コメディ・ライト小説(新)
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- 狂騒剣戯
- 日時: 2021/01/12 23:22
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
※9/7 複ファ→コメライへ移動
「いくぞ───村正ァ!!」
登場人物一覧(略式、随時更新)
主人公:村山 正紀
妖刀村正に選ばれた者。
ヒロイン:村川 雨音。
主人公の幼馴染。
ある日突然、妖魂に食われた主人公、村山正紀。そこで謎の声に導かれ、妖刀村正を手にして脱出できたはいいものの、今度は幼馴染が食われてさらわれてしまって───
妖刀、聖剣、魔剣たちに選ばれた神子(みこ)たちが、妖魂と元凶のアシヤドウマンを滅ぼしに京都へと集結する。ソードアクションストーリー。
目次
第壱ノ噺
『ヨウトウムラマサ・メザメ』
>>1
第弐ノ噺
『ツルギノミコ・エラバレシモノ』(用語説明回)
>>2
第参ノ噺
『デュランダル・シュウゲキ』
>>3
第肆ノ噺
『イチジキュウセン・イチジキョウトウ』
>>4
第伍ノ噺
『カゾクリョコウ・タビハミチヅレ』
>>6
第陸ノ噺
『フタリデナカヨク・ケンカシロ』
>>8
第漆ノ噺
『ヨウトウアザマル・キョウト』
>>9
- Re: 狂騒剣戯 ( No.5 )
- 日時: 2019/06/25 18:30
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: exZtdiuL)
こんばんは。
いきなりのコメント失礼します。四季と申す者です。
地の文の分量がしっかりとあって凄いですね。
読み応えがあります。
また、サブタイトルがカタカナなところも、味があって良いと思いました。
これからも、執筆楽しんで下さいませ。応援しております。
- Re: 狂騒剣戯 ( No.6 )
- 日時: 2019/08/30 23:38
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
真っ二つに割かれ、文字通り塵となり消え果てる妖魂。またしてもいつの間にか、己の手の中にあった村正はなくなっていた。それは隣にいた朧のデュランダルも同じ。
ただそれ以上に目の前にいる人物に、正紀は驚愕を隠せなかった。なんでここにいる、というかまさかお前も『同じ』だったのかよ、と。それならそうと早く言えと。
言いたいことは山ほどあるのだが、まずは────
「場所移動しようぜ、ここじゃ長話しにくいだろ?」
自分の兄である壱聖のその言葉に従おう。
第伍ノ噺
【カゾクリョコウ・タビハミチヅレ】
壱聖に連れられるまま、2人は家の中へと入っていった。正紀にしてみれば帰ってきた、という感覚だが。リビングに入り、適当に座れよ、と壱聖が促した。正紀と朧は互いに目配せすると、ため息をついてその席に着いた。
少しの間を置いた後、正紀が口を開こうとした時、それを壱聖が手で制して話し始める。
「まずは、お疲れさん。間一髪間に合ったって所か。正紀がそうだってのは聞かされてたからいいとして、まさか朧のガキンチョが『剣の神子』だったとはねえ。いやあびっくりだ。しかもデュランダルだろ?物好きに選ばれたもんだ」
「ガキンチョって……オレもう15っすけど?」
「俺にして見りゃ立派なクソガキだ。で、だ。京都行くんだろ、元凶ぶった斬りに」
目付きを変えて、壱聖は2人に問掛ける。正紀には改めての確認、という所か。対して朧はなにがなんだかわからない、といった表情(かお)をして、2人を交互に見る。しかし正紀はこう話した。
「いや、第一の目的は雨音だ」
だと思った、そう言って壱聖はニヤリと笑う。だがそれに待ったをかけたのは朧。何一つ説明がなされていないせいか、ますます困惑の色を深めた。
「待ってください、一体何が起こってるってんです?全部説明してくんねえと、オレ流石にわかんねえっすから」
そう言えばそうだ。今の朧は無情報にも等しい。恐らくはなんで剣の神子に選ばれたのかも分からないのだろう。それに、妖魂を見て『黒ごまみたいなの』と言っていたから、今回の騒動についても全くと言っていいほど知らない。それでは困惑するのも無理はない。
ならばひとつずつ説明してやろう、壱聖は朧に目線を向けて、口を開く。
「じゃあまずは剣の神子についてからだな。お前はどうやってそのデュランダルを手に入れた?」
「え。あーっと確か…なんか寝てる時に『お前こそこの剣を使うにふさわしい』って言われた?いやお告げ?みたいなの貰って……そんで目ェ覚めたらコレがぶっ刺さってました。枕元に」
「オウオウやっべえな流石デュランダル。んで?そのあとは?」
「とりあえずこの人ぶった斬って見たかったんで、コイツに聞いたらこっちにいるぞみたいなの返ってきたんで、凸しに行きました」
「おいこら」
こともなげに話す朧に、正紀は1発頭に入れてやろうかと思ったが、さすがにそれはダメだろうと何とか拳を握るまでに留まった。それを見て笑いながらも壱聖は続ける。
「くくく、なるほどねえ。とりあえず朧のガキンチョ。お前みたいに剣に選ばれた連中を、『剣の神子』っつうんだわ。そんでその剣の神子である俺達に課された使命が───」
「各地に散らばる化け物、『妖魂』を退治して、それを作り出してこの世を無に返そうとしてる『アシヤドウマン』を斃す」
「そのとーり」
満足そうに指を指す。だが正紀は不満でもあるのか、眉をひそめて頬杖をついてそちらを見る。
「(晴明お前なんにも話してねえのかよ)」
『(話す必要性を感じなかった)』
「(てんめええええ!)」
理由もちろん、首飾りの中に居る安倍晴明に対しての怒りだった。色んなものをこちら側にぶん投げる割には、大事なことは何一つ説明しないという、態度が気に入らなかったようだ。いやそれはそうなのだが。
イラつきのあまりについ舌打ちを漏らしてしまう。カリカリしている弟に気づいた壱聖は、突然機嫌悪くなった弟に対して苦い笑いを漏らすも、直ぐに話を戻す。
「そんで。その大元であるアシヤドウマンがいるのが、京都ってわけだ」
「なら、雨音サンの話はなんなんす?」
「実はなあ、雨音ちゃんがどうにも、妖魂にぱくっと食われて連れ去られちまったんだわ。しかもその妖魂が向かった先が、そいつがいる京都らしくてよ」
「だから1番の目的が雨音サンって」
「そゆこと」
これで分かったか?と聞けば、まあ大体はと朧は返事をする。
「大体わかったんなら問題ねえよ」
満足そうに壱聖は頷いた。と、そこを狙って正紀がとうとう口を開いた。
「もう本題入っていいか?兄貴、てめえが剣の神子に選ばれたのはいつだ、そんでどこまで知ってんだ、吐け。俺の取っといたハーゲンダッツと一緒になぁ……!」
「兄ちゃんってよべ。あとハーゲンダッツはもう消化されたっつの。まあまずひとつ目の質問な。多分正紀、お前が目覚めるのより2日前くらいには剣を貰った」
そう言って手を高く掲げ、彼の武器である『エクスカリバー』を出してみせた。
「俺とこいつの出会いは、ほんとに突然だった。だってこいつ家のコンクリの壁に突き刺さってたんだぞ」
「は?」
そんで抜いてみたら抜けちまったわ、と軽々しく言ってゲラゲラ笑う。スポーンだぜ?スポーンって笑うだろ?と付け足してまで。しかしその笑いも直ぐにおさめて、エクスカリバーを家の床に突き刺してまた話を続ける。
「ただなあ、剣の神子の使命に関しては正紀から聞いたんだよ俺も。朧のガキンチョ。お前と同じでなんも情報なかったんだわ」
「はぁ?」
「だって突き刺さってたのを引っこ抜いたってだけだからな」
その話の傍ら、正紀はさらに晴明への怒りを強くした。なんでこんなに管理適当なんだよちゃんとしろよと言ってみるも、とうの晴明は全く何も言わず。実体化したら絶対殴ってやると強く強く決意した。
「(晴明ぜってえ殴る)」
『(やれるものならやればいい)』
「(首飾りこわすぞ)」
『(やればいいのでは?私は知らんぞ)』
「(こんのヤロォ…)」
ミシミシミシと拳を強く握る。あまりにも強すぎてそのうち皮膚が破けるのではと思うほどだ。
「これでいいか?」
「……色々とクソムカつくがもういい、あとハーゲンダッツ返せ兄貴」
「兄ちゃんってよべ」
そこまで言い終えると、壱聖は背伸びをしたあとで椅子から立ち上がる。そして予め用意しておいた荷物を手にすると、2人に向けて視線よこす。
「おう、行くぞお前ら。京都に」
「へいへい、荷物取ってくる」
「………ちょ、ちょっと待って下さいっす!オレも行く前提なんすか?」
「お前もだろ何言ってんだよ」
突然のことにまたしてもついていけなくなった朧は、壱聖を問い詰めるが、その彼は至極当然だろと言いたげな顔でサラリと言い放つ。呆然とする朧の横で、正紀はため息をついて、冷めた笑いを浮かべて声をかける。
「ま、旅は道連れ世は情けっていうからな、大人しくお前もこいよ。こうなったら兄貴は嫌でも連れてくぞ」
固まる朧を他所に、正紀は深いため息をついて、荷物を取りに自室へ向かった。
◇
「いやあ、京都かあ」
その村山家の隣の家。1人の青年は目の前にある『小刀』を見つめてそう呟く。その目元は包帯でぐるぐる巻きにされており、包帯の下には膿んだらしい目。
「僕も行こうかなあ。久々に本場の生八つ橋食べたくなったし」
青年はぺろりと舌なめずりをした。
第伍ノ噺 終
- Re: 狂騒剣戯 ( No.7 )
- 日時: 2019/08/30 23:40
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
>>5
大変長らくコメント返しを忘れてしまい申し訳ございません。
突然のコメントありがとうございます。
まだまだ未熟ではございますが、これからもお楽しみくださいませ。
- Re: 狂騒剣戯 ( No.8 )
- 日時: 2020/09/29 10:24
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: KACJfN4D)
「あの…村山さん」
「準備できたのかよ」
「なんでこんなことに…」
「兄貴に文句言え」
一連の流れから数十分ほど時間が経ち、正紀と朧は自らの荷物を手に、正紀の兄である壱聖の車の中にいた。中はひんやりと涼しかったが、今年の夏はかなり涼しめの冷夏なので、クーラーいらないんじゃないかと言いたかったが、本人曰く「娘たちのため」。たしかに子供は大人と比べ体温が高く、ちょっとした暑さでも体調を崩す可能性がある。
だからと言って。
「いくらなんでも夏のこの時期にブランケットが必要とかどうなんだよ…」
そう、冷やしすぎてかえって寒いのだ。
第陸ノ噺
『フタリデナカヨク・ケンカシロ』
時を遡ること10分程前。荷物をまとめた朧がやって来て、リビングで同じく準備が出来た正紀と待機していた頃。朧はじっと正紀の顔を見る。その視線に気づいた正紀は、しかめっ面をして朧に視線をやった。
「…なんだよ」
「いやまさかこんなことになるとはなあと」
「俺だって兄貴に文句言いてえわ」
「やめましょって、このメンツで行ってもどっかしらで事故るだけっすよ」
「そうなる前に止められてたらとっくに止めてんだよ……」
恨めしげな朧に対し、正紀はガックリと頭を抱えて机につっ伏す。あの兄の行動の速さと強引さは今に始まったことじゃない。昔からずっとあった。そのせいで理不尽に色んなことに巻き込まれたり、因縁をつけられたりしていた。もう止めさせるのもいい加減無駄だろうと諦めている節もある。どうせ何言っても兄貴はやると言ったらやるし、巻き込むと決めたらとことん巻き込みやがる、と。
朧もそんな正紀の兄、壱聖の強引さは多少なりとも知っているので、そこまでやられるともう何も言う言葉がない。しれっと目線を正紀から外し、明後日の方向へと向ける。災難すね、と言いたかったが自分もその災難な目にそれなりにあっているので、ここでかける言葉じゃないなと飲み込んだ。
「つーか車で京都?頭おかしいんじゃねえの?飛行機とか新幹線だろ…」
「なんで車なんすかね…」
「車で京都まで行くわけねえだろ、駅までだアホ。新幹線のチケット取ってあるしいくぞ」
「は?」
2人ともうなり出したところで、ひょこっと壱聖が後ろから出てきてとんでもない爆弾を落としていく。その落とされた爆弾のダメージをもろに受けた2人は、顔を見合わせてほうけるのだった。
「……今なんて?」
「新幹線のチケット取ってあるって…」
「こうなること予測してたのか?」
「……やめましょ、これ以上考えると頭痛くなるんで」
「そうだな…」
もう何も考えないようにしよう、そうしよう。そう決めた2人はふらふらとおぼつかない足取りで、壱聖の車に荷物を抱えて乗り込むこととした。
そして冒頭に戻る。
◇
車の中に乗り込んだのは、正紀と朧、そして兄の壱聖とその妻柚樹(ゆずき)、最後に双子の娘、葵(あおい)と碧(みどり)の2人。かなりの人数だが、乗っている車がファミリー用のかなり大きめの車なので、余裕を持って乗ることが出来た。案の定正紀と朧はは1番後ろの席だが。
「つか、あの人が壱聖サンの奥さんすか…」
「ああ…ユズ姉か。お前あんま知らないもんな、接点なかったし。あの人だけだぞ、兄貴が一生かかっても勝てない相手」
「え」
「物理的な意味でな…」
「…えっ?」
どこか遠い目でそう話す正紀に、訝しげな目線を送る朧。丁度いいから教えてやるよ、と、疲れたような声音で正紀は話し始めた。
「あの人はな、兄貴と同い年で小学校からずっと一緒だったんだ」
「幼馴染みたいなもんですか」
「ああ。その頃からユズ姉は強くてな。まーまずアームレスリングで男子相手に負け無し。全勝。ついでに喧嘩も負け無し全勝。成績でも誰にも負けることは無かった」
「前半の情報が濃すぎてちょっと着いてけないっす」
「んで中学に上がっても兄貴と一緒。腐れ縁みたいな感じで続いたんだ。ちなみにコンクリの壁を素手でぶん殴ってぶっ壊したのもその頃だな」
「壱聖サンが?」
「ユズ姉」
「はえ……」
唐突に語られた壱聖の妻、柚樹の過去を聞かされた朧は既に思考を放棄していた。次から次へとやってくる情報に頭が全くついて行かない。そもそもコンクリの壁を素手でぶっ壊したってなんだ、そんなことが出来るのか。見た目すごく美人だし明らか聞こえは悪いが「非力です」って感じだったのに。一体あの細い腕のどこにそんな力が眠ってるんだ。ツッコミどころが多すぎる。
それでも正紀の話は止まらない。
「喧嘩も全戦全勝は相変わらず、度々挑んでくる兄貴を返り討ちにしまくったり、いじめっ子を逆に証拠掴んでからボッコボコにしたり」
「……」
「ちなみにいじめっ子の件はユズ姉の正当防衛、相手側の自業自得で終わった」
「俺は今何を聞かされてんすか?」
「そんで高校に上がっても一緒だったんだよな。相変わらず兄貴はユズ姉に負けてユズ姉は負け無し。最後にゃユズ姉が兄貴に『私が養ってやるからお前の残りの人生寄越しやがれ』ってプロポーズしてオチた」
「……少女漫画でもないですよそんな展開」
「ところがどっこい現実にあったんだな。兄貴の顔少女漫画のヒロインの顔してたぞ」
「聞きたくなかった」
「んでなんやかんやあって企業の社長になって結婚して娘ふたりが生まれた。以上」
「……」
色々ともう限界だった。クーラーはガンガン効いてるから逆に寒いし、ブランケットは1枚しかないから取り合いになるし、オマケに聞いてもない壱聖夫婦の馴れ初め話を聞かされるし、もう何をしていいのか、何を考えたらいいのか分からなかった。
「いっそ殺してくれ」
「出会い頭に突然ケンカ吹っかけたお前がこうなった原因だぞ、元を辿れば」
「……アホなことしたって思ってますよ」
「ちなみに続きがあるんだが」
「もーやだ、聞きたくない」
「巻き込まれたのが運の尽きだ、とことん付き合ってもらうからなぁ…」
「やめて!ほんとやめて!」
意地の悪い笑みを浮かべた正紀に、朧はしきりに耳を塞いでその場をしのごうとする。が、それも虚しく、駅につく数時間、延々と聞いてもないし聞かせてくれと頼んでもない、兄とその嫁の馴れ初め話の詳しい部分を聞かされる羽目になったのだった。
「仲良いわねー」
「仲良く喧嘩しなってな」
そんなことは知らずに、兄夫婦は2人を微笑ましそうに見守るのである。
◇
「ってかなんすか?そのぬいぐるみ」
「…持ってけってうるさかったからな」
「誰が?」
「……」
「?」
「(お前だろ晴明!)」
『はて、なんのことやら』
第陸ノ噺 終
- Re: 狂騒剣戯 ( No.9 )
- 日時: 2021/01/12 23:21
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
移動中は特に妖魂に襲われることなく、無事に京都にたどり着いた正紀たち。荷物をまとめて宿泊先の旅館へとチェックインをし、ようやく解放されたと言わんばかりにくつろぎ始める。
「……何もなかったっすね」
「びっくりするくらいにな」
寝転んだ正紀と朧は呆けて天井を見る。全く何も、なかった。移動中を狙ってこちらを襲ってくるのかと思ってそれなりの覚悟はしていたはずなのだが、ここまで何もされないとかえって萎えてしまう。と言うよりかそれしか考えていなかったために、いざ京都に来たとてやることが全く思い浮かばないのだ。
「どうするっす?」
「色々と疲れたから今日は旅館の中で休んでようぜ。つーかもう夕方だしな」
「そっすね」
「そうはさせるか飯食いに行くぞ」
「休ませろや」
第漆ノ噺
『ヨウトウアザマル・キョウト』
ゴロゴロとしていた2人に対し、第三者の無慈悲な乱入によりそれは唐突に終わる。壱聖が娘2人を連れてもう既に出かける準備を終えて、彼らにさっさと外に出るように促しに来たらしい。ここで何を言ったとしても拒否権はない、と言わんばかりに壱聖は2人を起こし、ずるずると外へと引きずり出す。
「っつーか何だって急に」
「急にでもねーよ、飯食う時間だし」
「強引っすねぇ…」
「それと」
そこまで言うと、壱聖は声のトーンを若干落とした。
「……妖魂の気配だ、そう遠くはねぇがまだ成長途中のやつだな」
「!」
瞬間正紀の体が強ばる。まさか雨音を喰らったあいつなのだろうか。首根っこを掴まれていた体勢から一気に手を引き剥がして立ち上がる。その形相はまさに修羅と言っていいだろう。朧はそんな正紀を見て、ぎょっとする。あんな顔は初めて見た。
しかし、それを壱聖が頭を小突いて元に戻した。溜息をつきながら正紀に諭す。
「『まだ成長途中』っつったろ。人を喰ってねえか、喰ったとしても1人くれえだ。お前の話じゃ、雨音ちゃんを喰ったのはそれなりにデカかったんだろ?それに、まだそいつだとは確定してねえって。少なくとも、その怒りは今解放するもんじゃねえな」
分かってる、分かってるよそんなこと。だけどもしかしたらって思っちゃうんだよ。
唇を噛み、握りこぶしは白くなるほど力が入る。あの時手が届かなかったけど、今度は絶対に、『ぶった斬る』って決めてんだ。全身の強張りはまだ収まらない。京都に来た今、妖魂という妖魂は全て倒す───そう覚悟を決めた矢先にコレだ。
それを察したのか、壱聖は下を向いている正紀の頭をひっつかむ。
「だからまずは飯食いにいくぞ。腹減ってちゃ何も出来ねえだろ」
「………」
「村山サンらしくないっすよ、うだうだやってないで飯行きましょ。もう既に壱聖サンの腹鳴りっぱですし」
「言うな」
「……おう」
2人がかりで説得され、正紀はようやく力を抜いた。まだ複雑な気分は晴れてくれないものの、美味い飯を食ってとりあえず冷静になろうと思い至った。その様子を見て、壱聖は改めて正紀の首根っこを掴み、またずるずると2人を引き摺っていくのであった。
「…あ、いた。どっかで合流できないかなーって思ってたけど、案外簡単に見つかるんだねえ。後で僕も仲間に入れてもらおう」
その少し後ろを、『幼い時からよく知る人物』に見られているとは知らずに。
◇
同時刻、晴明神社。怪しげな影がゆらゆらと佇んでいる。その姿は踊っているようにも、何かの儀式をしているようにも見える。
「ついに来たか、哀れな安倍晴明」
突然ピタリとそれをやめ、ボソリとつぶやく。その口元は嘲るような笑みを浮かべていた。
「愚か、愚か……我に体を奪われたとて、未だ抗うか……陰陽道の開祖が落ちたものよ」
手を空に掲げ、一気に振り下ろす。するとそこから『黒い塊のようなもの』が、粘着質な音を立てながら気味悪く現れる。それは段々と形を生していき、遂には大型犬位の大きさの『妖魂』となる。生を受けた妖魂はすぐさまにどこかへと消え去る。それを見届けたそのものは、ひとしきり高笑いをすると、また口を開く。
「まあいい。我が手中で踊るがいい。どうせ次の世は……この道摩法師、『蘆屋道満(アシヤドウマン)』の物よ」
満足気に笑うと、また踊り始めた。その周りには、沢山の『人を喰らい尽くした妖魂』が囲んでいた。
◇
「もう食えない」
「悪魔っすか壱聖サン…」
引きずられるまま良さげな料理店に入り、そのままあれやこれやと壱聖に食わせられ、あっという間に胃袋の限界が来た正紀と朧。既に会計を済ませて店を出たが、当の悪魔、もとい壱聖はまだ食べたりないようで、嫁と娘2人と一緒に和菓子屋を見て回っていた。どんどん胃袋に入っていく和菓子を見て、げっそりとした顔をうかべる。
「底なしかよ」
「正直もう食いもんは見たくねっす」
近くで壁に軽く寄りかかりつつ休んでいたものの、突如正紀の脳内に響いてきた声に邪魔をされる。他でもない晴明だ。
『村正よ、妖魂が来るぞ』
「っ!?」
『結界を張った。警戒しろ』
目を見開いて周りを見渡す。どこだ、どこから来る?右か?左か?もしかして下か?いや、何も無いところから来る可能性もある。正紀は村正を即座に顕現させ、戦闘態勢に入る。その様子に気づいた朧も、面倒くさそうにしながらもデュランダルを呼び出した。
『気配が近づいている───上からだ』
「上っ!?」
言われた通りに上を見る。すると確かに、『手足の生えた黒い塊』───妖魂が現れる。
「一気にケリつけんぞ、花嵐!」
「言われなくとも!」
村正が、デュランダルが走る。妖魂もそれを迎え撃つように、口を大きく開いて2人を喰らわんとする。そして体からうぞぞぞ、と何か触手のようなものが飛び出し、2人の足に巻きついた。掴まれたことにより、がくんとバランスを崩し後ろに倒れ込む。
「でっ!」
「んがっ」
するとそのまま2人を宙吊りにし、あろう事か思い切り地面にたたきつけた。その直前に晴明が術をかけて衝撃を緩和させたものの、あまりの痛さにその場に蹲る。
「げほっ、げほっ…いっててて……」
「ずるいっすよあんなん……!」
妖魂は体が思うように動かなくなった獲物を見て、食べ頃だと言わんばかりに近づいてくる。そしてその距離が限りなく近くなると、また触手のようなそれを使い、2人をそのまま口へ入れようとする。
が、それは叶わなかった。
「見つけた」
突如妖魂の真上に、『脇差』を持った第三者が介入してきたのだ。そして妖魂の上に着地したと思いきや、その脇差を思いっきり刺したのだ。突然のことに驚いたのか、刺された痛みによるものなのか、妖魂は耳障りな叫び声を上げながら、2人を離した。
「はっ?だ、誰だ!?」
「ってそんなこと言ってる場合じゃないっすよ!トドメ、トドメ刺さないと!!」
「あ、ああ!」
それぞれ村正、デュランダルを構えたところで、例の第三者───『膿』を隠すためなのか、包帯を顔にまきつけた男が2人に近づく。味方、と言っていいかまだ分からないが、とりあえずこちらに敵意はないようだ。だが今はそれを気にしている場合ではない。
「行くぞ───村正ァ!」
「せいぜい足掻け、デュランダル!」
「───おいで、『妖刀・痣丸』」
瞬間、妖魂は塵となって消え果てたのだった。
◇
「お、終わった…うぷ」
「そういえば食事直後だったっすね…うええ」
戦闘後、突然正紀と朧は膝から崩れ落ちた。思い出したかのように吐き気が襲ってきたのだ。元々これでもかと言わんばかりに、くる食事くる食事を食わされ続け、直後にあの戦闘があったのだ、胃袋はもうとっくに限界を超えた。そんな彼らの背中をさすってやり、心配そうに見つめるこの男。どうにも正紀のほうには見覚えがあるようだ。
「(なんか…ちっちゃい頃に話した覚えがあるんだよな……そんときからもう包帯巻いてたっけ……)」
ぼんやりとだが浮かんでくる記憶。いつも笑みを浮かべて、なんだかんだとお菓子をくれていた気がする。その日によって貰えるお菓子が違うから、いつも『お菓子の兄ちゃん』と読んでいた覚えはあったような。いや、それは名前を知る前の呼び名だ。知ったあとは確か…
というかこの人さりげなく『刀』使ってなかったか?しかも妖刀。
「ほんと大丈夫…?お菓子あるけど」
「いやいいって……」
食いすぎなだけだから、と言いかけたところで正紀は思い出した。近所にいる、いつも違った美味しいお菓子をくれる謎の青年。何故か顔の、特に右目の辺りに膿が広がっていて、それを隠すためかは知らないが、包帯を巻き付けていた。どうもそれは今でも治っていないらしく。
「………なぁ、まさかあんたも『剣の神子』なのか?」
『お菓子包帯の夕兄ちゃん』
そう呼ぶと、『夕兄ちゃん』は満足気に微笑んだ。
第漆ノ噺 終
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