コメディ・ライト小説(新)

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Re:yesterday
日時: 2017/03/20 13:53
名前: はせ ◆9mq82W74yY

   原題:二か月後の昨日に還る。









 昨日の死に囚われて、明日の生を真っ当できないのは、嫌だなって思ったんだ。

 ずっと帰ってくるはずのない人間を待ち続けるって、とてつもなく哀れだ。

 これが希望なの、私の大切な人たちが幸せになるための、たった一つの希望。


 



 初めまして、はせです。
 このお話は、彼女と彼と彼女のお話。一か月前に死んだ彼女のお話。二か月間を巻き戻していく彼らのお話。片思いをこじらせた三人のお話。
 

 *なぎ:物語の主人公、葵のことが好き。
 *あおい:凪の幼馴染み、奏の恋人。
 *かなで:一か月前に死んでしまった少女。



 

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Re: Re:yesterday ( No.6 )
日時: 2017/03/22 13:30
名前: はせ ◆9mq82W74yY







  8月14日 月曜日(4)


 花火を見終えて、私たちは家に戻る。
 初デート、どうだったと聞かれれば、いつもと変わらなかったと私は答えるだろう。
 葵からもらったオルゴールだって、本当は特別じゃない。
 小さい時からいっぱいプレゼントはもらっていた。だけど、恋人としてプレゼントをもらったことは少し新鮮だった。

 私の家の前に来て、葵は足を止めた。
 言わなきゃいけない言葉を心の中でつっかえさせて、私は星空を見上げる。
 夏の大三角ってもうこの時期には出てるのかな、なんて小学生みたいなことを考えて泣きそうになるのを堪えた。

「ばいばい、また明日」

 声は震えていたのだろうか、わからない。
 奏が死んで一か月。葵の心の中にはまだ彼女がいる。これから先も彼女が居続ける。
 私と同じだ。私も永遠、彼女に心を縛られ続けるのだろう。
 
 手を振って、自分の家に入ろうとした。
 瞬間、葵が私の腕を引っ張って自分のもとに引き寄せる。

「ごめん、凪。ほんとうに、ごめん」


 泣きそうな声。震える声。
 葵の贖罪はこれからも続く。私を裏切った罪は大きい。

 抱き寄せられて、どきどきしている。こんな状況でときめく自分が情けない。最低最悪なこの恋心を早く捨てたいと願いつつも、この気持ちを大事にし続ける矛盾した自分の心を、誰か早く壊してくれ。


 大丈夫。その言葉に根拠はない。
 それでも私は葵に「大丈夫」と言ってあげる。
 優しさも偽善も、そんな薄汚いものは全部捨ててしまって、私は彼が生きるためにすべてをささげよう。








 寝る前に、もらったオルゴールのねじを回した。
 でも、カノンの音楽は流れることなく、壊れたみたく動かなかった。
 不良品を買わされたのかな、と一瞬思ったけれど、ほんのさっきまではちゃんと動いていたからそういうわけではないっぽい。それでも、このオルゴールは動かない。何度ねじをまいても、音楽は流れない。
 奏の好きなカノンは流れない。

「どうして、」

 けれど、それを葵には言えなかった。
 葵からもらったプレゼント。それだけで十分だった。


 その日は、ゆっくり眠った。彼女のことを思い出しながら。
 二か月前に葵と付き合いだして、一か月前に死んだ彼女。
 ふわっとしたボブカットの、太陽のような笑顔がかわいらしい女の子。
 葵のことが大好きな、優しいやさしい、かなで。

 夜中の何時かに、私は少しだけ目を覚ました。
 意識は朦朧としている。だけどなんとなく、目の前にある目覚まし時計が、




 時を巻き戻しているかのように、針が反時計回りしていたような気がした。







 

Re: Re:yesterday ( No.7 )
日時: 2017/03/27 11:35
名前: はせ ◆9mq82W74yY






 8月13日 日曜日(1)




 何の違和感もしない八月十五日がやってくるはずだった今日。
 母親が夜勤だから朝食は自分でサンドイッチでも作ろうかなと思っていた今日。
 お昼にはぶらっと自転車で遠出しようかなと思っていた今日。

 それは紛れもない「八月十五日」の火曜日のはずだった。



 目が覚めて、いつもの癖でテレビをつける。
 だけど予想に反して平日朝のニュース番組はやっておらず、代わりに毎週日曜日の朝の定番となった特撮テレビドラマが始まっていた。
 夏休みスペシャルかと一瞬「再放送」というフレーズが浮かんだけど、何だか違和感がする。
 これ、一昨日も見た気がする……。



 チャンネルを変えてみる。どのチャンネルもいつも「日曜日」にやってる番組ばかり。
 おかしい。今日は火曜日で、ただの平日のはず。


 いそいで自分の部屋を出て階段を駆け下りていく。
 

「あら、夏休みはゆっくり眠るって言ってたのに早いわね。ナギ」


 リビングにはいるはずのない母親の姿があった。
 昨日は夜勤だからって私がお祭りに行くときに一緒に出ていったはず。
 帰ってくるのはお昼過ぎになるからって、しかも夜勤から帰ったらいつも爆睡でご飯なんか作ってくれるはずない。
 違和感が私の身体中をくすぐり、鳥肌が勢いよく立つ。

「ねぇ、お母さん。どうしているの?」


 リビングに入るのに躊躇する自分がいた。
 何だか怪奇現象でも起こっている気がする。

「どうしてって、今日はお休みだって昨日ちゃんと言ったじゃない。あぁ、でも明日は夜勤だからね、火曜日の朝は自分で朝ご飯作りなさいよー」

 少しずつ言動は違えども、この会話には違和し感じない。
 これは、一昨日の日曜日にお母さんとした会話にそっくりだ。



 明日は夜勤……
 だから朝食は自分で作りなさいよ……




 あれ、今日は一体、何日だ?



「ねぇ、お母さん」

 声は絶対に震えていた。
 自分の身に起こっていることにまだ頭が追い付いていない。
 

「今日って、八月の十五日だよね……?」


 一昨日の日曜日に食べた母の得意料理のオムライスが食卓に並ぶ。朝からオムライスなんか食べれないっつーのと一昨日は喧嘩したっけ。
 あんな喧嘩をしたすぐに朝食にオムライスを持ってくるほど、母は馬鹿じゃない。

 見た景色は少しずつ違う。けれど、似てる。



 一昨日の日曜日をもう一度、繰り返しているような風景。



「何言ってるの、ナギ。今日は八月の十三日よ」


 冷蔵庫を開けながらお母さんは笑いながらそう言った。
 ただ、私だけが呆然とその事実を受け止められずにいた。



 

Re: Re:yesterday ( No.8 )
日時: 2017/03/27 12:45
名前: はせ ◆9mq82W74yY









 8月13日 日曜日(2)



 八月十五日は来ず、代わりに八月十三日がやって来た。
 納得するにはまだ時間が必要だと思う。

 お母さん特製のオムライスを食べて、コップにいっぱいのお茶を一気飲みした。
 リビングのテレビはやっぱり日曜の番組だ。

 朝食を食べ終えてすぐに自分の部屋に戻って携帯を鞄から取り出す。
 反応の遅いスマホにイライラしながら必要以上にタップをして、暫くしてコール音がなった。三回目で彼は電話に出た。


『おはよう、凪』

 爽やかな朝の挨拶をする幼馴染の声は、自然と私の焦りを落ち着かせてくれる。
 けれども、私の心を占領する不安は除かれることなく残り続ける。

「ねぇ葵! 今日は、何月何日?」

 勢い任せに尋ねた。
 ぎゅっとスマホを握る手の力が強くなり、手汗が少し滲んだ。
 セミの鳴き声が五月蝿い。ミンミンと耳障りな叫び声で生きている証明をする。

『今日は、八月の』


 ごくんと唾を呑み込んで、葵だけを信じて待った。

『十三日だよ』


 だけど、葵はいとも簡単に私を裏切った。
 私は十五日だよって葵に言って貰いたかったのに。ぐっと心臓が抉られるように痛くて、何でか涙が出そうだった。
 今日は、八月の十五日だよって誰か言ってくれ。安心していいよって誰か。


『昨日の花火、綺麗だったよね』

 その次の言葉、私は息を呑んだ。
 昨日の花火。昨日っていつの話だ? 私の昨日は花火を見たけど、葵の昨日は……。

『八月十五日がやってこないのには、俺も正直驚いているよ』





 耳越しで私を安心させてくれる幼馴染の声。
 安心したせいか、どばっと涙が滝のように流れてくる。唇をぎゅっと噛んで、口元を手で覆った。手から落ちたスマホから葵の呼び掛ける声が聞こえてくる。
 すぐにスマホを拾って私は問いかけた。


「今日は一昨日の日曜日、ってお母さんが言ってた」
『うちも同じだよ。父さんがまだ家にいた、会社休みなのかって聞いたら今日は日曜日だろって笑われた』

 葵の困ったように笑うその声に、不安だったのは私だけじゃないということに気づかされる。
 葵も不安だったんだ。それなのに、私は。


「一日、時間が巻き戻ったってことで間違いないよね」



 来るはずの日が来なかった。
 代わりに来たのは二日前の日曜日。


 葵とデートの約束をした日。
 葵と、奏のお墓参りに行くと約束した日。



 

Re: Re:yesterday ( No.9 )
日時: 2017/04/29 10:31
名前: はせ ◆9mq82W74yY




 8月12日 土曜日(1)



 二度目の八月十三日。葵との電話の後は「只の休日」として過ごした。
 二度目の今日はつまらない。テレビ番組は見たことのあるものばかりだったから、録画してあるドラマを片っ端から見た。
 ふと思う。明日は何月何日になるんだろう。未来は誰にもわからない、それは当たり前のことだったけれど、私は不安で不安で仕方がなかった。


 そして、私は目を覚ます。
 今日は一体、何月何日なのだろう。
 テレビをつける。ニュースでは今日の日付をアナウンサーがさらりと言っていた。

「……八月十二日、土曜日です。みなさん、今日からお盆休みでしょうか……」


 八月十二日。
 また一日、巻き戻った。


 テレビをつけっぱなしで、私は布団にくるまった。何も聞きたくないし、何も見たくなかった。はーはーと呼吸がだんだん荒くなる。怖い。怖くて、怖くて仕方がない。

 ゆっくりと隙間から現実を見る。
 葵から貰ったオルゴールは消えている。確かに八月の十三日の時点ではこのオルゴールは私の物ではなかったから、当然なのだろうけど、でも。
 記憶がどんどんと音を立てて壊れていく。
 そして、ゆっくりとありえない未来が私の脳によぎる。




 このまま時間が巻き戻っていくならば、
 七月十四日はまたやってくるんじゃないか。

 彼女の死んだ日を、もう一度やり直せるのではないか。
 布団をぎゅっと握った。皺になった布に体をくるませて、私はもう一度目を瞑る。
 何も考えたくない。もう一度、彼女が私の前に現れる可能性を信じられるほど、私は馬鹿じゃなかった。






 チャイムがなって、扉の前には葵の姿があった。
 部屋着でいつも着ている、黒いTシャツに迷彩柄のズボン。少し日焼けした肌、二日ぶりに会う彼を懐かしく感じた自分がいた。

「今日は、十二日だって」
「知ってる。土曜日だよ、お母さんが帰りにケーキを買ってきてくれて、葵と一緒に食べたよね」
「あぁ、そんなこともあった、気がするよ。それより、さ」

 玄関での会話。中に入りなよ、と私が声をかけて、私の部屋に二人で入る。
 恋人同士が個室に入ったとしても、私たちには何もない。何も起こるわけがない。

 ホントは、葵の言葉の続きを、死ぬほど聞きたくなかった。

「このまま時間が巻き戻ったら、奏は帰ってくるのかな」

 私も同じことを考えたよ、といえばよかった。
 沈黙が続くと、呼吸の仕方がよく分からなくなってくる。抱き枕をベッドから引きずり降ろして、ぎゅっと顔を埋めた。誰にも、葵にも、こんな嫉妬している顔を見られたくない。
 奏が帰ってきたら、このちっちゃなな幸せは崩れる。
 最低な、最悪な、クズ。自分のことを心の中でそう罵りながら、そっと唇を噛んだ。




Re: Re:yesterday ( No.10 )
日時: 2017/04/15 20:13
名前: はせ ◆9mq82W74yY








 8月12日 土曜日(2)




 二人きりの部屋で、葵の言葉が脳裏に響く。
 「このまま時間が巻き戻ったら、奏は帰ってくるのかな」
 きっと、そうだと思う。このまま一日一日、ゆっくり昨日を待つと、やがて彼女が死んだ日がやってくる。明日も「昨日」になったらの話だけれど。

 沈黙に包まれた部屋で、私は呼吸をするように口を開いた。

 「葵は、かなでが、帰ってきた方が嬉しい、よね?」
 「それって、どういう話」
 「どういうって、あれだよ。奏と付き合っていたころに戻れたら、きっと、その方が……」

 言葉が喉の奥につっかえて上手く出てこない。
 自分で言って、自分で傷ついている。馬鹿だ、私。
 当たり前のことじゃないか。奏が帰ってきたら、葵は迷うことなく彼女のもとに帰る。私は代用品だ。それ以上、望んじゃいけないのに。
 時間が経つごとに、自分が我儘になっているような気がする。葵を手放せなくなっている。怖い、そんな自分が怖くて怖くて仕方ない。

 抱き枕で自分の汚い表情を隠した。こんな嫉妬に満ちた汚い顔を、葵にだけは見られたくない。

 「凪は、そう思ってるんだね」

 葵は肯定も否定もせずに、私の頭を軽く撫でた。
 葵の掌は気持ちがいい。葵に触られるのはすごく嬉しい。
 その気持ちに比例するように罪悪感は増していくけれど、それでも構わなかった。

 葵の気持ちを独り占めにはできない。
 だって、必ず彼の心の中には「奏」がいるから。
 私よりも、もっともっと愛しい彼女の存在が。







 夕方にやはり巻き戻る前と同じように、お母さんがケーキを買ってきた。
 私がフルーツタルト、葵がチョコレートケーキ。前の八月十二日と同じものを私たちは選んだ。
 

 「ここのチョコレートケーキ、美味しいって有名ですよね」

 葵がお母さんに笑いかける。

 「そうよね。わたし、ずっとここのチョコケーキ食べてみたくって。欲張ってたくさん買っちゃったから、葵くんがいてくれて、本当助かったわ」

 お母さんの言葉は、一文字一句あの日と違わない。
 美味しそうにチョコレートケーキを頬張る葵の隣で、私はフルーツタルトのキウイをフォークで突き刺した。口に含んで、ゆっくり目を瞑る。
 フルーツタルトが好きだと嘘をつく私に葵は気づいているんだろうね。ずっとこちらに視線を送ってくる葵が嫌で、私は無言で食べ続けた。




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