コメディ・ライト小説(新)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

いちごミルクに砂糖は要らない。
日時: 2018/04/21 16:00
名前: 立花 ◆FaxflHSkao









 君がいなくなって、もう七年も経ったよ。

 でも、まだ、君を忘れられないんだ。




 □■□




 ◆ 一ノいちのせそら
 ◇ 当麻とうまえな
 ◇ 佐藤さとう奈々なな
 ◆ 香坂こうさか日向ひなた
 ◇ 白石しらいし小夜香さやか


 初めてこの作品を書いたのは私が中学一年生の時でした。つまらない授業を受けつつ、隠れてノートに小説を書いていたあの頃のことを思い返してみれば、今ではとても懐かしく感じます。それこそこの物語のように七年近くの時間が経ち、また書き直しをしようと思ったのは、この作品をちゃんと完結させてあげたいと思ったからです。七年の間にプロットはどこかに消え、覚えていたのは彼らの下の名前だけとなってしまいました。あの頃に書いていたような作品をもう一度書く、ということはできませんが、七年後の自分が彼らのハッピーエンドを描けたらなと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 

 いちごミルクに砂糖は要らない。だって、甘すぎるから。君の、その嘘も。








Page:1 2 3



8 ( No.8 )
日時: 2018/09/23 23:34
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 当麻えなには秘密がある。それは誰も知らない絶対極秘なものではなく、一部の人間ならだれでも知っている、限られた人にだけ隠された「真実」である。


***


 「ごめんね、えなちゃん」

 男の人が泣いていた。大好きだったあの人が泣いていた。
 私の頭をぽんっと撫でて、ぐしゃってして、青くなった唇を噛んで「さよなら」と。私をおいていった。私に大きな大きな重荷を背負わせて、いなくなった。その時に、私はまた思い出す。私のいる本当の意味を。

 「ばいばい、和彦さん。私がちゃんと、背負うから」

 約束はちゃんと守る。そのための私。私の存在意義は。
 うまく演じる。私ならできる。私しかできない。そう思うと胸がすっきりした。

 「ちゃんと演じるよ。あなたを殺した最低な「当麻えな」って女の子を私は演じるよ」

 どこにでもいる十歳の女の子。当麻えなは作られた存在で、私じゃない。本当の私は必要ないから。だから、私は大好きな彼と、彼の奥さんと、彼の息子のために悪役をしっかり演じ切るのだ。

 「和彦さん、和彦さん……私ね、ほんとうはね」







 当麻えながもう一度、空の前に現れることによって何が変わるんだろう。空のお母さんから電話がかかってきたときに、私は一度考えてみた。けど、何もわからなかった。死んだ人間が、もう一度戻ってくるなんて彼に取ったらただのホラーなのに。
 でも、なんでか久しぶりに会いたいと思った。七年ぶりぐらいになる。高校生になった空にもう一度会いたいと思った。私は不意にあの病院での日々を思い出した。いつもいつも、空と私と小夜香と日向と、四人でずっとずっとお話してた。どんな時もずっと一緒で。私から関係を壊した。みんな壊さないように自分たちの感情を上手に隠していたのに。私が最初にずるをした。
 そのせいで、私たちはバラバラになって。空の恋も。小夜香の恋も。日向の恋も。全部泡になってきえていった。私のせいだった。



 「オレは知ってたよ」

 病院を出る日。日向が私を追いかけてきて言ったあの言葉を思い出す。死んだといわれた少女を見ても、表情ひとつ変えなかった少年は、泣きそうな顔で言い放つ。

 「お前が空のために用意された人形だって」

 人形は失礼だよ、と私が言うと、彼は顔を真っ赤にして「好きなんだ」とぼそっと呟いた。

 「小夜香が可哀そうだよ」
 「あいつは一生オレのことを好きなんて言わない」
 「小夜香が死ななかったら、日向はあの子を愛せるよ」
 「そうじゃない。オレは……」


 みんな一方通行で。みんな失恋する運命だった。私たちは、だから友達である選択肢しか選べなかった。
 私のことを好きな日向を、
 日向のことが好きな小夜香を、
 紗耶香のことを好きな空を、
 風呂敷にぎゅうぎゅうに詰め込んで隠した。ばれて苦しみたくなかったから。
 空が好きだった私の心は、偽物だと自分に言い聞かせて、私は彼の人生から死んだ。だからもう二度と、会う気なんてなかったのにな。
 

 久しぶりの再会で、空の彼女に会った。この子の人生もぶっ壊したら、きっと空は私のことを今以上に憎んで、私のことを一生忘れないだろうなって。ずるいやつだった。私は昔からずるいやつだった。



 詐欺師の仕事は人をだますこと。依頼者の望みを遂行する。何も知らない息子に、何も気づかれないように上手く騙してほしい。和彦さんの望みは、空のための優しい優しい嘘だった。

9 ( No.9 )
日時: 2018/09/29 00:40
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 生まれた時から私の近くには「詐欺」という文字が溢れていた。結婚詐欺師だった私の母親が愛したのは警官の父で、彼自身も犯罪者を騙し上手く操って捕えるプロだった。結婚詐欺で近づいた父に逆に騙されて檻の中にぶち込まれた母親は自分よりも技術が巧みだった父に惚れてアタックしまくった。結果、結婚して私が生まれたらしい。と、いう惚気を小さいときから何度も聞かされて、私はいっつも甘ったるい生クリームを無理やり口の中にぶち込まれた感覚に吐き気が止まらなかった。
 両親の影響か、生まれた時から私は平気で「嘘」をつく女の子だった。それも絶対にばれないように上手く演技もできるらしい。それに気づいた両親が喜んで私を子役タレントが活躍する事務所に入れたのは、きっと私のこの不幸のはじまり。当麻えな、という名前こそ「嘘」だというように、私は演じることだけを、自分じゃない誰かになることだけを強要された。あなたはいらない、と言われているような感覚だった。

 大きな仕事がきても私に喜びはなかった。小学生の中学年になることには仕事も減ってきて、事務所の人からはこのまま続けるかやめるか、その二択を選ぶように言われた。どうでもいい、と答えたのを今でもよく覚えている。子役をやめたのは八歳のときだった。
 そして数年後に一枚の手紙が届いた。宛名は子役時代の私の名前だった。
 



 わたしは、あなたの演技がとても好きです。とても素晴らしいと思っていました。
 こんな手紙をあなたに宛てて書くのは本来、いけないことなのかもしれません。でも、わたしには時間がありません。どうか、あなたの力を、貸してほしいのです。



 一人の男性からの手紙だった。漢字がところどころ読めなくて、母親に読んでもらって私はその手紙の内容を知った。手紙の主は息子を持つとある父親から。もうすぐその父親は死ぬらしい。それをどうしても息子には言えなくて、どうにか息子が傷つかないように死ねるよう、彼の息子を騙してほしい、と。手紙にはそんな馬鹿なことが書かれていた。


「ねえ、おかあさん。どうして私がそんなこと、頼まれるの?」
「あら、私はこの人よく見てたなって思ったけど」
「どういうこと?」
「あなたは、ヒトを騙す適任なのよ。しかもこの息子ってあなたと同い年らしいし。この数か月だけ、あなたはこの子に嫌われればいいの。父親が死んだのはあなたのせいだって思わせて、全部怒りはこちらに向ければいい。できるでしょ、えなちゃんなら」

 母親がにやりと笑った。見たことのないその表情に、私は思わずどきんとした。
 これがいろんな男を騙してきた女の顔なんだろう。美しい、三十歳になったにも関わらず相変わらず母親は綺麗だった。

「私のせいでこの人が死んだってことにすればいいの?」
「そう、えなちゃん」


 あなたならできる、と魔法の言葉を私に囁いた母親はまたにっこりと口元を緩めて私の頭を撫でた。
 これが、十歳になる数か月前のことだった。

10 ( No.10 )
日時: 2018/10/09 00:33
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 手紙をくれた男性は、和彦さんといってとても家族思いの優しいお父さんだった。子役時代の私のファンで、初めて会ったときは握手しただけで舞い上がるくらいだったから、私は少し照れてしまった。
 奥さんもすごく優しい人で、でもだからこそ私に重荷を背負わせることが酷だと少し切なそうな表情で謝ってくれた。別に他人なんだから気にしなくていいのに、と思いつつ、私はにっこりと笑って頑張ります、といった。すべてが幸せで終わる、ハッピーエンドを作るのが私の役目だから。

 騙す相手になる一ノ瀬空に初めて出会ったのは、依頼者の両親二人に会ってから二日後のことだった。詐欺師であった私の両親の根回しで入院することになった私が、ちょうど和彦さんのお見舞いで来ていた空とばったり会った。同い年の私たちはすぐに意気投合、というかまあある程度喋るようになって、そこからこの病院に入院する同い年の少女を通じて深い仲に進んでいった。その少女の名前を、白石小夜香といって、私はすぐにわかった。空が彼女に気があることを。
 まだ十歳そこらの子供だったし、ちょうど異性を少しだけ意識するみたいなその程度のものだろうけど、空の小夜香に対する態度は他とは違った。三人でいるうちに少しだけ疎外感を感じて、それでも私はちゃんと笑った。だって、私は空の一番になる必要はないし、最終的な目的は彼から嫌われることだったし。

「何でこんなこと、してるんだろう、わたし」

 作られた「当麻えな」という少女は、空にとってはただの友達の一人で。それは私自身じゃなく、もう別物だった。空のことをちゃかして、こっちを向かせることで私は精いっぱい。そんな時に、一人の少年と出会った。ちょうど私たちと同い年で、彼もこの病院にいた。だけど、患者とかじゃなくて、病院側の人間。私たちが入院している病院の一人息子だった。

「お前、何で入院してんの」

 病院の花壇の奥に、小さなベンチがあって、ちょうど日陰になる場所で私の見つけた穴場だった。そこで日向に初めて会った。ここ、俺の秘密基地だったのに、と最初は少し拗ねてたけど、時間が経つうちに世間話をする仲になっていった。

「うーんとね、しんぞーのびょうき、かな」

 日向の前でもちゃんと私は当麻えなを演じていた。誰にも気づかれちゃいけないから。

「ふーん。じゃあ、こんなとこ来たら駄目じゃね? 早く病室帰れよ」

 日向は少しぶっきらぼうな少年だった。だけど、のちに私は気づいてしまうのだ。最悪の事実に。





 「……まじか」

 小夜香は不治の病にかかっているらしい。あんまりちゃんと聞いたことはないけれど、何百万人とかに一人の珍しい病気らしく、治療法がまだ確立されてないから、治ることはまずないでしょうと医者から言われているみたいだ。彼女は普段は車いすで移動をしているが、彼女の車いすを押していた人物を見て私は開いた口が開かなかった。

 小夜香は愛おしそうな目で彼を見ていた。それが日向だった。後から聞いたら、二人は幼馴染でよく日向に散歩に連れて行ってもらっているらしい。そして、また吐きそうな事実を私は彼女から告げられた。

 「わたしね、日向のことが好きなんだ」

 耳をふさいで、目を逸らしたくなるくらい、面倒くさい三角関係の出来上がりだった。
 

11 ( No.11 )
日時: 2018/10/26 13:27
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 恋という病は非常に厄介だ。感情を上手くコントロールできなくなって、自分が自分じゃなくなっていって、最後には何にも見えなくなるから。だから、駄目だ。
 最悪な形で三角関係を見つけてしまった私は大きなため息をついて、自分の病室に戻った。ふいに和彦さんに会いたくなって、彼の病室に訪れると、部屋の外にも聞こえるくらいの大きな咳き込む声が聞こえてきて、ぞっと私の背筋は凍り付いた。

 そうだ。彼は死ぬのだ。

 病室で看護師さんに背中をさすられている真っ青な顔をした和彦さん。私はこの状況を「見慣れ」なきゃいけないのに、その場に立ち尽くしたまま動くことも声をかけることもできなかった。

「空には見せられないでしょ。ごめんね、えなちゃん」

 後ろから空のお母さんの声が聞こえた。ペットボトルのお茶を三本手にもって、私にパイプ椅子に座るように促してくれる。

「私が死神になれば、全部解決するじゃないですか」
「そうやって、空を上手く騙しても結局最後にはバレちゃうんだと思うんだけどね。でもね、私たちにはそれしか選択肢がなかったの。どうしても言えないの、あの子が今、壊れちゃったらもう」



 父親を亡くしたら、空は壊れるのだろうか。死を見届けることが、そんなに「苦」になるのだろうか。
 本当はよくわからなかった。この家族の真意が。空は「何も知らなくていい」という、それは優しさじゃなくて、撥ね退けじゃないのだろうか。
 家族ってよくわからない。だから私は彼らに干渉はしない。上手く用意された役を演じ切るのだ。


「大丈夫です。空が私のことを信用して、裏切られて、当麻えなっていう人間を死ぬほど憎み続けるよう、私はそれだけのために今、生きてますから」








 和彦さんが死んだ日、その心臓は私に移植されることになったと、嘘の情報が空に伝えられた。
 無事手術が終わったと伝えられた空は私の病室に駆け込んできて、話がある、と言って私を裏庭のほうに呼び出した。




 お前のせいで、死んだんだ。父さんは、お前のために死んだんだっ
 お前がいなかったら、父さんは――


 選択肢があったらしい。それは後で知ったことだ。
 心臓移植の話がなかったら、その話をちゃんと断っていたら、その話を、嘘を作らなければ、和彦さんには生き延びる可能性があったのだ。大きな手術だけど、未来はまだ微かに見えていたのに。それを蹴って、すべてをただの「他人」に捧げたのが気に入らないのだろう。そうだ、そうやって私は空から否定されるように作られた、用意された人間なのに。
 きっと手術をして、成功してもどんどん弱っていく姿を空は見れないと思ったのだろう。優しい家族だったから、人の死の様子を、崩れていく時間を息子には見せたくなかったんだ。


 ごめんなさい。ごめんなさい。何度も何度も謝って、私は嘘の涙を瞳からこぼす。
 呼吸がどんどん荒くなっていって、過呼吸みたいになって、脳に酸素が回らなくなって、私はばたりと倒れた。不安そうな表情の空が私の体を揺すって、声をかけて、悲鳴を上げる。
 清々しいくらいの青空に、私はゆっくり意識が曖昧になっていく。この物語は、一度これで終わった。当麻は、そうやって死んだ。もう、空の前には現れない。そういう約束をして、和彦さんのお墓の前で私は泣きながら花を手向けた。

Re: いちごミルクに砂糖は要らない。 ( No.12 )
日時: 2018/11/03 22:35
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY

はじめまして。友桃(ともも)と申します。

タイトルに惹かれてクリックしたのですが、予想とは違ってミステリアスな雰囲気のお話で、とてもおもしろかったです。
空くんとえなちゃん2人の関係だけでも不思議な部分がたくさんあって、わくわくしながら読んでいたのですが、
空くんが呟いたのが小夜香ちゃんの名前だったときにすごくびっくりしてそのまま先が気になって最新話まで一気読みでした!

こういうミステリアスな雰囲気の小説を私は書けたことが無いので、うらやましいです^^

執筆がんばってください!

友桃


Page:1 2 3



スレッドをトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。