コメディ・ライト小説(新)
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- 日陰の僕らは絶縁体
- 日時: 2017/04/11 15:17
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
そして、君はいなくなった。
青く落ちて消えて、そして永遠に残る、どうしようもない嘘。
***
【 第1部 】
Episode01「音が消えた春」
>>001「汚れた群青(1)」
>>002「死ななかった猫(2)」
>>003「咲かない桜(3)」
>>004「ソファーから落ちて(4)」
>>005「死神さんは殺したくない(5)」
Episode02「夏に溺れた」
>>006「砂浜に裸足(6) 」
>>007「本音とキス(7)」
>>008「赤い花火(8)」
Episode03「零れ落ちた秋」
>>009「女騎士のお話(9) 」
>>010「王様のお話(10)」
>>013「王様と女騎士のお話(11)」
Episode04「冬に霜華」
>>014「忘れられた木(12)」
>>015「雪は夢の形(13)」
>>018「雪の幽霊より(14)」
*
>>019「挨拶Ⅰ」
***
【 第二部 】
Episode01「見えない明日の探し方」
Episode02「昨日の天気は忘れておくれ」
- 日陰の僕らは絶縁体【第1部完結】 ( No.19 )
- 日時: 2017/02/22 17:00
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
今さらですが、挨拶を。
皆様、はじめまして。名前は聞いたことあるよーという方、どうもどうも。またお前か、という方、はいまた私です。コメライの人である認識をしてほしいがためにこちらに戻ってまいりました。ただいまただいま。
現在進行形の小説たちの中にこれを含めて短編集が二つあります。二つも作る意味なんてないと思ったのですが、もともとあった短編集は私が「書きたい」と思うものを書くために作ったもので、いわば長編を連載していく長編集みたいなものなのです。そのため、ふと「こんなお話を書きたいな」と思っても、あまり書くことができませんでした。
あ、思いつきで小説を書くことをやめたかったのですが、無理だったというだけのお話です。お恥ずかしい。
この短編集は「携帯小説」のような、読みやすさを重視しています。
私自身携帯小説は苦手で、あまり読んだことはないのですが、ああいう風に読みやすい小説を目指そうという意志だけは昔からありました。相変わらず自己満足小説だという事実は変わりないのですが、少しずつでも変わっていけたらと思い、そのチャレンジとして短編を書いています。
メインのテーマは「恋」と「死」
私の好むストーリーを知っている方はわかると思いますが、結構普通に人が死んでいきます。第一部だけでもどれだけ「死」を取り扱ったでしょう。中に紛れてある恋のお話を見つけて癒されてほしいな。そもそも一部で書いたっけ……。
まだ、何部まで書くかは決まっていませんが、ゆっくり頑張っていこうと思います。
また、お世話になります。
- 夏の渦巻き(15) ( No.20 )
- 日時: 2017/03/15 11:54
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
「おなか、すいたね」
会話が続かなくてふと口から出たその言葉に、彼は顔をゆがめる。
さっき、クレープ食べたばっかだろ。呆れた声が私の左耳をくすぐる。
「なに、お前なんか言いたいことあるの?」
地面と自分の靴をじっと見つめてたら、そんな言葉が降ってきた。
何にもない、心の中ではそう思っていても上手く言葉にできない。
夏の日照りは、心臓に悪い。
だって彼の不満そうな顔が、いつもより明るいせいでよく分かるから。
そんな表情を見たくない。
いやいや私に付き合っているって、ちゃんと分かっているんだよ。
夜遅くまで気合を入れて選んだ淡いパステルピンクのワンピースも、太いから出したくなかった足も、この日のために街に出て買った可愛いサンダルも。
全部君のためだよ、なんて死んでもいいたくない。
死んでも、言えない。
「さっきの……クレープ、美味しかったよ」
やっぱり、彼の方を見ることはできなかった。
幸せが逃げるというのに、私は深いため息をこぼす。唇を結んで、自分の黒い影を睨みつけて、泣きそうになるのをこらえた。
言葉にするのは、難しいから嫌いだ。
「アイツが死んでから、もう一年になるんだな」
「そうだね」
「お前はさ、アイツのこと、好きだったんだろう」
「……そりゃ、幼馴染だもん。ずっと、一緒だと思ってた」
「そんなの無理な話だろ」
言い捨てられたその一言に、私は思わず彼の方を見る。
儚げな表情は、死んだ彼へのどんな感情なのだろう。ぐるぐると、未だによく分からない感情に支配されている私とは違うんだろうな。
睨みつけるように見てしまった私に彼は「ごめん」と小さな声で謝った。
「俺たちが三人でずっと一緒に居ることなんか不可能な話だったんだよ。最初から、さ」
乱暴に私の手を握った彼は、そのまま私を引っ張って歩いていく。
不器用な男だな。と、自分のことは棚に上げてそう思った。
「けど、私はずっと居られると思ったんだ。三人で、いられると、思った」
夏の空はムカつくぐらい青く透明だ。
大好きな人を失った私たちに、強く生きることを強いる。そんな、夏。
私たちは、夏が嫌いだ。
中心からどんどんと遠ざかっていく。近づくことは絶対にできない。
私たちは、渦巻きのような関係だと、握った手のひらの熱を感じながら、ただそんなどうしようもないことを考えて笑った。
- 告白はコーヒーの味(16) ( No.21 )
- 日時: 2017/04/12 14:31
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: 3A3ixHoS)
淹れたてのコーヒーの匂いが私の鼻孔をくすぐった。
目の前の男のテーブルには、似合わないクリームソーダがちょこんと置かれてあって、彼は無言のままスプーンでアイスの部分をすくって口に運んだ。
甘いものは苦手だと、以前話していた気がしたのだけれど、別の人だったのだろうか。記憶はおぼろげだ。
「あのさ」
一年ぶりに会うからなのか、彼の声は震えていて、まるで緊張しているみたいだった。
昔はもっと意地の悪い、ガキ大将みたいな男だったのにな――過去を思い出して、私はくすりと笑った。
「どうしたの?」
私はコーヒーを一口飲んで、彼に相槌を打った。
砂糖もミルクも入れないコーヒーは初めて飲んだけれど、やっぱり苦い。少し顔を歪めてしまった私を見て、彼は少し戸惑ったような表情を見せた。
「えっと、あの。ブラックも飲めるようになったのかなって、お前」
「いや、今日初めて飲むの。友達が最近ブラックにはまってるみたいだから、私も試してみようって思って」
でも、やっぱり苦い。別段、コーヒーが好きだったわけでもないし、飲みきれそうにもなかった。
目の前の甘ったるそうなクリームソーダも、今はなんだか無性に食べたい気分だ。ふうと溜息を一つ。
「あのさ。実は、お前に言いたいことがあってさ」
「うん」
喫茶店の隅っこ。ここだけ蛍光灯がなくて、少し薄暗い。
私と彼が何か大事な話をするときは、いつもここだった。
付き合おうと初めに彼が告白したのもここだったし、別れようと彼が言ったのもここだった。
もしかしたら、今度結婚するんだ。とでも言われるのだろうか。
変な妄想を繰り広げる私の脳内は、高校生の時と全く変わらない。会いたいと連絡があった時に、少しだけ私は喜んでしまった。
久しぶりにクローゼットの奥に仕舞い込んでいたお気に入りのワンピースを着てしまった。
でも、そんな浮ついた気持ちなんてすぐに圧し折られる。
いつも当たり前のようにしている呼吸が上手くできないのは、彼の哀しみにあふれた表情を見てしまったからだ。
幸せな報告じゃないってことは、最初から分かっていた。
「死んだんだ、アイツ」
震えた声で紡がれた言葉は、いたってシンプルだった。
「アイツ」で誰かわかるほど、私たちは親密な関係だった。離れることのできない関係だった。
「どう、して?」
勢いよく彼に詰め寄ろうとすると、私の飲んでいたコーヒーが倒れた。
私のお気に入りの白いワンピースがコーヒーの色に染まる。
汚れたワンピースを見て、私は落ち着いた。やっぱり今日は呼吸が上手くできないや。
「恋人に刺されたんだって。アイツ、馬鹿だ。いともあっさりと、死にやがった」
「死なないよ。アイツは死んだりしない。絶対に死んだりなんかっ」
「死んだんだよ」
諭されるように、彼の落ち着いた声が私の耳元で囁かれる。
瞳からあふれたものに、私は気付けなかった。
でも、ふと気が付いた。
あぁ、そうか。殺されちゃったんだ、アイツは。
目の前に座る彼はやっぱり哀しみにあふれた表情をしていた。
どうしようもなく、悲しい表情だ。
作り物のような、その綺麗な泣き顔は、私の心を強く揺さぶった。
「そっか、そうなんだ」
真っ暗なその空間で、彼の表情が少しだけ笑っているように見えた。
「私にそれを言って、どうするの……」
クリームソーダを食べ終えたその男は、会計を勝手にしたあと、私を置いて喫茶店から出て行った。
残された私は死んだと聞かされた「アイツ」のことを思い出して、また涙を流した。
「あーあ……かわいそう」
愛しい人を殺せたなら、それ以上に幸せなことはないだろう。血痕なんてまるでない私の愛しい人は、店から出て行った後にきっと泣くのだろうと勝手に想像しながら、私はぽつりと言葉を落とす。
さっき飲んだ苦いコーヒーの味を思い出しながら、私は席を立った。
- のど飴を砕いてそっと飲み込む(17) ( No.22 )
- 日時: 2017/04/15 20:57
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: h8BfkWd/)
彼女はまるで大阪のおばちゃんみたいな、そんな人だった。
失礼な話だが、おしゃべりだし、うるさいし、よく言う口癖が「あめちゃんいる?」だから、仕方ない。
学年でも可愛いと評判の彼女は、ただただ残念な美少女だった。
彼女の趣味は読書だった。
放課後、ひとり教室に残って分厚い本を読んでいる。
その本はベストセラーだったり、無名の作家の小説だったり、彼女には似合わない恋愛小説だったり。
気分で今日読む小説を決めているんだなと最近気づいた。友達の恋バナを聞いた時は恋愛のご定番、携帯小説を。勉強で行き詰った時は心温まるハートフルな家族もの、体育があって気分のいいときは、推理小説を好んで読んでいる。
俺は彼女の読む小説に興味があった。
彼女の好みは俺と似ている。話しかけるきっかけがなくて、いつもただ彼女から飴をもらうだけで会話が終わってしまう。
彼女は容姿だけでいえばクラスで一番だし、本当は俺のようなモブキャラが関わっていい人じゃないことなんて重々承知だ。
けれど、今日はどうしても彼女に声をかけたかった。
俺も昨日読んだばかりの、発売されてまだ数日の作品。
俺の一番大好きな作家の最新作を彼女は今、読んでいる。
「まだ、教室に、残ってるの?」
話しかけ方が分からなくて、俺は震える声でそう尋ねた。
変な奴だと思われたら、どうしよう。パニック状態に陥った俺は手に汗を握りながら、彼女をじっと見つめた。
「うん……これ、まだ途中だから。あぁ、これ。飴ちゃんいる?」
彼女は読んでいた本に栞をはさみ、鞄の中から雨の入った袋を取り出した。
どれがいい? にっこりと微笑んだ彼女、見えた笑窪が可愛くて、俺の頬はさくらんぼ色に染まった。
「あり、がとう」
選んだのは生姜ののど飴。
それ美味しいよねーと彼女は笑いながらまた本を開けた。
飴を口の中に含んで、ころころと転がす。優しい生姜の味が口の中に広がって、俺は暫くの間、彼女の前の席に座って飴を舐め続けた。
俺はずっと彼女が真剣に本を読むさまを見つめていた。
それに気づいた彼女は、恥ずかしいのか少し照れたように、はにかんだ。
「わたしの顔、なにかついてたりするかな?」
彼女の頬も俺と同じようにさくらんぼ色に染まる。
勇気を出すのがこんなにも難しいなんて。俺は両手で頭をくしゃっと掻き乱して、彼女を一点に見詰めた。
小さくなった、のど飴を噛み砕いて、そっと息を吐く。
「その本、面白いよね」
たった一言。君に近づきたくて、俺はどうしようもなく平凡な発言で君を困らせるのだろうな。ごめんねと、心の中で先に謝っておこう。
- 拝啓、優しくない世界へ(18) ( No.23 )
- 日時: 2017/06/14 17:26
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: 3A3ixHoS)
拝啓、優しくない世界へ
お久しぶりです、お元気ですか。
と、こんなありきたりな挨拶から始めたけれど、私はそんなに手紙の書き方なんて分かってません。そもそも、手紙を書くのってこれが初めてかもしれない。
優しくない世界と君のことを読んでいたのも、もう大分昔のことのように思えます。
ていうか、君のハンドルネームはやっぱり変だと思う。変に長いし、意味が分からない。どういう由来で君がこの名前にしたのか、やっぱり気になっちゃうよ。
って、やばいやばい、話が脱線しちゃってる。ってか、この手紙、異常にぐたぐだな気がするんだけど、まぁ君のことだから「しゃーない、読んでやるわ」と思ってくれると思います。読まずに捨てたら、怒るからね。
最後に会ったのは、いつのことでしたか。
もう半年前になるのかもしれませんね。
君が元気に「行ってきます」と部屋を出て行ったのを、私は今でも覚えています。大事なお仕事に行くから、なんていうのに、肝心のパスポートを忘れていく君を思い出すたび大爆笑です。忘れ物には気を付けて、と何万回言ったとしても、きっと君は忘れちゃうんだろうね。それでもいいんだよ、私はそんな君が大好きです。
それより、私の話を聞いてください。
ずっと部屋から出れなかった私ですが、このたび外に出る決意をいたしました。
学校に通おうと思います。この年齢で高校生になろうと考えてるんだよ。きっと、君に話したら笑われるね。っていうか、きっと読みながら君は笑ってると思う。
人が怖かったなんて、世間から言ったらガキみたいな言い訳ってなるんだろうけど、君だけは私のことをずっと信じてくれてたよね。大丈夫って君がずっと言ってくれてたから、私はようやく外に出る勇気を持てました。遅くなってごめんね。
今も、まぶたを閉じれば、君が私の隣で楽しげに笑っている様子が浮かびます。
君が、いつまでも私の隣にいる夢を見ます。
そんなこと、もう絶対ないって分かってるけど、それでもそう願わずにはいられないのです。
君の死体を見た時に、私は酷い吐き気に襲われて、君のことちゃんと見てあげられなかった。たとえ君がどんな姿になろうとも、私だけは君のことをちゃんと最後まで見てあげなきゃいけなかったのに。ごめんね、本当にごめんね。
いつか、私も君の隣に行く日があるかもしれません。まだ先のことだろうけど、それまでどうか、待っててください。浮気なんかしてたら、許しませんからね。
今日から、私は高校生になります。
あの短いスカートをはいている自分を姿見で見てみると笑えます。
君の笑った顔も浮かびます。
行ってきます。
さようなら。
敬具 優しい世界より。