コメディ・ライト小説(新)

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こひこひて
日時: 2018/01/29 22:18
名前: いろはうた

恋ひ恋ひて

後も逢はむと

慰もる

心しなくは

生きてあらめやも


万葉集 巻十二 2904 作者未詳






あなたに恋い焦がれ、
またきっと会えると、
強く己を慰める気持ちなしでは、
私はどうして生きていられるだろうか。
そんなことはできない。







綺宮 紫青

綺宮家の若き当主。
金髪青紫の目の超美青年。
鬼の呪いで、どんな女性でも虜にする。
そのため、愛を知らない。
自分の思い通りにならない梢にいらだち
彼女を無理やり婚約者から引き離し、自分と婚約させる。
目的のためには手段を択ばない合理的な思考の持ち主。



水無瀬 梢

綺宮家分家筋にあたる水無瀬家、次期当主の少女。
特殊能力を買われて水無瀬家の養子となる。
婚約者である崇人と相思相愛だったが、
紫青によって無理やり引き離され、無理やり紫青と婚約させられる。
しっかりとした自我をもった少女。

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Re: こひこひて ( No.80 )
日時: 2020/02/17 07:12
名前: いろはうた

梢は綺宮の屋敷に転送の術式で
すぐさま運ばれた。
体がガタガタと震えるのを
どうしても止められない。
頭がぼんやりとする。
暴走した氷術で
全身が冷えすぎたために
高熱が出ていることに違いなかった。
あれだけの事をした後だから
そのまま捨て置かれてもおかしくない。
覚悟したが、紫青は屋敷の
使用人達に命じ、大量の布団と
複数の火鉢を用意させただけだった。
火鉢の炭に火がつけられ
部屋は燃え盛るように暑いのに
寒くて寒くてたまらなかった。
朦朧とした意識の中、大きな手が
ずっと手を握ってくれている。
そのことだけわかった。
夢うつつをさまよいながら
梢は涙を流し続けた。
夢の中では、崇人が
恨めしそうにこちらを見ていた。
顔もよく覚えていない
父と母の背中が遠ざかっていく。
遠い思い出の屋敷が
炎に包まれていくのを
見ていることしかできなかった。
うわごとのように、ごめんなさい、
私を許さないで、と謝り続けた。
優しい指が幾度も目尻を伝う涙を
ぬぐい続けてくれたのは
夢なのかうつつなのかわからない。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
私がもっと強ければ。
私さえいなければ。
泉のように溢れ出る負の感情ごと
強い腕が柔らかく
抱き寄せてきたのがわかった。
苦しかった。
息ができないほどに辛かった。
だけど、泣きたくなるほど
切なくなるほどに
居心地がよくて梢はまた泣いた。
どれほどの時が経ったのだろうか。
手が温かい。
梢は泥の中から浮かび上がるように
思いまぶたを開いた。
あたりは薄暗かった。
差し込む細い月の光に
今が夜なのだと知る。

「あ……。」

かすれた声が漏れた。
手を握っているのは紫青だった。
りりり、と虫の声だけが
あたりに響いている。
あの喧騒が嘘のような
穏やかな静けさだった。
紫青は背を壁に預け、
瞼を閉ざしている。
仮眠をとっているのだろう。
目の下には隈が、
顎には無精髭が生えていた。
ずっと付きっきりで
看病してくれていたのだろうか。
いやまさか。
多忙を極める
この国一の式術の使い手が
小娘一人にそうするはずがない。
それでも、目覚めた時に
隣にいて手を握ってくれるのが
涙が出るほど嬉しかった。

Re: こひこひて ( No.81 )
日時: 2020/03/14 14:35
名前: いろはうた

こんばんは。
最近更新を怠りまくっているいろはうたです。
ええもう。
言い訳できないくらいカキコをさぼっております。
ごめんなしゃい……


さて、このたび今作、「こひこひて」が金賞をいただくことができました。


全然更新できていない錯書を見捨てず、
優しい気持ちで読んでくださる読者様に、
感謝の気持ちでいっぱいです、

本当にありがとうございます。

いま深夜テンションなのですが、
必死に爆上りしているテンションを
押さえつけております。。。


もうすぐこのお話は結末を迎えますが
それまで温かい目で見守ってくださるとうれしいです。

Re: こひこひて ( No.82 )
日時: 2020/03/18 14:53
名前: いろはうた

梢は怯みそうになる心を押さえつけ
そっと手を紫青の手から引き抜こうとした。
するりと大きな手のひらと
骨ばった指が手の甲を撫で、
ずっとこうしていたいと思わせた。
その心を殺し、梢は完全に
手を引き抜きにかかった。
しかし、突然強く握り返された。
はっとする。
金のまつ毛に縁どられた
宝石のような瞳がじっとこちらを見ている。
紫青が眠りから覚めたのだ。
浅い睡眠だったのだろう。

「……目覚めたのか」

紫青の声もかすれていた。
やはり、紫青はやつれていた。
目を開けると、その目の下にある
深い隈は一層際立って見える。
無精ひげも生え、髪も乱れていたが
それも紫青の美しさを
退廃的なものにしただけだった。
梢も返事をしようとしたが、
のどがひどく乾いていて、
せき込んでしまった。
すぐに水を入れた匙を口元まで運ばれ
よく冷えた水をゆっくりと嚥下する。
その際、紫青は決して握った手を
放そうとはしなかった。

「……お身体に、大事ありませんか?」

のどを潤し、やっとの思いで聞いた梢を
紫青は信じられないものでも見るかのように凝視した。
しばらくの沈黙の後、ああ、と短く肯定され
梢はほっと安堵の息を吐いた。

「……おまえはいつもそうだ」
「はい、何でしょう」
「正真正銘のうつけだな」

今度は紫青を凝視することになった。
己のどこがうつけだというのだ。
だがすぐに、帝殺しの大罪人である
崇人をかばい逃がしたことを思い出し、
そっと目を伏せた。

「……私を、どうなさいますか」

キン、と張り詰めた沈黙があたりを満たす。
梢は紫青の顔が見られなかった。
唐突に入った本題に、とっさに答えが
出なかったのかもしれない。
梢はどんな処罰も受ける覚悟で
そのまま目を閉じた。
あの時、体が勝手に動いてしまった。
太古から続く因縁と、梢たち氷の一族に
人生を狂わされてしまった男を
哀れだと思ってしまった。
たった一人で戦い続ける彼に
憐憫の情が湧いてしまったのだ。
それはどうしようもないほどに強い衝動で
自分でも御しきれぬほどだった。
あれほどの暴挙に出てしまうとは
自分でも想像がつかなかった。
だが不思議と心は冴え渡っていて
後悔していないのだと悟る。

Re: こひこひて ( No.83 )
日時: 2020/03/28 23:08
名前: いろはうた

「どうもせぬ。
 そのままだ。」

憮然とした表情で紫青が、そう言う。
ぶわりと心が黒に染まった。
思い出したのは、
少し前に氷の鏡で見てしまった
美しい姫君だ。

「……私を、妾にされるおつもりですか?」

自然と押し殺された声が漏れた。
紫青の整った眉が
きゅっとひそめられる。
手と肩に勝手に力が入ってしまう。
梢の手は、いまだに紫青に
握られたままだった。、
梢につられ、紫青も視線を
手元に落としたが
強く握りなおしてきただけだった。
それに安堵している自分が
とても弱いものに
成り下がってしまった気がした。

「なぜ、そうなる。
 妻にするといったはずだ。
 ……たとえ、ほかの男に未練を残し
 おれの気持ちを弄び、
 それを盾にした挙句、
 脅しすらする悪女であろうともな。」

思いもよらぬ強い言葉に
梢は小さく震えた。
紫青が言っていることは
ほとんど何も間違っていない。

「私は崇人様に、
 未練など残しておりません。」
「……どの口が。」

紫青が一段低くなった。
不快そうに整った顔が歪んだ。

「崇人様は、私の守り手だったのです。
 婚約者という形が
 私を一番見守りやすかったのかと。
 私たちにの間には親愛の情以外、何も。」
「はっ……どうだか。」

横を向いて鼻で笑われ、
梢は珍しくむっとした。
正直にありのままを
話しているというのに
なぜ取りあってくれないのか。

「……そういう
 あなた様こそどうなのですか。」

とげとげしい口調になってしまうのを
止められない。
少し驚いたように見開かれた
青紫の目がこちらを向いた。

「私を結界に閉じ込めた際に
 美しい姫君と逢瀬を
 重ねていらっしゃったではありませんか。」

思い出しただけで
胸が焦げ付きそうだ。
この思いがどういうものなのか
もう蓋をしても無視をしても
梢は理解していた。
唇をかみしめる。
かさついた感触とともに、
口の中に鉄の味が広がった。

Re: こひこひて ( No.84 )
日時: 2020/04/04 21:40
名前: いろはうた

「…おまえ。」

呆然としたような
紫青の声が聞こえる。
ますますじりじりとした
いら立ちが増していく。
意固地になって、
梢は紫青から視線をそらした。

「おまえ、嫉妬しているのか。」

思いもよらぬ言葉に
ぱっと紫青の顔を見てしまった。
紫青の顔は純粋な驚きと
あとはよくわからない
雑多な感情が入り乱れている。
顔がじわじわと熱くなり、
耳が溶けてしまいそうだ。
図星を刺され、
どうすればいいのかわからなくなり
落ち着きなく視線をさまよわせていると
突如、紫青に抱き寄せられた。

「な、なにを……!!」
「……かわいい。」

耳に落とされた小さなつぶやきに
目を見開いた。
今、彼は何と言った。

「……やはり、
 早く祝言を挙げねば。」

ぼそりと落とされた呟きに
ぞわわと毛が逆立った。
混乱でうまく思考がまとまらない。

「な、なにを
 おっしゃっているのですか!?」
「何度も言っている。
 妻にする、と。
 ああ、妾ではないぞ。
 正妻だ。
 ほかに妻は娶らぬゆえ
 俺の妻はお前だけだ。
 必然的にお前が正妻だ。」

至極当然のことを
まるで幼子に対するように
懇切丁寧に言って聞かされ
ようやく梢は悟った、
紫青は本気なのだと。

「ああ、あとお会いしていたあの方は
 兄上の奥方だ。
 おれは人妻に手を出すような
 下郎ではない。」

おまえがいるしな、と
信じられない言葉が耳を通過したが
気のせいだと思いたい。
だが、驚くほど
心が軽くなっているのが分かった。

「わ、私は、あなた様と
 敵対する一族の末裔で…!」
「正統なる皇族なのだろう。
 血筋に問題ないな。」
「帝殺しの大罪人をかばった者で!」
「ああ、まったくだ。
 おまえの命を盾にされて
 絶望的なほど
 おまえに惚れているのだと
 思い知らされた。」
「あ、あなた様の
 どんな女性も虜にする
 鬼の呪いにかかっているやも…!」
「かかってくれていたら、
 これほどまでに苦労していない。」

ふにっと柔らかいものが頬に触れた。
少しして離れていく
形の良い唇を見て、
梢は声にならない声を上げた。

「おまえを好いている。」

梢は今度こそ雷打たれたように
固まってしまった。


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