ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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Cheap 最終話更新 12/7 堂々完結!!!!
日時: 2011/12/08 08:41
名前: 風猫(元:秋空&風  ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode=view&no=17301

       ________



             _________



                                  __________prologue




  あぁ……
  何で? 何で、俺と君は離れ離れになってしまったのだろう?
  君と俺は、愛し合っていた。 愛し合っていた筈なんだ。 
  君の匂いを君の温度を君の鳴らす音を……淡い唇を瞳を細い指を白い肌を長く綺麗な髪を…………


  愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛……愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛…………愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
  愛してる! 全てを……俺の目に映るお前の全てを……全て統べて全てすべて全て!

  本当に本当に本当に、本気で愛して居たんだ。
  アイツに、お前は取られていないだろうか? 昔は、無邪気に川の辺や裏山をかけて鬼ごっこしたり虫取りしたりしたあいつ。

  お前は気付いていないかも知れないけど……あいつもお前を愛していたんだぜ?
  だから、俺は親父が転勤するって時、絶望したんだ。 俺の愛が途絶えた瞬間だと思ったんだ。
  永遠に、この俺達の生まれ育った街と別れるような感覚に襲われて……君の存在自体無くなってしまった様な気がして……
  抵抗したさ。 俺の愛は、こんな所で潰えるべきじゃ無いんだって……転勤の原因になった親父に殴りかかって……
  当時小学生の非力な俺じゃ逆に叩き伏せられて……

  あぁ、絶望したね。 絶望した……俺の世界から初恋の人が霧散して消えたんだ。
  そして、俺の幼稚園の頃からの相棒に俺の愛した女は奪われた。 
  奪われた。 奪われた。 奪われた。 あいつも彼女の事を愛して居たのは明確だった。
  確信めいた感覚が俺の中に有る。 いっつもアイツは、俺の横を虎視眈々と狙ってた。
  小学生の頃のクラスの連中も言ってた。 彼女は、可憐で優しくて儚くて皆の羨望の的だった。
  あいつは、彼女と逸早く親しい関係を作った俺に、ゴマを擦って……俺の愛を横取りしようと……


「だが、まぁ、そんな事はもう、どうでも良いんだ。 お前が、彼女を独占していられる時間ももう、終るんだ。 
なぁ……紅木咲レオ。 俺が、転校しなけりゃ永遠に愛を手に入れられなかった銀メダリスト」
  
  だが、もう、そんな事はどうでも良い。
  俺は、還って来た。 あいつ等の居る街に……親父は、こんな遠くに、行かせられないと五月蝿かったが構わない。
  俺は、是から生まれ故郷で一人暮らしをして……奪われた愛を取り戻す。
  もう、そいつと彼女が別れている可能性が有るだろうだって?
  あぁ……有るかもな? だが、俺は、この故郷から離れてもあいつ等と常にメールを送りあい相互連絡を取ってきた。
  分るさ……分るんだよ? 俺には……
  あの野郎の笑っている顔が、気に食わない!

                   〜The end〜


___________________________________________

初めましての方は、初めまして。
お久し振りの方は、お久し振り。
常連の方は何時も有難う御座います^^
此度は、短編小説を書こうと思い立ち立てさせて貰いました。
短編小説は書き慣れていないので何かと不備も有ると思いますが、暖かい眼で見てもらえれば幸いです。

=====お客様=====

朝倉疾風様
玖龍様
生死騎士様
黎様
夕凪旋風様
野宮詩織様
狒牙様


今の所、7名のお客様が着てくださりました!


======目次======
第一話「再開」              
>>6
第二話「偽りの平穏」           
>>7
第三話「迫り来る死」           
>>15
第四話「悪夢の空、地獄の大地」   
>>21
第五話「阿鼻叫喚」
Part1 >>26 Part2 >>31 Part3 >>36
第六話「失った命の意味」
>>42
第七話「戦うしか無い……」
>>45
第八話「迷走……迷走! 迷走する意思」
>>50
第九話「明日夢」
>>52
最終話「チープ」
>>53

キャラクタ紹介 >>8



=====注意事項=====
一、更新は速くはないと思います。
二、グロ描写が多く入ると思います。 苦手な方はリターン。
三、チェンメや荒し、宣伝などは出来れば止めて頂きたいです。


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Re: Cheap 第七話更新 10/20 コメ求む! ( No.50 )
日時: 2011/11/26 23:11
名前: 風猫(元:風  ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)

Cheap(チープ) 〜第八話「迷走……迷走! 迷走する意思」〜

「七ヶ月ってこんなに長かったんですね?」

  春水君が、お父さんを殺して明日夢さんが全てをさらし彼女に従うようになって七ヶ月が過ぎていた。
  今は、二月下旬で東北地方に位置するここは、相当に冷え込んでいる。
  そんな寒空の中でも春水君は、一縷の希望を持ち対巨大昆虫用のライフルを抱えて走り続けていた。
  この日本から……世界から隔絶された地獄からその要因たる魔物達を殲滅することを目的として。
  最近、あの人の背中が大きく見えるのだ。 護るもののために全力で走っているの。
  無駄な努力にしか見えないって戦う気力の失せたほとんどの人々はせせら笑うんですって。

  あの後、明日夢さんの目算通り巨大昆虫が、出現するに適した濃度と化したあらゆる市区町村で巨大昆虫が出現した。
  そして、次々と人間達を襲った。 巨木のような脚で踏み拉き、強靭な刃のような脚先端部で貫き先鋭な顎で引きちぎり。
  あらゆる手段で人々は殺され食されていった。
  それにより日本の人口は、一ヶ月で七千万へと激減した。 
  そこからは、政府の手際により強固な施設に人々を非難し被害は激減した。
  しかし、物資が枯渇すればどうしても外へ出て食料を調達しなければならない。
  彼等、上位捕食者と呼べる存在のいる外側に出るのは矢張り自殺行為で。 
  外に食料を取りに出る一般人男性や自衛隊などで構成された部隊は大概、半数以上が死亡するのだそうだ。
  多くの人々は、悲嘆と絶望のどん底に居て……希望を持って走る存在を蔑視する。
  怒り憎しみ閉塞的でプライベートのない施設の中でやり場のない憤懣の条が爆発し殺し合いに発した施設も多いらしい。
  今や、日本人の全人口は、四千万人を切ったらしい。
  そう考えるといかに頑健でこの状況を想定した装備の整った施設の中にいるとは言え今まで生き延びられたのは本当に凄い。

「もう……もう、巨大昆虫を殲滅するなんて夢想を掲げないで良いんだよ春水君。
あたしは、もう、十分、生きた気がするから……静かに愛を語って死んでいこうよ」

  あたしの部屋。
  女の子が一人で住むには殺風景この上ないが、個室と言うだけマシなのだろう。
  何せ、生延びたほとんどの人々は、プライバシーも何もあったものじゃない段ボールの壁で仕切られた世界で生きているのだ。
  きっと、あたしなら発狂して自害するか絶叫するか……誰かを殺していたかもしれない。
  そう、考えれば、あの時の春水君の選択は最良だったと思うの。
  だから、懺悔の時間は終わりにして欲しいんだ。
  もう、自分を許してあげて。
  明日夢さんと話すのは個人的に厭で……嫌悪の対象だから。
  春水君も幸せに外であたしと愛を語れる世界を造りたいからと言って毎日戦っているから。
  最近さ。 いっつもこんなことばかり考えている。
  幸せなのかな? サットって言ういかにも粗野そうな男たちに目をつけられて性欲のはけ口にされる訳でもないし。
  あぁ、あの人達は明日夢さんフォーエバーなんだろうけど。
  ちなみにサットのメンバーは、明日夢さんの命令に従って食料の調達に外には出るけど昆虫の討伐には率先的ではない。
  彼らもまた、夢想にすがる春水君を馬鹿にしているのだろう。 いや、間違いなく影で嘲笑しているのは確定だ。

「寂しいよ春水君」

  寂しい。
  どうせ、もう、終わりなのなら二人で抱き合って死にたいよ。
  身勝手って罵られても良いから。
  君のやっていることは無駄なんだよ。 
  寂しいから、誰も相手が居ないから。 狭い個室の中でろくに動きもせずに……独り言が多い。
  運動もしないからきっと、身体能力も落ちているんだろうな。
  笑える位に自分が情けなくてそれが、あたしの弱音の引き金になっているのは間違えなくて……
  あたしは、腹が立ってお手洗いへと歩き出す。

  手を鼻孔の近くに置くと饐えた臭いがムワリと放たれて不快感が助長される。
  お風呂は毎日、入っているのだけど……入念に体は洗っているのだけどどうやらあたしは臭う方のようだ。
  あぁ、今、分った。 彼が、変態趣味じゃなけりゃあたしの体までは愛してくれないのかなって……
  化粧室。 トイレの数は、様式が二つだけ。 明日夢さんとあたしの貸切。
  奥に近いほうがあたしの……狭いトイレの中のほうが落ち着く。
  腹が立つと何時も此処に入る。 唯、心のざわめきを落ち着かせるために。

  ふと気紛れに回り道をする。
  それは、今や実験の実権を握る明日夢さんの独占のラボ。
  研究用の器具の一式がそこに揃う。 戒もそこで理性を得た。 戒にとっては第二の故郷らしい。
  戒はと言うと二ヶ月前に同等の巨体を持ったクワガタムシとの死闘の末、死亡した。
  その戦いは凄まじく春水君も息を飲むほどだったらしい。
  当時の強化ライフルは、甲虫類の堅固な装甲を貫通させるほどの威力はなかったらしくて春水君は、深く嘆いていた。
  人は死ぬ。 虫も草木も鳥も猫も何もかも死ぬのだから……それを悔やむ必要はないんだよって。
  そんな月並みな慰めしかできなかったあたしが悲しい。
  そんな過去の記憶に思いを馳せながら灰色一色に統一された色気のない通路を歩き続ける。
  この施設は、沢渡町の離れにある山群の中腹をえぐって造られたものでそれなりに大きく一つ一つの通路が結構長い。
  実は、その通路を歩き続けるだけで割りと漣だった心が落ち着くくらいだ。

「へぇ、このクワガタちゃん生きてたんだねぇ? そうかぁ、じゃぁ、この混合技術を使えるかもねぇ?
ふふふっ、力を望んでいる群青原君辺りなら率先してやりそうだね? 
大岩すら投げ飛ばす怪力と飛翔能力と鉄をも超える強度を持った怪物人間の誕生って?
SFみたーぃ! 夢見てた最高! 群青原君が来たら早速やろう! あはは、滑稽だよねぇ?
そんな姿、刹那ちゃんにさらしたら何て言われるのかしらねぇ!?」

  心が少しずつ落ち着いてきた。
  呵責が、水面へと顔をうずめて行く。 良かった。 あたしは、また、今を冷静にいられる。
  そう、思ったときだった。
  明日夢さんのラボを通りかかったとき。 
  彼女の嬉しそうな声。 その内容は、明日夢さんが、長年の研究の末に最近、完成させた技術。
  人間と昆虫のDNAの有効的な融合による強力な新生命体を造ると言うもの。
  普通なら生物兵器として糾弾されるだろう、道徳心の欠如だと非難されるだろう。
  そんなことを彼女は、平然とやってのける。

  強大な化物に対抗するためにその強大な力を利用するというのは良くあることだと思う。
  でも、利用される対象が、春水君となると話は別だ!
  あたしにとって一番大事な存在だ! そんな彼が、醜悪な姿になってしまう。
  人の姿を忘れ明日夢の人形と化す。 なぜよ? サットって言うお気楽で楽しいMっ気たっぷりのペットが居るじゃない!?
  何で春水君を…………許さない。
  殺してやる。 あたしの心は全然、冷静じゃなかった。 あの日からずっと壊れたままで修繕なんてできてなかった。
  心は、そんな単純じゃなかった。
  無用心にも扉は開いている。 或いは誘っているのか?
  否だ。 一々、あたしの動きなど監視していないし奴等は、どうせあたしなど眼中にないに違いない。
  後悔させてやる……死体は見慣れた。 銃の撃ち方もすでに知っている。  
  やってやる……

「機関銃……」

  眼に映ったのは機関銃。 どうやら、サットの面々の報告を受けているようだ。 
  律儀に全員揃っている。 その機関銃はサットのメンバーの装備の一つだ。
  彼らは、危険を冒して食料を調達するために外に出る事はある。
  でも、ホームに戻ると常に、弾薬の補填をしている。 
  乱射すれば全員殺せる程度の銃弾は、明らかにその機関銃の中にあるだろう。
  幸いにして個人識別コードなどと言う面倒なものもない。
  おそらくは、この状況を想定してのことだろう。 外に出て他の外の人間に対峙することなど皆無なのだ。
  律儀なことだ。 生真面目に普通を踏襲していれば良いことを。
  
「もしかしたら暴走したりしませんかね?」
「そうしたら、撃ち殺せば良いのよ」

  機関銃を握る。 引き金に指を差し伸べる。
  こっそりと身を屈め進入する。 この施設は、外からの防御は完璧に近いが中の警備は、柔も良い所だ。
  異物が中に入っても何も反応はしない。 つまり、人間の目しか異物を確認する術がない。
  最も、それで十分だからと言う想定なのだろう。 甘いんだよ。
  あたしは、居ないような物だって思っているのが……
  サットの隊員のあるしゅ最もな問いに最も残酷な返答を返す明日夢。
  その姿を捉える。 どうやら、サットの面々が彼女の盾になるように彼女の前に立っている。
  成程、ボディーガードだ。
  彼女を一瞬でも護って死ねるならあんた達は本望だろう?

「死ね……」
「ウワあぁぁぁぁアァァアあアアああああああアァァァアアああぁァァァああッッッッ——————」

  一息深呼吸をして素早く銃口を向け乱射する。
  弾丸の発射される無機質で規則的な音。 
  何かが破砕する音。 悲鳴。 肉が抉れる様。 内臓が空に踊りビチャリと落下する様。
  脳が吹き飛び赤の中に骨の白が浮ぶ様。
  全てが鮮明ではなくエコーが掛かっている。 汚い男の悲鳴が、心地悪い。
  女の悲鳴はない。
  この状況で悲鳴一つ上げないとはやりますね。 流石、イカレ女です明日夢さん?
  まだ、生きている明日夢を見詰めてあたしは、銃を彼女に向ける。

「あららららららぁ……聞いてたのかぁ? ついに聖人卒業だね刹那ちゃん? あたしは、本当に嬉しいよ」
「うるさいな……黙れよビッチ!」

  次は自分の番だって分らないの?
  苛々するな。 叫べよ。 喚けよ。 涙を流して懺悔しなさいよ! 命が惜しいでしょう!?
  何をしても何を言ってもアンタを殺すことに変わりは無いけどね!
  あぁ……黙れって言っちゃったか。 まぁ、目の前の女はどうせ、黙らないでしょうけど。

「……………………」
「何よ。 お得意のマシンガントークはどうしたのよ?」

  律儀に黙る目の前の白衣の女。
  周りは血の海で鉄の刺激臭が鼻を突く。 正直、犯行者のあたしが、恐怖しているのに。
  目の前の女は、何も感じて居ないのか……口角を上げて手を広げて笑い出した。

「はははははははははははははははははははははははははははっ! 撃ちなさいよ?
あたしには、何の未練も何の記録もないのよ! 唯、世界に明日夢と言う存在の力を刻み込みたかっただけなのよ!」

  ターン。 けたたましく笑う明日夢の言葉を遮りあたしは、銃弾を発した。
  彼女の大腿部に弾丸が命中しジワリと衣服を通して血が染み出ていく。
  彼女は、音も無く這いつくばる。
  しかし、なおも痛みも感じていないかのように彼女は喋り続ける。

「憐れな憐れな刹那ちゃん! 本当は、全然、春水君になんて見られても居ないのに!
分らない! 彼は、唯、君を慰み者にしたいだけ! 貴方の内面なんて興味なくて体と声と顔だけにしか!」
「それが、どうかしました? あたしも春水君にはそれしか望んでいませんよ……
拍子抜けですよ明日夢さん。 貴女には本当に失望しました。 死ね」

  捲し立てる明日夢。
  その言葉は、最初から全て知っていたこと。
  あたしも春水君も……所詮は……
  あぁ、何だ。 観察眼に優れていて嫌味ったらしい貴女が最後に言う事はその程度なんだ?
  拍子抜けだな。









  死ね。
  明日夢——————…………


>>END

NEXT⇒第九話「明日夢」

Re: Cheap 第八話更新 10/29 コメ求む!【500突破】 ( No.52 )
日時: 2011/12/07 19:41
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: rR8PsEnv)
参照: 急遽トリ変更!

Cheap(チープ) 〜第九話「明日夢」〜


  「ずわあぁぁーんぬぅぇぇーんでゅぇーしたア゛ぁぁぁぁァァァァァァッッッッッッ!」


  間に合ったぁ。
  サットの連中は本当に良い盾になってくれた。 お陰で間に合った。
  しかもギッリギリ! 撃たれる瞬間。 はぁっ、快感!
  良い緊張感でした…………さぁ、こっからは、レッツパーリィ!

「なっ? 何なのよ!? そんな……」
「月並みな反応乙!」

  痛め付けてやる。
  この鉄の装甲と怪力、人間の倍の数の腕と強靭な凶刃!
  負ける要素なんて欠片もない!
  痛め付けてやる! 良い声で泣きそうだ! 泣け! 啼きなさい!
  啼け泣け鳴け泣いて! 鳴け啼け鳴け泣け泣け啼け! 甲高く……
  そして、一向に減る事のない化物狩りに興じてお前に見向きもしない彼の名前を呼べ!
  そうしたらあたしは、全力で嘲笑してお前を殺す!
  ぐっちゃぐちゃに……キリング!
  レッツパーリィ!

「化物……醜いんだよ! 明日夢!」
「分ってるさ。 分ってますよぉ!? 心も……容姿も醜くなっちゃって……
世界の全てが憎くてたまらねぇなぁおい! 綺麗な小猫ちゃんでいつまでもてめぇはいられるのかよ!?」

  刹那ちゃんの腹部にあたしの蹴りは見事に命中したようだ。 口内から少量の血を流し腹部を支えながら苦しそう。
  心なしか……いや、確実に大量の脂汗が出ているなぁ。
  歪んだ眉根はそれでも形が整っていてそそられる。 化粧っけのない相貌が発汗と対照的に蒼白となっている。
  絶望、痛苦? それとも両方……快楽。 悦楽。 あたしにはそれしか感じない!
  さぁ、始まったばかりだ。 絶望のレッスンを続けよう!
  刹那————……!

「逃げるなよぉ小猫!」

  よろめく足を全力で動かし小猫ちゃんは、醜態をさらしながら逃げ続ける。
  圧倒的な脚力を有する怪物だ。 今の私は。 正直、彼女の動きなど本気になれば容易く捉えることができる。
  だが、恐怖に表情を歪ませて逃げるお嬢さんと言うのはなんともそそられるもので……
  腰を振りながら誘ってんのか!? って、感じでいつまでもみていたくなってしまうの。
  殺すのは簡単。 なんでも簡単なんだ。 だって、あの化物昆虫達だって数ヶ月で明確な対策武器が完成したのだから。
  とにかく、力を振るって破壊して圧倒的な死の恐怖と無力感からくる絶望感を味わわせて……
  恥辱、屈辱……味わわせて。 どこまでも愉快だ。
  時々、私の様子を伺おうと振り返る彼女の眼には、既に大粒の涙が浮べられていた。
  でもまだ。 まだまだ、足りない。 せめて失禁でもして貰えると愉快だなぁ。

「くっそ! 何で体全て装甲で覆われてるのよ!? 普通甲虫っておなかの部分はふっから柔らかなのにっ!」
「残念ねぇ? そんなライフルで貫通できるほど柔らかくなくて……」

  女子トイレの区画に差し掛かり十秒以上走っていた彼女は意を決したように振り返り銃を構える。
  二発ほど射撃し軽く装甲に阻まれた事を確認して毒づく。
  甲虫のあれは柔らかい体を護るためのものでさ。 腹這いに歩行する彼らは腹部を装甲で覆う必要性が少ないのよね?
  だから、甲殻で覆われていないの? 
  ならば、二足歩行のあたしならDNAが体の硬度を不足と評価し全ての部分を装甲で覆っても何も不思議はない。
  まぁ、絶望感が増すわよねぇ? 攻撃手段なくなっちゃたわけだし。
  そろそろ、抵抗する気力も無いかなぁ? いやいや、それは無いなぁ。
  
  だって、最近、できた甲虫甲殻対策武器が武器庫にはあるわけだしね?
  まぁ、そこまで辿りつく覚悟があるってことは勇ましくて格好良いわね。
  でもさ。 美談よ。 そこまでたどり着いて武器を手にして反撃できるなんて夢にすがるなんて……
  蛮勇を通り越して愚行。 付き合ってやろうじゃない。 
  刹那ちゃんはけん制にすらライフルじゃ役不足と悟り銃を思い切りあたしに投げつける。
  勿論、そんなものに何の意味も無いのだけど一瞬の足止めになればということだろう。
  それなりに重量のあるライフルを捨てた事により身軽になった彼女は、先ほどとはまた違った速度で走り出す。
  移動先は決まっている。 彼女も馬鹿じゃない。 淀みなく最短ルートで走り出す。
  腹部の痛みは容易いものではないはずだけどアドレナリンが大量に分泌されて耐えれているという所かしら。
  無駄無駄……あそこまで行くには、女の足じゃどう考えても十何分かはかかるんだから。
  緊迫感に体を制御できなくなって足もつれさせて倒れちゃうんじゃなーぃ?

  響き渡る音は、刹那ちゃんが全力で床を蹴る音だけ。 静寂の中に騒音。
  中々に愉快だ。 しばらく、八分程度のあいだ、あたしはゆっくりと彼女の後を歩いて追う。
  時々、後ろを向きあたしの表情や動きを確認するが無駄な反撃などは一切せず彼女は走り続けた。
  息を切らしながらもなお。 体力有るなぁ。 さすが、バスケ部のエースってだけはある。
  それに、この重圧でも倒れないのだから胆力もたいしたものだよ。 良いね良いね! 最高だねぇ!

  まぁ、それでも、巨大クワガタの力を有したあたしから比べれば体力も有限で……鈍間なんだけどさ?
  一回、本気で跳躍すれば一瞬で追いついてしまうのが分る。 勝負にならない鬼ごっこ。 
  退屈だけど圧倒的な強者の気分と言うのは大した優越感だ。
  あたしは、存分にそれを堪能して一気に跳躍する。 コンクリート造りの床が砕けて抉れる音が心地良く響く。
  これほどの脚力なのか。 ちょっと、お姉さん快感!

  飛翔する。
  身体が宙を浮く。 この建築物は相当に広くてさ? 四階建てなのだけど一階一階が、高さ五メートルくらいあるのよね?
  一回の跳躍。 一回の飛翔。
  それだけでさ。 全力で逃走を図る刹那ちゃんを追い越すには十分だったよ。
  悲しいね? 貴女は武器も無い。 目的の進路上にはあたしが居る。
  絶望的だよね? もう、手段ないよね? あたしの横を何とか通り抜けるなんて……
  そんなふうに圧倒的有利の余韻に浸っているあたしを彼女は一瞥もせずすぐさま来た道を戻る。 
  この研究所は一階一階が広いが、階ごとの造りは単純だ。 廊下が長ったらしいだけで道が一繫ぎなのだ。
  つまりは、行った道を戻って走り続ければ結局は目的地にたどり着けるということ。

「へぇ、まだ、抵抗するんだぁ? 無駄だってのが分んないのかなあぁ!?」
「——————クスクス。 明日夢さん。 明日夢さんは全く分ってませんね?」

  あ゛? あたしが何を分っていないって? あんたはあたしから絶対逃れられないんだっての!
  それともあれか? 虫殺しに必死な恋人もどきの道化君が来てくれると本気で信じてんのか!?  
  馬鹿? 莫迦なの? 超馬鹿なんじゃないの!? あのさぁ……いつだってころせんだよ。
  ほーら、背中にキックが入りまちたよぉ刹那ちゃぁーん!

「がっ!」
「ノーッッ! まだ、倒れるなよぉ? まだまだ、虐めたりないんだよぉ!」

  メキッと言う不快な何かの砕ける音。 恐らくはどこかの骨が砕けたのだ。 快感。
  倒れこむ刹那。 おいおい、倒れて良いって誰が言ったぁ!? 
  そう、楽しく床でのたうって貰うのはもっと痛みを感じさせてからだ!
  あたしは、右腕上部にあるミヤマクワガタの大顎とそっくりの鋏を彼女の右腕にあてがう。
  ひやりと冷たい感覚が襲ったのだろう。 彼女の全身が情けなくふるえた。  
  じゃぁ…………痛い目にあって貰おう。
  人間には二つの恐怖がある。 一つは圧倒的な死の感覚や知識に無い物などに対する精神的ショック。
  次に、容赦ない肉体的な痛みに対するショック。
  
  痛みだ。 今、君に痛みを与えてやる。
  ギチギチギチギチ……少しずつ少しずつ万力のように彼女の細く白い腕を千切っていく。
  血が流れ白い肌が朱に染まっていく。 声にならない慟哭を彼女は、垂れ流し続ける。  
  高く澄んだ彼女の声は綺麗で心地良い。 
  ミシッ……
  どうやら、骨に到達したようだ。 人間ってこんなふうに痛みを与えても案外気絶できない生物なのよね。
  ほら、案外、脆いと思ってる人が多いけど上手くやれば両手両足、切断してもすぐには死なないのよ?
  ははっはははははははははははははっ! ミシッ……ミシミシミシミシミシミシミシッッッッッ————————!

   


   最ッッッッッッッッッッ高ォ——————————————!




「あっ……あ゛あぁアァァアアあぁァァあぁぁあアッアあぁぁあアあっっがはぁっあがっ…………はっ、はっはっはっ……うあぁ」

  骨が砕け散り完全に切断された腕がボトリと音を立てて床に落ちる。
  彼女は、力なく倒れこんだ。
  あぁ、もう飽きたな。 殺そうか。 
  あたしさ。 新しい楽しみ見つけたから。 死ぬの面倒になっちゃったんだよ?
  あの研究が成果を結ぶまでは結構、外に出て化物共と戯れてさっさと死んでみるのも良いとか思ってたけどさ。
  今はさ。 この圧倒的な力をふるいたいんだ。 ふるってふるってふるいまくって……

「潰れろ刹那————……ん?」
「消し飛べ明日夢」

  地べたに這いつくばり羽虫のように悶絶する刹那。 
  虹林刹那を今すぐ処断することを決定したあたしは、圧倒的に巨大な鉄の足で彼女の心臓を踏み潰そうとする。
  その瞬間だった。 聞き覚えのある声が耳に響く。
  まじかよ? 笑えないぜ……この声。 あぁ、彼女の賭けが勝ったとでも言うのか?
  ふざけんな。 おい、振り向いた目の前にあるこの円筒状のグレーのはなんだ?
  映画とかでも良く見かける。 あぁ、そうだ。 手榴弾。 対巨大甲殻昆虫用に特化した手榴弾だ。
  あはっアハははははははははははハッ! 無いわぁっ! 何の奇跡よ? 
  でもね? でもさ。 あたしの今の反射神経ならこんなの爆発する前に投げ返すくらいの事できるんだぜ?
  そもそも、爆発を直撃でくらっても死なないっ!?
 
  ライフル!? 対巨大甲殻昆虫用のライフルがあたしの左足に……痛い! ぐっ……
  あぁ、頭の中で刹那ちゃんが、してやったりみたいな笑み浮かべてるのが見えた……
  畜生。 群青原春水! 何様————————…………







                        ————————炸裂した。 目の前が圧倒的光量に支配される……


  続いて体中の装甲が根こそぎ吹き飛ぶ感覚。 そして、顕になった筋肉が熱により蝕まれる感覚。
  耳をつんざくほどの音響。 だがっ!
  だが、あたしは、死なないんだよ! そもそも、この爆発じゃ彼女も聞けんじゃないかボーイフレンド!
  爆風のダメージは有るかしら? もしかしたら手榴弾の破片が脳髄深くや心臓深くを抉るかも。
  いや、炸裂したのだ。 いままさしくそう、なっているかも!

「ははっ……良いね良いね最高だ! 自分の女ぁ、捲き込む寸前だったぞ。 なぁ、群青原君!?」
「…………あいにくと運命の赤い糸は奇跡を呼び起こす」

  何を馬鹿な?
  そんな非科学的な妄言打ち砕いてやる! どこまでも愉快なんだよぉ!
  あたしは、コンクリート造りの色気のない床を圧倒的な脚力で踏み拉き跳躍する。
  なおも冷静な表情で奴は、ライフルを構え容赦なく弾丸を発射する。
  あたしは、別段、装甲の固いクワガタの頭部を模した物が付いた右腕上部を盾にしながら進む。
  五発目の弾丸を受けついに砕けたが、すでに奴との距離は無に等しい。
  チェックメイトだ! あいつの持ってるライフルは一回、最大六発までしか装填できない! 死ね!

  群青原春水——————……
  あれ? 何で……なんで腹部に激痛が奔っているんだ?
  あたしは、ゆっくりと下を見る。 
  そこには、半径二センチ程度の結構大きい穴が二箇所。 開いていて血がどくどくと流れていた。

「悪いね。 律儀にあんたの造ったままの状態で使ってるわけじゃないんだよ」
「…………ふん、自分で銃器改造するとか……アンタもこの地獄に染まってきたじゃない」

  あぁ……出血多量で眼が霞んで来た。 
  でも、この化物の体力は人間に比べりゃ無尽蔵だ。 
  まだ、手をふるってアンタを潰すくらいの体力はある!
  まだ、動けるのか? そんな瞠目を彼は見せた。 科学者として分る。 これは、嘘を付いている表情じゃない。
  如何に、彼がまだ、武器を残していても行動が遅れれば意味を成さない!
  そうだ。 化物になってまでこんな餓鬼を殺せないようじゃ名折れだ!
  振り下ろすまでに何とか拳銃やらで一撃入れてくる可能性もあるがそれぐらいじゃ止ってやる気はない!
  そうだ。 殺す。 あたしの努力の結晶。 その圧倒的力がこんな餓鬼一人殺せず敗れて良いはずがない。

  れ? あぁ……なんだ? これ? 右脇腹? 右脇腹に激痛!?
  冷たい……これは刃物か?
  あぁ、切裂かれる感覚が襲う。 甲虫対策用の武器じゃない。 柔らかくなった腹部だから……
  あぁ、刹那ちゃんか……彼女には、護身用のナイフが配布されていたような……



  

  気が…………————————

「ゴプゥ……」
「……春水は、殺させない……殺させない!」


  
  畜生。 ここまでか。
  完全なる闇があたしの視界を支配する。
  刹那に見えたのは、空虚なるあたしの姿。 

 

  厭だった。
  むなしいのはいやだった。
  そんなまま消えていくのは厭だった。 今でもいやで…………

  だから、誰にも受け入れて貰えないから。 理解していたから……
  圧倒的な誰もが認める化物に—————……


  体が熱い。 痛みが痛覚を超えて全てが分らない。
  もう、何も感じない。
  意識が、混濁し途切れた————————…………







「」





>>END

NEXT⇒最終話「チープ」

Re: Cheap 第九話更新 11/27 コメ求む!【500突破】 ( No.53 )
日時: 2011/12/07 20:48
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: rR8PsEnv)
参照: 短い作品だけどさ……初めての完結なんだぜ(涙

Cheap(チープ) 〜最終話「チープ」〜




   寂寞の思いが駆け巡る。
  きっと、刹那は助からない。明日夢が、最後に何か腹立たしいことを口にしていたがどうでも良いや。
  俺にとって刹那は世界の全てで……宇宙なんかちっぽけに感じるほど大きな存在で。
  なんで、俺は彼女をそれ程に思ってしまったのだろう?
    なぁ、全然、分らないんだ。会った瞬間から恋焦がれて付き合うほどに深みを知るごとに愛おしくて。


  俺。俺さ。冷たい眼の感じの悪い餓鬼って言われ続けてきて人を愛せるなんて思ってなかったんだ。
  まじだぜ? 小学生に入る前の餓鬼の思想か? 愛とか語らねぇだろう?
  それなのに俺は、愛を知って自分が人を愛せない人間だってあのときから絶望していた。
  誰を見てもなんとも感じない。誰と話しても何も感じない。婆ちゃんが死んだときも…………
  そんな狂った俺が、君と言う存在に出会って変ったんだ。
  今は、左腕がなくて体中が傷だらけで苦痛に歪んでいる君。助けたい。
  助けなければいけない。でも、俺には何もできなくて……
  無力でか弱くて。
  あの無限地獄から君は、俺を救ってくれたのに。 
  誰もが愛想を尽くして話しかけようとさえしなかった俺に、優しく微笑んで手を差し伸べて。
  俺の悲嘆の声を全て聞いてくれて……



                 「君は、きっと人を愛せるよ?」


  って、優しい声で言ってくれた! 
  それからいつもいつも君は、笑顔さえ見せない俺に救いの手を差し伸べてくれたな。
  俺が、孤独で震えているときは声を掛けてくれて。 俺が孤立して他人に虐められている時は、身を挺して護ってれて。
  人の強さと愛の強さを俺に体と言葉の両方で伝えてく。 お前が、いつの間にか世界の全てで……
  お前が、地球より大きい全ての母に見えたんだ。
  そんなお前を護るために俺は強くなることを俺自身に誓った。
  なのに……なのに! なんで、俺は、昆虫退治なんかに現を抜かしてお前を見ていなかったんだ!?

「ねぇ、春水君? あたしさ……貴方に一目惚れだった。 あの冷たさがあたしそっくりで……」
「喋るな! 体に負担が掛かる! 絶対助けるから……今は、喋らないで生きることだけを……刹那?」

  刹那が俺に似ていた? そんなはずない。 彼女はいつだって優しくて誰とも話せて! 社交性に溢れていたじゃないか!?
  なんでそんなこと言うんだよ? 最後の別れみたいじゃないか? 離別の瞬間じゃないんだぞ!?
  俺達はこれからも手を取り合って……あれ? 目から何か熱いのが湧き出している。涙? 涙かよ!?
  俺は……泣いちゃいけないのに!
  俺は、彼女を……護れない。 命を取り留めることができない! 
  分ってる。 それでも助けたい!
  だから、俺のエゴに従え!
  全ての思考回路をまわせ! 何か手が有るだろう!? 彼女を救う……手が。

「もう、充分、もう充分。君もあたしも充分頑張ったよ。 
君のお陰であたしは、空虚じゃなくなった。君もあたしのお陰で……もう、その事実があれば充分だよ」
「なにが充分なんだ? 俺は、充分じゃない! お前と子供を作ってこのいかれた世界を闘い……」

  何が、充分だ?
  俺達、何歳だよ? たった一つの目的を達成した位で何でそんあに悟れるんだっての!? 足掻こうぜ……
  震える足を動かしてここまで来ただろう!?
  立てよ! 凛とした佇まいでニヒルにスラングでも飛ばしてみろよ!
  俺達は……まだまだ、行かないと。友情パワーだ……レオ、俺は、今お前の言葉を……
  馬鹿かと罵ったお前の言葉を刃に……
  
  そう、意気込んだ瞬間だった。
  柔らかい何かが俺の胸板に接触して……それが、刹那の胸だって直ぐに理解する。
  刹那? 体温が、少しずつ下っているのが分る。あぁ……




              ア゛ガアァァァアアああぁぁぁアァアアアァァァアアあああああぁぁぁぁぁぁぁあアアッッ!


  悟った。最初から分っていたこと。
  何をどう考えても刹那を救えない事実。ここにある医療設備では不可能。
  医療機関のある場所まで行くには数時間。自然物で何とかする医療知識なんてない。
  あぁ……あぁ、俺は、無力だ。

「ゴメンね。 あたしが明日夢を殺せなかったから」
「悪ぐない! ぜづなはあぁっ! 何にも悪ぐな………い゛」

  俺は、謝罪する刹那に唯、子供のように喚くことしかできない。
  ただ、彼女の紡ぐ言葉を聞いてあげることしかできない。

「あたしね。サットの人達を皆殺しにしたの。はじめて人を殺した。死体は見慣れてしまっていたからなんとも感じないんだろうな。
そう、思っていたのに嫌いな奴等だったのに凄い罪悪感感じちゃって本当は、明日夢さんに殺されても良いと思ってしまった。
でも、春水君に会う前に死ぬのは嫌だった」

  刹那……お前に、そんな業を————

「謝罪しとくべき事と言えば紅木咲君が殺されたとき。あの時も本当は、彼が死んで喜んでいたあたしがいた。
あたしはさ。君が思っているような良い子じゃないよ? 分ったかな?」
「紅木咲レオが死んだとき俺は何を思っていたかな? 本当は、死んでくれて有難う恋路の障害! とか、思っていたぜ?」

  俺達は、トコトン紅木咲を邪魔者扱いしていたらしい。レオはもともとは、刹那の従兄弟でさ。
  二人だけで遊んでいるのを見て寂しい奴等だと……二人だけじゃ乗り越えられない壁があるだろうと付き添ってくれたんだ。
  そんな良い奴の鏡みたいな奴を俺達は、敵視しかしていなかっただな。
  やっぱり、そう考えると俺達は同類だ。でも、遠く過去だったらあいつが死んでも本当に罪悪感も感じなかったろうな?
 それだけは、少し人間的になれたってことで俺自身を褒めたい。

「そうかぁ。あたし達は咎に塗れているんだね。でもさ。あの世があるなら彼には、謝るべきかな? 
彼が居なかったらあたし達あんな無茶できなかったよね?」
「そうだな……」

  俺の慟哭に刹那は、小さく微笑を浮かべて呟く。途中、ゲホゲホと血を吐き出しながら咳き込む。
  あの世か。非科学的極まるけど人間の英知を結集しても永遠に解決しない問題なんだろうな。
  紅木咲に謝るか。無理だろうな。あいつは、きっと天国で俺達は……いや、俺だけか。地獄は俺だけで良い。
  刹那は、今までの悪行を謝る価値が有る。刹那は、数人で……俺は、数百体の命を奪った。その差は大きいさ。

「ねぇ、春水君? 戒。実は、貴方がやったんでしょ?」
「あぁ……憎いか?」

  喋りたいこと、知るべきこと、全てをしようと必死に刹那は喋り続ける。 消え入りそうな小さな声で。
  戒か。俺自身嫌な思い出でさ。あいつは、あいつを殺しちまったことに罪悪感を覚えていて。
  巨大なカブトムシと激闘を繰り広げ自分の体で全力で相手を止めて言ったんだ。

                   ————自分ごと撃て————


  きっと、敵わないから絶対の隙を作りあいつは、自分の体全体を使い奴の動きを封じ俺の弾丸に貫かれて死んだ。
  奴を倒すには、戒同等の戦闘力を持っていた奴から逃げることなど鈍足の人間ではできないことを考えれば……
  あぁ、する他なかった。戒は、どこか満足気だったな。
  涙が、止らないよ。俺、俺も本当につかれたよ刹那。

「春水君。居る? 目が見えなくなってきたよ」
「刹那……刹那! 俺はここだ。離れたりしない!」

  抱き締める。強く強く。もう、命の時間が少ないことは分ってるから……少しでも温もりを感じていたいから!
  刹那は、もう、目が見えないと宣言した。それは、理解しがたいほどのことで……俺は、唯、抱き締めるしかできなくて。

「力強い。春水君の腕。前よりずっと、逞しくなったね。ねぇ、春水君。このまま、ずっと居たいな」
「ずっと居る! ずっと、居るから……」

  止め処なく流れる血。
  体中が血に塗れていく。刹那の呼吸が荒くなっていくのが分る。
  脈動が安定しない。 
  刹那の言葉に従うしかできない。
  あぁ、俺の世界の希望の全てが崩壊していく。

「春水君。生まれ変っても……きっと、また、会おうね」

  口元で囁かれる甘い声。瞬間、銃声が響く。何も考えていなかった俺は、いつの間にか彼女に銃を奪われていたらしい。
  彼女は、俺の悲しむ顔を見たくなかったのか痛みに絶えかねたのか或いは、両方か。苦しみのない即死を選んだ。

「なんで……なん…………っでだよ!? 俺は……俺はアァァアああアアああアァああぁぁあぁアァァァァァあぁぁぁぁ——————」

  怨嗟の咆哮がいまや誰も居ない親父の研究所に響き渡る。反響し易い壁のせいでその情けない声は思った以上に残り続けた。
  刹那は死んだ。俺の希望。死んだんだ。もう、ここに用はない。俺の命に興味は無いよ。
  俺は、額に銃口を突きつける。

「刹那、今すぐ会いに行くよ……地獄に引きずり込んであげるから。永遠に遊ぼう」

  パーン。乾いた銃声が体中を駆け巡る。俺のチープな物語は幕を閉じた。
  人生なんてこんなものだ。いや、俺の人生は上等さ。化物相手に戦い続けた。何もかもが下らないこの世界よ。







「もう、うんざりだよ」





                                        〜Cheap 完結〜




「お前、変な奴だな。俺に話し掛ける奴なんて唯の馬鹿だろ?」
「君を理解しようとしない人のほうが馬鹿だよ?」


「お前、本当に変な奴だな? 名前、なんて言うんだ?」
「刹那だよ! 虹林刹那って言うの! 最近、引っ越してきたの! 群青原春水君、宜しくね!」


   いつだって心の中に有るのは、人から見れば詰らなくて小さな淡い淡い記憶——————


             人は小さな何かに支えられているということだろうか?

Re: Cheap 最終話更新 12/7 堂々完結!!!! ( No.55 )
日時: 2011/12/11 14:43
名前: 中井 (ID: xRtiMmQO)

毒舌小説評価所の中井です。
依頼完了致しました。
お待たせして申し訳ありません。

Re: Cheap 最終話更新 12/7 堂々完結!!!! ( No.56 )
日時: 2012/01/31 19:41
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: UmCNvt4e)

中井様へ


鑑定有難うございました!
戒の番外編三月までには乗せますね!


小説カキコに足繁く通い三年以上。
飽き性と直ぐスレを建ててしまう悪癖のせいで今まで達成できなかった完結をついに味わうことが出来ました^^


これもこの作品を見てくれる人が居たからこそです!!
有難うございました!!

まだまだ、書かなければいけない作品があるので是からも応援宜しくです!!


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