品を書かれています。
狐様
ファンタジーがお好きな作者様。
複雑ファジー板の方でご活躍されているのですが、ストーリー、設定、伏線、描写、全てにおいて作りこまれており、気付いた時には、いつの間にか惹き込まれている。そんな作品を書かれています。
村雨様
コメライで活躍されている作者様。
バランスの良い描写と、テンポの良さでどんどんと読み進められます。今書いていらっしゃる長編小説は思わずクスッと笑ってしまうような、そんな面白いコメディを書かれています。
ハタリ様
遅筆気味なゴマ猫の小説を読んで頂いて、また書いてほしいと言って下さったお優しいお客様です。
こん様
多彩に短編を書き分ける作者様。
読みやすい文章と、心理描写が上手です。
亜咲りん様
複雑ファジー板の方でご活躍されている作者様。
高いレベルの文章力とダークな世界観をお持ちで、読みごたえのある小説を書かれています。読めば物語に惹き込まれる事は必至です。
【リクエスト作品】
応募用紙>>80(現在募集中)
【朔良さんからのリクエスト】
彼女と彼の恋人事情
>>87-91 >>96 >>99-104
【佐渡 林檎さんからのリクエスト】
無題〜あの日の想い〜
>>127-129 >>132-140 >>143 >>146-147 >>154
【短編集目次】
聖なる夜の偶然
>>1
とある男子高生の日常
>>2-3 >>6 >>9 >>14-15
私と猫の入れ替わり
>>18-19 >>22-28
魔法のパン
>>29-30 >>34 >>37-38 >>41
>>44 >>47 >>50-51
時計台の夢
>>54-66 >>69-71
(この物語はシリアスな展開を含みますので、読む際はご注意下さい。読みやすくするためリメイク予定です)
とある男子高校生の日常NEXT
>>72-75 >>78-79
(この物語は前作の番外編となっております。前作の、とある男子高校生の日常を見ないと話が繋がりません)
雪解けトリュフ
>>162-163
クローゼットに魔物は居ない
>>167-169 >>174-178 >>179
(この物語はシリアス展開を含みます。苦手な方はご注意下さい)
【SS小説】
想いの終わり
>>166
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- クローゼットに魔物は居ない【6】 ( No.176 )
- 日時: 2016/12/30 23:20
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: ZsN0i3fl)
「すいません、少し遅れちゃって……」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げると、小夜は退室しようとしていた夏乃と目が合った。怪訝な顔をした夏乃に気圧されるように、小夜は半歩ほど後退りする。
「こ、こんばんは。初めまして、私は伊月って言います」
「……あなたが客人? 何でこんな時にこんな所へ来たのか知らないけれど、お気の毒様」
小夜はどことなく重い空気を感じながらとりあえず夏乃に挨拶をしてみるが、夏乃は訝しげに視線を向けたまま小夜に毒づき、そのまま脇を通り抜けて自室へと帰っていった。
緊張の糸が切れて、小夜は思わずホッと息を吐く。その様子を見ていた一孝が小夜に声を掛けた。
「体調はもう平気なのかい?」
「あ、はい、もう大丈夫です。ご心配お掛けしました」
小夜が腰を折って頭を下げると、今度は義隆が口を開く。
「伊月さんだったか? うちの妻がすまなかったね、気を悪くしないでくれ。帰られなくなって少しイライラしているようなんだ」
「い、いえ! 私は全然大丈夫ですから!」
見知らぬ年上の男性に話しかけられて、小夜は焦ったように胸の前で手を大袈裟に振る。焦るとオーバーなリアクションをしてしまうのは小夜の癖だった。その様子を見ていた望がクスリと笑う。
「んん?」
「……あ、ごめん、なさい」
小夜がその笑いに反応して望を見ると、望が隣にいた義隆の背に隠れながら小夜に向かって、どもりがちに謝る。
「……か」
望を見た小夜の唇が微かに震える。もしかして自分が笑ってしまった事で怒ってしまったのだろうか。そんな思いが望の頭の中でグルグル回る。そして次の瞬間——
「可愛いいいいいぃぃぃぃぃーーーー!!」
奇声を上げながら望が座っている席に駆け寄る小夜。
「もうなにこの子、超可愛い!!」
「あ、痛い。痛いよ、お姉さん……!」
小夜は乱暴に望の頭を撫でまわし、それが終わると頬を手の平で挟むようにして先程とは打って変わって緩みきった笑みを浮かべている。子犬でも愛でるような扱いに望は困惑しながらも、なすがままにされている。
「んんっ! 伊月さん? 望が困っているから」
「はっ、すいません! 可愛くてつい……」
義隆のわざとらしい咳払いで我に返った小夜が望から手を離す。解放された望の髪の毛はあっちこっち逆立っていて、くしゃくしゃになっていた。望が乱れた髪を手櫛で直すと、一孝がチラリと小夜に視線を送る。
「さて、全員揃ったようだからそろそろ食べようか。せっかく紫苑が作ってくれたのに、冷めてしまっては台無しだ」
一孝のその一言で小夜も居住いを正し席に着いた。
テーブルの上には具がほとんど入っていないスープとパン並べられている。質素なその食事に義隆は何かを言いたそうに一孝の顔を見た。
「いつもこんな食事なのか?」
「いや、せっかく兄さん達も来ているのだから、もう少し豪華にしたかったのだけれど……」
一孝はそこで言葉を切って窓の外を見る。台風でも来ているのか、外の激しい雨は止む事なく降り続いている。望達がここに来てからもう大分時間が経っているが、時折強い風が窓を叩き、その度に屋敷がガタガタと悲鳴を上げている。それはいまだ外の風雨が激しい事を証明していた。
「なるほどな……」
一孝の視線で察した義隆は静かに頷く。
義隆も一孝の言わんとしている事を理解して、それ以上は何も言う事はなくスープに口を付けた。それに続くように、望や小夜も銀のスプーンで一口。
「うんっ、スープ凄く美味しいです。紫苑さん」
「ありがとうございます」
小夜が驚いたようにそう言うと、一孝の後ろに立っていた紫苑が頭を下げる。望も小夜の言葉に頷いて同調すると、義隆も「旨い」と小さく呟いた。
「お口に合ったようで何よりだ。紫苑の料理の腕はヘタな店より美味しいからね」
自分が作った料理を褒められた訳でもないのに、紫苑の料理が皆の口に合ったのが嬉しかったのか、一孝が満足気に笑い自らも口を付ける。そうして重かった雰囲気がようやく和やかな方向に傾いてきた。
「あ、あの、雪花ちゃんのご飯は?」
「ん? あぁ、心配してくれているのかい?」
穏やかになった空気を察して、望が胸の内で気になっていた事を一孝に問い掛けると、一孝が一瞬だけ思案する。
「……そうだな。望くん、あの子に夕食を部屋まで持って行ってくれないか?」
「えっ? う、うん」
一孝の突然の提案に少し戸惑いながらも、望は了承した。望が横目で義隆を確認するが、止めるような素振りはみせない。もしここに夏乃が居たら、また酷い剣幕で止められていただろうが、幸いにも夏乃は先程退出している。
「あぁ、食べ終わってからで構わないよ。紫苑や私が行くより、歳が近い望くんが行ってくれた方があの子も気が楽かもしれないからね」
「まだ慣れていないのか?」
パンを千切って食べていた義隆が問い掛けると、一孝は眉根を寄せ困ったような表情に変わった。
「僕や紫苑にはほとんど話さないよ。少しずつとは思っているけど、ね」
一孝は自嘲気味にそう言うと、スプーンを置いた。いつの間にか空になった食器。大人が空腹を満たすには足りない量だが、今後の事も考えるとそうも言ってはいられない。
「あの〜、お話の途中すいません。スープのお代わり貰っちゃ……ダメですよね」
手を挙げて一孝に確認する小夜。やはり育ちざかりの小夜には少し物足りない量だったのか。小夜の遠慮がちな一言に一孝はフッと口元を緩めた。
「構わないよ。紫苑、悪いけどお願いするよ」
「畏まりました」
一孝の言葉に紫苑が仰々しく頭を下げると、綺麗に空になった小夜の食器を回収する。
「す、すいません。図々しくて……」
「ははっ、君くらいの歳だとお腹も空くだろう? 遠慮なんてする事はないよ」
「…………ふっ」
食糧の備蓄がそうある訳ではないのに、おくびにも出さない一孝を見て義隆は頬を緩めた。幼かった頃、一孝は優しい子だった。困った人が居れば放っておけなくて、捨てられた猫を拾ってきては、よく怒られていた事もあった。今でこそ遺産の問題で対立をしているが、そんな一孝の優しい一面が義隆の在りし日の記憶を思い起こさせる。
「……お父さん?」
「うん? 望も足りないのか?」
「ううん、僕はもうお腹一杯だから……雪花ちゃんにご飯持って行っていいかな?」
「あぁ、食べ終わったなら持って行ってやるといい」
(続く)
- クローゼットに魔物は居ない【7】 ( No.177 )
- 日時: 2017/01/15 22:57
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 5CfDMEwX)
ダイニングルームから独り離れて、向かった先は雪花の部屋。
昼間に来た時と違って、その薄暗い廊下が望の恐怖心を煽る。それは昼に雪花が話していた『クローゼットの魔物』の話を思い出したからだろうか。胸の内に騒ぎ出す恐怖を押し殺して歩を進める。
「……着いた」
雪花の部屋の前まで着くと、望は床に食事を乗せたトレーを置いて、扉をノックする。
トントンと優しく一回、二回。……だが、中から返事はない。少し不安になって、再び扉を叩いてみる。今度は少し強めに。数秒の間その場で待ってみるものの、返事は無かった。
「寝ちゃったのかな?」
困った表情でそう呟きながらドアノブに手を掛けて回してみるが、鍵が掛かっているのか、扉が開く様子はない。鍵が掛かっているという事は部屋の中には居るのだろう。そんな事を考えながら、昼間に来た時に紫苑が扉越しに話しかけてから入室したのを思い出して、望も真似てみる事にした。
「雪花ちゃん、ご飯持ってきたから……ここに置いておくね」
控えめなトーンでそう言うと、望はその場から離れる。すると、カチャと鍵が外される音が背中から聞こえてきた。その音に望は慌てて振り向き、雪花の部屋の前まで戻ると、ノブを回す。今度はスムーズに扉が開いた。
「……雪花ちゃん?」
望が部屋に入ると、ふわりと鼻の奥に甘い香りが飛び込んでくる。何処かで嗅いだ事があるような懐かしい香り。逸れていた思考を戻すと、ベットの上に雪花が座っていた。昼間に見た時も儚げな雰囲気を醸し出していたが、その光景は真っ白な雪の上に咲く花ようにも見える。
「何か用かしら?」
***
望が紫苑から貰ってきたスープとパンを差し出すと、雪花は首を傾げた。
「お腹空いてるでしょ?」
そう望が問い掛けると、雪花は合点がいったようで口元を少し緩めた。
「ありがとう」
そのままスープを少しだけ掬って一口。その様子を見て望はふぅと、安堵の溜め息が零れた。表情が変わらないので美味しいのか、それとも口に合わないのか望には分からないが、雪花が食事をした事にどこかで安堵したのかもしれない。
「ごちそうさま」
「えっ、もう食べないの? まだ全然残ってるよ」
スープを一口、それだけで雪花の食事は終わってしまった。望が驚いて声を上げると、雪花は少し困った表情に変わる。
「あまり食欲が無いの」
「そう、なんだ。体調悪いの?」
そう心配そうに問い掛ける望。雪花は目を伏せると、ゆっくりと首を横に振った。
「……怖いの。夜が来ると、また魔物がやってくる」
雪花の肩が小さく震える。魔物とは雪花が昼間に話していた物語に出てくる魔物の事だろう。でもそれはただの物語。実際に出てきて人を襲う訳ではない。望はどうしたものかと考えながら、重い口を開いた。
「ね、ねぇ、雪花ちゃんのそのお話、僕にも聞かせてくれないかな?」
望がそう言うと、雪花は少し驚いた表情に変わる。
「どうして聞きたいの?」
「人ってね、怖いお話や嫌な思いは誰かに話すと楽になるんだって。……って、お父さんが言ってたんだ」
途中まで安心させようと、けれど最後にバツが悪そうに付け加えた。望は恥ずかしそうに頬を少し掻いて、雪花から視線を逸らす。照れ隠しというにはあからさま過ぎて、自分自身の体温が上がっていくのが分かった。
その様子を見て、長く伸びた自分の髪を触りながら雪花はふわりと微笑んだ。
「……うん、じゃあ聞いて」
***
雪花が望に話をし始めてから、どのくらい経っただろうか。ほんの数分だったかもしれないし、数時間だったかもしれない。それくらい雪花の話に望は惹き込まれていた。
「…………」
全ての話を聞き終えて、望は溜め込んでいた息を吐いた。
クローゼットの魔物、それは物語によくある展開だった。クローゼットに住みついた魔物が、夜になると這い出てきて人を襲うという。
けれど、この魔物は寝ている人間を襲う事は無い。だから、夜は起きていないで寝ている事が唯一の対抗策だった。物語に出てくる少女は、両親の言いつけを破って魔物の正体を暴こうとするが、魔物が出てくる事はなかった。だが少女が眠りにつくと、少女の両親が殺され、隣人が殺され、自分以外の人間が次々と死んでいく。
最後に一人残った少女は誰も居ない家で魔物の存在に怯えながら生きていく。そんな物語だった。
「その子は最後どうなっちゃうの?」
「わからない。そのまま独りぼっちで暮らしたのかもしれないし、殺されてしまったのかもしれない」
雪花のその言葉に望は沈黙する。
その境遇はとても雪花に似ていると望は感じていた。両親が亡くなり、夜に怯えて生きているその姿は物語に出てくる少女と重なった。雪花の話を全て信じるのであれば、雪花の両親は魔物に殺されてしまった事になる。
けれど、現実にそんな事があるだろうか? 少し考えてから嫌な考えを思考の外に追い出すようにかぶりを振る。
「大丈夫、僕が雪花ちゃんを守るから」
無意識に重ねた手に温もりが伝わる。自分が大胆な事やってしまったと気付き、慌てて手を引っ込めようとすると、雪花はその手を握ってきた。
「……あなたの手は温かいのね」
「……あ、う、うん。ねぇ、雪花ちゃんは——」
望がそう言いかけた所で、ドアが勢いよく開いた。
「望っ!! どうしてここに居るの!?」
鬼のような形相で入ってきた夏乃はドスンドスンと苛立った足音を立てながら望に近付くと、乱暴に望の腕を掴む。
「い、痛い、痛いよ。お母さん」
「あれほどこの子と話しちゃダメだって言ったでしょ!! 帰るわよ!!」
夏乃は望を強引に引っ張って雪花から距離を取ると、その鋭い視線を雪花に向けた。
「あなたみたいな疫病神は今後一切、望に近寄らないで」
「………」
「お母さん!!」
そう吐き捨てた夏乃に、澄んだ透明な瞳で見つめる雪花。
望が抗議をしようと珍しく声を荒げるが、そのまま腕を掴んで部屋の外へと連れて行かれてしまった。嵐が過ぎ去った後に残ったのは静寂。真っ白な部屋に残された雪花は、望が出ていってしまった扉をじっと見つめる。
「……私は、疫病神?」
ポツリと呟いたその言葉は誰にも届く事もなく、静かに部屋に溶けて消えた。
(続く)
- クローゼットに魔物は居ない【8】 ( No.178 )
- 日時: 2017/01/25 01:15
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Yt9nQPKm)
——ドンドン!
夜も更けて来た頃、屋敷の中に乱暴に扉を叩く音が響き渡る。その音はダイニングルームの片付けをしていた紫苑の耳に届き、紫苑はテーブルを拭く作業を中断して玄関へと急いだ。
「はい、どちら様でしょうか?」
紫苑が扉を開けると、風雨と共に大きな体躯の男が顔を覗かせる。
「夜分にすまない。道路がこの雨のせいで寸断されて立ち往生しているんだ。迷惑でなければ一晩泊めてくれないだろうか?」
黒いジャケットに黒いサングラス、さらに黒い帽子。上から下まで全身を黒で統一した服装は、時間も相まってかなりの怪しさが漂う。紫苑は男の全身を検分するかのように見定めると、表情を変えずに口を開く。
「私では判断しかねますので、旦那様にお伺いしてまいります」
***
「また来客だって? しかもこんな時間に?」
紫苑が男を玄関に待たせたまま、一階にある一孝の部屋に行き経緯を話すと、一孝は渋い表情へと変わった。それもそのはず、義隆や夏乃に望。それに小夜までが来ているのに、素性も分からぬ怪しげな男を招き入れるのは少々抵抗があった。
部屋に関しては問題ないが、懸念していた食糧の問題もある。かと言って、このまま見捨ててしまうのも道徳的にどうなのだろうか。そんな思いがせめぎ合って、結論を出せずにいた。
「いかがいたしましょうか?」
「……そうだな、今晩だけなら大丈夫だと伝えてくれ」
「畏まりました」
悩んだ末に一孝は紫苑にそう告げる。もともと性根が優しい一孝は、困っている人を見過ごせない。例え騙される事になったとしても、一孝は手を差し伸べてしまう。そのせいで今まで色々な厄介事を抱え込んできた。だが彼にとって手助け出来る状況にあるのに、困っている人を見捨てるくらいなら、騙される方がマシなのだろう。
「……何事も無ければいいのだが」
脳裏に一抹の不安が過る。自分の判断のせいで、何かとんでもない事が起きてしまうのではないかという思いが一孝の胸の中で騒ぐ。
もちろん根拠など無い。ただそう感じるのだ。窓の外は激しい雨。外壁を叩く雨音が一定のリズムを刻んで、他の音を掻き消してゆく。一孝はキャンバスの描きかけの絵を見つめて浅い溜め息を吐く。
「…………雪花」
キャンバスの中に描かれた、向日葵に囲まれて眩しい笑顔を見せる雪花。
およそ普段の雪花のイメージとはかけ離れているが、とても綺麗に描かれていた。養子として引き取った雪花は壁を作っていて、多くは語らず一孝とも必要以上の会話をしようとしなかった。彼女との距離を縮める為に描いた一枚の絵。それはしがない画家としての彼女へのプレゼントだった。少しでも彼女が心を開いてくれる事を願って。
***
「今晩だけでしたらと、旦那様の許可を頂きましたので中へどうぞ」
「恩に着る」
紫苑は玄関で待っていた男を招き入れる。男は目深に被っていた雨避けの帽子をおもむろに脱ぐと、しっとりと水分を含んだ髪をかき上げた。
「今タオルをお持ち致します」
「あぁ、助かる」
紫苑がその場を離れると、男は手に持っていた重そうなボストンバックを床に降ろした。
その瞬間、ガチャリと金属音が混じった不穏な音が響く。男はその音にハッとして、辺りを見渡した。
「……あ、あの」
「ん?」
そこで不意に一人の少女と目が合った。
「……雨が酷くてな、今晩だけ雨宿りさせてもらう事になった。世話になる」
「いえ、私は違うんですけど。私も雨宿りさせてもらっている身というか、なんというか……」
カメラ片手に焦ったようにそう言う小夜に、男はふぅと安堵の溜め息を漏らした。どうやら先程の音は聞こえてなかったようだ、と。
「そうか、じゃあ俺と同じか」
「は、はい」
そこで会話が途切れ沈黙が流れ始めると、男はキョロキョロと何かを探すような素振りを見せる。
「この屋敷は広いな。一体どれだけの人が住んでいるんだ?」
「……えっと、三人だけみたいですよ。でも今は私と、あと三人ここに来てるので、七人ですね」
「そうか、少ないな」
「……ですね、こんなに広いのに」
男は言葉少なにそう呟くと、紫苑が戻ってくるまでそれ以上話す事はなかった。
***
時計の針が天井を指す頃、眠たい眼を擦りながら望はベッドから起き上がった。
灯りは消え、静まり返った部屋の中で規則正しい寝息だけが聞こえてくる。さすがに今日は疲れたのか、義隆も夏乃も深い眠りに落ちていた。
「……喉、渇いた」
のろのろと歩を進めて、部屋の扉を開ける。
ようやく雨は止んだようだが、空に居座った厚い雲は月明かりさえ隠し、長い廊下を不気味に見せた。少しだけ望の脳裏を雪花の話が掠めたが、勇気を出して歩き出す。
建物が老朽化しているせいなのか、先程から外で風が吹く度にギィギィと軋んだ音が鳴っている。
「……うっ」
望はパジャマの裾を強く握ると、少しだけ歩調を速める。
やがて一階のダイニングルームまで降りてくると、奥にあるキッチンまで一気に走った。
「あった。んっしょ、と」
背伸びをして棚に会ったグラスを拝借すると、夕食の時に用意されていた容器から水を注ぐ。並々と注いだ水を飲み干すと、作業台の上にグラスを置いた。
「洗わないと」
望は辺りを見回すが何処にも蛇口らしき物は見当たらない。
実はここでは井戸水を使っていて、洗い物をするのならば外にある井戸に汲みに行かなければいけないのだが、そんな事を望が知る訳もない。故に容器に水が残っていたのは幸運だったのだろう。
しばらく探したが、見つからない蛇口に望が困り果てていると、ダイニングルームから物音が聞こえてきた。
(続く)
- クローゼットに魔物は居ない【9】 ( No.179 )
- 日時: 2017/02/18 17:21
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: Mt7fI4u2)
こんな夜中に誰か居るのだろうか。恐る恐るキッチンを出てダイニングルームを覗き込むと、そこに幽かに蠢く人影が見えた。途端に望の心臓が跳ねる。
「…………も、もしかして」
そこまで言いかけて口を噤む。
雪花が話していたクローゼットに潜むという魔物。それが夜になって這い出てきているのではないかと、嫌な想像が過る。自分は夜になって起きてしまった。物語が正しければ、そんな自分を捜しに来たのではと。もちろん、そんな話は望も最初から信じていた訳ではない。しかし、昨夜の雪花の話は真に迫っていた。それだけに今の不安は大きい。
望は騒ぐ鼓動を抑えるように胸に手を当て、壁際から顔を半分だけ出すと様子を窺う。
「——な、い」
呻くような声音が望の耳に届く。何かを探している? そう思った望の鼓動が勢いを増す。望は知らないが、キッチンの奥は食糧保管庫があり、小部屋になっているそこで行き止まり。つまり、部屋に戻るためにはダイニングルームを抜けて行かなければならない。
「に、逃げないと」
望は自分自身に言い聞かせるように小さく呟くと、身を屈めてダイニングルームに進もうとした。だがその瞬間、足音がこちらに向かって近付いて来ているのが分かって、望は足を止める。ギシギシと音を立ててキッチンに向かってくる得体の知れない相手に、恐怖を感じながら後退するしかない。
「…………」
このままでは見つかってしまう。得体の知れない相手に恐怖を抱きながら、どこか隠れられるような場所はないかと探すが、望が隠れられるようなスペースは無い。
その内にどんどんと近付いてくる足音。蹲ったまま、もうダメだと望は目を瞑った。
「あれ? 望、くんだっけ?」
「……へっ?」
急に現実に引き戻されるような声音に、望は少し間の抜けた声が漏れてしまう。
「こんばんは、覚えてるかな? 夕食の時に一緒だったんだけど」
暗闇に慣れてきた目を更に凝らすと、見えてきたのは魔物でもなんでもなく、豪雨のせいで家に帰れなくなったという小夜だった。急に自分に抱きついてきてインパクトがあったせいか、顔は鮮明に覚えている。望はふぅっと深い安堵の息を漏らす。
「は、はい。覚えています」
「あはは、喉渇いちゃってさ、飲み物無いかなって探してたんだけど、望くんは?」
「あ、僕も、です。お水ならそこに」
そう言って望はキッチンの上を指す。快活に笑う小夜に毒気を抜かれ、さっきまでの怖かった雰囲気も薄れてきたせいか、暗闇も少し明るくなったような気さえした。
「こんな所にあったんだ。ありがとう」
余程喉が渇いていたのだろうか。小夜はグラスに水を注ぐと一気に飲み干す。
「ふう〜、まったく参っちゃうよね。夜の撮影していたんだけど、ここって無駄に広いし、暗いし迷うし、もう散々」
「撮影、ですか?」
小夜の言葉に望が小首を傾げると、小夜はニィっと笑みを浮かべて肩に下げていたカメラを望の目の前に持ってきて、自慢げに見せた。
「これこれ。私、写真を撮るのが好きなんだけど、こんな場所滅多に来られるところじゃないからね。今の内って思って。あ、もちろん許可は貰ってるよ」
少し大きめのレンズが付いたカメラ。随分と使い込んでいるのか、革のストラップは所々痛んでいる。小夜は誇らしげに自らのカメラの良さや写真の魅力を望に語り始めるが、望には聞き慣れない言葉があり過ぎて理解が追い付かなかった。
「——っと、ごめんね。もし望くんが興味あるようなら私が教えてあげる」
「あ、ありがとうございます」
「それにしても……」
小夜はチラリと望の顔を覗き込むと、熱のこもった溜め息を漏らす。
「望くん可愛いよね……私の弟にならない?」
「へっ!? そ、その、ごめんなさい」
「あはは、フラれちゃった」
「……ご、ごめんなさい」
望が申し訳なさそうに小夜に謝ると、小夜はカラカラと笑う。
「いやだな〜、冗談だって冗談。実は私さ、君くらいの弟が居たんだよね」
そう言って、小夜は少し目を伏せた。
「でも、居なくなっちゃった。私の前から突然、ね」
「……もしかしてそれって、クローゼットの魔物?」
望が恐る恐る小夜に問い掛けると小夜は目を丸くして、まるで聞いた事がない言語を聞いたかのような表情に変わった。望が考えていた事はどうやら違ったようだ。突然居なくなる、つまり殺されたのだとしたら、雪花から聞いた話と酷似してはいるが、やはり空想の域を出ない。
「クローゼットの魔物? 何それ? よく分かんないけど違うよ。そんなファンタジックなものじゃないよ。ごめん、私の言い方が悪かったね。弟はね、事故で亡くなったの」
「……事故」
「そ、でも突然だったから、私にしたら急に居なくなっちゃった感覚なんだ」
小夜は過去に想いを馳せながら、今度は持っているカメラに視線を移す。
「私が写真を撮るようになったのもね、弟が居なくなって、あぁ、大事な思い出はきちんと残しておくべきだよなぁ〜って思ったから」
カメラを慈しむように撫でながら、小夜の長い睫が揺れる。
「望くんもね、今は分からないかもしれないけど、大事な人はいつも一緒でも、いつまでも一緒な訳じゃないから、その傍に居る時間を大事にしてね」
「は、はい」
「たはは。何か水飲みに来ただけなのに、暗い話しちゃったね。さて、そろそろ部屋に戻ろうかな。望くんも帰るよね?」
望が首肯して、二人が歩き始めようとした瞬間、どこからか変な音が聞こえてきた。
「……何? なんだかジャリジャリって嫌な音」
「……この奥、から聞こえる」
望が食糧保管庫の方を指差すと、小夜は身を竦ませた。
「嫌だなぁ、ネズミじゃないよね? ここのお屋敷、変な隠し部屋とかもあったし……うぅ、思い出したら怖くなってきた」
隣で独り言のように呟く小夜の言葉が気になって望が首を傾げながら視線を向けると、小夜はさっきまでとは打って変わって顔色が蒼白になっていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん、平気平気。ちょっと昼間に見たハードなやつ思い出して気分悪くなっただけ」
(続く)
- Re: 気まぐれ短編集〜ブレイクタイム〜 ( No.180 )
- 日時: 2017/02/27 03:25
- 名前: 珠紀 (ID: CejVezoo)
お久しぶりです。
珠紀又は、覇蘢の名で活動してたものです。
覚えてらっしゃるでしょうか?(汗)
リアルも落ち着いてきたので、また小説を書き始めることにしました。
交流のあったカキコ民様達があまりお見受けされず寂しいです。
ゆっくりと読ませていただきました。
ゴマ猫さんのこの作品は、短編であるのに読み応えがあって読んだあとにとても満足感があります。
また最初から読みたくなる作品です。
このコメントを書いたあともま一から読みたいと思っております。
ゆっくり、更新頑張ってください。待ってます。
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