コメディ・ライト小説(新)

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秘境の桜、白の月
日時: 2017/06/13 17:06
名前: 菊桜


 平凡な男子高校生、夏目悠斗ナツメユウトは気付けば知らない所に立っていた。
 右も左も分からない悠斗の前に現れた二人の少女。
 曰く、「生きたいのなら働け」と。

 異世界で綴られる平凡な日常物語、始動――!

 ※ただし平凡かどうかは個人差がある。



――――――
 小説カキコでは初めての投稿となります。ご指摘、助言の類いは喜んで受け取りますので、どうぞよろしくお願いします。

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Re: 秘境の桜、白の月 ( No.1 )
日時: 2017/07/14 17:07
名前: 菊桜

 どろりと広がる宵闇に浮かぶ光景を、自分は何と表現すればいいのだろう。夏目悠斗はこの光景を見つめ、ぼんやりとそんな思考を巡らせる。

 悠斗の後ろには村がある。何の変鉄もない、平凡な村だ。日の出と共に起き、日の出と共に眠る。豊かな土地に豊富な水、その他色々。人間の生活を支えるには充分な要素は十二分に詰まっている村だ。その村の入り口に立っているのは、人間ではない。肌の色も、体格も、全て人ならざる者が持つ特徴と一致する。
 しかし悠斗が見ているのは、それではなかった。
 一つに纏められた長い黒髪。身に纏うのは紅白の衣。宵闇を切り抜いた様な目は人ならざる者を映し、白く小さな手にはおおぬさが握られている。
 悠斗が見ているのは、十四、十五歳辺りの少女だった。
「お、おい!」
 触れるだけで折れてしまいそうな雰囲気を漂わせる少女に、悠斗は「アンタ、何やってんだよ! 逃げろよ!!」と声を張り挙げる。神聖な場所で一日をゆったりと過ごすのがお似合いそうな少女が、こんな化け物相手に何が出来るのだ。
 悠斗は今にもこの場から逃げ出そうとする足を抑え、少女に「逃げろ」と呼び掛ける。悠斗と少女の距離は十数歩。悠斗がたったそれだけの距離も詰められないのは、彼の臆病さが原因だった。否、彼が普通だ。化け物を目の前にして微動だにしない少女の方が異常で、普通の人間ならさっさと逃げ出している。少女を置いて逃げない悠斗は、勇敢な方に分類されるのだ。
 す、と少女が振り返る。その顔に表情は無く、黒い半眼には光が無い。少女は口を動かした。

「ごめんなさい」

 悠斗の頭に、最悪のシナリオが構成される。「この少女を囮にして自分が逃げる」というものだった。ふざけるな、と悠斗は頭を振った。悠斗と少女の関係は親密な物ではない。それどころかつい先程出会ったばかりで、「お、おい!」が初めて少女に掛けた言葉だ。それでも悠斗は嫌だった。この少女を置き去りにするなんて、悠斗の選択肢には微塵も存在しなかった。
 震える足がタン、と踏み出される。悠斗は何も考えず、ただ少女の方へ走った。あの白い手を掴んで、方向転換をして、この化け物共から離れる。悠斗が選んだのは、そういう選択だった。しかしその選択は、次の瞬間粉々に砕け散る。

 化け物の消失という形で。

「……はい?」
 化け物は、跡形も無く消えた。夢か幻だったかの如く、最初から存在しなかったかの様に、消えたのだ。混乱する悠斗に、少女は足音も無く歩み寄る。
「ごめんなさい。私、巫女だから。アレを相手に、逃げる訳にはいかないの」
 申し訳なさそうに、しかしどこか平坦な声を少女は発した。悠斗は「そんな巫女さん知らねえよ」の文章が喉まで出てくる。
「それで、貴方は誰?」
 自分を見上げてくる少女に、悠斗はじり、と後退する。異性の幼馴染みもいなければ仲の良い女学級委員長もいない悠斗は、無防備に上目使いで自分のことを訊ねてくる少女に心臓を高鳴らせたのだ。
「この村に害を成すなら、消すけど」
 そんな高鳴りは別の物に変化した。悠斗は化け物が消えた理由は少女にあると仮定している。正体不明の力を自分に使われたら、自分も消えることになる。冗談だとは思えない少女の声色が、悠斗の心臓を締め付けた。
「え、えと、俺は気付いたら何故かここに立ってた訳だから、この村を襲うとか考えてねえ……です」
 気付いたら? と少女は首を傾げた。「気付いたら……」と復唱してぽん、と手を叩く。
「遭難者だね。保護確定」
「え?」
 聞き返した一文字は拾われず、少女の「着いてきて」という一言で悠斗の行動は決定された。気付いたら知らない場所、知らない生物。この少女に着いていく他に、夜を越す手立てが無かったのだ。
「……ええ?」



 村の入り口で立ち往生していた悠斗は、少女の後ろを着いて歩いた。村に入り、村の奥にある階段を登り、林を抜け、長い階段を登り、登って、鳥居を潜り、「着いた」と足を止めた少女に「さいですか……」と疲弊混じりに応答する。
「ただいま」
『神社の離れ』と形容するのが相応しい建物の戸を開け、少女は中に入っていく。「来ないの?」と聞かれた悠斗はハッとして「お邪魔しまーす……」と頭を下げる。
「おかえりなさい、月音」
 ふわり、と悠斗の鼻孔を甘い香りが擽った。
 白く長い髪に紺碧の目。寝間着と思われる浴衣も、白無地だった。聖人かと思う程に柔らかな笑みを浮かべる十六歳辺りの少女から、甘い香りは漂っている。
「こんな夜更けに出歩くなんて、私は許したくないのですが……入浴中でなければ私が赴いたのに」
「駄目。これは、私のお仕事。でも、ありがとう、黒華。嬉しい」
 目の前で交わされる会話に「仲良いなあ」と微笑ましい視線を向ける悠斗に、突如それは訪れる。

「ところで月音。この見るからに平凡で無能そうな人間はどこのどいつですか?」

 悠斗から護る様に月音を軽く抱き締めた黒華は、聖人かと思う程に柔らかな笑みを浮かべたままそう訊ねた。
 悠斗は思った。「コイツ、絶対聖人じゃねえ」と。

「遭難者。取り合えず、一泊させる」
「は?」
 悠斗と黒華の声が重なった。月音は確かに「一泊させる」と告げている。悠斗は背中に冷や汗が流れるのを感じた。見たところ、二人の少女はこの建物で生活しているのだろう。「入浴中だった」の発言や寝間着と思われる浴衣が、それを物語っていた。
 見るからに自分を警戒している存在が居る建物に泊まるのは気が引けたのか、悠斗は「考え直せ。な? そもそも女が男をほいほい泊まらせるんじゃねえ」と諭す。しかし月音は平淡な声で「問題ないよ」と返す。
「貴方は、悪い事、考えていない。そうでしょ?」
 その言葉に、悠斗は少し嫌な予感がした。少なくともこの子は「ふええ? どうして駄目なのぉ?」というタイプではない。悠斗を止めるのがどういうリスクを抱えているかを理解した上で、泊めると言ったのだ。
「……それに、悪いことを考える人は、朝になったら居なくなってる」
 悠斗の嫌な予感は当たっていた。「遭難者」と言って彼女は悠斗を連れてきた。手をぽんと叩いたしぐさや「保護確定」の発言から考えるに、ほかにも「遭難者」は存在するのだろう。男女比は知らないが、その中に凶行に出る者がいなかったとは言い切れない。だから月音は、他人をここに泊めることがどういうリスクを持っているかを知っている。
 ――だから、朝には居なくなっているという経験がある。
 悠斗は黒華に目を向ける。黒華はそんな悠斗の視線に気付くと、月音を抱きしめる腕に僅かだが力を込めた。
「えーっと……もし俺が変な気を起こしたら……」
「黒華に粛清されるね」
「やっぱりか。やっぱりなのか!!」
 悠斗の嫌な予感は的中した。若気の至りか何かで少しでも月音に危害を加えようとすれば、黒華の手によって「朝には居なくなってる」のだ。悠斗は、黒華の笑顔が途轍もなく恐ろしいと感じた。



 悠斗に用意された部屋は、簡素な物だった。広くもなければ狭くもない和室に、布団が置かれているだけの部屋。それでも突然知らない所に放り出された悠斗にしてみれば、豪邸と同じぐらいの価値がある。
 布団に身を沈め、悠斗は考えた。
 ここはどこなのか。家には帰れるのか。自分はどうしてここにいるのか。あの化け物は何だったのか。それを消滅させた少女は何者なのか。分からないことだらけの頭を落ち着けるように、悠斗は布団を深く被る。そして、静かに眠りの世界へと落ちていった。

Re: 秘境の桜、白の月 ( No.2 )
日時: 2017/06/25 15:02
名前: 菊桜

 閉められた障子が開き、悠斗の顔に朝の陽射しが熱を運んでくる。小さな呻き声を漏らした悠斗は「あと五分……」と言って布団を深く被った。
「永眠を望むなら今すぐにでも用意しますよ」
「おはようございます!!」
 一気に覚醒した悠斗の頭は、状況を理解する間も無く体を起こせと命令する。その選択は正解だったようで、障子を開けた人物は「そうですか」と微笑んだ。


 膳の上に並べられている食事に目を落とす。
 左にはつやつやの白米。右には香り立つ味噌汁。奥には塩鮭。
「い、いただきます」
 ここの家主である月音が一口食べたのを確認してから、悠斗は食事に手をつけた。思えば、昨日の夕飯を食べた記憶が無い。当然腹は自分が空であると訴えている。
「……!」
 右も左も分からない。自分が今、どこにいるのかも分からない。帰れるのかも分からない。一分先の状況も予測出来ない状況で提供された和食は、空腹を満たす他に悠斗の心を癒す働きもしたらしい。悠斗は、拠り所を見つけた様に食事を続けた。


「……何やってんだ。俺」
 自分の状況をふと再確認し、ぽつりと零す。ついさっきまで、一心不乱に食事をしていた。「ごちそうさま」と告げた瞬間「じゃあこれお願いします」と黒華に箒を渡され、神社の敷地の右一区画を掃除するよう言い付けられた。そして、今に至る。
 ――いや、俺はここの清掃員ではないのだが。
 そう首を捻るが、現在悠斗の周りには誰もいない。二人も二人で、別の場所を掃除中なのだから。
「終わりましたか?」
「うおっ!?」
 突如背後から声が聞こえ、肩を大げさに跳ねさせて振り返る。
 雪を染み込ませた様に白い長髪。
 海を思わせる紺碧の目。
 神と同じ色の小袖に、勿忘草色の袴。
 悠斗を起こしに来た人物、仙凪黒華センナギクロカが立っていた。
「お、おう。終わった」
 黒華は一通り周囲を見回すと、「意外と手際良いんですね」と呟いて認識を改める。
「掃除は昔から得意だからな」
 悠斗には昔、姉がいた。八年前に行方不明となり、戸籍上は死亡扱いである。家の掃除は姉の役目だったが、行方不明になってからは悠斗が引き継いだ。幼い悠斗が姉を忘れまいとしていたのか、とにかく掃除は何よりも一生懸命だった。だから悠斗の掃除スキルは相当なもので、こうして黒華を驚かせるに至っている。
「で、なんで俺に掃除させたんだ?」
「食べたならその分働いてくださいよ」
 至極当然だという表情で黒華は答えると、神社の境内へ歩を進めた。その後を悠斗が追い、二人が境内に到達した瞬間――。
「月音さーん! 黒華さーん! お久しぶりでーす!!」
 十八歳辺りの少女が、鳥居前の階段を駆け上がってきた。ぶんぶんと手を振る様子から、「ああ活発なのね」と大抵の者は思うだろう。
 が。
「相変わらず、服と人が噛み合っていませんね」
 黒く丈の長いワンピースに白いエプロン――クラシカルのメイド服を着用しているのである。その状態で階段を二段飛ばして上がってくるのだから、彼女を見た大抵の者は「活発じゃ駄目な服装だろ」とツッコミを入れる。
「ん? こちらの方は?」
 悠斗は「メイドコスの活発系女子に遭遇した時の対処法」を全力で探りつつ、「あ、えと、夏目悠斗です」と若干顔を引きつらせて挨拶をした。彼も、性格と服装のギャップにツッコミを入れたい人種だった。
「あ、これはご丁寧に! 私はユウカ・ウォード。よろしくね!」
 少しだけ癖のある紫黒の髪を背中まで伸ばし、ご丁寧に白いフリル付きのカチューシャまで装着して同色の手袋を着けているユウカと握手を交わす。結構気合入ってるコスプレだなと感心しながらも、ジャンルを間違えているのではないかと指摘したい衝動に駆られた。
「久しぶりってアンタ……」
 どうやらまだ来訪者がいたらしく、階段の下から新たな声が挙がる。
「一週間前にも会ったでしょ」
 階段を登り切ったのか、足音がしなくなる。当然声は聞こえるのだが、悠斗の目線は随分下に下がることとなる。
 セミロングの金髪に白い肌に大きな金色こんじきの目。手に持つのはシンプルながらも上品さを醸し出す日傘。そして、スカイブルーを基調としたロリィタファッションを着ているのに全く違和感を感じさせない。
 つまり、幼女だった。
「初めまして、ナツメユウト。今日からお前が仕える主人の顔よ。よく覚えておきなさい」
「………………は?」
 悠斗は唐突な宣言に目を点にする。ギギギ、っと首を月音の方に向け、「説明してください」と目で訴えた。
「……」
 そんな視線を受け取った月音は、「仕事先。さっき、紹介しておいた」と簡潔に説明した。
「ちなみに私が君の教育係! だからさっき『よろしくね』って言ったんだよ?」
 悠斗は、まず頭を抱えた。
 次に、空を見上げた。
 そして、眉間を親指と人差し指で抓んだ。
 最後に、呟いた。

「もっと丁寧な説明をしてくれ」

Re: 秘境の桜、白の月 ( No.3 )
日時: 2017/07/14 17:06
名前: 菊桜

 白を基調とした西洋風の屋敷に連れてこられた悠斗は、その間ユウカに様々な説明を聞かされていた。

「昨夜、黒華さんが屋敷に来て『働き手が一人見付かったので引き取ってください』って言った訳。そしたらうちのあるじが二つ返事で了解してね。衣食住は確保されてるし、お給料も出るよ。ちゃんとお仕事してもらわないと出す物が君の命になっちゃうからしっかりしてね」

 まともに整備されていない、道とも呼べない場所を歩きながら耳を傾ける。

「仕事の内容は普通に使用人だね。適性があれば違うお仕事もしてもらうけど、君、何か特技ある?」
「掃除は得意だけど……」
「ありゃ。私と被ってる。まあいいや。プロートスなんて完璧超人だし」

 日光を忌み嫌うかの様に木が生い茂る森は、昼間であるのに薄暗かった。

「とりあえず今日からしばらく、君には私が仕事を教えるからね」

「よろしく」と笑うユウカに姉を重ねた悠斗は、頷くしかなかった。生きていたら年齢も同じぐらいだろうし、名前も――
「?」
 悠斗は額に手を当てる。一瞬何か、ノイズが走った気がする。しかし今はもうしないので、首を傾げるしかない。何だったんだ……? と困惑する悠斗は、改めてユウカの顔を見た。少しだけ癖のある紫黒の髪は似ているが、目の色は全く違う。
 悠夏ユウカの目は黒だった、と記憶を辿る。
 自分の目に映る、ユウカの目は赤色だった。


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