コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

マーメイドウィッチ
日時: 2016/06/21 11:41
名前: いろはうた

世界が止まった。



手が震える。



数拍のちに気付く。









私は大切な人に裏切られたのだと。

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Re: マーメイドウィッチ ( No.353 )
日時: 2017/09/17 23:00
名前: いろはうた
参照: https://pixiv.me/asaginoyumemishi

南の応接間の扉をメイドに開けてもらうと

まぶしいほどの日光に目を射られ、目を細める。

部屋の中にいた者達は、既にこちらを見つめていた。

久方ぶりに見るアルハフ族の者達だった。

そういえば、王宮の地下牢から救出した時以来

顔を合わせていないのだった。

特に別れの挨拶もしないまま出て行ってしまったのだ。

若干気まずい思いをしながら、一人一人の顔を確認する。

見たところ、老人や子供たちは来ていないようだ。

きっと安全なところで待機させているに違いない。

アルハフ族の屈強な戦士の中には、

女性の戦士もいて、ルザの姿も見えた。


「どれだけ人を待たせたら気が済む女王陛下なのでしょうか」


刺々しいけれど、凛とした美しい声に

フレヤは視線を向けた。

アルハフ族の民族衣装を身に着けたメノウだった。

いつもの神官のような真っ白な衣を着ていないので

やけに新鮮に映る。

しかし、幾何学模様が入った緑色の民族衣装のほうが

メノウにはよく似合っているように思える。

あの民族衣装を着ていること言うことは

チノが言っていた通り多少なりとも

一族と歩み寄れたのだろう。


「ごめんなさい。

 軍議が少し長引いてしまったの」

「……私の首でも差し出せば、

 さっさと終わらせられるものでしょうに」


そっぽを向いて言うメノウに目を見張る。

メノウは、アルハフ族関係で軍議が長引いたことに気付いている。

おそらく、メノウだけではなくて、

ここにいるアルハフ族全てが気づいているのだろう。


「違う。

 私は誰かの犠牲など望んでいない」

「またお得意の綺麗ごと。

 だから、貴女は面倒ごとに巻き込まれる」

「面倒ごとじゃないわ。

 この国が変わるために、必要な時間だった」

「その辺にしてやりな」


フレヤとメノウの間に入ってきたのはルザだった。

その意外な行動にフレヤは目を見張る。

ルザが止めに入ってくるとは思わなかったのだ。


「悪いね。

 メノウは私の従姉妹なんだ。

 こんなこと言ってるけど、

 さっきまであんたのこと心配してたんだ」

「ルザ!!」


言われてみれば、このつんけんした強気な物言いや

凛とした声が似ている。

そうなの、と一言返すと、

顔をうっすら赤くしたメノウがこちらを勢いよく見た。

口を開きかけたメノウを遮るようにして

今度はカルトが割って入ってきた。


「あーはいはい。

 落ち着けよメノウ」

「邪魔をしないでくださいカルト!!

 私は落ち着いて、もがっ」

「あんたはちょっと後ろに下がってな」


ルザの手に口を覆われたメノウは、

引きずられるようにして連れていかれた。

それを横目で見ながらカルトに向き直る。

彼には言っておきたいことがある。


「カルト、あなた、ヘレナを連れてきたのよね?」

「え?

 ああー。

 ごめんな?

 ヘレナの頼みだったから断れなくて」


全く悪びれない態度のカルトにもはや怒りすら覚えない。

フレヤは一つ息を吐いた。


「感謝するわ」

「はい?」

「あなたがヘレナを連れてきてくれなかったら

 私はあのこと向き合おうとしなかった。

 あなこを守るべき存在だと決めつけて

 突き放すことになっていたと思う」

「ふうん?」


カルトは相変わらず飄々とした笑みを浮かべて

こちらを見つめているだけだ。

フレヤはカルトから、アルハフ族の戦士たち全員に向き直った。


「今日は、来てくれて本当にありがとう。

 この国全ての国民を代表して礼を言います」

「我々は、長の決定に従い、

 一族の恩人への借りを返すだけだ」


アルハフ族の中でも年長の者が静かにそう言い

他の者達も同意して頷いている。

静かな物言いはどこかチノに似ている。

けれどその端的な言葉にはどれだけのことを譲歩してくれたのか

言わずとも感じられた。

アルハフ族という戦闘向きの一族とは言えど、

ダークエルフという未知の種族との戦いに

身を投じることになるのだ。

それ相応の覚悟を持って、

彼らはこの場所に来ているはずだ。

それを、決して忘れてはならない。


「あなたたちには、今日から城に滞在してもらって

 騎士団とともに行動を共にしてもらう。

 ……きっと、反発する人もいるから

 嫌な思いを沢山させてしまうと思う」

「そんなやつら、一発殴ればいいだけの話じゃん。

 あんたがそんな辛気臭い顔する必要はないよ」


あっけらかんと言うカルトにぽかんとした

間抜けな顔をさらしてしまった。

変な顔ー、不細工ーなどと、言って笑っているカルトに

声を上げる気にすらならない。

そんなに、楽観的でいいのかと

掴みかかりたくなったくらいだ。


「武を志す者には、なにより力がものをいう。

 おまえがそう案ずることはない」


背後からチノが重ねるようにして静かに言った。

そう言われてみれば、チノがフレヤ付きの護衛になった時も

騎士団の者達は、チノの実力を見て何も言わなくなったのだった。

一抹の不安を消しきれないまま、

フレヤは頷くしかなかった。

Re: マーメイドウィッチ ( No.354 )
日時: 2017/09/18 18:06
名前: いろはうた
参照: https://pixiv.me/asaginoyumemishi

翌日の朝、コペンハヴン国の国民すべてに避難勧告が出された。

オスロ国から最も遠い北西の地域に、

避難民を迎え入れるための簡易滞在所として

王宮の別荘を開くことになった。

あそこは夏になると涼しく穏やかな気候で

フレヤが幼いころはよく訪れたものだった。

まさか、思い出の別荘がこんな形で役に立つとは思わなかったが

非常に大きな別荘地帯なので、

ある程度の国民は迎え入れられるはずだ。

幸い、今は秋なのでそこまで気候も厳しくない。

もしもの際には、北国に逃げ延びることもできる。

騎士団の一小隊を避難誘導と護衛を兼ねて

既に派遣している。

食料や物資は、王宮の貯蓄庫にあるものの半分以上を持たせた。

これも昨日の軍議で決めたことだった。

これで、少なくとも一月は持たせられるはずだ。


「陛下」


騎士団の軍事演習をバルコニーから眺めていると

背後から突然声をかけられた。

カインだった。

騎士服に身を包んでいる彼は、

きびきびとした動作でこちらに近づいてくる。


「こちらにおられたのですね」

「軍事演習を見ていたの」


そう言うと、フレヤは再び視線を前に戻した。

カインの顔を見られない。

どうしても二日前の夜を思い出してしまう。

あんなに感情を必死に押し殺しているカインを見たのが初めてで

どう対応したらいいのかわからないまま今日になってしまった。

カインは第一部隊隊長だ。

それほど重要な役職を持っている彼が

軍事演習を抜け出すほどの用事があるのだろう。


「部隊長が軍事演習を抜け出すなんていいのかしら」

「あの男が四六時中陛下に張り付いているので、

 軍事演習中の今しかないと思い、馳せ参じました」


あの男とはチノのことのようだ。

カインはチノのことを嫌っている。

こちらとしては仲良くしてほしいのだが、

そうもいかないらしい。


「それで?」

「今からでも遅くありません。

 アルハフ族を兵力として加入することをおやめくださいませ」

「でも、もう軍議では通ったわ」


二度目の申し出。

それだけ、カインが必死であるということだ。

昨日の軍議で何も言えなかったのは

上司であるハイヴが隣にいたからだ。


「それは表向きのことにすぎません。

 騎士団のほとんどの者は、アルハフ族のことを

 よく思ってはおりません。

 あの類まれなる身体能力は得難いものです。

 ですが、同時に騎士たちの誇りを傷つけております。

 我々のことは、役立たずだと陛下がお考えなのかと

 不満を募らせている者も少なくありません」

「そんな」

「事実、騎士団の風紀は乱れつつあります」


フレヤの視線の先にある軍事演習。

滞りなく進んでいるように見えるが

よく見れば、騎士団もアルハフ族も表情は

荒々しいものだ。

それは、軍事演習で気が高ぶっているからではないのは

ここからでもわかった。

昨日ぬぐい切れなかった不安が

今こうして形を成している。


「カインの言いたいことと気持ちはわかったわ。

 でも、もう少し様子を見ましょう」

「フレヤ様。

 これは時間が解決してくれる問題などではありません」


ひと際風が強く吹いた。

風の中に冷たさを感じた。

秋が深まっている証拠だ。


「違うわ、カイン。

 時間は解決してくれない。

 だけど、これは彼らが自分自身で解決する問題なのよ」

Re: マーメイドウィッチ ( No.355 )
日時: 2017/09/21 01:04
名前: いろはうた
参照: https://pixiv.me/asaginoyumemishi

数日かけて、少しずつではあるが、春の氷がとけるように

騎士団のアルハフ族に対する態度が

柔らかくなっていくのがわかった。

騎士団では、新入りの者は雑務をするのが基本だ。

それをなかば嫌がらせのごとく大量に押し付けても

文句ひとつ言わずに寡黙に働き続ける姿に

少し心を動かしたらしい。

やがてアルハフ族も雑務だけでなく

軍事演習にも参加できるようになった。

彼らの実力は折り紙付きだ。

力を重んじる風潮の騎士団で

アルハフ族は少しずつその存在を認められるようになった。


「ねぇ、カイン?

 大丈夫。

 あなたが心配することは何もないわ」


数日後の軍事演習をバルコニーから眺めながら

背後にいるカインに声をかける。


「……さようですね。

 私の考えすぎだったようです。

 お許しください、陛下」


振り返ればカインは穏やかな笑みを浮かべている。

春の日差しのような穏やかな笑み。

きっと気のせいだ。

カインの声が、激情を平たく抑えた

無機質な調子に聞こえただなんて。


「カイン?」


顔を覗き込むようにして一歩近づくと、

彼ははっとしたように一歩下がった。

取り繕ったように優しい笑みをまた唇に浮かべている。


「失礼いたしました陛下。

 少し……今後の戦略や陣形について考えておりました」


その言葉に少しほっとする。

カインもアルハフ族を受け入れて、

彼らも入れた騎士団の陣形まで考えるようになったのだ。

もう、きっと大丈夫だ。


「カイン、陛下って呼ぶのをやめてはくれないの?」


また一歩近づくと、さりげなく一歩後退される。

まるで一定の距離を置かれているような、いや

距離を置かれている。

必要以上に近づかないように一定の距離を保たれている。


「陛下は、この戦争が終われば、すぐに即位式を行います。

 現在、女王となりうる方は、あなた様以外におりません」

「そう言う意味じゃない。

 カインだから言っておくけど、

 やっぱり私は女王になる気はないわ。

 あと、カインにはいつもみたいに名前で呼んでほしい」


カインのグレーの瞳にぞっとするほど昏い色がよぎった。

驚いてまばたきを繰り返したら、

それは瞬く間に消えてしまった。

こちらを見下ろすように立つ長身のカインは

その場でスッと膝をついた。


「……陛下は、陛下にございます。

 それ以外の呼称でお呼びするなど、不敬に値します」


プラチナブロンドの頭を垂れて彼はそういった。

今のは、気のせいだったのだろうか。

気のせいだ。

カインが、あんな憎悪のような焦げ付くような感情を

こちらに向けるはずがない。


「私、騎士団の軍事演習を近くで見学しようと思うの」


フレヤはわざと話題を変えた。

その場の妙な雰囲気になんだかいたたまれなくなったからだ。

何事もなかったかのようにカインが立ち上がり、微笑む。


「それは、騎士団の者には、大きな励みとなります。

 私がご案内いたしましょう」


騎士らしいきびきびとした、だけど恭しい仕草で

浅く礼をすると、カインはゆっくりと歩き出した。

フレヤは、胸に生まれた違和感には

今は気づかなかった振りをすることにした。

Re: マーメイドウィッチ ( No.356 )
日時: 2017/09/21 22:57
名前: いろはうた
参照: https://pixiv.me/asaginoyumemishi

しかし、何もかもが上手くいくわけではなかった。

メノウの存在だった。

メノウは革命軍のもと長だ。

騎士団は一時的にとはいえ、彼女の支配下におかれた。

彼ら全員がフレヤのことを信じていたわけではない。

それゆえ仕方のないことだったといえばそうなのだが、

騎士団の者達は忠義に篤い。

それゆえ、一度でも守るべき存在にたてついたことを

深く悔いている者も少ないようだった。

それと比例するように、メノウに向けられる感情は

決して温かいものではなかった。

メノウは呪術師の孫娘として

アルハフ族の戦士には加わっていないが

この王宮に滞在している。

フレヤの見えないところで嫌なことを

騎士に言われている可能性高かった。

それを少しも表に出さないメノウは

ただひたすら凛としていた。

フレヤはそれを見て良心がちくちくと痛むのを感じた。

自分が受けた痛みを、民が受けた痛みを

同じだけ感じてほしいと思った。

どれほど苦しかったのか、どれだけ惨めだったのか

知ってほしかった。

だけど、何も変わらない気がしている。

自分はただの報復をしている。

コンコンと部屋の扉が叩かれた。


「陛下、メノウ様がお見えになられました」


はっとした。

まさかメノウのことを考えているときに

本人が訪ねてくるとは思わなかったのだ。


「入れてちょうだい」


すぐに扉が開かれ、メノウの姿が見えた。

色鮮やかなアルハフ族の民族衣装が目にもまぶしい。

彼女はさっそうと部屋に入ってきた。

実に堂々とした対振る舞いはカリスマ性を感じさせた。

だから、革命軍も彼女についていきたくなったのかもしれない。


「人払いをしていただけますか」


部屋にたくさんいるメイドを横目で見ながら

メノウはそう言った。

チノは軍事演習に参加しているため、ここにはいない。

代わりに背後にいるのはカインだ。


「下がってくれるかしら」


そう言うとメイド達はさっと部屋から出ていく。

しかし、カインは動こうとはしなかった。


「フレヤ様」


久しぶりのその呼び方に少しだけ肩の力が抜けた。

たとえその声音が硬く、たしなめるような響きを帯びていてもだ。

メノウのことを警戒しろ、と言いたいのだろう。


「あなたは、もしかして自分の主のことを守ろうとして

 残っているのですか?

 だとすればとんでもなく愚かで無意味です。

 私はあなたの主と同じ、声に力をもつ者です。

 あなた程度など、まるで相手にならない」


目を細めてメノウがカインに向かって言う。

そのあまりにも歯に衣着せぬ言い方に

カインの剣が小さく音を立てた。


「カイン」


静かに名を呼んで、抑えろ、と言外に命じる。

逡巡するような気配があったが、殺気は消えた。


「彼女が私の命を狙っているのなら、

 部屋の扉が開いた時点で、声を使って

 あなたの意識を操っているわ。

 何もしないで部屋に入ってきたのよ。

 彼女にそんな気はない」


しかし、カインにも聞かせたくないほどの話なのだろうか。


「メノウも、カインにも聞かせられないような話なの?

 彼は騎士団第一部隊隊長よ。

 信頼に値する人間だと思うわ」


メノウは何も言わないで、じっとカインのことを見ている。

やがてその緑の目はそらされた。


「そのうち騎士団にも伝わることでしょうから構いません」

「それで?

 話したいこととは?」

「騎士団なんて、ダークエルフ相手に

 無駄死にするだけだと伝えに来ました」


正面からの騎士団への侮辱にカインの気配が

また荒々しいものに変わった。

フレヤの前だからかろうじて剣を抜かずに済んでいるのだろう。

だが、メノウは腹いせにこのようなことを

言う娘ではない。


「だから、そこの騎士にも外してほしかったのです」


顔をしかめて言うメノウに、ますますカインの気配が

刺々しいものに代わっていく。

それをなだめてから、フレヤはメノウのほうを見た。

彼女の緑の目は凪いでいた。

深い森の色。

その瞳の奥は獣のどう猛さと深い知性が見え隠れしている。


「なにか策があるの?」

「私の声と貴女の歌を使えば、兵を強化できる」

「馬鹿なことを!!

 陛下に戦場の最前線まで来ていただくというのか!?」

「でなければ、我が一族もろとも全滅すると言っているのです」


フレヤははっとした。

メノウはコペンハヴン国のことを案じているというより

一族のためにここに来たのだ。

このままだとステファンに負け、

アルハフ族もただではすまないと気づき、

いち早く行動に移したのだ。

彼女は、自分のプライドと一族を秤にかけ

一族の安全を取ったということだ。


「……正直、この国の者達への憎しみは消えておりません。

 非常に不本意ですが、

 こうするほか我が一族の全滅を防ぐ手立てがないのが現状です。

 いくら我が一族が戦闘に秀でた一族で、その中でも

 選りすぐりの戦士を参戦させているとはいえ、

 ダークエルフ相手に我らだけで勝てるとは思いません。

 四人がかりで不意打ちだったとはいえ、

 私が手も足も出なかった存在です」

「……っ、ダークエルフと交戦したの?」


ダークエルフは空想上の存在だと考えていた。

あの夜初めて見たから、少しでも情報は知っておきたい。

しかし、メノウは目を伏せた。


「反撃する間もなく、一瞬で昏倒させられたので

 ほとんどなにもわかりません。

 それだけ体術にも秀でた一族であるということです」


悔し気に言うメノウに、唇をかみしめて考える。

アルハフ族の血族の者でも苦戦する相手なら

たしかに、騎士団では歯が立たないだろう。

同じことをカインも考えたのか、とくに反論の言葉はない。


「今もまだ軍事演習を行っている時間。

 今なら、私の声とあなたの声の効果を試せます」


強い決意を秘めた瞳に、フレヤは頷いた。

自分の歌が力となるのなら、

声が嗄れ果てるまで歌うつもりだ。

Re: マーメイドウィッチ ( No.357 )
日時: 2017/09/22 16:21
名前: いろはうた
参照: https://pixiv.me/asaginoyumemishi

フレヤが軍事演習場にメノウを連れて現れると、

騎士とアルハフ族の戦士たちは驚いたようだった。

剣を振っていた手を止めて、目を丸くしている。

しかし、騎士たちはさっと騎士の礼の形を取った。


「皆、楽にしてほしい。

 ここに来たのは提案があってのことなの」

「提案でございますか」


団長のハイヴが低くそう尋ねた。

それに軽く頷いて見せる。


「メノウもいるじゃん?」

「そう、これはメノウからの提案。

 戦局をよりよくするためのものよ」


提案がメノウからのものだと知ると、

騎士団の者たちは若干表情をこわばらせた。

声に出して何かを言うことはないが

やはりその視線は柔らかいものではない。


「提案とはどのようなものですかな?」

「私とメノウの力で、騎士団の力を強化するの」


「へー?

 いいんじゃない?

 こいつら二人がかりでも、おれにはかなわなかったし?」


カルトの言葉に騎士団の者たちは

一様に悔しそうな表情を浮かべているが

反論の言葉はない。

やはり、人間よりも身体能力の高いアルハフ族の戦士には

少し鍛錬を積んだ程度で人間がかなう相手ではないのだ。


「試すだけ、試させてほしい。

 どうかしら」

「陛下の国と民を思うご献身ぶり、

 一国民として、ありがたく、誇りに思います」


ハイヴが膝をついた。

それを見習い、騎士たちも一斉に地面に膝をつく。

ハイヴは騎士団長。

彼が言うことは騎士団の中で絶対。

しかし、カインはそれでも声を上げた。


「お言葉ですが、団長。

 陛下を戦場の最前線にお連れするなど、危険すぎます。

 陛下に何かあれば、それこそわが軍は総崩れとなります」


カインはやはり納得していなかった。

フレヤは振り返ってカインのほうを見た。

しかし、フレヤが口を開くよりも早く、

ハイヴが話し出した。


「王とは、その身をもって国を守り支える者。

 お飾りだけの王など我々には必要ない」

「ハイヴ団長!!」

「目を覚ませカイン。

 おまえの目の前にいる方は、守られるだけの姫ではない。

 この国の女王たる方だ」


カインの顔は見たことがないほど険しい。

ギリっ、と奥歯を噛みしめる音が聞こえた。


「我々には、時間がない。

 わかるな」

「……御意」


押し殺された声は震えていた。

部下の前で団長に意見するなど、

きっと部隊長としてのプライドに傷がついたはずだ。

それでも、意見したのはきっとフレヤのことを想ってのことだ。


「カインありがとう。

 私は、大丈夫よ。

 だから、私を信じて?」


カインの傍に行き、その手を手を取り、

顔をのぞき込む。

カインは唇をかみしめていた。

そのグレーの目はこちらを見ない。

そのかたくななまでの態度は、

ただただ主を失うことを恐れてのものにしか見えなかった。

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