コメディ・ライト小説(新)
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- レキシブ!
- 日時: 2019/06/26 22:16
- 名前: N (ID: mCvgc20i)
ーあの日、誰も使っていない社会準備室を開けると、そこは、歴史部でした。ー
これは、僕の、ちょっと愉快な普通の話・・・
第1話 ハロー歴史部
勉強はそこそこ、どちらかというと理系。運動もそれなりにできる。そんな僕、大森ハヤテはどうしてもできない、苦手なものがあった。それは、歴史だ。
南の里中学校1年、帰宅部。今は5月。中学校生活にもそこそこ馴れた。
暗記が苦手だって訳じゃない。僕はそんなに勉強ができない訳でもない。でも、歴史が苦手だ。いったい何を言おうとしているかがわかんない。体が拒否反応を起こしている。
あの日の放課後。僕は担任の先生に頼まれて社会準備室にある歴史年表を取りに行った。どうやら、明日の音楽の観賞の授業で使うらしい。今はほとんど立ち入る人もいない社会準備室。電気がついている。ガラガラガラ。
「ん?誰だ?」
そこには、女子4名、男子1名。皆、思い思いに本や教科書を広げた状態で、ポカンとこちらを見ている。社会準備室の扉を開けると、そこは、歴史部でした。
「お、もしかして、もしかすると、入部希望者か!」
一番背の高い、女子が元気よく立ち上がった。
「いやぁ、歓迎するよ。君、1年生だね!・・・よし、早速歓迎会だ!」
そして、僕の手を握ると、ブンブンと強く振った。強い握手だった。
「ちょっ、待ってください!僕、先生に頼まれて、年表取りにきただけなんですけど・・・」
「さぁさぁ、遠慮しないで、ここに座って。みんな、自己紹介しよう。」
この人、僕の言葉を全然聞いてくれない。
「ようこそ歴史部へ!」
歴史部?だから入るつもりなんて無いって。おねがいだから話を聞いて・・・
「私は、歴史部部長、2年、中川カンナ。よろしく。」
強引に席に連れてった背の高い女子だ。
「私は2年、坂田ナノハ。ナノ先輩ってよんでね。」
今度は、少しフワフワとした、いかにも癒し系って感じの細い目をした女子。
「うちは高佐ちより、2年よ。よろしく。」
眼鏡をかけた小柄の女子。少しキツそうな性格っぽい。
「私は、白石みいな。1年。よろしくね。」
綺麗で真っ直ぐな髪を1本結いにした、可愛らしい女子。
「俺は、1年、真部イオリ。えっと、大森ハヤテ君だよね。」
「えっ?」
この中で唯一の男子が言う。背は僕と同じくらいかな。どうして僕の名前を知っているんだろう。
「ほら、わかんない?同じクラスの真部イオリだよ。」
あっ。思い出した。真部君だ。クラスじゃあまり目立たないからわかんなかった。
「よし、ハヤテ君だね。歓迎しよう!ようこそ歴史部・・・」
「待ってください!」
この上なく強引な中川先輩にそろそろ腹をたてた僕は、思い切り話を遮った。
「だから僕は、歴史部に入るつもりはないです。歴史なんて、勉強して何の得があるんですか。」
「・・・」
沈黙。しまった、と思った。この言葉は確かに本音だ。ただ、真っ向否定してしまった。この人達は、好きで歴史部をやっているハズなのに・・・
「・・・あの、」
沈黙に耐えられなくなって、僕は声を出した。その時。
「天正10年。」
中川先輩が、ポツリと呟く。と、その瞬間、目の前の情景が変わった。燃え盛る炎。僕は炎に囲まれている。場所は変わってないはずなのに。ここは、どこだ?
「敵は、本能寺にあり!」
高佐先輩が声を張り上げる。服装まで、立派な鎧姿に見える。少し離れた所で、真部君と白石さんが背中合わせになった。高佐先輩とたった2、3メートルしか離れてないのに、ずうっと離れて見えた。
「御館様!御無事で⁉」
「案ずるな欄丸。返り討ちにしてくれる!」
御館様?欄丸?白石さん、御館様って誰?真部君、欄丸って誰?
「くっ、是非に及ばず・・・」
真部君が、崩れるように座り込む。と同時に場面が変わった。水辺?いや、お城が、水没しそうになっている。
「信長様が、討たれた・・・だと⁉」
今度は坂田先輩?信長様?流石に信長は分かるけど・・・と、その時、中川先輩が坂田先輩に膝を着いて控えた。
「殿、これは好機ですぞ。」
「ば、馬鹿者!好機とはなんだ!殿が、殿が!」
「殿、御気持ちはわかります。草履とりであった殿を武将にまで取り立てた御館様の御恩も承知の内です。」
中川先輩は、スッと立ち上がると、手を前に突き出した。
「これを毛利に知られる前に、和睦し、京へ引き返し、光秀を討つのです!」
よくわかんない。よくわかんないけど、凄かった。特に、中川先輩は、言葉にならないほど、凄かった。と、情景が、社会準備室に戻った所ではっと我に帰った。
「くぅー!やっぱりカンナの勘兵衛は熱いわねぇ。」
「はい!ゾクゾクしますよね。」
中川先輩は大きく深呼吸をすると、元気よく、僕の肩を叩いた。
「どうだ、入る気になったか!?」
「えっと、凄かったです。全くわかんなかったけど、凄かったです。でも、ごめんなさい。僕には、歴史はわかりません。」
中川先輩は、ため息をつくと、ゆっくりと言った。
「歴史は、ドラマなんだよ。その人物が生きた証。いいこと、悪いことの情景も、全部ひっくるめて生きた証。歴史を学ぶことは、その人物が生きたことを讃えることなんだよ。」
そして、ビシッと僕に指差した。
「大森ハヤテ君!君を、新歴史部員に任命する!」
えぇぇぇ。こうして、僕は、(強引に)歴史部員にさせられてしまった。
- Re: レキシブ! ( No.4 )
- 日時: 2019/06/28 18:10
- 名前: N (ID: mCvgc20i)
私の世界は狭い。今までずっと、好きなことを語り合える人、友達なんていなかった。・・・あの時、私の世界は広がった。
第5話 私の歴史部〜ナノ編〜
「失礼するぞ。」
歴史部廃部危機事件から数日。歴史部にまた来客があった。会長と副会長だ。
「何の用だ。」
ちぃ先輩が会長を睨む。負けじと会長もちぃ先輩を睨む。バチバチと火花が散ったところで、みぃちゃんが副会長に声をかけた。
「どうしたの?お兄ちゃん。」
副会長は、いつものニコニコした顔で、言った。
「実はね、歴史部に引き取って欲しいものがあるんだよ。」
「引き取って欲しいもの、だと?」
カンナ先輩が怪訝な眼差しで副会長を見つめる。
「おい、歴史部に何を押し付けるつもりだ!」
ちぃ先輩も会長に噛み付く。
「大丈夫。君らにとって悪いものじゃあないと思うから。」
副会長の笑みに恐怖を覚えたのは内緒だ。会長と副会長は、僕らの話を全く聞かず、ダンボール箱をいくつか運び込んだ。僕らはダンボールを恐る恐る開けた。そこに入っていたのは・・・
「わぁ、すごい・・・」
そこに入っていたのは、着物や鎧や兜、弓矢や刀や火縄銃といった、いかにも昔っぽいアイテムの数々だった。
「前にあった演劇部の衣装と小道具だ。演劇部はかなり前に廃部になっているが、衣装や小道具はかなり本格的でだな、捨てるにも捨てられなくて今も残っているんだ。その中の時代劇の衣装と小道具をお前たちに引き取ってもらいたい・・・って聞いてるか?」
「聞いてないね。」
僕らは衣装と小道具を見て目を輝かせていた。会長はため息をつくと、副会長と一緒に生徒会室へ戻っていった。
僕は日本刀を(勿論模型)手に取った。
ヤバイ、カッケー!僕だって年頃の男子だもん。こーゆー武器は憧れる。
イオリは、火縄銃(勿論模型)を手に取って、僕と同じように目を輝かせていた。と同時に、女物の綺麗な着物を羽織って嬉しそうにくるりと回ってみせたみぃちゃんを、うっとりと微笑ましそうに見ていた。
ちぃ先輩は、弓矢を手に取った。少し何か言いたげな顔をしている。きっと、『兄者から貰ったのは癪だが、かっこいいな』とでも思っているんじゃないかな。
カンナ先輩は、自分の最大のオシである、黒田官兵衛(って言ったよね)の兜を被った。いやぁ、似合うなぁ。でも、そういえば。
「黒田官兵衛の兜って、シンプルって言うか、地味ですよね。」
思わず口に出た。すぐさま後悔した。また、カンナの歴史講座が始まる。
「黒田官兵衛の銀白檀塗合子形兜は、結婚の際に舅となった櫛橋伊定から贈られたものと言われている。むすぶ、つれそうなど意味合いを持ってだな、夫婦間を表していたり、敵を飲み干すと言った意味合いもある。」
へぇー。赤いお椀ひっくり返したような官兵衛の兜にはそんな意味が。
「さすがカンナちゃん。・・・私は、コレかな!」
今度はナノ先輩が日本刀(勿論模型)を手に取った。途端、部室が凍りつく。・・・へ?
「ナ、ナノ!よしとけって・・・」
ちぃ先輩が止めた、でも遅かった。ナノ先輩が嬉しそうに刀を構えた。そして、見境なく刀を振り回した!ちょ!ナノ先輩!?ナノ先輩の細い目がぱっちりと開いている(はじめて見た)。普段は温厚でフワフワしてるナノ先輩からは考えられないほどキレキレだった。
「あいつの家は剣道の道場でだな、竹刀とかそういう系ののものを持ってるとああなってしまうんだよ・・・」
えええええええ。どうすんのさ。
「ちょっとナノ先輩!落ち着いて・・・」
あ、ヤバイ。こっち来た。斬られる!ってマジで思った。本物じゃないけど。僕はとっさに、持っていた刀で攻撃を受け止めた。そして、ナノ先輩を思い切り押し返した。僕だって男だ。僕にはナノ先輩のような技術はないけど、それなりの力はあるつもりだ。僕は刀を構える。そして、僕の意識は飛んだ。
「ハヤテ!」
『危ない!』そう叫ぼうとして言葉を失った。ハヤテは、流れるように刀を振るうと、ナノの手を叩いた。一瞬、背中に冷たいものが走った。そのままハヤテは倒れ、刀もころんと転がった。
「痛ったあ。・・・あ、ごめーん。またやっちゃった☆」
のんきにナノが起き上がる。私、カンナは、ナノの『やっちゃった☆』ってゆうノリよりも、倒れてしまったハヤテのほうが気にかかった。
「ハヤテ!ハヤテ!」
ハヤテは、「うーん」と言いながら起き上がった。そして、普段通りのナノを見ると安心した笑みを見せた。その笑顔を見て、また一瞬、背中に冷たいものが走った。なんなんだいったい。
「ごめんね、ハヤテ君。」
ナノ先輩は僕に謝ってくれる。
「大丈夫ですよ。」
僕は、精一杯の親しみやすい笑顔で返した。
「そういえば、カンナと出会った時も暴走してたんだったよな。」
「ちょっとぉ、暴走なんていわないでよ。」
ナノ先輩はちぃ先輩をポカポカと叩く。
「でも、そうだね・・・」
ナノ先輩は、いつも細い目をさらに細くした、気がした。あ、ここから先輩の回想はじまります。
私には、好きなものを語り合える友達はいない。そんなこと知ってる。
「あ、すみませーん。それ、拾ってもらえませんかー。」
私の足元に竹刀が転がる。剣道部だ。私は竹刀を拾い上げる。そして、振るう。やっぱり、竹刀を振るのってたのしい。
「・・・」
私は、はっとした。またやっちゃった。私は、竹刀を剣道部に渡すと、逃げるようにその場から離れた。
「すごいな、君!」
話しかけられた。背の高い女子。・・・見られてた・・・私は、無視して通りすぎようとした。
「まるで、柳生宗矩のようだ。」
私の歩みが止まった。柳生宗矩。江戸時代初期の大名で、剣術家よね。将軍家御流儀である柳生新陰流の地位を確立したすごい人だ。もちろん小・中学で習う訳ないし、もしかしてこの人も・・・
「歴女・・・」
私は歴女だ。男の子みたいだとか、たくさん言われた。好きなアイドルについてキャッキャッと語り合う女の子達みたいに私も友達と語り合ってみたかった。でも、分かり合える人なんていなかった。
「おお!君もか!」
え・・・
「どうしてそう思ったの?」
「だって、瞳がキラキラ輝いているぞ。」
彼女は当たり前のように言った。
「歴史が好きだなんて、散々。」
どうして好きになっちゃったんだろう。
「いいじゃないか。好きなものは好きで。」
また当たり前のように言った。その言葉は、私の体を電流のように走り抜けた。
「そっちのほうが、絶対楽しいじゃん。」
二カッと笑う彼女の笑顔がまぶしかった。
「私は1年2組の中川カンナ。ねえ、一緒に社準行かない?友達もいるから、一緒に歴史についてだべろうや。」
これが、彼女、いや、カンナちゃんとの出会いだった。
「あれから1年になるのねぇ。」
なんというか、ほっこりした。あと、カンナ先輩かっこよかった。
「よかったですね。」
僕も自然と笑顔になった。
「うん!・・・カンナちゃん、ちぃちゃん。」
「お、なんだ。」
「2人とも、大好き。」
ナノ先輩のバックに、かわいいタンポポの花が見えた。カンナ先輩とちぃ先輩は、顔を染めると、ナノ先輩に抱きついた。
「ナノ~可愛すぎるぅ!私も大好きだぞ~!」
「ほっぺたスリスリさせてぇ!」
歴史部は、今日も平和です。
「そういえば、ハヤテ君もすごいね。剣道でもやってたの?」
え?どゆこと?
「だってあのナノ先輩をなんというか、バーンって。」
「いーちゃん、語彙力死んでる。」
確かにイオリの語彙力は死んでいたが、何があったかなんとなくだけど察することができた。
「そんなに?あの時、意識と記憶が飛んだからなにも覚えていないけど・・・もしかして僕って物凄い才能があるんじゃ・・・」
僕ら1年生組は愉快に笑いあった。
「・・・」
その様子を、カンナはナノハにスリスリしながら横目で見ていた。
- Re: レキシブ! ( No.5 )
- 日時: 2019/06/28 20:59
- 名前: N (ID: mCvgc20i)
友達なんていらない。1人は楽だ。誰も傷つけない。誰にも傷つけられない。でも、なんでだろう。なんでこんなに虚しいんだろう。
第6話 私の歴史部~ちぃ編~
「そういえば、どうしてちぃ先輩は『ちぃ』何ですか?『ちより』なら、『ちよ』とかのほうが妥当な気がするんですけど。」
僕は、純粋に思ったことを聞いた。
「さぁ?カンナが呼びだしたから理由は知らん。」
その場にいる全員がカンナ先輩の方を見た。
「なあに、そんなの簡単だ。」
カンナ先輩は、人差し指を立てると、自慢げに言った。
「小さいからだ。」
部室の気温が大幅に下がった。
「な、なにぃー!」
いや、1人だけ体温が上がった。もちろんちぃ先輩。僕は、聞いたことを悔やんだ。確かにちぃ先輩は小柄だ。多分、150そこそこだと思う。
「ちなみに147㎝のちぃは、源義経と同じくらい。ついでだが、170弱の私は、織田信長。160弱のナノは、徳川家康。150半ばのみぃは、勝海舟。160位のイオリとハヤテは、上杉謙信と同じくらいだと言われている。諸説ありだからあまり本気にしてはいけないが、なんかロマンがあるだろう。」
へぇ。僕は、上杉謙信と同じくらいかぁ。もっと背の高いイメージだった。なんか、カンナ先輩の言うロマンって言うのが、なんとなくわかった気がした。
「そうじゃなーい!」
「あっ、ちぃ先輩!」
ちぃ先輩は、ひどいぞーと叫びながら部室を飛び出した。
「昨日さぁ、新しい筆箱買って貰ったんだよねー。可愛くない?」
幼い少女たちがキャッキャッとだべっている。リーダー格の少女が真新しい筆箱を自慢する。
(あんま可愛くない・・・どちらかというと、ダサい・・・)
他の少女たちは、思ったことを言わなかった。
「ダサ・・・」
グループの外にいた1人の少女が、つまらなそうに呟いた。幼い頃のちより・・・
小さい頃から、思ったことを口に出してしまう。空気が読めないとか、我慢できないとか、まぁそんな感じだ。おかげでいじめられていた時期もあった。うちは、1人でいることにした。周りに関心も抱かない。そうすれば、他人を傷つけることも、自分が傷つくこともない。そのうち、いじめられても、なにも感じなくなった。そのうち、誰もうちに関わらなくなった。そうして、うちも中学生になった。
入学式が終わって、そろそろ1週間が経った。昼休み。うちは、1人で本を読んでいた。お気に入り歴史小説を読んでいた。結構な人数が体育館に遊びに行って、教室には、数名しかいない。まぁ、うちには関係が。
「・・・私は彼の手を離さなかった。離したら、もう二度と触れることができなくなるような気がしたのだ・・・。」
うちが読んでいる小説の一節だ・・・いやそうじゃなくて、うるさい奴が来た。
「なんなんだ、中川カンナ。」
うちは、読書の邪魔をされて腹が立った。
「いいよなぁ、それ。私も読んだが、ボロボロ泣いたぞ。」
奴の名は、中川カンナ。入学式の日、奴に目をつけられた。理由は、うちが読んでいた本だ。お互い歴女だった。はじめて趣味の合う奴に会った。だが、友達を作る気なんて、うちにはない。それに、うちなんかが奴と友達にだなんてなっていいはずがなかった。なんで“この人”がこんな普通の学校にいるんだよ。
キーンコーンカーンコーン。昼休み終了の合図。ぞろぞろとクラスメイトが帰って来る。バカでうるさい田中。私リア充感がウザイ西島。偽善者鈴木。・・・ったく・・・
「・・・さい。」
「おい、全部口から出てたぞ。」
え。うちは、深いため息をついた。これだから人と関わるのは・・・
それからというもの、奴はうちを『ちぃ』と呼び、ひたすらにかまってきた。休み時間、移動教室、下校時まで!うちは、物好きな奴だなと心の中であざ笑っていた。いや、口にだしていたかもしれない。
「ちぃ!おーい、ちーぃ!」
放課後。今日も例外じゃなかった。
「なぁなぁ、社準行こうや!先生に許可貰ったからさ。歴史の本いっぱいあるって!」
歴史の本。確かに魅力的だが、奴とは行きたくない。
「なぁなぁ!」
「うるさい!」
ついにうちは、キレた。
「うるさい!嫌だって言ってるでしょう。なんでアンタはうちにかまうの!“なんでアンタのような人が、うちなんかと関わろうとするの!”」
「おまっ、・・・もしかして、気づいて・・・」
あ、やっちまった。何かしらの事情があるって、うちだってわかってた。わかってたのに。うちは逃げようとした。
「待てよ。」
奴はうちの手首をがっちりとつかんだ。
「人との関わりを拒絶するのは何故?」
無言を通した。
「人を傷つけるのが怖い?・・・優しさじゃん。」
「違う!」
思わず叫んでしまった。周りに人がいなくて本当によかった。
「知ってるさ。」
・・・は?
「傷つくのが怖い。でも、本当は1人は寂しい。」
「何を根拠に・・・」
「人と関わりをもちたくないのなら、なんでクラス全員の名前覚えたのさ。」
あっ。うちがこぼしていたクラスメイトの愚痴・・・聞かれていたんだ、全部。泣き出しそうなうちを見て、奴は大きく息を吸った。
「“常に素直に語れば、卑しい人間はお前を避けるであろう”。」
18世紀末から19世紀前半を生きたイギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクの『天国と地獄の結婚』の一節だ。そして、彼女は続けた。
「私と友達になってよ。」
はじめてだった。言われたことのないセリフに、うちは困った。でも、このウィリアムの言葉に、彼女の思いが詰まっている。・・・ん?待て?詰まっている?
「アンタ、卑しい人間じゃないって断言できるんだ。」
思わずふき出した。
「ちぃ先輩ー!」
僕は、ちぃ先輩に追いついた。やっと見つけた。
「ハヤテ、どうしてお前が・・・」
「カンナ先輩に、『迎えに行ってやれ』って。戻りましょう、先輩。」
「なるほど。先輩は、校長先生に『ズラだ』って言っちゃうタイプですか。」
「随分とわかりやすくて、かわいい例えだな。まぁやったことあるけどな。」
あるんかーい。これからは、先輩のこと『勇者』って呼ぼうかな。(じょ、冗談だよ。)それにしても、カンナ先輩とちぃ先輩にそんな過去が・・・
「戻る。」
ちぃ先輩は、部室に戻ることをあっさり受け入れた。面倒くさくなくて助かる。
ガラガラ。扉が開く。
「ち・・・ちより・・・!」
カンナは、ちぃとは呼べなかった。ちよりは、顔色一つ変えずカンナの横を通り過ぎた。
「ちぃでいい。」
「・・・え。」
カンナだけでなく、全員が驚きの声を出した。
「理由は気に入らんが、その愛称は嫌いじゃない。」
ちよりは、ニカッと笑って見せた。
ちぃは機嫌を直してくれたみたいだ。よかった。
「よかったですね。」
ハヤテがひょこっと顔を出した。ニコニコと笑うハヤテはまるで小動物だったが、私は、またもや背筋に冷たいものが走った。時々感じるこの感覚はなんなんだ。
・・・怖い・・・
「どうしたんですか、カンナ先輩。」
キョトンととした顔で私の顔を覗き込んだ。それが私の脳裏にザッピングを起こした。幼い男の子の声・・・・
ーどうしたの?お姉ちゃん。-
そういえば、ちぃ先輩はカンナ先輩をなんで“この人”って言って避けたんだろ。
- Re: レキシブ! ( No.6 )
- 日時: 2019/06/01 20:03
- 名前: N (ID: mCvgc20i)
僕は、いや歴史部は、今、沖縄にいます・・・
第7話 夏だ!海だ!歴史だ・・・?
「皆の衆、全員集まったな。大切な話だ。」
カンナ先輩の声に、それなりにガヤガヤしていた部室は、シンと静まり返った。
「我々は、歴史が好きで集まり、語り合い、楽しんでいる。」
僕は無理やり・・・とは、もう突っ込まないことにした。僕は、みんなみたいに高度な話こそできないけど、それなりに歴史を楽しんでいる。
「しかし!我々は、おぞましい負の歴史から目をそむけつつある。」
おぞましい負の歴史?
「・・・戦争の歴史だな。」
カンナ先輩の独壇場だったが、ちぃ先輩が口を開いた。
「そうだ。我々は、歴史を学ぶ者として、この悲惨な事実から目をそむけてはいけない。」
「なにが言いたいんですか・・・?」
僕は思わず声を出してしまった。静まり返った部屋では、意外と声が響く。
「フッフッフッ。」
カンナ先輩は不敵な笑みを浮かべる。僕らは、身を固くした。
「と、いうわけでだ、夏休みを使って、8月の頭から1週間、合宿に行く!」
・・・ん?
「歴史部inオキナーワーーー!」
んんんんん?
「・・・え?」
全員の意見だった。え?沖縄?オキナーワ・・・
「いやいやいやいや、沖縄に合宿って、そんなにいきなり・・・っていうか、そんな簡単に行ける場所じゃないでしょ沖縄って!」
皆、口々に言う。今は、7月の中頃。来週から夏休みだ。カンナ先輩はまたもや不敵な笑みを浮かべた。
「案ずるな。その辺のことに関しては私に任せろ。」
そんなこと簡単にいわないで欲しい、マジで。僕らの慌てぶりを見て、カンナ先輩はぷっとふき出した。
「いやな、夏休みに沖縄にある叔父の別荘に遊びに行くのだがな、その叔父が友達を連れて来てもいいって言ってたんだよ。」
なるほどそれで・・・ん?別荘?
「と、いうわけでだ。皆の者、夏休みの課題終わらせとけよ!」
-いいか、朝の9時に大通り公園前に集合だ。寝るところと食事はこちらが用意しているから、着替えと水着は忘れるなぁ!-
当日の9時前。僕は一足早く大通り公園前にいた。学校ジャージに身を包み、ペラペラとカンナ先輩作の『合宿のしおり』を読んでいた。
1日目 初日 移動日
2日目 ビーチ
3日目 水族館
4日目 琉球関係
5日目 島々
6日目 戦争関係
7日目 最終日 移動日
なんというか、ぼやっとしているなぁ。
「おーハヤテ!早いなぁ・・・!?」
ちぃ先輩とナノ先輩は僕を見て固まった。逆に僕は2人を見て固まった。1つ違うのは、先輩達はワンテンポ遅れてふき出したことだ。
「お、お前、ジャージって!」
「・・・し、ふく・・・?」
なぜ。
「ハヤテ君、真面目だねぇ。」
いつものふわふわスマイルで言った。肩が微妙に揺れている。
「いやだって、合宿でしょう。」
「いや、カンナは合宿と言っているが、学校には申請していないから、正しくは旅行だな。」
ええええええ。そんなぁ。もちろん私服ももってきているけど、そうゆーことは、もう少し早くいって欲しかった。
その後、イオリとみぃちゃんにも同じような反応をされた。えー、僕だけ・・・
「よーし、全員いるな。」
ふいに聞こえたあの人の声。
僕らは、少しの間、車に揺られていた。カンナ先輩は、集合場所に車で颯爽と現れた。(もちろん先輩が運転していたわけはない)そして、言われるがままに車に乗った僕らは・・・いや、どこに連れて行かれるのだろう。
「着いたぞ、ここが私の家だ。」
カンナ先輩の家?なぜに?ってか、家デカッ、広っ。
「さあ、ここから沖縄まで飛ぶぞ!」
・・・ん?飛ぶ?
「さあさあ乗りたまえ、わが家の自家用ジェットに。」
JI・KA・YO・U・JYE・TTO?
「・・・え?」
「さあさあ、乗った乗った!」
とんでもないことになってしまった・・・カンナ先輩、自家用ジェットって。本当でいるんだ、そんなの持っている人・・・カンナ先輩のお家って、途轍もないお金持ちだったの?今、空。雲の上。
合宿に行くために家を出た数時間後に雲の上にいる、そんな経験ありますか。
「戦国最強は誰だ!最強決定戦ー!」
「おー」
ジェットの中でも歴史部は平常運転だ。そんな暴れて、落ちないよね、これ。不安になる・・・
「ついたな。ここが我が叔父の家だ。」
落ちずに無事到着した。
「おーよく来たね、カンナ!お友達も、ようこそ。」
「叔父上!お久しぶりです!」
「ああ。背伸びたんじゃないか。」
「まあ、ぼちぼちな。」
カンナ先輩と先輩の叔父さんとの微笑ましい会話。・・・いや、どこから突っ込めばいい!?
「おじうえ・・・?」
「どうしたの?ハヤテ君?」
「いや、叔父上って。」
イオリは僕の顔を覗き込んだ。僕は軽くため息をついた。
「別に、どうってこともないと思うぞ。うちだって兄のことを“兄者”って呼んでるし。」
ちぃ先輩だ。僕は頭を抱えた。
そうだ、歴史部はこーゆう人ばっかだった。
僕らは、やはり大きなお屋敷に通された。豪華絢爛を具現化したようなお屋敷だ。沖縄に着いた時にはもう暮れ時だったから、着くなりさっそく“ディナー”だった。美味しい沖縄料理を頂きました。美味しかったです、はい。
- Re: レキシブ! ( No.7 )
- 日時: 2019/07/13 10:59
- 名前: N (ID: mCvgc20i)
第8話 お風呂に水着にドキドキ回?(前編)
先輩叔父屋敷のお風呂は源泉かけ流し。濁り湯で、男女別で、そしてそして、とにかく広い。
「あー気持ちぃ。」
僕は顔を鼻の下まで湯に沈めた。
「うんうん、堪能してるなあ、ハヤテ。」
「ちょっと先輩、盗み聞きなんて・・・」
「お、誰か来た。これは・・・イオリだな。」
「えっ、いーちゃん!?」
「・・・なあナノ。」
「・・・ねえちぃちゃん。」
「・・・逆、だよな。」
「・・・逆、だよね。」
「よっ、ハヤテ君。ど?湯加減。」
「最高だよ、はやく来いよ。」
「うーん、気持ちいいな。」
「だな。」
「ハヤテ君って、意外と着やせするタイプ?」
「着やせって、っちょ、さわっ。」
「でも、意外と筋肉あるよね。」
「イオリこそ、ちゃんと食べてるのか?細いし白いし。」
「これ、年頃の男子の会話か?」
ちぃがため息をつく。
「相変わらず、カンナちゃんとみぃちゃんは聞き耳立ててるし。」
ナノも困ったような笑みを浮かべた。
「よし、体洗おうかな~。」
僕は、ざばっと湯船からでた。一瞬、頭がくらっとした。少しのぼせたかなぁ。
「っっっ、・・・ハヤテ君・・・!?」
「うん?どうしたんだ?」
「いーちゃん?」
「ど、ど、せ、背中っ!」
「ああ、これ?」
「どうしたの!?その、背中の傷!」
「せ、なかの傷・・・?」
「これはね、かなり昔につくった傷らしいよ。」
「らしい?」
「その記憶はきれいさっぱり飛んじゃっていて、なにも覚えてないんだけどね。事故かなんかじゃないかな。」
「・・・なんか、ごめん。」
「いいのいいの。別に誰か死んだわけでもないし。」
「・・・背中の傷・・・事故・・・」
「カンナ先輩?どーしたんですか?」
「・・・いや・・・」
「あーサッパリー!」
イオリがくっと伸びる。僕は、「そうだね」とだけ言った。僕はというと、完全に、のぼせた。イオリは長風呂らしい。
「今あがったのか。長かったな。」
「まあ。イオリが長くて・・・」
ちぃ先輩だ。旅館でありそうな浴衣を身に纏っている。(ちなみに、僕とイオリは普通の服)
「あ、そうそう。カンナが部屋に集合だって。行くぞ。」
「おー来た来た。らっしゃい、2人共。」
「お先にお邪魔してまーす。」
「もー、いーちゃん相変わらず長風呂だね。」
相変わらず・・・ねえ。
カンナ先輩は、ちぃ先輩同様浴衣。ナノ先輩はラフな感じの洋服。みぃちゃんは白いワンピースだ。
僕はチラリとイオリの方を見る。頬がほんのり赤くなっているのは、彼のためにも黙っておくことにしよう、フフフフフ。
「それにしても、この部屋は・・・?」
豪華な部屋に、写真がたくさん。そこには、豪華な着物を着た少女が。
「この人って・・・先輩ですよね。」
「ああ、そうだぞ。」
綺麗ではっきりとした顔立ちのカンナ先輩は、やっぱり映えるなあ。
「ん?これは・・・」
カンナ先輩の周りに写っている大人の人、何か見たことあるような・・・
「え、ええええええええええええ!」
「どうしたの?ハヤテ君。」
「せ、せせせせ、先輩の周りの人って!?」
僕は、ぎょっとした。映画、ドラマ、CM。色々なところで活躍する俳優女優がイッパイ・・・
それよりも、他のみんなが驚かないのに驚いた。
「わあ、藤宮あかねだ。すごいなあ。」
誰誰誰?藤宮あかねって。
「もしかして、ハヤテ君、知らない?」
知らないって、どゆこと?
「カンナ先輩はね、数ヶ月前まで、時代劇に引っ張りだこの、有名な子役だったんだよ。」
え?
「ええええええええええええ!?」
「っっっって、知らなかったの僕だけ!?」
「うん。そりゃあねぇ。」
全員顔を見合わせて笑った。
「そっか、ハヤテ君時代劇見ないのか。」
うん。見ない。見たことない。と同時に僕は理解した。
“なんでアンタのような人が、うちと関わろうとするの!”
「あー。なるほど。」
そゆことね。
「おい、おーい。ハヤテさん?」
カンナ先輩の声にはっとした。
「あ、すみません。なんでしたっけ?」
「おーそうかそうか。私の栄光時代が気になるか。そうかそうか!」
見事に会話が嚙み合わない。
「良ければ、衣裳部屋に案内するぞ!この屋敷にも少しあるんだ。」
それは興味ある。でも、興味があるのは僕だけではなかった。
「カンナ!うちも行っていいよな!」
「私も!」
「俺もいいですか!?」
「ですか!?」
「ああ、もちろんだ!」
「いやあ、すごかったねえ。先輩の衣裳部屋!」
「衣裳部屋ってか、もうコレクションでしょ、あれ。」
役者時代のものと思われる着物も勿論あったけど、明らかに男物のや、もはやコスプレともいえる着物の山だったからなあ。
「さ、もう寝よう。明日もあるし。」
僕、イオリは2人部屋。あとの女性陣1人部屋だ。
「何か、修学旅行みたいだね、イオリ。」
「ああ、そうだね。」
コンコン
その時、誰かがドアをノックした。
「はーい。」
「・・・いーちゃん?」
カチャリと静かに音を立てて、みぃちゃんが入ってきた。
「みぃちゃん、どうしたの?」
みぃちゃんは、“えっと、その、あの”と、まごまごする。
「あの、みぃ、まさか・・・」
イオリが困ったような、呆れたような顔をする。
「いーちゃん。どうしよ、眠れない・・・」
「みぃは、慣れない場所で寝れないんだ。」
「ええ!じゃあ、小学校の修学旅行はどうしたの?」
「俺たちは昔から、家族ぐるみの付き合いがあったから、よくみんなで旅行とか行ってたんだ。家族とか、俺みたいに慣れている人間が一緒なら大丈夫なんだけど・・・修学旅行のときは、みぃは先生に、俺と同じ部屋にするように頼んだみたいだけど通るわけなくて・・・結局その夜は眠れず、次の日の移動中、俺の肩でぐっすりだったな。」
おうおうおうおう。見せつけてくれるなあ。
「みぃちゃん、部屋変わる?」
「ちょ、ハヤテ君・・・」
「お願いします!」
ハイハイごゆっくり。
「じゃ、おやすみー、2人共。」
ハヤテが部屋を出ていった後。
「もう、みぃ。まだ1人で寝れないのか。」
「ご、ごめんなさい。」
俺、イオリは、ため息をつく。
「ほら、寝るまでここにいるから。はやく寝なさい。」
ハヤテが寝るはずだった場所にみぃは寝転ぶ。俺は、みぃのベットに座る。
「おやすみ、みぃ。」
「おやすみ、いーちゃん。」
みぃは、あっという間にスヤスヤと寝息をたてる。俺も、もう寝よ。そっと離れよう。起こさないように。
「ん?」
あれ、動けない。
「おいおい、みぃ・・・」
みぃが、俺の服の裾を掴んで離さない。
「全く、参ったな・・・」
- Re: レキシブ! ( No.8 )
- 日時: 2019/07/14 16:11
- 名前: N (ID: mCvgc20i)
第9話 お風呂に水着にドキドキ回?(後編)
「おはよう!イオリ。」
「おはよー。ハヤテ君。」
んー?イオリにクマが・・・
「・・・寝れた?」
「・・・あまり・・・」
「うん、そっか、お疲れ。」
「さあ!待ちに待った、海だー!」
海だー!海だー!海だー!
青い海、白い砂浜、赤い太陽!
「ありきたりじゃなーい?ハヤテ君。」
イオリー!頭の中読まないでー!
「ま、泳ぎますか。」
「おー!」
僕と、イオリ以外の人のテンション高い。ちなみにここは、カンナ先輩のお家のプライベートビーチです。あはは、プライベート・・・も、もう驚かないぞ。
僕とイオリは、海パンに薄い羽織もの。みぃちゃんはワンピース系の水着。ちぃ先輩は、スカートにパーカーを羽織ったような水着。(ラッシュガードって言うんだって)ナノ先輩は、大人っぽい、何か、腰に布巻き付けた感じの水着。(パレオって言うんだって)カンナ先輩は・・・
「先輩・・・大胆っすね。」
カンナ先輩は、大胆なビキニ。
「そうかそうか!どうだ!似合うか!?」
この人のこーゆうとこ、ほんと尊敬する。
「ねぇ・・・どう?いーちゃん。」
「うん、似合ってるよ。みぃ。」
ははん。こりゃ、みぃちゃんおニューの水着なのかな?
「オイ、ハヤテ。顔がにやついているぞ。」
ちぃ先輩が僕の肩をぽんと叩く。
「ハヤテ。お前までボケになったら、うちだけじゃさばききれないぞ!」
「すいません、何の話ですか?」
「スイカ割りだー!」
わー。目隠しをしたナノ先輩が木刀を構える。
「ナノー!右だ右!」
「そのまま真っ直ぐ!」
「・・・」
どうしよう。オチがみえるんだけど・・・
「そうだ!そのまま振り下ろせ!」
スパン!
スイカが・・・綺麗に真っ二つに・・・木刀なのに・・・
「うん、分かってた・・・うん。」
「え?何の話?」
「海と言えば“海の日”だが、元々は、“海の記念日”という民間での記念日だったんだ。」
「海の記念日?」
カンナ先輩は、イルカの浮き輪(あれ?浮き輪か?)にまたがりながら、浮き輪で海を漂っている僕に話しかけてきた。
「ああ。明治9年、明治天皇が東北地方を回られたのち、“明治丸”という船で7月20日に横浜港に無事御帰着されたのを祝ったものが“海の記念日”なのだ!」
「へえ、詳しいですね。」
「・・・なあ、ハヤテ。お前、ドキドキしているか?」
「・・・いやぁ、別に・・・?」
「2回に渡ってなのに!これでは、タイトル詐欺ではないか!」
「ごめんなさい、そういうボケは受け付けてません。」
「ドキドキねぇ。」
真っ先にイオリとみぃちゃんが頭に浮かんだ。
「ま、いいものは見せてもらったかなぁ。」
いっぱい泳いで、遊んで、食べて・・・いっぱい寝た。疲れたから、ぐっすり眠れた。やっぱ、海は楽しいな!うん。
僕には、“ドキドキ”とか、“キャッキャウフフ”は無理だ。うん。
「あー楽しかったなー!」
カンナは、自分のベッドに飛び込んだ。
「疲れたが・・・よーし!いっぱい寝て明日に備えるぞ!」
ベッドの上でゴロゴロと転がる。しかし、ある時その動きは、ピタッと止まった。
「・・・あいつ、上着着てたなあ。」
(気にしてるのか。)
おもむろにベッド横の机に手を伸ばす。その手には写真立てが。カンナは写真をすっと見据える。
「・・・まさか・・・だよな。」
カンナは、机の上に写真を伏せて置いた。
そこに写っていたのは、カメラに笑顔を向ける子供2人。
それは・・・幼き頃の甘い純情と、トラウマだった。
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