コメディ・ライト小説(新)

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青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】
日時: 2020/08/05 14:01
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12710

2020.4.19
こんにちは&初めまして!雪林檎です。
コメディーの作品は6つ目となりました。
よろしくお願いしますm(_ _*m)


〜00 愛〜

「愛って何ですか?」私は“愛してる”が知りたい。

“心からお前の事を愛してる、例え本当の娘じゃなくても僕はお前の事を娘だと思ってる。僕に沢山の愛を教えてくれてありがとう、香純。”

―――私は彼が最期に言った言葉の意味が解らない。
「口下手で感情を表に出せない」と言われても仕方がなかった私は父の友人であった彼に預けられた。
母親は幼い頃に亡くなって父親は早くに再婚した。その義母がいる生活になれてなかったせいか義母とはあまり仲良くできなかった。
義母と父と暮らしていた時、私は独りだった。
取り残された気分に浸った。

彼が亡くなって私は本当に独りになった。
孤独だった。
初めて感じた寂しさは胸を締め付けた。
彼は最期に“愛してる”と私に向かって言った。
どう考えても、理解しようとしても出来なかった。
ずっと、ずっと理解出来ないと思っていた。

―――……そう思っていたのに。

そう思っていたのに―――私は“愛”を知った。いや、正確には教えられたというべきだろうか。

まずは私が初めてを教えてもらった人々との出会いを話していこうと思う。
これは彼との出逢いによって自分が変わって“愛”を知る話。


next

***character*** >>1

*本編* 

・第一章

00「愛」>>0 01「隣の不登校児」>>2 02「小田切香純」>>5 03「理由」>>7 04「編集者」>>8 05「一歩」>>9 06「クラスメイト」>>10  07「会話」>>11 08「変わっていく彼女」>>12
09「織戸恭吾」>>13 10「君の出会い」>>14 

09と10は恭吾の過去編、香純との出会い

・第二章

11「来訪者」>>15 12「小田切家」>>16 13「彼女の好きなもの」>>17 14「狂った愛」>>18 15「響き合う心」>>19 16「暗闇の牽制」>>20 17「君を想う」>>21

*小説情報*

・執筆開始  2020.4.19


*一言でもコメントをくださいました心優しい読者の皆様*

・蝶霞様

執筆の励みになります。コメント、ありがとうございました。(*´ω`*)


*ご注意*

・ただいま他の2つもゆるっと進行中ですので投稿が遅くなるかもしれませんがご理解のほどよろしくお願い致します。

・荒らしコメは一切受け付けておりません。
見つけた場合は連絡します。

・更新は午後6時以降。


Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.17 )
日時: 2020/07/31 17:19
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

13. 彼女の好きなもの

 対面の日が必然にやってきた。
お人形のような白色のワンピースに恭吾さんの瞳に似た色の亜麻色。
髪飾りは白百合のモチーフをしたシュシュ。
淡い桃色の口紅を塗って、全て用意してくれた宮下さんはわぁ、と声を漏らす。
そして、フッと眼を甘やかにし、微笑んだ。
 「――――お綺麗です、お嬢様――――」
そう言うと休む暇もなく対面を図るお茶会の席に行く。
ザクザク、と自分の芝生を踏む音、小鳥のさえずりが聞こえる。
太陽の匂いをした風が頬をかする。
綺麗に咲き誇った色とりどりの薔薇を堪能しながら、進んでいく。

「久しぶり、僕のレディー」

声が掛かり、私は振り向く。
スタッと跪いた男性は私の瞳を見つめる。
形の良いアーモンド形の綺麗な黒々とした瞳は私の戸惑っている表情を映し出す。
「七々扇 咲弥です、覚えてますか?」
男性は私の手を優しく掬い取るとビクッと身体を強張らせる私を見て面白げに微笑んだ。
紅茶や焼き菓子、などを置いた白いガーデンテーブルがある場所へ彼は招くと、対になるチェアを紳士に引いてくれる。
私は静かに腰を下ろすと美味しそうに紅茶を飲む美しい彼を見つめた。
「―――君と出会ったのはおよそ十一年前。覚えていなくて当然だから気を悪くしないで下さいね」
優しく微笑むと自己紹介を始めてくれた。

「高校二年生、君の一個上、好きなものは本、あと鳥かな。見てると癒されるんだ」

木々を見上げて、鳴く小鳥に表情を緩ませる。
「婚約者なんだし気軽に咲弥って呼んで下さいね」
私は小さく頷くと咲弥君は焼き菓子を食べ、すすめてくれる。
「……小田切 香純です……作家をしています。好きなものは――――」
好きなものと言って思い浮かぶのが、あの“三人”のこと。
温かくて私を受け入れてくれた恭吾さんと晴陽、優利ちゃん。
かけがえのない人達で好きな人。

 「友達」

自然と温まる胸を抑える。
今すぐに会いたいと胸を過ぎった。
スマホが直後、機械音を出す。
端を承知で電話に出た、その掛け主が――――――――晴陽だった。
『香純!!俺、我慢できなくて……』
咲弥君は驚いたような声を漏らす。
誰もいない二人きりのこのお茶会に侵入者などいないはず。
だから。
驚いたんだと思う。
侵入者が一人ではなく二人もいたから。
その侵入者とは。
「……我慢できなくて厳重な警備のこの家に忍び込んじゃった」
「香純ッ元気!?」
何度も思い返した晴陽の顔と後ろから出てきたハスキーな声に涙が溢れてくる。
力が抜けたようでペタン、と座り込んでしまった。
「おいで、香純ッッ」
晴陽は私の手を優しく掴み取ると、お茶会の入り口まで走り抜ける。
入口に何事かとやってきたお爺様を前に鋭い眼光を向けた。
一方の優利ちゃんは、咲弥君と睨み合っていた。
「………お前達は誰だ、香純のなんだ」
そう言われて晴陽はフッと乾いた笑みを浮かべる。
いつもと違う雰囲気を纏った晴陽は底知れない勇敢さが滲み出ていた。
絵本の中のよくある王子様のような。
普段は頼りないけど私の目にはどんな着飾った王子様の格好をした人よりも普通の格好をした晴陽の方がカッコよく映った。
「俺は娘さんの幼馴染で友達です!!」
すると、加勢をするように優利ちゃんが叫ぶ。
「派手な格好をしていますがッ、香純さんを想う気持ちは負けません!!」
そういうと、お爺様を通り抜けて、晴陽と優利ちゃんは笑顔で私に手を差し伸べる。
涙腺が緩み涙が流れる。
嗚呼。
私にはこんな優しい友達がいるんだ。
この鳥かごからようやく抜け出せる。
飛び立とう。
差し伸べられたその手を私は強く握りしめた。
咲弥君とお爺様は私の不躾な態度に立ち竦んでいた。
私達はその間に正門をくぐる。
そこには――――軽自動車が停まっていた。
中には私の担当である真壁さんが手を振って待っていた。
「真壁さん……!!」
私は真壁さんに近寄る。
早く乗って、と手で車の中を指すとドアが開く。
皆が一丸となって迎えに来てくれたことに心が締め付けられる。
私にはこんなにも、こんなにも心配して迎えに来てくれる人達が存在していたんだ。
今まで独りだと勝手に思い込んでいた。
下しか見ていなかった。

 「ありがとうございます―――――っ」

そう言って、表情を緩ませ、二ッと口角が上がる。
周りにいた晴陽達は私の顔を見て、驚いたように声を漏らしてから、揃って言う。
「やっぱり、笑顔が似合うよ」
と、微笑み合った。

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.18 )
日時: 2020/06/13 14:08
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)


14. 狂った愛

 お茶会にて二人の対面が図られるこの場から当事者であるあの子は連れ去りに来た男の手を取った。
僕はただ、ただ拳を握り締め唇を強く噛んでいた。
奪われてしまった、その喪失感と嫉妬心が僕の心を覆っていた。
あれは誰なのか。
友人、と言ったが異性なのに変わりはない。
いつしか恋人になるときなんてない、と決定づけてなんて、出来ない。
「………“香純”ね」
呼び捨てで呼んでいた。
彼の手を迷わず握った、嬉しそうに頬を染めていた。
―――――人形のような彼女に表情を教えたのは彼か。
あの日、誓った約束は嘘だった。
けれども僕を彼女という鳥かごに閉じ込められたのは事実だ。


『―――――僕の一生のレディーとしていてくれると誓ってくれますか――――』


御伽噺に憧れていた幼い彼女の夢を叶える為に言っただけの戯言に過ぎない。
だけど。
夢中になってしまうような笑顔を見せてくれた。
色素の薄い綺麗な髪に陶器のような白い手触りのよさそうなもっちりとした肌。
肉の薄い唇は三日月を描き、まつ毛の長いその大きな儚げな瞳はとても美しい。
彼女に今まで触れたのは計・五十六回。
あの十一年前の一週間でそれだけ触れたし、今でも二人で飲んだ紅茶の種類だって彼女の顔が少しでも綻んだ回数だって覚えてる。
彼女と過ごした時間だって覚えてしまうくらい君に溺れていた。
今だって。
嗚呼、狂おしいほど愛しく思ってしまう香純。
僕以外に笑顔を見せないで、好きにならないで。
君は気付いていないだろうけど僕はずっと見ていた。
学校を行かなくなった君、同居人が亡くなりさらに壊れてしまっていた君、涙を流した君。
全て僕は知っている。
僕は両手を合わせ唇に当てる。
「……………かすみ」
君がそっちを選ぶなら、僕は―――――全力で君を奪いに行く。
婚約者という地位を利用して君を縛る。
束縛はしたくはなかったけど、仕方がない。
やむを得ないことだ。





  君が悪いんだよ





「僕の香純、今行くから」
そう言って僕は身を翻す。

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.19 )
日時: 2020/06/14 14:03
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

15. 響き合う心

 車で家の近くまで送ってもらって晴陽と一緒に降りた。
太陽が晴陽の黒髪を朱色に照らす。
言葉も交わさないこの静寂の中、私の心は何故か温かくなっていた。
自分に手を差し伸べ、外の世界に連れ出してくれた幼馴染が隣にいるだけでどんな苦しい時だって立ち上がれる気がする。
――――今のように。
家路に着くと、晴陽はもどかしそうに瞼を何度も伏せる。
 やがて藍色に染まっていく空を見つめていた私は息を吐く。
色んなことがあってぐちゃぐちゃになった昨日、今日。
でもあっという間だった、あのままだったら今頃、私は壊れていただろう。
そんな事を思いながら一歩一歩、大地を踏み締める。
歩いている私に対し、突然、晴陽は立ち止まり私を呼び止める。
 「あ、あのさ………、あそこにいた人って香純の何……」
聞きにくそうにそっぽを向いて訪いかける晴陽に私はゆっくりと歩み寄る。
何といえばいいんだろうか、私は何故か後ろ髪を引かれるような気になる。
「婚約者、かな……でも両家で決められた同士だし深い気持ちは持っていないというか……」
 言い訳をするような私に晴陽はずっと、強く握り締めていた手を優しく取る。
爪が手のひらの肉に食い込んで楕円状に腫れていた。
晴陽は憂いの持った光を瞳に宿し、私の手の甲に顔をつける。
 いつもの晴陽とは程遠い弱々しい声色、瞳から光る液体が溢れ出ていた。
「もっと早くに行けなくてごめん………独りにしてごめん………本当にごめんな……」
謝罪を何度もする晴陽に胸が締め付けられる。
(違う、違うよ………謝罪なんてしなくていい。助けてくれたのにどうして……)
不可解な謝罪に私は首を傾げながらも胸が締め付けられる理由を心の中で探していた。
謝罪をするのは小田切家の方。
何も悪くない。
私も晴陽を見ていたら涙腺が緩み始め、スゥーッと涙が頬を伝っていた。
世間で言うもらい泣き。
私は同情が出来るようになっていた。
泣いている理由なんて分からないのに晴陽が悲しんで泣いている、という事実だけで泣けてしまう。
私は晴陽の肩から優しく抱き締めた。
よく、恭吾さんが泣いている私にしてくれたように人というのは泣いている時、抱き締められると安心すると言っていた。



 『香純、よく聞きなさい。周りで悲しんで泣いている人がいたらこうやって慰めるんだぞ』



微笑んで私を抱き締めてくれた恭吾さん、家に来て悲しみを分かち合ってくれた晴陽。
今度は私が抱き締めたあげる。
だから。
お願いだから―――――――泣き止んで。
「晴陽が泣いていると私も悲しいよ………」
涙を堪えようとしても堪えられない。
悲しい。
晴陽は私の顔をジッと見つめ、悲しみの色しかなかった顔を綻ばせた。
そして、晴陽は口を開く。
「一緒に泣いてくれてありがとう、香純。悲しくさせてごめん」
今までに見たこともないくらいに目を細め、頬を染めて白い歯を見せ笑う。
どくん、と激しく脈を打った。
この気持ちは何だろう。
怒りとは違う不安とか色んな気持ちが入り混じってる。
私は脈を打つ胸を手で押さえた。
苦しいけど、この脈打つ胸を止めたくない。
そう思った。

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.20 )
日時: 2020/06/27 14:03
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

16. 暗闇の牽制

 香純と別れて俺はとぼとぼ、と歩き出す。
もう暗くなった空を見上げ息を吐く。
「………あーもう」
どうして香純の前で涙を流してしまったんだろう、と今更ながら後悔をする。
 俺が婚約者、の事を聞いた途端、香純の顔は強張った。
苦しかったんだと俺は思った。
息苦しい誰かに一日中見られているような厳重な警備に勝手に決められた数々の事。
無理矢理に連れていかれたあの強引さと傲慢さ。
少しいるだけでも全て判った。 
 でも、そんな辛い中にいたはずの香純が泣いている俺の事を慰めてくれた。
安心した、あんなにも抱き締められると安心するものなのか。
「……人間の心理ってものは解らないなぁ」
さっきの事を想いだす吐息が止まり、脈打つ。
 その時―――――後ろから気配を感じた。
(つけられてる……)
恐る恐る振り返ってみる、俺の後ろをつけていたのは。


 「藤岡晴陽、成績優秀の頼まれたことを断れない性格の生徒委員で世話焼き、その為教師や生徒からも信頼を得ている。“僕”の香純と同じクラスで普段は唐沢優利を交えての三人グループで行動」


手に持った資料のような分厚い紙を大声で読み合げ、穏やかに微笑む。
虫をも殺さない微笑なのにも関わらず、背筋が凍る。
「こんばんわ、お昼ぶりだね。小田切 香純の婚約者の七々扇 咲弥です、藤岡晴陽君」
丁寧に会釈し顔を上げた彼はつかつかと歩み寄ってくる。
ただ寄らぬ雰囲気に俺は思わず、後退りをする。
 そんな俺の手を掴んで首を傾げ妖艶な桃色の唇を吊り上げる。
「どうしたのかな、生まれたての小鹿のような顔になっちゃって」
くすくす、と笑う彼の瞳の奥は嫉妬心の炎で燃えて見えた。指先が震え、頬にひんやりとした汗が涙のように伝う。
 言葉を発しようとしてもその得体のしれない恐怖で声が出ない。
口をパクパクさせる俺に構わず言葉を紡ぐ。
 「香純に近づくのはやめてくれないかな、僕の香純なんだ。ド庶民君」
穏やかな表情とは裏腹に声は冷めきっていて低く、見下すような言葉だった。
身分が違う、そういうニュアンスを込められた“ド庶民”。
ゾッとする。
香純に近づく俺を何としても排除しようとするこの独占欲に。
 「か、すみ………は……知って……いるの……かよ」
途切れ途切れになってしまったが俺は瞳を鋭くさせる。恐怖の泥沼にはまっていることをこれ以上勘づかれて馬鹿にされたくない。
幼馴染という腐れ縁で面倒臭いと思っていたが、恭吾さんがいなくなってしまったと知ったあの日、俺が見守っていくと誓った。
排除はされたくない。
「ただの同情と庇護欲だけで香純を惑わすのはどうかと思うよ、香純だって知ったら悲しくなる、だから、その前に僕が――――」
 その言葉に俺の中で何かが千切れるような音がした。“今”は同情なんかじゃない、恭吾さんがいても香純を見守りたいって思うようになった。
嬉しくなった、だんだん優しく表情を取り戻していく香純に。
「それはお前の考えを押し付けてるだけだろ、香純が言ったのかよ、『悲しいって』俺がいて!!!」
そう言うと咲弥は高笑いをした。
 「それは、君だって同じだろう、香純を出して自分が香純に必要だと僕に言ってきている。それは、香純が言ったのか『お前がいて良い』って」
咲弥の言葉に俺の胸はどくんっと脈を打つ。
香純の時とは違う鈍器で殴られたような痛みが生じた。
(確かに香純は俺に言ったか……俺は……今まで……)
手のひらの大切なものが零れ落ちるような喪失感が心を覆った。
駄目だ。
これを落としてしまったら、俺は。
 「君と僕は一緒さ、香純を僕にとられたくないと考えている。考えを僕と同じく押し付けて来た」
ぐうの音も出ない、反論も出来ない。
(俺はコイツと同じ、考えを押し付けて有利に立とうとした)
絶望、苦しみ、哀しみ。
色んな負の感情が入り混じる。
 「僕はね、堕ちるところまで堕ちたんだよ……いつか君も僕と同じになる」 
言い放った咲弥は静かに微笑み、ゆっくりと歩いていく。
誇らしげに、まんまと手のひらで踊らされたんだ。
自分と俺が同じだという為に、確認するために。
唇を強く強く、血が出るくらい噛み締める。
 「うあぁあああああ……ッッ」
苦しみに悶える俺は呻いた。
俺は香純を助けるどころか咲弥と同じく苦しめる存在になることを否定したくて。
でも、否定する人間は此処にはいない。
俺一人。
 歯車が狂っていく、カチリとカチリと、心が暗闇の中に取り残され、迷子になっていく――――――――。
誰だって間違え続け、苦しみ続ける。
誰も傷付かない世界なんてない、誰かが幸せな分、誰かが苦しみ、傷付く。
俺も唐沢も香純も咲弥も真壁さんも、皆。

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.21 )
日時: 2020/08/05 14:01
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

17. 君を想う

 蜂蜜色に輝いた月は何故か悲鳴を上げているようにも見えてしまった。
その暗闇の中、寂し気に輝く月に目を奪われ、言葉を失う。
胸が苦しくなる。
「晴陽……」
スマホ画面に映る言葉見つめ、瞼をゆっくり伏せる。
ベッドの上で藻掻いて、私はまた、スマホを見つめる。
どうしたって書いていることは変わらない。

 『俺は、もう傍にはいられない』

電話を掛けても繋がらない、切っているのだろう。
どうして晴陽まで私を置いていくのだろうか。
置いていってほしくない。
心の中でそう思っているうちに次第に瞼が重力に沿って落ちてくる。
殺風景なこの大きな家で眠る私は。

―――――唯一の光のもとだった幼馴染である彼にも捨てられた。




 がやがやと笑い声が溢れかえるこの教室で私の隣だけが静かだった。
灰色に全てが見える、面白くもない。
隣を見ては、優利ちゃんも私も溜め息を吐く。




 晴陽はあの日以来、姿を見せなくなった。







 「晴陽、いる?」
蜜蜂地区にある一軒家、晴陽のお母さん……小母様に上がらせてもらい、晴陽の自室に話し掛ける。
「前にも……学校に行かず引きこもってる私に晴陽が迎えに来てくれたよね。本当、可笑しいよね、だって今は私が迎えに来てるんだもの」
そう言っても返事は返ってこない。
何が原因なのか、解らない。
「ねえ、何があったの?晴陽まで、私を置いていくの?ねえ。お願いだから顔だけでも見せてよ、文字は嫌だ。」
涙声になってしまう。
口にする度に想像してしまう、恭吾さんと一緒に背を向けて少し顔を動かして膝から崩れ落ちて座り込む私を。
冷たい、鋭い目で見る晴陽が。
いつもの穏やかな笑みを浮かべずに「行こう」と促す恭吾さんが。
私の大切なものが崩れ落ちて、優利ちゃんまでどこかに行こうとするのが。
 嫌だ、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……!!!!
「……お願いだから私を独りにしないで……!!!!!」
自分の声でハッと気が付く。
口を噤み、両手で隠す。
そして鞄を持って立ち上がる、よろけて転びそうになった。

「また、来るから……っ」



 
 「…………ッごめん………香純」
彼女が階段を下りていく音が響き渡り、拳を握り締める。
我知らず泣いていた。
電気機械の光が白々しく一筋の光を灯している暗闇の部屋。
いつもの自分の部屋とは考えられない部屋。
カーテンで閉めたはずなのに窓の隙間から香純の姿が見えた。
窓に近づき、香純の後ろ姿を指で撫でる。
「抱き締めて安心させられなくてごめん……ッでも、俺は本当に悪い奴なんだ……あいつと同じだ」
唇を噛み締める。

 『堕ちるところまで堕ちたんだよ』

瞳に生きて居る光を灯していなかった。精神があんなにも病んでいる奴と同じことをした。
「くそ……ッ」
窓を見つめ、ふらふらと力なく帰っていく香純が視界の端に入る。
「ッッッ!!?」
言葉にもならない声を漏らし身を乗り出してしまう。
香純の後ろには奴がいた。
精神が異常なくらい病んでいて香純の事を自分のものにしようとしている男。
「香純っ!」
窓を叩く。此処で叫んでも香純は救えない。
(どうする、どうする?)
俺が助けに行かなかったとして、奴につかまり、香純の意見を聞き入れないあの家にぶち込まれでもしたら。
そうしたら。
今度こそ、あそこから出られなくなる。
鳥かごに入れられてしまう。
 ――――――――俺は傍にいなくていい。だけど、香純は笑って唐沢さんと学校生活を満喫してほしいんだ。
部屋から飛び出した。
階段を駆け下り、躓きそうになってしまう。
だけど、痛みを伴っても、助けに行かなくちゃって思った。


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