コメディ・ライト小説(新)

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こひこひて
日時: 2018/01/29 22:18
名前: いろはうた

恋ひ恋ひて

後も逢はむと

慰もる

心しなくは

生きてあらめやも


万葉集 巻十二 2904 作者未詳






あなたに恋い焦がれ、
またきっと会えると、
強く己を慰める気持ちなしでは、
私はどうして生きていられるだろうか。
そんなことはできない。







綺宮 紫青

綺宮家の若き当主。
金髪青紫の目の超美青年。
鬼の呪いで、どんな女性でも虜にする。
そのため、愛を知らない。
自分の思い通りにならない梢にいらだち
彼女を無理やり婚約者から引き離し、自分と婚約させる。
目的のためには手段を択ばない合理的な思考の持ち主。



水無瀬 梢

綺宮家分家筋にあたる水無瀬家、次期当主の少女。
特殊能力を買われて水無瀬家の養子となる。
婚約者である崇人と相思相愛だったが、
紫青によって無理やり引き離され、無理やり紫青と婚約させられる。
しっかりとした自我をもった少女。

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Re: こひこひて ( No.37 )
日時: 2018/07/25 21:44
名前: いろはうた
参照: https://mypage.syosetu.com/485123/

そこまで考えて梢は目を伏せた。
紫青がずっと一人であろうと、梢には関係のないことだ。
ぐっとかんざしを握り締めた。
紫青はちらりと梢を見やった。

「そういうおまえは、何だ。」
「何がでしょうか。」
「その手だ。」
「手、ですか……?」

梢は自分の手を見下ろした。
先ほどまで氷に覆われていたため冷え切っているが、
既に氷は完全に溶け切ってしまっている。

「おまえ自身が氷化しているわけではないと言ったな。」
「……?
 はい。」
「だが、少なからず、あれほどの冷気と氷にさらされていれば
 いくら冷えに慣れた人間でも限度があろう。
 おまえ、氷を長い時間を操ることはできないな?」

梢は押し黙った。
紫青の言う通りだった。
氷力の弱点を直接口に出され、梢は咄嗟に何も言えなかった。
無言を肯定と受け取ったらしい紫青はふっと息を吐いた。
その目は何かを考え込むように遠くを見つめている。

「おまえの氷の術、魔術でもなんでもない。
 非常に高等な式術の一種だな。」
「え……?」

物心ついたころから自分の氷力は天性のものだと思っていた梢は
驚いて目を丸くした。
そのようなこと、考えたこともなかった。

「一切の詠唱を行わず力を行使するゆえ、
 おれでもすぐには気づけなかったが、間違いないな。
 詠唱も紋様も術式も不要な程、高等な式術だ。
 これほどまでに高等な式術はおれでも使えない。」

梢は、先ほどの紫青の式術を思い出した。
紫青の足元に五芒星の術式が浮かんだり、
詠唱の末に術が発動していた。
紫青の反応から見るにあれが一般的な式術なのだろう。
いや、紫青は上位の式術を扱えると聞いたことがある。
となると、あれも相当簡略化された術式なのだろう。
それに比べても、梢の氷力が式術だとすると
さらに簡略化されたものとなる。
紫青の鋭い視線が梢をまっすぐに射貫いた。

「……おまえ、何者だ?」

梢はすぐには答えられない。
それは、梢自身も分らなかったからだ。
特殊能力を買われて今の家の養子に入ったことまでは覚えている。
それ以前の記憶が完全に抜け落ちている。
その時、己がひどく幼かったせいもある。

「わかり、ません。
 私には血のつながった家族がおらず、
 身寄りのない幼い私を今の家が拾ってくださいました。」

眉根を寄せて、吐き出すように言葉を紡ぐ梢を
紫青はじっと見ている。
まるで真偽を見定めているかのようだ。

Re: こひこひて ( No.38 )
日時: 2018/07/26 00:14
名前: いろはうた
参照: https://mypage.syosetu.com/485123/

梢は、唇をかみしめて視線を伏せた。
自分の出自をあまり深く考えたことはなかった。
平民の出自で、身寄りがなかったのだと
養父と養母に言われていたのを疑ったことがなかったからだ。
だが今思えば、この氷力は
平民の子供に突如現れるような能力だとは考え難かった。

「私は……今まで、己の出自について
 深く考えたことがありませんでした。」
「言われることを言われるがままに
 傀儡のごとく受け入れてきたということか。」
「……返す言葉がありません。
 私にとって、私の家、そして崇人様だけが
 私の世界、私のすべてでしたから……。」

ぴくり、と紫青の眉が動いた。
じりっと紫青が動いて少しだけ距離が詰まった。
気配でそれを感じた梢ははっとして視線を上げた。

「平城家の……崇人だったか。」

どうやら、歌会の時に一度しか会っていないのに、顔と名前、家柄を一致させてしまっているのはさすが大貴族というべきか。
だが、紫青の声には明らかに不機嫌な色が見え隠れしていた。
何故ここで機嫌が悪くなるのかわからず、困惑してしまう。

「許嫁、だとか言っていたな。
 家が決めた許嫁だろう。
 好いているのか?」

突然のことにぽかんとしていたが、
じわじわと意味を悟り、ぶわっと頬が熱を持つのが分かった。
その様子を紫青は目をすがめて見ているが
梢はそれに気づく余裕はなかった。
なんだかいてもたってもいられなくなって、
梢は床に手をついて立ち上がろうとした。

「夜も遅いので、しっ、失礼いたしま……。」

動揺のあまり声が裏返ってしまったが、
それを恥ずかしく思う間もなく、世界がぐるりと回った。
正確には、ぐいっと紫青に手首をつかまれ引き戻された挙句、
肩を強く押されたのだと悟った。
全身に衝撃に走るだろうと体を硬くしたが、
予想していたような衝撃はなく柔らかい何かに体を受け止められた。
布のような感触を背と頭に感じる。
そうだ、もう夜も更けてずいぶん経つ。
既に褥は引かれていたのだ。
さっと梢の顔色が変わった。
ばくばくと心臓が早鐘を打つ。
先ほど、紫青は手を出さないと言った。
だが、彼だって男性だ。
その保証はどこにもない。

「お、お放しください!!」

起き上がろうとしたが、肩をさらに強く押さえつけられた挙句、
紫青はのしかかるようにしてこちらの顔をのぞき込んできた。
梢は唇をかみしめて己の迂闊さを呪った。
こんなにも紫青が男なのだと強く意識したことはなかった。
心臓がますます早く脈打つ。

「質問に答えろ。」

先ほどよりもいっそう機嫌悪そうに青紫の目は細められている。
何故か目の前にある形の良い薄い唇に目が行ってしまい
あわてて視線をそらした。
すると、長い指が顎をとらえて、強引に前を向かせた。
言い逃れは許さない瞳だ。
梢は逡巡していたが、逃れられそうにない。

「おっ、お慕い申し上げております!!」

半ば自棄になった梢は、
真っ赤な顔をして涙目で叫ぶようにして言った。
それを至近距離で見聞きした紫青は、
驚いたように目を見開いて、固まった。
わずかに肩を押さえつける力が緩み、
梢は全力で拘束を振りほどいて、紫青から逃れた。

「しっ、失礼いたします!!」

梢は転がるようにして、紫青の部屋を後にした。
はしたなくも廊下を全力で駆けたが、彼は追ってこなかった。

Re: こひこひて ( No.39 )
日時: 2018/08/08 02:26
名前: いろはうた
参照: https://mypage.syosetu.com/485123/

朝日がまぶしい。
そう感じて、梢の意識は急激に浮上した。
昨夜、短時間に様々なことが起きて、
そのことを考えるあまりなかなか寝付けなかった。
しかし、いつのまにか眠ってしまっていたようだ。
慌てて起き上がると、梢は着替えるために小袖の帯に手をかけた。
しかし、そこでやけに屋敷が騒がしいことに気付いた。
せわしない足音にひそやかに交わされる会話が耳に届く。
いつもは静かな屋敷が、妙に慌ただしい雰囲気に包まれている。
梢は、急いで着替え終わると、
朝餉のために使用人が使う食堂に向かった。
廊下を歩いていると、早足で歩きまわる使用人たちと何度もすれ違った。
やはり、何かあったのだ。
いぶかしく思いながらも、くりやを覗いた。
そこには、いつも通り忙しそうに
朝餉あさげの支度をする下女たちの姿があった。
そのいつも通りの光景を見て少しほっとしてしまう。
しかし、胸騒ぎがしてならない。
梢は自分の分の汁物、煮びたしと麦飯を取ると、
狭い食堂にて手早く朝餉を済ませた。
食堂を出ると、その足でまっすぐ紫青の部屋へ向かう。
この時間だと、紫青はまだ
朝餉に箸を付けようとしている時間帯かもしれない。
昨日の今日で顔を合わせるのは若干気まずかったが、
いつもの傲岸不遜な紫青の顔を無性に見たくてたまらない。
あっという間に、紫青の部屋の前に着いてしまった。
いつもの護衛を始める時間にはまだ早い。
どう声をかけたものかと、襖の前で逡巡していると
誰だ、と襖の向こうから紫青の硬い声が聞こえた。
気配に聡い紫青は
襖の向こうに梢が立っていることにすぐに気づいたようだ。
いや、ここ最近の度重なる襲撃に、
警戒を怠るわけにはいかないのだろう。

「朝早くに申し訳ありません、梢にございます。」

そう言ってから、数泊のちに襖が開いた。
怪訝そうな顔の紫青が顔をのぞかせた。
いつもの紫青だ、と安堵したが、
その身を包む衣が黒一色であることにふと気づいた。
いつもの薄い色の水干とは随分と印象が変わる。

「どうかしたのか?」
「いえ、あの……」

どうかしたのか、と真正面から問われると
何と答えたらいいのかわからない。
少しうろたえたあと、
梢は歯切れ悪く言った。

「その……お顔を、見たくなっただけです。」
「……。」

紫青は何も言わない。
梢はいたたまれなくなって、身をわずかに縮ませた。
顔が見たくなったという理由だけで
主の部屋を訪れる護衛役などそういないだろう。
ちらりと紫青の顔を見上げると、
彼は不思議なものを見るかのように梢を見ていた。
視線が合うとスッと目を細められる。
その視線は、梢の目から梢の頭にあるかんざしのあたりを彷徨った後
ゆっくりとそらされた。

「……まぁ、いい。
 おまえも支度をしろ、梢。」

梢はまばたきを繰り返した。
昨日から、紫青は、梢のことを名前でも呼んでくれるようになった。
胸の内が温かくなるようなくすぐったくなるような
不思議な感覚に襲われる。
少しだけ紫青との心の距離が近くなったかのような錯覚を覚えた。

「はい。
 どちらに向かわれるのですか?」

紫青が朝早くから出かけることと、
屋敷が慌ただしいのは何か関係があるのかもしれない。
そう思って尋ねたのだが、紫青の顔が曇った。
初めて見る紫青の表情に胸騒ぎを覚える。

「……今帝の、兄上の葬儀だ。」

Re: こひこひて ( No.40 )
日時: 2018/08/08 15:02
名前: いろはうた
参照: https://mypage.syosetu.com/485123/

帝の葬儀は、雨の中ひそやかに執り行われた。
梢も紫青の護衛として末席に参列した。
そこでわかったのは、帝が亡くなったのは今日の早朝であること、
しかも病死などではなく暗殺されたのだということ、
陰陽道の第一人者である紫青の術を何重にも施した部屋に
幾人もの警備兵を倒して侵入できるほどの暗殺者であること、
そして、次の帝はおそらく元第二皇子であった左大臣の君が
なるのではないか、ということだった。
梢は、少し遠くにある紫青の背中を見つめた。
雨のそぼ降る中、供の者に傘をささせずに
雨に濡れたまま黙って火葬された帝の煙を見ている。
昨夜の紫青の話を聞く限り、
彼は兄である帝のことを敬愛しているようだった。
己の術で兄たる帝を守り切れなかったことを悔いているのかもしれない。
葬儀はやがて終わりを迎え、
一人、また一人と黒衣に身を包んだ人たちが帰っていく。
その中で、紫青は、ただ煙を見つめ続けている。
梢は、傘を持って紫青に近づいた。
そっと傘をさすと、緩慢な動作で紫青がこちらを見た。
朝よりもより憔悴した表情だった。
葬儀で、兄たる帝が亡くなったと実感してしまったのだろう。
その薄い唇が力なく何かを言おうとしたが、
なんの言葉も紡がないまま、閉じられてしまった。

「久しいな、紫青。」

朗々とよく響く男性の声が聞こえてきて、
梢はそちらを見やった。
見れば、一目で上等なものだと分かる喪服に身を包んだ
若い男が歩いてくるところだった。
紫青とよく似た色素の薄い顔立ちに、同じような長躯、
堂々とした立ち振る舞いに、梢は彼が元第二皇子の左大臣の君
であると悟り、その場で一礼した。
自分よりもはるかに身分の高い人を目前にしたため、
顔は伏せたまま傘を持つ。

「……お久しぶりです、兄上。」

紫青の声にはどこか力が入っていない。
そんな紫青に気付いているのか、
左大臣の君は、フン、と鼻で笑った。

「者どもが噂しているぞ。
 この国一番の術師である紫青が術を破れるとは
 どのような術の使い手なのか。
 ……あれほど高度な術は破れない。
 術者でなければ、とな。」

梢は目を見開いて傘の柄をぎゅっと握りしめた。
指先が冷える。
怒りで氷力が暴走しそうになったのをすんでの所でこらえた。
左大臣の君は、紫青が帝を殺したのだ、と暗に言っているのだ。
そんなはずはない。
帝を敬愛している紫青がそんなことするはずがない。
パキパキと硬質な音を立てて、傘の柄が薄い氷に覆われていく。
そちらこそ、帝の座が欲しくて帝を襲ったのではないのか、と
死に値する不敬な言葉が口から洩れそうになり、
ぎりりと奥歯を噛みしめた。
そんな梢の気配に気づいたのか、
紫青が一瞬こちらを見やったような気がした。

「……帝の御身をお守りすることはあれど、
 その身を害するようなことはありませぬ。
 失礼いたします。
 ……行くぞ、梢。」

一礼するとスタスタと紫青は歩き出した。
慌てて梢も一礼すると、傘を持って紫青を追いかけた。
左大臣の君は追いかけてこなかった。

Re: こひこひて ( No.41 )
日時: 2018/08/12 01:57
名前: いろはうた
参照: https://mypage.syosetu.com/485123/

屋敷に戻り、すぐに開かれたのは総会だ。
ずらりと綺宮家に連なる者たちが並んで座っている姿は圧巻だ。
そういえば護衛役に任命された時も、
このうちの数名が抗議に来ていたな、と
紫青からやや離れたところに立って控えている梢は思い出した。
見覚えのある顔がいくつかある。
しかし、部屋に流れている空気は
今までとは比べ物にならないほどに緊迫していた。
どの顔も、沈んだ表情ではない。
目だけが異常にぎらついている。
帝が亡くなったのだ。
今、帝の座は空席となっている。
そして、当主である紫青は臣下に下ったとはいえ
元は第三皇子である。
現在は第二皇位継承権をもつ者なのだ。
何かの拍子に、紫青が帝になるかもしれない。
「何かの拍子」など作ってしまえばいい。
紫青に近づけば、おこぼれにあずかれる。
そんな腹の内が透けて見えるようだった。
梢は誰かに身とげめられない程度にわずかに顔をしかめた。
これでは、紫青の性根がねじ曲がってしまうのも無理はない。
ここにいる人間は、紫青のことを見ていない。
紫青を通して栄光を見ていたり、
彼を利用して地位を高めたい者しかいなかった。

「その話はもう聞き飽きた。」

そして、紫青もうんざりとした表情を隠そうともしなかった。
いつもなら、その表情を見てたじろぐ者達も
今日ばかりは一歩も引かなかった。

「それでも、お耳に入れなければならぬのです。
 嫁をもらわねば、この家の繁栄はないと言っても
 過言ではございませぬ。
 綺宮家の当主として、
 せめて、許嫁だけでも決めなければなりませぬ。」

彼らがしつこく提言しているのは、
紫青の許嫁についてだった。
ここにいる娘をもつ者達は、
自分の娘を紫青の嫁にしようと必死なのだ。
そうすれば、自分の娘が未来の帝の皇后となり、
帝の義理の父親として権力を握れるかもしれないからだ。
対する紫青はそんなことはとっくにお見通しで
始終いらだったようなそぶりを見せている。

「そんなものはいらぬと言っているのが聞こえないのか!!」

ついに、紫青が声を荒げた。
それまで若干ざわついていた部屋がしんと静まり返る。
紫青はそのまま荒っぽくその場から立ち上がった。

「兄上たる帝がお隠れになって、
 すぐさま婚約を勧めるなど、死に値する無礼ぞ。
 わかっているのであろうな。」

ぎろりと青紫の瞳があたりを睥睨すると
その殺気だった視線に恐れをなしたように
どの者も身を縮ませ、目をそらした。
しかし、どの者も虎視眈々と
機会を伺っているのがわかった。
珍しく荒い足取りで紫青が部屋を出ていくのに
ついていきながら、梢は横目でちらりの部屋の様子を眺めてから
すぐに前を向いて、主の背中を追いかけた。


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