コメディ・ライト小説(新)
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- 変革戦記【フォルテ】
- 日時: 2018/08/28 20:50
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
- 参照: https://m.youtube.com/watch?v=oXxfk4iPPjY
※全年齢版
参照:イメージソング『Beat Your Heart』(ブブキ・ブランキ第1期OP)
国を守るための防衛兵器───巨大な機体、『フォルテッシモ』が普通になりつつあった時代。
突如としてフォルテと呼ばれる能力に目覚める者たち。フォルテを持つ彼らを、人々はフォルトゥナと呼ぶ。
しかし、彼らを狙い、彼らを連れ去って自己利益のためだけに利用しようと目論む悪の組織があった。その名も『グローリア』。あらゆるものを掌握し、いずれは国家転覆をも狙うフォルトゥナだけで構成された組織である。当然フォルテッシモも、グローリア専用機を大量に生産しており、かなりの数を所有している。
だがそれに大人しく屈服しているわけが無い。そのグローリアに対抗すべく、『マグノリア』という組織が作られた。未成年のフォルトゥナの少年少女たちで構成されている。
グローリアに支配されているこの状況に風穴を開けるため、グローリアを倒すため、何よりも家族や仲間を守るため、彼らは戦う!
※注意※
こちらの作品は、18禁板にて連載開始予定の小説、『f-フォルテ-』の全年齢熱血ロボアクション版になります。
こちらを見てから18禁板版を見ようとチャレンジするのは、大変おすすめ致しません。
こちらから先に見た方は、18禁フォルテの存在はそっと胸にしまっておきましょう。
そして18禁版からこちらを見た方は、全力でお楽しみください。
もちろん、こちらから先に見た方も。
キングゲイナーやGガンダムのノリとほぼ同じです。雰囲気で楽しんでください。
この作品はフィクションです。実在する個人、団体、その他とは一切関係ありません。
18禁と同じ点
・基本の組織や用語
・キャラクター(例外あり)
・世界観(例外あり)
異なる点
・話の内容
・話の明るさ
・結末
・連載する板
用語集>>1
登場人物一覧>>2
第1話【Magnolia】
>>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9
(まとめ読み用)
>>3-9
第2話【Oshama Scramble!】
>>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
>>17
(まとめ読み用)
>>10->>17
第3話【fake town baby】
>>18
(応募スレはリク板をご覧ください)
※応募されたキャラクターについて
できる限り応募された内容に沿って使わせていただきます。どうしても全年齢に出るならばこうして欲しいというご要望がありましたら、随時受付を致します。可能な限りでお応えさせていただきます。
もちろん全年齢版のみ、または18禁版のみに出してほしいというご要望も受付します。
ご遠慮なくお申し出ください。
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.14 )
- 日時: 2018/05/19 21:23
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「弥里チャン?何渡したん?」
「らにってぇ~おくしゅりだぴゃ〜」
「あっ、ラリっとるわこの子」
ようやく立ち直った那生は、弥里に松永に対し何を渡したのかと問う。弥里はぶっ飛びながらも答えるが、まともな答えは帰ってこないだろうな、と那生は肩を落とす。それでも薬を渡したというので、その内容を聞く。
「ふぉるてでちゅくったおくしゅり〜☆たぁしかまひん?はひか?てひゃ☆」
「……麻疹?はしか?えげつないモン渡しおるなァ」
そこから飛び出した正体に、那生は後ずさりする。麻疹、またははしかは、ひとり感染すれば爆発的に流行する感染症だ。日本では既に無くなっているため、それに対する薬物は無いに等しい。あるとすれば予防策として、ワクチンが残っているくらいだろうか。つまり、一度それをばらまきひとりが感染し、街に出て行動したとなれば確実に『パンデミック』となる。しかしそれを一から作ることは出来るのだろうか、否、『三森 弥里』ならばできる。
───フォルテ、『感染』。自らが源となり、様々な感染症を辺り一面にばらまくことが出来る。作り出したウイルスや細菌は弥里には効かず、あくまで『他人』に襲いかかる。その気になれば原因となるウイルスあるいは細菌を作り出し、カプセルなどの入れ物に封じ込め、それを爆発させることでばら撒くことも出来る。
その気になれば人類滅亡も、非現実的なことではない。彼女にかかればそれが現実のものとなる。それほどまでに恐ろしいフォルテなのだ。ただそれ故に、彼女は戦闘部ではなく、医療部へと回されてしまったわけなのだが、そこで那生の手によってヤクまみれに染まってしまった訳で。
「あひゃ☆ぴんくのぞうさん〜☆」
「しもた、仕込みすぎたわ……」
こんなふうに自らヤクをブレンドして、自ら打ち込んで、自らぶっ飛んでいる。こうなると那生ですら手をつけられない。ヤクが一通り抜けるまでは放置という形になる。
「……松永はん、えっらいやばいモンもろてしもたんやなあ」
エイメンってな、と、わざとらしく十字を切ると、さてお仕事に戻りまひょか、とだけ呟いてカルテの山へと突っ込んでいった。
◇
「ホォームッカミンッ!」
「あ、やっと帰ってきた」
とりあえず松永の帰りを待とう。その結論に至ってから十数分した頃、ようやく松永が会議室へと戻ってきた。超子たちはやれやれ、というような態度で松永を出迎える。遅くなっちまったNAと松永が言うそばで、エレクシアはあるものに気づく。松永の手の中にあったカプセルを取り、これ何?と問うた。
「三森がGIVEしてくれたやつだNA。『大変なことになる』って言ってたZE」
「大変なこと?」
エレクシアは首を傾げる。こんなカプセルが、薬剤とも思えるカプセルが、何がどう大変なことになるのだろうか。はてなが耐えないエレクシアに、歌子は声をかける。
「エレクシアちゃん、それ見せて?」
「はい」
歌子はエレクシアからカプセルを受け取り、それをじっと見つめる。しばらくそうした後に、あっと超子が声を上げた。
「それ、弥里ちゃんのフォルテで作ったやつだったりして?」
「えっ……てことはこの中身はまさか」
「感染症の原因になるやつ!確かに大変なことになるわ!」
とんでもないもん貰ってきたわね。超子はそう言って松永を見る。しかし松永は何もわかっていないようだ、FUUUU!マジやべーじゃんYO!とひとりで盛り上がっている。
「これ今すぐ出た方が……」
「もとよりそのつもりだったよ。でもこれほんとに今すぐ出撃して、『処理』した方がいいわ。そんで辺り一面焼け野原にした方がいい。いくら空間切り離すとはいえ……」
「なら、早く行きましょう。フォルテッシモ出撃ポートに」
「キターッ!やっとオレッチの出番だNA!」
そう言って松永は会議室を飛び出して、出撃ポートへと行ってしまった。しょうがないなあ、足だけは早いんだから。超子はため息をついて残りの2人を自分の近くに寄せて、
「てれぽ!」
一瞬にして姿を消した。
◇
「うぉっ!?早かったっすね!?フォルテッシモちゃんたちは既に移動済みっすから、今出ても大丈夫っす」
「うわーん常磐ちゃん仕事はっやい!ありがとー!」
移動した先はフォルテッシモでの出撃ポート。ここには出撃する為に移動してきたフォルテッシモが、出撃する数だけある。出撃する際には光学迷彩をかけ、一般人には見えなくても悟られぬよう、高高度で飛行をする。もちろん空間を切り離しはするが、出撃時点でそれをすると、マグノリア本部ごと切り離された空間に持っていかれてしまい、オペレートや戦闘どころではなくなるため、そうするしかない。もっとも、それはリーダーが言っている事なので、本当かどうかは定かではないが。
超子たちは早速自らのフォルテッシモに乗り、起動させる。ポッドの中にあったパイロットチェアに座ってコントロールポッドを閉じきり、モニタに手のひらをかざす。
『Welcome MASTER.Ready』
目の前に文字が浮かび上がり、コントロールポッドの周りは、外の様子を映し出す。特に異常は見られないようだ。
「ん。特に問題は無いみたいね。皆は?」
超子はところどころを確認して、ほかの出撃するメンバーに声をかける。目の前にモニタが次々と現れ、歌子、エレクシア、松永が映し出された。
『こっちも特にないよ。いつでも行ける』
『私も大丈夫。もちろんエレーヌも』
『FUUUUU!早く行こうぜ超子ォッ!』
「こらこら急かさないの。行動力があるのはいいけど、無闇矢鱈に突っ込んでいかないでね?」
そう言うと通信は切れる。目の前に見えるのは外の風景だけ。ふう、と一つ息をついて、口元を引き締める。
「フォルテッシモ、『マザー』!」
「フォルテッシモ、『ディーヴァ』!」
「フォルテッシモ、『アルテミス』」
「フォルテッシモォッ!『愛宕丸』ゥッ!!」
「出撃する!!」
その瞬間、開かれた天板から4機のフォルテッシモが飛び立って行った。
「……行っちゃったっすね」
「え、今来たのに……」
「惜しかったっすねー、『御代』ちゃん」
「……常磐ちゃん、うちの『プテラノドン』、準備してある?」
「え?そりゃもちろん。要望があったっすから」
「なら」
「───私も、行くうぇい!」
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.15 )
- 日時: 2018/08/22 07:15
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「高度異常なし、障害物なし……って当たり前かあ。んー、風向きなしの天候は快晴、気温は19度?」
超子はコクピット内で、今現在の周囲の状況を確認していた。周囲変換で空間を切り離してないため、こういった確認は非常に重要なものだ。最も、当たり前のことなのだが。
「今しがた飛んでる旅客機とかも、ないね。うん、このまま行っちゃっておっけーっしょ」
『でも途中埼玉通るから、暖かくしたほうがいいよね?』
「そね。ぐっと気温下がるし。みんなー、埼玉近づいたらあったかくする準備してー」
それだけ言うと、超子は通信を切り、背後にあったブランケットを膝にかけ、備え付けてあったポットから、持ってきておいたスープのもとが入っいてるカップにお湯を注ぐ。気が早いかなあ、とおもいつつ、スープをスプーンでかき混ぜる。あっという間にわかめスープの完成だ。これで埼玉を通る準備は完璧。超子は上着に袖を通しながらわかめスープを一口。だが思ったより熱かったのか、「あっつぃ!」と声を荒げた。
埼玉を通るだけなのに、こうまでする理由。それは埼玉の今の現状にあった。今現在の埼玉は、『氷の国』として存在している。もちろん都市機能は完全に動いていない。というのも十数年前、埼玉は『たった一夜』にして、全てが氷の中へと閉ざされた。その氷はただの氷でなく、『近づく者を容赦なく氷に閉じ込める』氷なのだ。たとえそれが遥か高い上空でも、氷漬けにはされないが、空気が一気に冷え込むほどである。それはまるで強力な冷凍庫の中に勢い良く入るくらいに。だからこそ、埼玉を通るとなると、それがたとえ夏でもこのレベルの対策をしなければならないのだ。そう、今いるこの空間が、『切り離されている』としても。
なぜ埼玉がそんな氷の国になってしまったのかは、未だにわかっていない。調査をしようにも氷漬けにされるだけだし、またもしそれがフォルテだとして、そのフォルテが『生きている』とすれば、手も足も出ない。というのが現状で。なんせ近づくにも近づけない。これでは調べようにも調べられない。一体何が起きたのか、何が原因なのか、中はどうなっているのか。真相はすべて、氷の中である。
「うひー……寒いねー」
『気づかれないようにゆっくり移動してるのもあるからね、すっごく寒いね』
『この高度で飛んでいても、こうなのは嫌ね』
一行はいよいよ埼玉へ入った。それが一発でわかるくらいに、周りの空気は一気に冷え込んだ。先程作ったばかりのわかめスープも、すぐに冷めてしまう。超子は冷めてしまったわかめスープを一気に飲み干すと、すぐに別のわかめスープの粉末をカップに入れ、お湯を注いでそれを一口。だが彼女はどうせすぐに冷めんだろうな、と、多少急いで飲み干した。もっと味わって飲みたかったのに。
「にしてもいつ通ってもすごいねえ、この冷気」
『ほんと。ここだけ日本じゃないみたい』
「それ埼玉の人聞いたら怒るよ〜。でも今の埼玉じゃそれ色々と当たってるかもね」
『というより、貴方達。何か気づかなくって』
「へ?」
『今いるフォルテッシモ、数えてご覧なさい』
エレクシア───否、エレーヌだろうか。彼女たちがそう言えば、超子と歌子は訝しげに周りの状況をよく見やる。ひぃ、ふぅ、みぃ……自らを含めれば、今この場にはフォルテッシモは3機いる。そこで気づいた。
『……愛宕丸は?』
「はぐれちゃった…とか?」
周囲には松永が乗っている愛宕丸の『あ』の文字すらない。一体どうしたのだろうか。何かしでかしたのだろうか、それとも先に行ったのか。いや、先に行ったとすればそれは見えているはずだし、もし敵に見つかって撃墜されたとすれば、必ず音が聞こえるはず。それに周囲転換からの空間は切り離されていない。どうしたのだろうか。
これまずいんじゃ?と焦る超子たちに対し、エレクシア、またはエレーヌはふうと息を一つ吐露し、答えを出してやる。
『帰ったのよ。風邪引いたらしいわ』
「えっ」
『埼玉に入った直後にね。私たちにだけ通信が入ったわ』
その時松永は聞くに耐えない声で
『Oh……どうやらオレッチは体調がBad……になっちまったみてえだ……ズビーッオレッチはズビーッ、先にゴーゥホーゥムクゥーウィックルィーさせれもらうJE……ブェェッキショエエエエ』
『……そう』
と言ってすぐさま帰ったらしい。あまりにも鼻を啜る音と、くしゃみがひどすぎた為、呆れて何も言えなかったそうだ。なんで一緒に出撃したのか、わけがわからない、と彼女たちは言う。その経緯を聞いて、やはり超子と歌子もこれには苦笑すら出なかった。どちらかというと、ははは、と棒読みで出てきたくらい。たしかに寒いがそこまでなるほどなのか、2人は頭を抱えた。
『けどね。後方からフォルテッシモが1機来てるの』
「え?もしかしてグローリア?」
『超子ちゃんちがうよこれ。反応マグノリアのフォルテッシモだよ!』
「えぇ?誰ぇ?」
『私だうぇい!』
その直後。やってきたフォルテッシモを確認したまさにその直後。超子のフォルテッシモであるマザーの背後に、やってきたフォルテッシモが立つ。思わず超子は距離を取って戦闘態勢を取るが、やってきたそのフォルテッシモを見てその態勢を解く。
「───御代ちゃん!」
『ご名答ー!』
御代と呼ばれたその機体、『プテラノドン』は、その名の竜を思い起こさせるような翼を広げて、ピースしてみせた。
◇
「……那生」
「お?珍し。なんやワイに用なんか?流星はん」
「おいおい俺も忘れんなナオ」
「狂示ィ?なんやほんまにどないしたんや?」
ところ変わりマグノリア医療部……ではなく、喫煙室。ちょうどヤクを炙ってさて吸うぞ、というタイミングで、那生の前に来客が2人ほど現れる。
1人はマグノリアリーダーであるその人、葛狭狂示。そしてもう1人、全身を黒でまとめあげ、紺と黒が入り混じったやたら長い髪を適当に広げ、左目に眼帯をした男。その人の名を、『紅蓮流星』。彼はこのマグノリアで、おそらく最年長の人物であり、現在指揮官をしている。昔はそれこそ前線で、狂示や那生と共に鬼のような強さを誇っていたが、あまりにも強すぎるために、狂示から「お前出ると新人育たねえから指揮官やっとけ」とのお達しをもらい、今に至る。強すぎるというのも、なかなか嫌な問題らしい。
普段は自らの書斎か図書室で本を読みふけっていたり、趣味である創作活動をひきこもってやっているはずの彼が、なぜわざわざこんな場所に来たのだろうか。しかも隣にはタバコを現在進行形で吸っている三森弥里がいる。もしかしてそのことでお呼び出しを食らったのか?那生はそう考えるも、すぐにやめた。んなの今更やんけー、と。全く反省していないようだ。
「お前、今からフォルテッシモ乗れ」
「ハァ?」
「いやー。追加で調べてたんだけどよ、とんでもねーことが分かっちまった」
「なんやなんや、緊急事態かいな?」
「それに近しいものではあるが、な」
流星はまっすぐに那生を見据える。
「栃木のポイントAで、非常に危険な薬物が使われているのを確認した」
「ん?それまさか、超子はんたちが潰しに行くっちゅう、例の奴さんの研究施設やろか?」
「そーなんだよ。やっべーんだわ」
「なんやなんのヤクなんや?」
「ワクワクするな。それでだ。その薬物というのが、『ゾンビ』だ」
「……ひっじょーにくだらん質問するわ。そのゾンビっちゅうヤク、まさかネクロマンス的なもんとちゃうやろな」
「正解だ。この薬物は摂取した者が死んだあと、自我なき人形へ作り変えるものだ。その薬物が、例の栃木の研究施設のフォルトゥナの子どもたちに使われていることが判明した」
「しかもゾンビ摂取してゾンビになっちまった奴は、生者を食う。食われた生者もまたゾンビになる。まるでどっかの詐欺みてーなことになんな」
「うひーなんつーもん使いおるんや」
「でだ。貴様にはその薬物の回収と、研究施設の破壊、それと摂取したフォルトゥナの子どもたちの完全なる抹殺。それを任務として下す」
流星は那生に多少声のトーンを強めて言い放つ。那生はあんさんいきゃええやろ、と反論してみるも、私が出てしまえば新人が育たない。ときっぱり言い切られる。なんやカッタイやっちゃなあ。那生は頭を掻きながらひとりつぶやく。
「童貞どーしたのー」
「えっ…あーお仕事入ったんやよ」
「まじかよー」
がんばってぇ〜、と応援する気などもとから内容に、弥里は那生に手を振った。童貞言わんといてや弥里チャン!
「決まりだな。さっさと出撃ポートへいけ。連絡は通してある」
「へいへい。オペレーター室から、まともなオペレーターくっとええねんけどなあ」
その言葉に、流星は『当たっているから何も言えないな』と、そこだけは心底那生に対して賛同した。他の行為は賛同しかねるが。
「さて……そろそろか」
時計を見た流星は、急ぐように喫煙室から出ていった。
「……いや、私も出るとするか」
思い出したようにつぶやくと、流星は通信端末を取り出し、メカニック部門へと繋いだ。
「───私だ。やはり私も出る」
つづく
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.16 )
- 日時: 2018/08/22 07:17
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
翼を広げ、ピースをしてみせたその機体───プテラノドンは、くるくると3機の周りを回り始める。ひとしきり回って満足したのか、プテラノドン───搭乗者である朝山 御代は、全員に向けて話し始める(といっても通信なのだが)。
『ほんとは一緒に行こうと思ってたんだけど、ちょっと遅れちゃったうぇい』
「他に誰か来るとかは?」
『聞いてないぽよ』
御代はおちゃらけた様子で言う。その言葉に嘘偽りはなさそうで、超子たちはならいっか、とひとまず安心した。何に対してなのかは、本人たちにしかわからないのだろう。
するとところで、と突然御代は話を変える。何か気になることでもあったのか、少し声のトーンを変えてほかの3人に話しかける。
『ねえねえ、松永くん急に戻ってきたけど、どうしたの?』
「それについては……まあ、後ほど?」
『ふーん?』
「というかそろそろ行こうか、近いし」
超子がそう呼びかけると、皆は体勢をポイントAに向き直し、再び発進した。
◇
ところ変わってマグノリアの、フォルテッシモ出撃ブース。そこで一条常磐は普段通りに、フォルテッシモたちの整備を行っていた。トップふたり組が不在のこの状況、否が応でも自分が取り仕切ることとなる。そこにある程度のプレッシャーと不安を感じながらも、常磐は日々を生き抜いている。
そんな時、整備が一段落ついてさて休もうかというところで、突如通信が入る。
「もぉーなんすかー、こっちは休もうとしてたんすけど」
『FUUUU悪ィNA!開けてくれYO』
「あれ?キューちゃん?戻ってきたんすか」
何だ何だとゲートを開けば、なんだか寒そうな様子でフォルテッシモ、愛宕丸が入ってくる。道中で何かあったのだろうか。所定の位置にフォルテッシモが来ると、動きは止まり、ポッドからキューちゃんこと、松永久舵が降りてくる。どことなく顔色が悪そうだ。
「どうしたっすか?キューちゃん」
「Oh…それがYO、SAITAMA通る時に風邪を引いちまったのSA!ブエッキショエ」
「うわ汚っ!だったら医療部行ってくださいっす、愛宕丸ちゃんのメンテはしとくっすから!」
休みのあとっすけど。言外にそう付け加えると、常磐は震える彼の足元ににワープパネルを敷いてやり、医療部へとそのまま飛ばしてやった。流石に朝から働き詰めなので、今から愛宕丸を一からメンテというのは無理がある。あの調子だとしばらく出撃もできそうにないから、しばらくの休憩の後ででいいだろう。そう思ってあくびをし、仮眠室へと向かおうとしていたときだった。突如としてある2人組がここへとやってくる。ため息をついて誰だ誰だとそちらへ目を向ければ、常磐はメガネの向こうの寝ぼけナマコをカッと開く。なんでいきなりここに来たんだ。
「入るぞ、一条常磐」
「いやあすまんなぁ〜、突然の出撃で……ワイらのフォルテッシモ、準備してはる?」
「え?あー……多分そこに」
「(にしても突然やな、流星はん。いきなり来たかと思っとったら、私も出る言い出すしのォ)」
「というより、連絡は入れておいたはずなんだが」
「んー……そうだっけ……あ、そうだったっすね。紅蓮指揮官とヤク中先生」
「月見里那生!いい加減覚えといてや〜」
そう、マグノリアの指揮官、紅蓮流星その人と、マグノリア随一のヤク中でありマグノリア医療部の長、月見里那生である。連絡が入っていたことを忘れていたのか、常磐はそんなものあったっけ?と首を傾げたが、そういえば少し前に一方的な連絡が入って、急ピッチで整備してたんだっけ。と思い出した。その前にぼんやりと指し示した場所には、彼らのフォルテッシモが佇んでいた。いつでも行ける、というように。
流星は視線だけそちらへよこすと、すぐに目を閉じたかと思えば、ゆっくりとその目を開く。意を決したのか、はたまた別の意志か、流星は身を翻し、自らのフォルテッシモ【アビス】に向かっていく。那生もそれに続くように、フォルテッシモ【テオドール】へと向かう。その姿を見て、すんげー嫌な予感がするっす、と常磐はつぶやくのだった。
各々のフォルテッシモのコントロールポッドへ入り、それを閉めて起動させる。目の前に映し出される、『Hello World!』の文字。慣れた手つきで各システムを確認していく。正常に戦闘が行えるか、飛行が行えるか、その他諸々。かなりメンテナンスが行き届いているようだ。前に搭乗したときの不満点が、ほとんど解決されている。ただすべてを確認するには、実際に動かしたほうがいい。流星は那生に通信をつなぐ。
「そちらはどうだ」
『なんも変なとこはあらへんで。いつでも行ける』
「ならば今すぐに出るとしよう、確かめたいものもあるのでな」
『はいはい、仰せのとおりに。ワイははよ終わらせてゆっくり、寝たいもんですなァ』
そこで通信は終わる。外にいる常磐に向け、ゲート開放を要求する。と、同時にもうゲートは開かれるようで、仕事が早くて助かるな、と思う。ただそれだけ。
開かれた先には戦場が待っている。あの頃を思い出す、あの血肉踊る戦場が。口元をわからぬように上げると、
「フォルテッシモ【アビス】、出る」
すぐに飛び出していった。
◇
栃木県日光市、ポイントA。そのちょうど真上に当たる場所で、超子たちは止まる。
「よーし、到着!まずは周囲転換しなきゃね」
それを言うのが先か後か、超子のでは素早く動き、周囲をスキャンしまたたく間にデジタルデータへと変換していく。これで民間人に被害が行くことはなくなったし、自分たちの姿も民間人に見えなくなった。それを確認すると、合図とともに急降下していく。
その先には日光の町並み。これだけ見れば何も不自然な点はないのだが、本来そこにあるはずのものがない。なるほど、確かに『見えなくしている』ようだ。周囲を転換していても効力が発揮されているとは。超子はぺろりと唇を舐める。すぐさま通信をつなぐ。
「歌子ちゃん、とりま『フォルテ』しくよろ」
『わかった、でも念の為に離れててね』
『うぇい』
『わかったわ』
通信は終わり、超子とエレクシア、御代は歌子の忠告通り、彼女のそばから離れる。それを確認した歌子は、システムを弄り、コントロールポッドの中をまたたく間に変えていく。座っていた座席はなくなり、マイクが目の前に現れ、まるでカラオケルームかなにかへと変貌していく。フォルテッシモ【ディーヴァ】も同様に、周りに鍵盤のようなものが現れ、羽のようなオーラが広がる。その姿はまるで『歌姫』。あたりの音は何一つなく、邪魔するものもいない。すべての準備が整った。
────見えずとも 感じ取る
────その姿を 隠された姿を
────我らは問う お前の意味を
────我らは問う お前の存在を
────なんの為に そこに在るのか
────今一度問う お前の意義を
────お前の姿を 我らに示せ
戦場に響くその歌声は、聞く者の全てを浄化する。歌声は辺りに、風に乗って全てへと行き渡り、浄化する。歌はやがて茨となり、『そこに在るべきもの』へと絡みつく。羽はゆらぎ音は融け、空には虹がかかり、美しき花びらが舞い降りる。
茨はそこに在るべきものへ、次第に絡みつく強さを強め、何もないところからメキメキと音がなり、その場所にヒビが入る。ヒビの隙間から、無機質なそれは見える。
────開け 我らが道よ
────開け 我らが空よ
────そこに何かあるというなら
────我らはそれを壊してみせよう
────響け 我らが祈りよ
────穿け 我らが力よ
それがトドメとなり、茨はついに『空間』を破ることに成功する。すると同時に本来あるはずの『無機質なそれ』が姿を表し、茨は光の粒となって、やがて消える。間違いない、アレこそが、今回の作戦で潰すことになる施設だ。やたらと大きいじゃないか。超子はニヤリと笑う。燃やしがいがありそうね、とも思う。
だがその前に、例のものを投げなければならない。超子は歌子に下がるよう言い、他の2機に対しても、そのままでいるようにと伝える。フォルテを使い、消耗した歌子はやっとの思いでシステムを直し、巻き添えにならないように遠くへと離れる。それを確認した超子はどこからともなく例のもの───『特殊防御壁破壊爆弾』を取り出し、起動させる。カウントダウンが10から始まる。
9 まだ、まだ待つ。8 まだまだ待つ。7 まだだめだ。 6 我慢しろ。 5 まだ抑えろ。 4 いよいよ。 3 あと少し。
そしてカウントが2になるか否か。その時に超子は思いっきり、それを施設へとめがけてぶん投げる。
「いっけえええええええッ!!」
1。そのカウントで爆弾は施設へと直撃し、ゼロと同時に爆発する。
その瞬間、あたりは爆発によって生まれた爆風に巻き込まれ、窓ガラスが吹き飛んだり、建物自体がふっとばされたりと、相応の被害を被った。しっかりと準備をしていた【マザー】も、他のフォルテッシモたちも、その影響をもろにくらい、後ろへとのけぞったり若干吹き飛ばされそうになる。ただメンテのおかげか準備のおかげか、そこまでの被害はなかったようだ。証拠に、皆のフォルテッシモは、パーツが溶けたりなどという事は起きなかった。むしろそれさえなかったのが『奇跡』というべきか。
爆発を目の前で食らった施設は、その時点で貼られていたのであろう防御壁が、見事なまでに崩れていった。正確に描写するならば、『跡形もなく消え去っていた』とするべきか。兎にも角にも、施設は丸裸の状態となった。
だが当然のことながら、それを受けて、それとも前々からいたのか、グローリアのフォルテッシモがすぐに現れる。すでに臨戦態勢は万全のようで、今すぐにでもこちらへ攻撃を仕掛けてくるようだ。否、もうしている。
あるグローリアの量産型フォルテッシモが、フォルテを使用したがために消耗したディーヴァ、もとい歌子にたいして幾つものミサイルを放つ。それらをいち早く、御代は彼女の前に立ち、すべてをはらう。はらわれたミサイルは、あちこちに分散していきやがて何かにぶつかり、爆発する。御代はそれを見て眉をひそめた。予告なしに撃つな、そう思うが流石に予告して攻撃する敵などいないか、と肩を落とした。
「御代ちゃん、歌子ちゃん、大丈夫?」
『な、なんとか…御代ちゃんがやってくれたみたい』
『もーまんたいうぇい!それよりも早くこの雑魚たちなんとかしなきゃぽよ』
『貴方、まともに話せないのかしら』
「はいはいおしゃべりは後!まずは御代ちゃんの言うとおり───この雑魚集団を蹴散らそうか!」
今このとき、命がけの戦闘が始まった。
続く
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.17 )
- 日時: 2018/08/26 18:12
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
倖の手料理を思う存分堪能した時雨と泥。その後の片付けを手伝い、今は縁側でゆっくり、柔らかな日差しを浴びながら緑茶を飲んでいる。傍らには羊羹があり、それを少しずつつまみながら、ぼんやりのんびりと過ごしている。程よく広がる羊羹の甘み。
「いい天気だねえ」
「そうだな」
特に続くことなく、そこで途切れる会話。だがそれでいい。マグノリアにいるときでは味わえない、静寂の一時。頬を撫でる優しき風は、心地よい音を立てて過ぎ去っていく。これでいい。こんなひとときが、何よりの癒やし、何よりの羽休め。たまには普段の使命を忘れ、平和な空間にいるのも良いものだ。
「平和だねえ」
「そうだな」
2人は切り離された場所で、ゆっくりと心も体も癒やされていた。だからこそ、こんな言葉がつい口に出たのかもしれない。
◇
まずは超子が動く。補助の役割をしているのであろう杖を掲げ、精神を集中させる。杖の先には巨大な火球が出来上がり、それが限界までなると一気に爆発する。爆発した火球は小さい弾丸となり、グローリアのフォルテッシモに直撃していく。みるみるうちに食らったフォルテッシモは、火だるまとなり落ちていく。それでも減らせたのは、ほんの一部に過ぎない。
それに続くように、御代のフォルテッシモ、【プテラノドン】が動く。手にしていた数多の特別性ナイフを、関節部位に向けて投擲する。ガシンガシンと見事に命中したナイフは、相手の動きを封じる仕事をしてくれたようで、狙われたフォルテッシモたちは動きが止まる。そこをエレクシアのフォルテッシモ、【アルテミス】がミサイルで撃墜する。着実に数を減らしていっている。その間歌子は超子のフォルテッシモ【マザー】の背後に隠れ、フォルテを使い疲弊していた体を休めていた。
────フォルテ『歌姫』。歌自体に力があり、その歌を歌うことにより、周囲に影響をもたらすフォルテ。本人の歌唱力が高ければ高いほど、その力は強大なものとなる。ただし歌の力が強まれば、次第に自らに降りかかる負荷も大きくなる。先程の歌はかなり強い力を持つ歌であるがために、体にかかる負荷は尋常なものではなかった。しばらくのクールタイムがなければ、その場から動くこともできないものである。
だからこそ超子はさっさとこの場を切り抜けたかった。歌子のためにも、そして施設の中にいる手遅れの子どもたちのためにも。だが、数を減らしても減らしても、次々と増援はやってくる。かなり広い範囲で攻撃しているが、キリがない。しかもよくよく見れば、倒したはずのフォルテッシモは再生され、また浮上してくる。
「ねえこれやばくない?倒しても生き返って増えてって、やばくない?」
『待って、向こうの様子がおかしいわ』
「エレちゃん、それどこ?」
『あ、もしかしてあれうぇい?』
エレクシアが何か感じ取り、それを御代が見つけ、示す。そこにはグローリアのフォルテッシモが2機。だが様子が確かにおかしい。片方のフォルテッシモは不自然な動きをしている。ふらふらと近くにいた別のフォルテッシモに近づいていく。何が起きるんだ?超子たちは気づかれないようゆっくり近づき、今か今かとそれを見る。途中攻撃を仕掛けられたが、一通り殴っておく。
するとどうだろうか、不自然な動きをしていたフォルテッシモが、別のフォルテッシモに向かって、備え付けられていたのだろう『口』を大きく開け、食らいついた。バキ、メキ、といやな音が聞こえてくる。その口は非常に気味が悪く、まるでスプラッタホラー映画を見ているかのような光景が広がっていた。よく見れば食われているフォルテッシモからは、赤い液体が流れ出ていた。まるで血のようだ。
ブチ、と繊維が切れる音がする。どうやら捕食しているフォルテッシモが、自らの餌を食べやすいように分割しているようだ。先程のは腕を千切ったのだろう。よく見れば千切れた腕から、肉片が飛び散っている。それも残すまいと、捕食する者はひたすらに食らう。
いくらフォルテッシモといえど、あまりにもショッキングすぎるその光景に、超子は恐怖する。そしてエレクシアたちに見せるまいと、必死に3人、いや実質4人に下がれと言う。これは見ちゃいけない、見ちゃいけないものだ。ましてやエレクシア、エレーヌには酷(こく)すぎる。絶対に見せるな───そんな声が、超子の頭の中に響く。ええ、見せるもんですか。
だが、そううまくは行かない。捕食者に自分たちが気づかれた。捕食者はこちらを見据えて、不自然に『にやり』と笑う。それがとてもとても不快なもので、超子は背筋を凍らせる。あんなもの、フォルテッシモじゃない。ただの『化物』だ。超子は捕食者に向き直り、4人に近づけさせまいとして、己の武器を構える。杖の先端が開き、火球が現れる。しかし超子は気づけなかった。守るべき4人の背後に、別の『捕食者』が来たことに。それにいち早く気づいたのは、他ならぬ絶対に見ちゃいけない、エレクシアとエレーヌだった。
「────え」
気づいたはいいものの方向転換が間に合わず、捕食者はアルテミスをしっかりと捕まえ、口を大きく開けて食らいつこうとする。だが、それは次に気づいた御代によって阻まれた。アルテミスから捕食者の手が剥がされる。
『エレエレちゃん!』
「大丈夫───何もないわ」
エレクシアはすぐに返事をする。何だあの化物は。フォルテッシモの形をしているが、あれはフォルテッシモじゃない。もっと別の何かだ。もしかして超子は、これを見させないために、下がれと言っていたのだろうか。その結論に至ればそれとなく解せた。確かにスプラッターは趣味じゃない。その気遣いは正直ありがたい。だけど、目の前に現れた捕食者は、まだこちらを見据えている。そういえばあの機体、片方の腕が千切れているようだけど?
「それでも変わらないわね、潰してしまいましょう、エレーヌ。そうねエレクシア。潰してしまわなければ」
一瞬だけエレーヌが表に出てきて口を開いたかと思えば、すぐにエレクシアへと戻る。エレクシアはアルテミスに武器を構えさせ、そのまま捕食者へと突撃していった。
「あ、私も行かなきゃ…!」
それに続くように、御代もまたプテラノドンを捕食者へと突っ込ませるのだった。
マザーは捕食者へむけて火球をそのまま放つ。だが捕食者は少し焦げた程度で、他はなんの傷もない。怯んだ様子すら見せていない。それどころかどうだろう、マザーへ向けて突撃をかましてくる。
「サイコキネシスッ!」
超子はサイコキネシスを駆使し、度々捕食者の動きを止める。そしてそのまま遠方へ放る。だがそれをものともしない。構わずマザーへやってくる。超子は心底うんざりしていた。
「っとに、しつっこい!」
捕食者はマザーを喰らおうとやってくる。何度も何度も。数を重ねるごとに、超子の体はフォルテの過剰使用で疲弊していく。冷や汗も流れ出てきた。目も少し霞んできた。腕は震え、足も冷たく、口の端からは血が流れ出る。口を全開にすれば、どばっと血が出てくるのだろう。そうはさせまいと、必死に口を閉じる。けどそのままだと気持ち悪くなるだけなので、半開きにして血液の流出を調整する。なんでこんなことができるかなんて、知らない。腹も食物を求めているようで、虫が鳴く。
そうこうしているあいだに、捕食者以外にも増援がやってくる。グローリアの量産型フォルテッシモが。後ろには歌子がいる。彼女のためにも、ここを動かずに攻撃をしなければ。わらわらと無限に湧いて出てくるそいつらは、超子たちの周りを囲む。こちらを見て、せせら笑っているようだ。心底気味が悪い。
「こんなところで…お姉ちゃんは死なないし…歌子ちゃんも死なせない…絶対に時雨を笑顔で迎えに行くんだから…ケフッ」
喋るたびに漏れでる血液は、口の中に嫌にこびりつき、気持ち悪い。よく見れば胸元は真っ赤っかだ。頭もなんだか冷えてきた。何も考えられなくなってきた。急激に体温も下がっていく。
「歌子ちゃん…は、寝てるのかな…疲れちゃったもんね…エレちゃんと御代ちゃんも……戦ってるんだ…」
周囲を見れるモニターを見れば、アルテミスとプテラノドンが、別の捕食者と必死に戦っている様子が見える。だが及ばず、武器が手元から剥がされる。なすすべもなく、2機は捕食者に捕まってしまう。かなり力が強いようだ。
「(…ごめん、みんな……あたし……お姉ちゃんなのにね……お姉ちゃんなのに……ごめんね……)」
これから来るであろう『死』にそなえ、超子は瞳を閉じた。気配でわかる、捕食者の影。ああ、口を開いてる。食べられちゃうんだ。
そこで超子の意識は途切───
『───死ぬにはまだ早い、桐乃超子』
れなかった。突如として捕食者の影が離れた気がした。ぼんやりする瞼を必死になってこじ開けてみれば、そこには
『お前たちは先に戻れ。ここは我々が引き受ける』
『そゆことや。脱出ワープ使ってはよ医療部で体治しぃや!』
一筋の、『紫電』がそこにいた。
『いいか、早く戻れ。指揮官命令だ』
『医療部部長命令でもあるで〜、見たところ超子はんは、ICU行きかもしれんな〜。バイタルサインもおっそろしいほど下がっとるし』
そう語りかけてくる2つの『おとな』は、いたずらをした子供を優しく諭すように、帰還命令を出してくる。エレクシアや御代を捕まえていた捕食者も、また別の『薬』が助けていたようで、自由に動き回れていた。ああ、助かったんだ。
超子は石のように固まった体にむち打って、緊急の脱出ワープを展開、ディーヴァの腕を掴んで帰還した。残りの2機も次々と帰還した。
「……おい、那生」
『へーへー、わかっとるがな。全力で潰す、それだけや』
『遅れちまったNA!FUUUUU!』
彗星のごとくやってきたフォルテッシモ【アビス】、そして【テオドール】に搭乗する───紅蓮流星と月見里那生は構える。そしてやるかと言うときに、別のフォルテッシモがやってきた。あの独特な『フョロイ』フォルムのフォルテッシモ、間違いない。
「松永。風邪はいいのか」
『すっかりだZE!オレッチ超☆健康体!』
『ハハッ大方弥里チャンのヤクやなぁ?ま。ええか。合法っぽかったし』
一度は帰還したフォルテッシモ【愛宕丸】。そいつが戦場へ帰ってきたのだ。流星は誰にも、本人にもわからないような微笑を浮かべる。人は多いほうがいい。それでいい。流星はアビスに、二振りの刀を構えさせる。青く光るその刀には、稲妻が走る。テオドールも巨大なメスをグローリアに向け、愛宕丸は奇妙なポーズを取る。ファイティングポーズなのだろうか。いや、松永自身、カポエイラを習得していたというから、これはきっとカポエイラの構えなのだろう。
流星は2機の様子を見て、口を開く。
「いいかお前たち。まずはこの雑魚どもを処理するぞ」
『りょーかいや!』
『オッッケェェーーーイ!!』
それを聞き取るや否や、アビスはもう動いていた。まずは周りの雑魚どもの一掃。刀をひとつ振りかざせば、大半の雑魚は消滅し、またひとつもう片方の刀を振るえば、一瞬にして大群が消え失せる。刀には返り血一つもない。背後にいたテオドールは巨大なメスを大雑把に振り回し、傷がついたそこから隠し持っていたヤクを流し込む。するとどうだろう、みるみるうちにフォルテッシモが溶けていく。ジュウジュウと、嫌な音を立てて溶けていく。
『やっぱクロコダイル使ったヤクはええなあ。あっさり死におる』
「……那生」
『ご安心を、フォルテッシモにしか使えんように配合しとるから心配せんでええで』
「……今日は認めてやる」
『FUUUUUU!!オレッチも続くんだZE!!』
そして飛び出していったのは愛宕丸。流線系のレッグが見事にブチ当たり、当たったフォルテッシモが遠くへ遠くへと飛んでいく。あれは確実に中身の人間は死んでいるだろう。内蔵もグッチャグチャになって。それだけではとどまらず、次へ次へと愛宕丸は足技を喰らわせる。まるで踊っているかのようだ。カポエイラ自体、踊るように見えるから、それはそれで間違っていないのだろうが。
『テメッチでFinnishだZE!』
そうして残った捕食者の中の1つに、愛宕丸は見事に必殺の一撃を頭部に食らわせ、突き落とした。捕食者の頭部はきれいに吹っ飛び、ぷらんと愛宕丸の足にくっついていた。流石に頭部と胴体を切り離されたら、いくら復活して来たものも、できないだろう。
「(おそらくあの2つの機体、いや、片方は腕がちぎれていたから、1つか。ゾンビを打たれた搭乗者か。先程のはそのゾンビに食われたんだな)」
ここに来る前、ゾンビに侵された機体があるらしいと連絡が入っていた。恐らく超子たちが見たのは、戦っていたのはそのゾンビに侵された搭乗者。その後ゾンビは捕食者となり、また新たな捕食者を生み出していたのだろう。いや実際そうなんだろうが。流星は目の前の捕食者と睨み合う。そして刀を構える。
「哀れだな。洗脳され、ゾンビに成り果ててまで、まだ動くというのか。私が、今ここで私が、お前を死なせてやろう。────一瞬で」
次の瞬間、捕食者の頭と胴体は、一筋の紫電によって切り離された。
◇
「っは!」
超子の目がさめたその場所は医療部の天井。腕には点滴、頭には包帯、服は病院服をまとっていた。隣を見れば三森弥里がこちらをじっと見つめている。弥里と目があったとき、彼女はニンマリと笑って記録をつけ始めた。
「はい起きた〜。ここわかる?」
「え?マグノリアの医療部の…」
「せーいかい。うんうんフォルテのおかげもあるけど、ばっちりだねぇ〜ちなみに超子ちゃんが一番重症でしたぁ」
「あー……そっか、戻ってきたんだっけ」
あのあと、脱出ワープを使って帰還したあとの記憶がない。多分かなりボロボロだったんだなあ、としみじみ思う。他の子はと聞くと、みんなまだ寝てるよ〜と呑気に答えてくれた。超子は胸をなでおろす。
あの場で、あのタイミングで。指揮官たちが来てくれなかったら、多分、いや明らかに死んでいた。でも助かった。こうして命がある。生きている。超子は心底ほっとした。ああ、生きている。あたしは生きている。
「まーでも?フォルテかなり使ってたみたいだし?まだ寝てた方ががいいよ。ほれほれ」
「う、うん。おやす……」
み、まで言い切れず、超子はすぐにまた眠り始めた。本当に疲れていたんだろう。すごい戦闘だったらしいし、まーしかたないか。弥里はそう思う。
超子が起きる数時間前、任務に出ていた指揮官たちが戻ってきた。そのときに戦闘の様子を聞いた。雑魚どもを一掃したあと、施設を爆破しそのもの自体をなかったことにした、と。どういう意味かはわからなかったが、松永が元気そうだったのでいいか、弥里はそう思うことにした。
その前に運ばれてきた超子たちはひどい状況で、すぐにでも治療が必要だったし、ほかの3人はとりあえず鎮痛剤と他メンバーのフォルテで治療した。そんで眠らせた。それでよかった。超子の治療には、少し手間取ったけど、目を覚ましたんだから良しとする。それでいいんだ。
「うん、うん。みんな治った、それでいいんです弥里ちゃん」
弥里は満足げに頷いた。
「さてと!お仕事したし、タバコ吸ってこよ〜」
白衣を脱ぎ捨て、弥里はパタパタと部屋を飛び出していった。だが、ピタリとその足が止まる。
「そういえば松っちゃんにあげた『おくすり』……どうしたんだろ?」
まあいっか。気にしても仕方ないや。弥里はそう結論づけて、止めていた歩みを再開させた。
第2話【Oshama Scramble!】
終
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.18 )
- 日時: 2018/08/28 20:50
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
マグノリアには、ひときわクセの強い奴らがいる。毎日を面白おかしく彩り、生きていく。たとえそれがつまらぬものであろうと、何であろうと、面白おかしくしてしまう。日々のスパイスにしてしまう。退屈なんて言葉は存在しない。彼らにとって、退屈とは自由。何をしても構わない。それがスパイスになるのであれば、尚更。
そんなクセの強い彼らは自らをこう名乗る。
『チームケイオス』ってね。
第3話
【fake town baby】
栃木県日光市、ポイントAでの戦闘から一夜明け。戦闘に加わっていた朝山御代は、もうすっかり調子を取り戻していた。捕食者に捕まっていたとき、嫌に体中からメキメキと音がしていたが、もう治った。あれだけ苦しかった呼吸もこの通り。今すぐにでも出撃できる勢いだ。
だが、病室に現れた存在を見て、何かを察する。
「入るぞ、朝山御代」
「げ……指揮官」
「と、オレも居るんだよなー」
「あれ?リーダー、ようやく引きこもり脱出うぇい?」
よく見知った顔、指揮官である紅蓮流星は、御代を見るなりフルネームで呼んでくる。指揮官が来たということは何か言い渡されるのだろう。その先が読めてしまった御代は、うげえという顔をする。が、後ろからひょっこり出てきたマグノリアリーダー、狂示にその顔色を変える。めったに表に出てこないくせに、今日はどうしたんだろうか。
狂示は引きこもりなんてしてねえよ、とおちゃらけ、ズカズカと入ってきて勝手にそばにあった椅子に座る。マイペースっていうか、なんというか。
「体調は大丈夫かー」
「うぇいバリバリ治ったうぇい」
「だ、そうだが」
「ふーむまあ時雨みてーに1週間休むなんてことはさせなくていーだろうな。超子は流石に病室から一歩も出んなとは、言っといたが…」
どうなるかね、アレは。狂示は肩をすくめてそういう。超子に何があったというのか。それを押しとどめるように、流星は狂示の前に出て口を開く。
「朝山御代。お前に3日間の休養を言い渡す」
「……へっ?」
突如言い渡されたその一言に、御代は口をあんぐりと開けた。何を突然言ってんだろうか、この人は。酒でも飲んだのかな。御代の今の顔を見て、狂示は笑い始めたが、それに構わず流星は淡々と告げる。当たり前だと言わんばかりに。
「フォルテを使ってはいなかったが、それでも相応の体力を要したはずだ。体力は無限にない。そしてお前個人としての代わりなどない。暫く安静にしていろ」
「うぇい……ナマコ指揮官」
「謹慎処分」
「ぷてー!」
言い渡された内容に、ついつい冗談を挟んで返事をしてみるものの、間髪入れずに謹慎処分に格上げされる。御代は思わずおかしなポーズを取って仰け反るが、流星は顔色を変えずに「冗談だ」と返す。冗談に聞こえないところが恐ろしい。これ以上ふざけると本当に謹慎処分にされるかもしれない。そう思った御代は頷いて、おとなしく寝る体制に入った。流星の隣りに居たリーダーは、一連の光景をケラケラ笑いながら見ていたらしいが、用がなくなったのか、椅子から立ち上がり戻る準備をする。すでに流星は早々に部屋から去っていた。
と、そこで狂示は何かを思い出したように、そうだとつぶやいてみせる。
「オウ喜べモーニングマウンテン。近いうちにまたなんかやっかもしんねーから。そんときゃ流星のヤローぶん殴ってでも認めさせてやらァ」
「……名前で呼べうぇい」
ケケ、そんじゃな〜。そう最後に言い残すと、今度こそ部屋から去っていった。部屋に残された御代は、病床の上で天井を見る。シミひとつない、きれいな天井。
「誰かこないかな……超暇」
ぽつりと呟いてみるが、それを拾うものは誰もいなかった。
◇
静かなくらいがちょうどいい。誰にも邪魔されず、誰からも見向きもされない。なんと素晴らしい空間なのだろう。この図書館という場所は。
ここはマグノリアにある巨大な図書館。その一角に、とある少女は傍らに大量の分厚い本を積み重ね、その中の一冊を静かに読んでいた。メガネをかけ、長髪で、いかにも文学少女と言っても差し支えないほどの少女。名を、『英咲れお子』。れお子はここでの日々を何よりの楽しみにしていた。静寂なくらいがちょうどいい。本に囲まれて1日を過ごす。嗚呼なんと素晴らしき理想の日常。文学的な本を読み、心の癒し、知識の蓄えにする。これこそが人類が目指すべきものだろう。
といいたいところなのだが、彼女が今読んでいるのは、大昔にやっていたという『特撮ヒーロー』をまとめたもの。よく見ると積み重ねられている本も、殆どが『ヒーロー』に関するものばかりである。だがそれでいい。読む本など偏っていい。それが自らの心を満たし、知識の蓄えになるのであれば。れお子はそう思っていた。
「れお子さん」
ふいに声をかけられる。よく話す人物の声であったので、れお子は栞を挟んで本を閉じ、そちらの方へ顔を向ける。ああ、やっぱり貴方だった。
「……アスカさん。呼び捨てでいいのに」
「れお子さんだってさん付けじゃない。人のこと言えないと思うなー」
アスカと呼ばれたその人───東野アスカは、くすくすと小さく笑い、話を続ける。
「『会合』の時間。だよ?」
「え……あ、ああ。確かに。……それで?」
「もう!れお子さんも来るんだよ、ほら」
アスカはそう言うと、れお子の手を引いて一緒に来るように言う。当のれお子はなんでそんなものに、などと言いたげな顔をするが、アスカがこの通りだ、拒んでも無意味だろう。もっと本を読んでいたかったのに。仕方ないかなあ。
れお子は気だるげに立ち上がり、アスカとともにその会合とやらに行くことにしたのだった。
◇
「モーニングマウンテンは?」
「暫く安静にしていろー、って指揮官に言われたってさ」
「へえ〜何やらかしたの?」
「さあ?指揮官に聞いても教えてくんなかった」
結構な人数が集まり、わいのわいのと騒がしいここはマグノリアの大会議室。この前、フォルテッシモについての報告会をしたあの場所である。そこの丁度真ん中のスペースに円卓が置かれ、それを囲うようにある人物たちが座っていた。その中にはあの三森弥里もいた。最も、ヒロポンを手にしていて表情がいかにも危うげではあるが。
円卓には空席は計4つあり、先程の会話を鑑みるに、これから席が埋まるのはそのうちの3つなのだろう。現に、空席になるひとつに、御代の写真が置かれた。端から見れば何かあったのかと問いただしたいものであるが。
「流石にそれは駄目だと思います」
「んー、じゃあ紙に『御代代理』って書いて椅子にはっつける?」
「その発想はどこから来るんですか…」
やいのやいのと騒いでいると、扉が開けられアスカとれお子が入ってくる。2人が入ってくるのを見るなり、他のメンバーは2人の席を少し引いてやり、すぐに座れるようにした。礼を言いつつアスカとれお子は座る。これであと空席は1人となった。
「あとは指揮官だけかー。脱いでいい?」
「アウト」
「れお子即答すぎない?脱ぐけど」
れお子にダメ出しをされたにもかかわらず、突然立ち上がって服を(全部とまではいかないが)脱ぐ者がいる。羽織っていたコートを投げ捨て、腰に巻き付けていたアクセサリーも投げ捨て、ついにはベルトにまで手をかけ始めたため、慌てて隣りに居たアスカが止める。流石にまずい。
「ヒナタさんそれはまずいって!男子いるし」
「えー」
「百合姉さんがスタンバってるし!」
「あっ、おとなしく服着てます」
投げられた言葉にヒナタと呼ばれた彼女───保瀬ヒナタは一瞬で真顔になり、投げ捨てたはずのコートとアクセサリーを直し始める。その様子を見ていた百合姉さんこと、霧島百合は、残念そうな顔をしてヒナタを見つめる。流石に百合姉さんが期待することはできないっす。言外にそう伝えるが、多分伝わってないんだろうなと肩を竦めた。諦めて席に座り直す。
そうこうしているうちに扉が開き、流星がその場に入ってきた。いつもの服装は崩さずに、そのまま入ってくる。だからだろうか、部屋の中の空気が一瞬にしてピリッとしたものへと変わり果てる。流星は空いている席のうちの1つに座り、周りを見回す。欠席の御代以外が揃ったことを確認すると、流星はひと呼吸おいて口を開いた。
「全員揃っているな。念の為点呼をするが───朝山は安静、浅葱柚子、英咲れお子、川上水木、霧島百合、東野アスカ、藤山まろん、保瀬ヒナタ、三森弥里、そして私。いない者は手を上げろ」
「指揮官ー、そのネタ古いです」
全員の名前を読み上げ典型的なセリフをつぶやくが、即座に川上水木と言う名の少年に突っ込まれる。その隣にいた藤山まろんなる少女は、首を傾げてケタケタと笑った。意味がわかっているのか、わかってないのかは置いといて。流星は少し黙ったあと、1つ咳払いをして話を再開する。この者たちが集い、名乗る名はただひとつ。
「では。これより『チームケイオス』定例会合を執り行う。寝たら牙突をかますから、そのつもりで」
そう、ここに集まった者たちはすべて、クセの強い奴らが集うグループ『チームケイオス』の面々なのである。彼らはこれから、何を『しでかす』というのだろうか?
続く