コメディ・ライト小説(新)

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いちごミルクに砂糖は要らない。
日時: 2018/04/21 16:00
名前: 立花 ◆FaxflHSkao









 君がいなくなって、もう七年も経ったよ。

 でも、まだ、君を忘れられないんだ。




 □■□




 ◆ 一ノいちのせそら
 ◇ 当麻とうまえな
 ◇ 佐藤さとう奈々なな
 ◆ 香坂こうさか日向ひなた
 ◇ 白石しらいし小夜香さやか


 初めてこの作品を書いたのは私が中学一年生の時でした。つまらない授業を受けつつ、隠れてノートに小説を書いていたあの頃のことを思い返してみれば、今ではとても懐かしく感じます。それこそこの物語のように七年近くの時間が経ち、また書き直しをしようと思ったのは、この作品をちゃんと完結させてあげたいと思ったからです。七年の間にプロットはどこかに消え、覚えていたのは彼らの下の名前だけとなってしまいました。あの頃に書いていたような作品をもう一度書く、ということはできませんが、七年後の自分が彼らのハッピーエンドを描けたらなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 

 いちごミルクに砂糖は要らない。だって、甘すぎるから。君の、その嘘も。








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3 ( No.3 )
日時: 2018/05/03 22:01
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 八年くらい前に出会った。少女の名前は当麻えな。俺と同い年の女の子で、最初喋らないし笑わないし、お人形みたいなやつだと思っていた。
 出会った場所は病院。父さんが入院していた病院で、えなは父さんと同じ病室だった。
 初めて彼女が笑ったところを見たのは、父さんと二人でお話をしているとき。声を出して楽しそうにしゃべる彼女が、俺を見た途端黙りこくったのは気分が悪かった。父さんに愚痴ると決まって「シャイなんだよ、えなちゃんは」と擁護されるし、ただただむかついた。

「おまえさ、何様なんだよ」

 当時それはそれは生意気だった俺は、当然のごとく彼女に喧嘩を売った。彼女は俺を見て、やっぱり人形みたいににこりとも笑わずに口だけ動かした。

「なにさまって、なにが?」
「だから、父さんの前だけにこにこしやがって、すっげえ気分悪い」
「……おれともなかよくしてくれよ、ってこと?」
「……は!? そんなんじゃねえしっ」
「がきね、あなた」

 当麻えなはとても美しい少女だった。色素の薄い髪の色。焦点が合ってるのだかよくわからない藍色の瞳。彼女がいつも来ている白色のワンピースは、風に靡きながらふわりと俺の視界に映りこむ。口が軽やかに動く。ばか、と。

「お前、俺に馬鹿って言ったな」
「だって、ばかじゃない」
「うるせえ、俺は馬鹿じゃない!」
「そう? 小夜香は空のことばかっていってた」
「マジで」
「うそ」

 えながゆっくり立ち上がり、病室に戻った。俺も一緒についていって、彼女のベッドの隣に置かれたパイプ椅子に腰を掛ける。えながカーテンを指さしたので、俺はカーテンを引いて周りの雑音を遮断した。えなはペットボトルに入ったミネラルウォーターを口に含みながら、ふうと大きなため息をついた。

「みんな空のことがすきだから、それでいいんじゃないの?」

 唐突にえながぽつりと言葉を漏らし、天を仰いだ。ペットボトルのふたを閉めて温度の変化のない冷蔵庫に突っ込み、彼女は布団の中にもぐる。

「みんなから好かれてたら、俺は幸せなのか?」
「しらない、それは空がきめること」
「俺はお前に好かれたい」
「なにそれ、きもちわるい」
「うるさいな。俺はお前に無視されていることが気に食わないんだよ、わかれよ」
「空はしらないから」

 俺の言葉を遮るように、えなは言葉を紡ぐ。布団で唇が覆いかぶされて言葉が鈍って聞こえる。

 「空はなにもしらないから」

 えなは心臓の病気だった。移植手術が必要だかなんとか。ちゃんとしたことは知らなかった。知らなくていいと思った。だって彼女はこんなにも元気だったから。えなには友達がたくさんいたし、えなはいつも元気に走り回っていた。彼女にとって「死」は全然近くないし、むしろこの病院でいることが不思議でたまらないくらい。
 だから、彼女が移植して、あっという間に死んでしまったと聞いた時、やっぱりそんなことしなかったほうがよかったのにと思った。彼女は短命だった。それでよかったのに。
 父さんの心臓はえなに捧げられて、あっという間に、消えなくなってしまった。


4 ( No.4 )
日時: 2018/05/16 15:33
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 家に帰ると母さんが今日はお客さんが来るのよ、と嬉しそうに御馳走の準備をしていた。嫌な予感は的中するものだ。皿に盛られた唐揚げをつまみ食いしていると、家のチャイムが鳴った。出てきて、と母さんが和やかな声で言う。嫌だ、とは言えなかった。俺は重い足を引きずりながら、玄関へ向かいドアを開けた。そこにはさっき個展で会ったあの少女が立っていた。

「……えな」

 名前を呼ぶと、心臓がぎゅっと締め付けられて苦しくて息ができなくなりそうだった。彼女は俺の目を見て「はじめまして」と他人行儀に微笑みかけ、靴を脱いで家の中に入った。

「あらあら、来てくれてありがとう。今日は御馳走を準備したのよ、あなたのために」
「ありがとうございます。うれしいです」

 異様な光景に俺は声を失った。だって、彼女は、当麻えなは死んでるのだから。それなのに、どうして母さんは。
 違和感なんて全くないように会話を続ける二人に、俺は何も言えなかった。
 
 彼女は名前を偽らず「当麻えな」と名乗った。それなのに、母さんは何の反応もしない。後からこの状況がおかしいことを伝えても首を傾げるだけだった。
 彼女は有名な画家らしい。国外で活動していたけれど、拠点を日本に戻すということでこちらで住む場所を探しているらしい。見つかるまでホームステイさせてくれる場所を募集しているのを、母さんが快く引き受けた。ちぐはぐなその話に、気持ち悪くてもやもやした。
 
「ごめんね、勝手に決めて」
「いや、別にいいけど。本当に母さん覚えてないの、えなのこと」
「ごめんね、わからないわ。もう何年も前のことだしね、写真とかあったら思い出すかもしれないけれど」

 えながお風呂に入っている間、俺は家の中にあったアルバムを開けてえなの写真を探した。病院のみんなと一緒に映っている写真はたくさんある。父さんと、仲の良かった小夜香と日向、そして俺。でも、どこにもえなの写真がなかった。一緒に映っていたはずなのに。

「何で今更俺の前に現れたんだよ、えな」

 大事にしていた恋人に振られた日、俺が殺したあの少女が帰ってきた。まるで死神だ。俺の命をきっと狙いに来たのだ。俺が殺したから。俺が死まで追い込んで、苦しませて殺したから。
 彼女がお風呂から出てきたのに気づくと、俺はすぐにアルバムを引き出しの奥に突っ込んだ。えなはどうして生きているのだろう。あの日、死んだはずなのに。髪が濡れて色気のある妖艶な表情をした十八歳のえなは、俺を見てくすりと鼻で笑った。きっと、彼女だけが知っている。俺が知らなくてもいい、本当の「」を。


 一話 「 消えた甘い、それは、嘘つき 」

5 ( No.5 )
日時: 2018/07/10 23:29
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 あたしの彼氏には好きな人がいる。







 「なにこれ、空から」

 スマートフォンに反映されたメッセージは「世界が壊れた」という短いものだった。正直意味不明で、さっき別れたばっかの彼氏から連絡が来たことにも驚いたけれど、内容が不思議すぎてそんな感情吹っ飛んでしまった。
 最初はあたしと別れたことがそんなにショックなことだったのか、と少し嬉しかったけれどすぐに現実が突きつけられる。そんなわけないじゃん、だって彼には。
 そして、一つの結末が私の脳裏に浮かんで、ゆっくり消えていった。

「そっか、再会できたのかな。好きだった、ヒトに」

 付き合いだしたのは高校一年生の夏。あたしのひとめぼれだった。格別格好良かったわけでもないけれど、さりげない優しさや気遣いに惹かれて出会って三か月足らずで告白して付き合うまでにこぎつけた。付き合い始めてもうすぐ三年の大台も見えそうだねって最近話したばっかだったけれど、あたしはもうこんな関係は終わりにして彼には幸せになってほしいと思った。それくらいに、彼は、一ノ瀬空はあたしのことを好きじゃなかったのだ。

 高校三年になって将来を考えるようになって、あたしとの未来を考えてくれる空とこの先もずっと一緒にいたいと思った。だから、彼の本音を聞きたいと思って、あの日、ほんのちょっとずるをした。子供っぽいことをした、馬鹿なことをした、今になってすごく反省している。あんなことをしなきゃ、このままあたしたちは何も知らずに幸せな未来を描けたのに。

 あたしの誕生日に家に招いて、彼に内緒で酒を飲ませた。ジュースって言って嘘をついて、たくさん。酔いが回ってきたのか、調子が悪いと顔を赤らめた空を介抱しながら、あたしはゆっくり空に抱き着いた。このままあたしが空のものになれると、信じて疑わなかったから。
 ゆっくりあたしの腰に腕を回した空はあたしの耳元でぼそりと何かを囁いた。あたしは驚いて声が出なくて、何で、とバクバク煩い心臓の音を押し殺そうと必死で笑って見せた。涙はでなかった。


 「小夜香」



 あたしの名前じゃない。彼が抱きしめて愛を囁いて一緒に眠りたかったのはあたしじゃなかったのだ。
 最初は浮気してるって疑ったけれど、すぐに違うってわかった。空はそんな器用なことできない。あたしに好きっていうのも恥ずかしがるぐらいの不器用なあの空が他の女に乗り換えるなんて、できるはずがない。
 もしかしたら、昔好きだった人、なんじゃないかなって思ったら、あたしの体に勢いよく鳥肌が立ち、彼を拒絶した。あたしじゃない。あたしじゃない。


 本当に彼が好かれたかったのはあたしじゃなかった。その「小夜香」という女に少しだけ嫉妬して、その時に早く別れようって思った。でもそれから何か月たっただろう、踏ん切りがついたのがちょうど今日。

 恋人たちが幸せに過ごしている聖夜に、あたしはやっと言えた。君の幸せを一番に願っている。だから、さようなら。本当は大好き、空のことが。だから、空が本当に好きな人と幸せになってくれることを只管に願います。

6 ( No.6 )
日時: 2018/08/12 00:47
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

「なんで、ないてるの?」

 クリスマス当日。恋人たちが行き交うイルミネーションが綺麗な街並み、からは遠く離れた近所の公園であたしはブランコに座って空を見上げていた。散りばめられた星の屑はきっとこの宇宙の塵なのだろう。自然と溢れてきた涙はきっとこの夜空が綺麗だから、綺麗すぎたからだと、そんな言い訳をしていたところだった。

「……えっと、あの」

 ブランコの前で立ってこちらをじいっと見つめている少女は、あたしよりはきっと年下、百五十センチくらいしかない小柄な女の子だった。真っ白なワンピース一枚のとっても寒そうな格好で、あたしのほうが身震いした。


「あなた、「奈々」さんでしょ? 空のかのじょだった」
「え、っと。うん? 空の知り合い?」
「ねえ、あなたはもう空のことすきじゃないの?」
「え、だから、あなたは誰!?」
「ねえ、どうして空のことふったの? きらいになったの?」

 不思議な女の子だった。というよりはとっても変な女の子だった。
 あたしの話を全く聞かず、ぐいぐい空のことを聞いてくる。空の知り合いってことは正解っぽいけれど、それしかわからない。


「わたしもだよ」



 突然、彼女が微笑んで、突然、彼女が言った。



「わたしも、空がすきだったんだよ。あなたとおなじ、きっと」




 でも、「小夜香」には敵わない。彼女の口は間違いなくそう動いた。
 あたしの心臓はさっきよりもバクバクと喧しいほどに鳴り響き、頭はぐるぐると意味もなく高速回転を始めた。あたしは何も知らない。だけど、空のことは知っている。空の好きだった人の名前が「小夜香」であったこと、それはあの日、あたしの心が折れたきっかけだった。


「だからね、ほんとうはずっとくるしかったんだよ」
「え、だからあなたは一体……」
「ずっとずっとうそをつきつづけるのは、きっと、」





 人を殺すくらい、悲しいの。女の子はまたにっこり笑って、あたしの手をとった。

「はじめまして、わたし、空のおさななじみの「えな」っていいます」



 星の綺麗なクリスマスの夜。当麻、えな――彼女はそう名乗った。



7 ( No.7 )
日時: 2018/08/29 23:11
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 えなは不思議な女の子だった。不思議っていうか、変わっているっていうか、うん、なんだかどこか異世界からきたお嬢様みたいな。クリスマスに彼女に出会ってから、あたしは毎日彼女と出会った公園に足を向けた。えなはいつもその場所にいて、あたしに空の昔話を聞かせてくれた。えなと空の出会いは病院だったらしい。しかも、空のお父さんが入院していた病院。
 思い出すのはあまり踏み入られたくないんだろうなって、空がいつも避けてた話題。お父さんのことは絶対に彼は口にしなかった。

「空はねえ、うん、げんきなおとこのこだったよ。うるさかった」
「へえ、意外。今の空ってどっちかっていうと、クールっていうか無口? な感じだし」
「うざかったよ、ふつうに」

 えなが思い出し笑いみたいにふふっと声を出して笑った。少しぎこちないえなの喋り方も慣れてきた。今日も雪が降っている。それなのに彼女はマフラーも手袋もしていない。あの日から毎日あたしは彼女のためにお古のコートを持ってきてえなに着せた。えなはあたしと同い年というわりにとって小柄で、小学生と言われればそんな気もしなくないくらい顔も姿も押さなかった。

「空のともだちに日向っていうやつがいてね」
「ひなた?」
「日向といっつもわるいことして、なーすのおねえさんにおこられてた」
「悪戯っ子だったんだね。ほんと、想像できないや」

 彼女から空のことをたくさん教えてもらうけれど、いくら経っても彼女から「小夜香」の話は出てこなかった。一番気になる話題を、わざと避けているみたいにも思える。
 

「ねえ、じゃあその時に出会った子、なの? その、小夜香って子」

 どもりながら、あたしは勇気を振り絞って聞いてみる。えなはにこやかに笑ってた顔で静止して、ちらりとこちらを見た。それ聞くの? とまるで目で訴えかけられたみたいだった。ぞくっと背筋が凍り付いたみたいに、その表情から目が離せなくなって、ようやく笑ったえなの顔を見てあたしはようやく息を吐くことができた。

「そうだよ。小夜香はびょういんでであったの。もうすぐ死ぬんだよ」


 冷たいその瞳に、ようやく彼女の本当の姿を見た気がした。
 








 でも、奈々はなにもしらいないほうが、いいとおもう。



 当麻えなは一体何者なんだろう。疑問はゆっくり彼女に飲み込まれていった。好きな人が好きな人は、もしかしたら。



 空が本当に好きだったのは、彼女なんじゃないかって、そう気づいた時には遅かった。あたしはいつの間にかえなに食われていたんだ。


 二話 「 真冬の、優しい、それは幻想 」


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