コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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最強次元師!!【最終章】※2スレ目
日時: 2016/08/04 00:32
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Wb.RzuHp)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253

 運命に抗う、義兄妹の戦記。

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 ※本スレは“2スレ目”です。第001次元〜第300次元までは旧スレに掲載しています。上記のURLから飛べます。

 Twitterの垢はこちら⇒@shiroito04

 御用のある方はお気軽にどうぞ。
 イラストや宣伝などを掲載しています。

 ※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。



 ●目次
 あらすじ >>001
 第301次元 >>002 第311次元 >>014
 第302次元 >>003 第312次元 >>015
 第303次元 >>004 第313次元 >>016
 第304次元 >>007 第314次元 >>017
 第305次元 >>008
 第306次元 >>009
 第307次元 >>010
 第308次元 >>011
 第309次元 >>012
 第310次元 >>013



 ●お知らせ

 2015 03/18 新スレ始動開始

Page:1 2 3 4



Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.14 )
日時: 2015/10/21 18:23
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: TRpDG/gC)
参照: 日曜日には間に合わず

 第311次元 協力

 『蛇梅隊総員に連絡! 只今特攻部班により、謎の白い元魔の胸部に赤い石を模した“核”があると判明! 総員は直ちに核の破壊を——』

 薄紅色の、ミディアムヘアが揺れる。蛇梅隊前線A部班に配属されたミル・アシュランは手首より届く想い人、レトヴェールの声に動きを止めた。
 目の前には、白い巨体。旧型とは酷くかけ離れた、面影のない外見ではあっても、元魔に間違いはない。
 暗く沈んだ夜空のせいか胸部にまで視力が働かない。足元にいるせいだろうか。真っ直ぐ垂直に仰ぎ見ても見つからない。彼女は声を張り上げる。

 「セルナ!! あんたのその次元技で——元魔の胸部にまで跳んで!!」
 「——は、はい!」
 「足止めは任せろ——ミル・アシュラン」
 「はい!! ——私も、当然手伝います!!」

 黒髪を揺らし、チェシアは慣れた手つきで鞘に手を携える。同じ部班のミル、セルナも攻撃態勢へ。
 セルナは弾丸の如く——跳ね上がって空へ入った。上から襲い来る、元魔の腕で翳る。

 「バカね、させないわよ! ————“籠刑”!!」

 現れた“檻”が————元魔の白い腕を捕えた。
 セルナは檻を踏み台して、更に上へ。元魔が僅かに捕まった腕を、持ち上げた時。

 「動くな——————“真斬”!!」

 たった、一太刀。
 夜空から大地へ真っ直ぐ伸びた閃光が————建物ほどある元魔の太い腕を斬り落とした。
 同時にセルナが胸部へ辿り着く。然し。
 驚愕の表情で————ミルの手元に届く、接続音。

 『み、ミルさん————あ、ありません……!』
 「!? な、何!? 一体何がないって——!」
 『————胸部に“核”が、ありません!!』

 元魔の左腕は、セルナの身体を弾き飛ばした。
 瞬間、彼女は————“それ”を見た。

 「きゃああ——ッ!!?」
 「セルナ————!!」

 地面に強く打たれ、転がる。——然し、セルナは。

 その目にした————走り寄ってきたミルに、伝える。
 ミルはセルナを優しく抱きしめて、己の手首に——叫び散らす。


 「こちら前線A部班!! 胸部ではなく————“左腕”に“核”を発見!!」


 僅かに震える、小さな片耳のヘッドホンを模した通信機。レトはその場で固まった。
 エンとサボコロの話では、胸部に核があるとの事だった。然し今のミルの声はしっかりと、“左腕に核がある”と言う。
 もしかして。レトが思いついた時には、次々と連絡が入ってきていた。

 『こちら前線C部班! ——“背中”に核を発見!!』
 「——!」
 『こちら後援B部班!! 胸部に核が見当たりません!!』

 核の居場所が、それぞれ違っている。
 レトは気を取り戻して、通信機に外側にある、“全機器への伝令ボタン”を押したまま離さず。

 「訂正!! 元魔の核が埋め込まれている箇所は各個体により異なる事が判明! 一部部班の報告により何れも身体の外部に見受けられるとの事! 核の発見を第一とし、速やかに討伐せよ! ——また、核の破壊時、同時に“内部爆発”を起こす事が特攻部班の報告により判明した為、核を破壊した際は出来るだけ個体から離れ被害を最小限に抑えるか、若しくは遠隔攻撃型の次元師が核の破壊を行う事!! 繰り返す! 元魔の核が————」

 繰り返し伝える。一度も痞える事なくレトは伝達を終えた。長押ししていた細く小さな突起から指を離して、息を吐く。

 (……元魔の皮膚は白く、旧型より一回りも二回りも大きい、か。丸く太かった腕も厚みを増して平たくなっているらしいな。くそ……ゴッドの奴、今日この日の為に改良を重ねてきたっていう訳か……!)

 特攻部班から核の報告を受けた時、通信機の向こう側の掠れた声は間違いなくエンだった。その声色は初め、元魔の発見を知らせた時とは明らかに違っていた。元魔を倒す過程で、何かがあったに違いない。
 酷い傷を負わされたか、終始動き続けなければならない、過酷な攻撃の応酬であったのか。また、相当のリスクを背負い次元級の高い技を繰り出さねば、倒せない相手だったのか、と。
 呼吸は乱れ、掠れ、焦りを含んだ口調だった。冷静で気高いエンをここまで追い詰めるとは思っていなかった。

 腕時計の針はまだ、午後7時を少し過ぎた頃。
 ゆっくりな秒針が、やけに腹立たしく思えた。



 「避けろ——マリエッタ!」
 「! あらあら——躾のなっていない、子猫ちゃんだこと」

 翻るレースに、垣間見えるのは少女の身の丈を超えた刃。白くて大きな腕が彼女を襲う。平べったい掌で大地を叩くのと同時に跳んだ、ギラつく刃先は既に、元魔の目前。
 次元の力を具現化した——少女、マリエッタは大きく太刀を描く。

 「やったか……っ!?」
 「——まだ」

 マリエッタの一撃で、真っ直ぐ裂けた大きな体はそのまま傾いていく。長い青色を一つに束ねたラミアの声に、小さくも反応を示したのは蛇梅隊戦闘部班の四番隊副班長テルガ・コーティス。無機質な瞳と銀色の髪、何より無口な点が彼の特徴である。
 無気力にも見える彼は長い“棍棒”を一度、くるりと回して地面を蹴る。

 「頼む——マリエッタ!」

 慣れたようにマリエッタへ指示を飛ばすのは、次元の力の主ヴェイン・ハーミット。五番隊の副班長である彼自身は戦わない。小型で近距離型の標的には持ち前の体の柔軟さ、器用さを駆使して戦闘に臨む事もあるが、今回は全くその場合に該当しない。
 雲を突き抜ける巨体。大地を蠢くその白さには気味悪さを感じる。日頃自由奔放で緩い性格の彼が、眉間に皺を寄せたまま、祈るようにマリエッタを見つめているのは、他でもないこの緊迫した状況下に身を置かれているせいだろう。
 ヴェインから指示を受け取ったマリエッタは未だ上空。いつの間に跳んでいたのか、マリエッタの目にはテルガの姿が映った。大きな刃を横に、足場となるよう傾ける。テルガはその足で、刃から更に上空へ、弾け跳ぶ。
 元魔の腕、脚、その巨体の上を瞬間、駆け抜ける。一周ぐるりと回った時点で、息に限界が訪れたのか、マリエッタより少し後に大地へと戻ってくる。

 「——ラミア!」
 「ああ————分かってる!」

 テルガの到着を待っていたラミアの腕に取り巻く——水の渦。

 「第七次元発動————水柱!!」

 大地を割って現れる、水の柱は白い元魔の身体を呑み込んだ。捕えたまま、地面に手をつくラミアの許へテルガ、マリエッタ、そして荒く髪を掻き毟りながらヴェインが歩み寄る。

 「テルガ副班、確認しましたか?」
 「……問題ない」
 「レトヴェールの指示通り、遠隔型の次元師に元魔の核の破壊をやってもらいたいとこだけど……」
 「生憎、俺の水皇じゃ、決定打に欠ける。テルガ副班も近距離武器型、マリエッタも同じっすよね」
 「……あらあら。それでは、“後援B部班”のどなたかに頼むというのはいかがでしょう?」
 「後援部班に……?」
 「確か————」

 ラミアが振り返ったところで、彼はすぐに後悔した。緩んだ力を逃さない元魔は、水の柱を解こうと、全身に力を入れ始め、そして。

 「! しま——っ!!」

 水の衣を弾き飛ばそうと、その瞬間。
 衣は————長い“鎖”によって、再び元魔を締付け上げる。

 「——!」
 「危ないなあ……しっかりしてくれよ、ラミア!」
 「コールド副班——!」
 「遠くから見てもかなりの大きさだったものね……近くで見ると、凄いド迫力」
 「おっ、フィラ副班も来たんすね」
 「当然よヴェイン副班。あと……ティリも」
 「……」

 コールド副班に続いて現れた、フィラ副班はその肩に蛇梅を乗せて。蛇梅隊最年少次元師のティリナサは何一言発する事なく。前線部班と後援部班を合わせた6人は、一堂に会する。

 「皆聞いたと思うが、遠隔攻撃型で且つ元魔の硬い核を貫ける次元師が今は必要だ」
 「鎖が解かれるのも時間の問題ね……すぐに作戦を練らないと」
 「遠隔攻撃が出来て力の強い次元師ってーと……俺的には——」
 「そうだな、俺も——ティリとラミアに任せたい」
 「「!?」」
 「俺達は全員援助に回る————頼めるか、ティリ、ラミア」

 こういう場合、若者に任せるのも気が引けるが、と。笑ったコールド副班の目はそれでも本気だった。
 同じ戦闘部班四番隊の隊員として、仲は悪くも今まで共に戦ってきたティリとラミア。
 お互い睨み合うように、ティリは見上げ、ラミアは見下ろし。
 二人は同時に、息を吐いて。


 「「————了解」」


 冷静さを失わない、幼いながらに絶対的な逞しさを備えた瞳が並ぶ。
 英雄達だけではない————同じ隊服をその身に纏う次元師達が、此処にいる。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.15 )
日時: 2016/01/16 19:27
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 9nM5qdCg)

 第312次元 協力体制

 「「はあ——っ!!」」

 胸の内に秘められた次元の力を呼び覚ますそれは元力と呼ばれる。少年少女の体中を駆け回る元力は最大限に活性化され、形を成す。

 「第七次元発動——霊縛!!」

 数多の死霊が集い始める。その中には千年も前、此処、同じ場所で命を落とした次元師もいただろうか。
 元魔の広い肩は雲に隠れている。辛うじて仰ぎ見得る胴体目掛けて、霊の大群が一斉に放たれた。

 「くっ……抑え、きれな——」
 「——第六次元、発動!!」

 少年の声に応えたのは、大地を割って地上に躍り出る——大きな水の塊だった。

 「水撃ィ——ッ!!」

 激しい水飛沫と共に、霊に取り巻かれていた元魔の足元が踊る。僅かに引いたも、その重たい一歩一歩が引き起こす地響きが小さな体によく響く。

 「おい、まさかへばってんじゃねえだろうな能面チビ」
 「……直に慣れる」
 「助けてやったのに礼も無しかよ。とことん可愛くねえな」
 「それはお互い様」
 「は? ったく食えねえ奴だな」
 「……来る」

 ずれた黒い帽子をぐっと直すティリ。肩に凭れかかった長い青髪を払うラミア。
 ゆっくりゆっくり輪郭を大きくしていく元魔は、特にダメージというほど傷ついていない様子だった。

 「——腕ならしは十分か?」
 「貴方こそ」
 「年上の心配なんかするんじゃねえよ、ガキのくせに」
 「それも、お互い様」
 「……それもそうだな」

 ラミアは振り返って、背後に位置する蛇梅隊の副班長等に目配せをする。お互いに頷き合う。
 さあ、ここからが本番だと——ティリとラミアの、瞳の色が変わった。

 「作戦はちゃんと頭に入ってるだろうな。忘れたじゃ話にならねえぞ」
 「心配はいらない」
 「それじゃ行くぞ——ティリ」
 「……」
 「……ああ分かった分かった。本当に面倒臭いな、お前。安心しろ、もう気安く呼ばねえよ」

 ティリが頷く間もなく、ラミアは先に駆けだした。
 先刻テルガ副班長が確認したのは、元魔の核の位置。巨大なその体の周りを一周した事で、元魔の首、つまり“項”に赤い核が埋め込まれているのを発見した。
 核の位置が個体によって異なると判明した今となっては、第一に核の発見をしてから早急に破壊した後、激しい内部爆発から上手く逃れなければならないという迅速な討伐の流れが要求されている。
 元魔一体の討伐にかけられる時間というのは、実はかなり少ない。神族側が一体いくらこの元魔を用意したのかは次元師側に正確には分かり兼ねない事だが、蛇梅隊上層部の仮定によると、およそ100に近い。恐らく次元師の数と合わせてきているだろうと読んでいる。
 科学部班班長であり、今大戦の人族代表レトヴェールの実父も兼ねるフィードラス・エポールは、第一に次元師の死亡を避けよとの命を下した。元魔の数を想定した上で、次元師を減らす事への危機を感じたと、他の次元師は見ている。
 蛇梅隊は元魔一体につき2人〜6人の次元師を充ててきている。通常は3人。然し新しい元魔への対処法が上手く掴めていない今、序盤少ない数で元魔を討つのは難しいと、そう判断した前線B部班は。

 後援B部班の3人を巻き込んで、一気にカタをつける方向で打ち出した作戦を決行した。

 「そんじゃまあ行きますかあ————お前達、準備は良いか?」

 前線部班、後援部班含め、戦闘部班隊員の、若者はたった2人。
 最前線に並ぶ2人を除く他4名。たった1人の合図が頷かせた、その首の主は。

 「ええ、いつでも構いませんよ」
 「……問題ない」
 「指示通りやりますよーっと——コールド・ペイン副班長」

 蛇と、棍棒と、人が応えた。
 日頃力を振るわない、鎖を筆頭に————戦闘部班副班長等の、顔色が変わる。

 「一丁派手に暴れてやろうや————俺達“大人”は、いつの時代も道標だからな!!」

 ヴェインとコールドは同時に駆けて出た。並んで走るマリエッタが大型の刃物を、コールドは鎖を片手に、ぐんぐん元魔との距離を縮めていく。

 「「第八次元発動————ッ!!」」

 呼吸と、足が——完全に一致する。

 「渦々暴縛——!!」
 「強加累重——!!」

 白く平たい、一般の建物を遥かに凌駕する巨大な剛腕を眼前に捉え。銀の鎖は右手首からぐるぐる駆け上り、肩へ到着すると同時。そして常人の脚力を超越する人型の次元の力、マリエッタが小柄な体躯に似つかわしい大剣を力強く振り下ろして。

 次元師達の、人間の、何百倍もある元魔の体長の一部である両腕は。
 瞬間、鈍く激しい音を連れて——大地に大きな揺れを齎した。

 「第八次元発動————八形ノ獲!!!!」

 フィラの肩は軽い。大地を割って世界に哮が戦慄き轟く。
 ——かの大蛇の名は、朱梅。其れは白を朱に染め上げるが如く名。

 「第八次元、発動」

 元魔の白い巨体は、初めに邪魔な大腕を斬り落とされ、今や大蛇に取り巻かれ、締め上げられ。
 刹那、とうの昔に。空いた元魔の胸元に辿り着いていた——テルガの棍棒は、長く、永く。
 辺り一面の大気を呑み込んで、ギュルンと掻き回す。

 「————如意伸撃」

 元魔の広い肩に、会心の一撃。肩幅より長く伸びた細い棍棒が、元魔の巨体を後方へ傾かせた。
 同時。
 若干11歳にして蛇梅隊隊員最年少。漆黒の帽子に隠された灰色の長髪がぶわりと舞うと。
 細い腕が、その掌に収まる事を知らない元魔の大柄へ、真っ直ぐ伸びる。

 「第九次元発動————霊金呪縛!!」

 空を割って大地へ倒れんとしていた、白い元魔は身体に朱き大蛇を巻きつけられ深く傾いたまま————“静止”した。
 元魔の身体を覆うように霊の影が黒く蠢く。伸ばしたままのティリの腕に痺れが齎される。
 動くな。もう少し————涼しげだったティリの表情に、歪みが生じると。


 「第九次元発動——————水竜!!!!」


 砕かれた大地からそれは猛々しい産声を上げた————竜を象った大水は疾風の如く速さで空を駆け昇る。
 角度に狂いはない。元魔の項へ真っ直ぐ届くと——離れた二人は同時に息を吸って。

 「「いっけえェ————ッ!!」」

 重なる幼い声が水を押し上げるように、赤い核に竜が喰らいつく。
 ——然し、竜の輪郭はぐらついた。ティリの腕の痛みと反比例する、呪縛が色を失っていく。

 「くッ、そ……あと、もう少しなのに——ッ!!」
 「……お願、い……ッ————もって!!」


 少女の願いは遥か天空で輝いた。
 ————再び大地から生まれた“氷の柱”が、竜を呑み込む。

 「「————ッ!!?」」

 水の竜が凍り上げられると、硬く伸びた氷が元魔の喉を大きく貫いた。核は瞬く間に粉砕し——爆発が起こる。
 激しい煙幕に視界を覆われ、暫くしてラミアが目を開けると、空から現れたのは。

 「よっ! “水”と“氷”のコンビネーション————なかなか悪くねえな!」

 冷たげでツンとした水色の髪。耳にピアスの、同じ年頃の顔つきをした少年が笑う。

 「お、お前は……っ」
 「お前ら、代表者決定トーナメントにいただろ! まさか俺の事知らないなんて言わせねえぞ?」
 「……シャラル・レッセル。“氷皇”を使う次元師」
 「おーそれそれ」
 「あれか。シード権で優勝候補だったにも関わらずうちのエポールチームに負けたデルトールチームの一員。あとキールアにラブコール送ってた」
 「おいお前喧嘩売ってんだろ」
 「何だって前線にいるんだ。一人じゃ最悪、死ぬぞ」
 「……まあ固い事言うなや。“デキる次元師”は、蛇梅隊隊員様だけじゃねえだろ?」

 シャラルは、他にもシェルやエール兄妹など嘗てのデルトールチームメンバーが前線に上がっていると言う。蛇梅隊が先陣を切って戦ってくれる事を見越して、シェル自らが提案したものでもある。
 戦える次元師は蛇梅隊の隊員だけではない。デルトールチームは勿論の事、決定トーナメントの参加者、レトヴェールやロクアンズが旅先・任務先で出会った次元師達も含めて皆、この広く荒れた大地に立っている。それだけが。
 ラミアとティリの、蛇梅隊の中でしか築いてこなかった仲間意識を、世界へ広げてくれているように感じさせた。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.16 )
日時: 2016/05/15 00:23
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: bqwa/wjs)

 第313次元 声と音

 「さて……っと。仕切ってくれてる“奴ら”は、一体何処だ?」

 視界をざっと見渡してみても、目に入る次元師は4、5人程度の数。どれも前線に上がっていこうという気配は見えない。大方、今まで国中に点在する次元師組織に元魔の討伐等を任せっきりでいた、名ばかりの次元師達だろう。
 身を震わせ、小さく固まっているところを見る青年が一人。遥か後方では、目を凝らせば後援部隊であろう男たちの塊を確認できる。彼は纏ったコートを翻して、駆けだした。



 「——……! 代理、確認はできました!?」
 「ええ。問題ありませんわ。奴の“左胸”……確かに、赤い核の存在を確認致しました」
 「左胸、ねぇ……ったくどんだけ手間かけさせんのよこのデカブツ! あーもう嫌になっちゃう!」
 「文句を吐いている暇がございまして? ……リルダさん」
 「あ、えっはい!」
 「貴方の次元の力……“爆落”で、奴の足元に引き続き罠をお仕掛けなさい。できるだけ大きく態勢を崩すのです。リルダさんの爆弾だけでは埒があきませんわ。ミラルさんは、それに助力願います」
 「はいはぁい」
 「……今まで黙っていましたが、貴方のその態度は今一度見直すべきでなくって? なかなか本部に顔は出せませんでしたが、私は総班代理の身。受け答えには以後、お気を付けを」
 「……分かってますよぅ、クルディア代理ぃ」
 「嫌味な言い方ですわね」

 左胸に核を埋め込ませた巨大元魔と対峙するは、蛇梅隊特別編成部隊の後援C部班。蛇梅隊で総班代理を務めるクルディア・イルバーナを班のリーダーに、戦闘部班六番隊の副班長ミラル・フェッツェルと五番隊班員のリルダ・エイテルで編成されているこの後援C部班は、戦場全体を上空から見た時に、神族や元魔の陣営より遠くに位置している。つまり人間側の領域で、力のない次元師達を守る役目を担っている。

 「一体の元魔にそう時間はかけられませんわ————“仙扇”!!」

 クルディアの手元で広げられた“扇”は、彼女が一度手首を振るえば、さらに翼を広げ“円”になり、彼女を大空へ連れていく。
 悠々と空を駆ける彼女を見上げて、ミラルとリルダはお互いに顔を頷き合わせる。

 「い、いきます! 第六次元発動——爆連!!」

 次元の狭間から次々と姿を現す爆弾は、ポンポンポンと彼の頭上に躍り出ると、元魔の白い足元にゴトゴト落とされる。できるだけ多く、早く。幼いながらにリルダは、実に無数の爆弾で、元魔の足元を覆い尽した。

 「転ばせればイイのよねぇ? ——喰らいなさい!」

 息を吸う。ミラルは大きく口を開けて、空気を飲み込んでいく。膨れ上がったお腹と頬。彼女の次元の力——“声舞”が繰り出される少し前。
 地面を埋め尽くした爆弾が——リルダの命により次々に破裂していく。爆音に呑まれていく中、リルダは確かに、初めてその“華麗な力”を目の当たりにした。

 「第八次元発動————狂震狂啼!!」

 ——青髪の双子の片割れ、リリアン・エールの鈴の次元技と良く似て非なる。鈴一つだけでは出し切れない、そして人類が持つ声帯の力を遥かに超える、“声”でなく“響き”。
 ミラルの喉を通る声が、一帯の空気全てに反響して——元魔の鼓膜、そして全身を震い上がらせる。

 「す、すごい……っ!」
 「あぁら? ビリビリきちゃったぁ? ごめんね、私達副班は普段次元の力使わないから……ちょーっと力入っちゃった」
 「——上出来ですわ」

 自分の身を軽々乗せて、空を飛んでいたはずの扇はとうに彼女の手によって畳まれていた。身の丈の何倍もあるそれをぐっと両手で掴んで、引く。

 「第九次元発動————戯旋風!!」

 赤い扇が開かれる。凄まじい轟音で身動きの取れない元魔の身体に衝突したのは、台風だった。
 本来それは、ただ風を吹かせるだけの次元技。然し今目の前に広がっている光景は、天候を変える瞬間だった。
 風を寄越し、雲を薙ぎ払い——砂を巻き上げ景色が、濁ったまま一色に染まる。
 然し。

 (——……手応えが、ない……?)

 吹き荒れる嵐に包まれているクルディア。彼女は、その妖艶な目を、訝しげに細めた。
 例えこの戦争で初めて目にした新兵器だとしても、今まで戦場で新しいことに巡り合わない方が確率は少なかった。得体の知れない敵に臆する事もない。プロにとってはそれが、常であるから。
 一時の間ではあったが、クルディアは、はっとして我に返る。

 (……確か——“中途半端な物理攻撃は相殺される”……とか、何とか司令塔様が仰って……でも、今のは!)

 ——揺れる、大地。

 「!? な、何よこれぇッ!?」
 「う、うわああ!」

 砂が巻き上がって、思わずミラルとリルダは腕で顔を覆った。
 視界が、一層濃く陰る。何かに覆われているようだと——瞳を、開ける。

 「「——!?」」

 大きくて、白い何かが、頭上に——空を遮断して、広がっていた。

 「う、嘘……!? た、倒れたの!?」
 「でっでもこの態勢……っぶ、ブリッジしている、んじゃないですか……っ!?」
 「じゃ、じゃあ代理の……技を、避けたって……——いうの……っ?」

 知性は失われているものだと思っていた——偶然の産物、というのが一番正しい表現になる。クルディアの技、戯旋風を避けようと思ったのか、そのまま腹を反る形で元魔は倒れてしまった。
 腕と足は真っ直ぐ伸びて、地面についている。

 「! ——代理!!」

 元魔が、首を柔らかく曲げて、大口の内側を見せていた。方角は間違いなく、クルディアの正面。
 ——咆哮が来る。何やら砲撃のようなものを口から吐き出すのだとか。それは司令塔であるレトヴェールからの連絡で耳に届いている。情報があるのに。
 身体がぴくりとも動かないのは。
 元魔の口内の赤さが、目に焼き付いてしまったから。

 「代理ぃ————ッ!!」

 次元技を使うか。避けるか。元魔の口から漏れ出す光の大きさが増す一方で、落ちるだけを待つクルディアは——漸く。
 ——広げた扇を、畳んで、大きく開いた。

 「——ミラル!! もう一度!!」
 「!!」
 「早く——!!」

 口の上で凝縮されたエネルギーが、ビリビリ響いて、成長を止めた。
 息を吸え。自分にある力は——それが全てなのだから。

 「第九次元発動————轟命!!」

 ミラルの怒号が響く、元魔の頭に直接投げかけた“伝令”は——“止まれ”、だった。
 次元技“轟命”は、対象の筋肉組織及び脳に直接伝令を下す技であるが、それは部分を限定するだけであって、“狂震”の類のように、全身の動きを封じる能力はない。
 万が一狂震で下手に震わせてしまったら、砲撃を発動させかねない。発動を恐れたミラルは、叫びながら、喉をはち切るまでに、令を送り続ける。
 ——然しそれは、声が揺れ、小さくなると、効果を失うという、デメリットが存在する。

 「が、頑張って下さい……ミラルさんっ!」
 「……っ!!」

 喉が痛い。お腹が震えている。縮んでいく。
 だんだん大地に近づいていくクルディアは、冷静に、扇に身を任せて着実に距離を離していく。

 動き始める、元魔。クルディア目がけて、首がだんだん筋力を取り戻していく。
 角度を合わせられたら——口の上に集められたエネルギーを、一斉に放射される。人間一人を消し裂くには充分すぎる威力だと伺っている。だからこそ、今、ミラルの喉に全てを懸けらている。
 早く、早く。大地に辿り着くまで——もう少し、それは。

 一瞬、届かない。

 「……——っ、かは……!」
 「グオオオォォ——!!!!」

 高らかに響く——元魔の雄叫びが、早かった。
 落ちていくクルディアは、奥歯を噛み締める。ずっと先にあるエネルギー体が、動き出す、前。


 白い元魔の全身を、纏い、広がる————“鈴”。


 「——ちょっと!! 諦めるの早くない!? ったくもうしょうがないんだからあ!」


 蒼く短い髪と、高い声が跳ねる。トレードマークは、鈴の髪飾り。
 小さな背丈の彼女は、同じく“音”を武器にする————因縁の次元師。


 「第八次元発動————“鈴鳴叫”!!!!」


 リリアン・エールの“叫び”は、元魔の一切の攻撃を断じて許さない。
 かつて、幼馴染の大切な、蛇の命を奪おうとした双子の女の子の事を、彼女は今でも覚えている。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.17 )
日時: 2016/08/04 00:24
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Wb.RzuHp)

 第314次元 もう一つの幼馴染

 「——ギィィイアアアァアアア!!!!」

 一瞬の隙は最大の機会となる。クルディアに向けて放たれた筈の巨大なエネルギー体は大きく角度を反らして、空へ跳んだ。
 地面へ到着すると、クルディアの目には、幼い少女の姿があった。両腕を突き出し、紐に付いた鈴を震わせ、空を悠々と超える巨大な元魔の動きを封じた、少女の。
 鈴と空気が振動する。その様子を——ミラルは、ただ茫然と見つめていた。

 「リリ、アン……エール」

 幼い頃。ミラルはとある少年少女の幼馴染だった。言うなれば、レトヴェールやロクアンズ、そしてキールアを加えたあの3人のように。幼い時間を共にしてきた仲間が、彼女にはいた。
 名前はセブン・コールと、フィラ・クリストン。2人は兄妹ではなかったが、お互いに強く想い合っている間柄なのは確かである。ミラルは、セブンやフィラの良き友であり、相談役であった。
 だからこそ、セブンとフィラがこよなく愛した、朱色の大蛇の話を知っている。

 大蛇、蛇梅が次元の力であると知らなかった、青い双子がいる。
 そうして蛇梅を大地に埋め、何年も、フィラと朱梅を引き離した——次元師がいると。

 「俺もいるぜ? オッドアイのお姉さん」
 「!」
 「リリエン・エールだ。……あいつは妹のリリアン。あんた、あの蛇梅隊の班長と副班の、友達なんだろ?」
 「……どうして、それを」
 「俺らはもっと幼かったが……両目の色が違う種族は多くない。あの2人の傍にいたのも、うっすらだが覚えてる。お姉さんも、俺らを覚えてるだろ?」
 「……」
 「今でも、憎まれてるのは分かってる。だけど今は、今だけは……!」

 違う色の瞳の奥では、フェンスを掴んでいるフィラの泣き顔と、傍で立ち尽くすセブンの姿が鮮明に映し出されている。その先に、幼い双子が並んでいる様も。
 ミラルは息を吸って、吐くと、何も言わずにリリエンの横を過ぎた。

 「……!」
 「何突っ立ってんのよ。あの技、そんなにもたないでしょ。核の破壊はうちのリーダーに任せて、私達は援護を——」
 「——許す、のか……?」
 「……」
 「ああ、いや! 確かにその、許して欲しいのは、そう……なん、だけ——」
 「ここは戦場よ。敵か味方しかいないの。あんた達が人間で、次元師であるなら————仲間でしょ」

 許す、許さないは後にして——それにもう。
 蒸し返して欲しくない。蛇梅隊の本部では、蛇梅が、嬉しそうにフィラの肩に乗せられている。幸せそうな彼女と、その蛇の姿が在るだけで、今は良い。
 遠くでは、クルディアがリルダに向けて指示を出している。鈴の力が尽きようとしているのを確認して、呼吸を整える。

 「とにかく今は元魔よ! リリアンが頑張ってくれてるけど、あれじゃもうもたないわ。元魔があの姿勢から立ち上がる前に、動きを封じるの! あんた達と私が今やるべき事は——それぐらいよ!!」
 「……——おう!!」

 ——リリアンの鈴の音が途切れる。途端、元魔は長い手足をその場でばたつかせた。行動こそ駄々を捏ねる幼子のようで、齎す被害は震災のそれと遜色がない。吹き飛ばされる一同は揺れる大地の上で派手に転がり回る。
 元魔は、すかさず——大口から、雄叫びを上げる。

 「ギイイイィアアアア——!!!!」

 同時に塞がれる耳。綺麗だった顔立ちは歪められ、宙を舞うクルディアは、扇を大きく広げた。
 技を解かれ地面に着陸をするリリアン。ミラルと2人並んで、クルディアを見上げているリリエン。
 双子を一瞥した、彼女の眉は吊り上がる。

 「決勝まで駒を進めた次元師であるなら————その力、お見せなさい!!」

 身の丈を超える扇が瞬く間に翻ると、繰り出された風の軍隊は元魔を襲う。

 「————戯旋風!!」

 巻き起こる竜巻が大地を滑る。激しい風に一同が目を伏せていると——あっという間に、白い元魔の身体を封じてしまった。元魔を囲うようにして台風が躍る。
 小さな都市一つの天候を変えてしまいそうな規模。総班代理という立場は名ばかりでないと——感心している余裕はなかった。
 時間を無駄にするなと感じさせるクルディアの一撃の次に、躍り出たのはミラルだった。

 「リルダ! ありったけの爆弾を——私の前にたくさん頂戴!!」
 「はっはい!! 第七次元発動————時限弾!!」

 リルダの指示通り、ミラルの目先の空中から、ドドドッと溢れ現る無数の爆弾。地面に転がると、ミラルは片色で振り返る。

 「許してほしいんでしょ?」
 「「!」」
 「私が繋いであげるから……あの2人の目に届くように————しっかりド派手に決めてよね!!」

 今度こそ終わらせてやる——深く深く、息を吸い込め。ここにある空気の全部——私が頂く、と。
 剥がれかけた口紅の奥から、放つ。

 「第九次元発動————言乃把ッ!!」

 ぐんと浮く爆弾。ミラルの怒号に応えたそれらは一斉に竜巻の中へ抛り飛んだ。放たれた爆弾たちは次々に、台風の旋回に飲み込まれながら爆発を繰り返していく。

 「グアアアアッ!! グアッアアァッアアア——ッ!!!!」

 ——言乃把。物体を自分の口から発せられる言葉によって操る技であるが、この技の安全な発動には大きな条件が伴っている。
 それは、対象の物体についての詳細な情報理解。そのパーセンテージの高さ、俊敏性。物質の構成、進化の過程に至るまで知れば知っているほど操作の難易度が変動するのだが、理解に欠けていると逆に対象の暴走が予測される——使用危険度は極めて高い技にあたる。
 リルダとは別の班で行動をしてきたミラルだったが、リルダ他と共同戦線を張ると通達された時点で、この技の行使は頭に入れていたのであった。大戦当日まで残り少ない期間ではあったが、リルダの元力量・濃度、基礎体力、血圧と、主に次元の力に関する情報を中心に、リルダとの手合わせの回数を重ねながら着々と情報収集の準備を進めていた。
 やれ化粧だのやれオシャレだの男だの。普段は浮いた話に目がないミラルの視界には今、色めいた景色など広がっていない。

 蒼い2つの影は同じくらいの高さで肩を並べて。
 心の底から後悔した。もっと前から、目の前で道を拡げてくれるこの人が——最も信頼する2人に。深く頭を下げ、拭い切れぬとも罪滅ぼしをするべきであった、と。
 犯した罪の重たさが、この戦場で今負わされている“責任”の重たさだと気づく。
 双子は同時に息を呑む。

 「「第九次元————発動ッ!!」」

 兄の手元から広がる縄が、台風の動きに乗ってぐるぐると果てしなく元魔の身体に巻き付いていく。
 反る背中。妹の眼前に小さく見ゆる血の色。核の居場所を再認識すると、目を閉じた。鼓膜に全ての音が届かなくなってから、がらんと一つ——鈴が鳴いた。

 「————真鳴」

 鳴り響いた軽い音は、心臓を目指して空気を渡る——“双斬”の『真斬』や“光節”の『真閃』に続く、一点に狙いを定めた必中の次元技、『真鳴』。
 集中が途切れると定めた一点が“反転”し、全て自分に返ってくる。そして発動の直前、術師の鼓膜に一切の音が届くのも許さない——これもミラルの『言乃把』に同じく、ハイリスクを伴う次元技だと知っていた。
 妹、リリアンに従順に、音色は真っ直ぐ————赤い心の臓を、叩く。

 「ンギアアアアア————ッ!!!!」

 ——パキンッ! 宝石を模した核に、ひびが入った。
 後援C部班一同と、他2名の口元が緩みを見せた————が、然し。


 間もなく内部爆発が起こると想定していた。だからクルディアは早急に元魔と距離を取っていたのに。
 爆発が起きる気配が、しなかった。


 「え、う……っそ————」
 「——ッ!? みっミラルさん!! 一時撤退を、動きますわ!!」
 「副班長さん——っ!!」

 声が届かない。脚が動かない。心臓に刃を突き立てただけの事実は——奴の破壊を意味しなかった。
 竜巻が消え、繰り出した爆弾はとうの昔に破裂しきっている。喉に力が入らないのに、元魔はしっかりと——ミラルの上空に、太く白い腕を、翳していた。


 次の瞬間。


 「——————“免罪”だな。ま、懲役は10年ってとこだったかな」


 零れた軽口が“引き金”を引いた。瞬間、怪物の巨体の、ほんの小さな心臓が。
 遥か上空で、静かに砕け散った。

 瞬く間に元魔が内部爆発を引き起こすと、辺りは分厚い土埃に覆われる。幸い誰一人として爆発に巻き込まれることはなかったが——問題はそこではなかった。
 扇、声、爆弾に加わった、縄と音。どれも決して“飛び道具”ではない。元魔の心臓を通過して、空を駆け抜けた——小さな一撃。
 ミラルは一人。声のした方へ、地平線へ、視線を変えた。

 「……有難う」

 (——……セブン、君)

 それはとても青くて懐かしい。班長になる、ずっと前の幼い響きだった。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.18 )
日時: 2016/09/13 23:20
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: WwoM88bd)

 第315次元 強く幼い涙

 遥か遠くで、白い巨体が弾け飛ぶまでの一連の流れを確認した。スコープから目を離すと、彼はひゅうと口笛を鳴らす。
 すぐ隣で佇んでいたもう一人の男性は感嘆の声を漏らした。

 「ほう。君は良くもまあ、あれほど遠くまで見えるものだ、セブン班長」
 「いやあまあ……次元の力によるものが大きいけどね。久々だから、ちょっとひやっとしたよ」
 「流石、の一言に尽きるな」
 「光栄です、ラットール総隊長殿」

 セブン・コールは蛇梅隊戦闘部班の班長を務める男の名前。仕事の手際は良しと言い難い、と彼直属の部下達は常々零しているものの、人望と愛嬌に関しては人一倍秀でている人物である。
 そんな彼は今日の今日まで、自身が次元師である事を周囲に伏せてきたわけだが、久方ぶりに開く別次元の扉は、容赦なく化け物の心臓に杭を打ちつけた。

 「さて……我々も手は抜けぬな。フィードラス班長」
 「ええ、勿論です。……家族の為にも、ね」
 「ほう。それは、“どっち”なのかな?」
 「はは。どっちでしょうね」

 細めた視界の先は地平線。延々と続く砂の地。吹き荒れる砂嵐に歪みそうになる景色の向こう側と、ずっとずっと後ろには。
 向かい合うように立っているのだろう。瞳で捉えずともお互いを意識してる。
 幼い頃の面影が強いばかりに、父フィードラスはどうしても願ってしまう。

 「……本当に、運命の悪戯ってのは、あるんだな」

 それだけ呟いて顔を上げた。総隊長と各班班長が二人。特別防衛部班に配属された以上三名の遥か頭上には、満ちた月と星々で夜空の上を飾っている。



 少女は内心に怯えを隠しながら、怪物とにらめっこをするのがやっとらしく細い身を強張らせていた。黒と灰に紅色のラインという配色の——改訂・新調された“新隊服”のジャケットを着用しているのは、この戦場で蛇梅隊戦闘部班の一員だけ。
 白い帽子に施された可愛らしいピンク色のウサギも、同じく震えている。
 して彼女の実態は、一国を背負う王室の一人。第二王女ルイル・ショートスだった。

 「第八次元発動——」

 引き金に指をかけた少年は、伸ばした腕二つに飛び道具を構えて、ルイルの前へ躍り出る。

 「——連弾!!」

 打ち出された無数の弾丸は————“毒”に苦しむ元魔の身体目がけて、放たれた。

 「ひゅ〜っ。可愛い顔してやるねぇ、ガネスト君」
 「ちょ……っ僕の事を冷やかす暇があるのでしたら、元魔の様子を見ておいて下さいよメッセル副班長」
 「分かってますよーい。オレの次元技“毒皇”をナメてもらっちゃ困るねぇ。あと数分は身動きを封じれる。その隙にルイルちゃんの“悲飴”の念力技で追い打ちかけたいとこだけど——……ルイルちゃん、だいじょぶそ?」
 「ひゃいっ!? うっ、が、がんばる……よ!」
 「……ルイル……」
 「こりゃ参ったねぇ」

 細目の上でわざとらしく曲げられた眉が、やれやれと云う。
 ルイルは基より王女という立場であり、それ以前に今年12歳の幼い女の子で間違いない。パートナー兼専属執事のガネスト・ピックに守られながら幾年過ごしてきたせいか、とても本人を戦闘向きとは言えない。
 年も近く仲の良いティリナサ・ヴィヴィオとは別格であり、彼女は次元師としての実力も高く幼いながらに聡明で、そんなティリとの差も薄々感じていただろう。

 メッセル副班長はその場から忽然と姿を消していた。
 身を屈ませたガネストは片膝をつくと、ルイルの幼い顔を見上げて、笑った。

 「ルイル“王女”を戦場ここへ連れてくるのも忍ばれました。ただ存命している次元師は全て強制的に参加というこのシステムです。科学部班の班長様も、『次元師の命を第一に』と仰られていたので……ルイルは戦わなくても良いんですよ」
 「……っでも」
 「大丈夫です。どうか安心して下さい。僕が必ず守りますから」
 「……ちがう、の。聞いて、ガネスト——ルイ……あ、あたし!」
 「——!」

 ——鋭い殺気。感知したガネストはルイルを軽々抱き上げて、迫り来る元魔の白い腕を回避した。
 宙に浮いてから地面へ着陸する流れは慣れたものだった。腹半分から上は夜空に埋まっている元魔を仰ぎ見る首の角度は大きい。

 「ルイルはここにいて下さい。あとは僕達が——、っ!」
 「——っ、ガネスト……聞いて。あのね……ルイルも、ルイルも戦いたいよ!」
 「!?」

 ジャケットを少し摘むその指は細くて、頼りない。可愛らしい大きな瞳も伏せてしまっていた。
 ルイルは今にも泣きだしそうで、それでも泣かずにいた。

 「……レトちゃんたちを見て、思ったの……。レトちゃんは、大事なロクちゃんを失っても、がんばって英雄になって、キールアちゃんも次元師になってどんどん強くなって……エンちゃんやサボコロちゃんだってそう! みんな、みんなみんながんばってる、のに……っ」
 「……ルイル、聞いて下さい。僕にはルイルの命が一番——」
 「命とかそういうのじゃない! がんばりたいの——ルイルだ、って、みんなと同じ蛇梅隊の仲間だもん!!」

 もうあの頃には戻れないのかな————たった一人の神様が、己を神だと自覚してしまう前の。
 それは健気で一途な願いだった。少女の願いは蛇梅隊戦闘部班全体の願いでもあった。
 涙が零れて、零れて止まらなくて、指先はそっと目元に添えられた。

 「すみません……ルイルの気持ち、分かっていなくて」
 「……ご、めんなさい……ガネストは、悪くないよ」
 「ルイルは優しいですね……いつもいつも。皆さんの事、ちゃんと良く見ている。……ルイルの事しか考えてない、僕とは大違いです」
 「ガネスト……」
 「そうでした。僕達はずっと昔から王女と執事で、でも今は——“次元師”としてのパートナーですよね」

 差し出された掌に、重ねられたのは一回りも二回りも小さな手。王女と執事はどこにもいなくて、地上を駆ける二つの影は正しく次元師のパートナーだった。
 ドレスや燕尾服を脱ぎ捨てた二人は今、蛇梅隊の次元師として、手を繋いでいる。

 「それではメッセル副班長からの指示を申し上げます。副班長の毒皇で今元魔はひるんでいます。ルイルは今から悲飴で更に術を重ねて下さい。毒が消える前に僕が蒼銃で攻撃を仕掛けますので、その間身動きの取れない僕達のサポートを悲飴の念力術でお願いしたいのです」
 「……」
 「——大丈夫、ですね? ルイル」
 「……うん——全然だいじょうぶだよ、ガネスト!」

 全く子供は、いつまでも子供ではない。大きな者の背中を見上げて、そこへ憧れて背伸びしていつの間にか——見ている景色は同じものになっているのだから。

 心を開け。心で叫べ。
 次元師たる者達こそ目に見え得るが、それはどの人間にも過去日常未来に溢れている。

 嘗て閉ざした心を開いたのはある少女の声だった。
 嘗て隠した叫びを聞いたのはある少女の心だった。


 ————王女と執事だった者達の心を変えたのは、神になる前の神様だった。


 「「————次元の扉、発動!!」」



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