コメディ・ライト小説(新)

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巫山戯た学び舎
日時: 2018/08/18 08:37
名前: 河童

――僕らに普通は難しい。だから、皆で巫山戯ふざけて学舎生活を楽しむんだ。




 初めましての方ははじめまして。そうでない方はこんにちは。河童と申すものです。
 コメディ・ライトでは初めて書かせていただきます。稚拙な文ですが、どうかよろしくお願いします。

 コメント、アドバイス等はお待ちしております。
 荒らし、誹謗中傷、チェーンメール等はお止めください。


『目次』

第一話「一人ぼっちの幸せもの」  >>01-08
第二話「アンドロイドとおっさん」 >>09-13
第二話――の2「あどけなさなんてあり得ない」 >>14-15>>18
第三話「手首の行方」       >>19-22 >>27
第四話「変人の集い、始動」    >>28-34
第五話「愛と勇気と君の声援」   >>35-39 >>42-




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【kappa@1568】

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Re: 巫山戯た学び舎 ( No.39 )
日時: 2018/05/20 08:02
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6

「じゃあそろそろお昼休みも終わるので、私達行きますね」
「ああとどろきちゃん! 行ってしまうのね! 宗谷、とどろきちゃんに何か失礼なことしたらあたしが許さないわよ」
「わかった、わかったから。じゃあ行ってくるね」

 うだうだと、何もしていないはずの僕に絡んでくる母を引き剥がしながら、僕達は中庭を出る。うーん、この半本さんへの異常なほどの愛情、どこかで見たことがあるような気がするんだよなあ。
 ああ、思い出した。

「おっと半本さん。やっと終わったのね。足の調子は大丈夫かしら」

 壕持さんだ。と思った瞬間に本人が登場。噂をすれば影、とは言うけれど、噂すらしないのに影が伸びてくるのはなんなんだ。というかどこから出てきたんだ。さっきまで伸びてきた影どころか姿かたちもなかったのに。
 壕持さんは逃げたということに対しての罪悪感などどこにもない、というような清々しい顔でこちらへ歩いてきた。
 そして、半本さんはその壕持さんの声の方を向いて、2つに結った髪を揺らしながら手を振る。

「あっ、もっちーちゃん! どこ行ってたの? 急にいなくなってたからびっくりしたよ」
「ごめんなさいね、本当に外せない用事があったのよ。本当に。外せない。用事が」
「人の親と話すのが苦手だから逃げたんじゃ」
「音桐君は黙ってて」

 本当のことを言ったら怒られてしまった。1つ1つ区切りながら、白々しい台詞を吐く壕持さんを逆に尊敬してしまう。友達が僕と同じくらいいないのに、本当に外せない用事があるわけないだろう。
 しかし、半本さんはそれを信じたようで、困った顔をしながら、

「そっか、用事があったなら仕方ないね……」

 と、言う。信じるのかよ。半本さん、いつか詐欺師に引っかかるのではないだろうか。オレオレ詐欺とかすごい勢いで信じ込みそうな気がする。

「ああ半本さん、そんな困った顔をしないで。ほら、これから午後の部も始まるわ。私はもうあなたの側にいるのよ……」

 慈愛に満ちた表情で言う壕持さん。半本さんの肩を抱きながら涙すら流しそうである。『いやいや、仕方ないんだよ』と微笑む半本さん。いやあ、感動的だなあ。実際に外せない用事があったならとても感動的だったんだろうなあ。半本さん、この茶髪の人の台詞、全部嘘ですよ。
 まあ、この美しい友情――なのだろうか――に水を差すのも悪いし、そんなことは言わないけれど。
 呆れつつ2人を見ていたら、壕持さんに『何呆れてるのよ、もっと感動しなさいよ』という目をされた。ついでに睨まれた。何故だ。
 などという茶番をしながらグラウンドへ戻る。すると、僕らと同じように青いはちまきをした女子のクラスメイトが、こちらに向かって何かを喋っているのが見えた。ちょっと遠くて言っている内容まではわからない。
 少し近づけば、その声は半本さんを呼んでいるということがわかる。

「とどろきちゃん! 足、大丈夫なの!?」
「あ、今利いまりちゃん。大丈夫だよ、こんなの! ……いたた」

 焦げ茶色の髪の毛を、肩までのポニーテールにしている女子が半本さんに近付き声をかけてきた。なるほど、こんな女子うちにいたのか。未だに誰が誰だかわかっていない。周りには、彼女だけでなく他のクラスメイトもいる。
 そして、『何半本さんに近付いてんのよ』と呟きながら壕持さんがこの女子を睨んだのが見えた。
 今利、と呼ばれた子の心配に、半本さんは強がるが、やはりかなりの勢いで転んだために怪我も大きいみたいだ。

「やっぱり駄目じゃん! 次、クラス対抗リレーのアンカー、とどろきちゃんは走んない方がいいよ」
「いやいや、大丈夫だって! 私アンカーできるよ!」
「じゃあ、ここで走ってみてよ」

 女子生徒の要求に、半本さんはもちろんと言うが、足が震えている。表情も、明らかにこれから走ることができる人の顔ではない。真顔で固まったまま自分の足を見つめている。
 しかし、止まっていたのは僅かな時間で、すぐに足を踏み出そうとするが、上げた右足をすぐに戻した。

「いたっ! ……いや、今の痛いというのは足が痛いという意味じゃなくて、踏まれた地面の気持ちを代弁したというか」
「流石に無理があると思うよ、半本さん」
「音桐君もそう思うよね!? とどろきちゃん、やっぱり無理しない方がいいよ!」

 僕が半本さんに苦言を呈したら女子生徒に話しかけられた。僕の名前、認識されていたのか。急に話を振られたので驚いて、僕はこくこくと頷くことしかできない。
 しかし、半本さんは意外と頑固で、自分が出ると言って聞かない。

「いやいや、私大丈夫だから。足めちゃめちゃ動くから。365度自由自在だから」
「怪我人が言うことじゃないよ! いいから、とどろきちゃんは休んでてってば!」

 いやでも、だけどの応酬は終わりが見えない。半本さん、本当に頑固だな。こんなに言ってくれているなら、折れてもいい……というか、僕ならすでに折れているだろう。きっと彼女の責任感の強さが、変な方向に発揮されてしまっているのだろう。自分で引き受けたなら、やらなければ、と。
 しかし、そんなことを言っていても、こんな足の状態で走らせるわけにもいかないし。どうしようかと皆が頭を抱えそうになった時。今まで黙っていた壕持さんが口を開いた。

「私が走るわ」
「え?」

 きっと驚いたのは僕だけじゃない。えっ、と声を出したのは、半本さんや女子生徒、それに周りのクラスメイトもだ。
 壕持さんは毅然とした態度で、半本さんを見据えて言う。

「怪我をしながら走ったとして、そこになんのメリットがあるの? 半本さん、あなたの怪我も増えるし、相手のアンカーにはあの加賀坂蒼もいるのよ。そんな状態で勝てる相手ではないわ」
「もっちーちゃん……」

 少し傷ついた表情で半本さんは壕持さんの名前を呼ぶ。いつもは半本さんを全肯定するような壕持さんがここまで言うのは初めてだ。周りのクラスメイトも驚いて何も言えない。
 そして、壕持さんは半本さんに近付き、彼女の肩を両手で掴む。

「あなたが心配なの。まあこの辺の人々も心配だと思うけど、私が全人類の中で1番あなたを心配している。無理をして走るのは私が許さない。勝ちたいんでしょう? なら私に任せてほしい。安心して。性格も悪い、態度も悪い、友達も少ない私だけど、それでも走ることだけは得意よ」

 ゆっくりと噛みしめるように、半本さんの目を見て話す。こんなに長々と、しかも人を思いやった言葉を放つのは本当に初めてだ。その目をみていた半本さんも、やっと折れたようで、

「わかった。任せたよ、もっちーちゃん!」

 と、とびきりの笑顔で言う。壕持さんはその表情に撃ち抜かれたようで、少し硬直した後、落ち着いた声で言った。

「任されたわ。あなたの期待を裏切るようなことはしないって、誓う」

 周りの生徒も、最初は雰囲気に飲み込まれていたのか黙っていたが、やがて口々に頑張れ、と壕持さんに声をかける。
 だが壕持さんは真顔で『煩い煩い、私のいい台詞が台無しじゃない』などと言う。けれどきっと、これは照れ隠しだろう。その証拠に、壕持さんの頬が少し赤く染まっている。なんだ、意外と人間らしいところもあるじゃあないか。僕は少し吹き出してしまう。

「何よ音桐君。人の顔見て笑うとは失礼ね」
「いや、なんでもないよ。……頑張ってね」
「言われなくても頑張るわよ。見ていなさい、ゴールテープを華麗に切る私の姿」
「うん、わかったよ」

 いつもは胡散臭い壕持さんの言葉がやけに格好良く見えた。彼女ははちまきをしっかりと結び直す。
 午後の部の開始はもうすぐだ。

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.40 )
日時: 2018/05/21 18:39
名前: いろはうた

こんにちは!!
はじめましていろはうたと申します!!
どうぞお見知りおきをm(ーー)m


ずっとずっとお邪魔したいと思っていましたが
なかなか来られず、今日ようやくお邪魔させていただきました。
最初はタイトルに惹かれたのですが、
読んでいくうちにしっかりとした文体にグイグイと引きこまれて
あっというまに読破してしまいました……

よくタイトルをお見掛けすると思ったら、
何年もかけてこのお話を紡いでいらっしゃるんですね!!
マジ尊敬します……

個人的には男の子がメインのお話は
ここのコメライでは新鮮で、楽しく読ませていただきました。
お母さんのキャラが濃くて、好きです(*ノωノ)


暑くなってきましたが、体を大事に
更新頑張ってくださいねー!!

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.41 )
日時: 2018/06/07 21:58
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6

>>40

 はじめまして、いろはうたさん。はじめましてとはいっても、私はあなたの名前を密かにコメライ板で拝見しておりました。

 タイトルで惹かれたと言ってもらえると嬉しいですね! 人目を引ける題名にできたんだなあと思えます。それに、文体までも褒めていただいてありがたさの極みです。精進します。

 私が中学校に入学したあたりからずっとこの作品を書き続けているので、今年で4年目? でしょうか。ただ、半年、1年放置してた時があったので、あんまり長く書き続けてる感じではないです(笑)

 たしかにコメライでは女子が主人公が多いイメージですね。男子主人公好きなので、増えてほしいですね(笑)
 音桐母、出たばかりなのに好いてもらえるとはうれしいですね! これからも多分出てくるのでよろしくお願いします。

 コメントありがとうございました!

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.42 )
日時: 2018/06/07 21:58
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6

 学級対抗リレー。僕達1年生5クラスの全員が参加するリレーである。まあ、それはつまるところ――。

「僕もリレー出るってことだよね……」
「当たり前のことを何今更言ってるのよ。なんか私だけリレーに出るみたいな言い方してたけど、普通に音桐君も出るから」

 青組の待機席で1人、大きい溜息をつきながら頭を抱える男子生徒。僕である。すっかり忘れていた。なんかいい話になる感じだったし、僕関係ないみたいな雰囲気だったから失念していた。
 学級対抗リレーに僕が出るだなんて。いいじゃん、さっきの空気のままふわっと僕の出場も無しにしてくれよ。走りたくないんだよ。走るの得意な人々でなんとかしてくれ。
 とめどなく溜息をつきつづける僕に釣られたのか、壕持さんもひとつ息を吐く。

「最初から出ることなんて決まってたじゃない。腹くくりなさいよ」
「いやそうなんだけどさ、ううん、走りたくないわけじゃないんだよ? いやこの『わあ! これから頑張ろうね! ハッピー!』みたいな雰囲気を壊すのが怖いというかなんというか」
「そのハッピーな雰囲気を馬鹿にするみたいな声をやめなさい。つまり走りたくないんでしょ?」
「はい!」
「初めて聞くくらい良い返事ね。その元気のまま走りなさい」

 椅子に座って、足に頭をうずめながら元気な返事をする姿はさぞかし滑稽だろうが、そんなことはどうでもいい。走りたくない。永遠にこの姿勢のまま命を終えたい。いや、そこまでではない。
 何が言いたいかというと走りたくないのだ。できることならこのままバック転をして失敗して怪我をして休みたい。痛いことは嫌だからやらないけれど。
 そんなことをしているうちに、皆はリレーの準備を始めたようで、準備場所へ向かう足音がぽつぽつ聞こえてくる。
 その足音の中に、ひとつだけ周りの音より大きいものがあった。他のものを吹き飛ばす勢いで走ってくる足音が。それはどんどん僕の方へ近づいてきている。僕の真横でその音は止まったかと思うと、

「おい宗谷! なにやってんだよー! 元気ないのか? あるよな!」
「うわぁ!」

 体が浮く感覚。どういうことだ、僕はさっきまで座っていたはずだ。それがいつのまにか加賀坂さんの肩に俵担ぎされている。視点がおかしい。なんで僕の視点に地面しかないんだよ。

「おい暴れるなよ。いや、暴れるってことは元気ってことか! ははは、元気はいいよな! よし準備場所行くぞ!」
「わかった! 行くから降ろして! こんな体制で行きたくないよ僕!」
「そんな声張り上げてるの見たの初めてだ。元気だなあ」

 そんな阿呆なことを言って降ろしてくれない加賀坂さん。担がれている状態を打破する方法なんて僕は持っていない。担がれるまま、僕は準備場所に運搬されるのであった。
 運び終わったらしく、肩から降ろされる。振り落とされるのかと思ったが、意外にも優しく地面に降ろしてくれた。
 横たわる体勢で降ろされたため、僕は体育座りをする。座ってみると、やはり加賀坂さんの身長は高いな、と実感した。彼女は僕を見下ろすようにしたあと、周りを見渡して言う。

「いやー、リレー楽しみだなあ! とどろきはどこだ? あいつ、アンカーだろ? アンカー仲間としてちょっと話がしたいんだけど」
「ああ、半本さんは怪我してリレー出ないよ」

 僕がそう言うと、加賀坂さんは目を見開いた。ただでさえ三白眼気味の小さい目がいっそう小さく見える。

「なんだって? じゃあ誰がアンカーを……」
「私よ、私」

 唐突に僕の背後から壕持さんの声がする。いや、いつも彼女は唐突だから、むしろこれがデフォルトなのかもしれない。振り返るとやはり体操着の壕持さんが仁王立ちしていた。
 それにしても加賀坂さんが来るときはいつも唐突に入ってくるよなあ。

「ほー、四美が! そりゃあ楽しみだ」
「無駄話は結構。はやく自分の待機場所に帰りなさい。リレー、始まるわよ」
「四美はあたり強いなあ。まあ帰ってやるか」
「名前で呼ぶな!」

 はいはい、と言いながらあっさり帰っていく加賀坂さん。歩いていく彼女の背中を睨みつけた後、壕持さんは僕に指をさす。

「あのねえ、敵と話すなんて言語道断よ。音桐君何考えてるのよ」
「そんなこと言われても……。そもそも敵がどうこうっていうか、加賀坂さんのことを壕持さんが一方的に嫌ってるだけじゃ――」
「うるさい」
「はい」

 なんかこういう流れが1セットみたいになっている気がする。僕は本当のことを言っているだけなのに、壕持さんは煩いの一言で終わらせてしまう。
 話を逸らすようにして、壕持さんはまた指をさしてきた。

「ていうか、音桐君1番最初に走るんだから、しっかりしなさい」
「……え、僕がトップバッターだったっけ?」
「は? そんなことも忘れてたの?」
「……」

 僕の溜息は、終わらない。

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.43 )
日時: 2018/08/18 11:40
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6

「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
「おつかれ、宗谷くん」
「はん……もと……さん……」

 僕はやってやったぞ。走った。超走った。生まれて初めてこんなに全力で走った気がする。肩で息をするってこういうことを言うんだなあ、と自分自身の体で実感した。心臓が痛いくらいに跳ねている。グラウンドの木、引かれている白線、話しかけてきてくれた半本さんの顔、すべてが歪んで見えた。大げさすぎないかって? すぎないよ。頑張ったんだよこっちは。
 たかが200メートルで死にそうになっている僕を、心配そうに眉を下げて見ている半本さん。

「宗谷くん、大丈夫? なんだか生まれたての子鹿みたいだけど」
「その……例え方は……ちょっと……」
「大変そうなら喋らなくて大丈夫だよ?」

 気遣ってくれてありがとう半本さん。けれどやっぱり僕に走るのは向いていない。そう言うと、半本さんは『無理しないでね……?』と不安げに言って、他の人のところへ行ってしまった。
 僕のように走り終わった人や壕持さんのようにこれから走る人は、ぐるっと1周、200メートル分引かれた白線の内側で待機している。
 いや、壕持さんは半本さんの分だけでなく、先程元々自分が走る予定だったところも走っていた。なんでそんな走れるんだよ。前世がカモシカかなにかだったのだろうか。
 ちらりと推定前世カモシカの壕持さんを見てみると、特に疲れた様子もなく、毅然とした態度である1点を見つめていた。ゴールテープでも見据えているのか? と思ったがそうではないらしい。視線の方向をなぞって僕も首を動かしていくと――。
 やっぱ半本さんかよ。せめてゴールテープ見ろよ。

「おー音桐。おつかれぇ」
「あ、山脈道理君。ありがとう」
「意外と足速いんだな。びっくりした」

 ひらひらと手を振りながら、僕を迎えたのは山脈道理さんみゃくどうり君だった。あんなに遅かった僕に笑顔で話しかけてくれるなんて、いい人すぎるだろ。聖人君子か。
 いや、どの口で僕のことを足速いとか言ってるんだ。絶対山脈道理君の方が速いって。さっき僕の前に走っていた彼は、恐ろしいほど速かった。もしかしたら僕が遅すぎて相対的に速く見えるのかもしれないけれど、それにしても速かった。

「そんなことないよ……。山脈道理君こそ、すごかったね」
「そうかなあ、へへへ。でも俺より速い奴もたくさんいるよ」

 謙遜しつつ、頭を掻きながら恥ずかしそうに笑う山脈道理君。純粋な中学1年生って、こんな感じなんだなあ。普段は壕持さんだの笛子君だの濁りきった汚水のような中学1年生と話しているから、こうやって清い人と話すと癒やされるな。やはり人間としてどこか欠けている人々と関わってばかりではいけないな。
 などと感慨深い気持ちにふけっていると、山脈道理君がまた僕に話しかけてきた。

「いやー、壕持の奴すごいよな。『私が走る』って! あんなかっこいいこと言えないよ」
「そう……だね。かっこいいね」
「なんだよ、歯切れ悪いな」

 確かにあの時の壕持さんは格好よかった。ただ、普段のモンスターペアレントのような壕持さんの姿を見慣れている身からすると、格好いいでまとめてしまいたくないような気がする。
 まあ、本人の名誉のためにいつもの姿のことは黙っておこう。それに、あれだけクラスの人と距離を取っていた壕持さんがちゃんと周りに受け入れられているのはいいことだし。半本さん大好きモードのことはもう少し彼女がクラスに馴染んでから暴露した方がいいだろう。

「――っていうか、壕持の走る番そろそろだよ!」
「え、ほんと?」

 山脈道理君がどこかを指さしながら言う。その方向を見ると、彼の言う通り、壕持さんがバトンを受け取ろうとしている体勢でグラウンドに立っていた。
 その隣のレーンには加賀坂さんも立っている。壕持さんに構いに行っていた時のようなふざけた態度はどこにもなく、ただひたすらに真摯に目の前を見据えている。赤いはちまきが風にはためく。獲物を見つけた猛獣のような目で、ゴールテープだけを目標に彼女は佇んでいた。
 半本さんがどこからか僕の隣に来る。どこか緊張した面持ちで、壕持さん達の方を見ていた。

「もっちーちゃん、大丈夫かな」
「きっと大丈夫だと思うけど……」
「いけるよ多分、あいつなら。知らんけど」

 山脈道理君が気楽に言うので、なぜだか本当に大丈夫な気がしてきた。半本さんも不安が少し軽くなったようで、硬かった表情を少し緩める。
 壕持さんの前の走者が彼女に向かって走り出す。それに続いて、1組の走者も向かってくる。今の所は、接戦だけれど少しばかり3組――こちらの方が優勢だ。
 そしてバトンが壕持さんの手に渡る。その瞬間彼女はアクセルを踏んだように走り出す。タッチの差で、加賀坂さんもスタートする。遅れて、2、5、4組とアンカーの順番が回ってくる。
 アンカー以外はグラウンドを半周するのだが、最終走者に限っては、グラウンドを1周し、ゴールテープに向かっていく。走る距離が長いということは、それだけ何が起こるかわからないということだ。

「やばい!」

 山脈道理君が弾かれたように声をあげる。見れば、壕持さんが加賀坂さんに追い抜かれそうになっていた。元々僅差だった差が、更に縮まっていく。壕持さんも確かに速い。加賀坂さんさえいなければ、確実に1位で逃げ切れただろう。ただ、その加賀坂さんが規格外だった。足の回転の速度がまず違う。何よりも、とても綺麗に、そして苛烈に走っていた。スタートする前が獲物を見つけた猛獣ならば、今の彼女はその獲物を追い詰めるような目だった。
 たん、たん、踊るようなリズムで駆け抜け、やはり壕持さんは追い抜かれてしまった。
 その瞬間、クラス中が諦めたような表情をした。もう勝てないと。あの化物のような加速に勝つのは無理だと。『頑張れ』と言ってはいるが、顔から諦めがにじみ出ている。それは壕持さんも同じだった。いや、間近であの速さを見ているから、更にその思いは強いだろう。
 ただ、僕の隣の半本さんだけは違った。勝てるかも、という思いを捨ててはいなかった。いや、壕持さんなら絶対に勝てるという確信すらも持っているのかもしれない。そして彼女は叫ぶ。力の限りを尽くして。

「もっちーちゃああああん!! 頑張れ!! 絶対に勝てるから! まだ諦めないで!」

 僕は言霊というものを信じていない。目に見えないものは信用しない主義だからだ。だから、人の声が誰かを変えるのだ、などという理論はかけらも信じていない。
 しかし、今回だけは違った。
 この半本さんの声を聞いた瞬間に、壕持さんは変わった。半本さんと同じ、不屈の目になったのだ。足の回転が変わる。速さもかわる。そして、加賀坂さんとの距離も変わっていく。
 あれだけ速かった加賀坂さんに追いつこうとしているのだ。半本さんの言葉を聞いただけで。こればっかりは、声が彼女を変えたのだとしか考えられない。
 変わったのは壕持さんだけではなかった。クラスのみんなが、半本さんに元気をもらったかのように、諦めが消えた。全力の声援を送り、また壕持さんが速くなる。
 追いつきかけて、引き離される。それを何度も繰り返し、ゴールテープまであと10メートルというところで。

「追い抜いた!」

 あの加賀坂さんを追い抜き、壕持さんがトップを走る。
 そして――白いゴールテープを切った。つまりは、この1学年学級対抗リレーの勝者は、僕達1年3組ということだ。
 瞬間、上がる歓声。次いでゴールした加賀坂さんは驚いたような表情をした後、喜びに変わった。何やら壕持さんの傍に行って握手を求めるような動きをしている。邪険に扱う壕持さんだが、段々と面倒くさくなったのか、それとも情が芽生えたのかなんと加賀坂さんと握手をした。
 とは言っても1秒もしないうちにその手を離し、こちらに向かってくる。
 こちらに、というよりは半本さんに、だろう。走りきったのにどこからその元気が湧いてくるのかというくらい全力疾走で半本さんに駆け寄り、抱きしめる。

「半本さん! 私勝ったよ!」
「もっちーちゃん……おめでとう……」
「なんで半本さんが泣いてんのよ! 喜びなさいよ! 音桐君、あなた泣かせたでしょう!」

 ここで僕に回ってくるのかよ。もう少し感動シーンっぽくしろや。

「いや、僕は泣かせてないよ。多分壕持さんが泣かせたんじゃないかな」
「どうして!? 私今回は頑張ったのに!」
「頑張ったから泣いてるんだよ、きっと。よかったね、友達を嬉し泣きさせたんだよ」

 『嬉し泣き……』と呟きつつ、壕持さんはさらに半本さんを抱きしめる。
 いや、これあれだな? 友情と見せかけて普通に半本さんを抱きしめていたいだけだな? 台無しだよ。
 ……まあ、今回限りは壕持さんの頑張りに免じてツッコミは控えておこう。


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