ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 月下の犠牲-サクリファイス-
- 日時: 2011/12/31 11:27
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: vjv6vqMW)
- 参照: http://m-pe.tv/u/?farfalla632
こんにちは。霧月 蓮(ムヅキ レン)と申します。名前は変わっておりますが前にここで書いていたことがあります。
今回は前に書いていて、挫折したしまったものを一から書き直してみようと思います。
誤字、脱字が多い思いますので、気づいた方は教えて下さい。
下手ですが自分なりに頑張っていこうと思いますので宜しくお願いします。また、一話一話の長さがバラバラですがお気にせずに
目次
序章:出会いは始まり>>1
第一話:サクリファイス>>2
第二話:謎のサクリファイス>>3
第三話:リミット>>4
第四話:バトル開始>>5
第五話:圧倒的な差>>6
第六話:特殊>>7
第七話:悪夢幕開け>>8
第八話:時を見る者>>9
第九話:穏やかな過去>>10
第十話:消せない過去>>11
第十一話:動き始める時、ジャッジメントの目覚め>>13
第十二話:崩れる絆>>14
第十三話:レジェンド>>15
第十四話:始まる物語、最初の判断>>16
第十五話:加速する運命>>17
第十六話:二人の傀儡使いの出会い>>18
第十七話:強さと意志と>>19
第十八話:無力とレジェンド>>20
第十九話:無力の最強>>21
第二十話:記憶と力と>>22
第二十一話:一人の少年の苦しみの歌>>24
第二十二話:白と黒>>25
第二十三話:お見舞い>>26
第二十四話:天使型サクリファイス>>27
第二十五話:天乃、紅蓮>>28
第二十六話:傀儡使いの力>>29
第二十七話:衝撃の事実>>30
第二十八話:犠牲と審判者>>31
第二十九話:見え始める終焉に>>32
第三十話:ディバイス>>33
第三十一話:判断者が見る行方>>34
キャラ絵>>12
参照のHPにもまったく同じものが載せてあります。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.35 )
- 日時: 2011/05/21 16:29
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: H0XozSVW)
第三十二話 決断
「とにかく、じゃ。このまま紅零の返還を待つか? それとも研究所に乗り込むのかのう?」
一通り書類に目を通し終わったところで蒐が問う。流架はうなり声を上げながら手に持っていた書類を床に叩きつけた。まぁ蒐は大体流架の回答は想像がついているから、単純に最終確認をしているに過ぎないのではあるが。ちなみにこの最終確認の段階で食い違うことも多々あるため必要なことであるといえるのだろう。
小さくため息をついて、わざとらしく考えるような仕草をした後に流架は「ま、乗り込んでみるか。一応兄貴には何も言わんでおこう」と蒐の問いに対する答えを口にした。蒐も小さく頷いて了解したことを流架に伝える。
兄である桜弥を疑いたくは無いが、今は誰が黒だかわからない状況である。いくら身近な人物だろうが疑ってかかったほうがいいと考える。勿論一番怪しいと思うのは桜梨、もしくはその桜梨の言う梨兎のことであるが。
まったく、ここ数週間で物事が急激に動きすぎだろう、そう考えてため息をつくのは流架である。正直に言って頭が状況についていけていないのが事実である。この際だから全力で能力をぶちかましてしまうのもいいかもしれないと思う。流架の能力は傀儡使い。この能力は人や人形、などの様々なものに自分の魂の欠片をいれ操ることが出来る能力である。
多くの場合、魂の欠片を入れられてしまった方は、拒否反応を起して何らかの異常を訴え始める。其れを強制的にねじ伏せるのも流架たち傀儡使いの性質の一つである。それゆえに耐え切れなくなった傀儡の方が潰れてしまうことがある。それゆえに流架は人にはあまり能力をかけない。かけたとしても一度だけ。一度能力をかけたことがある相手には能力をかけないように気をつけていた。
しかし其れはあくまで相手が善良な一般人のときに限ってである。相手が極悪や敵ならば流架も容赦はしない。まぁあくまで流架の基準での極悪、なのだから周りから見ればきつすぎることも、やさしすぎることも十二分にあるのだが。今回は紅零をさらった理由によって程度を変えようと決める。
「蒐ちゃんは勿論ついて来てくれるんやな?」
ニヤリ、と流架が笑って問う。蒐は時渡りの能力者である。時渡り、と名前がついてはいるものの実際のところ用途は時を渡ることだけではない。やろうと思えば容易に時間をとめることも出来る。指定したものの時間をとめることだって出来るのだ。まぁそんなことをしてしまえば後の調整が面倒だし、自分の中の感覚も僅かに狂ってしまうので、滅多に行うことはない。というか行う必要がない。
「はぁ、お前は一人にすると何をしでかすか分からんからのう。それに我の力もあったほうが微力ながら役立つじゃろう?」
ため息をつきながらそういう。結局は心配なのである。いくら超能力なんて呼ばれるものを持っているとしても所詮は子供。そんなのが誰が敵なのか分からないような場所に乗り込むのは無謀だ。笑い話にもならないと蒐は思う。能力が絶対の能力クラスの化け物並みな者ならばまだいいだろう。楽に相手のことを消してしまえるのだから。しかし傀儡使いやその他の能力についてはそうは行かないのである。数を揃えるしかない。
満面の笑みを浮べて流架は頷く。呆れたようにため息をつきながら「まぁ言い方は好かぬが、駒が足りない、と言う状況じゃな。どうするのじゃ?」と蒐は言った。それが困るところだなというように流架は小さく手を挙げてお手上げのポーズをする。
「葵も能力者だから手伝ってもらいたいが……あったばかりの人間だし女子やからなぁ……着たいはできひんな」
バタンとソファに倒れこみながらそういう流架。同意するというように蒐は頷いて「絶対の能力者とやらがいれば楽なんじゃがな。あいにく敵方じゃし」と呟くようにいった。なるようになるだろうと流架が呟いたのを聞けば苦笑いを浮べて、その通りだ、と返した。
ふと目を覚ませばすっかり日は昇っていた。ヤバイというように時計を確認すれば時刻は午後三時ジャスト。無断欠席決定である。悲鳴を上げる流架に、目を擦りながら体を起す蒐。時計を見れば呆然と口を開けた。研究所に乗り込むつもりだった、とはいえ流石に学校は休むつもりは無かったのだ。放課後すぐに乗り込むつもりだったのである。
「はぁ……やっちまったな」
小さく流架がため息をつくと、待っていましたとばかりに家のチャイムが鳴り響く。家庭訪問かそう考えて玄関へと向かう。こういうときの先生ほど怖いものはないと流架は思う。憂鬱だなと考えながらドアを開ければそこに立っていたのは葵である。その斜め後ろには腕を組みドアを凝視している來斗の姿も有った。
「あ、流架さん。お体のほうは大丈夫ですの?」
心配そうな表情で葵が問いかけてきた。ああ、無断欠席なのは体調悪すぎて電話できないとでも判断したのだろうかと考えて流架は小さく頷いた。そんなに会話したわけでもないのに、こんな風にお見舞いに来てくれるなんてちょっとした才能かしら、と思うも口に出さずに小さく笑みを浮かべた。口に出したところで後ろから蒐の拳が飛んでくるだけだろうし。
ふらふらと寝ぼけ眼な蒐が近づいてくるのを見れば葵も面白そうに笑った。來斗の方は僅かに口元を緩めただけだったが、まぁ胡散臭い笑みじゃなかったらよしとする。葵の姿を捉えてはっとしたような表情をした蒐を見れば流架大爆笑。
「元気そうで安心ですの。サボリ、かしら?」
クスクスと葵が笑いながらいう。図星なため何もいえなくなってしまい、蒐と流架は苦笑いを浮べた。來斗はしばらく会話に参加していたが、時計を見た後僅かに顔を曇らせて「じゃあ僕はこの後用事があるんで。また明日」なんて言う風にいって去っていった。引き止めようにもあまりにも來斗がすばやく走っていってしまったので其れも出来なかった。
「いつものことですの。でもここにこよう、っていったのはライちゃんですのよ? 姿を見て安心したんですわよ」
明るい笑みを浮かべて葵がいう。キョトンとした後に流架と蒐が顔を見合わせた。ふと流架が時計に目を移せば三時二十五分。少々話しすぎたか、というようにため息をついて流架は「あー俺らこの後ちょっと用事あるんや。今日は有難うな?」と言った。
その言葉を聞けば葵は僅かに顔を顰めて「なら私もお供いたしますわよ? どうせ暇ですし」と言った。あ、うれしいけどなんかヤバイ、そう考えて蒐に助けを求めたが完全にスルーされた流架は、頭をかきながら「あーいや……ちょっと危ないかもしれんから」と言う。そんなことを言ってしまえば逆効果なのであるが、そこまで頭が回っていないようだ。
「それなら尚更ですの。蒐さんもしっかりしてるように見えて抜けてそうですもの」
真面目な表情でそう返された。蒐が意義ありというように手を挙げたが、完全にスルーされてしまう。実に哀れ。
「あー……否定はせんが……。死ぬかもしれんや」
否定しろよと小さな声で蒐が呟いたが、徹底的にスルー。葵が力強く頷いたのを見て流架はきつく手を握り「ああ、分かったよ。まとめて守ってやる」と小さな声で呟いた。それは小さな少年の、強い決意……。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.36 )
- 日時: 2011/08/07 17:56
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 9K3DoDcc)
第三十三話 事態は急速に動き
輝く月を見て、桜梨は目を細める。情報ならすでに流架たち一行が乗り込んでくる時間帯のはずだった。小さくため息をついて自分でも情報に踊らされることはあるのか、とため息をつく。満月が見せるその光は桜梨にとって安らぎを与える物だ。情報に振り回されながらも怒りを感じないのはそのせいかもしれない。そう考えているとグラリと視界が揺れた。天上から降り注ぐ月の光を見ていたはずの瞳はいつの間にか真っ直ぐと地面に向けられていた。
「なっ!?」
突然のことに桜梨も驚いたようだった。普段なら咄嗟に体勢を整えただろう。しかし今回は違った。何故だか解らないが身体に力が入らない。頭も回らないし、何か大切な部分が抜け落ちてしまったようなそんな錯覚に襲われた。不意に聞こえた足音の方を見ることさえ出来なかった。クィッと顎を持ち上げられる。手で、ならまだいい。それが足だったら……別の話である。虚ろな目をその足の主を睨みつける。ぼやける視界の中に移ったのは銀の髪を持つ桜梨の大嫌いな一人の青年。
「クソ……何をした!? 月城 桜弥……!!」
桜梨としては噛み付くかのように叫んだつもりだった。しかし出てきたのは掠れた、搾り出すような声。手に薄型のノートパソコンを持った白い青年……月城桜弥はただただ歪んだ笑みを浮かべた。見た目の白さがくすんで見えるほど真っ黒な欲望が溢れる笑み……。背中に悪寒が走るのを感じながら桜梨はただただ桜弥を睨みつける。
「ふむ……梨兎君に僕を敵と認識するようにプログラムを組みかえられたようですね……これは面倒だ」
言葉とは裏腹に、心底楽しそうに桜弥は笑う。スッとしゃがみこんだかと思えば桜梨の眼帯から頬へ……さらに首のチョーカーへと指を這わせる。気持ちが悪いとでも言うように、唇を噛み身体を震わせる桜梨。それを見てさらに愉快だ、とでも言うように桜弥は笑った。どうやら根っから腐りきっているようだ。
「随分素敵な格好やなぁ、桜梨!!」
ダンッと勢い良く扉が開いた。そこに立っていたのは流架、蒐、葵の三人だった。おや? なんて言う風に声を漏らし首を傾げる桜弥。警備は厳重だったはずですがとでも言いたげに流架を見つめる。流架は口元に笑みを湛え「いやぁ、流石に焦ったで? でも生憎のところ能力応用すればなんともないんよ」と行った。蒐の手には小さな時計。能力が発動しているかを確かめるために普段持ち歩いている物だった。流架の手には小さなキーホルダー。多くが猫や虎、ライオンなど動物の形をしている。
「あと、俺らだけやないで? それほど馬鹿やないからな」
クスリと笑って流架は指を鳴らす。來斗に身体を支えられゆっくりと梨兎が姿を現して頭を下げた。まるでどこかに行く上司を見送る部下のように。フッと上げた顔には不敵な笑みが浮かんでいる。顔を顰めながらもすばやく桜梨のチョーカーに特殊なコードでノートパソコンを繋げる桜弥。余裕の表れか……焦って意味のない行動をしているだけなのか。
静かにエンターキーを押した後フッと体の向きを流架に向ける。ビクンッと不自然な反応を見せる桜梨。ただ力なく地面に横たわったその姿はまるで“ただの人形”のようだった。僅かに來斗が声を上げて走り出そうとするのを蒐が制し「お前が知っている桜梨とは限らぬ。梨兎のときのようにゆっくり声を掛けてみるんじゃ」と言った。コクンと來斗は頷いて静かに「桜梨……? 僕のこと分かる?」と問いかける。梨兎の場合目が見えなかったため声で理解をさせたが、さて、今回はどうか、と流架は思考を巡らせる。
梨兎の話を聞けば、桜梨は体内にサクリファイスストーンというエネルギーの結晶を埋め込み人間型サクリファイスにした後さらに負荷をかけて完成させた物だ。さらにその際に記憶もすっ飛んでしまったようで、性格はほぼ、別人。上手いタイミングで来たうえに、上手いこと記憶の欠片を引き出せるだろうか、と流架は首を傾げる。もっとも桜梨の記憶はいくらか戻っているし梨兎もそれを知っているが、あえて何も言いはしなかった。
「ライ、兄……?」
ポツリと、小さな声で呟いたかと思えば、きつく目を瞑って頭を両手で押さえ込んだ。何かに脅えるかのように、がたがたと震える。
「Sacrifice under the moon!! 音声入力開始、優先コードki39roku、Sacrifice104001!!」
ふと梨兎が叫ぶように声を上げる。小馬鹿にするように桜弥が笑ったかと思えば、機械かと思うぐらい平坦な声で「コード認証。コンピュータ書き込みを中断します」と桜梨の声が響いた。続けさまに梨兎が声を上げるとそのたびに桜梨はコード認証と答えた。それは少しどころか奇妙な光景。
「……研究者って怖いですわね」
小さな声で葵が呟けば來斗も苦笑いを浮かべて頷いた。桜梨が自分のことをライ兄を呼んだかと思えばこの急展開、流石について行けなかった。それは流架や蒐、桜弥についても同じようでただただ呆然と梨兎と桜梨の様子を目で追っていた。
「最終コード認証。天使型サクリファイス桜梨、再起動します」
錠が外れるような音がしたかと思えば、蹲っているだけだった桜梨がもぞりと身体を動かす。それよりも先に桜弥の方もノートパソコンで何かを打ち込んでいたが間に合わなかったようだ。桜梨はチョーカーにつなげられたコードを引き抜いて、ユラリと立ち上がる。驚いたように顔を上げる桜弥を見下ろして梨兎のいる方に歩みを進めた。
スッと静かに梨兎の横に並び桜梨は眼帯へと手を伸ばす。しばらく呆然としていた桜弥は慌てたように指を鳴らした。流架もそうであるが人を呼ぶときに指を鳴らすのに何か意味はあるのだろうか? まぁそんなことはどうでもいい。問題は瞳の色が紫に変わったリーシャ、ミーシャを初めとした能力者人が桜弥の後ろに現れたことである。その中には能力者では無いが紅零もいた。
「さぁ、始めようじゃないか、役者は揃ったんだ!!」
「紅零ぃ!?」
狂ったような笑い声と、流架の叫び声が響いた。スッと銃を抜き取り無言で音を聞き取ることだけに集中し始める梨兎と無言で手を握り震える流架。蒐は低く舌打ちをして桜弥を睨み付けたのだった。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.37 )
- 日時: 2011/08/10 15:21
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: 9K3DoDcc)
第三十四話 月下の犠牲
梨兎が深くため息をついた後、桜梨の耳元で何か指示を出した。それを聞いて桜梨は驚いたように目を見開いて、首を振る。勢いで外した眼帯が手から抜けて地面へと落ちる。普段ならば外した眼帯は腕に巻いておくのだが梨兎からの指令に驚いたせいでか落としてしまったようだ。小さく首を振りながら「中枢部を壊せば、あいつは……」と桜梨は繰り返す。
……中枢部? そんな風に流架が首を傾げるが、梨兎も桜梨も説明をしようとはしなかった。どうせ研究所の何らかの中心のことか、サクリファイスの中枢機能のことだろうと解釈する。前者なら流架には関係のないことなのだが、後者となると話は別。下手をすれば紅零を助けに乗り込んできた意味がなくなってしまう。
梨兎が大声で「行って。僕が何とかする。絶対にね」なんて叫べば桜梨が低く舌打ちをして右手を振り上げる。それを止めようとした流架を來斗が制して笑った。笑みを崩さずに「絶対の能力とやら、僕にはよく分かりませんが信じてみましょう?」なんて言う。
「特殊ディバイス、韋駄天」
フッと桜梨の服装が変わったかと思えば、既に桜梨は凄まじいスピードで走り始めていた。桜梨の周りに浮かぶ光の帯が不自然に形を崩しては元の姿へと戻る。それに反応して動いたのはエリカだった。二十体ほどの人形を操り桜梨に襲い掛かった。それを見た流架はため息をついて、ポケットの中から猫、虎、鷹のキーホルダーを取り出してそれを空中へと投げる。
投げられたキーホルダーは一瞬で本物の動物へと姿を変えてエリカの操る人形に襲い掛かる。僅かに振り返った桜梨が鼻で笑った。蒐や來斗はこういった場面では役に立たないなんて言う風に言って梨兎を支えることに専念している。葵は無効化できるものがあればすぐ動こうと思っているが、リーシャたちを操っているものが能力だとは分からないようだった。
「……特殊ディバイス、反射鏡」
流架の動物達に助けられ、自分のもとにつっこんでくる桜梨を見れば小さな声で紅零が呟いた。そこで紅零の服装が、右の太股の辺りで裂かれ、両袖の切り抜かれたワンピースに変化する。スカートの下から膝の辺りまでの黒いスパッツが覗く。胸の辺りには不思議な装飾の施された鏡が取り付けられている。
紅零とぶつかる瞬間、桜梨の身体がノーバウンドで紅零たちが居る方とは真逆の壁まで吹っ飛んだ。壁に叩きつけられ、そのまま地面へと崩れ落ちる。音を聞いた梨兎は顔を顰め「桜梨の力さえも跳ね返すか。……契約者がいない桜梨は不利だな」と呟いた。來斗が心配そうに桜梨を見つけた後、何か言いたげに梨兎を見上げる。
「ふふふ……こっちに紅零が居る限り桜梨に勝ち目はないんじゃないか? なんせ契約者がいないせいで本気が出せないんですから」
桜弥は嗤う。低く梨兎は舌打ちをして、両目に巻かれた包帯を解いた。少々身体に影響が出るだろうが別にどうでもいい。自分が今倒れたところで來斗や蒐などもいる。戦えるのかと言われれば少々不安ではあるが、能力があるのだから何とかやるだろうと思いたい。視力の回復を絶対の能力で宣言して今の現状を始めて自らの目で見る。
ため息をついてしまった。エリカを倒すには少々骨が折れるかもしれないが、そのほかは桜弥に操られているだけ。なんだ恐れることもないじゃないかそう考えて“絶対の宣言”をしようとしたとき、凄い速さで横を何かが通り過ぎていった。光の尾を引いて音も立てずに紅零へと一直線に進んでいく。
桜梨か、そう呟いて梨兎は動きを止める。下手に宣言をすれば桜梨がそのまま壁につっこんでしまうだろう。その衝撃で桜梨の中枢部が壊れてしまうと面倒だ、そう考えて、ひとまず桜梨が再び吹き飛ばされたときのための絶対の宣言の用意をする。
「おや、案外お間抜さんのようで」
そう言って桜弥が笑う。紅零はスッと円を作るように手を胸の前でかまえていた。桜梨はフッと目を細めて笑うと左手を上げる。一瞬にして桜梨の服装が普段のものへと戻り、フワフワと揺らいでいた光の帯も跡形もなく消え去った。紅零が驚いたように目を見開くのも気に留めず、桜梨は黙って足を振り上げた。
ギリッと流架が歯軋りして顔を逸らすのを見て蒐は小さくため息をついて、手に持っている時計を見つめる。蒐は時渡りのレジェンドである。レジェンドクラスになると時間をとめることも出来る。ただ、それをやってしまうと蒐の中の時間も時間を止めた分ずれてしまう。時間を止めてサポートに入らないのも、時間のズレに僅かな恐怖を抱いているからであった。
何かがわれる音が響いたかと思えば紅零の服装がすっかりもとに戻っていた。
「特殊ディバイスは強力だ。しかし、属性を乗せずディバイスを使わない攻撃には弱い。確かに僕が反射鏡にディバイス、もしくは属性攻撃で向かって行けば、あっさり跳ね返されるさ。Sacrifice under the sky……空の下の犠牲の役目は、拒絶と守護。僕とは少々相性が悪い」
桜梨は楽しげに笑ってそう告げる。サクリファイスは多くの場合与えられた属性を使って戦う。炎を属性として与えられたのなら炎を使った技を、風を与えられたのなら風の技……と言った感じである。そのためサクリファイスは属性攻撃とディバイスがないとかなり弱い。体術は駄目、ということなのだ。それゆえ特殊ディバイスは属性攻撃やディバイス攻撃を防ぐことばかりに集中し体術には対応できていない。
まぁ特殊ディバイスを体術で壊すほどの攻撃は普通のサクリファイスは出来ないのだが、その点でも桜梨は規格外であったようだ。
「ただ僕はSacrifice under the moon、月下の犠牲。月の光の降り注ぐこの部屋は僕のテリトリーだ。満月の光で僕が一定時間パワーアップするのは知ってるよな? 外道野郎が」
天上から姿を見せる満月を指差せば、桜梨は吐き捨てるかのようにそう言った。桜弥に向けた言葉。狼男かみたいですわなんて考える葵をよそに言葉を向けられた桜弥は楽しげに嗤う。まるで悪魔のように嗤って「しかしそれにはデメリットがある」と言った。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.38 )
- 日時: 2011/10/24 15:21
- 名前: 霧月 蓮 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: XvkJzdpR)
第三十五話 二人の傀儡使い
少し考えるような動作をした後、桜梨は嗤う。おかしそうに嗤いながら「確かにデメリットはあるが……そんな物関係してくる前に片付けてやるよ。僕の力なめるな」と桜弥を真っ直ぐと指差しながらそういう。その表情は自信に満ち溢れていて、少しも危険性のことを考えていないようだ。それは梨兎のサポートを信用しているからなのか、自分の力を過信しているのか。
紅零の手から炎がほとばしった。特殊ディバイスを使えばいいだろうにと言うかのように眺めるのは桜弥だった。それをみた桜梨は何の反応も示さずに右目に手を翳した。間に合わないかもしれないと言う不安もあるが、桜梨は確実に使える属性を水へと変更して、盾を作り上げる。形成された盾は炎を受け止めて、蒸発して消える。まぁ当然か、なんて呟いて桜梨はため息をつく。
紅零の攻撃が防げる程度のものだとは分かったが、むやみに近づくのも危険だ。と言ってもいくらかはパワーアップしているのだ。ごり押しでもちょっとした怪我を負う程度のものだろう、そう考えて桜梨は真っ直ぐ紅零に突っ込んでいく。紅零の放った炎の刃に反応して水の盾を形成したが、炎の刃は桜梨に向かうことなく、桜梨の遥か後ろ、梨兎たちのいる方へと向かって飛んでいく。一瞬戻ろうとした桜梨に梨兎が怒鳴る。
「桜梨、真っ直ぐ進んで!! こっちは大丈夫ですから」
ギリッと歯軋りをした後、一度床に足をついて勢いよく走り出す。梨兎に攻撃を加えても桜梨が助けに戻らないことを理解すると、桜梨への直接攻撃へとかえる。凄い勢いで自分ら炎の刃に向かっていっていることになってしまう桜梨は、よけられずに低く舌打ちをして、目を瞑る。コレだからスピードのつけすぎはよくないなんて呟いて。
瞬間蒐と梨兎、流架以外の動きが止まった。蒐が時計を見つめて小さな声で何かを呟いている。流架に促されて梨兎はゆっくりと「三分間の間桜梨に攻撃は当たらない。絶対に」と呟く。歯車がかみ合うようなそんな音が響いて、蒐が時間の流れをもとに戻したときには、炎の刃の軌道は不自然にそれ、梨兎たちの方へと飛んできた。低く流架が舌打ちをして、ポケットから強引にライオンのキーホルダーを取り出して、地面に叩きつける。
キーホルダーは一瞬にして本物のライオンへと姿を変えて、炎の刃を受け止め、燃え上がる。小さな声で謝罪の言葉を述べる流架には余裕がないように見えた。あまりにも相手の人形の数が多い。流架が今召喚している人数では捌ききれないのが事実であった。ギリッと奥歯をかみ締めて、ミーシャの操る人形を徹底的に潰していくことだけに集中する。それでも反応が遅れてしまう分は梨兎がもっていた拳銃で対応していく。
「悪いな」
小さくそう呟いて桜梨が思いっきり紅零の頭を蹴り飛ばした。骨とはまた違う何かが砕けるような音が響いて紅零は思いっきり床を転がった。素早く桜梨がそれを抱きかかえて梨兎の元へと戻る。呆れたような表情をしながら桜弥が前に出したのはミーシャだった。無表情で梨兎を見つめながらフワフワと手を動かす。
そんなのを無視して梨兎は絶対の能力で桜梨が壊した中枢部と呼ばれる物を修復したようだった。紅零の中枢部はリボンに内蔵されているもので直す前に取り外すことに苦戦するほどだった。桜梨は梨兎たちから離れてエリカの人形を蹴散らすのを手伝っていた。
流架の額には汗が伝っていたし、蒐も最早時間をとめることを躊躇わなくなってきたようだった。人形を蹴散らせている桜梨や流架が危なくなるたびに時間を留めてサポートに回る。おかげでだんだん正確な時間が把握できなくなってきたが、時計と睨めっこしていれば直るなんて言う風に言って、流架に止められても時間を止めてサポートに入るのをやめなかった。
「まったく、面倒なものですね」
髪を掻き揚げながら桜弥が呟く。その目には怪しげな光が宿り、真っ直ぐと蒐を見つめていた。ユラユラと揺らぐその光を気付けばジッと眺める自分に、蒐は苦笑いを浮べる。やや引きつったようにも見えるそんな表情だ。それに気付いた流架は黙って蒐の目を塞ぐ。短く舌打ちをして、桜弥を睨みつけて……。
「ああ、もう。面倒臭いんやけど? そこの人形少女も操られとらんのだったら、サッサと力を貸してくれるとありがたいんやけど? このままやと梨兎死ぬで」
流架の言葉を聞いて桜弥は可笑しそうに笑う。そんな言葉で操っている力が解けるはずがないと、自信に満ち溢れた、そんな笑み。しかしその自信はあっけなく崩された。……エリカの操っていた人形たちが元のサイズへと戻り、力なく倒れていってしまったことで。
「にゃ、隙を見て反撃しようとしてたのに余計なことをいう奴だにゃ」
そんなことを言いながらエリカはスッと桜弥にその顔を向ける。透き通った緑色の瞳には明らかな敵意が宿って、ただただ真っ直ぐと桜弥を捉えていた。
「な!? 何故能力が効いていないんです!?」
エリカの瞳を見て桜弥が声を上げた。エリカの手から落とされるのは紫のカラーコンタクト。ギリッと歯軋りをする桜弥に向けて、流架は言う。涼しげな表情で「何や知らんの? 傀儡使いは他の能力による干渉は受けないんやで?」と。きつく手を握り締める桜弥と、笑う二人の傀儡使い。それに加わるかのように桜梨の笑う声。紅零が起き上がり無言で流架の横に立つ。
「さて、これでこっちが明らかに有利、やで?」
それは宣言。桜弥に向けた、負けの宣告。
- Re: 月下の犠牲-サクリファイス- ( No.39 )
- 日時: 2011/12/10 18:41
- 名前: 霧月 蓮_〆 ◆BkB1ZYxv.6 (ID: vdS42JZF)
第三十六話 傍観者は笑い
ぼんやりとした目で流斗は戦いを眺めていた。戦いと言うには偉く馬鹿らしい小さな戦い。見方が回りにいなくなったというのに一人高笑いをする桜弥とそれを鋭く睨みつける流架……。その二人が、とても悲しく見えて流斗は小さく笑う。同情なんてらしくもないなんて呟いて、ただただ戦況を見守る。
ふと流斗の目が桜梨に留まる。笑い声を出しているのに表情はまったくの無。それを見た流斗は恐ろしい子もいるもんだなんて呟き、ため息をついて手に持っていた杖を指で弾く。倒れることなくその場にフワフワと浮かぶ杖は淡い光を帯びて、暗闇の中にぼんやりとしたシルエットを浮かび上がらせた。
「さて、審判はどうなるのやら」
負の審判者、流斗。死に関する決定、マイナス方向な運命の決定……そして審判の日における全ての決定を司る神にもよく似た力を持つ少年。そんな少年はただただ傍観者として様子を眺めては笑う。先が分かっているのにここまで面白かった物語はない、と……。不思議と応援してやろうと言う気分になるし、できれば死の決定を下したくないとも思う。まぁ桜弥を除いての話ではあるが。
「楽しそうだねぇ。流斗ぉ」
いつの間にか黒奈が満面の笑みを浮かべて流斗の横に立っていた。それを見た流斗は少し驚いたような表情をした後、フッと笑みを漏らす。それを見て黒奈も満足そうに頷いて腕を組む。杖が発する光は優しく二人を包み込んで、消えていった。再びあたりが闇に包まれてしん、と静まり返る。
次の瞬間、流斗と黒奈は桜梨たちのいる部屋の中央にある桜の木の枝に腰掛けていた。辺りを見渡し、空を見上げた跡に小さな、心底残念そうな声で「そろそろ、か」と呟く流斗の表情には影が宿り、黒奈の表情からも不思議と無邪気な笑みは消えていった。
飛び交う罵声と笑い声、悔しそうな叫びと、風斬り音。それを聞いているうちに柔らかだった流斗の表情はだんだんと凍り付いて、冷たくなっていき、いつの間にかいつものような無表情に戻っていた。それを見た黒奈も短くため息をついて笑みを消す。
乾いた軽い音が響く。銃か、そう呟いて流斗はぼんやりと音がした方から、銃弾が貫く人物を眺めた。撃ったのは桜弥、撃たれたのは桜梨である。瞬間に電子音が響き、桜梨が崩れ落ちた。慌てふためく葵の服のポケットから赤い液体で満たされた瓶が落っこちて砕けて、中身を散らす。
「中枢部がやられたみたいだねぇ……後、せっかくあげたプレゼントが砕けちゃったよぉ」
どこかぼんやりとした声。小さくため息をついて流斗は呟く。酷く平坦な声で「ここまで面白かった物語はない、って言ったのはどこのドイツだ?」と。
「中枢、部、にダメ、ージ。修復不能、修復……」
ブツブツと呟くように言う桜梨と。目を見開いて桜梨に駆け寄る梨兎。それを守るかのように流架とエリカが前に立つ。満足気に頷いている桜弥を真っ向から睨みつけていた。完全に桜梨の身体から力が抜ければ梨兎は慌てて絶対の宣言を行おうとする。
流斗がフワリと梨兎の前に降り立ち、杖で動きを制す。その表情は氷のように冷たく、梨兎は思わず言葉を失った。流斗の口から発せられるであろう言葉を予想してか、梨兎は耳を塞いで……。
「サクリファイス、桜梨の死亡を決定する」
呆気ない言葉。狂ったような笑い声と、ギリッと歯軋りする音。その中心に流斗は立ち。辺りを見渡す。蔑むようなそんな目で桜弥を睨み、温かい包み込むような目で流架たちを見て……。静かに息を吸い込み言葉を発しようとしたところで、衝撃。受身も取らずに人形のようにゴロゴロと転がる。
「お前、簡単にッ!!」
流架が叫ぶ。それを聞いて流斗はクスリと笑って「ではどうしろと? 中枢部が破壊され、助かる見込みがないのにも関わらず、決定を延ばしてイタズラに苦しめろ、と?」なんて冷たく言葉を吐く。流架はきつく手を握って地面を見つめる。
それを見た流斗はつまらなそうにした後、桜梨へと視線を移す。まったく動かなくなった小さな身体。それをきつく抱きしめる兄……ため息をついて流斗は首を振る。頭に浮かんできた“過去”を振り払うために。
流斗の横に黒奈が並ぶ。場違いなほどに明るい声で「はーい、審判の時間だよぉ!」なんて言ってくるりと回る。歓喜に満ちた笑い声。それを聞いた蒐は腹立たしげに唇を噛み、桜弥をきつく、きつく睨みつけた。
「さぁ、扉を開きたいのは、だぁれ?」
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