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魔砲少女 アイン 〜GOTT KUGEL〜 
日時: 2014/10/06 21:28
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: ZxqcZXZM)

目次

 0話 >>0
 1話 >>1
 2話 >>2
 3話 >>3
 4話 >>4
 5話 >>5 







 0話  






 唐突だが俺は死んだ。

 壮絶に。

 間違いなく。

 仲間を庇い、敵のゲリラ兵の銃弾をまともに正面から何十発も浴びせられたからな。

 お返しに渾身の力でバンザイゾンビアタックを仕掛けたら奴ら俺の神風ぶりに腰抜かしてた。

 だがこれ以上は限界だ。

 血だまりの中、相棒が必死に血止めをしていたが無理だ。

 助からない。

 それは死に瀕した俺自身が一番理解している。

 嗚呼、やっぱり俺の最後は『此処』だったか。

 死に場所が戦場とはなんとも俺らしい。

 まあ、覚悟していたからな。

 所詮傭兵稼業。

 好きでやっていた事だ。

 遅かれ早かれこういう結末が待っていただろう。

 しかし、こうもあっさりとはな・・・。

 もっと暴れたかったぜ・・・。

 次に生まれてくるならば、大戦中の時代か戦国の世に生きたいものだなあ・・・。









 刻一刻と迫る死の予感。

 意識がゆっくりと薄らぎ、深い暗闇が降りてくる。

 俺はその感覚に少しずつ飲み込まれる瞬間、聞いたのだ。

 奴の声を。

 アイツの————。



















 『僕と契約して【魔砲少女】になってよ!』






Page:1



Re: 魔砲少女 アイン 〜GOTT KUGEL〜  ( No.1 )
日時: 2014/09/13 16:29
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 0i4ZKgtH)

 1話 




 人々が忙しなく行き交う夕陽が照らす都市群。

 街並みを朱く淡い光りが影との境界線をハッキリと形作り、また分け隔てている。

 夕刻。

 または『幽哭』。

 逢魔が時。

 人外魔境の邪に連なる者どもが跋扈し始める闇の時間。

 人間は知らない。

 己がすぐ傍に潜む驚異の存在を。

 虎視眈々と獲物を品定めする異形の輩を。

 そして今日もまた蜘蛛の巣に絡め取られる蟲のように捕らわれる・・・。





















 人の気配は無い路地裏。

 明るさとは無縁とばかりに切り取られた暗影。

 その中からピチャピチャと気味の悪い粘着音が響く。

 『何か』がいる。

 それも得体の知れない『何か』が。

 闇の中心、長い悍ましい触手を幾重にも伸ばし女子高生とおぼしき少女の躰を味わうように嬲る化け物。

 「う・・・あ・・・」

 少女の眼には光は無い。

 虚ろに喘ぎ、怪物にその瑞々しい肉体を晒し、蹂躙され、全身を節くれ立った怖気立つ肉腫の波に身を任せていた。

 異形は少女をいたぶるのに飽きたのか、それとも腹が減ったのか無数の触手で絡め取ると巨大な牙が連なる口を大きく開ける。

 しどどに溢れる涎からすると後者かもしれない。

 哀れな獲物。

 闇の住人の餌食となり、その糧と堕ちる。

 抗う術を人は持たない。

 ただ『彼等』の欲望を満たす玩具でしかないのだ。

 そう、この時までは・・・。












 「オイタも対外にしとけよ、『業魔カルマ』」

 



 可憐な美声。
 
 突然在らぬ方向から見知らぬ少女の声が木霊する。

 瞬間、凄まじい轟音。

 同時に頭らしき部分が吹き飛び、絶叫を上げる怪物。

 反動で少女が勢いよく放り投げられると何処からか現れた黒いパーカーの小柄な人影が受け止め抱き寄せた。

 怪物はそれを敵と判断したのか触手の群れを我武者羅に振るい辺り構わず打ち付けた。

 次々と穿たれ砕かれるコンクリートの外壁。

 怪物の尋常ではない力が解る。

 しかし迫る肉の破壊鞭を華麗に捌き、躱す謎の闖入者。

 そしてすかさず懐から見事な装飾が施された黒金色の古式銃を取り出すと怪物に向けその引き金を迷うことなく引き絞る。

 暗闇に迸るマズルフラッシュ。

 連続して響き渡る轟音。

 吹き飛ぶ無数の触手。

 再び悍ましい絶叫を上げる異形。

 素早く離脱し、日の当たる場所に着地する敵対者。

 そこには形容しがたい白い生き物らしき物体がその人物の到着を待っていた。

 「やあ。どうやら捕らわれた人間は無事だったみたいだね。治療は僕に任せて『業魔』の浄化をお願いするよ」

 そう喋る白いウサギのような生物は横たえられた無残な少女にその長い耳を翳すと発光させる。

 これで治療しているとのことらしい。

 「・・・これで無事といえるのか?」

 パーカーの人物の声は先程の少女。

 フードを払いその幼さげな素顔を晒す。

 年の頃13,4。黒髪のセミロング。鋭い眼つきは怜悧さを帯び、年齢以上の何かを感じさせる。

 美少女だ。

 それもかなりの。

 「大丈夫。記憶も消えるし肉体の傷も元通りになるから心配ないよ」

 少女の疑問に治療しながらにべも無く答える謎生物。

 「そうか。なら『俺』はあの化け物を始末してくる」

 そう言って少女は踵を返そうとすると、

 「『俺』じゃないよね? アイン」

 謎生物がそのつぶらな、何を考えているのか解らない瞳で見詰めていた。

 「・・・『あたし』がカタをつける。これでいいだろ?」

 溜息を吐き面倒臭そうに返事を返すアインと呼ばれた少女。

 「うんうん、女の子らしくね。君はもう『魔砲少女』なんだから」

 謎生物がもっともらしく頷く。

 「わかってるよ」

 そして少女は常人を超える跳躍力で壁を翔け上がり、いまだ苦しむ異形を視界に捉えるとニヤリと猛禽類の笑みを讃えた。

 



Re: 魔砲少女 アイン 〜GOTT KUGEL〜  ( No.2 )
日時: 2014/09/13 16:30
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 0i4ZKgtH)

 2話 




 
 三角飛びで建物の壁側面を蹴り上げ、空中に躍り出る黒髪の少女アイン。

 眼前に構える。

 煌びやかかつ重厚な装飾の黒金の古式銃。

 眼前に捉える。

 傷口から腐臭がする体液を撒き散らし暴れる醜い汚物の塊。

 「汚たねえ化け物が・・・今、ぶっ潰してやるよお!」

 そして少女は自らの身体に術式を展開する。

 「いくぜ! 魔武装ディアンブル・アムズ!!」

 出現する魔法陣。

 光を帯び、衣服は分解され一糸纏わぬ裸身となる少女。

 浮かび上がる幾何学模様。

 流れ走る幾つもの魔術文字の羅列。

 それらが少女の頭、肩、腕、胸、腰、足を、駆け抜けると次々と全身に黒い装束の戦闘服が瞬時に装着される。

 同時に腰にフリルをあしらいつつも可愛らしいスカートが現れ、少女のか細い首元に漆黒のマフラーが現出し、たなびいた。

 魔光を掲げ、魔砲を狙い定める。

 その少女の名はアイン。

 魔砲少女アイン。

 「不浄なる者諸共に貫け、我が愛銃『死黒天使ダクシェル・ダムドエンゼルン』」

 囁きは濃密な魔力となり装飾銃に魔導が籠もる。

 禍々しくも美しい黒色の古式銃。

 まるで生命が、意志が宿るかごとく呼応し凄まじい魔力の共振を引き起こす。

 黒衣の少女アインが己の手中の荒れ狂う奔流を無理矢理押さえ付ける。

 自身さえも飲み込みそうな強大な力、なのに表情は愉悦を浮かべる。

 嗤っている。

 とても楽しそうに。

 「食らえ、化け物。永劫の呪牢へ。喰らえ、分身。空かした腹を満たしてやる」


 湧き上がる破壊の衝動。


 全身に込めた波動を両手へ、指先へ、その引き金へ。







 「断罪の無限獄殺ギルスティン・インフィニ・ヘイルシュトロム!!!!!」









 撃ち放った。

















 暗黒の閃光。

 どこまでも黒々しく雄々しく猛々しく。

 どこまでも無情に無慈悲に獲物を狩り尽くす。

 死神の鎌。

 逃れることは出来ない。


 降り注ぐ闇。

 断末魔。

 異形『業魔』は夜より暗く、太陽の輝きよりも灼熱と化したヴェールに飲み込まれ賎しい自身の存在に永遠に幕を閉じた。


 
















 いつもと変わらぬ夕刻の時間帯。

 人々が行き交う街並み。

 人間は曖昧にその生を生きる。

 己が生贄にえとなる事実も知らずに。

 無知ゆえに。

 無力ゆえに。

 ときにその深淵を覗き、垣間見る。

 そして知る。

 闇に蔓延る隣人たちの素顔を。





 

















 電波塔の避雷針に立つ黒衣の少女。

 漆黒のマフラーが風に煽られ靡く。

 その肩に白い奇妙な生物。
 
 「・・・ひとつ疑問、奴等は一体何匹いるんだ?」

 少女アインが可愛らしい声を発し、謎生物に聞く。

 「ん? 『業魔』かい。アレに数の概念は当て嵌まらないよ。幾らでも湧いてくるからね」

 さも当たり前の様に答える謎生物にアインは盛大に溜息を吐く。

 「はあ・・・傭兵やってた頃が懐かしいな。毎回グロ怪物相手は正直SAN値がレッドゾーンだぜ・・・」

 「でも君の望み通り戦いが満載の世界だよ。不満かい?」

 ヌイグルミの様な感情が籠らない小さな目で窺う非ウサギ型物体。

 「いや、形はどうあれ俺、じゃない『あたし』は割と楽しいよ? このイカれた世界。結構慣れてきたしこの体にも抵抗無いし」

 そう言い古式銃をクルクルと器用に指先で回すアイン。

 「なら良いんだ。君の様に適性が凄く高い素体を回収出来て僕のランクも上々だしね。これからも・・・ん? 業魔反応が出たよ。それも複数」

  ウサギ型生物の長耳がピコピコと遠くの街並みを指し示す。

 「了解! 速やかに業魔を浄化、殲滅する!!」

 一際高くジャンプし、跳ねるように建物を伝い移動する少女。












 人知れず此の世ならざる異形を狩る者。
 
 其の者、見目麗しき美しき超越の狩人。

 何時しか誰かが彼女らをこう呼んだ。





 『魔砲少女』と。

 

Re: 魔砲少女 アイン 〜GOTT KUGEL〜  ( No.3 )
日時: 2014/09/13 16:31
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 0i4ZKgtH)

 3話 





 『業魔カルマ


 人外の領界にあると同時に、すべての生物の天敵と言える存在————。


 異能異端の力を有し、深淵の波間に漂う空虚なる混沌の落とし児。


 それがもたらすのは絶対的な絶望。


 だが、その万物虚無を討ち滅ぼす者たちが現れた。


 『魔砲少女』

 
 その幼い躯の奥に絶大な力を宿した可憐な少女たち。

 
 並み居る異形を微塵に灰す無頼無双な乙女。


 果たして彼女たちは何者なのか?


 様々な出会いと別れを繰り返し、交わり紡いで奏でる唄物語。


 魔砲少女という名の少女たちが織り成す間奏曲インタールードが今宵も華麗に響き渡る————。
















 デハ、幕間劇ヲ始メマセウ。





 




 

 
 









 ・・・・・・・・・。










 ・・・・・・。










 ・・・。



















 走る。

 ただひたすらに走る。

 少女は走り続けていた。

 無我夢中で。

 逃れるために。

 未曾有の恐怖から。

 追ってくる。

 己の背後から感じる身の毛よだつ魔の存在が。

 今にも破れそうな心臓の鼓動を無視し、迫る怪異から必死に逃げる少女。

 暗闇に包まれた静まり返る森林公園。

 後悔。

 少女の胸を悔恨が拭う。

 近道なんてしなければよかった。

 いつもの帰り道を通ればよかった。

 部活帰りの遅い帰宅時間。

 ふと訪れた夜の森林公園。

 昼間はそれなりの人で賑わう憩いの場。

 しかし今は静寂が支配する何処か非現実な空間。

 何故、此処を抜けようとしたのか。

 確かに自宅までは近道だが此処はマズイ『噂』があった。

 人が浚われる。

 消えてしまうのだ

 唐突に、忽然と。

 いわゆる神隠しだ。

 だから極力ここには近づかないようにしていたのだ。

 特に夜は。

 なのに。

 学生服が子藪の枝に引っ掛かり破れるのにも構わず少女、遠野葉子は月明かりが僅かに差し込む森の最奥へと遮二無二に駆ける。

 振り返る。

 自分の後ろ、暗澹の底から『異様な何か』が刻一刻と距離を縮めるのを肌が刺すような冷気を受けて粟立つ。

 「はあっ! はあっ! はあっ!」

 息を切らせ何処をどう走っているかも解らずにただ、追手から逃れようと懸命に逃走を試みる。

 「きゃあぁっ!?」

 瞬間、何かが勢いよく少女のか細い足に絡みつきバランスが崩れ、強かに地面に身体を打ち付けた。


 「ううぅ・・・な、なに・・・?」

 葉子は己の足首に捲き付くそれを見て、更にそれが伸びる先の部分を見上げ息が止まりそうになった。

 「ひぃっ!!?」

 異形。

 何かの肉の集合体。

 よく見ればそれは所々脈打ち、何らかの生き物を想定させるが、少女には眼前の怪物に悠長に見識を分する余裕など微塵にも無い。

 「あ・・・ああ・・・ああああああ」

 ガクガクと壊れた人形のように震える少女を眼の無い双眸でまるで品定めをするかのごとく怪物は見詰める。


 そして————。

 「いやぁああああああああああああああっっっっっ!!!!!!!」

 無数の触手が異形の肉間から盛り上がり出でて少女の全身を絡め取った。

 悍ましい、ぬめる生臭い肉の触手が服の隙間から侵入し、直接肌を撫で付け這い回り犯す。

 「助けっ!!・・・うぶぅお!? おえええぇえっ、むぐぅうっっ!!!!」

 小さな唇を割り開き、太い肉塊がこじ開け喉を蹂躙する。

 声にならぬ声で咽び泣く少女をいたぶるように異形はこれでもかと少女の肉体を荒々しく嬲り、締め付ける。


 最早少女の命運も尽きたか。


 逃れ得ぬ汚辱の魔手に肉も魂も堕ちてしまうのか。


















 「否。貴女の命はここでは尽きない」







 






 稲妻が飛来し轟雷が奔る。



 異形の触手がたちどころに寸断され、瞬時に消し炭へと変化する。



 『ギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!』



 金切り声を発し仰け反る怪物と、拘束から解かれた少女。



 肉が焦げる汚臭が包む空間に先程まで存在していなかった濃密な魔力が広がり、異形との間に何者かの気配が満ちていた。



 バチッ、バチッ・・・と、流れ弾ける紫電の波動。



 色は白黄、纏うは雷の衣。



 そこに見知らぬ少女が立っていた。



 その手に白銀の長銃を携え、銃剣バヨネッタの切っ先をかざす白麗の美少女が異形と相対していた。



 「人域に仇為すモノ『業魔カルマ』。その罪深き円環の理から解き放とう」



 ゆっくりと銃剣を眼前にかかげる。




 「私は魔砲少女。今から貴様を無塵の果てへと導く案内人。『魔砲少女 ツヴァイ』だ」




 少女は雷光の輝きを帯びる瞳で見据えた。


Re: 魔砲少女 アイン 〜GOTT KUGEL〜  ( No.4 )
日時: 2014/10/06 20:03
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: ZxqcZXZM)

 4話 


 

 『ブゥルォオオオオオオオッ!!!!』


 獰猛な威嚇の雄叫びを上げる異形『業魔カルマ』。

 巨大な胴体を震わせ、自分の触手を断ち斬った目の前の歳いくばも無いであろう小さな少女を睨む。

 「・・・」

 閑静とした森林公園。そこに人外の化け物と対峙する少女という、ひどく奇妙な、アンバランスとした光景。

 腰先まである白のロングヘアー。

 身に付けるは白いワンピース。

 現実には在り得ない魔の者を眼前にしても、その涼しげな蒼い瞳を一切揺るがさせない強い意志を垣間見させる。

 その少女の後ろ、倒れ伏す先程助けた女子学生の傍らに何時の間にか現れた真っ黒い奇怪な小動物。

 ヌイグルミのような正体不明のそれは鋭利な三角形の瞳で女子学生を見やり喋り出した。

 「キキキ。ツヴァイ、この人間の雌ガキの外傷はたいしたことないぜ。記憶を改竄して近くの民家の玄関先にでも放り込んで置くか」

 白い少女は後ろを視る事無く手にした不釣り合いな銃剣が組み込まれた長銃を怪物に向ける。

 「事後処理は任せる、クロム。私はこの『業魔カルマ』を叩く」

 そう言うや否や、少女を中心として巨大な力場が形成され始めた。

 纏う紫電が折り重なり、絶大な魔力を現出させる。

 「蒼き孤高の雷よ。我が躯を守護する鎧と至れ。魔武装ディアンブル・アムズ

 閃光が迸り少女を包む。

 蒼雷が弾け、魔法陣が顕現される。嵐が巻き起こり奔騰狂転し、破壊と創造を一手に引き受ける。

 衣服は分解され少女の裸身を惜しみなく晒し、流入する波動が覆い尽くす。

 奔流は幾何学の魔導文字の羅列となり少女の頭、腕、胸、腰、足へと流れ同時に白銀色の戦闘装束が形成されて次々と身に付ける。

 絶大な魔量を孕んだ豪雷が爆ぜる。

 白亜のスカーフとレースをあしらったスカートを靡かせ、今、絶対の執行者が爆誕した。

 「業魔カルマ。貴様たちの逝く先は『無』だ」

 少女は蒼い稲妻を帯びながら口を開き、異端の怪物に言葉を投げ掛ける。
 
 「貴様たちには何も無い。霊も魂も存在価値さえも」

 言いつつ、白銀の銃剣バヨネッタの鋭い刃先を示し、その刃よりも研ぎ澄まされた殺気を放つ。

 その気迫に圧倒されたのか異形は微動だに出来ず、ただただその巨体を振るわせるしかなかった。

 「我が愛銃『雷鳳天使(フィ二クス・テスラ・エンゼルン)』。汝が裁くは永劫の下愚。汝がもたらすは勝刻の勲印」

 嵐と雷の魔力が濃縮され膨れ上がり、急速な勢いで白銀の銃剣に集束される。


 少女ツヴァイは引き金に指を合わせ、





「真雷の天覇滅極剣エーテルリヒタル・シェラハルトシュルト・ディセイバー



 

 そして一気に解き放った。





 眼を覆う眩しい光の大剣。


 それは天を穿ち焦がす。


 疾風迅雷、神風塵雷の破魔の剣。


 
 圧倒的、力の差。



 異形は確信する。



 これは己の存在その物すべてを消し去る力。



 それすらも理解の範疇を超え、否定してしまいたくなる強さ。


 
 その醜い肉体は徐々に蒸発し、那由多、不可思議、無量大数の雷に貫かれ、一瞬の内に掻き消え、滅する。
 



 そして空間は白一色に塗り替えられた。
 
 

 

Re: 魔砲少女 アイン 〜GOTT KUGEL〜  ( No.5 )
日時: 2014/10/06 21:27
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: ZxqcZXZM)


 5話 





 ほんの一瞬、公園が真昼のごとく照らされ、直ぐに元の暗闇と静寂さが訪れる。

 大地には何かが焦げた痕跡の後が残り、ブスブスと黒い煙りを燻ぶらせていた。

 「・・・終わった。誰か来る前に早々に消えよう、クロム」

 少女ツヴァイが白銀の髪とスカートをなびかせ、倒れ伏す少女に魔術的な何かを施している黒い謎の生物に言う。

 「キキキ。丁度治療と記憶処置も終わった処だぜ。とっとと雌ガキ連れてズラかろうぜ、ツヴァイ」

 黒いネコ?の様な生物の言葉に頷き、少女を抱き上げるツヴァイと呼ばれた少女。

 そして瞬時にその場から跳躍、生い茂る針葉樹の背丈を軽々と飛び越え夜空に舞う。

 満月に照らされ、たなびくプラチナブロンド。

 幻想的で、眩惑的。

 非現実。

 此の世のものではない美しさ。

 そして異能の少女は黒い小さな御供を傍らに連れて闇天の彼方へと姿を消したのだった。























 

 遠野葉子は首を傾げていた。

 昨日のいつもの部活終わりの帰り道、急に体調が悪くなり近くの住宅街へと助けを求めた。

 親切な老夫婦が甲斐甲斐しく介抱してくれて大事には至らなかった。

 自宅から家族が迎えに来て何度もお礼を言っていた。






 「・・・う〜ん」

 難しい顔をして机に頬杖をついて唸っていると親友の少女が不思議そうに声を掛けてきた。

 「どうしたの? 葉子。朝からうんうん変な顔して・・・」

 「あ、初美。実はさ昨日・・・」

 葉子は同じクラスメートで部活仲間の篠崎初美に昨日の出来事を話した。

 「そんなことがあったの・・・? やっぱり根を詰め過ぎだよ、確かに大会が近いから練習はキツイけど、葉子はエースで人一倍頑張ってるから・・・」

 心配そうにする初美。

 「しょうがないよ、先輩たちの最後の大会だからね。足を引っ張らないようにして、何としてでも優勝して華を添えてあげないと」

 苦笑いしつつも気合い十分とばかりガッツポーズをとる葉子。

 「まったくもう! 無茶したら意味無いってば!!」

 プリプリと怒る親友にごめんごめんと謝る。

 いつもの日常、いつもの風景。

 何も変わり映えしない毎日。

 しかし、ふと感じた違和感。

 何処か調子の外れた弦楽器のように脳裏に刻まれる。

 何かがおかしかった。

 それが何なのか、解らない。

 思い出そうとすると、得体の知れない怖気が背筋を伝う。

 まるで思い出すのを拒絶するかのように・・・。


 葉子がそんなことを考えていると始業ベルのチャイムの合図が鳴り響き意識の片隅へと思考を追いやった。

 そしてそれは直ぐに忘却の久遠へと葬られた。





 





 ホームルームが始まり担任が教室のドアを開けて入ってくる。

 その後に続くようにひとりの少女が入室してきた。

 黒髪の小柄な美少女。

 唐突の闖入者にクラスがざわめき出す。

 「あー、ごほんっ! 突然だが我がクラスへ転校生が入る。さ、自己紹介を」

 担任がワザとらしく大きく咳払いし、騒ぐ生徒たちを静める。

 紹介を促された黒髪の少女が壇上に上がり黒板に己の名を書く。

 「皆さん初めまして。今日からこの付属繚蘭学園でお世話になります、『黒ヶ嶺 亜依(くろがみね あい)』です。よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げる少女。

 何気ないちょっとしたイベント。

 今の時期に珍しい転校生。



 
 
 だが、それは非現実の始まり。

 序曲にしか過ぎない————。


 












 

 学園の屋上。

 その給水塔の頂上。

 白いウサギのような生物が感情が無い瞳で街並みを見下ろしていた。


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