コメディ・ライト小説(新)

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【オリキャラ募集中】砂の英雄【3-5更新】
日時: 2018/03/27 01:57
名前: 塩糖
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1040

 彼は、凡人である。彼は英雄ではない。
だが彼は、英雄を名乗ることとなった。
 そう名乗りたくなるほどに、世界は愛おしくなった。
たとえそれが、一時の――



*****
 はじめましての方、久しぶりという方、どうもこんにちわ。
塩糖えんとうという者です。今作品は、私が以前小説カキコで書いていた作品のキャラのリメイクです。故に、見覚えがあるかもしれませんね。
普段は複雑ファジーで書いていますが、たまには別の板でと思いこちらにさせて頂きました。
感想をもらえると有頂天になります。

世界観は、異能力学園ものです。基本一人称の小説となっております。
更新頻度は、こちらは不定期更新とさせていただきます。
 嘘です、実は途中から三人称になります。

2/13:まだ生きてます、腰は死んでる

*****
目次
・一話「その日彼は一般人であった」 -1 >>1 -2 >>2 -3 >>3 -4 >>4 -5 >>5
・二話「鉄をも呑む砂」 -1 >>6 -2 >>8 -3 >>11 -4 >>13 -5 >>14 -6 >>15 -7 >>16 -8 >>17
・三話「異能と能無し」-1 >>18 -2>>21 -3>>22 -4>>23 -5>>24

 まとめ読み用
・一話「その日彼は一般人であった」 >>1-5
・二話「鉄をも呑む砂」 >>6,>>8,>>11,>>13-17

*****
 お客様、感想返し
・四季様 >>7
   返 >>9
・流沢藍蓮様 >>10
     返 >>12
・織原姫奈様  >>19
     返 >>20

*****

【告知】
 現在、リク板にて砂の英雄オリキャラ募集をさせていただいております。
 もし投稿したいなーって方おりましたら是非。URLより飛べます。

Page:1 2 3 4 5



Re: 砂の英雄【3-1更新 2/13】 ( No.20 )
日時: 2018/02/14 08:44
名前: 塩糖

>>19 織原姫奈さん
 はじめましてー! ですかね。私の作品を呼んで下さり誠に感謝感激です。
普段は私は複ファの方にて「一二三妖」とか「ありふれた異能学園戦争」とか書いておりますこちらこそよろしく((露骨な宣伝

 腰の方も気遣っていただきありがとうございます、いや本当にこの年でぎっくりが癖になっちゃって……けど小説を書くのは大好きなのでやめたりはしませんが。
 それと他の作者様との交流も大好きですので、今度からはどんどんコメントの方させて頂こうかと!
 まだまだ序盤ではありますが、これからもよろしくお願いいたします。

Re: 砂の英雄【3-1更新 2/13】 ( No.21 )
日時: 2018/03/19 23:56
名前: 塩糖

 第二話「異能と能無し」2/6


「と、いう訳だ。人体実験なんぞで能力の変質を図る者もいたが、結局解明できない力になんて手を出すべきじゃあない。成功率99パーセント、創作じゃまず失敗だわな。
――以上だ」

 頭のに響く声をそのまま口に出す、ペストの操り人形になったようだと不満たらたらの顔で佐藤はようやっと伝言を終える。
 登校途中ずっと喋っていたためか、少々喉の渇きを感じるので冷水機にでも向かいたい気分だろう。

「ほうほう、人体実験……? もう少しお聞かせ願いたいところですが、教室についてしまいましたね。続きはまた昼休みに」
「……昼ぐらいはのんびりしたいんだけど」
--なに、どうせここしばらくはのんびりできないだろうさ

 どうせ拒否したところで給食の時間になれば勝手に机を寄せてくるのだろう。いっそのこと便所飯なるものでも……と考えた時塩崎がトイレの壁をよじ登っている姿が想像できて思考を停止した。
 そして、平穏を望む佐藤に対しペストは上手くいかないだろうと零す。

「なんだそれ、どういう――ってうわっ!」
「佐藤!」
「塩崎くんも!」
「おやおクラスの皆さん、集まって何をされているので」
「んなの決まってんじゃんか、例の通り魔のことだよ!」

 教室のドアを開ければ、皆一斉に視線を向けてくる。そして目的の人物だと察すると我も我もと人が寄ってくる。どうやらみな通り魔事件について被害者の佐藤、そして「捕まえたということ」になっている塩崎に話を聞きたいようだ。
 当然、塩崎のポンコツぶりはクラスのものも何となく把握している。だから何かがあったということは分かるのだろうが、それでもまさか塩崎が捕縛に一切かかわってないなんて予想はつかないだろうなと佐藤は一人思う。

「怪我は大丈夫なのか? というかなにがあったんだ」
「ほんとに犯人を捕まえたの、塩崎くんのことだからまた関係ない人なんじゃ……」
「今のところ一番人気は憶間が雄太を囮にして結局逃げられた。大穴は雄太がやられて憶間
が覚醒して捕まえた、っていうのなんだが。一口宿題一個な」
「本人に聞いたら賭けになんないじゃん」

--……はは、中々に愉快な光景だな
(呆れてんのか?)
--いや、むしろ楽しんでるのさ。いい日常だなって
「……」

 ペストはやはり、過去に何かつらい経験をしていたのだろう。それも能力が原因で、平和だった日常を失ったのだ。だからこそ、彼は能力を遠ざけようとし、それを諦めた今でも佐藤を導こうとしている。
 何があったんだ、と聞けばきっとはぐらかすだけだというのに……何かまぶしいものを見るたびに彼はぼろが出る。心の声とは裏腹に、彼は今ひどく弱っているのかもしれない。佐藤はそう感じた。

「残念ながら、守秘義務がありまして語ることは出ません。ですが、通り魔はしっかりと捕まえましたのでご安心を!」
「その言葉が安心できないんだぞー。佐藤! お前はどうなんだ?」
--ほら、聞かれてるぞ?
「え、あぁ俺? えっと内緒ってやつじゃ……駄目か。とりあえずはっきり言えるのは犯人はもう捕まってしっかり警察に引き渡されてるよ」
「ならよかったー、うち妹居るからさー」

 また思考をカットし、クラスメイトとの会話に専念する。どうせペストは昼夜問わず一緒なのだ、今考えなくても明日、あるいは明後日……少なくともそんな直ぐに別れは来ないはずだ。
 騒ぐ教室の中で、突如として人気者になった感覚に戸惑うも、佐藤はなんとかいつも通りを務めることにしたのであった。
 ちなみに、塩崎は装うこともなく自然体であった。




 鐘の音が鳴る。4限目が終わったことを知らせ、生徒たちにつかの間の休息が訪れた瞬間だ。学生ごときいつでも暇だろう、などというやっかみは拒絶するものとする。
 みな慌ただしく給食着に着替えたり机の移動を始めたりしている中、案の定ではあったが塩崎は机を佐藤に寄せてきていた。
 どうせ授業など上の空、能力とはいかようなものなのかをずっと考えていたのだろう。

「さて今日は白身魚のフライらしいですが……才ある者は特定のものが食べられない、なんてことはあるのでしょうか?」
--個人によるな、魚と会話できる奴は刺身は拷問だ、なんて言ってたが
「ないとさ」
--だいぶはしょったな

 授業の準備時間などは他のクラスからもどんどん人が来ていたが、流石にずっと守秘義務で通したためかあまり佐藤たちに聞いてこなくなっていた。
 むしろ今こそ集まり、塩崎が能力についての質問ができないようにしてくれれば楽なのだが……空気を読んでいるのか誰も寄ってこない。
 そして塩崎は才ある者、などと言葉を濁してはいるが能力者のことであろう。空気の読み方が微妙にずれている男だ。

「……それでは一体どうすれば見分けることができるのですか?」
「え、そういえば……」

 塩崎の何の気もない質問に、佐藤も首をかしげる。確かに見た目に特徴があるわけでもない、そんな人間をどうやって能力者と特定するのだろうか。
 漫画などでは特殊な痣でもあるのだろうが、生憎佐藤はそんなものは体のどこにも見当たらない。

--簡単な質問だな
(なんだよ、もったいぶらずに早く教えろよ)
--だから、簡単なんだよ。存在しない。
(……は?)
--能力が使えるかどうか、ただそれだけだ。だから探す奴は噂とかを参考にして、能力者っぽいかなー?って奴に接触してくるって訳だ
「……手探りだと」
「なんと」

 驚愕すぎる情報に二人して目を丸くする。流石になんらかの目星は付けられる程度の何かがあると思っていたのだ。聞いて、足で探し、見て確かめるとはまるで探偵のようだが……塩崎が仮に探そうとすればきっと実働担当をいつの間にか佐藤がやることになるのだろう。
 しかし、能力が使えるかどうかなんてそれこそ本人にしかわからないことだろうに……探す人間はよく人を間違えているのではないかとさえ思う。

(ん、待てよそもそも探す人なんているのか?)
--……いるぞ、今回の事件だって探偵の協力で情報操作できなけりゃソイツがジンジャーボーイの元に来てたな
(本当かよ……というかジンジャーボーイはやめろって)
--生姜はお嫌いかい?
(ジンジャーがどうこうじゃない、普通に佐藤でいいだろ)
--砂糖づけの生姜は美味いらしいぞ、別にいいじゃないか
「……何か私に秘密で会話されているようですが、そろそろ給食を取りに行きますか。佐藤くんも急がないとおかずが切れ端のみになりますよ」

 どうでもいい会話をしながら、昼を過ぎていく。結局のところ、佐藤の呼び方はジンジャーボーイのまま。そして白身魚のフライは切れ端の寄せ集め。
 きっとそれは、どうしようもないほどに平和であった。いつの日か、そんな平和がペストにも戻れば……。

--いいや、俺は遠慮するよ。

 そんな思いを、彼はやんわりと拒否の意を示した。

*****
前話 「異能と能無し」-1 >>18
次話 「異能と能無し」-3 >>22

Re: 砂の英雄【3-2更新 3/6】 ( No.22 )
日時: 2018/03/22 23:14
名前: 塩糖

 第二話「異能と能無し」3/6


 夕暮れにはまだ早い、けれど日は落ち始めている。そんな微妙な時間帯。
 代り映えのない帰り道。事件のことを心配されたり、あるいは興味を持った者が同行しようとしたが、佐藤はそれを振り払って一人になった。
 煩わしい、そんな感情がぐるぐると渦を巻く。面白そうだからという感情がもろに出ていた人物に対しては少々きつい言い方をしてしまったかもしれない。
 佐藤からすれば、通り魔の事件は終わったこと。そんなに何度も何度も言われるのが嫌だった。
 何せ彼は生きている、ならば過去にとらわれるよりかは今を生き抜くことが重要なのだ。

「――そう、今を見据える事こそが真実につながる一歩です。わかってきましたね佐藤君」
「……お前は何もわかってないだろ。というか何がしたいんだよ……」
--寄り道加速度最高速、正門出て二秒で捕まるとは

 ペストの呆れたような声が頭に響く。
 今を生きるからと言ったって、塩崎の突発的なことに巻き込まれるのはもっとごめんなのに。佐藤はため息一つ吐いて道端にあった小石を蹴飛ばすが、小石そのまま排水溝に入ってしまった。何かに負けた様な気分になる。
 
「で、今回はなんなんだよ。また変な事件でも見つけてきたのか?」
「……ふふ、実はペストさんの仰っていた能力者に心当たりがあるので会いに行こうかと。そして君は能力についての説明するために着いて来てもらっています」
--ほう、随分と早いな?
(また塩崎の頓珍漢推理じゃないか? ちょっと前は容疑者に目星がついたなんて言って全く関係のない人物のところ連れていかれたぞ)

 今にはじまったことではない。彼が自信満々に推理を披露するときは九割外れ、一割は犯人が勝手に自供して終わるのだ。
 ならば期待するだけ無駄だというもの……と言っても彼の場合はその近くに正解が転がっている可能性もあるのでほっとくと重要な情報を見逃したりもするのだ。

--……まぁ、案外ありうるかもしれないじゃないか。どうせ今日はただ家に帰るだけなんだ、母親に友達と寄り道するとでも伝えておきな
(もう送ったよ。うちの親、やたら塩崎を信頼してるからな。コイツと一緒にいるって言えば問題ない)
--そりゃ手早いことだ
「ほら佐藤君、こっちですよ?」

 塩崎の先導で一同は進む。公道、私道入り混じるルート。時には狭き塀と塀の間すらも通り抜けようとする彼を止め、近くのコンビニに立ち寄り道を聞くなどして三十数分。二人は漸く目的地へとたどり着いたのであった。道中は猫のとの死闘もあり、決して楽な道のりではなかった。
 ……塩崎が道を間違えて覚えていなければもっと早く着いただろう。

「ほら、この建物に尋ね人はいらっしゃいます」
「……なぁ塩崎、ここって」

 塩崎が自信満々に指さしたのは灰色のビル。四階建てのそれはどう見てもまともではない外観である。
 一部のコンクリートが崩れ、鉄筋が丸出しになっている部分がある。そもそも窓がない。ツタが巻き付いているような場所もあり、手入れなんて全くされていないことが分かる。
 人が住んでいる訳がない、いるとしたら鳩や鼠くらいのものだろう。
 建物の周りの敷地は雑草が生い茂り、崩れたコンクリートブロックが転がっていたりゴミが落ちていたりと荒れ放題だ。

--廃墟だな
「廃墟だろ」

 自然と口に出した言葉と脳内の言葉が重なる。奇妙なハーモニーを奏でた後、佐藤はなんとなくだが塩崎が目をつけていた人物に予想がついた。
 こんな場所にいる塩崎の知り合いと言えば一人しかいない。学ランに意地でも袖を通さず羽織っていた男のことをふと思い浮かべる。

「……まさか、半田か?」
「おっ、流石に勘づきましたか」
--ん、半田……って
(半田一勝はんだいっしょう、番長って呼ばれてる奴だよ)

 当たりのようで、塩崎は得意げに顔を緩ませた。同時に、佐藤もなるほどと納得する。
 珍しく塩崎の推理が正しいかもしれないと驚きつつ、佐藤はペストに説明をする。
 
 半田一生。佐藤と同い年でありながらも、周辺の不良たちを配下にし頂点に立つの男の名前だ。
 ワックスによって固められた黒髪が形作るのは時代錯誤なモヒカンではない。彼の鋭い眼光を際立たせるためのオールバック。
 年上のヤンキー、それどころかヤクザとやりあって勝利したなんて噂すら流れる彼ならば、能力者と言われてもなんら不思議ではない。
 何より佐藤は、もしやと思う現象を一度目にしていた。当時はそんなこともあるか、と流したが今にして思えば能力による現象で間違いないだろう。

--……そりゃもう当たりじゃないか
「(そうだな)……っておい!」
「何しているんですか、さっさと中に入りますよ?」

 いつの間にやら、塩崎は「立ち入り禁止」の紙が下がっているロープを跨ぎ、さっさと中に入っていこうとしていた。
 せめて一言言ってから行動を開始してほしい、佐藤も少々躊躇したのちに建物の中に入っていこうとする。
 だが一瞬、体の動きが止まった。

--……ん?
(ど、どうした?)
--――いや悪い、気のせいだった

 どうやらペストが何かに気を取られたらしく、疑問の声を出した。しかしペストに体の制御権はないはずなので、たった今体が止まったのは佐藤自身によるものだろう。
 そのままキョロキョロと辺りを見渡すも誰もおらず、何だったのだろうと首を傾げる。その後に、佐藤は塩崎を追うため廃墟へと姿を消した。


「……」

――その様子を少年は、遠くから眺めていた。




 その日の月は、欠けていた気がする。

 所々が薄れてしまっている夢が流れる。そこはいったいどんな場所だったのか、その日の天気はどうだったとか、さほど重要ではない物は真っ先に削れたのか、酷くあやふやになっていた。

『じゃあ***くん、初めての任務ですがそんなに気負うことはありません。僕の能力があればきっとすぐ終わりますよ』

 彼はそう言って、緊張する俺の肩を叩いた。それに対して俺は……答えようにも口が動かない。どうやら明晰夢というタイプではないようだ。
 いつの間にか腕を上げて、問題ないとでも言いたげに肩を回した。

『これは頼もしい。では、作戦を確認しましょうか。目的は対象についてきてもらうこと、その際抵抗があれば……少々手荒いことになります。まぁ、致し方ないことです』
『あぁ! けど大丈夫だよ、アイツも説明すれば分かってくれ……る』

 ようやく口が動いた、暴力的なことを容認するこの口。それは、暴力が振るわれないことを信じているから……そんな感情が体に走った後に言葉が詰まる。
 何故、何故暴力的なことが起きないとこの体は確信していたのか、それが不思議で不思議でしょうがない。そもそも自分は対象人物とは知り合いではないはずだ、それだというのに何で……、

『――**トくん、行きましょう』
『え、あぁ……』

 思考が止められる、同時に急かされる。
 そうだ、行かなければならない。遂行しなくてはならない。
 その為に自分はここにいるのだ、その為に彼はこうして導いてくれるのだ。報いなければならない。
 これは贖罪だ、命を奪ったものは他の命のために動かなくてはならない。待て、そもそもこの行動がどうして他の命の為になるんだっけ。

『じゃ、じゃあ先に俺が踏み込んで説得。でいいんだよな ドッペル ?』
『えぇ、期待してますよ ペストくん 』

 コードネームを呼び合い、二人はゆっくりと闇の中溶け込んでいく。
 どうして、人を説得するのにこんな暗い時間に行く必要があるんだ。そう思ってもやはり言葉にはできなかった。



*****
前話 「異能と能無し」-2 >>21
次話 「異能と能無し」-4 >>23

Re: 砂の英雄【3-3更新 3/19】 ( No.23 )
日時: 2018/04/18 21:25
名前: 塩糖

第二話「異能と能無し」4/6


 耳鳴りが聞こえる。
 頭痛がする。
 背中に、硬いものが当たっている感触がする。

「──とう君、佐藤君。 生きてますか?」
「……ぁれ、おれ何して」
「目ぇ覚めたか、随分と早えな」

 目を開けても、未だくらくらし眩暈を起こす視界。佐藤はいつの間にか自分がコンクリートに寝ていたことに気が付き、ゆっくりと上半身を起こす。
 天井はむき出しのコンクリート。壁の塗装は既にはがれており、遠くの方ではこぼれた落ちたコンクリートの破片が見える。
 同時に、「何かを見ていた気がする」という記憶が薄れていくのを感じ、それを必死で止めた。
 確証なんてなかったがきっと、失ってはいけないものだ。例え一片すらも逃してなるものか、そんな気持ちがあった。
 そうしながらも、なぜ自分が寝ていたのかと考える。確か、半田に会いに行こうとして……まずは彼の舎弟らに絡まれたのだ。
 一階部分と二階部分をつなぐ、階段を昇ろうとして捕まったはずだ。

『おい、てめえらいったい何の用だ!?』
『まさかとは思うがカチコミって訳じゃねえだろうな……!』
『おぉ、相変わらず半田君の周りは時代が一昔違う気がしますよ。見事に絶滅危惧種なヤンキーです』
『なんで塩崎は挑発してるんだよ……』

 マスクに金属バット、金髪に染めた髪に学ランと赤Tシャツ。模範解答が過ぎる不良らに対して……塩崎が無駄に気に障るようなことを言っていたことをよく覚えている。
 とりあえず半田と一度会ったことがあって、今回は少し話したいことがあるのでやってきたということを伝える。
 しかし、彼らはそれを良しとしない。そもそも一般生徒の見た目である佐藤と塩崎だが、塩崎などは「中学生探偵」なんて肩書が有名になっているものだから警戒されたのだろう。

『そんなにあの人に会いに行きたきゃまず俺達を倒して見せろや!』
『そうだそうだ!』
『おっと、私は荒事は苦手なので……佐藤君、助手としての活躍を期待しますよ?』
『はぁ!? ま、待てお前らも露骨に狙いをこっちにするんじゃ……』

 そうだ、二人をけしかけられ……そこから佐藤の記憶はやけに曖昧になっている。恐らくは成す術もなくやられてしまったのだろうか。
 いや、それも少し違う気がした。頭の中でペストがちょうどいい機会だとか言いながら、指示を佐藤に飛ばしてきた覚えがある。

--武器を持つ相手の時は大抵が腕に意識が集中してる。一撃貰う覚悟で胴体に一撃入れな、その後は武器を持つ腕を掴んで連打だ
--最高の重さ込めた一撃よりも、そこそこの重さの連打がいい
--無手の距離を意識しな、常に動き続けて距離の利を保つんだ
--焦りが一番の敵だ、どんな奴相手でも平常心保てる奴が勝つ
--……ああ違う、違うな悪い。武器を持つ手を掴んだからその手を攻撃して武器奪って投げちまえ。態々制圧する必要はなかったな

 何故か最後は訂正が入ったが、それなりに参考にはなった。
 ……実を言えば全然ペストの理想とする動きを再現することは出来なかったが、それでもなんとか二人の攻撃を避けきり武器を奪取することに成功した。
 相手が本気だとは思えなかったが、そこまでやれば上出来だろう。

『て、てめぇっ!』

 では何故佐藤は気を失っていたのだろうか。やはりそこが思い出せ……た。
 確か、バットを取られた焦りで不良二人がとうとう本気になりかけたところで……建物が揺れたのだ。

『――何やってんだおめぇら!!』

 咆哮。
 空気がざわめき、一瞬にして体が止まる感覚があったことをよく覚えている。佐藤だけではない、対峙していた不良たちすらもだ。塩崎は視界内に居なかったのでわからなかったが、恐らくは固まっていただろう。
 数秒して硬直がほどけた後そちらを向くとそこには、佐藤たちが探していた人物がいた。
 ガタイが違う。身長は佐藤と同じくらいのはずなのに、鍛え引き締まった体から湧き出すオーラが彼を一回りも二回りも大きく見せている。
 両肩に掛かり揺れるオーバーサイズの学ランと、その下には無地の白シャツ。
 事の全て見通す聡明さとは違う。目の前の現実すらも竦ませて仕舞う様な粗暴さ、そして配下たちを抑え決して反逆などさせぬようなカリスマ性をも感じさせる目。

『おぉ、あちらから来てくれましたね。お久しぶりでしょうか──半田君』
『……あぁ、てめぇか似非探偵野郎。そっちは佐藤……一体どういう用だ?』

 何度も会っているというのに中々慣れぬ彼の圧。
 それに圧されていた佐藤に質問が飛んできた。とにかくさっさと舎弟たちの警戒を解いてほしいので、彼は説明をしようとする。
 その時だった。

『相変わらずすごい迫力だな半田……え、えっと今日は――』
--上だっ!!
『えっ』

 偶々老朽化していた天井の一部が半田の咆哮の余波で崩れ、佐藤の頭上に降ってきたのは。
 ペストの言葉も虚しく破片は頭に当たり、佐藤の意識をしばらく奪う結果となった。

「あー、ようやく思い出せた……」
--……そうだな、流石に多重人格で更に記憶喪失なんて滅茶苦茶なことにならなくてよかったよ

 半田がそのあと運んでくれたらしく、どうやらここは廃墟の中でも三階部分。一番広く損傷も少ないフロアだそうで、舎弟たちも今はまた一階部分で門番を再開しているそうだ。
 そんなことを聞かされ意識が完全に覚醒した頃に、ペストの声が響いた。確かにややこしすぎて扱いきれないだろう。
 まだ足元がふらふらとするが、それでも佐藤は立ち上がれる程度には回復した。それを見て、半田は感心した様子。

「相変わらず頑丈だな、普通なら病院送りなもんだが……これが似非探偵の言う奴か?」
「えぇ、能力保持者は身体能力の上昇、回復能力が一般人より高いそうで。
……あぁ佐藤君、君が寝ている間に事情はある程度説明しましたから」
「能力ねぇ……俺にはピンとこないがな」

 近くの積み重なったコンクリートブロックに座り込み、半田は怪訝な顔をする。直ぐに信じてもらうのは難しいのだろうか。
 だが佐藤はとりあえず彼が能力者だと思った理由を説明することにした。塩崎の様子を見るに、そこは語っていないようだったので。

「いや、半田はむしろ能力をよく使ってると思うだけど……ほら、さっきもやったやつ」
「?」
「だから、うおぉぉー! って感じの、声張り上げる奴! あれ最初はビビッて体固まってる、とかそういうもんだと思って納得してたけど……やっぱりなんか違うっていうか」

 建物さえも震わせた咆哮、それを受けた者たちは竦む……というよりも文字通り「止まる」と言った方が現象としては正しかった。
 特に、佐藤の記憶で印象深いのは犯人確保の際だ。まだ中学生になったばかりの頃、既に番長として君臨していた彼が巻き込まれた事件。
 そこに颯爽と塩崎が現れ、数々のかき乱しと佐藤のフォローにより犯人指名の場までもっていくことが出来た。

「私の推理に恐れをなし、指名される前に逃げ出そうとした犯人。彼を君の大声ですっかり動けなくしたことをしっかりと覚えています。当時の人たちは腰を抜かしたとか言っていましたが、私にはそれがどうしても疑問でした」
「――あれ確か、お前まったくの別人を指名しようとしてたよな……?」
「ブラフです。しかし止める時間は先ほどの事を考えるにバラつきがあります。そこから推察するに半田君、君は……相手を声で威圧し、それに恐れる程に対象の動きを止める能力があるのです!」

 人差し指を突き出し、犯人はお前だとでも言いたげなポーズをとって見せた塩崎。相変わらず何でここまで自信満々にポーズを取れるんだと佐藤は眉を顰める。
 
--……多分そうだろうな、塩崎の推理は今回間違っていないだろう
(それに関しては賛成だけどさ)
「……ンなこと言われてもな、そもそも能力なんて本当にあるのか? 佐藤が丈夫なのは認めるが」
「ならばっ」
 
 そう言って、塩崎は佐藤のほうに視線を誘導し彼の行動を待つ。
 つまりは、そういうことだろう。能力じつぶつを見せろということなのだろう。まったく、人の気も知らないでと佐藤の口からため息が出た。

--安心しなって、仮面を取り出してくれたら制御するよ。イオーガニクス怪物フリーカーの力をご所望なんだろ?
(……そういやペストのじゃなくて、俺自身の能力はどんなんなんだ?)
--……あー悪い、俺が心住み着いてるせいで砂の怪物に統合されてる。相性が良すぎるってのも考え物だな。ダブルアビリティ、なんてのは不可能だ
「(まぁ、別に欲しかったわけでもないしそれはいいや)じゃあ、いくぞ」

 驚愕すぎる事実を聞かされたが、別に無ければそれでいい。そんな風に結論づけて、彼は持ってきていた巾着袋からペストマスクを取り出す。
 その仮面を半田は奇妙なものを見る目で見るが、佐藤自身は一応格好いい代物だと思っているので気にしないフリをする。

 仮面でゆっくりと顔を隠せば、レンズ越しの薄く青み掛かった世界が見える。
 それと同時に、心臓の付近から血管を通るように何かが廻る感覚がする。
 次第にそれは体の内側から外側へと噴き出して……

「──半田さん、襲撃です!!」

 それは下から上がってきた舎弟の言葉で止まった。
 後ろから大声を出された事で慌て、咄嗟に仮面も外してしまう。そうして舎弟の方を見れば、息を切らす彼が口元から血を流していることが見て取れた。
 佐藤が対峙した時はそんな傷は負わせていないので、その後のものだということが分かる。
 まさか不良たちの抗争か、突然の事に佐藤が慌てていると半田がその肩を抑え一歩前に出た。
 そのまま膝に手をつき呼吸をしている舎弟に近づいていく。

「どこのだ」
「分かりません、けど一人でやって来て……急に増えて」
「あぁ? 増援が来たってことか?」
「違うんです……! とにかく増えて」

「──こういうことですよ、バンチョウさん」

 聞き覚えがある声がした。
 舎弟がやってきた階段から、一人の男が昇ってくる。その所作一つ一つがどうしてか、欠けた記憶に重なる。
 黒く短く切りそろえられた清潔感のある髪。整のったルックスは塩崎の自然なものとも違う、何故か不自然さと完璧の両方を感じるおかしなもの。

 だが奇妙なことはそれだけでは終わらない。
 少年は一人ではない。「少年」が列を成し、ぞろぞろと階段から一人、また一人と上がってくるではないか。
 十の少年のうち、たった一人が声を出す。顔に喜色を浮かべているが、やはり不気味さがぬぐえない。
 
「……初めまして皆さん、僕の名前は」
「──ドッペル?」

 そんな不気味な彼の名を、佐藤は口にした。



*****
前話 「異能と能無し」-3 >>22
次話 「異能と能無し」-5 >>24

Re: 【オリキャラ募集中】砂の英雄【3-4更新】 ( No.24 )
日時: 2018/05/20 00:53
名前: 塩糖
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=1040

第二話「異能と能無し」5/6



 面識があったわけではない、けれど口が自然に動いた。まるで、旧知の仲の人物を雑踏の中で見つけたような声色で。
 その異様さに気が付いたのは、周りの人間の視線がすべて佐藤に集中した後だった。
 佐藤側の二人は驚き……奇妙にも一番その立場であるはずの少年は少し首をかしげるばかりであった。

「……もしかして、以前何処かで会いしましたか? 申し訳ないですけど記憶に……」
「――いや? うん、会ったこと……はない、はずだ」

 ドッペルという呼び名を、彼は否定しない。つまりは正解だと述べていた。
 それに対し、一番混乱しているのは佐藤だった。
 何度も何度も脳のタンスを引いたり戻したりした後に、漸く先ほど見た記憶と何か関係があったのだろうと気がつけた。
 同時に、崩れ落ちかけた夢がふとよみがえりその色を取り戻す。

(そうだ、ペストの記憶……こいつは確かにそこにいた!)

 だがしかし、どうして彼を見るとこんなにも懐かしさを感じるのか……哀しく、怒りが沸いてくるのかがわからない。肺よりも奥に存在する何かが、キュウと締まるのを感じる。
 そもそも、記憶の中ではペストの先輩のように振舞っていた彼が何故ここに。
 纏まらぬ思考に添えるよう、彼の声が流れた。

--なんで、今……
「……まぁいいか。さて」

 彼の声に焦りがあった。自嘲するものでも、感動に打ち震える物でもなく、困惑することで生まれた独り言のような物。
 その間にも、佐藤への興味をなくした少年は半田の方に顔を向ける。
 
「パンチョ―さん、今日は君の保護のためにやってきました」
「――保護、だと?」

 その一言が、半田の怒りを頂点へと導いた。
 元より、自分の舎弟が怪我を負ったということで悪感情はあったが、その状況を作り出した人物が何も気にせず言ってのけたのだから、それは当然の事だった。
 これからどんな御託を並べようが関係ない、叩きのめすのみ。半田はその考えを持って全身に力を巡らし、コンクリートの床を蹴った。
 一直線に少年の元へと走り、大きく右腕を振り上げる。

「――虚構の騎士たちよ」

 その一言で、少年――ドッペルの周りにいた兵士たち九人が動き出す。
 一糸乱れず、ただ半田を止めるべく、顔色一つ変えずに動く様は見る者に恐怖を与えた。 
 だが、それがどうした。
 番長という位は伊達ではない。幾多もの戦いをくりぬけた猛者の証。直ぐに兵士達の同一の動きに穴があることに気が付き、攻撃をいなしてみせる。
 徐々に反撃を狙える様になってきた彼の動きを見て、塩崎は安堵の声を出した。
 
「一時はどうなるかと思いましたが、あれなら大丈夫そうですかね」
--……だと思うか?
「ペスト? 何が言いたいんだよ」
--すぐ分かるさ、ほら

 その声とほぼ同時に、彼の体重を乗せた拳が一人の兵士の顔へと通り……撃ち抜いた。
 精巧な人間の顔に大穴が開く。
 ガラスが割れるような音と共に、その兵士は体ごと砕け散り消え失せる。
 一瞬それに半田含め三人は驚くが、これで数は減ったという事実は彼らに更に有利になったと思い込ませた。

「お、いくら動きが雑とはいえ一つ倒しましたか。
――じゃあ、もっと増やしましょう」 

 それに対しドッペルは少し表情を変えたが、ただそれだけだった。
 造作もなく、彼の周りには十一の兵士が並び立つ。これで兵士の数は十九、対してこちらは怪我人含めても四。圧倒的な差である。
 流石に十九は相手できない、と半田は慌てて飛び退き距離を取った。

「なんだと……!?」
--虚構フーリィキング、自分と同じ身体能力の兵士たちを作り出し使役する能力。最大使役数は二十、倒しても倒してノ―タイムで補充される……きりがない
(はぁ!? そんなのどうやって倒すんだ!?)
「あれ、もうおしまいですか。大人しく着いてきてくれる気になった、ならうれしいんですけど……バンチョーさん」

 彼に尋ねるその声色は最初の時とまったく変わっていない。それが能天気さではなく実力差からくる余裕だというのは誰にだって理解出来た。
 問いに対し、半田は何も返さない。

「……」

 彼は少しもドッペル達から視線を逸らさずじりじりと下がり続け、途中で舎弟を拾いながらも佐藤たちの元まで戻ってくる。
 乾いた空気が流れる廃墟の中に、一時の静粛が訪れたが長くは続かない。
 半田が動きが終わると、じっと待っていたドッペルは語り始めた。

「では、話を聞いてくれる準備をしてくれたということにして……僕たちについてお話させていただきますね」
「僕たち……その悪趣味な分身たちのことか?」
「いいえ、僕の属する組織――プロトについです」
(なんだ、この気持ち……?)
--……

 佐藤の心の中のざわめきが更に大きくなる。
 同時に、未だ彼の手に握りしめられていた仮面が少し揺れた気がした。
 プロト、という単語が何度も何度も頭の中で反響する。
 明らかにおかしい。

「Peacefully,Reassure,Offer,Tissue……平和、安心を提供できる組織。それがプロト、主に救助が必要な人の捜索、保護を目標にしています」
--三分で思いついたような単語の羅列だな
「平和、安心? うちの奴らやっといて随分と馬鹿言うじゃねぇか」
「そうですね。それに僕もそんな名前は聞いたことがありませんが……」

 塩崎は自分の知識を総動員し探るが、そんな活動をしている団体など聞いたこともない。
 いや、ドッペルの言葉だけを並べればいるかもしれないが……少なくともこうして殴り込みをかけてくる時点で矛盾を起こしている。

「あぁ、表に出てないのは仕方がないんです。なにせ救助、支援が必要な人とはすなわち……能力者! 社会でその存在すら認知されていない人たちの事を指していますから」

 そう言って、ドッペルは半田に手を差し伸べた。ここまでの事をしておいて、彼がその手を取ると思っているのだろうか。
 それとも、戦力の差を確認し投降しろという意思の表れなのか。
 数瞬ばかり、半田の脳内で議論がなされ、直ぐに結論が出された。
 どちらにせよ、半田には確かめるべきことがあった。ちらりと佐藤たちの方を見た後、神妙な顔をしてドッペルに向き直る。

「こちらには既に多くの能力者が在籍しています。みんないい人たちばかりで、寂しい思いなんてさせませんよ」
「……一つ聞かせろ」
「なんです? 」
「お前に今、大人しく着いて行けば……こいつらのことは見逃してくれんのか」

 佐藤たちは彼の発言に瞠目した。
 事実上の敗北宣言、勝ち続けてきた男が潔くそれをしたこと。そして自分たちの身を守るための彼の優しさ。
 荒くれ者どもを率いトップに立った男だからこそ直ぐに出せた言葉であった。

「――駄目に、駄目に決まってるじゃないですか?」

 しかしそれは二重、いや何重にも自己の分身を投影し平気な顔をしている彼に通用するわけもない。
 精々、彼を少し不機嫌しただけだ。

「まだ、僕たちは外に出るわけにはいかないんです」

 矢継ぎ早に彼は言葉を吐く。

「そのためには、目撃者は居てはいけません。能力者以外は皆平等に、口無しになっていただきます」

 そこに慈悲はないとドッペルは軽く右手を挙げ、ゆっくりと動き出す兵士たちの後ろにつく。
 けどどうしてか、半田達に諭す訳でもなく、どこか自分に対し言い聞かせているようにも佐藤には思えた。

「下で伸びている者も、何の用かは知りませんが不運にもここに居合わせてしまった君たちも

――皆、死んでもらいます」

 舎弟はその生の終わりを予期し、震える。
 探偵はいかにこの窮地を脱するか、視界に入る物全てに対し思考を巡らす。
 番長は一糸報う、或いは生存者を増やす方法を探す。

 ……凡人は、ドッペルの声に対し走る混沌とした感情にどう向き合うべきか、分からないでいた。
 恐らくはペストが語らない過去の何かが関係しているのだろうが、何があればこんな気持ちを抱くのかが全く理解できない。

 憎い、愚かしい、懐かしい、憐れ、許せない、そして──。

(……!)

 時間にして数秒、思考にて一歩、彼はその道を歩くのを止めて……俯瞰してみることにした。
 理解できない、どうしようもない。きっと今考えても、碌な考えは出ない。諦めに似たようなものだが、それが佐藤雄太にとっての最善策だった。

 多くの感情が入り混じる中、一つだけ自分の感情だと分かるものを見つけた。
 そして、ペストの感情の中で見過ごせない物もあった。
 ならどうするべきか、決まった。
 態と遅く瞬きをして、思考を切り替えると彼に話しかけた。

(ペスト)
--……俺の感情が伝わってるのは悪い。けど俺の事は語れ――
(そっちも気になったけどさ……さっきの続き、できるか)

 後戻りが出来ないように、彼はペストの返事を待たず仮面をつけた。
 視界はまた青く染まり、どこか別の世界に飛び移ったような高揚感を覚える。
 顔が見えなくなることが、いつもセーブしがちな彼を少しだが変えたのだ。

「……えっと君、どうしたんですか急にお面なんかつけて」
--……確かに強くはなるが、アンタの体を維持したままじゃ相手を砂に飲み込むわけにはいかないぞ。この前はアンタの意思を表に出す必要はなかったから取り込んだんであって、それは駄目なんだろ?
(ああやっぱりそうなのか)
--そうだ、悪いがここは……半田に囮になってもらって離脱。直ぐに家族と一緒に警察所でもどこでも事を隠し切れない場所に逃げた方がいい
(……全員で逃げるってのは?)

 深呼吸を幾度と繰り返す。新鮮でも何でもない、埃が多い空気だが……マスク越しだと味わい深いものだった。
 ペストの声に必死さが混ざっていた。しかしやはり……佐藤の思考は揺るがない。ゆっくりゆっくり、自分の選択の愚かしさを理解しつつも突き進む。

--無理だな、少なくともそこと下の階にいる不良たちはまともに走れない。半田も部下を置いてくとは思えない
(じゃあ、逃げない。それかアイツらが追ってこれない程度にダメージを与えてからだ)
--だから無理だ。 いいかジンジャーボーイ、それは勇気じゃあない……蛮勇って言うんだ
「佐藤、ドッペルとかいう野郎の狙いはこっちだ。お前が無理をする必要はない」

 半田は佐藤が能力者だということは聞かされているし、たった今能力者の恐ろしさを体感したばかり。けれど佐藤一人が参戦した所で勝てる戦いではない、そう判断していた。
 その力は生きるために使え、暗に彼は告げる。
 佐藤と彼の仲は親友、友達とすら言えないだろう。精々が塩崎に困らせられた者同士、命を懸けて救う関係かと言われれば、多くの人間には疑問符が浮かぶ。
 
 そんなことは佐藤は分かっている。
 でも見捨てれば、きっと後悔するだろう。そう理解もしていた。 
 見過ごせなかったペストの感情が、それを後押しする。

 ドッペルにはこんなことを、

(……させたくない、そうだろ?)
--っ、だがドッペルには勝てない。取り返しが付く範囲の中でイオーガニクス怪物フリーカーを使いこなしても、いずれは数の差で埋め尽くされる
「佐藤くん、勝算は……いえ、止めておきます。今はただ、非合理と合理の天秤に打ち勝った君を称賛しておきます」

 きっとここで残って死ねば、誰かが佐藤の事を愚かな少年と言い捨てる。
 ではここで逃げて、罪悪感で一生自分で自分を呪い続けること、どちらがいいだろうか。

 簡単なことだ、ここで残って、生き残ればいい。
 散々ペストが不可能だと言うことを、佐藤は目標にした。
 以前なら彼はそんなことを言い出しただろうか、と言えばきっとしない。
 何かをずっと後悔しているペストが居るから、そうはならないように反発する佐藤の負けず嫌いが作用する。
 冷酷に現実を取る彼の言葉とは裏腹に、何かに期待する感情がその綺麗事を支える。
 言葉に、状況に酔うように彼は言ってのけた。

(砂の怪物って名前が駄目なんだろ。もっと格好いい、逆境だって跳ね返すような名前なら問題ない)
--──はっ、わかったわかった、俺の負けだ。

 根負けしたよ、と言うペストの声は少しだけ、肩の力が抜けたモノになった気がした。

--……万に一つ勝ち目がないなら億に一つの可能性を信じるよ 

 ようやく、心臓の付近から力が湧き出てくる。きっとそれはさっきよりも強力に、急速に。
 砂が体のいたる所から吹き出し体全体、或いは体内を覆っていき、余分に出てしまうものはその場に零れ落ちる。
 そうして数秒と掛からず、凡人の姿は怪物としての異形へ変容する。
 白く足まで伸びた髪、相も変わらず目玉や口、喉も崩れている。仮面でこそ隠してはいるが、それ以外の腕や足も生成されては零れ落ちる砂が不気味さを醸し出す。


「っ、君は……なんなんですか一体!」

 ここまで来て、漸くドッペルは彼が能力者だと気が付いた。
 一瞬弱気になった心を押し殺し、誰かの言葉で奮い立たせる。
 そうして彼は叫んだ。よくわからない寸劇紛いを見せられた。どんな能力者でも、虚構の王の力があれば問題がない。早く仕事をさせろ。そんな気持ちが彼を支配する。

 質問に対しての答えは、随分と昔から決まっていた気がした。

「――縺吶↑縺ョ縲√∴縺?f縺?□≪砂の、英雄だ≫」


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 現在、リク板にて砂の英雄オリキャラ募集をさせていただいております。
 もし投稿したいなーって方おりましたら是非。URLより飛べます。


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