ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

処刑人斬谷断 お知らせあり
日時: 2011/08/16 20:08
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: XL8ucf75)

クリックしたみなさん、ありがとうございます。

新作ですwww

どうぞ読んでいってください!!

感想、意見どんどんお願いします!!


※1話1話が最低でも2000字程度あります。「長い文章苦手」という方は回れ右をするか、十分注意して読んで下さい。

>>54 企画募集のお知らせ


登場人物紹介 >>1

オリキャラ一覧

薬師寺 命(ヤクシジ メイ)紅蓮の流星s作>>2

夢見 黒夢(ユメミ クロム)Neonさん作>>4

紀伊 蜻蛉(キイ トンボ)ZEROs作>>5




プロローグ >>10

Case 1 ≪世を斬る探偵≫   
第1話「もみ消された悪」>>1第1話

第2話「金色の霧の島」>>13

第3話「迫る悪意」>>14

第4話「処刑人」>>15

第5話「悲しみを救うもの」>>16

Case 2 ≪人の道≫

第6話「探偵の朝」>>24

第7話「不良と令嬢」>>26

第8話「潜入捜査」>>27

第9話「暗躍」>>28

第10話「激昂」>>29

第11話「人であること」>>30

Case 3《殺意の疾走》

第12話「探してください」>>32

第13話「恨みと憎しみ」>>33

第14話「アダム」>>34

第15話「生き方」>>37

第16話「憎しみの果て」>>39

第17話「守るべきもの」>>40

《Case4 科学者の信条》

第18話「二酸化炭素と新たな依頼」>>41

第19話「危険な化学式」>>42

第20話「タイムリミット」>>43

第21話「最後の犯行予告」>>44

第22話「科学者の怒り」>>45

第23話「遠い日の約束」>>46

第24話「日が当たる場所」>>47

《Case5 助手だけの依頼》

第25話「衝撃の事件」>>48

第26話「前代未聞の依頼」>>51

第27話「本当の依頼」>>57

第28話「ジョーカー登場」>>58

第29話「奇襲」>>61

第30話「逆襲」>>62

第31話「助手の底力」>>63

第32話「よくやった」>>64

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13



Re: 処刑人斬谷断 第28話更新!! 企画募集開始!! ( No.61 )
日時: 2011/04/23 15:01
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第29話 「奇襲」

「………それで、何をすれば良いわけ?」

白峰がアダムを睨みつける。

「そのデータが何かお分かりですか?」

アダムは答える代わりに、問いを投げかけた。

「………日本のインフラの緊急時用動力の起動データね」

白峰は憮然とした表情で答える。

「その通り。それを全く逆の効果を得られるように設定して欲しいのです」

「つまり、このデータ1つで全ての施設を無効化させるようにしろってこと?」

「ええ。あなたにしか頼めない仕事です」

そう言いながら、アダムは白峰の耳元に口を寄せた。

「断れば、被害はあなただけに留まりませんよ?」

白峰は怒りに顔をゆがめたが、すぐに表情を消した。

「引き受けるわ」

「ふふ………感謝します」

アダムは不気味な笑顔を浮かべて、目まぐるしく変わり始めたパソコンの画面を見つめた。
















「あとどのくらいっ?」

薬師寺は電話に向かって大声を上げた。

『3キロだ。次の角を左に曲がれ』

薬師寺は近くに車が通っていないのをいいことに、危険極まりないスピードで青のスカイラインを爆走させる。

「………見えたぞ。あそこだ」

紀伊が前方の古びた校舎を指差した。

「……!」

薬師寺は目にも留まらぬ速さで腕を動かし、スカイラインを急停止させた。

反動で投げ出された紀伊と夢見はしかめっ面をしたが、何も言わずに外へ飛び出した。

『マッドガール、数分前に怪しい奴がそこに来てる。注意しろ』

「了解」

通話終了ボタンを押し、薬師寺もドアを開けた。

すでに紀伊と夢見は校舎内に突入していた。

「アダムもここに来てる………か」

嫌な予感を抑えながら、薬師寺も駆け足で校舎内に潜入した。














「……誰か来た」

白峰がボソリとつぶやいた。

「……誰です?」

「知らない。男1人に女2人。監視カメラに映ってた……何しに来たってのよ……」

「ふむ…………データは?」

「終わった。複雑だったのは最初だけで、あとは素人でもできる作業だった」

言いながら、白峰は改造したデータをアダムに渡した。

「ご苦労様です。さて………お邪魔な人たちにはここらへんで消えてもらいますか」

















「命、どこに行けばいいの!?」

「3階の音楽室! 電力が使われているのはそこだけ! 階段上って左よ!!」

「了解っ!!」

夢見は階段を駆け上がり、数秒で3階まで達した。

「音楽室………あれだ!!」

音楽室と書かれた看板を見つけ、夢見はそこに向かって猛ダッシュした。

「………鍵かかかってる! ……こうなったら…うおりゃっ!!」

夢見は担いでいた大剣を抜き、思い切り扉にたたきつけた。

扉はあっけなく吹っ飛ばされ、夢見は音楽室に入った。

「…………えっ!?」

目に飛び込んできた光景に、夢見は言葉を失った。

遅れること数秒、紀伊と薬師寺も音楽室に入ってきた。

「………!!」

2人も入るなり、顔色が変わった。

そこにあったのは、起動させっぱなしのパソコンと、目を見開いたまま事切れている少女の死体だった。

「まさか、この子が白峰凛……!?」

搾り出すように、薬師寺が声を出した。

「額を打ち抜かれてる………用済みだから、消したってことか…」

紀伊が悔恨の表情でつぶやいた。

「………ねえ、あれ何?」

夢見が白峰の死体のそばに置かれた物体を指差した。

「あれは………」

紀伊が近寄って物体を確かめる。

物体にはタイマーが付いており、残り時間は5秒となっていた。

「…! 爆弾だ!! 逃げろっ!!」

言うや否や、紀伊は爆弾を放り出し呆然としている2人を突き飛ばしながら音楽室から飛び出した。

その瞬間、轟音と共に爆弾は爆発し、爆風に3人は吹き飛ばされた。














「くくく……うまく爆発したようですね」

校舎の外で爆発を見届けたアダムは、ニヤリと笑うと、きびすを返した。

そして乗ってきた車に乗り込み、ノートパソコンに改造したデータが入ったSDカードを差し込んだ。

「さて…………どうやら新たな邪魔者も動き出したようだ。封じさせてもらいますよ」

パソコンを操作し、必要なコードを入力する。

「まずは電力…………落とさせてもらいましょう」

そう言うと同時に、アダムはエンターキーを押した。

Re: 処刑人斬谷断 第29話更新!! 企画募集開始!! ( No.62 )
日時: 2011/04/24 20:05
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第30話「逆襲」


相変わらずインフルエンザで療養中の断は、違和感で目を覚ました。

違和感の正体は直ぐに分かった。

「電気が………」

そう、つけっぱなしにしていた電灯が消えていたのである。

(ブレーカーが落ちたんじゃないよな………停電?)

疑問が沸きはじめ、断は体を起こして窓の傍に歩き、カーテンを開けた。

天候は快晴。落雷の様子などは無い。

「まさか…………」

断の頭の中に1つの仮説が浮かび上がる。

そして、その仮説は当たっていた。





アダムにより、日本全国の電気が止まったのである。












「ちっ! 電気を落としやがったか!!」

ジョーカーは小さく舌打ちをした。

机の上をまさぐり、探り当てた懐中電灯のスイッチを入れると、ジョーカーは壁にある「自家発電」と書かれているスイッチを押した。

すると、真っ暗な部屋に明かりが戻った。

ジョーカーは急いでパソコンの起動スイッチを押し、薬師寺が持っている携帯に電話する。

数回コールしても出ない。

「まさか、やられたんじゃないだろうな……」

留守番電話になってしまったことを確認し、ジョーカーは電話を切った。

そして輝きを取り戻した液晶画面を睨みながら、猛烈な速度でキーボードを叩き始めた。

















一方、アダムの仕掛けた爆弾で吹き飛ばされた3人は、爆発から10分ほどして、ようやく意識を回復させた。

「くそっ………」

最初に紀伊が悪態をつきながら立ち上がり、残りの2人を助け起こした。

「ひどい目にあったわ………」

「ホントだよ。最初はただの犬探しだったのにぃ〜」

薬師寺と夢見も口々に不平の言葉を言う。

「文句は後だ。薬師寺、ジョーカーに電話を」

「ええ、分かったわ」

薬師寺はポケットから携帯を取り出すと、ジョーカーにかけた。

『無事か?』

ジョーカーはワンコールで出て、開口一番不機嫌全開の声で言った。

「何とかね。アダムに爆弾仕掛けられたの」

『ああ、今13分前の衛星画像で確認した。とんだ災難だったな』

「全くよ……それで、アダムの居場所は分かる?」

『奴は今……ああ、まだ都内だな』

「都内……場所の見当は付く?」

『多分北川浄水場だろ』

「……ずいぶんあっさり答えたわね。知ってたの?」

『奴は電気を止めてすぐに水道も止めようとした。だから俺が先回りしてお前達のいる校舎から一番近い、北川浄水場のデータを書き換えて奴をおびき寄せたんだ』

「そういうことね…」

『そういうことだ。早く行ったほうがいい。データの書き換えがバレれば奴は逃げる。衛星がカバーできないところに行かれたらアウトだ』

「分かったわ」

薬師寺は電話を切りながら走り出した。















「……ここですね」

アダムは北川浄水場の門の前に立っていた。

「あの、どちら様でしょうか?」

アダムを見つけた警備員が駆け寄ってくる。

「ああ、私は水道局のものです。実は今、各地で水が止まってしまいましてね。様子を見に来たんですよ」

アダムは本物の役人さながらの作り笑いをしながら答えた。

警備員はいぶかしげにアダムを見つめる。

「昔事故で顔に火傷を負いまして……仮面で隠してるんですよ」

「そうなんですか……ではどうぞ中へ」

「ありがとうございます」

アダムは警備員に一礼すると、浄水場に入っていった。











『もう見えてくるころだ。見つけたか?』

「ええ、見つけたわ」

『7分前に奴が入っている。まだ出てきてないからこれが最後のチャンスだと思え』

「了解。突入するわ」

薬師寺はスカイラインを強引に路肩に寄せ、外に飛び出す。

「ちょ、ちょっと誰ですかあんたたち…!?」

警備員が門に突進してくる3人を見て血相を変えた。

「紀伊君!」

「分かった……麻酔銃だから勘弁してくれな」

紀伊は懐から麻酔銃を取り出すと、警備員に向かって発射した。

「うげっ………」

警備員は地面にばったりと倒れた。

そして3人は警備員の体を乗り越えて門の中へ入った。











「ふむ………特に問題ないようですね……」

制御装置を見ながら、アダムは内心焦っていた。

(誰かがデータを書き換えている………邪魔者は消えていない、ということでしょうか………)

「そうですか。わざわざ様子を確認なんて、ご苦労様です」

浄水場の責任者が愛想笑いをしながら言った。

「いえいえ。これが仕事ですから……」

「それでは、失礼させていただきます。どうぞあなたも、他のところに回ってあげてください」

「ええ………しかしその前にやることがありますから、もう少しだけここにいます。よろしいですか?」

「? ええ、構いませんが」

「ありがとうございます」

アダムはそう言うと、制御装置に再び近寄った。

(早くデータを元に戻さないと………)

アダムがドライバーで制御装置の外板を外そうとしたとき—




「そこまでだ、アダム!!」





「………!?」








アダムが声のしたほうへ振り向くと、そこには薬師寺、紀伊、夢見の3人が立っていた—

Re: 処刑人斬谷断 第30話更新!! 企画募集開始!! ( No.63 )
日時: 2011/05/01 23:17
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第31話 「助手の底力」

(バカな………)

アダムは声も出ないほどの衝撃を受けていた。

彼は薬師寺たち3人は廃校で始末したものと思っていたからだ。

「あら、私達が生きていたのがそんなに意外だったかしら?」

薬師寺が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

アダムは何も答えず、ただ3人の顔をじっと見つめている。

だが、それは呆然としているのではない。次の手を考えているのだ。

(あの『力』は使えない…………ならば)

決断を下したアダムは、小さく1つ息を吐いた。

「………いやはや、驚きましたよ。まさか生きていたとは……ゴキブリ並みの生命力ですねぇ」

「それは褒め言葉と受け取るぜ。アダムさんよ」

紀伊がハンドガンの銃口をアダムに向けた。

「—お礼にこいつをくれてやるよ!!」

言うや否や、引き金を引いた。

が、その瞬間アダムは弾かれたように体を倒し、銃弾をかわした。

「そのお礼は……お断り申し上げましょう!」

そのまま床を転がり、近くの機械の陰に隠れる。

「あはははははは!! 何やってんの蜻蛉! へたっぴ!!」

夢見が大笑いしながら叫んだ。

「うるせっ! あんなマトリックスみたいなマネができるなんて予想できるか!」

紀伊が不機嫌な様子を全開にして舌打ちした。

「はいはい、言い訳は結構……じゃ、夢見ちゃんよろしく」

「りょーかいっ!」

しかめっ面の紀伊をよそに、薬師寺と夢見が前に出る。

まずは夢見がアダムが隠れている機械の陰に、試験管を投げ込んだ。

試験管はアダムの直ぐ横で割れ、同時に怪しげな気体が発生する。

「…ふむ、毒ガスですかっ……!」

アダムはすぐさま機械の陰から這い出る。

「待ってましたっ!!」

当然、そこには大剣を振りかざす夢見が待ち構えていた。

「—真っ二つになっちゃえ!」

見た目からは想像もできないような怪力で、夢見は大剣を振り下ろした。

が—

「………ふえっ!?」

直後に、夢見が素っ頓狂な声をあげる。

夢見だけでなく、薬師寺と紀伊も愕然とした顔になっていた。

アダムは大剣を、なんと白刃取りしていたのである。

「……ふう、危ないところでしたね」

アダムはニヤリと笑った。

「………あなた人間じゃないわね」

薬師寺があきれ返った様子で言った。

「いいえ、私は立派な人間ですよ。それに第一、人間離れしているのはあなた方も同じでしょう?」

「うん、それは確かに」

夢見が納得した様子でうなずいた。

「って、うなずいている場合じゃないだろうが! 早く真っ二つにしろ!!」

紀伊が怒声を放ち、我に帰った夢見だったが、時すでに遅く、アダムは大剣の下から抜け出していた。

「さて……残念ながらこれ以上あなたがたに付き合っている時間はありません。そろそろお暇させていただきましょう…!!」

「させるかっ!」

紀伊が発砲するが、アダムはそれもかわし、大きくジャンプした。

「ふふ………ではさらばです。これで私の3連勝、ですね」

3人のはるか頭上でアダムは会心の笑みを浮かべている。

その瞬間、3人のこめかみに同時に青筋が浮かんだ。

「何か、あいつ逃げ切る算段立ててるみたいだけど……?」

「全くの心外ね。私達もなめられたもんだわ」

「借り物は即返さなきゃ、だよね……?」

3人の周りに、どす黒いオーラが立ち込める。

「………!?」

アダムはその様子にかすかに身震いした。







『待てやコラーーーーーーーっ!!!!』








夢見と紀伊がジャンプし、薬師寺が巨大なフラスコを投げる。

フラスコがアダムの近くに来た瞬間、紀伊がいつの間にか弾の装填していたマシンガンの引き金を引いた。

中の液体が、一瞬反応が遅れたアダムに降りかかる。

「………!? これはっ!?」

液体がかかった瞬間、アダムは猛烈な吐き気に襲われた。

「思い知ったかしら? 私の特製アンモニアの威力! 通常の原液の500倍の臭さよ!!」

「……うっ、ここまで臭ってくる」

夢見が一瞬顔をしかめたが、すぐに気を取り直し、大剣を振りかぶった。

「蜻蛉!!」

「任せろ!」

紀伊はマシンガンの弾を取り出し、それを夢見の目の前に放り投げた。

「………何を!?」

アダムがこの世のものとは思えない異臭から、ようやく夢見の行動に意識を向ける。

「よう、アダム。こいつの馬鹿力で弾かれたマシンガンの弾の威力知ってるか?」

紀伊が底意地の悪い笑みをアダムに向ける。

「………な、やめっ」

アダムの顔に戦慄が走る。

「これでも喰らえーーーーーーーーーっ!」

容赦なく、夢見は大剣を振り下ろした。

大剣の重みと夢見の怪力を受けたマシンガンの弾丸は、音速を超える速さでアダムに襲い掛かった。

「…………がっ!」

アダムは弾をモロに喰らい、下の浄水ポンプに叩き込まれた。

「どんなもんだいっ!!」

空中で夢見がガッツポーズをする。

紀伊もめったに見せないほどの満面の笑みを浮かべる。

だが、床にいる薬師寺だけは、顔色を失っていた。

「ま、まさか…………」

薬師寺の視線の先には、夢見が弾き飛ばしたマシンガンの弾で穴だらけになったパイプから水がもれ出している様子があった。

薬師寺の様子に気付いた紀伊と夢見が、不審げな顔をして薬師寺の視線の先を追う。

そして2人も同時に真っ青な顔になった。

『……………』

奇妙な静寂が流れる。

破ったのは、水道管が破裂した音だった。







『何でだああああああああああああああああああ!!!!!!!』








間抜けな断末魔を最後に、3人は怒涛の勢いで押し寄せてくる水に流された。

Re: 処刑人斬谷断 第31話更新!! 企画募集開始!! ( No.64 )
日時: 2011/05/05 21:50
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第32話 「よくやった」

「………ふむ。思ったほどのケガではありませんでしたか」

全身ずぶぬれのまま、乗ってきた車の中でアダムは安堵のため息をついた。







「作戦は失敗に終わりましたね、アダム」







助手席に座っている少女が無感情な声でつぶやく。

「ええ、これまでにない失敗ですよ、イヴ」

アダムは自嘲気味に笑った。

イヴはそんなアダムをじっと見つめる。

「………SDカードも流されて、おまけに政府の頭の固い老人を怒らせてしまったでしょう。此度の失敗、大きくこたえますかね、イヴ?」

「……で、しょうね。計画を早める必要があります………それにしても、斬谷断の助手達だけにあなたがしてやられるとは以外でした」

イヴは機械がしゃべるような口調で言葉をつむぐ。

「言い訳をするつもりはありませんが、頃合だったのでは? もう間接的に斬谷断にちょっかいをかける必要は無いでしょう? すでに彼は我々が陰謀の中心であることに気付いています」

アダムはイヴの口調に、彼にしか分からないほんの小さな苛立ちが含まれていることに気付きながら、あくまでも冷静に話を進めた。

「であれば、最早政府と協力する必要はありませんね。斬谷断たちが政府こそが本当の黒幕と思ってもらっているからこその、彼らとの条約だったのですから」

イヴは起きた事実に全く動揺することなく、淡々と話し続ける。

「離反、ですか。政府を味方につければ色々と楽をする事が出来たのですが…」

「彼らの協力はすでに無用です。準備は着々と整っています」

イヴは素早く反論した。

「そう、ですか。では戻るとしましょうか。懐かしき『我が家』へと」

「……あなたが政府に固執するのも分かりますが、このままでは彼らにいいように使われるだけです。それでは意味がないのです」

「……今日はずいぶんと押しが強いですね、イヴ。それほどまでに私が政府と仲良くするのが気に入りませんでしたか?」

「そうではありません。私が最も嫌うのは、大命が失敗に終わること。そしてあなたが大命の遂行者たる自覚と誇りを失うことです」

イヴは無感情に、しかし強い意思がはっきりと伝わる声で、きっぱりと言った。

アダムはしばらく黙っていたが、やがてイヴの頭の上にポンと手を置いた。

「私は大命を忘れたことなどありませんよ。この心は常に、あなたと共にあります。何故なら、我々はメシア—救世主なのですから」



















「なるほど、ではSDカードは何処へと流されてしまったのですね」

「ええ、まあそうです。申し訳ありませんでした」

薬師寺が、外務大臣樋上に向かって小さく頭を下げた。

「いえいえ、あなた方のおかげで混乱は最小限に抑えられました。さすがは名探偵の助手だ。素晴らしい働きでしたよ」

樋上はニコリと笑った。

「はあ……どうも」

3人とも、こうやって真正面から褒められる経験はないので、次々と降りかかる賛辞の言葉にただただ頭をかくばかりだ。

「つきましては、約束の報酬3億円。しっかりと払わせていただきます」

樋上はポケットから小切手を取り出すと、サラサラと9桁の数字を書き込んでいった。

その様子を、まるで赤ん坊の出産のように3人は見つめた。

渡された小切手は、薬師寺が丁寧に受け取った。

「では、私は事後処理が忙しいので失礼します。知り合いにも、困ったらここを頼るように言っておきましょう」

「はあ…ありがとうございます」

呆然としている3人をよそに、樋上は颯爽と斬谷探偵事務所を後にした。

















と、なると。3人は恒例の争いを始める。

「やっぱり私が2億で、紀伊君と夢見ちゃんで5000万ずつよね〜」

「はあ!? 全額私でしょ!? 私一番働いたし!!」

「おいおい、お前ら。一番はこの俺だろ? 全く、俺の脚引っ張りまくったくせに………」

3人の頭の中には、1人1億という考えは浮かばないらしく、生々しい争いはヒートアップする。

(やれやれ…………)

その様子をため息をつきながら見ていたのは、すっかり体調がよくなった斬谷断である。

3人は断が部屋の中に入ってきても、醜い争奪戦を繰り広げている。

断は苦笑しながら、わざとらしく咳払いをした。

『はっ!?』

3人の動きが一斉に止まる。

「相変わらすだな3人とも。みっともないぞ」

3人はバツの悪そうな顔になる。

「…………ジョーカーから話は聞いた。大変だったそうだな」

「ええ、そりゃあもう」

代表して薬師寺が3人の思いを代弁した。

「アダムも出し抜いたんだってな………すごいじゃないか」

断に褒められ、3人はいやあ、とニヤけた顔になった。

「本当に……よくやった。ありがとな」

口の端を吊り上げ、断は優しい笑みを助手3人に送った。

3人も、つられるように笑顔になった。

しばしの無言の時間を経て、断は立ち上がった。

「さて………それじゃ」

そして机の上にあった小切手をひょいと取る。

『え?』

その瞬間、3人の表情が固まる。

「こいつはジョーカーの報酬に回す。悪いな」

それだけ言って、断はきびすを返した。

『いやいやいやいやいやいやいや』

3人は一斉にツッコミを入れた。

「ん? 何か問題でも?」

「問題しかないわね。その金全部ジョーカーに渡すの?」

薬師寺が食って掛かる。

「ああ、そうだな」

意に介さず、といった風に断が答えた。

「マジで?」

夢見も半信半疑の表情で問う。

「マジだ」

断は至ってマジメな顔で答える。

「嘘とかじゃ?」

紀伊までも血走った目で断に詰め寄る。

「本当だ。ジョーカーが仕事する条件は報酬丸々渡すことだからな。しかも最低1億以上だ」

『………………』

あまりのことに、3人は唖然とする。

「じゃ、そういうことだ。残念ながらお前らのご褒美はお預けだな」

断は小切手をひらひらと振りながら部屋を後にした。

その様子を見送った後、3人は肩を落とし、同時につぶやいた。












『そんなのないっしょ………』

Re: 処刑人斬谷断 お知らせあり ( No.65 )
日時: 2011/08/16 20:18
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: XL8ucf75)

お久しぶりです。

誠に勝手ながら、もうしばらくの間更新を休ませてもらいます。

更新する時間がなかなかとれなくなったので…

もう1つの作品「SURVIVAL GAME」の更新に専念します。

それでも時間は足りませんがwww

それから、更新をやめても参照が伸びてたのには感動しました。

みなさん本当にありがとうございます!


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13