コメディ・ライト小説(新)

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LOOP 一人の少年と少女の話
日時: 2017/02/08 17:07
名前: ハッサン 兵庫の方 (ID: lUj0AdnX)

第一章 謎の少女

高校生活。
それは、長いようで短く、思い出の一ページとして心に刻んでおくべき、一生に一度しかない時間。
俺も今日からその生活が始まる。
今日は4月12日。
俺は、神出市かんでし西部にある、進学校に合格できた。
まあぎりぎりだったけれどもな。
俺は家から出て、最寄りの下沢駅から市営地下鉄に乗る。
高校のある庄谷駅までは5駅ほど。
俺は朝早く起きたからか、うつらうつら船をこいでいた。
暖房のおかげで、俺はとうとう、眠りこけてしまった。

『間もなく、庄谷~庄谷です。庄谷の次は総合運動公園です』
ナイス車内アナウンス!
このまま起きなかったら西神中央まで連れて行かれるところだった。
アナウンスに感謝して、俺は地下鉄から降りた。

俺が通うこととなった北須賀高等学校は、国公立、私立の有名大学にも進学する人がいるほどのレベルの高い高校だが、校則は緩く、さらに単位制という俺の憧れの学校だった。
自宅の近くにもほどほどの進学校があったが、さらに上を目指す俺にとって、そんな高校は眼中になかった。
まあ、そんなわけで俺は駅から高校への道を歩いている。
そういや自己紹介がまだだったな。俺は谷川正臣たにかわまさおみ。中学では「マサ」とかなんとか言われたが、高校では勘弁だな。恥ずかしいったりゃありゃしねえからな。
そんなやり取りを頭の中でしつつ、俺は校門をくぐった。

体育館であったテンプレートな式が終わり、俺は1年3組に配属された。
「俺ももう高校生か…」
そう思うと感慨深い。
教室でHRをした後、俺が帰ろうと通学かばんを持つと、
「ちょっと」
と首根っこをつかまれ、階段に連行された。
踊り場で解放され、連れてきた人物を見ると、それはえらい美少女だった。

青みがかった長髪のストレートなヘアスタイルで、顔立ちもいい。
少々見惚れていると、少女は顔を近づけてこう言った。
「あんた、谷川正臣ね」
と聞いてきた。
「ああ、そうだ」
そして、俺の始まったばかりの高校生活は狂い始めていく

「お前は誰だ?」
俺はそう聞き返すと、すぐに返答が返ってきた。
「私は湊川望みなとがわのぞみ。詳しい話は後で」
そう言って階段を駆け下りていった。俺は一人残される。
「何なんだ一体…」

校門から出ると、湊川が待っていた。
「待っていたわ。ちょっと付いてきて」
そう言って駅前まで行き、タクシーに乗り込んだ。
「ポートアイランド中央公園までで」
湊川がそう言うと、タクシーは走りだした。

「あなた、私が未来からやって来たって言ったら、笑う?」
タクシーが走り出したとたん、湊川が訳の分からない話をしてきた。

「私は3カ月だけの高校生活を何度も何度もループしているの。あなた、谷川正臣に出会うのはこれで2回目。前は61回目のときに会ったの。他の回のときには会えなかったけれど…」
湊川は訳の分からないことを淡々と語りだした。タクシーは総法寺インターから都市高速に入ったようだった
「あなたの居た61回目のループはとっても楽しかった。けれど、他の回と同じように神出に核ミサイルが投下され、クラスメートも、私も、全員死んでしまった…もちろん、あなたも…」
「ちょっと待て。死んだのなら、何故俺達は生きている?あと、何故61回目以外に俺はいなかったんだ?」
恐る恐る質問する。
「さっき言った通り核ミサイルが投下されるまでの3カ月を私はループしているの。だけど、1回ごとにいる人が違うの。同じ人がいたり、いなかったりしてる。あなたは500回ぶりに出てきたわ。だから今は…」
「561ループ目…」
俺は絶句した。どういうことだ?唯一無二だと思っていた世界がみるみる壊れていく気がして、俺は頭を抱えた。
「信じられないだろうけど、もうすぐ分かるわ。すみません。ここで降ろしてください」

降りたところは、ポートアイランドへ続く臨港大橋の手前だった。橋が渋滞しているから降りたのだろうか。
「もうすぐ、私がループしているってことが分かるわ。飛行機が落ちてくるもの」
「は?」
俺は湊川の横顔を見た後、上を見上げた。すると、低重音が響いてきた。斜め上を見ると、飛行機が近づいてきていた。
「逃げろ!」
橋にいた多くの車から人が降り、こちらに走ってくる。
湊川と離れないようにしっかりと手をにぎりしめた
避難しているところに飛行機が突っ込んできた。
凄まじい轟音や悲鳴とともに橋が崩壊していく。
ジョイント部を境に橋は崩壊した。
海に橋と飛行機が落下していき、沈んでいった。
橋の一部や亡くなったと思われる人が海面に浮いていた。
俺は湊川を見る。
湊川は特に驚いた様子もなく、ただ海のほうを見ていた。

俺と湊川は混乱から抜け出し、地下鉄七宮駅から地下鉄に乗り込んだ。
この地下鉄は、一旦この列車が庄谷に着くあたりで運休するらしい。
「これから、谷川くんって呼ばせてもらってもいいかな?」
「あ、ああ、いいぞ」
「じゃあ、宜しくね、谷川くん。メアドと携帯番号も交換しておくからいつでも困ったら連絡してね?」
俺は湊川の笑顔に見とれつつ、承諾した。

第一章 完

Re: LOOP 一人の少年と少女の話 ( No.3 )
日時: 2017/02/11 17:47
名前: ハッサン 兵庫の方 (ID: lUj0AdnX)

第三章 終わりの始まり
7月11日。夏休みまで二週間となった。
6月はおぞましいほど何もなく、平穏な日々だった。
毎日、こうであればいいのだが…
『まもなく、二番線に、西神中央にしかみちゅうおう行きの電車が参ります。白線の内側までお下がりください』
いつもの接近チャイムと共に地下鉄がやってきた。冷房の涼しい風が身に沁みる。
でもさすがに寒すぎやしないか?これ。鳥肌立ってきたぞ…

さて、さっきの続きを話そう。
6月こそ何もなかったが、7月に入ったとたん、世間を震え上がらせる事態が発生した。
7月6日。青森県七ヶ所あおもりけんしちがしょ村の原子燃料サイクル施設から原子燃料が盗まれた。
それとほぼ同時刻に岐阜県瑞波ぎふけんみずなみ市にて極秘に開発中だった最新式ミサイル55本が盗まれた。湊川が言っていた攻撃される都市の数と同じだった。
この一連の事件に伴い、7月7日、内閣総辞職。株価は大暴落し、ニュースでは『七夕事件』と呼ばれることとなった。
「誕生日が明日だってのに…死亡フラグが立ちすぎなんだよ…」
思い返すと疲れた…今日が短縮授業で良かったと思う。
そんなことを頭で巡らせつつ、校門をくぐった。

今日もいつも通り学校は終わった。
校門を出た俺は、猛暑の中駅まで小走りし、駅構内へ入った。
丁度停車した電車に乗り込み、スマホを取りだした。
YATAAを開き、ニュースを見た。トップに書いてあった記事をちらりと見た途端、その記事に完全に引っ張られてしまった。

『本日午前9時頃、ハッキングされた海上自衛隊巡視船三隻が神奈川県相模川かながわけんさがみかわ市、北海道箱館ほっかいどうはこだて市、愛知県豊座あいちけんとよざ市へ対地ミサイルを発射。現在その三都市は市街地を中心に炎上中。懸命な消火、救助活動が行われています』
「三都市が…攻撃…」
俺は、あっけにとられたままだった。

夜。
自室でパソコンを立ち上げ、さらに詳しい情報を調べる。
『ハッキングを受けたのは海上自衛隊の最新型イージス艦、いせ型ミサイル護衛艦で、横須磨基地、大港基地、呉基地に配備されていた船一隻ずつがハッキングされたとのこと。この型より搭載された無人船体制御装置と、電子制御式対地ミサイルが仇となった模様』
という記事があった。
テレビもミサイル関連のニュースばかりを流している。首都圏では大規模避難が始まったらしく、地方へ伸びる渋滞の情報をやっていた。
さらに地元のUHF局までもが緊急ニュースを流す始末だ。
俺は現実逃避をするように、テレビと部屋の電気を消し、眠った。

7月12日。今日は休日だ。
いつも通り朝食を済ませ、テレビをつけた。テレビ画面には炎上した市街地が広がっていた。
「他の都市にも攻撃が…」
俺は身なりを整えると、母に一言、「ちょっと出る」と言って町へ飛び出した。
確か、湊川の家は南川公園の方だったはず…記憶を信じ、南川公園へ向かった。

南川公園にたどり着くと、そこらへんのベンチに座ってスマホを取り出した。
『南川公園に来てくれ』
湊川にそうメールをした。

数分後、湊川がやって来た。その表情は酷く青かった。
湊川はベンチにへたりと座りこむと、ぼそぼそと話し始めた。
「おかしい…早過ぎる…16日のはずだったのに…」
「お…おい、そりゃ、どー言う事だ!?」
俺は動揺を隠しきれなかった。
「毎回、7月16日が最初の攻撃の日だったの…でも今回は11日…一体どうなってるの!?」
「湊川…」
俺はこんなに声を荒げる湊川を初めて見た。
「最初の攻撃の翌日…多分今日には神出にミサイルが投下される…」
湊川はこちらを見ると、一気に涙を流し、
「ごめんね…谷川くん…また君の事…守れなかった…もうすぐタイムリミット。神出には
ミサイルが降り注ぎ、核が投下される…もう逃げられない…」
そう話して、こちらを涙でぐしゃぐしゃになった顔で見て、
「谷川くん…もう…逃げられないから…一緒に…死のう…?」
と言った。

「ふざけんなよ…」
「え…」
「ふざけんなって言ってんだ!湊川!」
俺は大声で湊川に言った。
「お前はこの永遠に続く世界を終わらせたいんだろ!?なのに何故諦める!逃げられないから死のうだと!?それは負け犬の言うことだ!」
俺の剣幕にたじろいでいた湊川だったが、すぐに憎悪に満ちた顔をして、俺を睨みつけて怒鳴り始めた。
「どうして!?谷川くん!あなたの為を思っているのに!なのに…どうして…」
湊川はその場に崩れ落ちる。
「俺が、一緒に立ち向かってやる!希望を捨てるな!立て!」
俺は、ゆっくり立ち上がった湊川の手を力強く引き、走り出した。

腕時計を見ると9時23分。いつ攻撃が始まってもおかしくない。
両親は…攻撃が始まると真っ先に狙われるのは市街地だ。諦めるしかない…
俺は涙を呑んで一心不乱に走った。

西代にししろ駅前に辿り着いた。
湊川が信じられないという目をしてこちらを見た。
「あなた…家族を見捨てたの…?」
「もう、しょうが無いんだ…俺は出来る限り君を守りたいから…」
神出市には避難命令発令のサイレンが鳴り始めていた
第三章 完

Re: LOOP 一人の少年と少女の話 ( No.4 )
日時: 2017/02/11 18:41
名前: ハッサン 兵庫の方 (ID: lUj0AdnX)

筆者より
 
第三章について

いや~今回が一番きつかったですね。
途中で消去してしまったりしたので(-_-;)
まあ、楽しんでいただけたら幸いです。
コメントもどうぞ!
これからも宜しくお願いします。
ハッサン 兵庫の人

Re: LOOP 一人の少年と少女の話 ( No.5 )
日時: 2017/02/24 21:16
名前: ハッサン 兵庫の方 (ID: lUj0AdnX)

第四章 561ループ
避難命令のサイレンが虚しく鳴り響いている。
今宿駅付近にようやく着いた。
人は俺と湊川以外誰もいない。車も乗り捨てられている。
すると、後ろで突然、爆発音がした。
振り返ると、ミサイルのようなものが七宮…本町辺りに降り注いでいる。
「攻撃が始まった…!」
湊川が震える声でそう告げる。
「大丈夫だ。赤石まで行く事が出来たらな…」
そう会話しながら走っていると、何やら上から音がする。
空を見上げ、それを確認すると、全速力で俺は走った。
空から降ってきた物―ミサイルは今宿駅の出入り口に直撃し、凄まじい爆音が鳴り響く。
煙が晴れると、駅入り口だけでなく、近くの薬局まで破壊されていた。
「あっぶねぇ…」
間一髪、怪我一つ無く俺と湊川は助かった。
湊川の安全を確認し、立ち上がって走り出した。

東須賀駅を通り過ぎると、すぐに都市高速の高架があった。
後ろを見ると、さっきまでいた西代や新長奈の市街地が燃えていた。
「不味い…」
俺はそう呟くと、さらに力を出して走った。

神出が燃えるのも3回目か…俺の知っている限りではな…
ご存知の通り、神出は3回燃えている。一度目は第二次世界大戦による空襲。二度目はこの地域で発生した地震によるものだ。どちらも30年以上前の出来事だからよく知らないがな…そしてこれで3回目だ。
神出は結構な災厄に見舞われているな…よく国内でも大規模な都市で居られるなと思うな…

―須賀寺駅前―
「ふぅ…」
俺は駅の壁にもたれかかり、自販機で買ったスポーツドリンクを飲んでいた。
何か視線を感じて前を見ると、湊川が物干しそうに眺めていた。
「…なんだよ、欲しいのか?買えよ、そこで」
「お金が…無いの…」
「ったく…しゃーねえなぁ…ん?」
財布の中を探るが、何もない。
「やっべ…金が無い…」
俺はしょうが無く、飲みかけのスポーツドリンクを差し出した。
「えっ…」
湊川が顔を赤らめている…何故だ?
「ほら、早く飲めよ」
湊川はそれを受け取ると、顔を赤らめつつ飲み始めた。何処に顔を赤らめる要素があったんだ全く…」
湊川がすべて飲み干すと、俺は立ち上がり、湊川に手を差し伸べた。
「さあ、行こう」

俺は手を引き、国道二号線まで走る。
国道二号との合流点を右に曲がり、赤石市あかいしし家路市いえじし方面へと走って向かう。
須賀駅までは見事なまでのオーシャンビューだ。
しかし、見とれている暇は無い。
夏の日差しを受け、煌めいている海を横目に走る。

「なんだと…」
須賀駅でインターネットを開き、トップニュースを見た瞬間、俺はこんな声をあげてしまった。トップには、
『北陸地域の四都市にて、大きな爆発があった模様。四都市とその周辺と連絡が取れぬ状態』
「大きな爆発…まさか…」
湊川が画面を覗き込み言う。
「ああ…核爆発だろうな…」
すると、トップ付近に国からの情報としてテロップが流れた。
『国家安全情報 近畿地方に8つ核弾道ミサイルと思わしきミサイルが接近 避難を』
「核弾道…?」
俺は目を疑う。そんな時、今宿駅付近でも聞いた空から降ってくる音が聞こえた。空を見ると、駅にめがけて落下してくる。
ここから駅は少し離れているし大丈夫…だと俺は思っていた…
駅にミサイルが直撃し、凄まじい爆音とともに駅が崩壊していく。それまでは良かったのだが…
止まっていたタンクローリーに瓦礫が直撃し、タンクローリーが爆発した。
「不味い!」
俺は湊川を押して瓦礫の飛んでこない場所へ移動させた。
だが俺は―

グサッ

下腹部に違和感と何かが流れ出ているような感覚がする。口の中を鉄のような味が満たし、赤い液体が溢れ出してきた。俺は仰向けになり、違和感の正体を確認する。
腹に建物の鉄筋のようなものが刺さっていた。
「た…谷川くん…!?」
湊川は驚愕の目で俺の姿を見る。
「わ…私のせいで…ごめん…ごめんね…谷川くん…」
「いい…湊川のせいじゃない…」
俺は薄れゆく意識の中、湊川にこう言った。
「湊川…俺の事は放っておいて…逃げろ…」
「い…いや…」
「また…他の世界線でも…俺の事を…よろしくな…」
そうして眼を瞑った瞬間―
唇に柔らかな感触がした。
目を開けると、湊川の顔が目の前にあった。ま…まさか…
湊川は口を離すと、引いた糸を拭い、こう言った。
「一人になんかさせないわ。死ぬ時は一緒」
湊川はそう言って横へ寝転び、俺の体にしがみついた。
「湊川…」
俺は上に目線をやる。
恐らく核が落とされたのだろう。轟音が鳴り響いた。
市街地…七宮の方から凄まじい暴風と光が近づいてくる。
だが、俺はもう恐怖を感じなくなっていた。
そこで、俺の意識は途切れた。
第四章 完

Re: LOOP 一人の少年と少女の話 ( No.6 )
日時: 2017/02/24 21:29
名前: ハッサン 兵庫の方 (ID: lUj0AdnX)

と言う事で、第一部は終わりです。
主人公死んでもたやないかい!と思っている方が多いでしょう。
当たり前ですが主人公補正かかってますからね!
このごろは忙しいので投稿が遅れるかもしれませんので、ゆっくりとお待ちいただければ、と思います。

では、第二部をお楽しみに!

ハッサン 兵庫の人

Re: LOOP 一人の少年と少女の話 ( No.7 )
日時: 2017/03/17 20:27
名前: ハッサン 兵庫の方 (ID: lUj0AdnX)

第五章 死に戻り
「はっ!」
俺は、目を覚ました。
時計を見ると、4月11日午後11時52分…4月11日!?
俺が入学する前日じゃないか!
「夢…だったのか…?」
いいや、あんなリアルなのは夢じゃない。となると残された可能性は一つ。
「ま…まさか…戻っている…?」
死に戻り。
俺には到底理解できなかった―

何故死に戻りを?
何故記憶が残っている?
疑問が次から次へと湧いてくる。
死ぬ前の事を思い出すと、ある一つのものが思い出された。
ま…まさか…
あの…湊川の…キ…ス…で…
うわぁぁぁぁぁ!?
まさかキスで!?
白雪姫でもあるまいし!
もう寝よう…そう思い、眠りに就いた。

4月12日 6時12分
俺は目を覚ました。
どうやら、夢ではなかったようだな…
「学校…行かなきゃな…」
俺はベットから体を起こした。

庄谷駅に着いた。
慣れた手つきで改札を通り、駅構内から出ると―
人ごみの中に見慣れた人がいた。
あの見慣れた青みがかった長髪の少女―
間違い無い。湊川だ。
「おい、湊川!」
湊川の足が止まる。
そして、こちらを見た。

湊川は信じられないという目をしてこちらを見ている。
恐らく、非常に動揺しているのだろう。
「た…谷川くん…!?どうして…!?」
湊川は二歩後ずさりする。
「死に戻りを…したようだ…」
俺は包み隠さず、言った。
「ま、前の記憶…あるの?」
「あ…ああ…ばっちり」
俺は頭をかきながら答える。
「谷川くん…」
見ると、湊川はぽろぽろと涙をこぼしていた。
「また…会えて良かった…」

二度目の入学式も終わった。
例によって長い式だった。
憶えてることと言ったら、生徒会長が綺麗だった事しか…
「ちょっと、何ニヤケてるのよ」
いつの間にか俺の顔はニヤケていたようだ。
「どーせ『あの生徒会長綺麗だったなー』とか思ってたんでしょ」
うっ!勘の鋭い…
「あ、その表情。図星ね」
「何か奢るから、許してくれませんか…」

長奈ながな区中心市街地 東京プラザ内 プロミナンスカフェ―
俺は湊川に奢らされる羽目になってしまった。
今は正午をちょっと過ぎたところだろうか。飲食店は一番の稼ぎ時だろう。
「さーて、俺は奢ることになっているのだが…出来るだけ安くお願いします…」
俺はかなーり弱気だ。
「分かった。じゃあ私はスパゲティボロネーゼとブレンドコーヒーにするわね」
お、結構安く済ませてくれた。俺はほっと一息つく。
「でもカウンターに取りに行くのはあなたよ?」
やっぱり、一筋縄で行く訳が無いな…

カウンターから湊川の分と俺の分を買って席に戻ってくる。
「ちゃっかり自分の分も買ってきてるわね…」
湊川が呆れ顔で俺を見てくる。
「そりゃ、俺も腹が減ってるからな。丁度お昼時だし」
俺はすまし顔で湊川に答えた。そりゃ昼に飲食店に来て何も食べずに帰る人なんていないだろうからな。
「和風きのこ&ベーコンパスタと抹茶オーレ…渋いわね」
「悪いかっ!」
和風の良さをこいつに思い知らせてやろうかっ!と思っていると、
「あら、私と同じ学校の生徒の方じゃないの」
と声をかけられた。
振り返るととても綺麗な女性と、眼鏡をかけたイケメンがいた。

「私の名前は横山由美よこやまゆみ。北須賀高校生徒会長を務めているわ」
「俺の名前は塚口明つかぐちあきら。生徒会副会長を務めている」
俺と湊川はこの生徒会の二人と席を共にしている。
なんだこの状況…すごく食べにくい…俺たちは料理を口にできずにいた。
副会長が口を開く。
「君たちはどういう関係だ?」
と俺と湊川に聞いてきた。
「どう言う関係も何も…」
「普通の友達?」
俺と湊川はそんな返事しか返せない。
「そうか。別に何でも無いのだが、あれほど親密にしていると、カップルのように見えてな…」
と副会長が言った。
「「カ、カップル!?」」
俺と湊川はまるで図ったかのように声を合わせて叫んでしまった。周囲の人がこちらを見る。
「まあ、校則で恋愛禁止って訳でも無いのだが…」
と副会長が言うと、生徒会長が、
「そうよ、こうやって腕を組んだり、ハグしたっていいのよ」
と言いながら副会長の腕にしがみついたり、副会長を抱きしめたりしている。
ああ…この二人は付き合っているな…俺はそう感じ取る。
湊川を見ると恐らく同じものを感じ取ったのだろう。クスッと笑った。
「全く…人前でこのようなことをやってほしくは無いですね…」
「ごめんごめん」
二人がイチャイチャしているのを見つつ、今のうちに、とパスタを一口食べた。

「いやー見せつけられたね、谷川くん」
「ああ、おかげさまでパスタを食べる前に腹一杯だ…」
生徒会コンビ二人が帰った後、湊川と俺は食後の一杯を片手に話していた。
パスタもかなりの満腹感のおかげで食い切れるか心配だったがな…
「でも良いなあ。私も彼氏が出来たらいいのに…」
と湊川が言いだす。
何を言ってるんだこいつは。おまえのその顔と学年トップを取れる頭の良さを持っているなら男が寄りあって来るに決まっているだろうと俺は思う。
「湊川綺麗だし、すぐ彼氏できると思うけどな、俺は」
と言っておこう。
ん?湊川がこちらを睨んで何か言ってるな。生憎、俺は読唇術とくしんじゅつを持ち合わせていないので何を言っているか分からない。
でも、何故睨む?俺は何もしてはいないのだが…むしろフォローしたぞ?
「さて、帰りましょうか」
俺が色々考えていると、湊川が立ち上がった。
「そうだな」
俺も立ち上がり、店を後にする。
何故さっき睨まれたのだろう…聞きたいが、流石に言いにくいので、言わずにしておくことにした。
第五章 完


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