ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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極彩色の紹巴—コラボなう—
日時: 2011/12/18 15:54
名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: VaYZBoRD)

未完成の織物の色は変化する。
時には《情熱の深紅-クリムゾン-》——
時には《澄み渡る空色-クリアブルー-》——
時には美しいとは言い難い《くすんだ土気色-ブラウン-》——
美しさと醜さを併せ持つそれらは人の目を魅了するが、完成には程遠い色なのである——
————織り上げられたものは何色になるだろうか————

初めましてこんにちは、華京と申します。
るりぃ、或いは桜音ルリと言った方がわかってくださる方がいらっしゃるかもしれませんね(笑)
この作品は【月下のクリムゾン】のリメイク版となります。
だから前作のオリキャラもちらちら出ちゃうよ!

この作品は微エロ・グロ、流血表現、ホラー等が含まれます。これらが苦手な方は観覧を控えてください。
アドバイス・感想・意見大歓迎です。
私は更新がかなり遅いです。ご了承ください。
……以上の事をご理解していただいた上で、この駄作を読んでくださると嬉しいです。
そして、オリキャラ随時募集中です。



———…目次…———
第一章「深紅のつき姫」
>>3 >>7 >>35 >>37 >>49


華京からのお知らせ >>40
『ブラッドクリムゾン』
>>41 >>43 >>47 >>48
——————————-

登場人物一覧(オリキャラ一覧)
・工藤 紅
・とのこ
・フィリクス・グリモワル(ヴィオラ様作)>>11
・鬼怒川 弥勒(甘木様作)>>13
・三日月 華恋(カロン様作)>>17
・灰蝉 夏目(風猫様作)>>18
・玖宮 まほろ(更紗蓮華様作)>>19
・新羽 銀二(イカ飯様作)>>20
・藤林 美雨(いさと様作)>>23
・宮本 雷奈(meta-☆様作)>>25
・李 老龍(青銅様作)>>27
・葛野 雪(左倉様)>>29
・御巫 久遠(篠鼓様作)>>30
・御巫 刹那(篠鼓様作)>>30
・神崎衣織(秋桜様作)>>38
・川橋 美樹(^q^様作)>>45

オリキャラの応募はこちらから >>10

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Re: 極彩色の紹巴—コラボなう— ( No.46 )
日時: 2011/09/07 16:56
名前: 華京 (ID: jklXnNcU)

>>45
傭兵……だと…・・・
採用させていただきます。
一部変更させていただく場合もございますが何卒ご了承くださいませ

ブラッドクリムゾン ( No.47 )
日時: 2011/09/27 19:21
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: 6iekfOAS)
参照: 作業用BGM:矢島美容室『ニホンノミカタ 〜ネバダカラキマシタ〜』



「———成程、つまり」

 紅の屋敷で、屋敷の主とその部下…それと紅の髪の少年が全員正座していた。

「貴殿は、『ぱられるわあるど』…つまり別の世界から

 あの不審な人物を追ってきた『あんどろいど』だと、そういう事だな?」

「まあ…はい。そういう事です」

どうにも微妙な表情の紅の心中を察するに、聞き慣れない単語や突拍子もない経緯に理解が追い付いていないようだ。

無理もない。

例えばいきなり『実は俺、火星人だったんだ』と真顔で言われたとする。

例えそれが事実であれ虚偽であれ反応に困るだろう。つまりそういう事である。

本当に厄介なのはそれが事実だった場合であり、また今がまさに『本当に火星人だった』状況である。

無論これらは例え話であり、この少年は決して火星人ではない。

 ただ、れっきとした『人造人間アンドロイド』なのだが。

そもそもの話として、この世界の人間にとっては

『あんどろいどってなんぞ? え? 何々? 意志を持ったからくりの人形? へー、そうなんだ。…ゑ?』

みたいな感じなのだ。

 しかし不幸中の幸いといえるのは、この世界に魑魅魍魎共が在ったことであり

またそいつらを祓うことのできるこの『工藤 紅』という人物に遭ったことであろう。

現に、紅は先程空間を刹那にして飛んでみせたのだ。

例え別の世界が存在して、またその世界に世界を飛び越える術が存在していたとしても

「不可能ではない、か……」

「…信じてくれるんですね?」

「意外か?」

多少の不安を持つ紅い髪の少年の表情を見て、紅は笑みを浮かべながら一言だけ言った。

「異世界に飛んだなどという題材の小説などは多く、ボクが持つ記憶媒体の中にも幾つかインストールされています。

 ただその内容の中には多かれ少なかれ

 自分が飛んだ先の世界の住人にはその事実を信じてもらえないという内容がありますから。

 たとえ創作であったとしても、そういった人間の心理を表す部分に於いては特に馬鹿にならないのです」

「いや待て。え…何? きおくばいたい? いんすと? え?」

「あ、えとすみません。そうか、世界観に相違が……」

信じる信じないよりも、先ずはこの辺りが問題だろう。

『SAMURAI(サムライ)』とターミネーターの奇跡のコラボが実現したようなものなのだから。

世界最強の近接兵器と謳われる『KATANA(カターナ)』と文明の利器代表『ましんがん』の注目の一戦はさておき。

「…ともあれ、そうとは知らず貴殿に攻撃を仕掛けた事については誠に申し訳なかった」

「いえ、むしろ仕事熱心なんだなあ、と感銘を受けました」

「そ、そうだな。あは、あはははは」

じとりと部下に横目で見られる紅は、自分があそこにいた理由が

溜めこんでいた仕事から逃げたからだとは絶対に言えない。

「それにしても、魑魅魍魎が跋扈する世界とそれを退治する陰陽師か。…すごいなあ。

 文献では見たことあるけれど、まさか自分がその世界に来ることになるなんて」

「それはそうと、貴殿は大丈夫なのか?」

紅は一つの疑問を提示する。

先程の話が本当であれば、この少年はあくまであの奇妙な男の奇妙な能力によってこの世界に来たのだという。

だが、この世界にはそういった世界を超える技術はおろか『あんどろいど』さえも存在しない。

「貴殿はこのままでは元の世界へは帰れないのではないか?」

紅がそう思うのも当然であり、

「ええ、その通りですね」

少年がそう答えるのも当然であった。

「おそらく元の世界に戻るにはあの男を捕えて、能力を使わせて再び元の世界に飛ぶしかない」

 つまり、もしかしたら永遠に元の世界に戻れないかもしれないという危険性を前にして

それでもこの少年…もとい、『あんどろいど』は自分のやるべき事を果たすためにやってきた。

「一つ訊いても良いか?」

少年は無言で頷く。

「ここまでして果たさなければならない程の、貴殿の使命とは一体何だ?」


「あの男を…いえ、『違法人造人間』を破壊することです。『断罪者』の一員として」


 紅には『断罪者エクスキューショナー』というものがどういうものであるかは、いまいちピンとこない。

ただ少年が言うには『暴走した人造人間、違法で製造された人造人間、またその原因の追及と抹消』らしい。

紅は『断罪者』というものがどういうものであるかはよくわからない。

しかし、『秩序を守る』という点において何らかの共通点を見出せずにはいられなかった。


そして使命感を帯びている、自身と同じ深紅の瞳にも。


「…よければ、その男を捕えるのに私も協力させてもらえないだろうか」

紅の突如の提案に、少年は目を丸くする。

「これでも腕に多少の覚えはある。

 妖を祓う私の術が彼奴に通用するかどうかはともかくとして、案内役も必要だろう?

 或いは、向こうが妖たちを味方につける可能性もあるだろう。そうなればいよいよ私の出番だ。

 何より、先程誤って斬りかかったことの詫びであり———」

一息置いて。

「私の知っている範囲の異変ならば、私にもそれを未然に防ぐ権利も義務もある筈だ」

「………………」

紅は少年の目を見据え、少年もまた紅の目を見据える。

少し続いた沈黙は、互いの使命感の量り合いであった。

「…オリハルコンの刃の一撃を防いだのも事実、本来この世界の住人を巻き込むべきではないけれど

 しかし…一刻も早く解決するべきなのもまた確か。

 そうなると、やっぱり協力者が必要……」

少年はしばしぶつぶつ言いながら考え込んでいたが、やがて。

「———是非ともお願いします」

「こちらこそ、力を借りるぞ」

両者はどちらからともなく握手を交わした。

「こういう時に、丁度いい言葉があったけな…そうだ、『かたじけない』だ」

「其れも此方の科白だ。ところで、貴殿の名前は……」

そうでした、と少年は微笑んで。


「『ルージュ』、っていいます。よろしくお願いします」

「『工藤 紅』だ。よろしく頼む」


 両者の共通点は、血のように紅い紅い瞳の色。


Re: 極彩色の紹巴—コラボなう— ( No.48 )
日時: 2011/10/15 13:27
名前: 華京 (ID: jklXnNcU)

「よし、じゃあ急いでは事を仕損じるというしな。戦闘準備も必要だし、今日はルージュ殿が来たことを祝って宴会だ!」
「了解です、姐御!」


紅の言葉にその場にいた部下達全員が勢い良く立ち上がって満面の笑みで拳を上に突き出した。
何だかんだ言って、彼らはお祭り好きなのである。


「腹が減っては戦はできぬ。ルージュ殿も心行くまで休まれよ」
「あ、はい。ありがとうございます。でも……」
「でも?」
「僕、紅さん達と同じものは食べられないんですよ」
「……そうであったか……」

紅はルージュの言葉に渋い顔をして黙り込んだ。
紅は人としか思えないルージュが自分達とは別の存在だという事をいまいち把握できていなかったようだが、食べ物の件でそれを再確認したらしい。
ルージュはそんな紅に微笑みかけた。


「大丈夫です。気にしないでください」
「だが……」
「大丈夫です」
「……そうか」


ルージュの微笑みと再度繰り返された言葉に、紅は頷いた。
しかし、まだ渋い顔だったが。


「兎に角、部下には芸達者もいるからな、楽しんでくれ」
「はい、楽しみです」
「うむ。……あぁ」


紅はルージュの言葉に嬉しそうな顔をして、そして思い出したようにぽんと手を打つ。
ルージュは訝しげな顔で首を傾げた。


「宴会の準備をしている間、書庫を見ているのは如何だろう?」
「書庫、ですか」
「ああ、何か参考になるかもしれんしな」
「そう、ですね……」
「では私が案内しよう。こっちに……」


紅がルージュを案内しようとした時だった。
周囲の部下が紅の耳を引っ張って、囁く。

「姫? 執務終ってませんよね? 駄目ですよ? せめて半分は子の刻までに終わらせてください」


紅はそういわれて顔を強張らせた、が、悪あがきをしようと口を開いた。


「ほら、ルージュ殿はこちらに来て疲れているだろうし、此処は私が……」
「ルージュ殿を書庫につれていこうとしていたのは誰でしたっけ?」


ぴしゃりと言い放たれる。
紅は背中に『言い訳』とかかれた雪ダルマが日の光に照らされてどんどん溶けていく映像を頭の中で思い浮かべた。
ここは折れるしかないだろう、と考えた紅はため息をついてわかったよ、と返答した。
部下は満足そうにうなずくとほったらかしにされていたルージュに向き直り、事情を説明すると連れ立って歩き出し、廊下の角に消えた。
紅は心の中でいろいろ間違った決心をする。
負けるもんか!





それから数刻後。
宴会の準備がほとんど整った。
紅もボロ雑巾のように疲れ果てるまで部下と共に執務をしたが、そろそろ始まるという事で終わりを告げられる。
ボロ雑巾のようになるまでがんばった甲斐あってか、うず高くつみあがっていた書類の山は後数十枚程度になっていた。
紅は安堵の顔と共に、戦装束から着物へ着替える。
着物といっても、動きやすいように多少の改良がしてあった。
一応屋敷の主で女なので、格好はつけろと部下が口うるさいからだ。
紅はため息をつきながら立ち上がると、部屋の外にいた部下にルージュの居場所を聞いた、が。


「ルージュ様ですか? 見かけておりません」


という返事がかえってきた。
書庫にいるのか、と思ったが、紅が執務の処理を始めた時には日はまだ高かった、だが今はもう日は暮れかかっている。
こんな長い時間書庫にいるハズはない、と紅は笑ったが、どうしても気になり書庫へ足を進めた。






そして、結局書庫にルージュはいた。
紅は長い時間書物を読んでいた彼の集中力に素直に感心した。


「ルージュ殿?」
「……ああ、紅さん。どうしましたか?」
「そろそろ宴会が始まるので呼びにきたのだが……」
「ああ、態々すいません」
「いや……構わん。手がかり探し、手伝えずに申し訳無い」


静かに、そして申し訳なさそうに話す紅に、ルージュは苦笑した。


「大丈夫ですよ。あ、手がかりになりそうなもの、っていうか気になるものをみつけたので、宴会の後に見ていただけますか?」
「……ああ、わかった。では行こうか」


紅は礼を述べるルージュに静かに微笑み返し、先立って歩きはじめた。






広間には既に大勢の部下が集まっていた。
見ない顔のルージュに、事情を知らない部下達からの好奇の視線が容赦なくぶつけられる。
紅はざわつく広間の上座に立ち、勢い欲片足を振り下ろす。
ダァン! という音が響き、広間のざわつきはたちまち静まった。


「さぁて、静かになった所で、紹介だ。ルージュ殿」


こっちへ、という言葉の代わりに紅はちらり、とルージュをみやる。
ルージュは一瞬戸惑うような仕草を見せたが、紅の隣に並んだ。
そして、紅に促されて顔をあげる。


「初めまして、ルージュって言います」
「訳あって素性は明かせんが、ルージュ殿は我等の大切な客人! 無礼をしたら私の鉄拳を食らうと思え!」


紅の言葉に、周囲は威勢のいい返答を返す。
その中には、ルージュに向かっての「よろしくな!」「仲良くやろうぜ!」という言葉が混じっていた。
紅は満足げに笑うと、朱塗りの杯を持ち上げた。


「ようし、じゃあ宴会をはじめ……」


紅がそういったときだった。
襖がありえないくらいイイ音を立てて開き、まるで獲物を狙う鷹のような速さで誰かが部屋に入ってきた。


「ひぃぃいいめぇええさぁぁあまぁああ!」
「そげぶぅっ!? 耳が、耳がぁぁああ!!」


襖の開いたときの音で耳をやられたのか、畳の上を転がり悶絶する紅と平然とするルージュ。対照的な二人に部下はため息をついた。
そんな紅の様子を気に留めることもなくその誰かこと紅の部下は紅の前にすっ転んだ。が、彼は気にも留めずに顔を上げる。
その顔には先ほど畳の上を滑りながら転んだせいか、畳の跡がついていた。
だが、それよりも広間にいた人間の目を引いたのは彼の額に巻かれた包帯だった。
紅はまだ痛む耳をさすりながらも、鋭い視線を部下に向けた。


「……おい、それは誰にやられた?」
「俺の怪我なんてどうでもいいんス、姉御! それより、大変な事がッ!!」
「大変な事?」


紅が眉をひそめながらその部下に続きを促す。
部下は一呼吸置いて息を整えてから、口を開いた。


「全国の妖達が群れを成しはじめているようです! どうやら指導者は『金色の妖』だそうで……」


紅とルージュは互いの顔を見合わせた。
金色と聞いて、心当たりがあったからだ。
人造人間はこの世界にはもともと存在しない異質な存在である故に、妖と判断されるだろう。

——つまり。

ルージュと紅達が追っている人造人間が『金色の妖』として認識されている可能性は極めて高い。


「やれやれ、ゆっくり宴会をしていられなくなってしまったな。人生に必要なのは遊び心とお気楽さだと思うんだがなぁ……いや、この場合は妖生か?」
「……そうですね」


至極残念そうに言う紅に、ルージュは僅かな沈黙の後に同意した。
そして、ルージュはふと考えた。

本当にこの人に協力を仰いで正解だったのだろうか? と。

Re: 極彩色の紹巴—コラボなう— ( No.49 )
日時: 2011/12/18 15:53
名前: るりぃ@華京 (ID: VaYZBoRD)
参照: コラボじゃなくて本編だよ!

庭園には、桃や桜などの花と、とのこの淹れた紅茶と、同じくとのこが作った焼き菓子の仄かに甘い香りが漂っている。
泣いていたクラウスも随分落ち着きを取り戻していたので、ぽつりぽつりと茶と菓子を交えて紅は尋ねていった。

「はい、馬に乗ってなんとか逃げ延びました……強化してあったので紅殿の所に来る事ができました」
「強化、とは?」
「妖術で馬の能力を最大まであげるんです。僕の脱出が最後でしたので一頭だけ無事だったのが不思議です。今は近辺にいると思いますが……もう会う事は無いでしょう」
「……他に逃げ延びた者はいたか」
「わかりません、何人か脱出したようですが無事かどうか……」

そうか、と呟き紅は紅茶を啜った。
陽光によって琥珀と金赤の狭間を行き来しつつも、ゆらゆらとかなり歪んだ桜を映し出している。
クラウスはしばらく視線をその揺らめきに任せていたが、意を決したように話し出した。

「……青龍様は最期まで僕等を護って下さいました」

ふ、と紅の瞳に哀しみが宿った。
カチャリという音を立ててカップがソーサに戻ると花弁がひらりとカップの中に舞い降りて金赤に桜色を添えた。

「我が友は立派な最期を遂げたのだな」

その瞳は陽光降り注ぐ昼日中だというのに夜桜に隠れた月を見るように朧げだった。

「……はい」

彼には紅が涙する姿が想像できなかった。
今もやはり、太陽のように紅い真紅の瞳を哀しみに沈ませたまま紅は微笑んでいる。
紅茶に浮く桜の花弁が雫を乗せて、ゆらゆらとカップの底へと消えていった。

「姫様ぁぁあ!!」

いきなり怒鳴り声が響いた。
驚いて慌てふためき、狼狽するクラウスを紅が穏やかな笑顔を共に手でやんわりと制する。

「あぁ、すまない。我が部下だ。頑固者が一人いてね、気にす……」

——ベシッ
言い終わる前に何かが飛んできてそれは見事に紅の額に命中した。

「……るな」
「紅様大丈夫ですか!」


思わず、クラウスは立ち上がる。
紅の顔からズルリと落ちたのは荘厳な四尾の狐が見事に描かれた巻物だった。紅は顔からそれを引き剥がすと、苦虫を数十匹ほど噛み潰したような顔で見つめ、そっと、大切そうに摘まみ上げる。

「……我が父の名筆になんという扱いだ」
「紅様にはに言われたくはありませぬ!」

ぼふんと巻物から煙が立ち上った。
二人の前に、金が怒りの形相で現れた。

「あ、貴方は?」
「ぬ、申し遅れた。この方に御仕えする妖狐のとのこと申す」
「客人に失礼だろう、とのこ」

うんざりという感情が紅の顔にはそのまま出ていた。

「そなたに言われたくはありませぬ」

長い睫毛を震わせながら、ぴしゃりととのこは言い放った。

「こともあろうか、戦装束で公の場に立つとは、女性としての身嗜みもなっておらんことを恥ずかしいと思いませぬのか!」

早口息継ぎ無しで、とのこはやはりぴしゃりと言った。

「あー、わかった。とのこ、わかったよ」

紅はひらひらと両手を振った。一方、怒れるとのこと白旗を振る紅を前にクラウスは別の事で青ざめていた。

「……じょ、女性だったのですか!」

声は素っ頓狂に裏返っていた。そして、それがかなり失礼なことに気がついて、言葉を飲み込むようにクラウスは口を抑えた。

「ほれ見なされ、客人にも間違われておる」

ぺしぺしと巻かれた状態の巻物で小突く。紅はきょとんとクラウスを見遣った。

「かなりの剣の使い手とお噂され、戦装束であったので……僕はてっきり」
「姫と呼ばれていただろう?」
「……姫のように美しいからかと思い……」

クラウスは弁解のつもりだが、それとは別に紅ははたと気付く。彼の国では女性への礼儀を重んじる。その決まり事は多々あることを耳にしていた。
ふむ、と言って紅は腕を組んだ。

「性別など捨てた。私は唯の剣士だ」
「え、いえ、そうではなく」
「だからといって礼儀を粗末にする言い訳にはなりませぬッ!」

怒号とともにとのこがクラウスの言葉を代弁した。
——キィ——ン……
あまりの声に二人は耳を塞いだ。桜の花びらは散るのを止め、池は波立った。池の中にいた鯉が驚いて跳ねる。

「とのこ……せっかく咲いた桜の花がすべて散ったらどうしてくれる」
「その神通力でさかせれば良いのでは?」
「……うぅ」

紅は完敗した。

「ク、クラウス殿、話はまたあとにしよう」

このままでは身が持たないと悟った紅は、しかめっ面のとのこを押しのけて言った。

「はい、いつでも」
「部屋はこちらで用意した。あとでフィリクスに案内させる」
「フィリクス……」
「とのこと同じ我が部下だ。彼女は火を司る者でね、朱雀の分家である不死鳥と人間の半妖なのだよ」

クラウスはこくりと頷く。
是非彼女とも話を、と紅は言った。
話の区切りを見計らって、とのこが手を打ち鳴らした。控えていた侍従二人が紅を捕まえると、問答無用で引きずるように連れていってしまった。

——妖が恐れるつき姫の扱いがあれでいいのだろうか……

「いやはや、お恥ずかしい。紅様は少し抜けておるところがありましてな」
「い、いえ」
「わらわも務めがございますので、これにて」

ぼわっと煙が立ち上がるととのこの姿はなく、小さな金色の狐が佇んでいた。ぺこりと狐は頭を下げると森の中へと消えていった。

「……」

クラウスは溜息に押されるように椅子にもたれた。(ほとんど紅が食べた)焼き菓子の余りを口に運ぶ。

「……甘い……」

桜の木陰は、あまりに暖かく彼を迎え入れた。
——僕はここにいて良いのだろうか……
水の国の混乱からまだ時は経たない。この森の平和にクラウスはいつしか微睡んでいた。

極彩色の紹巴—コラボなう— ( No.50 )
日時: 2011/12/27 21:06
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: 6iekfOAS)

「やはりまずは、情報収集をするしかないのでしょうね」

 ルージュの提案に、紅も「だろうな」と同意するのは当然のことであった。

この紅という人物に限って、相手の勢力は置いといても

相手の居場所、拠点を把握しないことには攻め入るも何もない。

加えて相手に先手を打たれないよう、迅速にそれを行う必要性がある。

そうでなくとも、ルージュが追ってきた人造人間は早くも勢力を形成し始めていると云うのだ。

「しかし、情報収集といっても何から始めればいいのか」

真剣な面持ちで、紅の部下は腕を組む。

「ふむ……今、その『金色の妖』とやらの下に集まっている妖から手掛かりを探るべきだろうな」

「なら、市井に聞き込みでもするのが早いんじゃないっすか」


「その必要は、ないと思います」


 突如会話に割って入ったのは、ルージュだった。

「ふむ。どういうことだ、ルージュ殿?」

「どうもこうも、手掛かりならそこにありますよ」

そう言ってルージュが指差したのは、先程部屋に突撃してきた、頭に包帯を巻いた紅の部下。

彼は忠誠心が強く、それもあり紅からの信頼も特に厚い部下の一人である。

「……ルージュ殿、彼が裏切ったと云うのか?」

「いいえ」

ルージュはきっぱりと否定し、紅とその部下達が怪訝な顔をする。

が、包帯の男は表情を変えずにルージュを睨みつけていた。

そして、次の一言が全てを証明する。


「彼は、操られています」


 紅の目が驚愕に見開かれ、場の空気が動揺に包まれた。

その一瞬の隙を突き、包帯の男が紅に何かを投げつける。

匕首だった。

それは一直線に、紅の目をめがけて飛んでいく。

紅にとって、それを避けることは容易い。だが紅はそれを躊躇った。

避ければ、部下に、それも喉元に当たる。

匕首の鋭い切っ先が紅の綺麗な赤い瞳を切り裂く刹那。

 紅の視界に入ったのは、白い手袋を付けた手の甲。ルージュの手。

匕首はルージュの手を貫かなかった。

生身の人間では決してあり得ない速度で掴まれ、匕首は粉砕した。

「……皆さん、伏せていてください」

一瞬の出来事に再び静まったその場に、ルージュの声が静かに響く。

「それと———少し、屋敷を壊してしまうかもしれません。先に謝罪しておきます」

片膝をついた体勢の人造人間が、左腕をわずかに自分の後ろに回す。


 少年———もとい、その『人造人間』の左腕が、手首から肘の中央の直線上を沿って引き裂かれる。

顕れたものは、長さは少年の指先から肩ぐらいまである———深紅の刃だった。


 その場の人間が妖が驚いている、ほんの一瞬の出来事だった。

今度は白刃を抜きルージュに襲いかかろうとする、そいつ。

しかし白刃がルージュに届くことは無かった。

ルージュが左腕を、斜め上に向かって振り抜く。

突如発生した烈風と轟音。

縁側は、庭の木は、見事に両断され———

それはそいつの握る刀も例外ではなく、白刃は両断された。

ヒュンヒュンと虚しく宙を切った刀身が落ちて畳に突き刺さる。

唖然とする紅の部下達などまるで視界に入っていないかのように、ルージュはその男に宣告する。

「大人しく投降しろ。でなければ———次はその両脚を斬り落とす」

 少年……もとい、その人造人間の紅の瞳は、冷たい、冷たい光を宿していた。

文字通り『機械のように』。

 たったそれだけの顛末は、その場にいた全員に

この紅い髪の少年が、ただならぬ使い手であることを容易に印象付けた。





「で……どうしてルージュ殿は、彼が操られていることに気がついたのだ?」

「紅殿には、ボクが『人造人間』であることは話しましたね?」

 頭に包帯を巻いた部下が、柱に縄で括りつけられた大広間。

 紅は頷く。

この世界でいえば、彼はからくりの人形だという。

にわかには信じがたい話だが、そんなものは妖だって同じ話。

ともかく、その話は置いておいて。

「つまり…ボクは、ボクがいた世界の技術の結晶、とも言えます」

「……ふむ」

「例えば人間の脳波を読み取ったり……脳波を読み取ったところでその人の思考まで読み取れる訳ではありませんが。

 他にはその人の体の体温がどうなっているかを測ったり。これはサーモグラフと呼ばれていますね」

「の……のうは……? さーもぐらふ?」

この世界にはまだ、それらの単語は存在しない。

「これらを駆使することで、ボクはある程度その人が動揺しているかどうかを見分けることが出来ます。

 そして……そこでおかしかったのは」

ルージュは一拍置いて、

「そこの方は、全く動揺していなかった」

「あれほど焦った様相でここに飛び込んできておきながらか?」

 だからです、とルージュは言う。

「裏切ったのなら裏切ったで、これから騙すと云う瞬間に緊張しない訳が無い。

 それすらもなく、動揺してもいない、表面上は焦っているのに実際はいたって平静な状態だというのなら」

 残された可能性は、『操られている』。

「原因はボクにも解りませんが……一つだけ言えます」

「ああ、そうだな」

紅も、ルージュが言おうとしていることを理解したようだ。

わざわざ自らの情報を、敵の部下を使い吐露させてきた。

それが意味するところはつまり。


「———これは、敵からの宣戦布告です」

「望むところだ!」


 かくして、ふたつの紅と『金色の妖』の戦いの火蓋は切って落とされる。






 その後頭に包帯を巻いた紅の部下が、縄で柱に縛り付けられたまましばらくの間忘れ去られていたのはまた別のお話。


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