コメディ・ライト小説(新)
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- そうは問屋が卸さない
- 日時: 2017/12/03 16:03
- 名前: MESHI (ID: LGxJAebD)
どうも、MESHIです。読み方はそのまま「メシ」です。
2作目を、調子にのってはじめようかな~と思いましたので、思い立ったらすぐ行動を座右の銘にしている私は早速ページを開きました。どっちかというと、猪突猛進・あとは野となれ山となれタイプなんですg…っぐぉっほん!!
今回のテーマは一応「ラブコメ(らしきもの)」です!
あの!!読んでてすごく楽しくなって!こっちまで青春をしているような気になって!そんな気になるだけで結局現実では何も起こらなくて!ちょっと虚しくなるけどやっぱり読むのがやめられないという!魅惑のラブコメです!!(忌まわしき青春時代)
しかしMESHIが書く「ラブコメ」は、時々…いや、しょっちゅう話が脱線して、最終的にはただただ登場人物達がコントを繰り広げるだけになってしまうかもしれません。
登場人物たちがマイクの前で「ショートコント」「面接」などと言い始めたら、もうお持ちのスマホ、あるいはパソコンを窓の外へ放り投げていただいて構いません。でも弁償はしません。
そして、今回の小説は本当に不定期更新なので、いつ更新されるか分かりません。気が向いたら更新…という感じです。
1年くらい更新されていなかったら(あっ…あいつやっぱりあとは野となれ山となれタイプやったんやな…)と、ページをそっと閉じてください。
それではよろしくおねがいします!
【コメントありがとうございました!】
幅猫さん
- Re: そうは問屋が卸さない ( No.5 )
- 日時: 2017/10/13 17:57
- 名前: MESHI (ID: uSdQ/xFE)
よーし…落ち着いていこう、そう、落ち着いたらできるんだ。
私は3分経ったことを告げるタイマーを止めた。
深く深く、息を吐く。
大丈夫、大丈夫だって…そう、大丈夫…
私はそう自分に言い聞かせ、『③→ここからはがす』と書かれた逆三角形のような蓋の一部をつまむ。
そのまま勢いよくそれをはがし、フローリングの床へ叩きつける。ぺちゃっと情けない音がキッチンに響いた。
露わになった銀色の部分には数十個の穴が開いている。
そう、今私は人生のクライマックスを迎えている。
このカップ焼きそば、一度も完璧に湯切りをできたことがない。
いつも必ず「あっ、ちぃ~っす。」とでも言いたげに容器の底の方に溜まっている湯は、とにかく濃いのがウリのこのカップ焼きそばのソースを薄め、ただのソースにしてしまう。
待ってろよ、とにかく濃いソース!そしてそれに全希望を込めたメーカーの皆様!!
私の前に立ちはだかる真っ白な湯気の壁。
「ふっ…。」
キッチンで独り、勝ち誇った笑みを浮かべる私。両手にはミトン。
見ろ!この防御力の高そうなミトンを!!貴様の「熱いよ、止めた方がいいよ。」攻撃なぞ今の私には通用しない!
ミトンを装着した両手でカップ焼きそばをそっと包み込み、流し台へ平行移動させる。
おっと、ここで水を一緒に流しておかないとどこからともなくベコッという音が聞こえるんだった…。
両手がふさがっているので、持ったカップ焼きそばのカップのフチで蛇口を押そうとした。
___一瞬の出来事だった。
カップ焼きそばは蓋側を下にして何の菌がついてるかも分からない流し台へと、自由落下を始める。
その瞬間が目に入ったと思えば、次に目を開けたときには薄黄色の麺がひっくり返ったカップからちょろちょろとはみ出していた。
「ぁんぎゃああああああ!!!」
ミトンを床へ振り落として叫び声をあげる私。
湯気が一気に立ち込める。
流し台の心配なんてするんじゃなかった。ここ1週間で1番の絶望だ。
私の昼ご飯はどうなるんだ…。
…いや、まだだ!まだ戦いは終わっていない!
まだ流し台にダイレクトに触れていない麺はいるはずだ。
私は躊躇なくひっくり返ったカップ焼きそばのカップの下へ手を差し込んだ。
___ミトンをつけていない、防御力0に等しい状態で。
「ホヮつァあああああッ!!!」
反射的に跳ね上げた手と共に宙を舞うカップ焼きそば。
クルリと見事な半回転を決める。脳内の審査員が3人とも「10」と書かれたパネルを上げた。
そこまではよしとしよう(厳密にいうと全く「よし」ではないが)。
全会一致の満点の回転を決めたあとのカップ焼きそばは、迷うことなく私の頭へ着地した。
まだたっぷりと熱々の湯を含んだ麺が、容赦なく顔に落ちてくる。
私は声にならない叫びをあげながら洗面所を目指した。あそこでは家で1番冷たい水が出る(理由は不明だが)。
メロス顔負けの走りだ。しかし麺のせいで前が見えない。
両手を前に突き出して壁との正面衝突の回避を試みる。
次の瞬間、私は右半身に何かをぶつけ、左へ跳ね飛ばされて左肘を強打した。
「いってて…。」
何故…。壁は自らぶつかりには来ないはずじゃ…。
衝撃で少し横へズレた麺の隙間から、何かが見えた。人の形をしている。
何だ、お母さん帰ってきてたのか。そうならそうと早く言ってくれたら私ももう少し静かにカップ焼きそばを作ったのに。恥ずかしいじゃない。
ほっと息を吐いて人影を見上げる。
私の安堵の表情は一瞬にして絶望へと変わった。ここ1ヶ月で1番の絶望だ。
「「うわああああああああ!!!」」
私が叫び声を上げると、目の前の人影も同時に叫び声を上げた。
___目の前に立っていたのは、見知らぬパーカーを着た男だった。
何だ!?泥棒か!?
私は、キッチンへ我が家で1番大きいフライパンを取りに駆け出した。
「あああ、待て待て待て!怪しい者じゃない!」
慌てた様子で手を振る男。よく見ると、私と同じくらいの年に見える。
「俺はお前を救いに来た幽霊だ。」
うわっ…こいつやっべぇ…!
私は再びキッチンへ走った。
「ああああああ!だから!待てって!!違うんだよ!ほら、足もちゃんと無…あっ、ある…。」
自分の足を指さして頭を抱える男。
だから何なの!?何こいつ!?
「…俺だってさ、こんなことしたくなかったよ?だってさ、これ完全にイタい人じゃん?」
私に背を向ける男。
今がチャンスだ!
私は右手をしっかりと握りしめ、拳を天高く振り上げた。
くらえ!!ミラクルパンチ!!!
___しかし私のミラクルパンチが捉えたのは、10数センチ先の男の背中ではなく、固い固い壁だった。
私の拳は男の背中にめり込むようになって見えない。…体をすり抜けてる。
ジンジンと痛む拳を引く。
生まれてこのかた16年、私はこの瞬間、初めて幽霊に出会ったのでした。
「うわあああああああ!!!」
- Re: そうは問屋が卸さない ( No.6 )
- 日時: 2017/11/10 17:01
- 名前: MESHI (ID: 2Oi/4rX1)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11655
「さてさて幽霊君。」
とある駅前。
神が指を鳴らした瞬間、俺と神はここに立っていた。もう何でもありだ。俺はもう何が起きても動じないだろう。
「まずね、君が担当する女の子の家を教えるね。」
「はあ。」
神が背中をモゾモゾとかき回し始めた。
「…あれ?」
何か焦っているようだが、見た目が見た目なのでただただ可愛らしい。
特に、こいつをうさぎ耳のついた巫女服女子に脳内で変換し始めたあたりから、かなり愛着が湧いてきた。
__おい、何だその目は。やめなさい、人に変態を見るような目を向けるのは!
俺がボーっとしている間に、神はどこからかボロ切れのようなしわしわの紙と、筆を取り出した。
そしてそこへ何やら線を引き始める。
「はい!できた!」
神が嬉しそうに頭上で振る紙には、ぐにゃぐにゃ曲がった数本の線と、矢印が書かれてあった。
ふむ…よくわからんがこれが芸術ってやつか…。
「違う!地図だよ地図!」
ちず…。
申し訳ないが、神の世界と人間の世界では「ちず」が表す意味が違うらしいな。
「同じ!同じ地図!」
こんな時に、冗談はやめてほしい。
「こっちのセリフだよそれは!」
神は俺にその『自称・チズ(笑)』とやらを投げつけた。
「こっちが北。で、ここね。」
神が俺の肩まで器用に登ってきて、その小さな手で『自称・チズ(笑)』を指す。
そこには、黒く塗りつぶされたいびつな四角形。
申し訳ないが、これじゃあ日暮れまでにここにたどり着けるか…。
「これがこの大通り!それの信号を4つ通り過ぎた後に右折!そしてすぐに左折!」
4、右、左…。
「あ、そうそう、一つ大事な事を言っておくよ。」
4、右、左…。
「早く女の子の恋を叶えさせなければ、君の存在はどんどん薄れていく。そして最終的には『存在しなかった』ことになるから、さっさと終わらせた方が身のためだよ。」
4、右、ひだ…え?
「あと、間違えた相手と無理矢理結ばせると、その進行が速くなるから、気を付けるんだよ。」
待て待て待て、そんな話聞いてないぞ!?
「まあ最初の1か月くらいは生きてた時の記憶が少しずつ消えていくくらいだから、そのうちに成功させたら何も心配はいらないよ。」
心配いるだろそれ!?
1か月…。想像以上に短い。
大丈夫か?それ…。
はっと我に返ると、もうそこには神の姿はなかった。
靴下のまま呆然と立ちすくす俺に、誰も見向きもしない。
改めて俺は幽霊なのだと、思い知らされた。
でももうこのバイトを引き受けたからには、成功させないといけない。
さもなければ俺は消えてなくなる…のか?そういうことなのだろうか?
でも始めないからには分からないな。
さあ、行こう__…行けるかな…?
🐇 🐇 🐇
おお…。
俺は、自分のマップ把握能力を精一杯自画自賛した。
あの『自称・チズ(笑)』のみでここにたどり着けるとは。
当然人には聞けないので、自分を信じる他なかった。
その上、幽霊だから空を自由自在に飛べるのではないかと、淡い期待を寄せて地面を蹴ってみたが、微妙に浮くだけで、そこから前へ進むことができなかった。俺の淡い期待は見事に打ち砕かれた。
よかったよかった…。
__もうやり切った感がすごいが、本題はここからなのだ。
さっさと終わらせて生き返ろう。
恋のキューピッドだか何だか知らないが、要はそういう系のゲームと同じだろう。
適当にフラグたてときゃどうにでもなる。なお、この考えで俺の恋が叶ったことは一度もない。
…い、いや、それは自分のことだったからだし!ちょっと緊張しただけだし!
さて、行くか…。
俺は目の前の家の壁をすり抜けて中へ入った。
___ん?これって不法侵入とかにならないよな…?
- Re: そうは問屋が卸さない ( No.7 )
- 日時: 2017/12/03 16:02
- 名前: MESHI (ID: LGxJAebD)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
制汗剤なのか何なのかよくわからない甘ったるい香りがする。
目の前には俺の身長の半分ほどの高さの鏡が、壁に貼りついている。
ふむふむ…ここが洗面所兼風呂場か…。
___おい、なんだその目は。やめなさい!そんな変態を見るような目を向けるのは!
何か勘違いされそうなので補足しておくと、俺は洗面所兼風呂場だけを念入りに観察しているのではない。
___いや、この言い方も語弊が生じるな。
この家の前に到着したあと、堂々と玄関から入るのも気が引けるので(変なところで気を遣うのは俺の得意技だ)、コソコソと裏口(というか家の裏の壁)から中へと入った。
最初に入ったのは倉庫。アルバムやら、大きな瓶でねかせてある梅酒やらが詰め込まれているだけで、特に面白みはなかった。
ちなみに、この梅酒は俺の担当するであろう『超絶☆不幸ガール』の生まれ年に漬け込んだものだろう。たしか、俺の家にもあった。なつかしい。
…そんなことはどうでもいい。
そこから壁を抜けて隣の部屋に行くとここだったというわけだ。これで誤解は解けただろうか。そもそもこの行動を監視されているわけでも何でもないので、こうやって一人でブツブツ言う必要は全くない。
おっと、そういえば表札を見るのを忘れていた。あの野郎、名前すら教えてくれなかった。やる気あるのだろうか。
もう一度外に出てやり直すか…。
俺は洗面所兼風呂場の壁をすり抜けようと、ドアの方へ向かった。
その瞬間___
「行脚ァァァ!!!!」
高い女の声が響き渡った。
…なんだ?ここ寺だったか?
待て待て、落ち着け。もし寺だったとしても『行脚』なんてあんな大声で叫ぶはずがない。新種の修行ならまだしも。
あれは___そうだな、『行脚系女子』ってやつか。なるほど。俺がスマホをいじれない間、世間ではそんなものが流行ってたのか。
__なんだ『行脚系女子』って…。
自問自答でしか喋る機会がない歴2年の俺は正解がまったく見つけられなかった。
とりあえず声のした方に行ってみよう。
そう思って廊下へ顔を出した瞬間、またさっきと同じ声がした。
「ホヮつァあああああッ!!!」
驚いた。
行脚系女子だけでなくジャッ〇ーチェンファンも拗らせてたのか。
世界は広いもんだ。
そう呑気に考えていると、キッチンと思われるところのドアが勢いよく開け放たれ、1人の人物が飛び出してきた。
___待て、お前はどんだけキャラ付けすれば気が済むんだ。
もう行脚系女子とジャ〇キーチェンファンという濃すぎる要素を詰め込んでいるのに、その上頭からラーメンかぶってるとかふざけるな!
こちとらヲタ幽霊だぞ!よく考えろ!こんなキャラの濃すぎる奴らしか出てこない小説なんて意味不明すぎだ!世間一般ではこれを『カオス』って言うんだぞ。
行脚系女子兼ジャッキーチェ〇ファン兼奥義ラーメン被りの使い手は、両手を突き出して、__なぜか自分から壁に体当たりしにいった。
ゴムまりのようにはじけ飛んだ行脚系女子兼ジ〇ッキーチェンファ(以下略)は、鈍い音をたてて肘を強打した。とても痛そうだ。
「いってて…。」
うずくまる行脚系女子兼ジャッキー(以下略)。
「何故…。壁は自らぶつかりには来ないはずじゃ…。」
いや、お前が自らぶつかりに行ったんだ。
- Re: そうは問屋が卸さない ( No.8 )
- 日時: 2018/01/26 17:23
- 名前: MESHI (ID: sA8n45UA)
しばらく床に蹲って無様な姿で痛みに悶絶した行脚系女子は、やっと上半身を起こした。いつまで苦しがっているんだ、とりあえず俺を放っておかないでほしい。見知らぬ家の廊下で1人、誰にも相手にされずに立っているのはかなり虚しいことを行脚は知らないだろう。
湯気がたち続ける麺の隙間から、大きな黒い瞳が覗く。俺とばっちり目が合った瞬間、行脚はスイッチが入ったようにビョンとはね起きた。
「「うわああああああああ!!!」」
…いきなり悲鳴をあげるのはやめてほしい。こっちも驚くから。
顔一面に『絶望』の字を貼り付け、行脚は「何だ!?泥棒か!?」と小声で言った。そして次の瞬間にはもと来た方へ駆け出していた。
もしかして警察に通報するつもりじゃあるまいな?
「あああ、待て待て待て!怪しい者じゃない!」
俺は慌てて両手を振って行脚を静止させた。行脚はきょとんとした顔でこちらを見ている。
もしやこいつ、初対面で「怪しい者じゃない」っていう奴に限って不審者だという日本伝統の法則を知っているのか?
しかしそれを確認したところで事態は解決しない。とりあえず本当の事を言っておこう。
「俺はお前を救いに来た幽霊だ。」
俺がそう言った瞬間、行脚の間抜け面がみるみるうちに歪んだ。…おっと、俺もテレパシーに目覚めたのだろうか。今こいつは絶対に「うわっ…こいつやっべぇ!」と思っているはずだ。そうに違いない。
行脚はまた走り出した。
「ああああああ!だから!待てって!違うんだよ!」
ふん、とっておきのネタを見せてやろう。アニメや漫画での「幽霊」ってのは、大体足がないっていうのが相場だ。そうだよな、神。俺がお前に会う前はガッツリ足はあったけど、こういうシチュエーションもあると想定して、ちゃんと俺の足が見えないようにしてくれているよな。信じているぞ。
「ほら、足もちゃんと無…」
これほど自分の足を見て残念な気持ちになったのは初めてだ。俺の指さす腰からは、たいして長くもない足がしっかり2本生えていた。
「あっ、ある…。」
神め…!許さんぞ!というか俺が来ることくらい事前に知らせておけ!
俺は脳内に浮かんだモフモフに八つ当たりした。とりあえず次会った時にはあの真っ白な毛にそば粉でもぶっかけてやろう。
一通り神への嫌がらせデモンストレーションを終えて、現実に戻った。
目の前に突っ立っている行脚の目は完全に不審者を見るそれであった。
俺は行脚に背を向けて壁に頭を打ち付けた(できなかったが)。
「…俺だってさ、こんなことしたくなかったよ?だってさ、これ完全にイタい人じゃん?」
もう帰りたい。帰るところもないけど、とりあえず行脚の目の前から消え去りたい。これ程にまでガッツリ黒歴史を刻んだことは未だかつてなかった。
駄目だな…。自分の事も満足に説明できないやつが、人の恋愛をああだこうだ言う資格はない。
一瞬の静寂が流れたあと、行脚が大きく息を吸うのが聞こえた。
「くらえ!!ミラクルパンチ!!!」
…なんだそのネーミングセンスの欠片もない技の名前は。
ゴン、と胸元で音がした。
小さく白い手が、俺の胸を突き抜けて壁をしっかりと捉えている。
よかったな行脚。お前のミラクルパンチはしっかりと壁の心に届いたと思うぞ。あと俺には、殴ってちょっと傷がついた壁を前に、お前が叱られている未来が見える。
「うわあああああああ!!!」
パンチを繰り出す時よりも速く拳を引っ込める行脚。
「えっ?す、すり抜けた!?」
大きな目をさらに大きく見開く行脚。俺ははっとした。
これなら俺が幽霊だと説明できるのではないか。なんだ神、結局は俺が困らないようにアシストしてくれているんだな。というか、神のアシストがあるのなら俺は無敵じゃないか。
しょうがない、神に今度会ったら、そば粉をぶっかけた後にちゃんと掃除機で吸い取ってやろう。
「これで信じてくれただろ?俺は幽霊。名前は…。」
…あれ?
「名前は?」
行脚が俺の言葉の続きを急かす。
待て待て待て、おかしい。
忘れるはずのない自分の名前が、今や「顔は見たことあるけど名前までは知らない芸能人」と同じランクへ下がっている。もうすぐで出てきそうなのに、思い出せない。
これは…。
そりゃあ、幽霊になって数年間自分の名前を呼ぶ人はいなかったからすぐに思い出せないのはおかしな話ではない。
でも…それにしてもおかしい。生きている間の学校生活では嫌というほど自分の名前はこの手で書いただろう。こんなにも完全に忘れてしまうものなのだろうか。
心臓がバクバクと音をたて、鼓膜を震わせる。
…神め、早速やってくれおったな。
- Re: そうは問屋が卸さない ( No.9 )
- 日時: 2018/03/18 11:48
- 名前: MESHI (ID: qeFyKwYg)
幽霊を名乗る男は、自己紹介の途中で完全停止してしまった。
どうしたのだろうか、このタイミングでコミュ障が発動したとか言いださないだろうな。
私がそうぼんやりしていると、幽霊の顔色がどんどん悪くなっていくのが見えた。幽霊に顔色も何もないと思っていたが、そもそもこの男に「幽霊ィィィ!!」という確固たる主張がないので、見た目だけで言うとただの人間だ。なので顔色の変化も多少は分かる。
さっきまで独り言含め騒がしかった幽霊は今や置物のように動かず、音ひとつ発しない。
「あのー。」
さすがに気まずいので、私は思わず声をかけた。うおっ、と短く声をあげる幽霊。
「どうした・・・んですか?」
迷った末、敬語にした。一応、見た目では若干私より年上っぽから。
「え?ああ、えっと・・・あれだ、名前考えてたんだよ。イカす名前。そうだな、幽霊の「ユウ」ってのはどうだ?それかあれだ、「レイ」かな?ん?」
薄い笑みを浮かべながら早口でまくしたてる幽霊。
どう考えてもさっきの顔色はそんな能天気なものを考えているそれではなかった。でもそんなに深入りするべきではないかと思い、私は名前の方の返事をした。
「安直すぎません?」
「そうか?俺はどっちもイケてると思うけど。」
本心なのか、何かを誤魔化しているのか、私にはテレパシーも読心術もないので(あれ?同じか?)分からなかった。
でも、もし本心なのだとしたら、この幽霊にネーミングセンスはさほどないのは確かだ。
結局、幽霊の名前は「ユウ」に決まった。え?決め手?あみだくじに決まってるじゃないか。
/(・ω・`)? \(`・ω・´)ノ!
俺が自分の名前を忘れたことのショックよりも、俺の新しい名前がゴミ箱から拾ったチラシ裏に書いたあみだくじによって決められたことのショックの方が大きかった。
まあそもそも、俺にとって名前を忘れたからといってどうってこともない。推しの名前さえ覚えておけば生きていられる。・・・おい、なんだその目は。やめなさい!そんな廃人を見るような目で人を見るのは!
そして、困ったことがもう一つある。
あれ以来、神が俺の前に姿を現わすことは無かった。
俺のそば粉のスタンバイがまだできていないのを知った上で、準備できてから颯爽と登場するという高度な技を繰り出してくるのかと思い、行脚にそば粉を買ってきて貰った(そのときそば粉は、麺になったそばのような色ではなく、白色だということを初めて知ったことは誰にも口外しない)。
しかしどれだけ待っても神は現れなかった。
無責任なものだ。新人が入ったら上司は普通様子くらい見に来るだろう。
そうして数日が経った。まだ生前の記憶の中で忘れたのは自分の名前だけだ。
朝、行脚が家を飛び出していくのをベランダから優雅に眺めながら、俺は今ボーッとしている。平和だ。
行脚は口に食パンを咥え、走りながら寝癖がひどい髪を整える。正直言うと、走っている時の風でまたボサボサになるのであまり意味がない気がする。
「あ、あれ!?筆箱入れたっけ!?」
近所一帯に響くほどの大声。
行脚が視線をバッグの中に移し、なおも走り続ける。・・・前方に電信柱が迫っていることは伝えた方がいいのだろうか。
俺はとても親切なので、伝えてやることにした。
「おい、前に」「えぇ!?」
ゴン、と痛そうな音がここまで聞こえてきた。電線にとまっていた数羽の鳥が短く鳴いて飛び立った。
これ、学校に到着するまでどれくらいかかるのだろうか。
・・・とりあえず、職場の様子は見ておかないとな。
俺はベランダから飛び降りる。パラシュートをつけているようにゆっくりと降下していった。幽霊は色々不便だが、これだけは便利だと思う。
「急げ、もう1時間目始まるぞ。」
「ええ!?」
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