コメディ・ライト小説(新)

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いちごミルクに砂糖は要らない。
日時: 2018/04/21 16:00
名前: 立花 ◆FaxflHSkao









 君がいなくなって、もう七年も経ったよ。

 でも、まだ、君を忘れられないんだ。




 □■□




 ◆ 一ノいちのせそら
 ◇ 当麻とうまえな
 ◇ 佐藤さとう奈々なな
 ◆ 香坂こうさか日向ひなた
 ◇ 白石しらいし小夜香さやか


 初めてこの作品を書いたのは私が中学一年生の時でした。つまらない授業を受けつつ、隠れてノートに小説を書いていたあの頃のことを思い返してみれば、今ではとても懐かしく感じます。それこそこの物語のように七年近くの時間が経ち、また書き直しをしようと思ったのは、この作品をちゃんと完結させてあげたいと思ったからです。七年の間にプロットはどこかに消え、覚えていたのは彼らの下の名前だけとなってしまいました。あの頃に書いていたような作品をもう一度書く、ということはできませんが、七年後の自分が彼らのハッピーエンドを描けたらなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 

 いちごミルクに砂糖は要らない。だって、甘すぎるから。君の、その嘘も。








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1 ( No.1 )
日時: 2018/04/20 21:59
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 覚えているのは彼女が死んだあの日のこと。俺が責め立てて真っ赤になった彼女の泣き顔を、俺は今でも鮮明に覚えている。繰り返し呟く「ごめんなさい」は震えていて、ひゅっと息を吸う音が苦しそうに鳴った。
 ふらりと彼女が倒れてからはあっという間だった。動かなくなった彼女に何度も声をかけた。強く体を揺らしても彼女が反応することはなかった。いつの間にか俺たちの前から姿を消し、先に旅立って行ってしまったのだ。
 俺は自分のせいで彼女が死んだという事実が怖くて、誰にもそのことを言えなかった。
 彼女のせいで全部壊れたんだ、彼女さえいなければ俺はこんな思いをしなかったのに。彼女に責任を転嫁して、俺は葬式には出席しなかった。学校に行きたくない、と母さんに言うと母さんは笑って俺の頭を撫でた。泣かないの、空は強い男の子でしょう、と母さんの目じりが下がって俺は自分が泣いていたことにようやく気付いたのだ。


 ◇

「別れようか、あたしたち」

 恋人が俺の隣で囁くような小さな声でそう言った。まるで、今日はいい天気だね、という軽い会話のようなトーンだった。クリスマス前に言われた別れの言葉に、俺はごくりと唾を飲み込んで、勢いよく彼女の顔を凝視した。

「な、どしたの急に。俺、何かした?」

 雪道を踏みしめる音が響いた。俺は思わず立ち止まったが、恋人はそんなの関係ないかのようにすたすたと歩きだす。くるりとスカートを翻してこちらを見た彼女は冷めた瞳で一回瞬きをして、ため息をついた。

「だってさ、空はあたしのこと好きじゃないでしょ」
「……なんでそんなこと言うんだよ。ちゃんと好きだよ」
「いいって、嘘つかなくても。忘れられない人でもいるんじゃないのかって思うくらい、空はいつもあたしじゃない他の誰かを見てる」
「ほ、他の誰かって誰だよ。俺はお前のことっ」
「あたしも知らない、誰かだってあたしが一番知りたいよ。でも、わかるんだ、あたしは空のことが好きだから」

 彼女は白い息を吐きだして「空はあたしのこと好きじゃない」と、言って灰色の空を見上げた。俺が誕生日プレゼントであげた藍色のマフラーを取り外して、俺の首元にふわりとかけた。丁寧にマフラーを巻いて、よしっと小さく呟いた彼女は今までにないくらいの笑顔で「ばいばい」と俺に別れを告げた。
 スタスタと歩いていく恋人がもう俺の元に戻ってくることはないだろう。彼女の温もりが残るマフラーが俺の冷たい体をあたためてくれる。振られたのか、ひとりぽつーんと突っ立っていると、ふいに個展のチラシが目に入った。足が動いたのは偶然だった。ちゃんと名前を見ていなかったのだ、当麻えな、というその名前を。

2 ( No.2 )
日時: 2018/04/27 22:39
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

「なんだ、これ」

 壁にかけられた色鮮やかな絵。それはとても美しく、きれいだった。
 でも、俺の目が引き寄せられたのは中央でひときわ目立つ黒い絵。多分、黒の絵の具で塗りつぶしただろうその絵は、とても恐ろしく俺の背筋を凍らせた。その絵の前で静止していると、後ろから「ねぇ」と小さな声がかかった。振り向くと、一人の少女が立っていた。俺の目を見て、にこりとも笑わず、口を動かす。

「きれいでしょ、まるであなたみたい」

 意味深な言葉に、俺はごくりと唾を飲み込んだ。見覚えのあるその顔に、俺は一瞬戸惑い、呼吸が荒くなった。誰かはわからないのに、背筋が凍り付いたみたいに、悪寒がして気持ち悪くなった。吐き気がして、焦点が合わずに世界がぐるぐると回転し続けた。それなのに、目の前の女の子だけは俺をじいっと見つめてくる。その視線は俺を軽蔑しているように思えた。

「ねぇ、君は誰……」
「わすれたの? わたしのこと」
「忘れたって、どういうことだよ、俺は何も忘れて」
「ちがうでしょ、わすれようってひっしだったんだから、空は」

 ようやく笑った少女のその表情に、幼かったころに俺が傷つけたあの少女を思い出した。彼女とすべてが重なって見えて、もうあの時の少女にしか見えなくなった。俺は震える唇を必死で動かして彼女の名前を呼んだ。

「……え、な?」

 昔、変な名前と彼女の名前を馬鹿にしたことがある。彼女の名前のえなを漢字で書くと「胞衣」になるらしい。幼いころの俺は胎児を包む膜と胎盤のことをいうその名前を、どうしても気持ち悪いとしか思えなかった。
 その名前に彼女は今度はにこりとも笑わずこくりと頷いた。背中からぶしゃっと湧き出た汗が止まることはなかった。でうしても嘘だと思いたかった。

「どうしたの、空」
「どうしたって、だって、お前、だって」


 言葉にするのは簡単なはずなのに、どうしてかその言葉は出てこなかった。
 個展のお客さんは俺だけ。きっとこの個展は彼女のものなのだろうと思うと何でか納得できた。

 お前は死んだはずじゃないか。

 俺が殺してしまった「当麻えな」が七年の月日を経て俺の前に現れた。
 きっと、俺を殺しに来たのだろう。復讐に来たのだ、俺の不幸を願いながら、きっと地獄から這い上がってきたのだ。
 荒くなる呼吸を整えようと深呼吸をするけれど、彼女の顔を見ると正気ではいられなかった。
 俺が殺した彼女は、俺の手に触れて指を絡めるように握りしめた。


「あいにきたんだよ、空」

 俺は会いたくなかったよ、とはどうしても言えなかった。

3 ( No.3 )
日時: 2018/05/03 22:01
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 八年くらい前に出会った。少女の名前は当麻えな。俺と同い年の女の子で、最初喋らないし笑わないし、お人形みたいなやつだと思っていた。
 出会った場所は病院。父さんが入院していた病院で、えなは父さんと同じ病室だった。
 初めて彼女が笑ったところを見たのは、父さんと二人でお話をしているとき。声を出して楽しそうにしゃべる彼女が、俺を見た途端黙りこくったのは気分が悪かった。父さんに愚痴ると決まって「シャイなんだよ、えなちゃんは」と擁護されるし、ただただむかついた。

「おまえさ、何様なんだよ」

 当時それはそれは生意気だった俺は、当然のごとく彼女に喧嘩を売った。彼女は俺を見て、やっぱり人形みたいににこりとも笑わずに口だけ動かした。

「なにさまって、なにが?」
「だから、父さんの前だけにこにこしやがって、すっげえ気分悪い」
「……おれともなかよくしてくれよ、ってこと?」
「……は!? そんなんじゃねえしっ」
「がきね、あなた」

 当麻えなはとても美しい少女だった。色素の薄い髪の色。焦点が合ってるのだかよくわからない藍色の瞳。彼女がいつも来ている白色のワンピースは、風に靡きながらふわりと俺の視界に映りこむ。口が軽やかに動く。ばか、と。

「お前、俺に馬鹿って言ったな」
「だって、ばかじゃない」
「うるせえ、俺は馬鹿じゃない!」
「そう? 小夜香は空のことばかっていってた」
「マジで」
「うそ」

 えながゆっくり立ち上がり、病室に戻った。俺も一緒についていって、彼女のベッドの隣に置かれたパイプ椅子に腰を掛ける。えながカーテンを指さしたので、俺はカーテンを引いて周りの雑音を遮断した。えなはペットボトルに入ったミネラルウォーターを口に含みながら、ふうと大きなため息をついた。

「みんな空のことがすきだから、それでいいんじゃないの?」

 唐突にえながぽつりと言葉を漏らし、天を仰いだ。ペットボトルのふたを閉めて温度の変化のない冷蔵庫に突っ込み、彼女は布団の中にもぐる。

「みんなから好かれてたら、俺は幸せなのか?」
「しらない、それは空がきめること」
「俺はお前に好かれたい」
「なにそれ、きもちわるい」
「うるさいな。俺はお前に無視されていることが気に食わないんだよ、わかれよ」
「空はしらないから」

 俺の言葉を遮るように、えなは言葉を紡ぐ。布団で唇が覆いかぶされて言葉が鈍って聞こえる。

 「空はなにもしらないから」

 えなは心臓の病気だった。移植手術が必要だかなんとか。ちゃんとしたことは知らなかった。知らなくていいと思った。だって彼女はこんなにも元気だったから。えなには友達がたくさんいたし、えなはいつも元気に走り回っていた。彼女にとって「死」は全然近くないし、むしろこの病院でいることが不思議でたまらないくらい。
 だから、彼女が移植して、あっという間に死んでしまったと聞いた時、やっぱりそんなことしなかったほうがよかったのにと思った。彼女は短命だった。それでよかったのに。
 父さんの心臓はえなに捧げられて、あっという間に、消えなくなってしまった。


4 ( No.4 )
日時: 2018/05/16 15:33
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 家に帰ると母さんが今日はお客さんが来るのよ、と嬉しそうに御馳走の準備をしていた。嫌な予感は的中するものだ。皿に盛られた唐揚げをつまみ食いしていると、家のチャイムが鳴った。出てきて、と母さんが和やかな声で言う。嫌だ、とは言えなかった。俺は重い足を引きずりながら、玄関へ向かいドアを開けた。そこにはさっき個展で会ったあの少女が立っていた。

「……えな」

 名前を呼ぶと、心臓がぎゅっと締め付けられて苦しくて息ができなくなりそうだった。彼女は俺の目を見て「はじめまして」と他人行儀に微笑みかけ、靴を脱いで家の中に入った。

「あらあら、来てくれてありがとう。今日は御馳走を準備したのよ、あなたのために」
「ありがとうございます。うれしいです」

 異様な光景に俺は声を失った。だって、彼女は、当麻えなは死んでるのだから。それなのに、どうして母さんは。
 違和感なんて全くないように会話を続ける二人に、俺は何も言えなかった。
 
 彼女は名前を偽らず「当麻えな」と名乗った。それなのに、母さんは何の反応もしない。後からこの状況がおかしいことを伝えても首を傾げるだけだった。
 彼女は有名な画家らしい。国外で活動していたけれど、拠点を日本に戻すということでこちらで住む場所を探しているらしい。見つかるまでホームステイさせてくれる場所を募集しているのを、母さんが快く引き受けた。ちぐはぐなその話に、気持ち悪くてもやもやした。
 
「ごめんね、勝手に決めて」
「いや、別にいいけど。本当に母さん覚えてないの、えなのこと」
「ごめんね、わからないわ。もう何年も前のことだしね、写真とかあったら思い出すかもしれないけれど」

 えながお風呂に入っている間、俺は家の中にあったアルバムを開けてえなの写真を探した。病院のみんなと一緒に映っている写真はたくさんある。父さんと、仲の良かった小夜香と日向、そして俺。でも、どこにもえなの写真がなかった。一緒に映っていたはずなのに。

「何で今更俺の前に現れたんだよ、えな」

 大事にしていた恋人に振られた日、俺が殺したあの少女が帰ってきた。まるで死神だ。俺の命をきっと狙いに来たのだ。俺が殺したから。俺が死まで追い込んで、苦しませて殺したから。
 彼女がお風呂から出てきたのに気づくと、俺はすぐにアルバムを引き出しの奥に突っ込んだ。えなはどうして生きているのだろう。あの日、死んだはずなのに。髪が濡れて色気のある妖艶な表情をした十八歳のえなは、俺を見てくすりと鼻で笑った。きっと、彼女だけが知っている。俺が知らなくてもいい、本当の「」を。


 一話 「 消えた甘い、それは、嘘つき 」

5 ( No.5 )
日時: 2018/07/10 23:29
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 あたしの彼氏には好きな人がいる。







 「なにこれ、空から」

 スマートフォンに反映されたメッセージは「世界が壊れた」という短いものだった。正直意味不明で、さっき別れたばっかの彼氏から連絡が来たことにも驚いたけれど、内容が不思議すぎてそんな感情吹っ飛んでしまった。
 最初はあたしと別れたことがそんなにショックなことだったのか、と少し嬉しかったけれどすぐに現実が突きつけられる。そんなわけないじゃん、だって彼には。
 そして、一つの結末が私の脳裏に浮かんで、ゆっくり消えていった。

「そっか、再会できたのかな。好きだった、ヒトに」

 付き合いだしたのは高校一年生の夏。あたしのひとめぼれだった。格別格好良かったわけでもないけれど、さりげない優しさや気遣いに惹かれて出会って三か月足らずで告白して付き合うまでにこぎつけた。付き合い始めてもうすぐ三年の大台も見えそうだねって最近話したばっかだったけれど、あたしはもうこんな関係は終わりにして彼には幸せになってほしいと思った。それくらいに、彼は、一ノ瀬空はあたしのことを好きじゃなかったのだ。

 高校三年になって将来を考えるようになって、あたしとの未来を考えてくれる空とこの先もずっと一緒にいたいと思った。だから、彼の本音を聞きたいと思って、あの日、ほんのちょっとずるをした。子供っぽいことをした、馬鹿なことをした、今になってすごく反省している。あんなことをしなきゃ、このままあたしたちは何も知らずに幸せな未来を描けたのに。

 あたしの誕生日に家に招いて、彼に内緒で酒を飲ませた。ジュースって言って嘘をついて、たくさん。酔いが回ってきたのか、調子が悪いと顔を赤らめた空を介抱しながら、あたしはゆっくり空に抱き着いた。このままあたしが空のものになれると、信じて疑わなかったから。
 ゆっくりあたしの腰に腕を回した空はあたしの耳元でぼそりと何かを囁いた。あたしは驚いて声が出なくて、何で、とバクバク煩い心臓の音を押し殺そうと必死で笑って見せた。涙はでなかった。


 「小夜香」



 あたしの名前じゃない。彼が抱きしめて愛を囁いて一緒に眠りたかったのはあたしじゃなかったのだ。
 最初は浮気してるって疑ったけれど、すぐに違うってわかった。空はそんな器用なことできない。あたしに好きっていうのも恥ずかしがるぐらいの不器用なあの空が他の女に乗り換えるなんて、できるはずがない。
 もしかしたら、昔好きだった人、なんじゃないかなって思ったら、あたしの体に勢いよく鳥肌が立ち、彼を拒絶した。あたしじゃない。あたしじゃない。


 本当に彼が好かれたかったのはあたしじゃなかった。その「小夜香」という女に少しだけ嫉妬して、その時に早く別れようって思った。でもそれから何か月たっただろう、踏ん切りがついたのがちょうど今日。

 恋人たちが幸せに過ごしている聖夜に、あたしはやっと言えた。君の幸せを一番に願っている。だから、さようなら。本当は大好き、空のことが。だから、空が本当に好きな人と幸せになってくれることを只管に願います。


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