コメディ・ライト小説(新)

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こひこひて
日時: 2018/01/29 22:18
名前: いろはうた

恋ひ恋ひて

後も逢はむと

慰もる

心しなくは

生きてあらめやも


万葉集 巻十二 2904 作者未詳






あなたに恋い焦がれ、
またきっと会えると、
強く己を慰める気持ちなしでは、
私はどうして生きていられるだろうか。
そんなことはできない。







綺宮 紫青

綺宮家の若き当主。
金髪青紫の目の超美青年。
鬼の呪いで、どんな女性でも虜にする。
そのため、愛を知らない。
自分の思い通りにならない梢にいらだち
彼女を無理やり婚約者から引き離し、自分と婚約させる。
目的のためには手段を択ばない合理的な思考の持ち主。



水無瀬 梢

綺宮家分家筋にあたる水無瀬家、次期当主の少女。
特殊能力を買われて水無瀬家の養子となる。
婚約者である崇人と相思相愛だったが、
紫青によって無理やり引き離され、無理やり紫青と婚約させられる。
しっかりとした自我をもった少女。

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Re: こひこひて ( No.83 )
日時: 2020/03/28 23:08
名前: いろはうた

「どうもせぬ。
 そのままだ。」

憮然とした表情で紫青が、そう言う。
ぶわりと心が黒に染まった。
思い出したのは、
少し前に氷の鏡で見てしまった
美しい姫君だ。

「……私を、妾にされるおつもりですか?」

自然と押し殺された声が漏れた。
紫青の整った眉が
きゅっとひそめられる。
手と肩に勝手に力が入ってしまう。
梢の手は、いまだに紫青に
握られたままだった。、
梢につられ、紫青も視線を
手元に落としたが
強く握りなおしてきただけだった。
それに安堵している自分が
とても弱いものに
成り下がってしまった気がした。

「なぜ、そうなる。
 妻にするといったはずだ。
 ……たとえ、ほかの男に未練を残し
 おれの気持ちを弄び、
 それを盾にした挙句、
 脅しすらする悪女であろうともな。」

思いもよらぬ強い言葉に
梢は小さく震えた。
紫青が言っていることは
ほとんど何も間違っていない。

「私は崇人様に、
 未練など残しておりません。」
「……どの口が。」

紫青が一段低くなった。
不快そうに整った顔が歪んだ。

「崇人様は、私の守り手だったのです。
 婚約者という形が
 私を一番見守りやすかったのかと。
 私たちにの間には親愛の情以外、何も。」
「はっ……どうだか。」

横を向いて鼻で笑われ、
梢は珍しくむっとした。
正直にありのままを
話しているというのに
なぜ取りあってくれないのか。

「……そういう
 あなた様こそどうなのですか。」

とげとげしい口調になってしまうのを
止められない。
少し驚いたように見開かれた
青紫の目がこちらを向いた。

「私を結界に閉じ込めた際に
 美しい姫君と逢瀬を
 重ねていらっしゃったではありませんか。」

思い出しただけで
胸が焦げ付きそうだ。
この思いがどういうものなのか
もう蓋をしても無視をしても
梢は理解していた。
唇をかみしめる。
かさついた感触とともに、
口の中に鉄の味が広がった。

Re: こひこひて ( No.84 )
日時: 2020/04/04 21:40
名前: いろはうた

「…おまえ。」

呆然としたような
紫青の声が聞こえる。
ますますじりじりとした
いら立ちが増していく。
意固地になって、
梢は紫青から視線をそらした。

「おまえ、嫉妬しているのか。」

思いもよらぬ言葉に
ぱっと紫青の顔を見てしまった。
紫青の顔は純粋な驚きと
あとはよくわからない
雑多な感情が入り乱れている。
顔がじわじわと熱くなり、
耳が溶けてしまいそうだ。
図星を刺され、
どうすればいいのかわからなくなり
落ち着きなく視線をさまよわせていると
突如、紫青に抱き寄せられた。

「な、なにを……!!」
「……かわいい。」

耳に落とされた小さなつぶやきに
目を見開いた。
今、彼は何と言った。

「……やはり、
 早く祝言を挙げねば。」

ぼそりと落とされた呟きに
ぞわわと毛が逆立った。
混乱でうまく思考がまとまらない。

「な、なにを
 おっしゃっているのですか!?」
「何度も言っている。
 妻にする、と。
 ああ、妾ではないぞ。
 正妻だ。
 ほかに妻は娶らぬゆえ
 俺の妻はお前だけだ。
 必然的にお前が正妻だ。」

至極当然のことを
まるで幼子に対するように
懇切丁寧に言って聞かされ
ようやく梢は悟った、
紫青は本気なのだと。

「ああ、あとお会いしていたあの方は
 兄上の奥方だ。
 おれは人妻に手を出すような
 下郎ではない。」

おまえがいるしな、と
信じられない言葉が耳を通過したが
気のせいだと思いたい。
だが、驚くほど
心が軽くなっているのが分かった。

「わ、私は、あなた様と
 敵対する一族の末裔で…!」
「正統なる皇族なのだろう。
 血筋に問題ないな。」
「帝殺しの大罪人をかばった者で!」
「ああ、まったくだ。
 おまえの命を盾にされて
 絶望的なほど
 おまえに惚れているのだと
 思い知らされた。」
「あ、あなた様の
 どんな女性も虜にする
 鬼の呪いにかかっているやも…!」
「かかってくれていたら、
 これほどまでに苦労していない。」

ふにっと柔らかいものが頬に触れた。
少しして離れていく
形の良い唇を見て、
梢は声にならない声を上げた。

「おまえを好いている。」

梢は今度こそ雷打たれたように
固まってしまった。

Re: こひこひて ( No.85 )
日時: 2020/05/10 22:26
名前: いろはうた

帝の崩御から、一年余りの月日がたった。
長かった喪が明け、都は活気づいていた。
数日後に、第三皇子である紫青が
帝として立つことになったからだ。
新しい帝の誕生に、都中が
そわそわと浮足立つような雰囲気に包まれていた。
帝の座欲しさに、
紫青が兄たる今は亡き帝を襲ったのではないか、
などという噂も飛び交いもした。
しかし、紫青が指揮を執り、
民のためとなる施策を様々に打ち立て
噂は霧散していった。
民が、浮足立っているのは、
もう一つの理由がある。
就任の儀と同時に、帝が祝言をあげるからだ。
古き後続の血筋を引く、
由緒正しい生まれの姫君だとしか公表されていない。
都中に知れ渡るほどの美男子である、
新たな若き帝の心を射止めた姫君は
いったいどこの誰なのだろうと、皆が噂をした。
その噂の中心人物である梢は、
もうすぐ祝言だというのに
浮かない表情でため息をはいていた。
もうすぐ、紫青と夫婦になる。
紫青は、家臣たちの猛反対を
あの手この手でひらりとかわし、
ついに梢との正式な祝言をあげるところまで
こぎつけたのだ。
最終的には、古い家臣たちに、
梢の一族の話をちらりと出して
半ば脅すようにして反対派の家臣たちを黙らせたのだ。
紫青と夫婦になる。
それは普通の夫婦とは違う。
梢と紫青は、帝と皇后となる。
しかも、もともとは敵対した一族同士。
紫青の一族は一族の敵なのだ。
その紫青と添い遂げ、幸せになるのは
なくなった一族の皆、
父と母に申し訳が立たない気がした。
許されないことをしてしまう気がしたのだ。
祝言の日が近づくにつれ、
それをますます自覚してしまい、
気持ちがふさいでいくのを感じた。
こういう時に限って、紫青はそばにはいない。
彼は新しい帝になるための儀式の準備に
半ば無理やり駆り出されている。
仕方のないことだとわかってはいるが、
やはり心が頼りなく揺らいでしまう。
ここ数日はろくに紫青の顔も見られていなかった

Re: こひこひて ( No.86 )
日時: 2020/05/19 22:09
名前: いろはうた

梢は静かに部屋を出ようと襖に手をかけた。
夜になっても部屋に戻らぬ紫青を
同じ場所で待ち続けるのも、少し気がめいってきたのだ。
まだ夫婦の生活も始まっていないというのに
この体たらくでは先が思いやられる。
小さく息を吐いて襖を開く。
そこには、月明かりに照らされる
荘厳な庭園が広がっていた。
雅やかな咲き乱れる花の匂いがあたりに満ちていて
むせ返りそうになるほどだった。
視界の端に、控える護衛の者たちが映る。
梢は一人になる時間が欲しかったのだが、
四六時中護衛がいるため、それがかなわない。
1年前までは、自分だって同じ場所にいたのに、と
不思議な気持ちになる。
きらびやかなものに囲まれ
宝玉のごとく大切に守られる生活。
何一つ不自由はしていないのに、
どうしても息苦しい。
梢は少しだけ紫青が厭世的で、いつもけだるげで
つまらなそうにしている理由が
少しだけわかったような気がした。
紫青も、梢が護衛についたとき
こんな気持ちを抱いていたのかもしれない。
庭の池を見つめながらそう考えていると、
どさり、と重いものが倒れる音がした。
はっとしてそちらを見やると、
声もなく護衛の者たちが
折り重なるようにして倒れていた。
背に冷たいものが走る。
刺客か。
梢はさっと羽織を脱いで身構えた。
指先に意識を集中させて、冷気を纏う。
さっとあたりに視線を走らせたが、
殺気は感じられない。
恐ろしいほどの手練れだ。
殺気も感じさせずに護衛の者たちを、
全員倒してしまった。
まるで、術でも使って昏倒させたかのようだ。
これほどまでに広範囲に、
高度な術を使える人間など限られている。
紫青の顔がすぐに浮かんだがすぐに打ち消す。
違う。
紫青がこんなことをするはずがない。
だとすれば。
いやそんなまさか。
梢は浮かんだ顔を必死に打ち消した。

「梢様」

だというのに、たった今、思い描いた声が聞こえた。
その男は闇に溶け、混じるようにして立っていた。
梢の手は力を失って、ぶらりと垂れた。

「たか、と、様」

声がかすれて、小さく消えた。
はい、梢様、と彼は小さく返した。
1年ぶりにその姿を見る彼は、
月光の陰であまり表情は見えないが、
まぎれもなく崇人だった。
梢は、よろよろと崇人のほうに歩いて行った。
どうしてここにいるのか。
どうやってここがわかったのか。
今までどうしていたのか。
無事に過ごしていたのか。

何をしにここに来たのか。

いくつもの聞きたいことがあふれて
何も口にできない。

Re: こひこひて ( No.87 )
日時: 2020/05/21 20:37
名前: いろはうた

梢の足はぴたりと止まった。
無言で崇人を見つめる。
彼は少しも動くそぶりを見せなかった。

「どうして……?」

ようやく一言だけ言葉を絞り出した。
たった一言。
だがそこに万感の思いがこもっていた。

「崇人とお呼びくださいと
 あの時何度も申し上げましたのに。」

やわらかい声音で苦笑する気配を感じた。
優しいあの日々と何も変わらない崇人の声。
梢は、黙って崇人を見つめ続けた。
顔は見えない。
だが感じられる。
崇人は、まだ、梢を許せない。
きっと一生許せない。
梢への憎しみを指摘しても
崇人は認めないだろう。
強くあの時のように否定される。
しかし、それは己に言い聞かせようと
しているだけで、
心の奥底では、憎み続けているのだ。
他の誰でもなく、梢を。

「貴女様のお姿を、一目見に」

違う。
絶対にそんなことはない。
自然体で立っているように見えて
崇人には隙が見えない。
もっと他に目的があるはずだ。

「真実を、崇人様……崇人。」

月光がひときわ強く輝き、
崇人の横顔を照らした。
彼は、なんともいえぬ表情をしていた。

「やっと呼んでくださいましたね。」

優しい崇人。
幼い日のかすかな思い出がよみがえる。
あの日の面影が、
今目の前にいる崇人と重なった。

「真です、梢様。
 貴女様が幸せかどうかを
 確かめに参りました。」
「いいえ、私が憎いでしょう。」

崇人はわずかに目を見開いた。
しかし、なんともいえぬ表情は変わらない。
梢は浅く息を吐いた。
あたりに一瞬静寂が満ちる。

「……ええ、貴女様が、
 きっと私は憎いのでしょう。」

今度は梢が目を見開く番だった。
まさか、崇人が認めるとは思わなかったのだ。
わかっていたことだ。
だが、鈍く胸が痛む。
誰かを憎むのはきっと苦しい。
それを、崇人に一生させてしまうことが
苦しく、つらかった。

「ですが、同じくらい、貴女様を……」

崇人は途中まで言いかけたが、
逡巡するそぶりを見せ、
やがて口をつぐんだ。

「なぜ、貴方様はそうなのだろう。」

ぽつりと崇人はつぶやいた。
抽象的な表現に意図をつかめず、
梢は眉をひそめた。
ふわりと空気が動く。
気づけば、梢は崇人に
強く引き寄せられ抱きしめられていた。
あまりにも自然な動作だった。
何が起こったのか、一瞬理解が追い付かず、
梢は固まっていた。
緩やかに力を籠められる。
それは抱擁の度を越していた。
ぎりぎりと込められる力に、
骨がきしむのがわかる。
息がうまくできない。

「苦しいですか?
 苦しいでしょう。
 ……だが、私はもっと苦しんだ。
 己が手を赤に染め、
 闇を駆けずり回った。」

崇人の声は穏やかだった。
だが、それはただ穏やかではない。
やわらかい布に、
熱く熱した石をくるんだような声だった。
押さえきれぬ激情が僅かに滲んでいた。
梢は、顔をゆがめた。

「同じ苦しみを味わってもらわねば、
 理に合わぬ。
 こんな。
 こんなにも苦しめておいて……。」

崇人の声がかすれて震えた。
彼は泣いていない。
しかし、崇人が泣いているのではないかと
梢は、錯覚した。

「貴女様は、忘れろとおっしゃる。
 逃げろとおっしゃる。」

梢はかすかに身じろぎをした。
生理的な涙で目の前がかすむ。

「あの時どれほどの屈辱と共に
 貴女様を盾に、惨めに去ったと。
 過去をすべて忘れ、無邪気にほほ笑む
 貴女様が……どれほど……どれほど……」

最後は声にならず風に紛れて消えた。
僅かに崇人の腕から力が抜ける。
梢はようやくまともに呼吸ができ
苦し気に呼吸を繰り返した。

「……なぜ逃げぬのです。
 私が貴女様を攫うやもしれぬというのに。
 憎しみに我を忘れ、
 貴女様を手折るやもしれぬ。
 なぜ、氷術を使わぬのですか。」

そう言うと、崇人は
梢の首に手をかけた。
梢はされるがままで、じっと動かなかった。
その首元の肌に
崇人の指がかすかに食い込んでも
抵抗しなかった。
ゆるゆると崇人の体から力が抜けていく。

「泣かないで、崇人。」

崇人がはっと息をのむ気配がした。

「私は、貴方の憎しみから
 逃げたりなどしない。
 貴方の苦しみは私の苦しみ。
 崇人が望むのなら、
 私は……」
「やめろ……!!」

崇人の鋭い声が闇を打った。
梢は静かに口を閉ざした。

「やめて、ください。」

その声は、迷い子のように
頼りなく震えていた。


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