コメディ・ライト小説(新)

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新日本警察エリミナーレ
日時: 2018/04/26 11:32
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

初めましての方は初めまして。おはこんにちばんは。四季と申します。
まったりと執筆して参りたいと思います。気長にお付き合いいただければ光栄です。

《あらすじ》
日本のようで日本でない世界・新日本。
そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。
……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。

シリアス展開も多少あると思います。

《目次》

プロローグ >>01-02

歓迎会編 >>05 >>08 >>13-18 >>23
三条編 >>24-25 >>30-31 >>34-35 >>38
交通安全教室編 >>39-40 >>43
茜&紫苑編 >>44-46 >>49-54 >>59-62 >>65 >>68-70
すき焼き編 >>72 >>76-78
襲撃編 >>79-84
お出掛け編 >>85-89 >>92-95 >>98 >>101-105 >>108-109
李湖&吹蓮編 >>112-115 >>120-121 >>126 >>129-140
畠山宰次編 >>141-146 >>151-158
約束までの日々編 >>159-171
最終決戦編 >>172-178 >>181-188
恋人編 >>189-195 >>198 >>201-202
温泉旅行編 >>203-209 >>212-225

《イラスト》

武田 康晃 >>28 (御笠さん・画)
モルテリア >>55 (御笠さん・画)
一色 レイ >>63 (御笠さん・画)
京極 エリナ >>90 (御笠さん・画)
天月 沙羅 >>123 (御笠さん・画)

《感想など、コメントありがとうございました!》
いろはうたさん
麗楓さん
mirura@さん
ましゅさん
御笠さん
横山けいすけさん
てるてる522さん
mさん
MESHIさん
雪原みっきぃさん
織原姫奈さん
俺の作者さん
みかんさいだーくろばーさん
ホークスファンさん
IDさん

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Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.221 )
日時: 2018/04/21 23:06
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

151話「温泉を堪能したい」

 私と武田は、足湯カフェでゆったりと昼食をとった。
 武田は照り焼きチキンカツサンドイッチ、私はおにぎりセット。お互いのものも食べてみたため、サンドイッチも食べたが、なかなか美味しかった。
「あのカツサンド、美味しかったですね」
「そうだな。脂身だけが口に入った時には焦ったが」
「脂身お嫌いなんですか?」
「あまり好みではない」
 左右に和風の建物が並ぶ石畳の道を私たち二人は歩く。集合場所へと向かうためだ。
 歩き出して十分ほど経った頃、武田が唐突に口を開く。
「それにしても今日は、よく晴れているな」
 スーツをきっちり着ているのもあってか、武田の額には汗の粒が浮かんでいる。彼は何度か手の甲で拭っていたが、それでも暑そうだ。
 その時になって私は、武田の様子がおかしいことに気づく。
 今の武田はどことなく疲れた顔つきをしている。それに加え、足取りが重い。歩きにくそうだ。そして更に、呼吸が早まっている。
 私は足を止め、ついに質問した。
「武田さん、少し休みますか?」
 彼に無理はしてほしくない。純粋にそう思うからだ。
「いきなり何を言い出すんだ、さらぼっくり」
 前振りもなく尋ねたものだから、武田は私の問いの意図が分からなかったらしい。首を傾げている。
「体調が悪そうだったので」
 私が簡単に説明すると、彼は独り言のように「なるほど」と呟く。
「心配ない、少々暑かっただけだ。それより、もうすぐ集合時間だ。急がなくては」
 言いながら、武田はまた手の甲で額の汗を拭う。
 いつもは鋭い視線を放っている細い目も、今はぼんやりとしていて、力を感じられない。若干視点が定まらないような感じだ。
「やっぱり辛そうですよ。どこかお店にでも入って、休憩しましょう」
「いや、駄目だ。集合時間に遅れ……」
「体の方が大事ですっ!」
 自身の体調を考慮せず集合時間ばかり気にしている武田に苛立ち、私は口調を強めた。
 しかし、口調を強めた理由は苛立ったからだけではない。本当は、大好きな彼に対して、こんな言い方をしたくはない。だが仕方ないのだ。こうでもしないと武田は頷かないから。

 それから私と武田は近くの茶屋へ入り、休憩した。淡々煎餅や餡蜜、抹茶ラテなどを注文し、飲み食いする。
 私はレイへ電話をかけ事情を話す。そして、最後に「店を出る時にまた連絡します」と添えて、通話を終える。
 そうこうしている間に、武田の体調はみるみる回復してきた。顔つきも普段と変わらないくらいに戻っている。強い日差しにやられてしまったのだろうな、と私は思った。今日は妙に眩しかったので、体調を崩すのも仕方ない。
 武田の体調がかなり回復したのを確認してから、レイに知らせ、茶屋を出た。
 だいぶ寛いでしまったせいで、集合時刻はとっくに過ぎてしまっている。けれども、武田が元気になったので、一旦休んで正解だったと思う。
 再び石畳の道を歩き出した頃、私たちを見下ろす空は、切ないくらい綺麗な夕焼けだった。
 赤く染まる空の下、私たちは集合場所へと向かう。
 繋いだ手の温もりに癒やされながら。

 夜、私は大浴場へ向かった。
 昨夜は部屋で入浴したが、今夜は温泉へ行くことにしたのである。
 理由の一つは、武田が「温泉に入る」と張りきっていたこと。もう一つの理由は、せっかく在藻温泉へ来たのだから、温泉を堪能したいということ。
 この二つに尽きる。
「今日は沙羅ちゃんも入るんだね。一緒に入れて嬉しいよ。あたし、温泉大好きだから」
「温泉、お好きなんですね」
「うん。沙羅ちゃんは?あまり好きじゃない?」
 私は少し考えて返す。
「熱いお湯がちょっと苦手で」
 するとレイは「そっか」と笑う。私の大好きな、彼女特有の爽やかな笑みだった。

 脱衣室に一歩踏み込んだ瞬間、温かな湯気が私を包む。とにかく湿気が凄い。真夏だったらずっとはいられないだろうな、と思ったくらいだ。
「モル、脱いだ服はまとめて置いておくのよ」
「……うん」
「お菓子は持ち込んじゃ駄目。そこへ置いておきなさい」
「お腹空く……」
「そんなに長時間入らないわ。だから出るまでお菓子は禁止!」
 エリナとモルテリアの会話がなぜか妙に面白く感じられて、私はクスッと笑ってしまう。しかし聞こえていなかったらしく、誰にも何も言われなかった。

 こうして、いよいよ浴場へと入っていく。
 そこは、私の想像を遥かに越える広さだった。しかも綺麗である。
 タイルの床は滑りそうなほど磨かれ、天井は高く、様々な大きさや形の湯船が並んでいる。まるでテーマパークのようだ。
「す、凄いっ……!」
 私は思わず感嘆の声をあげる。
 すると隣にいたレイが、ふふっ、と愉快そうに頬を緩める。
「沙羅ちゃんは今日が初めてだもんね」
「色々ありますね……!」
「軽く体流して、それから全部巡ろうか。楽しいよね。しかも体にも良いらしいし」
 歩き出すと、束ねていない青い髪がさらさらと揺れる。真っ直ぐな背筋に、私は暫し見とれてしまった。

 その後。
 体や髪をシャワーで洗い、好きな湯船へ直行するエリナとモルテリア。片手の包帯を濡らすわけにいかずもたもたしていた私は、二人よりかなり遅れた。
 エリナは『美肌』と書かれた看板のついた小さめの湯船に浸かっている。腕や脚を伸ばし、まるで温泉番組の撮影かのような優雅さで、湯を堪能していた。髪を上にまとめていることによって見える首筋からは、健全な色気を感じる。
 しかし、『美肌』という湯船へ直行するのは恥ずかしくないのだろうか……。
 一方モルテリアはというと、上から細く湯が流れてくる滝のようなエリアにいた。ここだけは湯船が浅く、湯船らしからぬ形態だ。
 彼女はちょうど上からの湯が当たる位置に立ち、びくともせず、修行僧のように湯を浴び続けている。
「沙羅ちゃん!もうどこか入った?」
 大浴場内にレイの声が響く。彼女のよく通る声が、なおさら大きく聞こえた。
「まだです。今洗い終わったところで」
「じゃあこことかどうかな」
「桜湯……ですか?」
 レイが指し示したのは、かなり大きい湯船。
 白い湯に桜の花弁が浮いていて、いかにも女性に人気がありそうな雰囲気だ。
「せっかくだし浸かってみようよ」
「桜って、季節外れですね」
「それは言っちゃ駄目だよ!?」
 まぁ確かにそうかもしれないが……。
 しかし、六月に桜というのは、どうも違和感を覚えずにはいられない。もう少し六月らしい風呂でも良いと思うのだが。
 けれども、入ってしまえば違和感は気にならなかった。それどころか、桜餅のような香りの湯気が頬を撫で、穏やかな気持ちにしてくれる。
「後で露天も行こうね、沙羅ちゃん」
「はい。でも寒そうです……」
「平気平気!お湯が凄く温かくて気持ちいいよ」
 レイに言われると、「そうなのかも」という気がした。
 私は、ひんやりする中で温かな湯に浸かることを、想像してみる。すると、非常に幸せな気持ちになれた。

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.222 )
日時: 2018/04/22 19:23
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

152話「煌めく星空、露天風呂」

 桜湯に浸かることしばらく、突然レイが立ち上がった。水面が揺れ、飛沫があがる。顔面にかかると熱い。
「そろそろ露天の方行かない?」
 はきはきした声で提案するレイ。
 私としてはこの桜湯で十分満足だ。
 しかし、露天風呂も気にならないことはない。屋外で入浴という、日頃はできない体験をできる機会というのは、大切にしたいものである。
 だから私は頷いた。
 行きましょう、と。

 それから、私はレイと、露天風呂へ向かった。
 浴場内にあるガラスの扉を開けるとそこは屋外。六月にもかかわらず、空気はひんやりしている。六宮や芦途などよりかやや高い位置にある在藻の夜は、こんなものなのかもしれない。
「さ、寒めですね……」
 ほんの数十秒前まで熱い湯に浸かっていたのもあってか、肌寒く、真っ直ぐに歩けない。千鳥足のようになってしまう。
 先に行くレイは、浴槽へ入ってから私を見上げる。
「沙羅ちゃん大丈夫ー?」
「は、はい」
「酔っぱらいみたいになってるよ?」
「すみません……」
 頼りない足取りで何とか浴槽へ入る。すると、全身を温かな湯気が包んだ。
 そこへやって来るエリナとモルテリア。
「気が早いわね、レイ」
「……さむい……」
 二人も浴槽へ入ってきた。
 エリナは縁にもたれて、魅力的な脚を伸ばす。そして、暗い空を見上げる。
 一方モルテリアは、レイの方までちゃぷちゃぷと泳いできた。
「……あったか、あったか……」
「モル。あまり泳いじゃ駄目だよ?」
「……うん。あったかい……」
 当たり前に分かっていたことではあるが、モルテリアの返答はやはり少々ずれていた。途中までは良かっただけに惜しい。
 その時、急にエリナが声を出す。
「ナギー!いるのー?」
 すると、浴槽の端にある仕切りの向こう側から、ナギの声が飛んでくる。
「何すかーっ?今やっと武田さんが膝まで足浸けたとこなんすよ!ちょっと待ってほしいっす!」
 どうやら、結構近いらしい。もしかしたらどこかが繋がっているのかもしれない。
「覗く気満々なのでしょう?なんなら、来ても良いわよ!」
 クスクス笑うエリナ。
 傍で聞いていたレイが「それはさすがに」と止めようとする。しかしエリナは続ける。
「隠れて覗くくらいなら、堂々と来なさい!」
 なんということを言うのか。
 そんな風に思っていると、仕切りの向こう側からまた声が飛んでくる。
「覗くわけないっしょ!俺、そんなヤバい奴じゃないっすよ!」
「あら、そうなの」
「そうっすよ!それにほら!覗いたりしたら俺、武田さんに殺されるから!沙羅ちゃんいるっしょ!?いや、今既に睨まれてるから!」
 漫画ではないのだから、いくらナギでも、風呂を覗きなどしないだろう。
 私は内心そう思った。
「今日は武田もいるのよね?ナギ」
「イエス!いるっすよ!」
「沙羅を覗きたいか聞いてみて」
 ……なんということを。
 エリナの妙なノリに私はついていけない。
「オッケーっす!」
 ナギは元気よく返事した。
 それから数秒して、ナギは言ってくる。
「そんなことを聞かないで下さい。らしいっすよ!」
 まっとうな返しだと思った。
 小中学生なんかのお年頃の男子ならともかく、大人の武田がそんなノリに乗っていくわけがない。
 そう思っていたところ、ナギの大きな声が聞こえてくる。
「あー!武田さん赤くなってる!もしかして沙羅ちゃんのこと想像し……って、痛い!痛いっすよ!」
 何やら騒々しい。
 そんな中、ふと見上げた暗い空には、いくつもの星が煌めいていた。空気が澄んでいることが分かる。
「……綺麗な空」
 私は一人ぽそりと呟きながら、露天風呂を堪能するのだった。

「いやー、いい湯だったっすねー!」
 入浴を終え合流するなり、ナギが元気よく言う。敢えて言うほどのこともない、いつものことだが、ナギは声が大きい。
「そうね」
 あっさりと答えるエリナ。
 するとナギは妙なテンションで彼女に飛びつく。
「風呂上がりのエリナさん、いいっすね!ほかほかっす!」
 エリナの胴に腕を絡め、肩に頬擦りするナギ。行動がかなりおかしい。
「触らないで」
「えー?どうしてっすか?」
「締め上げるわよ」
「あ……すいません」
 今日の夕方辺りから完全にテンションがおかしいナギだが、エリナに恐ろしい言葉を放たれると、ほんの少し普通に戻った。
 先頭には、エリナと彼女に絡むナギ。その後ろをレイとモルテリア。そして最後は私と武田。その順で旅館内の廊下を歩いていく。
「ところでエリナさん!エリミナーレ解散は、もう、なしっすよね!?」
 ナギはまたしても解散に関する話題を振る。
 またか、と一瞬思った。しかし、「いや、必要な話だな」と、すぐに心を変える。エリナが持つエリミナーレ解散の意思をこの旅行中に変えなくてはならないのだと思い出したからだ。
 既に二日目の夜。
 つまり、もうあまり時間がない。
 ナギが無理矢理その件について話し出したのには、そういう理由もあることだろう。彼としては今日中にエリナの心を動かしておきたいはずだ。
「ありよ」
「ちょ、なんでっ!?」
「解散はする。そう言ったはずだけれど」
 廊下を歩きながら「解散は決定事項」と心を変えないエリナ。彼女の口調は落ち着いていた。だが、その表情はどこか暗い。
「なんでなんすかっ!?」
「私にはもう背負えないわ。何も」
 エリナは前だけを見据え、淡々とした足取りで歩いていく。私はその背中を黙って眺めていた。
「じゃあ俺が背負うっすよ!」
 ナギがキッパリと言いきった瞬間、エリナは足を止めた。
 彼女の大人びた顔は、驚きと戸惑いの混じった色に染まっている。大きなことをさぞ簡単そうに言ってのけるナギを訝しむような表情でもある。
「責任も、他のものも、全部俺が背負う!それで、エリナさんの身は俺が護るっす!」
 前を行っていたエリナが急に立ち止まったため、つまづきそうになりながらも、何とか止まったレイとモルテリア。二人はキョトンとした顔をしている。
「エリナさんは何もしなくていい!それなら解散止めてくれるっすか!?」
「……できないわ。そんなのは無責任よ」
「何もしなくていいんすよ!?何も背負う必要ないんすよ!?」
 ナギは半泣きのようになりながら続ける。
「だから、エリミナーレ解散だけは勘弁して下さいよ!」
 彼の必死の訴えに、エリナは言葉を失う。さすがの彼女も、目の前で強く訴えられては心を揺すぶられるようだ。
「頼むっす!エリミナーレ解散は、なしの方向で!」
 頭を下げるナギを見つめる、エリナの茶色い瞳は揺れていた。
 決して揺るがなかった彼女が持つ解散の意思は、今、間違いなく揺らぎ始めている。それは、ナギの言葉や行動が真剣そのものだったからに違いない。
 エリナの瞳は嘘を見抜く。
 真実だけを捉える瞳だ。
 だから、今のナギの言動が心からのものだと、彼女は理解していることだろう。
 私はそんなナギとエリナの様子を見守りながら、心の中で小さく願った。
 ——ナギの、みんなの、想いがエリナへ伝わりますように。

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.223 )
日時: 2018/04/23 17:36
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

153話「月明かりの下で」

 解散を取り止めるよう訴えるナギと、彼の真剣な訴えに動揺するエリナ。それを不安げな眼差しで見守るレイと、じゃがいもチップスを食べるモルテリア。
 そんな四人の背を、私は黙って見つめる。隣の武田を一瞥すると、彼も私と同じように四人を見ていた。
「……無駄よ。とうに決めたことだもの」
「そこを何とか!」
 ナギは両手のひらを合わせ、エリナにお願いする。
「頼むっすよ!」
 彼は数回断られたくらいで挫ける人間ではない。いや、百回断られたとしても挫けはしないことだろう。日頃は情けなくも見える彼だが、挫けない強い心だけは誰にも負けない。
 しかしエリナはエリナで頑なだ。微かに揺れながらも、まだ自身の心を変えない。
 彼女はかなり頑固者だ。それは彼女の良いところでもあり悪いところでもある。
 彼女の固い意志があったからこそ、十年以上もの時を越え、宰次の悪事を明るみに出すことができた。これは彼女の頑固さが良い方向に働いたと言える。
 しかし、今は逆に、頑固さが悪い方向に働いている。もっとも、私たちにとって都合の悪い方向に、ということだが。
「私の心は変わらないわ。むしろ、解散の意思は強まるばかりよ」
「えぇっ。そんなぁ……」
「昨夜の一件で私の心は決まったわ。解散しかない、とね」
 そこへ、レイが口を挟む。
「解散は嫌です!」
 レイの凛々しい顔は、悲しそうに歪んでいた。
「これからもエリミナーレとして、人々のために戦いたいです!」
 感情的になるレイの姿を見て、モルテリアはしゅんとして俯く。
 モルテリアは喧嘩が嫌いだ。意見のぶつけ合いも苦手なのだろう。だから元気を失っているに違いない。
「そうっすよ!レイちゃんの言う通りっす!」
 レイの発言に便乗するナギ。
「宰次がいなくなっても、新日本から犯罪がなくなるわけじゃない!凶悪な犯罪は起こるんすよ!だからこそ、俺らがそれと向き合って……」
「私は善人じゃない!」
 ナギの言葉を遮り、エリナが鋭く叫んだ。
「善意で危険を選ぶほど善人じゃないのよ!私は!」
 空気が振動する。
 エリナの悲痛な叫びを聞いては、さすがのナギも、それ以上は言えなかったようだ。
「エリナさん……」
 胸が締めつけられるような感覚を覚えた。
 彼女が今まで背負ってきた、重く暗いもの。それを垣間見た気がして、彼女を直視はできない。
 そんな時、隣にいた武田が小さく、「あまり気にするなよ」と言ってくる。また、「お前のせいではない」とも付け加えた。
 いちいち気にしてしまう質の私を気遣っての発言なのだろう。ありがたいことだ。

 こうして、私たちはなんともいえない夜を迎えるのだった。

 真夜中。私がふと目を覚ますと、レイが一人、窓の外を眺めていた。
 三人組の襲撃事件のせいで、今夜は昨夜とは違う部屋だ。
「……レイさん。まだ起きてられたんですか?」
 消灯しているため室内は薄暗い。窓から入ってくる月光だけが、私たちを照らしている。
「うん。少し眠れなくってね。沙羅ちゃんこそ、こんな時間に起きてどうしたの?」
「えっと、偶然目が覚めただけです」
 深い意味などない。
 本当のことを正直に答えると、レイはふふっと笑った。
「そりゃそうだよね。変な質問をしてごめんね」
「いえ」
 私は隣の武田へ目をやる。
 彼は布団の中でぐっすり眠っていた。大きな体は脱力し、寝顔は無防備で、私でも倒せそうと思うくらい隙だらけだ。
 だが良いことだと思う。
 いつも周囲への警戒を怠らない武田は、心身共に疲弊しているはず。時にはこんな風に、完全にリラックスして眠ることも必要だろう。
「……ねぇ、沙羅ちゃん」
 心地よさそうに眠る武田を見つめていると、レイが唐突に話しかけてくる。
 私は月明かりに照らされ青く染まる彼女へ視線を向けた。
 窓の外の黒い空を眺める彼女は、どことなく寂しげな顔つきで、その表情からは哀愁が漂っている。月の光に溶けて、今にも消えてしまいそうだ。
「エリミナーレ。本当に解散してしまうのかな」
 彼女は微かに唇を動かした。
 月に一時的に細い雲がかかり、室内の暗さが増す。
「離ればなれになるのは……やっぱり寂しいな。まぁ、仕方ないけど」
 仕方ない、と言いつつも、まだ納得できていない顔だ。
「レイさん……」
「あたしね、エリミナーレに入ってすぐの頃に妹を亡くして、一度、何もできなくなった時があったの」
 彼女はゆっくりと語り出す。
「その時、エリナさんは言った。『今の貴女みたいに悲しむ人を減らすため、私たちは戦うのよ』って」
「なるほど」
「でも『無理はしなくていい』とも言ってくれた。『元気になったらまた共に戦いましょう』とも」
 エリナがそんな優しいことを言うなんて、と驚く。
 私の時とは接し方が違う……。
「今の私があるのはエリナさんとエリミナーレのおかげだと思ってる。間違いなく、エリミナーレはあたしの一番の居場所だよ」
 声が震える。
 そして、瞳から涙が溢れた。
 レイは流れ落ちる涙を指で拭い、数回まばたきしてから、言葉を続ける。
「だから、エリミナーレがなくなるなんて嫌……」
 それが彼女の思いだった。
 彼女は誰よりもエリミナーレが好き。この場所が、みんなが、言葉にできないくらい大好きなのだろう。
 だからこそ、解散が辛い。
 みんなとの別れが寂しい。
 恐らくそれが、レイの涙の意味なのだと思う。
「……多分大丈夫だと思います」
 私は自然とそんなことを言っていた。
 無責任極まりない発言だ。恐らく、レイに泣いてほしくないという心が、私の口を勝手に動かしたに違いない。
「今夜、ナギさんが説得しているはずです」
「でも……」
「ナギさんはきっとやってのけてくれると思います。あの人、意外と強いですから」
 一度深く息を吸う。そして、ふうっと吐き出す。
 それから私は述べる。
「信じましょう。今はただ、ナギさんを」
 レイは止まらない涙を手の甲で拭いながら、ほんの少し首を縦に振った。
「……そうだね。沙羅ちゃんの言う通り、あたしもナギを信じるよ」
 小さく返すレイ。
 彼女はそれから、窓の外の空を見上げる。その瞳は、曇りが晴れた雨上がりの夜空みたいだった。
 私は無力だ。
 それでも、何か少しでも力になれたなら——。
「ありがとう、沙羅ちゃん」
 こんなに嬉しいことはない。

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.224 )
日時: 2018/04/25 00:34
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

154話「幸せな朝を」

 朝が来た。
 窓の外は晴れ、スズメの鳴き声が聞こえてくる。
 心地よい朝だ。
 あの後私は、エリミナーレ解散を悲しむレイを励まし、眠りについた。そして、気がつけば朝。深く眠れたらしく、不思議なくらいすっきりした寝起きである。
「おはよう、沙羅ちゃん!」
 私が布団から起き上がった時、レイが声をかけてきた。
 彼女の表情はいつも通り晴れやかだ。昨夜涙している姿を見ているだけに、晴れやかな顔をしているのを見ると嬉しい気持ちになる。
「おはようございます。元気そうで何よりです」
「ありがとう!」
 レイは着替えの途中のようだ。上は水色のブラウスを着ているが、下はパジャマのズボンのままである。
「あれ、武田さんはどちらに?」
 ふと思い尋ねてみる。
 するとレイは、私の横の布団を指差し、「まだ寝てるよ」と苦笑した。
 私は布団へ視線を向ける。
 布団は確かに、こんもりと盛り上がっていた。
「起こします?」
「あ、うん。そろそろ」
「分かりました」
 そうは言ったものの、いかにして武田を起こすか何も案がない。そもそも私は人を起こすという行為に慣れていないのだ、良い案が簡単にぽんぽんと出てくるわけがない。
 取り敢えず掛け布団を除けてみる。すると、ぐっすり眠っている武田の姿が見えた。幼子のような寝顔に、私は少し微笑んでしまう。
「武田さん、起きて下さい。朝ですよ」
 私は彼の背をトントンと叩き、声をかけてみる。
 しかし起きない。
 だが諦めるにはまだ早い。私は唇を彼の耳へ近づける。
「武田さん、起きられますか?朝ですよ」
 少しは声を大きくしたつもりだったのだが、武田はまだ起きない。
 こうなったら最終手段だ。
 私は顔を彼の顔へと寄せ、再び声をかける。
「武田さん。朝ですよ、起きて下さい。起きないと、痛い目に遭いますよ」
 まるで悪者であるかのような発言だ、と内心苦笑する。
 だが仕方がないのだ。深い眠りに落ちた武田を起こすには、できることをすべて試してみなくてはならないのだから。
 続けて、彼の頬に触れてみる。引き締まった頬から首筋へと、撫でるように手を動かす。
 すると武田は「ん……」と寝惚けたように漏らした。初めての反応だ。
「武田さん。起きて下さい」
 はっきり声をかけると、ようやく彼の目が開いた。寝ぼけ眼がこちらを見つめてくる。
「……沙羅?」
「朝です。起きて下さい」
「……あぁ。起きよう」
 武田は体を斜めにしながら上半身を起こした。意識が戻ればすぐに起きれるようだ。
 ——その刹那。
 彼は私の体を強く抱き締める。
「……え?え、あの……」
 あまりにいきなりすぎて、私は狼狽えるほかなかった。
 武田の腕の力は予想外に強く、逃れようにも逃れられないため、私は、抱き締められたままじっとしているしかない。
「沙羅に起こしてもらえるとは。幸福者だな、私は」
 まだ少し寝惚けているのか、武田はおかしな発言をする。しかし妙に幸せそうだ。いつになく幸せな雰囲気が漂っている。
 だが、少し苦しい。
 強く抱き締められた状態が続くと、段々呼吸がしづらくなってきた。胸が圧迫されているせいに違いない。
「いずれ結婚すれば毎日お前に起こしてもらえる。そう思うだけで、私はもっと強くなれそうだ」
 次から次へと、甘い言葉を並べる武田。
 これは一体、何なのだろう……。
「今日も可愛い」
「……ありがとうございます。でも、離して下さい。苦しいので」
「あ、あぁ。すまない。強く抱き締めすぎたか」
 武田はそう言いながら、腕を離してくれた。肺が広がり、やっとまともに呼吸ができるようになる。
「取り敢えず、着替えましょうか。朝食が待っていますから」
「そうだな。速やかに着替えることとしよう」
「まぁ私も人のこと言えませんけどね……。私も着替えます」
 起きてしまえば武田は早い。なんせスーツに着替えるだけだからだ。髪はほぼそのままで問題ないし、僅かな化粧すらしない。
 こういう時だけは男性を羨ましく思ったりする。
 もっとも、女性であって得している部分もあるわけなのだが。

 着替えを済ませると、私たちは朝食会場へと向かう。昨日は出られなかったので、この旅館で食べる最初で最後の朝食だ。期待に胸が膨らむ。

「……おはよう」
 朝食の間に着くと、既に着いていたモルテリアが挨拶してくる。彼女が自ら挨拶するのは珍しい。
 先を行くレイが手を振りながらモルテリアへ寄っていく。私と武田はその後ろに続いた。
「おはよう、モル!……あれっ?ナギとエリナさんは?」
 モルテリアが一人なことに違和感を抱いたらしく尋ねるレイ。
「……後から」
「遅れてくるって?」
「うん……。昨日、夜……ずっと話してた……」
「話し込んでたの?あ。もしかして解散のこと?」
 モルテリアがこくりと頷く。
 すると、レイが食いついた。
「それでどうなった!?」
 確かに、解散を望まないレイとしては、気になるところだろう。
 もちろん私にとっても重要なことなので、私も耳を澄ます。
「解散は……」
 モルテリアが口を小さく動かし、レイの問いに答えかけた、その時。
「沙羅ちゃーん!レイちゃーんっ!」
 背後から声が聞こえてきた。
 振り返ると、ナギが頭上で大きく手を振りながらこちらへ走ってくるのが視界に入る。その後ろからは小走りのエリナ。
「ナギ!」
「おはよーっす!」
「……遅い」
「ちょっ。モルちゃん怒んないで!?」
 レイとモルテリアが、それぞれ応じる。
「良い知らせがあるんすよ!」
 ナギはニカッと笑った。

Re: 新日本警察エリミナーレ ( No.225 )
日時: 2018/04/26 11:32
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2

155話「吉報」

 良い知らせ。
 今、ナギは確かにそう言った。
 ということはもしかして——と思っていたら、レイが先に口を開く。
「それって、もしかしてっ!?」
 レイの瞳は希望に満ち、輝いていた。今、彼女の脳内には、彼女が何よりも望んでいたことが浮かんでいるに違いない。
 叶わぬことを悲しみ、涙を流しまでした自身の願いが、目の前で僅かに煌めき始める。それはどんなに嬉しい光景だろう。
「多分その通りっす」
 言いながら、ナギはいつも通りの無邪気な笑みを浮かべる。
「エリミナーレ解散は、なし!決まったっすよ!」
 純真無垢な笑顔でナギが告げた瞬間、レイは片方の手のひらで口元を覆った。瞳が潤み、細めた目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ちょ、なんで泣くんすか!?解散なしっすよ!?」
 レイがいきなり涙を流し出したものだから、ナギは大慌て。何かやらかしただろうか、とでも思っているのだろう。
 もっとも、昨夜のことを知らないナギが混乱するのは仕方のないことだが。
「……泣かせた」
「ちょ、モルちゃん!?俺、悪いことしてないって!」
「……レイを泣かせた。これは悪くないこと……?」
「うっ。確かに、泣かせるのは良くないっすけど……」
 モルテリアに厳しく言われ、やや落ち込むナギ。
「レイ」
 ナギの後ろを来ていたエリナが、合流し、レイの名を呼ぶ。
「エリナ……さん」
 号泣しているレイは、頬を濡らしたまま顔をあげる。涙で潤んだ瞳は、エリナを捉えて離さない。
「心配かけたわね、レイ」
 エリナはレイに歩み寄ると、その手をそっと握る。爪の先まで隙のない麗しさを持つエリナの指が、レイの指と絡む。
 それでもまだ、レイは涙していた。
 瞼、目の周囲、鼻や頬の周辺。すべてを赤く腫らしながら、レイはまだ泣き続けている。
「泣かないで、レイ。もう涙は要らないわ」
「……ごめんなさいっ。でも、あたしっ……」
 レイは何か言おうとする。けれど、ちゃんとした言葉にはならない。恐らく、今の彼女にはまだ、気持ちを言葉にするほどの余裕はないのだろう。
 そんなレイを静かに抱き締めるエリナ。
「心配かけて、悪かったわね」
 あのエリナが素直に謝るとは、少々意外だ。
 感動的な光景を見守りつつ、私は黙って武田へ目線を向ける。すると、ちょうどその時、武田もこちらを見ていた。
 またしても目が合うという偶然。しかし、もう慣れっこである。
「解散は免れましたね」
「あぁ。そのようだな」
 私は武田と一言だけ交わした。あっさりとした言葉、一言だけ。
 だが、私の胸は熱くなっている。これからもエリミナーレにいられる、という未来への希望が生まれたからだ。
 最終決定はリーダーであるエリナがすることと思っていたため、極力言わないように意識してきた。むやみに説得することはエリナに負担をかける、と思ったからというのもある。
 しかし、私とて人間。エリミナーレがなくなるのは寂しいし、みんなと別れるのは辛い。それは事実だった。
 だから、今、凄く嬉しい気持ちである。

 朝食を終えると、私たちは一度それぞれの部屋へ戻る。そして荷物をまとめ、客室内を軽く整備し、部屋を出た。たった一晩過ごしただけだが、部屋との別れは少し寂しく感じられた。
「旅館とかホテルの部屋を出る時って、何だか寂しい気持ちになりませんか?」
 私の分まで荷物を持ってくれている武田に話しかけてみる。
 すると彼は首を傾げた。
「そうか?」
「なんとなく、しんみりしません?」
「……すまない。私にはよく分からない……」
 もしかしたら私だけの感覚なのかもしれない。
 私は小さな頃から、旅館やホテルの部屋とお別れするのを寂しく感じることがあった。一日二日とはいえ、食べたり寝たりと暮らした場所だから、寂しく感じるのだと思う。
「いえ。私が特別なだけだと思うので、気にしないで下さい」
「そうか?それならいいが」
 武田は両手に荷物を下げたまま、よく分からないといった顔つきをしている。
「すまない、沙羅。私は人の心に疎く、お前を分かってやれない……」
「大丈夫!大丈夫ですよ!」
 武田が落ち込んでは可愛そうなので、一応フォローしておく。
 彼は見かけによらず繊細なので、扱いが難しい。心も体と同じくらい頑丈ならいいのに、と若干思う。
「それに、だいぶ分かるようになってきてますって!」
「そうだろうか……」
「はい!武田さんは思いやりが成長しました!」
 もはや自分の発言の意味が分からぬ。
「それに、人への愛情も成長してますし!」
「だがそれは、沙羅、お前のおかげであってだな……」
 面倒臭い。
 これはもう、その一言に尽きる。
 だがしかし、今こうして彼と話せるのは、私が幸運だったからだ。見えない力のおかげである。それには感謝しなくては。
「とにかく、武田さんは武田さんのままでいいんです」
「……私のままで?」
「今の優しい武田さんが、私は大好きですから」
 すると彼は目をパチパチさせた。私の顔から視線を逸らし、気恥ずかしそうに黙り込む。そして、それから少しして、「ありがとう」と呟いた。
 なんと初々しい反応。
 純真さが垣間見えるこういうところが武田の美点だと、私は改めて確信した。
「沙羅ちゃん!武田!そろそろ行くよ!」
「あ、はい!」
 レイの声に返事をし、武田に視線を向ける。
「行きましょうか」
「あぁ、そうだな。行こう」
 武田の表情は柔らかかった。
 戦う時とは違う、他の者と話す時とも違う、私だけに向けてくれる特別な笑み。二人の時間を彩る彼の表情に、私も自然と頬が緩んだ。


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