コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

初恋デッドライン
日時: 2017/12/17 23:35
名前: わらび餅

はじめまして、わらび餅と申します。
小説を書くのは初めてではないのですが、この名前では初投稿です。至らぬ点はあるかと思いますが、よろしくお願いします!


腐女子の主人公が、初恋の彼とその親友に悶えながらも頑張る話。


※読む前に
*恋愛ものです
*主人公(♀)が腐女子です
*BLものではありませんが、そういった表現(主人公の妄想等)があります
*基本コメディですがシリアスもはいります
*亀更新


以上のことをふまえ、オールオッケーという方のみお進みください。








*登場人物
・渡辺
・田中
・鈴木
・町田






*目次

・プロローグ>>1
・1章>>2-11

Page:1 2 3



Re: 初恋デッドライン ( No.10 )
日時: 2017/04/02 23:17
名前: わらび餅


「あー、えっと、とりあえず落ちつこうか鈴木」
 
「あぁ!? ざけんじゃねえよくそ田中! お前やっぱり!」
 
 鬼のような形相で田中くんに詰め寄る鈴木くん。
 こ、これはもしかして、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか。いやだって、田中くんがあんなに強かったなんて知らなかったし......! 鈴木くんなら喧嘩強そうだから、何かあった時のためにと呼んだのだけれど......!
 
「......何も無いって、言ってたじゃねえか! 大丈夫だって! ずっと、嘘ついてたのか」
 
「......大丈夫だったよ、今までも。今日だって別に、大したことじゃ」
 
「怪我! してんだろうが! 俺のせいだろ!?」
 
 田中くんの両肩を、鈴木くんの大きな手が掴む。鈴木くんはそのまま俯いて、消え入るような声で呟いた。その顔をみることは叶わない。
 
「......なんで、なんで言ってくれなかったんだよ。頼りないからか? まだ足手まといか?俺はまだ、お前の隣に」
 
「鈴木」
 
「俺は、そんなつもりじゃ」
 
「鈴木、違う。違うよ。確かに絡まれたのはお前が原因だけど、結局は俺のせいだから。お前をこんなところまで連れてきた、俺の責任だから。お前が背負うことじゃないし、気にすることでもないんだよ」
 
「けど!」
 
「......はは、なんつー顔してんの。らしくないなぁ」 
 
 顔をあげた鈴木くんをみて、困ったように笑う田中くん。そこには、いつもの余裕めいた笑みはどこにもない。 
 田中くんよりひと回り大きなはずの鈴木くんが、いまはなぜだかとても小さくみえた。二人のあんな顔、みたこともない。あんな声、聞いたこともない。
 ああ、私はきっと、ここには立ち入れないんだ。少しでいい、ほんの少しでも、一緒に背負わせてくれたら、なんて。
 贅沢な願いだ。
 
「それにさ」
 
 金の髪を、ぐしゃぐしゃとかき回す。鈴木くんは黙ってされるがままだった。
 
「お前が勝てた相手に、俺が負けるわけないじゃん」
 
 ふふん、と言わんばかりのドヤ顔を浮かべる田中くんに、鈴木くんはようやく笑顔を浮かべた。いまにも泣きそうな、下手くそな笑顔だったけれど。
 
「......うっせー。いまは俺のが強いかもしれねえだろ」
 
「どーだか。泣き虫なのも変わってないしなぁ」
 
「黙れくそ田中」
 
 やっと、いつもの二人だ。
 軽口を叩きあって、信頼を寄せあって。私が好きな......ううん、好きになった、二人だ。
 
 というか、あれ? もしかしていま、痴話喧嘩を見せられたのでは? 理由もなにもかもさっぱりだけど、二人の間にはなにかがあって、いまその事で揉めて、でも田中くんの溢れるスパダリと包容力でいつも通りに......
 
「......ああ静まりたまえ私の萌える心......!」
 
「ん? なんか言った? 渡辺さん」
 
「いいいいえなんでも! ないです! それより田中くん、手当てしないと!」
 
 私がそう言うと、鈴木くんもはっと田中くんの肩から手を離した。
 
「そうだった。ここからなら俺んちの方が近いな」
 
「えー、いや、大したことじゃ」
 
「んなボロボロな格好で言っても説得力ねえから! さっさと行くぞ!」
 
「わかったわかった......あ、渡辺さんもおいでよ」
 
「はい! ......え?」
 
 思わず条件反射で答えてしまったが、今なんて?
 
 
「手当て、してくれるんだよね?」
 
 
 女神かと見紛う程の綺麗な微笑みに、首を縦に振る以外、私に選択肢は残っていなかった。

Re: 初恋デッドライン ( No.11 )
日時: 2018/02/26 02:09
名前: わらび餅

「お、お邪魔します!」
 
「どうぞー、散らかってるけど」
 
「なんでてめぇが答えんだよ! 散らかってねえし!」
 
 歩くこと十数分。ただいまの現在地、鈴木くんのご自宅であるアパート。
 大したことじゃない、と言いつつもやっぱりつらかったようで、ふらふらな田中くんはここまで鈴木くんの肩を借りて歩いていた。なんて素晴らしいツーショット。
 鈴木くんの言う通り、1DKのお部屋は綺麗に片付いており、家具等は黒をベースにシンプルにまとめられていた。こ、これが男の子のお部屋……!
 
「鈴木くんは一人暮らしなんですか?」

 そこに座っておけと言われた座布団に正座し、なにやらタンスをごそごそ漁っている鈴木くんに問いかけた。鈴木くんはというと部屋に入るなりベッドの上に寝転んだ。ごろごろする姿はとても可愛らしいのだが、ベッドに血がつかないか心配だ。
 
「そーだよ。ほんと物なくてつまんないよねぇこいつの部屋」
 
「だからなんっっでてめぇが答えてんだよ! つか物ないのはお前も同じだろうが! おら、寝るな! さっさと座れ!」
 
 口調は少し乱暴だけれど、田中くんを座らせる手つきは本当に優しくて、鈴木くんが彼を心配しているのがひしひしと伝わってくる。
 田中くんはもう開き直って、「怪我人なんだから優しくしてよ」なんて言っていた。この癒しの空間に私という不純物は必要ないのでは……?
 
「おい渡辺」
 
「あ、はい! ……って、これ……」
 
 投げ渡されたのは、消毒液と包帯と絆創膏。
 
「こいつの手当て、すんだろ」
 
「あっそれ本気だったんですか……!」
 
 狼狽えていると、田中くんが横になりながら布団で口を隠し、眉を下げた。
  
「渡辺さんは俺の手当てするの、いや……?」
  
「誠心誠意こころをこめて努めさせていただきます!」
 
 私に断るという選択肢は存在せず、二つ返事で田中くんの手当てをすることになったのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 「……お前さぁ、包帯巻くの下手くそだな」
 
 鈴木くんに呆れ顔でそう言われて、ぎくりと体が跳ねる。
 そ、そんなこと言われましても、怪我なんてしないから包帯の巻き方なんてわからないんです……! というか!
 
「そんなこと言うなよ鈴木。渡辺さんが一生懸命巻いてくれたってだけで治る気がするだろ? ねー、渡辺さん」
 
「ひえ、も、もったいないお言葉です……!」
 
 ベッドに腰をかけている田中くんの左隣に座らせてもらい手当てをしている真っ最中、ちょくちょく田中くんが笑顔でさらりと砂糖のような言葉の数々をその美しい声で囁いてくるせいで、手が震えて震えて仕方がない。そして私の隣に座っているのは鈴木くん。つまり、右を向けば田中くん、左を向けば鈴木くんという推しに挟まれているとんでもない状況なわけだ。
 こ、これが手当て……! 難易度高すぎる……!
 
「渡辺で遊んでんじゃねーよくそ田中」
 
「心外な。俺は思ったことしか言わないよ」
 
「どの口がほざきやがる……つーか、さっさと本題入れよ」
 
 ん? 本題?
 
「……バレてた?」
 
「てめーが手当てのためだけにこいつを呼んだんじゃねえってことはな」
 
「さすが鈴木、心の友!」
 
 少しだけ曇った笑顔を浮かべて、田中くんは首の後ろをさすりながら下を向いた。
 
「えっと、さ。ほんと、大したことじゃないんだ……でも……」
 
 意を決したようにばっと顔を上げて、包帯を持つ私の手を田中くんの少し大きな手が包んだ。
 な、何事です!?
 
「……聞いてほしい、話があるんだ」
 
 いつもとは違う、真剣な眼差しに思わず息を呑む。
 これは、きっと。田中くんのなかでは言いづらいことなんだろう。前髪で隠れて片方しかみえないべっこう色の瞳が、微かに揺れていた。
 こくり、と頷くと、田中くんは笑顔を消した。
 

「俺の……俺たちの、中学の話なんだけど……」
 
 
 そう言って、田中くんはぽつりぽつりと語り出した。

Re: 初恋デッドライン ( No.12 )
日時: 2018/08/14 11:18
名前: わらび餅

 地味で泣き虫。冴えなくて弱々しくて、同じ男とは思えない。第一印象は、そんなものだった。今思えば結構散々な評価だが、まあ、向こうだって俺の印象は良いものではなかっただろう。
 そんな俺たちの出逢いは、中学二年生の時。
 
 朝で肌にへばりつくシャツ、夕日に照らされてきらきらと輝く川の水、どこからか聞こえる蝉の声。そんな中、河原で男と男の喧嘩なんてどこの漫画に出てくる青春の一ページだと、そう思いたくなるだろう。俺も思いたかった。相手が多人数で、しかも手に鉄パイプとかいう物騒な物を持っていて、彼らの容姿がモヒカンやらスキンヘッドやらの「いかにも」なヤンキーじゃなかったら、きっと青春だった。
 別にしたくてしている喧嘩ではない。河原で寝そべっていたら突然絡まれて、あれよあれよという間に殴り合いが始まった。今回ばかりは俺に非は無かった、はず。うん、ないな。まあとにかく、俺はその日殴り殴られ血塗れに──主に返り血で──なり、夕日に染った河原でなんちゃって青春の一ページを繰り広げていた。
 石ころと熱い接吻をかましながら動かなくなったヤンキーの塊を見下ろし、結局こいつらなんだったんだとため息をついた。人通りの少ない場所だったからいいものを、警察にでも通報されたら面倒この上ない。
 
「……疲れた」
 
 雑魚とはいえ、さすがに多人数はこたえる。途中で拝借した鉄パイプを適当に奴らの上に投げ、頭をボリボリとかいた。これからどうしようかと様々な予定を頭の中で組み立てようとしたその時、じゃり、と石を踏む音が背後から聞こえた。まだ仲間が残っていたかと振り向くと、そこには、
 
「……な、なに、してるの……?」
  
 ボロボロの学ランを着たぼさぼさ頭のちっこい男が、すっかり怯えきったようにカバンを抱えて立っていた。
 
「……何してるかって、みてわからない? 暴力ふるってんの」
 
 仲間ではないと確信し、警戒を解く。これをネタに脅してくるような度胸もなさそうだし、見るからに弱そうだし。
 特に害なしと判断しスルーしてここを立ち去ろうと考えていると、学ランが突然ガバッと頭を下げた。

「え、なに……怖……」
「ぼっ、ぼくを、弟子にしてください!」
 
  
 
「…………はあ?」
 
 
 
 
 
 
 
***
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「──とまあ、こんな感じで出逢って、紆余曲折を経て今の鈴木が出来上がったんだけど」
 
 話を続けようとする田中くんに思わず待ったをかける。中学生、こんなにバイオレンスだったっけ!?
ㅤ額に手を当て、流れ込んできた情報を整理しながら叫んだ。
 
「いやいやいや! えっ、ええ!? 田中くんがヤンキーで学ラン少年が鈴木く、いや、待ってください突っ込みたいことは山ほどありますけどとりあえずどうしてそこで切ったんですか!? その紆余曲折を知りたいのですが!」
「え、そこ気になる?」
「気になりますよ気になって気になって夜も眠れませんよ……!」
 
 大事なのはプロセスである。結果ももちろんだけれど、なによりもどういうイベントがあり障害物を避けながら熱い友情を育み今に至るのか、それがより一層の萌えと推しカプの理解を得るために必要なことなのだ。
 だと言うのに! 驚きの馴れ初めを聞かされたと思えばそこで寸止めなんて! 週刊誌ではなく単行本派の私になんて鬼畜なことを!
 
「いま大事なのは俺達がいかにろくでもない阿呆だったか、ってことだから、それさえ知ってもらえればいいんだけど……まあ、そこらへんはまた今度ね」
「そんな殺生な…………」
「いやほら、鈴木にとっても黒歴史っちゃ黒歴史だし、俺も恥ずかしいし」
 
 ね? と鈴木くんの方に視線を投げかけた田中くん。残念ながら目をそらされてしまったけれど。無言、ということは肯定の意と取っていいのだろうか……
 
「とにかく、昔の馬鹿な行動のせいで一部ではちょっとした有名人なんだよね、俺達。だから、その……今日みたいな喧嘩に、渡辺さんも巻き込んじゃうかもってことを……伝えたくて」
 
 田中くんにしては珍しく言葉に詰まりながら話すので、どうしたんだろうと首を傾げた。
 私がじっと続きを促すようにみつめると、田中くんの美しいかんばせが苦虫を噛み潰したように歪んだ。まあ、どんな表情でも美しいが。
 
「……ああ、うん、ええと」
「はっきり言えよめんどくせぇ」
 
 鈴木くんが呆れたようにため息をひとつ零した。
 な、なんだろう。そんなに言い難いことなのだろうか。
 ごくり、と唾を飲み込む。内心ドキドキしながら言葉を待っていると、田中くんは意を決したように息を吸い込んだ。そしてその美しく、しかし少し強ばったような声が、私の耳に届いた。
 

「……俺に関わらない方が、いい」

Re: 初恋デッドライン ( No.13 )
日時: 2019/01/16 02:56
名前: わらび餅


「……え?」
 
 田中くんの美しい声音で発せられたその言葉を聞いて約数十秒。ようやく震えた声帯は、あまりにも間抜けな一言しか出してくれなかった。
 関わらない方がいい。つまり、つまりそれって。
 
「……俺なんかと恋人だといいことないよって、伝えたかったんだ」
 
 私と、恋人をやめたいってことだ。
 驚いた。とても驚いた。田中くんの発言にではない。彼がそう思っていたことでもない。
 遠回しに伝えられたそれに、思ったよりショックを受けなかった自分に。
 そりゃそうだ。恋人になって、少しだけ話す機会が増えた。田中くんから話しかけてくれるようになった。ただ、それだけ。デートだって、手を繋ぐことだってしていない。私からしたら会話をするだけでとんでもない事だけれど、一般的な恋人関係とは違うのだろう。そもそも、最初から付き合う気はなかったのだ。少しでも話せれば、それでよかった。私の好意を知ってもらえればそれだけでよかった。田中くんは優しいから、私の想いを受け取るだけでなく、お付き合いまでしてくれたのだ。
 いつ別れようと言われてもいいように、心の準備だけはしていたんだ、あの日から。
 
 でも、これは駄目だ。
 
「──別れません」
「えっ」
 
 そんなことを言うと思っていなかったのか、田中くんの瞳がまん丸に見開かれた。
 私だって、こんなことを言うつもりはなかった。彼を困らせるなんて私にとっては極刑だ。切腹ものである。でも、譲れないものというのが私にもあるのだ。
 
「俺なんかって、言わないでください。田中くんが優しくてかっこよくて誰よりも鈴木くんを大事に思ってること、知ってます」
「え」
「先生に何を言われても、生徒にどんな噂されても、鈴木くんの友達をやめなかった。合唱コンクールで優勝した時、誰よりも嬉しそうな顔をしていた。困ってる人がいたら当たり前のように手を差し出すところだって、本当にかっこいいと思います!」
「ちょ、」
「田中くんのいいところなら私、何十個だって言えます。だから……だから、俺なんかって言わないでください。田中くんを貶めるなんて、いくら田中くんでも許しません……!」
「……渡辺さん」
「私を振るなら、『付き合ってみたけどやっぱ渡辺さんみたいな現実でカプ妄想する腐女子無理だし、俺にはもっと美人でスタイル抜群のお姉さんじゃないと釣り合わないや。ごめんね』くらい言ってください!」
 
 自分で言って精神的ダメージを食らったが、問題ない。ほんの致命傷だ。
 
「いや、そんな酷いことはさすがに言わないけど……」
「た、例え話です! とにかく、ご自分にもっと自信をもってください! 俺なんかっていう田中くんとは、わ、別れませんから! 迷惑でしょう!? じゃあ別れを切り出すところからもう一回始めましょう! はいスタート!」
「待って待って、ちょっと落ち着こう」
 
 田中くんはなんとも言い難い表情をしながら、口を片手で覆ってしまった。どうしたんだろう。台詞の考え中だろうか。
 しばらく私をじっと見たと思えば、そろりと視線を外す。なんだか、田中くんの耳が少し赤いような……?
 
「…………渡辺さんってさ」
「はい!」
「……ほんとに俺のこと好きなんだね」
「はい!…………え?」
 
 てっきり振る台詞が飛び出してくると思っていた私は、またまた間抜けな声を田中くんの美しい耳に届けてしまった。なんてことだ。
 そんな、そんなのって!
 
「い、今更ですか!?」
「ごめんほんとごめん俺もそう思う。でも、なんていうか、今まで俺を好きだって言ってくれた子たちは大体外見だけで近づいてきたから。俺を、俺の中身を好きだって言ってくれる子、初めてで」
「私も田中くんのご尊顔は本当に大好きですよ!?」
「ごそ…………いや、そういうことじゃ……うん、まあいいや。とりあえず……なんというか、俺たちは言葉も時間も足りないみたいだ。渡辺さんが想像より俺を想ってくれていたことも、意外と頑固だってことも、初めて知ったよ」
 
 それはまあ、その通りだ。お付き合いをはじめてまだ数週間、そんな短い時間では田中くんがどれだけ素晴らしい人かを伝えきれるはずもない。
 私が頑固かどうかは、自分ではわからないが。まーちゃんに聞いた方が、きっとすぐに答えてくれるだろう。まーちゃんは人のことをよく見ているから。
 
「だから、話をしよう。好きなこととか、嫌いな食べ物とか、お気に入りの映画とか。少しずつでいいから、話がしたいな」
「……いいんですか?その、私が言えたことではないですが、 田中くんは私に関わってほしくないと」
「あれだけ熱烈な告白うけたらそりゃあ、ね? 心変わりもするさ。でも危ないのは本当だし、出来れば離れてほしいとは思ってるよ。ただ──」
 
 田中くんは少し目を伏せ、薄い笑みを浮かべた。それはどこか嘲笑のようにもみえて、私は思わず眉を寄せた。
 
「俺は結局、逃げてるんだなって。どこまでも自分勝手で臆病で、最低な男だって改めて自覚したんだ」
「そんなこと!」
「聞いて、本当なんだ。渡辺さんだけじゃなくて、色んな人たちからの好意からずっと逃げてきた。好きになってくれた人が、いつか自分を嫌いになる瞬間が見たくなくて、自分から突き放してた。大体みんな離れていくんだよ? 思ってたのと違うとか、構ってくれないとか。渡辺さんも同じで、すぐ飽きると思ってたんだ。だって付き合って数週間なにもしない男だよ? 普通は別れたいと思うし、今までずっとそうだった。でも渡辺さんは違った。文句のひとつも言わないで、挙句こんなに好きだって伝えられてさ」
 
──君と、ちゃんと向き合わなきゃって思ったんだ。
 
 田中くんのその一言が、私の心にすとん、と落ちて溶け込んだ。
 伝えられるだけでよかった。あなたのことを好きで好きでしょうがない人間がいることを、知ってもらえるだけでよかった。でも、心の奥底で諦められない私もいた。初恋で、誰かを好きになれたことが嬉しくて、その瞳の中に私を映してくれたらなんて、考えもした。
 ああ、いま、はじめて彼の目を見た気がする。
 それだけで体温がカッと上がって、心臓が酷く音を立てる。嬉しい、なんてものじゃない。田中くんの声を聞いているだけでも奇跡のようなものなのに、私の想いに向き合ってくれると、言ってくれた。このまま死んだら、きっと幸せだ。
 だって、こんなにも近くにいる。ステージの上にいたあなたが、客席で拍手をしていた私の元へ来てくれた。
 
 こんなに嬉しいことは、きっとない。
 
「──で、どう? 渡辺さん、いいかな」
「……っえ!? は、はい!」
「よかった、じゃあ今度の日曜日に遊園地で」
 
 ……ん? 日曜日?
 
「…………ユウエンチ?」
 
 壊れた機械のように田中くんの言葉を片言で繰り返した私に、田中くんは首をかしげた。
 
「うん。あ、もしかして遊園地嫌いだった?」
「いえそんなことは決して! 大好きです遊園地!」
「ほんと? 楽しみだね」
 
 にっこりとそれはそれは美しい微笑みを浮かべる田中くん。
 あれ? あれあれ? もしかして、私が感激に浸っている間になにかとんでもないことを言われていたのだろうか。田中くんのお言葉を聞き逃すなんて一生の不覚だが、日曜日、遊園地。このふたつの単語が指すものは、つまり、その、世間一般で言うところの、
 
 
 ……デート?
 
 
 鈴木くんの、「お前ら俺いるの忘れてるだろ帰れ今すぐ帰れ」という叫びが、やけに部屋の中で響いた気がした。

Re: 初恋デッドライン ( No.14 )
日時: 2019/08/13 23:40
名前: わらび餅


 デート、とは。
 日時や場所を定めて男女が会うことを意味する。またの名を逢引、逢瀬。
 そう、デートとは、そういうものである。辞書まで引っ張り出して調べたのだから間違いない。わかってる。頭の中では理解しているが体と感情とその他諸々が追いついてこないのだ。何を着ていこう、なんて浮かれる前にそもそも、で、でででデート当日までに心臓が止まらないかどうかの心配をしていたので、私はきっとスタートラインにすら立てていないのだろう。
 デート当日までの間、スマホのロック画面は仏、ホーム画面は般若心経の画像を設定し心をひたすら落ち着かせようと頑張ったが無理だった。前日には、明日地球に隕石が落ちるのではないかと思ったが雲ひとつない快晴だった。
 
 つまりは今日、デート当日である。
 
 デートに気合を入れすぎた服装で赴くと引かれる、との情報を得て、無難に、けれどシンプルすぎず、パッと見いいんじゃね? と思われるようなスタイルを心がけた。首元に控えめなフリルのついた白いブラウスにデニムのジャケット、そして甘めのフレアスカート。テーマは清楚である。見た目、大事。とても。
 どんなに着飾っても美の権化である田中くんの隣では霞んでしまうので、せめて不快にならないような格好がベストだ。
 そして持ち物。バッグの底に穴が開くのではないかと思うほど睨み倒して忘れ物がないかを念入りに確認した。大丈夫、必要な物は全部持った。
 
 いざ、戦場へ!
 
 
「──で?」
 
 待ち合わせの駅前で、にこやかに仁王立ちする魔王……もとい田中くんは、それはそれは美しく恐ろしかった。
 
「なんでここに鈴木と町田さんがいるのかな?」
「渡辺に泣きつかれた」
「わーちゃんに誘われましたの」
「申し訳ございません!!!!!!」
 
 もう少し、もう少しなにか取り繕ってくれてもいいんじゃないだろうか二人とも! 私が心配だったとか私に嫉妬したとか! 後者は鈴木くんへの願望だけれども!
 
「け、決して田中くんと二人きりが嫌だったとかは決して! ないのですが! その、やっぱりいきなり一日中二人きりはそのあのハードルが高いと言いますか!」
「わーちゃん、簡潔に」
「はい! 心臓が破裂しそうでした!」
「うん、まあ、そう、そうだね。確かにいきなりだったけど。……デートでハードルが高いなら何がいいんだ……? 文通……?」
「ガキかよ」

 心底呆れた様子の鈴木くん。
 誘っておいてなんだけれど、本当に来てくれるとは思わなかった……やっぱり嫉妬かな……?
 
「本当にお前はなんで来たわけ? 暇なの? 俺と遊びたかったの? 言ってくれればよかったのに」
「……お前実はちょっと怒ってるな? だから渡辺に泣きつかれたっつっただろ。とんでもねぇ長文を長々と送りつけられた挙句泣きながら電話されたら無視するわけにもいかねぇし」
「電話? 電話したの? お前と渡辺さんが? へえ…………」
「そこかよ! てかやっぱ怒ってるな!?」
 
 ……嫉妬かな!?
 脳内でとんでもない妄想の嵐が吹き荒れかけたが、なんとな現実へと意識を戻す。危ない、死ぬところだった。
 
「まあまあ、来てしまったものは仕方ないですから。お詫びと言ってはなんですけれど、これを」
 
 まーちゃんがお財布から取り出したのは、四枚のチケットだった。
 そ、それは……まさか……!
 
「遊園地のチケットですの」
「なんと……! まーちゃんそれは一体どこで……!」
「偶然にもこの遊園地、うちのグループが経営している所でしたので。遊びに行くと言ったら譲ってくださいました」
「そうなんですか!? でもそんなの、申し訳なくてもらえな……」
「いやですわ、わーちゃん」

 私の言葉をぶったぎったまーちゃん。その優しい微笑みからはなぜだかおぞましい圧力を感じる。なぜだろう。
 
「私、使えるものは使いますしもらえるものはもらっておくのが信条ですの。こういうのは『ラッキー! 得したな!』くらいの気持ちでもらっておくのがベストですわ。遠慮しすぎるのは逆に失礼というものです」
「な、なるほど……」
「ええ。受け取ってくださいますね?」
「……ありがたく頂戴致します!」
「よろしい」
 
 仰々しく受け皿の形にした両手を掲げると、まーちゃんはにっこりと笑ってチケットを乗せてくれた。そして残り二枚となったチケットをピラピラと揺らしながら、田中くんと鈴木くんの方に視線を向けた。
 
「おふたりも、受け取ってくださいますね? はやくしないと電車に乗り遅れてしまいますわ」
 
 田中くんは苦笑いを浮かべながら、鈴木くんは大人しくお礼を言いながらチケットを受け取った。そのまま、鈴木くんはなにやら考え込んでいる様子でまーちゃんをじっと見つめていた。どうしたのだろう。
 
「さ、そろそろ電車が来ますよ。皆さん行きましょう」
「わ! 待ってまーちゃん!」
 
 まーちゃんはそれに気づいていないのか、私の手を取って改札へとスタスタ歩き出した。慌てて私もまーちゃんの後を追う。
 結局鈴木くんの真意は分からないまま、私たち四人は電車に揺られながら遊園地へ向かったのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「──じゃあ、あとはおふたりでごゆっくり」
 
 そして待ち構えていたのは、親友の裏切りでした。
 
「ま、まーちゃん!?」
 
 私の悲痛な叫びはまーちゃんに届かず、虚しく空へと消えていく。
 遊園地のゲートをくぐるなり鈴木の腕を引っ張って彼方へと消えていってしまった親友。ふたりの後ろ姿を呆然と見送りながら、予想外の自体に頭が真っ白になっていくのだけはわかった。
 心臓が太鼓のように鳴り響く。まずい。だってこれ、つまりは、
 
「えーっと……お言葉に甘えて、ゆっくり遊ぼうか?」
 
 ……結局、二人っきりだ!?


Page:1 2 3



スレッドをトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。