コメディ・ライト小説(新)
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- やる気ゼロ剣士と残念な世界
- 日時: 2017/04/19 13:41
- 名前: ラッテ (ID: KE0ZVzN7)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11816
この世界は、魔術と共に発展してきたーー。
魔術。生命には必ず宿るという魔力を使用して、非現実的な現象を起こす力。一万年前に古代魔術書と呼ばれる書物が発見されてからは、人々は魔術を研究し、実用化出来るまでに発展させた。
そして、双月暦ニ〇十五年。今や魔術は日常へとなりつつある中、魔術生誕一万年を記念して、世界で一番栄えていると言われている魔術国・マナリス国において、魔暦祭が開かれることとなった。
物語は、ここから始まるーー。
***
[伝達事項]
ゼロ剣は毎週水曜日に更新予定!
[執筆開始]
2017/4/15
[執筆終了]
[掲示板]
[来客者]
チェリーソーダ様
- やる気ゼロ剣士と残念な世界 ( No.1 )
- 日時: 2017/04/15 22:17
- 名前: ラッテ (ID: KE0ZVzN7)
数え始めるときりが無い無数に存在する魔術。
手から炎を生み出す炎魔法や、空を飛ぶ浮遊魔法、幻覚を見せて相手を惑わす幻惑魔法など、本当に様々な種類の魔術がこの世界には存在する。
この世界に溢れかえっている魔術は、自然にここまで進化したわけでは無い。
人間達が、望んで魔術を発展させ、今の世界を創り出した。
右を向くとそこには連絡手段として通信魔法を使っている人々がいる。
左を向くとそこには様々な魔法を駆使してその場で料理を作り出して商売している人々がいる。
上を見上げるとそこには浮遊魔法で空を飛ぶ人々がいる。
周りを見渡せば、誰もが魔法を使って生活している。
この様に人々が魔法を日常で使える様になるまでに、人は幾多の大戦を繰り広げてきた。何度もぶつかり合い、無限とも思える戦いの連続の中で、ようやく和解する事ができ、平和な世界を作り上げる事が出来た。
誰もこの世界に不満など抱いていない。
もしこの世界に不満を抱く者がいたのだとしたら、平和を嫌うよっぽどの戦争主義者なのか。
それとも、平和に慣れる事が出来ない哀れな人間なのだろうか。
両方違う。
誰もが平和だと口を揃えて言うこの世界の反逆者。それはーー。
世界一の大馬鹿だ。
- Re: やる気ゼロ剣士と残念な世界 ( No.2 )
- 日時: 2017/04/16 10:51
- 名前: チェリーソーダ (ID: xStpW3P0)
こんにちは!チェリーです!
あ、チェリーソーダです!
この前私の小説にコメントありがとうございます!m(_ _)m
私がハートフルを連載し始めた頃、同じくらいに『ゼロ剣』を見ていました!
『ゼロ剣』は、私が考えたこの小説の略です。
気に入ってくれると嬉しいです(#・・)
これからも応援してます!これからも読んでいきますね!
- やる気ゼロ剣士と残念な世界 ( No.3 )
- 日時: 2017/04/16 13:53
- 名前: ラッテ (ID: KE0ZVzN7)
どうも、チェリーさん!
『ゼロ剣』……。カッコイイ……(//∇//)
これからはこの作品の事をゼロ剣と略す事にします!
めっちゃ気に入りました!ありがとうございます!
これからも頑張って更新していきます!チェリーさんも頑張って下さい!
- やる気ゼロ剣士と残念な世界 ( No.4 )
- 日時: 2017/04/19 13:46
- 名前: ラッテ (ID: KE0ZVzN7)
第一章 駄目剣士と完璧女魔術士
見渡す限り、人。今この国には、信じられない程の人が集まっている。
世界一の魔術国・マナリス国は、普段は白を基調とした清楚な家が立ち並び、静かで凛々しいイメージがあるのだが、今は花火がそこら中で飛んでおり、地味だった家はこれでもかという程装飾が施され、賑やかな雰囲気となっている。
マナリス国はとても広く、大陸の五分の一を占める程の面積なのだが、それ程の面積をもってしても人が溢れかえっているのだから、どれ程の人が密集しているかは言うまでもない。
何故こんなにも人が集まっているのか、それは今日が魔暦祭だからだ。
魔術が生誕して一万年の時が経った今日。世界一の大国で全世界から人が集まり、盛大な祭が開かれているのだ。
歩いている人は皆華やかな服を着て、片手に食べ物、片手に飲み物と完全に楽しんでいる。
人々の笑い声が祭の音楽となり、人々の笑顔が風景を彩っている。
全員が心の底から楽しいと思っていただろう。実際、笑顔で無い者は一人もいなかった。
今日は、魔暦祭。人類全員が、喜びの声を上げる日。
大通りが賑わっている中、あまり使われる事の無い裏道では、幼い少女が走っていた。
後ろには、重装備を身に纏った大男二人が少女を追いかけていた。
息を切らしながらも必死に走る少女だったが、身に纏っていた長く白いワンピースが壁から飛び出ていた鉄の棒に引っかかり、そのまま転んでしまった。
全く体力を消費していない素振りを見せている大男二人は少女を捕まえようとしたが、少女は引っかかった部分を引きちぎり、大男二人の手を掻い潜り再び走り出した。
少女は走りながら、呟いた。
「誰か……。助けて……」
大通りでは、様々な屋台が立ち並んでいた。
魔力を操作して的を当てる魔力射撃や魔力が宿った人形を操作して輪投げをする人形輪投げなどといった遊び関連の屋台の他に、料理を提供したり飲み物を販売する屋台なども多数ある。
子供達が射撃や輪投げで遊んでいる様子を、後ろで酒を飲みながら大人達が見守っている。
何とも微笑ましい光景だ。
しかしここで、全てを台無しにさせる出来事が起きた。
「あと五ユース、いや、十ユースまけてくれ!」
食べ物関連の屋台が立ち並んでいる通りの中心に存在するたこ焼き屋で、一人の男が声を荒げて店主に値切りをしていたのだ。
ただ値切りをするだけだったらよくある光景だったのだろう。
全てを台無しにさせたのは、ここからだ。
「いやあ、兄ちゃん。十ユースまけて九十ユースにしてあげるってこっちゃあ言っとるんだよ。これ以上はまけれんなあ。」
頭に鉢巻をした四十近くあるだろう男性は、顎に生やした髭をボリボリ掻きながら言った。
黒のコート、黒のシャツ、黒のズボン、更には黒の靴。
全身を黒で統一している男は、店主に向かってさらに声を荒げて抗議した。
「いやね、俺はもっとまけろって言ってんの!俺はね。たこ焼きなんてもの食べたこと無いの!だから安く提供しろって話。こっちは金欠だっての。もういっその事無料で提供しろよ!」
黒色のボサボサの髪を揺らし、黒く澄んだ瞳を最大限まで光らせて、男は店主に叫んだ。静かにしていれば整った顔立ちでカッコイイのだが、それを全て台無しにしてしまっている。
「あのな兄ちゃん。こっちだって商売してんのよ。こっちは精一杯作ったたこ焼き売って生活してんの。今日は魔暦祭だから人も大勢いるからね、こういう時に頑張らなきゃ俺達は生きてけねーの。世界は厳しいんだぞ。十ユースまけてもらっただけで幸せに思え」
声を荒げて態度も荒々しい男を前にしても冷静に対処する店主は、たこ焼きをさっさと箱に詰めて、男に差し出した。
右手を男に差し出して、言い放った。
「ほい、たこ焼き代九十ユー……って待ちやがれ、こいつ!」
店主が代金を請求し終わる前に、男は差し出されたたこ焼きの箱を抱え、その場から逃走した。
後ろで様子を見ていた店主の妻に屋台を任せ、店主は男を追いかけた。
いや、追いかけようとしたのだが、男は逃げ出そうとした所で段差に引っかかり盛大にすっ転んだので、その必要は無くなった。
店主は急いで男を捕まえ、たこ焼きの箱を取り返そうとした。しかし、男はたこ焼きの箱を大事に抱え、離そうとしなかった。
店主の方を向いた男は涙目で訴えかけた。
「いいじゃないですか、たこ焼きくらい!俺はね、俺はね!こういう祭に来れたの初めてなの!だからさ、いいじゃないですか!他にもたい焼きとかイカ焼きとか食いたいの、俺は!だからさ、いいじゃないですかあ!!」
遂に泣き出してしまった男に対して、店主は遂に我慢の限界がきたのか、店主まで声を荒げて男に叫びだした。
「ええい、いい加減にしろい!!お前の事情なんか知ったこっちゃねえ!!金払わねえならこのたこ焼きは差し出さん!!どうしても食いたいなら、金払え!!」
「金欠だって言ってんじゃん!頭悪いの?このジジイ」
「ジジイ……だと……?俺はまだバリバリの四十七だ!!子供こそ授かっちゃいねえが、まだ立派な若者だ!!ジジイなんかじゃねえ!!」
流石にそれは無理があるだろう、とこの場に居合わせた全員がそう思った。
二人の言い合いはしばらく続き、楽しい雰囲気で包まれていた大通りは一気に険悪な雰囲気となってしまった。
誰か止めろよ、嫌だよめんどくさい、などの声が上がっている中、群衆の中から一人の女性が喧嘩をしている二人の元へ近寄った。
露出度の高い黒と金の服を身に纏っている女性に、その場の男性の目は釘付けとなった。
そのような視線を気にもせず、女性は二人の元へ、いや、黒尽くめの男の元へ歩み寄った。
そして、綺麗で落ち着いた声を精一杯まで大きくして女性は叫んだ。
「ゼロ!!何処にいるかと思ったらこんな所で何をしている!?中心区の噴水前で八時半に集合といったではないか!もう二十分も過ぎているぞ!」
ゼロと呼ばれた男は、しまった、という顔をして恐る恐る立ち上がった。
「あ、あの……。アリシア。こ、これはだな。このクソジジイが全然たこ焼きをくれなかったからであって……」
クソジジイと呼ばれたのにも関わらず、店主は無反応だった。
アリシアと呼ばれた、とても美しく、綺麗な女性に目を奪われていたのだ。
「何!?たこ焼きか……。あの、そこのお兄さん」
「ひゃ、ひゃい!なな何でしょう!?」
お兄さん、と呼ばれてだらしない顔をしてだらしない返事をした店主にアリシアは寄り添い、耳元で囁いた。
「たこ焼き。是非頂けると有難いのだが……。駄目か?」
「いえいえいえ、喜んで!!どーぞどーぞ、たーくさん持って行ってください!!」
そう言って店主は屋台に走っていった。妻が焼いていたたこ焼きを全て箱に詰めているらしい。
アリシアが振り返ると、不満そうな顔をしているゼロが不満そうに地面に座っていた。
「いいよなー、アリシアは。どんな男でもイチコロだから。」
不機嫌そうにしているゼロを無理やり立たせて、アリシアは歩きだした。
屋台の方へ向かいながら、アリシアは言った。
「いいから行くぞ!たこ焼きを貰ったら、噴水に行くぞ!」
「え?イカ焼きとかたい焼きとかは……」
「時間がないからもう駄目だ。普段やる気のない貴様に対する罰だな、これは」
表情を一気に暗くしてブツブツ言っているゼロを放っておきながら、アリシアは店主からたこ焼きを五箱受け取った。
群がっていた人達は皆元の場所に戻り祭を楽しみ始めた。
アリシアに釘付けになっていた男達も、再び酒を飲み始めた。
元の楽しい雰囲気に戻った大通りを、アリシアとゼロは噴水を目掛けて歩き出した。
只今の時刻は八時五十五分。九時半から、噴水から見える王城にて、王直々の演説が予定されている。
二人はその演説に立ち会うために、この祭に来た。
「悪い、アリシア。トイレ行ってくるから先に噴水行っててくれ」
「寄り道はするなよ、ゼロ」
大通りから少し離れた大広場で、ゼロはトイレに行きたくなった。
大広場と噴水は隣り合っているため、トイレに行っても演説には十分間に合う。
トイレを探す為に歩き回っていたゼロは、いつの間にか人が全くいない裏道まで来てしまっていた。
全然見つからず小腹が空いてきたので、アリシアから受け取っていたたこ焼きを食べようと思い袋から箱を取り出そうとしたその瞬間。
後ろで誰かがぶつかって来た様な気がした。
後ろを振り返ると、そこには自分より遥かに小さい少女が倒れていた。破れたワンピースを着た、茶髪の女の子が。
手を差し伸べようとしたその時、後ろから更に誰か二人が向かって来ているような気がした。
装備を身に纏った男二人。間違いない。この国の兵士だ。
胸装備に刻まれているマナリス国の紋章がそれを証拠付けている。
少女はゼロの後ろに急いで隠れた。震えているのが、よく分かった。
「その少女を我々に差し出せ。差し出さないのなら、お前の命は無いぞ」
男のうちの一人が、声を発した。顔装備のせいで声がこもっていてよく聞き取れなかったが、少女を差し出すよう言っているに違いないとゼロは判断した。
後ろを振り返ると、少女が非常に震えていた。
その目には、涙が浮かんでいた。
「お願い……。助けて……」
掠れた声で、助けを求めていた。
ゼロの答えは、当然決まっていた。
「あ、どうぞどうぞ。この子の親さんですか?もう、駄目じゃないですか〜。ほら、こんなに泣いちゃってる。しっかりと面倒見てなきゃ〜」
誰も想像していなかった返答に、場の空気が凍りついた。
その空気の中で唯一、ゼロだけが笑みを浮かべ、堂々と立っていた。
はっきり言おう。この男、やる気ゼロのダメ人間である。
- やる気ゼロ剣士と残念な世界 ( No.5 )
- 日時: 2017/04/19 18:48
- 名前: ラッテ (ID: KE0ZVzN7)
兵士二人は動揺していた。
未だかつて、追われている子供を抵抗せずに受け渡す様な大馬鹿には出会ったことがないからだ。
少女は動揺していた。
こんなにもあっさりと助けられる事を拒否されて、絶望を超えて呆れ返っているからだ。
少女が助けて欲しいと言ったにも関わらず兵士二人に少女を受け渡そうとしている大馬鹿、その名はゼロ。
「いやー、この国の兵士は小さい子達の面倒を見てやっているんですね〜。あ、でも少し厳しくしすぎはしませんでしたか?こんなにも泣いているということは、あなた達がこの子に少女の身では耐えきれない何かをしたとか……」
兵士二人に近寄り、ヘラヘラと話しかけている様子を見た少女は確信した。
助けを求める相手を間違えた、と。
齢六歳にして、世界にはこれほどの馬鹿がいるのだと知ってしまった瞬間だった。
「……何なんだお前……」
兵士は口を揃えて言った。
マナリス国は魔術大国の為、他の国から狙われやすい。マナリス国に保管されている魔道書や魔道石、結晶を奪取する為だ。
その為、マナリス国の兵士は尋常じゃない程の訓練を日々受けている。潜った修羅場も少なくは無いはずだ。
そんなマナリス国の兵士が、たった一人の男を目前にして呆然としている。
今まで見たことのない、何と形容していいか分からない程の大馬鹿に出会ってしまったからだ。
「えーっと、取り敢えずその少女は我々が引き受けてよろしいのか?」
兵士の内の一人、ロブが口を開いた。
ゼロが何か答えようとしたが、その前に少女が口を開いた。
「いや!絶対、いや!私は、お母さんの為にここに来たんだもん!絶対捕まらない!」
兵士二人を睨みつけて叫ぶ姿は、本当に少女かと疑ってしまうほど、逞しかった。
もう一人の兵士、ショートがやれやれ、と首を振って話し始めた。
「我儘はその辺にしときな、餓鬼。ここはお前らの様な禊外人が来る様な場所じゃねえ。お前らみたいな奴らにこの地に足を踏み入れる権利なんてねーよ。分かったらさっさと俺らにおとなしく捕まってお家に帰りやがれ」
少女は唇をぎゅっと噛み締め、涙を堪えているようだった。
兵士二人はようやくおとなしくなった少女を捕らえようと少女に近づいたが、思わぬ事態がここで発生した。
二人の前に、今まで口を塞いでいたゼロが立ちふさがった。
その表情はとても険しく、今までとは別人の様な雰囲気を醸し出していた。
場の空気は一変した。
ロブとショートを睨みつけているゼロに何かを感じたのか、二人は腰に構えていた鉄製のロングソードの手をかけようとした。
しかし、ゼロが口を開く方が早かった。
何を言うか、路地裏は今まで最高の緊張感に包まれた。
ゼロが口を開いてから言葉を発するまでのほんの一瞬が、二人にとっては長く感じ取られた。
それ程、今までとは違う雰囲気だった。
ゼロの口から、言葉が綴られた。
「あの、けいがいみんってなんすか?わかりやす〜く説明していただけると嬉しいんだけど」
今までの緊張感が一気に途切れた。
兵士二人は気が抜けてしまったのか、地面にたおれこんでしまった。
少女はもはや、呆れを通り越して感激していた。
戦わずして、兵士二人をある意味倒したのだから。
その一瞬を、少女は見逃さなかった。
突っ立っているゼロを引っ張り、兵士から離れる為に逃げ出した。
兵士は気が抜けすぎて立ち上がる覇気すら出ないらしい。
「なあ、何でお前兵士なんかに追われてんの?それにけいがいじんって本当に何なんだ?意味分かんねーんだけど。」
「あなた、あの二人が兵士だって事知ってたの!?」
そうだとしたら、ゼロは相当賢い男なのだろう。
武力を持ってせずにその場から逃げ出す事が出来たのだから。
しかし、当然ゼロはそんな賢い男ではない。
「うーん、まあ気付いてたけど」
「じゃあすぐに助けてくれればよかったのに……。あんな嘘までついて」
「本当は兵士がそのままお前を連れてってくれればよかったんだけどなぁ。そしたら今頃こんな面倒な事にもなってなかっただろうし」
その言葉に少女は失望した。
本気で自分を受け渡そうとしていたこの男に、そしてそんな男を一瞬でも期待してしまった自分自身に。
ゼロが言った事に対して怒りが込み上げ、その怒りを言葉にせずにはいられなかった。
「面倒?面倒ってなに!?私があのまま連れ去られて行った方があんたにとって楽だって言うの!?困っている人を助けようともしてくれないの!?」
「そもそもお前なんかしたから追われてんだろ?お前が悪いんじゃねーの?」
我慢の限界を迎え、遂に少女は涙を流してしまった。
涙ながらに少女はゼロに殴りかかった。
小さい拳はゼロに対して何のダメージも与えなかったのだろうが、それは肉体的の話だ。
ゼロの顔は、今までの様なヘラヘラしている顔では無かった。真面目な顔になっていた。
少女の思いが伝わったのか、それともただ単に殴られた事に腹が立ったのか。
少なくとも、精神的なダメージはその小さな拳は与えたのだろう。
「私が悪いの?ちょっと住んでいるところが違うからって、差別されている私が悪いの?私達が悪いの!?お母さんが病気だからお医者さんに頼もうと思ったのに……。それすらダメなの!?それが悪い事なの!?ねえ!!」
顔をしわくちゃにして、少女は訴えかけた。
大声を出しすぎて息を切らしていた。そのまま少女は座り込み、顔を抑えて泣いてしまった。
何が起こっているかは分からない。だが、ゼロは大体の事情を推測だが把握した。
噂には聞いた事があった。とある魔術大国では、在ろう事か国民の中で位を付け、住む場所を分け、上の人間が下の人間を差別できる様な制度にしていると。国王が勝手に選んだ人間が、何の理由もなく差別されている生活を送っているのだと。その様な制度にした理由は様々だが、人口が増えて領土が減ってきたため、多くの人間を国の余っている土地に送り込み、領土を常に確保しておく為という理由が一番だと。
その魔術大国が、ここマナリス国だったのだ。
少女の話を聞き、確信した。
丁度その頃、盛大な音楽の中王の演説が始まった。
演説は拡散魔法により国中で聞けるようになっていた。アリシアに怒られるだろうが、今のゼロにとってはどうでも良かった。
ゼロは咄嗟に背後に気配を感じ取った。
何とかしてゼロと少女を見つけ出したロブとショートだった。
牽制のためか、既に剣は抜かれていた。
「ようやく追いついたぞ。まったく、手間をかけさせやがって……ん?何だこれ?」
ロブは足元に何かがあるのを発見した。
それは、ゼロがいつの間にか落としてしまっていたたこ焼きだった。
「何だ、ただのたこ焼きか。邪魔くせーな」
そう言ってロブは足元のたこ焼きの箱を蹴り飛ばした。
中に入っていたたこ焼きはゼロの目の前で宙を舞った。そして、地面に次々と落ちていった。
辺りに散乱したもう食べられなくなったたこ焼きは、無残な姿になっていた。
「いい加減諦めろ、餓鬼。お前ら禊外人はここに来ちゃいけねえ。つか、来るな。汚れてしまう、お前らみたいな奴が……」
言いかけたところで、ロブは口を閉じた。
いや、強制的に話をやめさせられたのだ。ロブの喉元には、いつ用意したのか、ゼロが右手で握っている漆黒の剣が突き刺さる寸前で構えられていた。
ショートがロブを助けようとゼロに向かって走り出した瞬間だった。
ゼロの体から強大な魔力が発せられた。
魔力は普通、目には見えない。一定量を超えた強大な魔力のみ、肉眼で見る事が可能となる。
黒く、禍々しい無数の風のような魔力が、ゼロを包んでいた。
ロブを睨みつけているその瞳は、とても黒く、底が見えない恐怖すら感じる様子だった。
そしてゼロは、口を開いた。その声には、怒りが込められていた。
「お前らみたいな奴が、何だって?こいつがなんかしたのか?お前らになんかしたのか?答えてみろよ」
小さい声だったが、その声は人を屈服させる程の恐怖を感じさせた。
暫く、沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは、話題を提示したゼロ自身だった。
「何もしてねーんだろ?それなのに、てめーらはこいつらを差別してるんだろ?」
誰も言葉を発する事が出来なかった。
ゼロから発せられている強大な魔力に体全身が恐怖を訴えているという事でもあるのだろう。
しかし、それだけでは無いはずだ。
今までヘラヘラしていた大馬鹿が、ここまで殺気を放ち、今にも暴れ出しそうな雰囲気を出していれば誰だって動けなくなってしまう。恐怖などという言葉では言い切れないほど、体全身が拒否反応を起こしているのだ。一刻も早く、この場から逃げ出したい、と。
それすらさせない程の、殺気をゼロは放っている。
剣を構えられて動く事が出来ないロブを助けようとショートが勇気を振り絞り剣を構えなおした時だった。
ゼロは急に声を大きくして、叫んだ。
「お前らに分かんのか?何にもしてねーのに差別されてる人間の気持ちが!分かんねーよな。たこ焼きを足で蹴飛ばす様な、食いモンを粗末にしてる奴らに分かるわけねーよな!食いモンすら大事に出来ねーのに、人の事なんて大事にできるわけねーもんな!ほんとお前ら、クズだな」
恐怖に少し慣れたのか、ロブは剣を構えられているのにも関わらずゼロに対抗した。
「お前こそ、その餓鬼を助けようとしなかったじゃねーか!お前も、クズだよ!」
少女は、黙っているしか出来なかった。
だが、微かに高揚していた。自分達、禊外人の味方に、出会った事が無かったからだ。
ゼロは剣を構え直し、二人に向かって言った。
「俺はクズじゃねーよ。ゼロ:ラストナイク。剣魔法の使い手、やる気ゼロの剣士だ!!」
自分で言うな!!
この場にいる三人が全員そう心の中で叫んだ。
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