コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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COSMOS【ゆっくり更新再開】
日時: 2017/08/14 01:01
名前: Garnet (ID: KG6j5ysh)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?mode=view&no=10581

真っ暗で、何も見えない。
何も聴こえない。

自分が何者かも、わからない。

でも、
貴方のことは
ちゃんと憶えている…

碧い瞳

真白な肌

琥珀みたいな髪

長い睫

細い指

クリスタルみたいに、透きとおった声。


すべてが
自分を包み込む。

でも、空しく その記憶さえも風化していく…

名前…
なんだったっけ?


次に目を覚ましたときも

必ず貴方を

見つけ出します———————




☆——・——☆——・——☆——・——☆——・——☆——・——☆



【Message from author】


(2017/8/14)新板へのスレ移動が完了しました。


クリック、閲覧、まことに有難うございます。こんにちは。
Garnet(ガーネット)と申します!
わたしのこと知ってる人ー?と訊いたら、10人中3・4人くらいは手を挙げてくれるかと思います← (このような拙作が2015夏小説大会で賞を戴くことができました。)
あっ、お帰りになるのでしたら、せめて名前だけでも覚えてからブラウザ閉じてください(汗)

(2015/4/6)URL欄に プロフィールのURLを貼り付けました。
一部を除き、各スレッドのURLを整理してあります。



【Contents(New-type)】>>163

【Contents】>>160


Special thanks(`ー´ゞ-☆

【Guests】>>302 ☆いつもありがとう☆
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【Information】>>383


【Twitter accounts】@cosmosNHTR(こちらは「Garnet」の名前で。) @garnetynhtr(こちらは今のところ「がーねっと」の名前で。)

(現実世界のほうでわたしのことを知っている方へ。
友人でも家族でも、スレッドにしろTwitterにしろ、閲覧したい場合には『必ずわたしから許可を得てください』。
いくらこんな相手だからといっても、最低限の礼儀は忘れないでくださいね。)





念のため、養護施設や乳児院、児童とその保護者についての法律関連のことや実例などは調べさせていただいたりしましたが、すべて正確にこの世界に写しとることは不可能と判断したため、本作ではこのような設定や物語の形をとらせていただきました。
違和感、不快感などありましたら申し訳ございません。
 
 
 

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Re: COSMOS【ゆっくり更新再開】 ( No.415 )
日時: 2016/09/06 17:55
名前: Garnet (ID: lQjP23yG)

〔知美 9歳 空っ風〕『木枯らしに震える』



お父さんは、前橋のほうの、バーみたいなところで働いているんだと言っていた。私たちから離れて、静かな毎日を送っていた。
3人の空気が軋み始めたのは、なんの前触れもなく、突然のこと。
"あれ"以来、お酒やタバコに手を出すようになっていたお母さんは、お父さんのいるバーに、偶然にもふらりと顔を出したらしい。とはいえ、当の彼女はその時点で酔っていたので、目の前のスタッフがお父さんだとは気がつかなかった。

微妙な空気のまま、買う側と売る側の立場で固定される世界。
酔いがさめたとき、お母さんはどうなっちゃったんだろう。

彼女は、ふとしたきっかけで、胸の内を、長くながく語り始めた。お父さんはそれを、他人として聞くに留めようとした。

お父さんが、そのときお母さんは何て言っていたのか、教えてくれたけど、私にはよく解らなかった。
彼も、どうにか言葉を噛み砕きやすいように選んでくれていたけど、噛み方を間違えてしまっていたのか、そもそもまだ噛みきれるような歳じゃなかったのか。
おかげで、そんな大切な言葉を忘れてしまっている。

……夜も更けていき、お母さんはテーブルに突っ伏して、眠りこんでしまった。

そこから先の話は、ひとつひとつの単語が複雑に絡まり合ってしまって、余計に覚えていない。
お母さんが家に帰ってこられなくなったというのが、どうにか理解できた程度だ。




私の風邪が落ち着いてくると、お父さんが家の色々なものを 段ボールなんかに詰め始めた。ここから引っ越すのだと言う。
私も、特に思い入れも執着も無かったから、すぐ首を縦に振った。
そうしてやって来たのが、今、私が住んでいるところ。私たちの施設があるまち。

知美に寂しい思いをさせたくない、と言って、できるだけ家に近いところで働くことにしたようだ。
気にしないでいいよ、なんて嘘はきっと見抜かれるだろうと踏んで、私も素直に喜ぶことにする。喜んでいると 認識してくれていたかは別として。

また笑えるようになった。美味しいご飯を食べられるようになった。
これで、少し形は違えども、私たちなりの幸せは手にできたんだと思っていた。
……そう、思いたかった。
でも、そうはなれなかった。



お父さんが、いなくなったから。



「お母さんがここに来るかもしれないから、知美はそれまで、待っていてくれ。いい子で留守番できるよな?」

そう、言い残して。
一人ぼっちで帰ってきたら、きっとお母さんはまた怒ってしまうと思った。だから待っていたのに。来る日も、来る日も、私は一人きり。

引きこもる毎日に嫌気が差してきたから、昼間はアパートの前でぶらぶら……といっても遊んでるだけなんだけど、それが暇潰しになってきた。
縄跳びしたり、縁石の上を歩いてみたり。よく決まった時間に おじいさんが柴犬を連れて私のいるところを通るので、彼と話をしたり、犬とじゃれあったりすることもあった。
時代も時代だし、あのアパートは隣人にも無関心な人たちばかりだから、挨拶さえしていれば面倒事も起こらない。そういう環境にも、もしかしたら救われていたのかも。

そんなある日に、出会ったんだ。
奈苗ちゃんの、お祖母さんと。
前に一度、彼女のことは話したことがあるけれど、このくだりから出会ったのだということは初めて話すと思う。

最初に見たときは、後ろ姿だけだった。多分、じっと見られていたのに気がつかなかったんだと思う。
そのことを忘れかけた、3日後、彼女は再び現れた。
気配を感じなかったので、目の前にいきなり現れた彼女に 少しびっくりした。

「お婆さん、何か用?」

白髪の、外国の人みたいな。
歳としてはそこまでとっていない筈なのに、もう随分、老いを感じるものがあった。
決して穏やかとは言えぬ表情から、感情は読み取りにくい。

「お前さんにな。ちょっと話しておきたいことがあったんだよ。」
「え?」
「今すぐ、家を出て行きなさい。」
「な、何で?!
 そんな事したら、ママが怒っちゃうよ!」

さっき話したとおり、一人きりで帰らせたら、あの人が何をしでかすか分かったもんじゃない。
だから嫌だと言うのに。

「なぜだ?1週間も平気で家を空けるような親を、そんなに怖がる必要はないだろう。
 次に母親が、5日帰って来ないようなら、すぐに捨て去りなさい。
 いいか、5日だ。」

半ば圧力的だった。
見たことのないような瞳の色をギラリと光らせ、もっと私に近づいてくると、私の手に小さな紙を握らせた。

「わかったよ…」

なにか事情があるんじゃないだろうか。そう思って、素直に彼女の言葉を呑み込んだ。
それに、今思えば……あの人は、それよりも前から私のことを見ていたに違いない。そうして、短期間で距離を詰め、恐怖にも似た信用を植え付けた。
そんな手段しか使えなかったのだとしたら。もしかしたら、あの頃"私達"の知らないところで、とんでもないことが起こっていたのかもしれない。

そうして5日後、土砂降りの夕方。
一瞬は躊躇ったけれど、約束どおりに家を出た。

風にあおられ、傘としての役割を充分に果たしきれていないそれに 大きな粒の雨が音を立てるあの空間ばしょで、私は何を思って歩き続けていたんだろう。
不思議と後悔はないし、こんな暗い場所から脱け出せるんだと勝手な希望を抱いてアパートを飛び出したけれど、何でかな、施設に着いてから、泣いていた記憶ばかり掘り起こされる。

しわくちゃになったあの紙は、今は恵理さんが 大切に預かっている。

Re: COSMOS【ゆっくり更新再開】 ( No.416 )
日時: 2016/10/17 07:13
名前: Garnet (ID: XnbZDj7O)






透き通る朝の光が、私の目蓋の上でぴたりと静止した。
夢と現の狭間で目眩をおぼえ、朝陽に背を向ける。

ああ、私、あの頃の夢を見ていたんだ。

寝返りを打っただけなのに、新しく触れた部分のシーツはかなり冷たくなっていた。私は、この感覚があまり好きになれない。
後頭部がじわじわ温かくなって、二度寝をしたくなってくる。夢の中だけでも構わないから、幸せになりたい。醒めた時の虚しさなんて、今の私にとってはどうでもいいことだから。
…うとうと、うとうと。
現実から逃げようとする自分から逃げる。
ぐるぐるぐるぐる、何処に走っても結局は 同じところをまわるだけだ。

二度寝をしたい気持ちは山々だけど、蘭ちゃんや大人たちが 朝ご飯を作って待ってくれているから、顔をぶん殴るくらいの勢いで起き上がった。
ぱっぱと布団を畳み、押し入れの中に放り込んで、目を覚ましに洗面所へ行く。食前の歯磨きまで済ませればばっちりだ。

……こうしていつも通りにしていれば、何も考えずにいられるだろうと思った。

「おはよう、知美ちゃん!」

重たい両足を引きずって 一階の廊下を歩いていたら、後ろから軽やかな足音とともに蘭ちゃんの声がして、わさわさと頭を撫でられた。
すっかり目に馴染んだ高校の制服姿で、青春真っ盛りな笑顔が向けられている。

「おはよう……あれ、なんで制服着てるの?」
「まだ眠いんか知美ちゃん!今日は土曜日やから、わたしの学校は昼まで授業あるんだよ!」
「あ、そっか。」

自覚がないけど、私はまだ寝ぼけているみたいだ。蘭ちゃんの通う高校は 土曜日も授業があるんだということをすっかり忘れていた。
写真部は基本平日だけだし。

「知美ちゃんは今日何するん?」
「特に何もないなあ。学校で借りた本を読み切ろうと思ってるくらい」
「本いっぱい読むもんな、すごいわあ…わたしが知美ちゃんと同じ歳の頃は、漫画しか読んでへんかったし」
「えへへ……」

"すごい"の一言に、思わず照れ笑いが隠せなくなる。
でも そんなこと言ったって、私は運動神経がいいわけでも友達がたくさんいるわけでもないから、蘭ちゃんのほうがすごいと思うんだけどな。
本当に、私には取り柄がない。

蘭ちゃんと適当に話しながら食堂の部屋に入った。やけに静かだなあと思ったら、全く人がいない。ルームメイトの人達、起こしてくるべきだったかなあ。
その代わりに、朝日が差し込む奥の明るい窓際のテーブルの周りには いつものメンバーが固まっていた。
奈苗ちゃん、陽菜ちゃん、ダニエルくん、拓にいちゃん、俊也にいちゃん。みんなが眩しく見えて目を細めていたら、陽菜ちゃんが気がつき、椅子から降りて私を引っ張ってくる。

「はやくはやくっ!」
「おい陽菜、そんなに急いでも、まだみんな来てないんだし 朝飯は食えねーぞ。」
「違うもん、みんなで座りたいんだもん!!」
「ちょっと人数多すぎるぞ〜」

そんな彼女に拓にいちゃんが真っ先に声をかける。
ふたりは本当に、きょうだいみたいに見えて微笑ましい。
奈苗ちゃんも、翡翠色の瞳から優しい光を洩らして 笑っていた。

昔から、陽菜ちゃんと直接話すことは少なかったのだけど、仲が悪いというわけでもない。でも、何となくわかっていた。自分とは対局の存在だって。
彼女は本当に明るくて、素直で……。私みたいに周りを僻んだりなんて、絶対にしないもの。
そんな陽菜ちゃんに笑いかけてもらえたのが、今、とても嬉しいと思った。

「知美ちゃんは陽菜のとなり〜♪」

5歳組の3人が座る長椅子の真ん中に座って、私も笑ってみる。
左にはダニエル、右には陽菜ちゃん、その右隣には奈苗ちゃん。いつもの平穏な日常が、やっと帰ってきたって感じがする。
何気なくダニエルのほうを見ると、普段、その綺麗な顔を滅多に崩さない彼が ちょっぴり笑ってくれた。
彫りの深い顔立ちだけど、もうダニエルのことは怖くないよ。心の中でそう呟いて、そっと目を伏せた。

「ほらほら、もっと詰めろや拓!」
「蘭は何ちゃっかり入ろうとしてんだよ。」
「いーっしょ別に、減るもんでもないんやし!」
「へーへー。」

蘭ちゃんと拓にいちゃんの言い合いが始まると、それを合図にしたかのように皆が食堂に集まり始めた。
今日は早くから外出しなくてはならないらしい黒江さんが、いつものように 遅れてやってきた彼らに雷を飛ばしている。虫の居所まで悪い。

ちゃんと謝れる子、表情に反抗が浮き出る子、そして、恐らく彼女の悪口を言い合っている子たち。
黒江さんはもともと本当に嫌な性格だったから、昔から此処にいる人が彼女を嫌うのは 無理はないと思ってる。それでも最近は頑張っているみたいに見えるから、いつか黒江さんが、私達と笑顔で過ごせる日が来るといいなあって、板挟みな心境だったりもして。
因みに、私はあまり 具体的かつ個人的に怒られた記憶がない。

「幼稚園児組は、今日も家にいるのか?」

彼らを横目に、俊也おにいさんが水を飲みながら、3人に訊ねた。

「私は絵でも描いてるつもり。」
「僕は公民館の図書室に行くよ。まだまだ日本語の勉強が必要だからな。」
「えーっ、じゃあ陽菜は 奈苗ちゃんのお絵描き見てる!」

絵って、昨日描いてた男の子の続きだろうか。
ていうかダニエルはもう十分だと思う。

「そうか。じゃあダニエル、お前は 俺達高校受験組と公民館に行くぞ。」
「別に構わない」

相変わらずぶっきらぼうだ。

「そんじゃ、知美は?」
「へっ?!……あ、えっと、学校を休んじゃった分の宿題とか片付けて、本を読んで…………此処に、いる。家にいる。」
「そう。」

いきなり私にも質問が振られたから、挙動不審になってしまった。最後には思わず語気も強まって、恥ずかしい。地震が怖いというのもあるから余計だ。

「宿題頑張れよ。」
「う、うん。」

答えながら俯いたから 彼の表情は見えないけど、ここ最近で女の子に対する口調が優しくなった気がする。
———そういえば、俊也おにいさんって、どうして此処で暮らすようになったんだっけ?私が来たときにはもういたっけ?
理由は後ででも、他の人がいないときにしよう。と、いつからいるのかだけ訊こうとして 口を開きかけたのだけど、鈴木さんたちが声を上げて朝食の配膳を始めてしまい タイミングを失って、最終的には何を訊くつもりだったのかも忘れてしまった。

こんなことばっかりだ。
忘れたいことだけ忘れられたら、覚えていたいことだけをずっと覚えていられたら。
どんなに気が楽で、前向きに生きられるだろう。

Re: COSMOS ( No.417 )
日時: 2017/01/09 02:02
名前: Garnet (ID: A23NMJNa)

桑野さんが学校に取りに行ってくれた配布物の中からは、学級だよりや、こども会のクリスマス行事のお知らせなど ほとんどどうでもいいものばかり出てきた。
先生や隣の席の子が 付箋で宿題の目印を付けてくれていたプリントや、コピー用紙にまとめて書かれたドリルのページ数も 運良く随分少なかったり簡単な場所だったりで、最低でも昼までには終わる量だと、みている。

蘭ちゃんに教えてもらったおかげで得意な算数、本好きが転じて自然と漢字を覚えるようになり 苦労の減った国語。
窓際に折り畳み机を広げ、プリントとノートとドリルを整頓して床に置いて、まずは計算のプリントから手に取る。
私にしては珍しく、ひとりごとなんか言って、尖った鉛筆を滑らせ始めた。

「さっさと片付けますか。」

3年2組16番 駿河知美。

……私が持っている姓は、お父さんのものだ。
此処に住んでいる者ならよくあることだから、今までも 特に誰かから何か訊かれることはなかった。
高校生組の"三姉弟"だってみんな苗字が違う。
拓にーちゃんの白金姓はお父さんから。
蘭ちゃんの降谷姓は、亡くなったお母さんから。
夏海お姉さんの三枝姓も、もちろんお母さんから。

2人がどうして此処にやって来たのか、どうして3人できょうだいとして暮らしていくことができないのか、私はまったくと言っていいほど知らない。
拓にーちゃんと蘭ちゃんと、夏海お姉さんが血が繋がっていることの秘密はきちんと守り続けているけれど、いつか真実をふたりから聞くことは、できるのだろうか。
拓にーちゃんは時々、自分の苗字が嫌でたまらなくなると言っていた。

私自身は、正直今の名前が好きだから、このままで構わない。
ただ、きちんとそれを大人の口から説明してもらったのが 親のもとから離れてずいぶん経ってからだったので、実感というものが今でも薄い。


———……それで、母親も父親も行方がわからない?!
   何をやっているんだね、ふたりは…

———知美ちゃん本人は、ほんとうに、母親を待っていてほしいとしか伝えられていないと。
   同じアパートに住んでらっしゃる方も何も知らないようですし、近隣の住民の方も、2週間近く前に 彼女の父親らしき男性と徒歩ですれ違ったくらいで……

———両親の蒸発、ねぇ……
   そうまとめてしまえばよくある事案になるけど、こういうケースは初めてかもしれない

———そうですね。
   とりあえず、今夜はこちらで預かって、出来るところまで我々で進めていきましょう

警察、役所、児童相談所、何だかよくわからない場所。
此処にたどり着いた翌日、恵理さんや、黒江さんや、今は辞めてしまってもういない誰かと、たくさんの場所に行ったのを覚えている。
中でも記憶が濃いのは、県警。
建物が想像していたよりもずっと小さかったからというのもあるけれど(当時は刑事ドラマなんかでよくみる 警視庁に行くものだと思っていた)、一番の理由はそこに留めさせられた時間の長さだ。
しばらくは、施設から借りてきた厚めの絵本などで暇を潰していたけれど、恵理さんも 名前も知らない男の人も、警察の人たちと難しい話をして難しい顔をするし、恵理さんは、今では想像もつかないような語気の強め方をしたりするしで怖くなってしまって、ロビーの隅で婦人警察官の人に泣きついていた。


ああ、あの人たちは死んだのか。
最近になってようやく、そんな風にぼんやりと、自分の中で整理がつくようになってきた。

未だに消息不明な彼らのことが、いつかは何かわかるかもしれない。
ふたりが遺体として見つかる可能性も充分にあるから、その時は私から出向かなくちゃいけないのかなあ。それに、恵理さんたちに迷惑をかけてしまったらどうしよう。
そう考え始めたら、申し訳ないけれど、面倒くさくなってきた。
なんて最低な娘だろうと、笑えてくる。

筆算が立ち並ぶノートに、何かが落っこちていって、大きなシミが ぼつりと広がった。
鉛筆の色が少しずつ、滲んでいく。
これも書き直すべきかなあ。めんどくさい。

「とーもーみーちゃん!宿題、終わったー?」

そのとき、廊下から小さな足音がつづいてから、後ろで部屋のドアが開いて。振り向くと、陽菜ちゃんがツインテールを揺らしていた。
陽が動いて この部屋には窓際しか光が入ってこないというのに、日陰にいるはずの陽菜ちゃんは曇りひとつない笑顔で、彼女の周りだけどうしようもなく眩しく見えた。

もう少しだよ。
そう言おうとしたのに、なぜだか声が喉につかえて、何も言葉にできない。

…………あれ?
わた、し、なんで、

「泣いてるの…?知美ちゃん」

陽菜ちゃんが夜空のなかに佇む輝く天使なら、私はきっと、太陽の光に喰われかけている、きたない穢い悪魔だ。

Re: COSMOS ( No.418 )
日時: 2017/02/14 00:44
名前: Garnet (ID: MgJEupO.)

次の瞬間、何を思ったのか 私は陽菜ちゃんに無言で抱きついていた。
もしかしたら、辺りに滲む光を、分けてほしかったのかもしれない。

驚いた陽菜ちゃんには無言で頭をなでられて、気がついたらまたなぜか奈苗ちゃんの部屋にいて、彼女のにおいのする毛布にくるまって 目の前の奈苗ちゃんに、じっ、と、見詰められていた。
目に穴をあけられるんじゃないかと思うくらいに見てくるものだから、心の奥底まで見透かされてしまったのではないかとひやひやする。
あの子の翡翠色の瞳に、畏怖にも似た感情を向けかけるところだった。

「…………私、何でここに、いるの?」

久しぶりに絞り出した声は、震えていたりすることなどなく。さっきまでの追憶も幻だったみたいに、落ち着いていた。

日中、この部屋はほとんど陽の光が入ってきて明るいはずだというのに、窓側の壁にもたれる私は、また狭い日陰の中にいる。
精神的なものではなく、物理的に。

「もしかして私、何かやばいことしちゃった?暴れてた?物、壊してた?だれかを、叩いたりしてた?」

もしほんとうにそうだったら、大変どころではすまない。
想像するだけで、全身の毛がざわいて鳥肌が立つ。
それなのに、彼女はそんな杞憂など見えていないかのように振る舞っていた。と、いっても、ただ無表情で私と目を合わせ続けているだけなのだけど。

時の止まったような空間に 沈黙の粉雪が降り積もっていくようで、思わず目をそらしていると、視界の外で 薄い唇がそっと開いた。

「ううん、その逆だよ。ここに来てからは、泣いたまんま、動かなかった。」

澄んだ美しい声が耳に抜ける。

「なにか怖いものが見えたの?」
「…そうかも、しれない。」
「無理だけは、しちゃだめだよ。」

その言葉で、奈苗ちゃんが、もとの奈苗ちゃんに戻った。そう見えるように戻れた。
心の底からほっとして、溢れるものが止まらなくなっていた。

「あのね、知美ね、最近お母さんとお父さんのことばっかり思い出してるの。知美は親不孝で最低な娘だった。」

自分よりも小さな身体に抱き締められ、宥められて、その細い肩にさっきよりも大粒な涙をこぼしてしまう。

「知美は知美でいいんだよ。全部背負う必要なんて、無いんだよ。辛いことは 誰かと分け合えるし、何処か遠くに置いていくこともできるんだよ。そうしても、いいんだよ。誰にもそれを、責めたり叱ったりする権利なんてない。
 大事なのは、背負い込むことじゃなくて、忘れずにいること。
 ……知美ちゃんは、もう充分、向き合えたと思う。あとは大人になってからで、全然いい。」

ぽんぽん、と背中を叩かれながら、私は奈苗ちゃんの言葉を 大事にだいじに噛み締めて、心の中の、忘れちゃいけない大切なものをしまうところに、まだ震える指先で舞い込ませた。

知美ちゃんは、ひとりじゃないよ。

その言葉が素直に心を温めて、余計に目の奥が熱くなってしまった。

しばらくして、私が落ち着くとどちらともなく抱擁をといて、向かい合った。離れる瞬間、何故だかどうしようもない寂しさが込み上げてきて 反射的にすがりついてしまいそうになったけれど、堪えた。
これ以上、奈苗ちゃんに迷惑は掛けられない。

「今の私達にできることを、いっしょに探していこう?」

一足早く立ち上がった彼女に手を差し出されて、私もその手を支えに、ようやく歩き始めた。

私にできることって、一体、何なのだろう。
そう考え始めたとき、それよりも前にしなければいけなかったことを、思い出した。

「あ……、しなくちゃいけないことがあるんだった」
「え?」

手を繋いだ彼女が振り返って、子供みたいな丸い目で見上げてくる。

「エマたちに、電話、しなくちゃ」









エマの家は、お父さんが出てくれて電話が繋がったけれど、両親が共働きだという翔くんの家や、麻衣ちゃんの家には繋がらなかった。しかも運の悪いことに、留守電も残せなくて。
ふたりの携番をちゃんと覚えていなかった私はもう一度エマの家の電話を鳴らして、機会があればでいいからと、伝言を頼んでおいた。

その、数字間後。

「うわあ!知美ちゃん、じょーずになったなあ!」

ロールキャベツを煮込むいい匂いの立ち込める台所に、蘭ちゃんの感嘆の声が響いた。
彼女の視線は、薄く細くスライスされた大根が盛られた、私の手元に注がれている。

「きっと、蘭ちゃんの教えかたが良いからだよ。」 
「そんなこと言われたら、照れてまうわぁ…」
「ほんとのことだもん!」

頬を赤らめる彼女をよそに テーブルごとのサラダボウルへ切り刻んだ野菜を放り込んでいると、カウンター越しに、台拭き片手に駆け回る奈苗ちゃんと目が合った。
微笑みが、一枚の絵画になる。
私も絵を描けたら、この気持ちを形にできるのに。
あいにく図工の成績は授業態度で凌いでいるだけの中途半端なものだし、絵が駄目なら文章はどうだろうと考えたけど、作文だって花丸は2回しかもらったことがない。自分でも何を書きたいのか、書いている途中で意味がわからなくなっていくの。

「ほんと。私でも、こんなに早く、包丁を上手に使えるようにはなかったわ」

洗いものを片付ける恵理さんが、奈苗ちゃんに似た表情で言った。
彼女も絵になれる。

「……ほら、知美って取り柄ないから。」

褒められ慣れていない故の 自虐的な私の発言に、蘭ちゃんが茶色い目を大きく見開いた。正確に言うと、目を見開くのが 気配で何となくわかった。
恵理さんや奈苗ちゃんには、聞こえていなかったらしい。それぞれ何か考え事でもしているのか、はたまた頭の中で音楽でも流しているのかも。

「知美ちゃんに憧れることなら、ぎょうさんあるんやけどなあ」
「え」
「まず、虫歯になったことないやんか。それと、食わず嫌いはせーへん。本もめっちゃ読んどるし、自分の考えちゃんと持ってはるし……」
「そんなこと?」

意外すぎる答えに、思わず笑ってしまう。
すると彼女は少々むっとしながら身を乗り出し、切り刻んだ大根の入れてあるボウルをひとつ取り上げて、

「そんなこと、は無いやろ。知美ちゃんが何とも思ってなくても、相手には、凄いなあとか、羨ましいなとか、思われとることがたっくさんあるんやで?
 たとえば私だったら、蘭ちゃんはいつも明るいやんなーて、鈴木さんにも言われるけど、私自身はこのうるさい性格何とかならんのかなあて、思っとる。なっちとかには茶髪を羨ましがられたりするけど、私は綺麗な黒髪が羨ましい。皆、そんなもんや。誰かしらに憧れるのは当たり前。憧れられるのも当たり前!」
「蘭、ちゃん……」

思わず手が止まってしまう。
まっすぐ、蘭ちゃんにテニスの強いサーブを決められたみたいだった。
自分自身を縛り付けていたものが乾いて、はらりはらりと、地面に滑り落ちていくみたいだった。
 
蘭ちゃんは、すごい。
憧れを当たり前のことだと、言いきったこともそうだけど、そうやって、周りや自分を客観的に見続けられるのは、すごい。
考えて、読み取って、そして自分なりに吸収して。そういう力が、周りよりも圧倒的に高い。

私も、こんな素敵なお姉さんに、いつかなれるのかな。
そう思いながら、ぼーっと、蘭ちゃんの大人びた横顔を見上げてみる。

……と、ぷしゅう、と彼女の手元で間抜けな音がしたと思ったら、もう蓋を閉めて、私たちから少し離れたところで、容器を振り回したりしていた。
冷蔵庫にも残り中途半端なのが何個か入っていて、早いうちに無駄なく使いきってしまいたいらしい。

「今度ちゃんと買っておかないといけないわね。」

冷蔵庫が開き、恵理さんの声とともに、まな板とボウルの間へオイスターソースのボトルが音を立てて置かれた。力を入れたわけではなく、単に一般家庭にあるそれよりも大きく、重いからだ。
テレビでやっている そこらの大家族のドキュメンタリー番組に出てくる人数より、此処の住人の数は多いだろうから、当然と言えば当然。

「おー、旨そうな匂いすんじゃん。」

材料の放り込みが終わり、私も蘭ちゃんと一緒に野菜にマヨネーズとソースを掛けて混ぜていたら、拓にーちゃんが音もなくやって来た。
ジャンパーを着て、図書館用のバッグを提げているところを見ると、今帰ってきたばかりのようだ。

「今夜のメインデイッシュはロールキャベツやから……って、あんた手洗っとらんでしょ、出直してきぃ!」
「いいじゃねえかケチ。」
「汚いんや!」

いつもの言い合いが始まって、今日はなぜだか、ふたりのきょうだいらしい姿に随分笑いを誘われてしまった。
「「は?」」と声をハモらせて一斉に振り返るものだから、火に油だ。

彼らは少しの間 不思議そうに私を見ていたけれど、顔を見合わせて微笑み、蘭ちゃんが拓にーちゃんの背中を軽く叩くと、彼はそのまま流れるように洗面所に向かっていった。そうして私も、おかしな笑いは引いていった。

「そーだ。私が知美ちゃんに憧れとること、新しく見つかった。」
「え…?」

蘭ちゃんは、柔らかそうな湯気を浴びながら鍋の中身を見たあと、屈んで私の頬をつつきながら 訛りのない言葉で言った。

「笑顔だよ、笑顔」


Re: COSMOS ( No.419 )
日時: 2017/04/09 21:25
名前: Garnet (ID: v8Cr5l.H)

冬には、宇宙がそのまま透けているんじゃないかと思うくらい、星がきれいに夜空を埋め尽くす。
今年ももうすぐそうなるんだろうなと考える。

冬。
寒くて、厳しくて、きんと空気の張り詰めるような感じ。その分、人の温かさがいちばん沁みるときでもある。
そんな季節の前座に吹き降りてくるからっ風は、今年、まだ姿を現していない。

「俺も料理教わろっかなあ。たぶん将来は一人暮らしになるだろうし」

真っ暗にした部屋のなかで、拓にーちゃんが床に寝転がりながら呟いた。

ここは、奈苗ちゃんの部屋。
真ん中に小さなストーブを焚いて、いつものメンバーで集まっていた。陽菜ちゃん、ダニエル、俊也おにいさん、蘭ちゃん。そして、拓にーちゃんと、奈苗ちゃんと、わたし。
私もそうで、大体はストーブの周りに集まって他愛もない話をするのだけど。
寂しいから、みんな来ない?と誘ってきた本人は、私達から離れた壁にもたれて 窓の向こうを眺めている。陽菜ちゃんはそれに対して大いなる疑問を抱いているようだけど、レディーは悩みが尽きひんからね、という蘭ちゃんのひとことで 随分すんなりと納得してしまった。
私たちの天使も、大人びてきたなと思う。それが成長というものなのか。


———お母さんや、お父さんの故郷に行ってみたいって思ったことは、ない?

———あるよ。たくさん。
   テレビとか、雑誌とかでね、現地の写真や映像を見るたびに思う。
   シャーロック・ホームズも好き。
   ……恵理さんたちには気付いてないふりをしてるけどね…私、知ってるの。お母さんがイギリス人だってこと


数時間前に聞いたばかりの言葉が、なぜか何年も前のもののようの思えてきて、頭がふわふわする。小学3年生の頭にはどうも現実味の湧く話じゃない。

話しかけてみようかという気持ちが、私の体を奈苗ちゃんのほうへ振り向かせた。
暗闇というのは、都合が良すぎることがある。私のような人だと、ときに気を大きくしてしまうのだ。普段は都合が悪いものなのだけど。

「…………なな、っ———」

でも、彼女の名前を呼びかけた小さな声は、最後まで滑らかに、その3文字をなぞってくれなかった。
震える翡翠の瞳が、遠くの小さな宝石をはっきり映しとっていたから。


———お母さんを……みんなを、助けに行くの。
   死ぬほど勉強して、イングランドに行く。
   それまでは、私の出生の記録や家系のことを、調べる。
   少しずつ、少しずつ。恵理さんたちには気付かれないように、でも徹底的に


昼間、もう大人になる日もそう遠くない心に誓うみたいに、あなたは言っていたよね。
でも同時にあなたは、今までもこれからも、女の子だ。何かを思い残したまま離ればなれになった『彼』のことも、絶対、気になっている。

どれほど鮮明に記憶が残りつづけているのか、私にはわからないけれど、もし『彼』のことをツイキュウできないまま、ほんとうに、大人になってしまったら。
あなたはすべてを忘れて 捨てる覚悟で、今の人生の大切な人たちを守るために、自身を犠牲にしてでも遠いところに行こうとするんじゃない?
"恵理さんたち"の中に、ダニエルも入っているの?
どんな形にしろ、真実を知ることができたら、奈苗ちゃんはどうなってしまうの?
それに、その道を選ぶということは、私が自分を締め上げてしまっていたように 苦しむことになるんじゃないの?
訊きたいことは山ほどある。

何だか、奈苗ちゃんは 誰よりも強いはずなのに、誰よりもすぐに消えていきそうで、こわい。
それなのに、何も声を掛けてあげられない。
言葉なんかいらないし、ただそっと寄り添って、何度もそうしてもらったように抱き締めればいいことくらい、わかってる。でも、それ以上に、こわい。

10年後、ううん、もしかしたら5年後には、もう私の隣に彼女はいないかもしれない。もう私の手の届かないところに、彼女は行ってしまう。
ほんとうは、奈苗ちゃんにはずっとここにいてほしい。……でも、それが彼女の本当の幸せだというなら、望みだというのなら、私は止めちゃいけない。
たとえ自分が解らないものだとしても、そのひとにとっての幸せを邪魔しては、否定してはいけないから。

胸の奥がぎゅっと切なくなって、堪えきれずに膝を抱えた。

銀色の格子の向こうには 決して溶け合わない青とオレンジを混ぜた、花びらみたいな小さい炎がはためいている。何でこんなに揺れているのだろうと思ったら、陽菜ちゃんが息を吹きかけているからだった。

「こらっ、陽菜ちゃん。あんまりふーふーしないの。陽菜ちゃんも知美ちゃんも、もし火傷とかしたら危ないよ?」
「はーいっ。」

ツインテールの彼女が、おろした髪を肩の上ではねさせながら、一寸ばかりわざとらしく手を挙げて返事した。

「そーいえば知美って、この施設に来る前、火の扱いとか一人でやってたんだって?それこそ火傷しなかったのか?」

ふたりのやりとりを見て思い付いたのか、ふと、隣に座る拓にーちゃんが訊いてくる。

「ああ…何回かしたことあるだろうけど、痕は全然残ってないよ。ほら。」

右手は例の怪我が残っているので、左手をひらひらさせて、彼に見せてあげた。
最初は軽く指先から眺めていただけだったのに、あんまり何もないものだからか、ついに手をとられ、指と指の間から手相まで何度も凝視された。最後にはパジャマの袖もまくられたけど、勿論何も出てくることはないです。

「ほんとだ……それどころか、すげぇ綺麗。」
「きたないよ。」

もともと、傷や痣はさっさと治ってしまうタイプだからかもしれない。その点では、此処に住む同い年の瑞くんとは正反対だ。
消灯時間まではまだ時間があるけど、彼はもう寝ているだろう。

それはそれで置いておいて。
段々恥ずかしくなってくるのにも構わず、彼は未だに手のひらをくっつけ合わせたりしてくる。そろそろやめてほしい。

「拓にーちゃんこそ、火傷のひとつくらいしたことあるんじゃない?」
「失礼だなあ、そんなに俺はやんちゃ坊主に見えるか?」
「見える!」
「おいおい。」

やられたら卑怯でない方法でやり返す、という ここ数年でできた自分のモットーにのっとり、少々からかわせていただいた。軽い気持ちで。
そう、軽い気持ちで訊いただけだった。

「拓、火傷の痕ならあるじゃねえか、背中に」
「え、ほんと?」

胡座をかいて シャーペンでペン回しをしている俊也おにいさんが言う。
けれど なぜか彼の言葉で、拓にーちゃんが文字通り、固まってしまった。

「ああ。風呂に入るときとかしょっちゅう見るぜ。結構古いけどまだ目立ってるし、ありゃ痛かっただろ———」

何の悪気もなかったんだと思う。
そんな彼がいつものように話し始めようとしたところで、

「もういいだろ俊也、あんまり言いふらすな」

怒っているみたいに、焦っているみたいに、拓にーちゃんが彼を制した。

「…………悪い」

予想もしていなかった沈黙が訪れる。

それから俊也おにいさんは、自分の部屋に帰るまで黙ったままだったし、拓にーちゃんも俯き気味にストーブの炎をじっと睨んだままだったし、陽菜ちゃんを膝にのせる蘭ちゃんでさえ、私達の知らない何かをすべて 知っているような悲しい目で、ふたりを見詰めていた。
炎を挟んで向かいにあぐらをかいているダニエルも、青い目を細めて 3人を順繰りに眺めている。陽菜ちゃんなんか「もしかして陽菜のせい……?」という声が今にも聞こえてきそうな顔でいて。

あんな3人を見たのは、初めてだったかもしれない。


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