コメディ・ライト小説(新)

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不遇冒険者ですが、美少女に助けてもらえるようです(完結)
日時: 2020/03/12 09:24
名前: タダノヒト (ID: tfithZZM)

「本当になんとお礼を言えば良いのやら……お礼と言ってはなんですが、これを受け取ってく下さい」  

 少女はそう言うと、布袋の中から数枚の金貨を取り出した。これだけあれば、数ヶ月は普通に暮らせる額であり中々の大金である。しかし青年はそれを受け取ろうとはせず、少女の手を制するように優しく押し戻す。

「いえ、大丈夫です」

 典型的なお人好しだった青年からすれば本当に要らなかったのだが、少女の方からすればそれで気が済む訳がない。自分の人生がかかった大事な大金をひったくりから取り返してもらったのだ。少女は、これだけの大金を前にしても、無欲な態度を崩さない青年に尊敬を覚えながらも、とにかく何か礼をしたい一心で説得しようと試みる。

「どうせ無くなるはずだったお金です。最低でもこのくらいは受け取ってもらわなきゃ私の気持ちも収まりませんよ。だからお願いです。どうか受け取って下さい」  

「受け取ってほしい」と頭を下げる少女の様子に、青年は少し戸惑ったように手をばたつかせる。

「あっ、そんなっ、頭なんか下げないでくださいよ……分かりました。ありがたく頂きます」

















 男と別れてから少し後、青年の姿はギルドの玄関先にあった。青年は俗に言う冒険者であり、先程の件はギルドに向かう道すがらの出来事だった。従って、いつもより少しばかり遅れて職場に着いた彼だったが、そんな彼に対して、先に集合場所についていた男は、苛立ちを顕にする。

「おい、遅かったじゃねぇか」

「……ごめん」

「ごめんじゃねぇよ!! あっ? 俺より遅く来んじゃねぇよってあんだけ言ってんだろうが!!」

 青年を怒鳴りつけた男は、その勢いに任せて、青年の腹部を思い切り殴りつけた。

「がぁっ!? がはっげほっ」

 前触れもなくいきなり殴りつけられた青年は、たまらず膝から崩れ落ちて激しく咳き込む。そんな青年の髪を引っ張り、自分の顔の位置まで青年の顔を引き寄せた男は、まだダメージが残っていることなどお構い無しに、その理由を言及する。 

「なんで遅れた? 正直に答えろ」

「っ……それは……」
 
 青年は、今日の朝あった出来事を偽ることも、隠すこともせずに話した。男は、一応その話を最後まで聞き、さも当然と言わんばかりに手を出すと

「じゃあその金貨よこせ。それで、今日の遅刻は無かったことにしてやるよ」

 いかにも等価交換を持ちかけるかのような口ぶりで金貨を要求する。男の言動はまさに横暴の極みとも言えるものであるが、青年は特にためらう素振りすら見せず懐から金貨を取り出し、手渡した。

「へへ、四、五、六……と」

 男はそれをありがたがることもせずに受け取ると、手早くその枚数を数えて懐へとしまった。一方の青年の方はと言うと、金を半ば強制的に奪われたことに、というよりかは折角の好意を自分の保身のために捨ててしまったことに対する負の感情を表に出すまいとひっそりと唇を噛みしめた。

 彼らの関係性を簡単に説明すると、ギルドのパーティーである。他にパーティーメンバーはおらず、比較的珍しい規模の小さいパーティーである。しかし、仲間と言うにはあまりにも横暴なこの男を、青年はなぜパートナーに選んだのか。それを説明するには少しだけ過去の話をしなければならない。

「おいそこの。何勝手に割り込んでやがる」

 まだ駆け出しの冒険者だった青年が、受付を待つ列に並んだ際に起こったことだ。ドスの聞いた声と共にどこからともなく現れた、体格が良くお世辞にも人相が良いとは言えない男が青年の元に言い寄る。青年からすれば、ただ列の最後尾に並んだだけであり何か文句を言われるようなことは一切していないため、なぜ男が自分に言い寄って来たのか分かるはずもなく困惑した素振りを見せる。

「えっ?」

 そんな青年の反応に対して、男はいきなり胸ぐらを掴むと

「とぼけてんじゃねぇよ。そこは俺が予約しておいた所だろうが。てめえみたいな坊主がこんななめた真似して許されると思ってんのか?」

 まさに無茶苦茶である。それは十人が見れば十人全員がそう思うほど間違いないはずのことであるのだが、周囲は多少ざわつくだけで男の行動を咎めようとはしない。むしろ、関わらないようにしようと一度は注がれた視線が段々と離れていく。

 青年は、男の言葉をただ聞くことしかできず、周りもそんな青年を助けようとはしなかったためこの場の主導権は完全に男が握ることになってしまった。男はそんな雰囲気を良いことに、青年のことをすっとんきょうな理論で責め立て、そして最後には

「もしこのまま冒険者を続けられないような状態にされたくないって言うんならこれを払うしかないよな。金額は予約を無視したことと、俺の時間を奪ったことを考えて金貨五枚ってところか? まぁ安いもんだよな。それだけでなにもされずに済むって言うんだからよぉ」

 金銭を要求してきた。それも中々に高額の。何度も言うがまだ駆け出しだった青年が、大した金を持っているわけがなかった。それこそもうどうしようもなくなった彼の耳に、ある声が届く。

「もう止めろよ。そいつも困ってんだろうが」

 その声の主こそが、現パートナーのあの男だった。結果、難癖をつけてきた男は渋々ながらも青年から手を引き、青年は助けられた。これを機に、二人は事あるごとに関わるようになった。

 何かと自分のことを助けてくれる同年代の男に対して、青年は何かと親しみを感じると共に、尊敬のようなものを覚えるようになる。そんな相手からパーティーを組もうと言われて、断る理由などあるはずもなかった。

Re: 不遇冒険者ですが、美少女に助けてもらえるようです ( No.1 )
日時: 2020/03/12 08:49
名前: タダノヒト (ID: tfithZZM)


 男が態度を豹変させた、と言うよりかは本性を現し出したのは、パーティーを組んだその瞬間からだった。親切だったはずの男は完全に姿を消し、今までの恩を押し付けてありとあらゆる面で青年を奴隷のように扱うようになったのだ。

 例えば依頼に向かう際の荷物持ちや、依頼中の囮役、男が犯した様々なミスなどと言った面倒だったり危険だったりすることは全て青年に押しつけられる。それでいて、報酬や実績、名声はその大方が男のものとなり、青年はパーティーを組む上でのありとあらゆる負の面を一人で背負うことになってしまったのだ。

 更にここ最近はそれがエスカレートし、男が少しでも気にくわないと感じただけでサンドバッグのごとくストレス解消の道具にされることも少なくなくなった。更に一連の行為は主に周囲の目が向けられていない所で行われており、気づかれたとしても青年の方に非があるような言い方を男がしたため、男への周囲の評価が下がることはなく、むしろ評価が下がるのは青年の方だった。

 そんな扱いを受けながらも青年が男から離れようとしなかったのには、彼のお人好しの性分が関わっていた。なんと、この期に及んでまだ男に対しての信頼を捨てきれずにいたのである。ある意味、狂気的とも言える青年のお人好し具合だが、ついに、そんな青年の狂気をもってしても許容することが出来ない事件が起こってしまう。起こってしまってはもう手遅れなそんな事件が。

 その日の朝、男は青年を酒場に呼び出していた。いつもとは違う集合場所にいつもよりも早い集合時間、男よりも先に来て席を取った青年の表情には緊張の色が現れている。特に何かをした覚えもないことが余計にその緊張を掻き立てる。

「よぉ。待たせて悪かったな」
 
 そんな青年の気持ちをある意味裏切るかのように、男は青年には久しく見せていなかった明るい表情でその場に現れた。普通ならそこに気味の悪さを覚えるはずの場面なのだが、純朴な青年はそれを素直に喜んだ。

「ううん。全然大丈夫だよ」

 青年は今までのことを忘れたのかと疑いたくなる程、爽やかにフォローを入れる。男は、そんな青年の向かい側に座ると同時に、机上にそれなりの重量感を感じる布袋を置いた。その軽い金属音と膨らみ方から、中身が大量の硬貨であることは青年にもすぐ分かった。

「えっとな。今日はそれを渡そうと思ってここに呼んだんだ」

 男は、少しはにかむような仕草を見せながらその布袋を置いた意図を話した。しかし、あまりにも突然すぎる出来事ゆえに、当然、青年は疑問の意を示す。

「……どうして急に?」

 理由を問われた男は、神妙な面持ちを浮かべてその理由について述べ始めた。

「俺、どうかしてたんだ。ちょうどお前とパーティーを組んだ頃から妹が病気で倒れちまってよ。有名な治癒術士に治療して貰えることになったんだが、治療費がとにかく高額でな。それをかき集めることばかりに夢中になってなんか頭ん中がおかしくなっちまったんだよ。金を集めるためなら、なんでもしよう。俺はこんなに頑張ってるんだから少しくらい楽しても良いだろってな。おかげでって言うのもなんだが妹は助かったし、そのお礼と謝罪を兼ねてな。もちろんこんな金で足りるとは思ってねぇ。どんなことでもして、償っていくつもりだ。だから、本当にすまねぇ」

頭を下げる男に対して、青年は布袋を優しく差し出す。

「いいよ。償いなんか。元に戻ってくれるならそれだけで十分だから」

青年の顔は心底嬉しそうな、穏やかな笑みを浮かべていた。そんな青年の対応に対して、頭を上げた男は引き下がることをせず懇願する。

「……いや、受け取ってくれ。わがままかもしれないが、これは俺なりのけじめでもあるんだ。そうじゃなきゃ俺の気がとても収まらねぇっ」

「……うん。分かった」

 青年は、この前の少女の時と同じく、「受け取ってほしい」という強い意思を受けて、結局は金品を受け取った。

 


 その後、二人はパーティーを組む以前のように、仲むつまじい会話を交わしながらギルドの受付へと向かう。その際、二人の表情には久しぶりの笑顔が戻っていた。

 しかし、そんな青年にとって幸せな時間は不穏な喧騒によって遮られることになる。喧騒のする方にに目を向けると、カウンターの前に人だかりができていた。青年と男は、人だかりの後方にいた冒険者仲間を捕まえてその事情を尋ねる。その仲間が言うには

「ギルドの金を盗んだヤツがいる」

と言うことらしい。それで犯人に心当たりがないか情報を集めていたようだ。確かに大変なことではあるのだが、青年には心当たりといったものは微塵もなかったためこの件に関しては協力することが出来ない。とこの場を去ろうとした。しかし、男の方にはその心当たりと言うのがどうやらあるようで、青年を呼び止めると共に「言わないといけないことがある」と突然、周囲の視線を意図的に集めた。最悪の可能性が頭をよぎり、少し不安そうな表情を見せた青年を差し置いて男はその心当たりについて話し出した。

「俺は犯人を知っている」

男の発した一言は、青年を含めた周囲の人間を驚かせ、ざわつかせた。青年に関して言えば、その口ぶりから男が犯人であるという最悪の可能性が断たれたことに対する安堵もそれと同時に訪れたのだが。さて、そんな訳でその場にいた誰もが男の次の一言に最大限の注目を向ける。そんな中で男が指を指したのは、

「信じたくはないが……俺は昨日、お前が金を盗んでいるところを見てしまったんだ。言うべきかどうか迷っていたが、やっぱり同じパーティーメンバーとして、見過ごすわけにはいかない……と思ってな」

 その瞬間、周囲の視線は、全て青年に集まっていた。


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