コメディ・ライト小説(新)
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- 【合作】冥使と虚像のプルラリズム
- 日時: 2017/10/08 14:30
- 名前: 流沢藍蓮&わかめ (ID: GfAStKpr)
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
夜を裂いて、煌めく大鎌。それを操るは黒衣の少年。
昼を渡って、移ろう幻影。それを操るは虚像の少女。
境遇の全く違う二人は、ある日、二つの国のはざまで出会った。
行く先を決めて向かった先で、巡り合った様々な仲間たち。
彼らの紡ぐ多元論は、一体何処へ行き着くのか――。
。○
合作です。はじめの挨拶は私、普段はダーク・ファンタジー板に生息している流沢藍蓮が担当致します。
この作品は、リア友同士がノートに書いた作品を改稿の上掲載させていただくものです。原本はノートにありますが、ノートに書いてあった話が尽きますと必然、更新ペースが遅くなりますので……更新ペースは不定期となります。なくなったストックの補充には時間がかかりますのでご了承願います。
この作品、内容からいえば本来なら複雑ファジーに書いてあったっておかしくはないのですが……。この作品は、専門用語が多数登場します。その都合上、ルビ機能搭載のコメディ・ライトに書くしかなかった実情があります。まあ、可能な限り、明るくなるようにはしますがね……。
世界は、魔法と科学の二つが両立する世界!
さあさあ始まる多元論。不思議な世界をご覧あれ!
※ 「冥使と虚像のプルラリズム」。「冥使」は「みょうし」と呼びます。
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
Story
プロローグ >>1-2
第一章 央都ルートリア >>3-
- 冥使と虚像のプルラリズム 3 邂逅はごちゃごちゃ王都で ( No.3 )
- 日時: 2017/10/01 10:32
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
今回は藍蓮回。
次の次のわかめちゃん回からようやく、コメディ要素が見え始めます。
そもそもこの話は複ファで書く予定の話だったのですが、複ファにはルビ機能ないんですもん。内容が暗いから板違いとか言わないでください。次回から専門用語が出始めるので。
主要人物が出そろいます。
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
3 邂逅はごちゃごちゃ央都で
。○
国境から、央都ルートリアまで二週間。それだけあれば、アルヴェルトもアリウムも馴染んでくる。アルヴェルトの警戒心は次第に解かれていき、彼はアリウムに心を許すようになっていた。
そういった中でたどり着いた央都は、活気に満ちた明るい町だった。
「ここが他の国……」
石造りの町並み、大小様々な家々。めちゃめちゃに入り組んだ道に、平気で辺りを歩きまわる野良犬。朝っぱらから騒がしい酒場、酔っ払って妻に怒鳴られる男たち。元気な売り子たちの声。
どれもアルティリッツにはないもので、高潔過ぎたあの国にはあり得ない粗野な喧騒と雑な空気が、都中に漂っていた。
アルヴェルトは首をかしげてアリウムを見た。
「……アリウム、ここ、本当に都なのか?」
ええ、とアリウムはうなずいた。
「そうですよ。鎖国のひどいアルティリッツの都には行ったことがありませんけど、央都と言っても、ここは割と雑でテキトーな方ですね。フエルヴェンは人種のサラダボウルとはよく言ったものですが、ならば央都ルートリアは色々なものをミキサーにかけてぶちまけた、ミックスジュースみたいなものです」
「……たとえがすごいな」
「そうですか? 私、時々毒舌って言われるんですよ」
「…………」
この町の奥には、城のような何かがでーんとそびえ立っている。
城ではない、しかし外見は城である。様々な金属部品やコード、パイプなどが滅多やたらにくっついたそれを、城と呼べればだが……。とりあえず、便宜上「城」と呼ぶしかなさそうだ。一応城なのだろう。城のつもりなのだろう。多分……。
城は確かにへんてこだが。そこに近づいて行くと雑多な雰囲気は変化を見せる。
大きさも材質もてんでバラバラだった石造りの建物は次第に姿を消し、金属あるいは整った美しい石で作られた建物が、整然と並ぶようになる。どうやら最初に見たあそこは、下町と呼ばれる部類のものらしい。
そんな様を、物珍しげに見物していた彼らは。
その日、運命に出会った。
この雰囲気の変わった町を、下町と見比べてみようと振り返ったアルヴェルト。その目に映ったのは、病気なのかうずくまり、苦しそうにしている少年。
そこへ。
――イヒヒヒヒーン!
馬車が不意に通りかかった。このままでは少年は轢かれてしまう!
……考える間もなく、身体が動いた。
「アルヴェルト!?」
アリウムの、驚いたような声。
治りきらぬ肩の傷の痛みも忘れて飛び出したアルヴェルトは、少年の細い身体を突き飛ばし、間一髪のところで自分も横に転がった。
馬車が無事に通り過ぎ、「危なかった」と安堵したような人の声。
突き飛ばされた少年は動かない。苦しそうな息が口から洩れている。アルヴェルトは飛び起きると、少年のもとに駆け寄った。
間近で見た少年は自分と年が近そうだ。おそらく15、6才であろう。海のような深い青の髪に、空のような透き通った碧の瞳。美しい容姿はしかし、病によってやつれているようにも見られた。
アルヴェルトは声をかける。
「大丈夫か、怪我はないか?」
「ごめんね……ありが……とう……」
アルヴェルトは少年に手を差し出す。少年はその手をつかみ、立ち上がろうともがく。
しかしその膝はガクガク笑うばかりで、彼の体重を支えきれていない。
仕方ない、背負って家に送ってやるしかないかとアルヴェルトが思ったとき、少年が呟いた。
「荷物……弾き飛ばされちゃった……」
はっとしてそっちの方を見遣ると、そこには青いリュックサックが飛ばされていた。
アルヴェルトはうなずいた。
「取ってくる」
言って動こうとした彼の背に、声がかかる。
「僕はルーリオ……。研究者のルーリオ……。君は……?」
研究者、という名乗りに驚きつつも、一言返す。
「アルヴェルトだ」
。○
「あなたも物好きですねぇ。放っておいたってよかったのに。面倒が増えちゃいました」
「なら、そう言うアリウムは何故、オレを拾った?」
「……放っておけなかったからです」
「人のこと言えないな」
「…………」
アルヴェルト飛ばされたリュックサックを拾い上げる。やや重い。5キラムくらいはあるのではと思う。
それを背負って、少年――ルーリオのもとへ戻る。
その頃には少し体調が回復したようで、顔色も若干良くなっていた。
彼は座り込んだまま、頭を下げる。
「見知らぬ人間なのにこんなによくしてくれて……どうもありがとう。ところでその方は?」
彼が見やったのはアリウムだ。アリウムは軽くお辞儀をした。
「アリウムです。そこのアルヴェルトの連れです」
「アリウム……確か、花火みたいな見た目の、綺麗な花の名前だっけ」
「よくご存じで」
ルーリオは穏やかに微笑んだ。
と。
「あーっ!! ルゥ、見ーっけたっ!」
……騒がしい、女の子の声がして。
「はい、どぉんっ!」
……小さな爆発音とともに、ピンクの髪をツインテールにした少女が飛び出してきた。
ルーリオは彼女と顔見知りらしく、それを見て呆れたように小さく溜め息をついた。
「君さぁ、町中で何でもかんでも爆発させるのやめようよ……。……紹介するね。こっち、研究者仲間のエリーシャ。エリー、こっち、命の恩人のアルヴェルトとアリウム」
ルーリオのした紹介を聞いて、エリーシャと呼ばれた少女は目をまん丸にする。
「命の恩人!? 何したのっ!?」
「馬車に轢かれそうになったところを助けてくれたんだよ」
「……ルゥ」
エリーシャは、怒ったようにルーリオを見ていた。
「身体弱いんだから、一人で出かけないでっていつも言ってるじゃん!」
「君に頼るばかりじゃ悪いよ」
「でもさぁ……! あたいは」
「――お取り込み中のところ悪いが」
ヒートアップする前に、二人の会話にアルヴェルトが口を挟む。
「オレたちは今現在、居場所がなくてな。折角央都に来たことだし、研究者にでもなろうかと思った。で、あんたたちは研究者だと言うが、どうしたら研究者登録を受けられるか、知っているか?」
ちなみにこれについてはアリウムもよく知らないらしい。彼女の専門はあくまでも地理で、そういった方面には疎いのだ。
その質問に、ルーリオが答える。
「それならあの城もどきの近くまで行けば、『研究局』と書かれた大きな建物が見えるようになるからすぐに判るよ」
アルヴェルトは礼を言う。
「有り難う。さっきのは……病気か?」
「そうさ。……僕は昔から身体が弱くてね。人に頼ってばかりの自分が不甲斐なくて……。でも、ちょっと無理した途端にこれだから、さ……。正直、自分のことが嫌いになるよ」
その横顔には申し訳なさと痛みが、よぎっていた。
だから、と彼は言う。
「折角だから恩返しさせてくれるかい? 研究者の口添えがあれば、手続きはスムーズに行くんだ」
その申し出は、アルヴェルトにとって渡りに船だった。彼が「よろしく頼む」と言うと、
「これからよろしく、新しい研究者さん」
「わぁい! 仲間が増えたぁ!」
穏やかな青の瞳と明るい赤の瞳が、歓迎の意を込めて見つめ返してきた。
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
長すぎるので一旦中断。次回も藍蓮回です、あしからず。
次で本編に大きな影響を与える(かもしれない)キャラが登場します。
……専門用語が出始めるのは次からです。ただし明日はわかめちゃんにノート返す可能性があるので、またまた更新が遅れるかもしれないですがねぇ。
とりあえず、言っておきますか。
次の話に、請うご期待!
- 冥使と虚像のプルラリズム 4 諧謔の白 ( No.4 )
- 日時: 2017/10/02 23:48
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
4 諧謔の白
。○
ルーリオの体調不良は一時的なものらしく、しばらくすれば歩けるくらいにまでは回復した。彼の背負っていたリュックサックは「心配だもん」とお姉さん気取りのエリーシャが背負うことになった。その中には、研究用だろうか、様々な金属が入っていた。
それを見て、
「もうっ! 出かけるんならあたいも呼んでよ! ルゥにこんな重いの持てないでしょ!」
エリーシャが文句を言えば、困ったようにルーリオが答える。
「寝てたから、起こすのは忍びなくてね……」
「それで倒れたんなら本末転倒だよっ!」
「…………」
閑話休題。
城(もどき)の方に向かって歩いて行くと、成程、「研究局」と書いてある大きな建物が見えた。そこが目的地なのだろう。
「とーうちゃーく!」
エリーシャが、入口の前で元気に笑う。
「こういうフクザツなのはあたいよりもルゥの方が上手いからさ、しっかり恩返ししてきてね!」
アルヴェルトが、疑問を感じて首をかしげる。
「……あんたは、待つのか?」
エリーシャは元気にうなずいた。
「ルゥはここの局長と知り合いみたい! で、あたいは爆弾魔な問題児。あたいがいない方がうまくいくよー」
……といった事情があるらしい。
「こっちだよ」ルーリオの案内で、アルヴェルトとアリウムは入り口をくぐる。
「失礼します」
「ようこそ、研究局へ。……って、ルゥ君じゃないか。今日は一体何の用かな? 爆弾魔は?」
入るなり、明るい声が皆を迎えた。前に目をやれば。
目の前に大きなカウンターがある。そこに淡い金髪と悪戯っぽい青の瞳を持つ、水色の眼鏡をかけた白衣の青年が立っていた。その青い瞳は少年のようにきらきらと光って、いまだなお衰えぬ好奇心を感じさせた。しかしその青の奥には、暗い深淵も宿している。明るいだけの人間ではないらしい。
ルーリオは、青年の発した言葉に応えた。
「こんにちは、ヴァンさん。新しく研究者になりたいという人がいたので案内しました。爆弾魔は騒がしすぎるので外で待っています」
ヴァンと呼ばれた青年は、成程とうなずいた。
「ようこそ、研究局へ! 僕はここの局長のヴァン。フルネームはヴァレンタイン・グリナモルテ。ヴァンって呼んでくれるかい?」
明るく人懐っこそうな瞳が、きらきらと輝いた。
悪印象は全くない。悪くはない人のようだった。
アルヴェルトは名乗る。
「オレはアルヴェルトだ。こっちはアリウム」
「了解。アルヴェルトだからアル君って呼んでいいかい? そうそう、研究者になるのは内容についての承認が必要なんだけど……」
それについては道々考えてきた。ちなみにアリウムは、「アルヴェルトと同じでいいですよ。ただし責任重大な研究者にはなりませんから。あなたの助手ということで」などと注文をつけてきた。まあ研究者に助手がいても不自然ではないので、承認してもらえるとは思うが……。
アルヴェルトは、己の研究についての考えを話す。
そもそもが安定した生活を得るために選んだ職だ、他の研究者みたいな志などありはしない。
穴だらけの理論でしか、彼には挑むすべがない。しかしこれを断られたら、彼にはほかに道がない。
受け入れてくれ、思いを込めて。彼は穴だらけの研究内容を展開する。
「オレは死霊術師なんだ。霊は他者に働きかける力を持つ。それを利用して……誰かの力を増幅させる、そんなものを作りたいんだ」
笑いたければ笑うがいい。こんな薄っぺらな内容で挑むなんてそもそもが愚の骨頂。しかし彼にはこれしかなかった。こんな穴だらけなものしか、とっさには浮かばなかったのだ。詭弁だと罵られてもいいが、今彼は、それを伝えた。
しかしそんなのは杞憂に過ぎなかったのだ。
ヴァンは。ヴァレンタイン・グリナモルテは。何の屈託もなく、高らかに笑ったのだ。
「ははっ、それは面白そうじゃないか。いいよ、承認! はい、じゃ、そこの書類にサインして。アリウムちゃんは助手でいいのかな?」
アルヴェルトは拍子抜けして、思わず彼に問うていた。
「……こんな穴だらけの研究内容でも、いいのか?」
「いいかい、アル君」
その明るい瞳が一瞬、宿した深淵を垣間見せる。
「穴だらけでも別にいいんだ。ここには本当に様々な人が来る。研究者は生活安泰だからねぇ、逃亡者なんかもよく来る。彼らはみんなそもそも熱意なんてないから、生きるためという思いしかないから、穴だらけで破れかぶれな研究内容しか持ってこない。けれどね」
逃亡者、という言葉に一瞬反応したアルヴェルトを、青い瞳が何もかも見透かすように見据えた。
「過去は関係ないのさ。問題は今、彼らがここで、嘘でも研究をやりたいと言ってやってくること。研究内容が穴だらけでもここにやってきた以上はわずかなりとも熱意がある。死霊術師? いいじゃないか、やってみせてよ。僕に見せてよ、アル君。そんなわずかな熱意が時に、大きな成功につながることもあるんだからさ」
君たち新入りは希望の芽だから、期待しているんだよと彼は笑った。
そして話は終わりとばかりに、書類をずいと差し出した。アルヴェルトは渡されたペンで名前を書く。アルティリッツでは機械が主流だったから手書きの名前なんて久しぶりで、その文字は若干ゆがんでしまった。まるで、揺れる彼の心のように。
助手の欄に生を書いてもらうべく、彼はペンをアリウムに渡す。アリウムはスラスラと流麗な文字を書き、それを直接ヴァンに手渡した。
「受領しましたっと。アリウムちゃんはやっぱり助手なんだね了解。あ、ちょっと待ってね……」
ヴァンは書類を受け取ると、カウンターの奥に行ってごそごそと何かをあさり始めた。
とりあえず、研究者になることは決まったらしい。良かった。
研究者になれば生活安泰、それはなぜか?
まず研究者は「研究所」という、住居にもなる広大な施設を与えられる。それで住む場所の問題は解決だ。
次に、それなりの資金を与えられる。これで衣食はあがなえる。
さらに、聖銀などのレアな金属素材も、通常の半額で入手できるというおまけつきだ。新興国家たるこの国に、なぜそんなに大きな予算があるのか不思議に思うところだが。
まあ、研究者にさえなれれば、生活安泰、という方程式は、これで理解できるだろう。
そんなことを考えていたら、不意にヴァンが声をかけてきた。
「ねぇ、君たち」
彼は苦い笑みを浮かべていた。
どう言えばいいのかよくわからないような、微妙な笑み。
「研究者は常に誰かと共同生活が当たり前なんだけど……。空いている場所が一つしかなくてね。そこには先客が二人いるんだ。そこでも別に構わないかい?」
アルヴェルトは首をかしげる。
「…………? オレは別に構わないが」
「私も構いません。だって研究所って、そんなものですし」
一体何の不都合があるのだろう。怪訝な顔をしていると、ヴァンがため息をついて言った。
「……その先客というのが、そこのルーリオと爆弾魔なんだよ」
。○
「……という訳だ」
「やったねーっ! これも何かの縁かなっ? 改めてよろしくっ!」
事の顛末を外で待っていた爆弾魔ことエリーシャに話すと、彼女は飛び跳ねて喜んだ。
その様を眺めるルーリオは、こちらは彼女とは対照的に、冷静なままで言った。
「じゃ、案内するから。お礼も兼ねて、色々と教える」
ルーリオの申し出を受け、アルヴェルトたちは歩き出す。
始まる新しい生活。若干の不安もあることにはあるが、そこには確かな希望があった。
歩きだしながらも、アルヴェルトはつと後ろを振り返る。
振り返った先を遥か行けば。そこには彼の失った祖国、アルティリッツがある。
彼は迷いを打ち消すかのように大きく首を振った。
(……どうでもいい。あの国は捨てた、否、あの国に捨てられたんだから)
過去は関係ないのさ、と言ったヴァンの言葉を思い出して。
アルヴェルトは歩み出す。
新たな道へ。
。○
その様子を、じっと見つめる者がいた。
「すごいねぇ、ブラン。あの人の周囲にたくさんの死霊が取り巻いているよ」
一目でそれを看破した彼は、愛用の白い片手剣「白い夜(ニュイ・ブランシュ)」に囁いた。
彼にはわかる。アルヴェルトの放つ死の気配が、これ以上ないくらい明確に。
白い片手剣が。対人外用片手剣が、溢れかえる欲望に震えた。
――斬リタイ。
その欲望は剣の持ち主である彼にさえ伝播し、情人ならば逆らうことすら不可能な、狂ったような殺人衝動を植え付ける。しかし彼はその欲望の圧力を、異常な精神力で跳ねのける。
白い片手剣をなだめるように、囁いた。
「駄目だよ、ブラン。僕はあの人の敵になるつもりはないからね」
その言葉に、つかも握りも刀身も真っ白なその片手剣は、ぶるりと小さく震えた。
彼――ヴァレンタイン・グリナモルテは、苦笑いしながらもその刀身を撫でていた。
武機と呼ばれるものがある。それは、魔科学の結晶たる発明品。
三年前。エルテハイム、アルティリッツ、フエルヴェン、そしてアルティリッツの属国のような学術国ロルヴァートの代表が集まって新たな発明をした結果生まれた、あらゆる技術の昇華体。
見た目はただの携帯型端末だが、それに特殊なコードを入力することによって、それは持ち主に最も合った武器に、その形状を変化させる。
彼、ヴァレンタイン・グリナモルテがその発明者の一人であることを、アルヴェルトらはまだ知らない。
そして彼の武機、「白い夜(ニュイ・ブランシュ)がその中でも特に猟奇的な性質をもつものだということも――。
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
- 冥使と虚像のプルラリズム 5 不思議な絵描き ( No.5 )
- 日時: 2017/10/05 17:26
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
わかめちゃん回。
わかめちゃんはここを長めに書いたので、しばらくわかめちゃん回が続きます。
全体的に明るい雰囲気。
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
5 不思議な絵描き
。○
「……おや、アルヴェルトが落とし穴にはまったので笑ってやったのに、夢でしたか」
研究所に備えつけられた二台の二段ベッドのうち片方の上の段で、アリウムは目を覚ました。
まだ空は暗く、同室で眠っている他の三人も、起きる気配がない。
誰も見ていないから、とアリウムはベッドの上で素早く着替え、音もなく上の段から降りてドアへと向かう。
時計を見ると、朝の四時半。たまには朝の散歩もいいなと考えたアリウムは、外に出ることにした。
。○
研究所を出て少し歩いたところに市場がある。毎日欠かさず行われている行商は、こんな時間でもとても賑やかだ。元々騒がしいのが好きだがそれに参加することが苦手なアリウムにとって、市場はとてもいいものだった。
歩きながら店頭に並ぶ商品を眺めていたアリウムはふと、大陸中央にある央都には珍しい、魚を目にした。それも干物ではなくて生である。
アリウムはそれを売っていたおじさんに、声をかけてみた。
「おじさん、どんな魚を売っているのですか?」
すると、おじさんは人の良さそうな笑みを浮かべて丁寧に解説をしてくれる。
「おう! 今日のは近海で獲れた白身魚だな。フライにすると美味いんだぜ。買ってくか?」
「お腹すいてないから要らない」
「買わないんかい!」
おじさんはがくっと肩を落とした。
何回か咳払いして気持ちを切り替え、別なことを言い出す。
「まぁ、魚以外にも貝で作った小物やらが隣の店で売っているよ。折角だから見てってくれや」
彼は笑って隣の店を指差した。
それに従い、アリウムは隣の店へ行ってみる。そこは貝殻を使った小物を売っている店だった。
貝殻のアクセサリー、置物、絵の具、キャンドルなど。いかにも少女が好みそうな品揃えである。
あのおじさん、商売上手だなと思いながらも、アリウムは白の絵の具を手に取った。
貝殻から作られたそれは胡粉という。色がついているものをアリウムは知らないが、これは絵の具以外にもお菓子にも使える。塩豆の周りの白い粉の正体がこれである。
アリウムは、研究所に戻ったら作ってみようかなどと考えて、手にしたそれを店の店主の前に持っていく。
「おばさん、胡粉 一壜下さいな」
「はいよ」
女店主にお金を渡し、アリウムはその場を去ろうとする。
その背中へ。
「君も、絵を描く人なの?」
見知らぬ、声。
アリウムは後ろを振り返った。
「僕ね、パルテイスっていうんだよ」
そこには十二歳くらいの少年が立っていた。淡い白色の髪を後ろで括り、黄支子色の瞳を持ち、淡藤色のベレー帽とマントを羽織り、左耳には十字架の飾りをつけている。
少年の手には、この店の商品である金色の絵の具が握られていた。その目はなぜか期待に満ちていた。
しかしもちろん絵描きではないアリウムは、少し申し訳なく思いながらも、その質問に否と返す。
「……すみませんが、違います。この絵の具の用途も、あなたの思っているものとは異なります」
「……そっかぁ」
がっかりしたようにうなだれるパルテイスに、アリウムは質問する。
「あなたは見たところ子供のようですけれど、そんな仕事でもしているのですか?」
パルテイスは違うよと首を振る。
「……実は、絶賛大学生中なんだよ」
……その低身長で大学生!?
アリウムは慌てて謝った。
「す、すみません! 子供なんて、失礼なことを」
「気にしないで。仕方ないもの、この見かけじゃね」
パルテイスは、まるで気にしてはいないように笑った。
アリウムはぶつぶつと弁解の言葉を呟く。
「……よく考えたら子供が早朝に一人で出歩いているわけないですものね。まあ私も人のこと言えませんけれど」
彼に元気を出させるために行ったのに、気まずくなってしまった。
アリウムはうつむき、パルテイスも言葉がない。
アリウムは頭の中で考えを巡らせた。
(今は何時でしょうか。五時四十五分……。まだ、大丈夫ですよね)
初対面相手に平気だろうか、と彼女は思ったが、気まずいままよりは良いだろう。
意を決して、パルテイスに話しかける。
「……朝食は、もう済んでいたりしますか?」
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
- 冥使と虚像のプルラリズム 6 楽しい朝食 ( No.6 )
- 日時: 2017/10/07 10:37
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
6 楽しい朝食
。○
「へぇ、君は研究者なんだ」
「ええ。まだ日は浅いですけれどね」
パルテイスと緩い会話を交わしながらも、アリウムは市場から少し離れた小道に入る。
その路地の裏には、隠れ家みたいな外観のカフェが立っていた。
パルテイスは店のドアの前に立ち、後ろを振り返る。
「ここだよー、僕の家! 母さんが作るご飯本当においしいから! おすすめ!」
アリウムが彼を朝食に誘うと、彼はその提案を快く受け入れてくれた。
場所は大学のレストランでいいかなどとアリウムが考えていると、どうやらパルテイスが店を決めてくれるらしいので素直について行ってみると、そこはまさかのまさか、自宅だった。
「失礼します」
中に入れば。壮年の女性がテーブルへと案内してくれる。
その店の内装はシンプルで、全体的に緑かかったグレイのイメージだ。
どうやら客はまだアリウムだけらしい。パルテイスを含んでいいのかはわからないが。
パルテイスが、母親に元気よく言った。
「母さん母さん! フル・ブレークファストで!」
「あら、お友達? 珍しいねぇ」
「コーヒーはねー、モカがいいな~!」
「そう言えば、今日は大学お休みだっけ?」
……会話が噛み合っていない。それなのに進む会話を聞きながらも、アリウムは頬杖を突いた。
親子ってどこもこんなものなのだろうか。
。○
「お待たせ。熱いから気をつけて食べてね」
二人の前に並べられたのは絵に描いたような朝食。アリウムは無言でナイフとフォークを手にした。
最初に固めの目玉焼き。無駄な味への干渉はなく、卵本来のまろやかな甘みが口の中でほどけた。
次はソーセージ。ゆでられたそれを噛めば、表面が破け、勢いよく肉汁が口内を満たす。肉独特の旨み。美味しい。
ソーセージを飲み込むと、アリウムは今度はカップを手に取った。中はパルテイスと同じくモカで、口に含めばさわやかな香りと程よい酸味が広がっていく。どうやらストレートのようだ。
次にサンドウィッチ。レタスとトマト、ハムを挟んだシンプルなものだ。パンとレタスの歯ごたえの差に、ジュワッと広がるトマトの甘み、後からジューシーなハムの味。それら全てがマッチしていて、夢中になったアリウムはすぐに食べ終わってしまう。
そして最後にレモンのシャーベット。しゃりしゃりした冷たい舌触りとレモンの酸味が、比較的こってりしていたこれまでの料理に対する、程よい口直しになった。
シャーベットの最後の一口を名残惜しそうに食べながらスプーンを置いたアリウムは、パルテイスと目が合った。彼はまだ半分ほどしか食べていないようだ。驚いた表情でアリウムを見つめる。
「……すごい食べっぷりだねぇ。一言も喋らなかったよ」
アリウムは苦笑いを返す。
「食べるのに夢中で……。すみません、完全に忘れていました」
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
わかめちゃんの仕掛けた飯テロ勃発中な6話目です。明るくなってきましたね、万歳。
のんびりした日々は当分続きそうです。
次の話に、請うご期待?
- 冥使と虚像のプルラリズム 7 天然記念物!? ( No.7 )
- 日時: 2017/10/09 11:40
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
コメライはみんな、更新が早いですねぇ。少し留守にしていたらすぐに埋まりましたよ……。
二日ぶりです。わかめちゃん回です。愉快な世界をご覧あ~れ。
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
7 天然記念物!?
。○
「さっき言ったかもだけど、今日僕大学無いんだ。だから、もし良ければ研究局に行ってみてもいいかな? 卒業はまだまだだけど、将来そこで働きたいから!」
そんなパルテイスの要望により店を出たアリウムたちは、研究局へ来ていた。
アリウム自身は就業の時間なのだが、助手という名目だけでここにいるので気にせずサボることにした。
アリウムは局内を説明しながら、のんびりと歩く。
パルテイスが歩きながらも、驚きの声を上げた。
「へぇー、なんだか大学の雰囲気に似てるねぇ」
「まぁ隣接してますからねぇ」
「クラブか何かあるのかなぁ?」
「…………」
……話が噛み合っていない。アリウムは苦笑を洩らした。
そうして二人はしばらく歩き、中庭へとたどり着く。
少し休憩しようかと、中庭にあるベンチに腰かけた――
――刹那。
「どおおおおおぉぉぉん!」
。○
「だからぁ、ごめんってアリウム! 他に人がいたのが見えなかったのぉ!」
「人がいるいないじゃなくて! まず、爆発とともに飛び出てくるのやめてくれませんかねぇ??」
「嫌だ! そうしたらあたいじゃなくなる!」
「ですよね。知ってました」
ピンクのツインテールの少女が、爆音の中を飛び出してきた。
……誰がどんなことをやらかしたのかは、容易に想像がつくだろう。
パルテイスは放心して座っている。
規模は小さかったので怪我はないようだが、いきなり近くで爆音風がしたら誰だって驚くだろう。エリーシャの爆発を少しは知っているアリウムならともかく、初めてならばなおさらのことだ。
しかし放心した彼をそのまま放っておくわけにもいかないので、アリウムは軽く彼の額を小突き、正気に戻す。
「起きてますー? おーい。おーい、ぱるちゃーん。ぱるぱるー?」
「……ハッ、ここはだれ!?」
「混ざってる混ざってる。ごめんねぇ。君、怪我はないかなぁ?」
「怪我? 大丈夫そう。君は誰? 僕はパルテイス!」
正気かはともかく意識を戻したぱるぱるもといパルテイスへ、エリーシャは申し訳なさそうに謝った。
しかしパルテイスは全く気にしていないようで、にこやかにエリーシャに自己紹介をする。
そうやって自分の名前を易々と開示していくのは危険なようにアリウムは感じたのだが……。まあいいいか。
エリーシャも笑って自己紹介をした、時。
後ろから声がかかった。
「アリウム、今までどこに居たんだ?」
「……エリー、また何かやらかしたのかい?」
アリウムが振り向くと、そこには青と紫の夜色コンビがいた。
「おや、アルヴェルトにルーリオ。ちょっと市場に行ってまして」
二人とも今まできちんと仕事をしていたのか、白衣姿だった。
アリウムは二人に言った。
「そういえば豆と胡粉を買ったんです。今度塩豆作るので食べましょうよ」
その答えを聞いて、アルヴェルトは呆れた顔をした。
「お前、助手という立場全力で活用してさぼるなよ。書類も少ないけどあるんだぞ?」
「善処します」
……こんなことを言ってはいるが、別にアリウムは仕事が嫌いというわけではない。
ただ、他にやることがあるので一所に留まれないだけなのだ。
それについてはまた後ほどにして。
アルヴェルトが、パルテイスを見て首をかしげた。
「あいつは誰だ? 見ない顔だが」
そう言えばこの二人はまだ彼のことを知らないんだった。
アリウムはアルヴェルトに説明する。
「ああ、パルテイスという、大学の人ですよ。市場で偶然知り合ったんです」
アルヴェルトは目に驚きを浮かべた。
「大学生なのか。てっきりオレは、ここの研究員なのかと」
「え?」
アリウムは不思議そうな顔で、アルヴェルトを見上げる。
彼は苦笑いして、彼女に言った。
「……いや、な。アリウム、後ろ見てみろ」
「彼はすごい魔法使いなんだねぇ」
二人の言葉に、ゆっくりと後ろを見やると。
――うねうねと動くつぼに上半身をくわえられている、パルテイスが、いた。
その隣では、エリーシャが慌てふためいている。
アリウムは微笑みながらアルヴェルトとルーリオの方へ再び向き直り、口を開いた。
「アンタらアホの天然記念物ですかっ!?」
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