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Magicians' War——4/2最新話です——
日時: 2012/04/02 18:52
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 8Sk6sKy2)
参照: よろしくお願いしま————す

初めまして、今日は、今晩は、お早うございます。
挨拶はこれにてどの時間帯にも対応できるでしょう。
では最初に、自己紹介より前のこのタイミングで先に謝罪します。
初めましての方はスルーして構いませんが、俺は衝動的にストーリー書くと書きたくなる性格ゆえ……
やたらと掛け持ちが……しかも完結経験無し……
よって、またしても衝動書きしてしまって申し訳ございません。

さて、前置きはこの辺りでプロローグと作品紹介を、と。

         ———プロローグ 別たれし道———


 あの日全てを失った。故郷、肉親、愛した者、つまりは自分たちが大切にしていたものを全て。ただ、ただ平和に暮らしていただけの村に、ある日突然召喚獣が現れた。魔力を糧として異世界より現われし、神のように強く悪魔のように残忍な轟龍。
 サモンと呼ばれる魔法を使わない限り、それは現れる筈が無い。つまりは、それは人為的に引き起こされた事件。決して事故ではない。ただしその事を彼らはまだ知らない。
 これは全てを失った少女を中心として廻っていく話。舞台と時代は、戦火に包まれている。

         ■■■第一の依頼・ドラゴン一体の討伐に続く■■■


実は戦争[=War]とかいうタイトルから察するに戦争が絡みます。
きっと戦争パートが95パーセント以上を占めるでしょう。
できれば何が起きても暖かい目で許して下さい。

大分長いですがもう少し続きます。

基本的に依頼では戦闘シーン等は書きません。作戦では書きますけどね。
一丁前にストーリーは真面目に考えました。
ただ、自分で考えたから自分では面白いか判断できないです。
面白いとか言ってくれたらホッとしたり?
やっぱり自分の自己紹介抜きで良いかな?

では、始まり始まりー

第一の依頼・ドラゴン一体の討伐
>>1>>4>>5>>8
第一の作戦・機密文書の入手
>>9>>10>>14>>17>>18>>19>>22>>23>>24>>25>>26>>27>>28

キャラ紹介、ネタバレ嫌いなら見ない方が良いです>>20

Record

12/25 作品生成 『第一の依頼』開始(既完)
1/7 『第一の依頼』開始(現在)

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Re: Magicians' War——2/25最新話です—— ( No.24 )
日時: 2012/03/01 20:26
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Bt0ToTQJ)


「やったのか、フミツキ?」
<ああ、もう大丈夫であろう。ただ、キーごと焼き尽くしてしもうたのは我の短慮だ。それはすまない>
「気にすんな。俺が気を抜かなかったら良かったんだよ。ありがとな」

 耳元にフミツキの勝利を宣告する声と、炎系の爆発音がこだましたことから、決着がついたことをナガツキは予測した。確認するように、おずおずと尋ねてみるとフミツキは余裕そうに何とかなったと答える。安堵の溜め息を吐きながらナガツキは例を言った。
 それを見て、聞きながら隣にいるカンナヅキも安心する。コクビャクの相手をしていたのはナガツキ一人に限らず自分とて同じ、責任はナガツキだけにある訳ではない。属性的に不利だったとはいえ、役に立てなかったのが情けなく、少々ナーバスになっていた。
 しかし、仲間の好フォローのお陰で何とかこちらの侵入が露見するような事態には至らなかった。だが、気を抜いてしまわないように叱咤する。今このように足を引っ張ってしまったのだから次こそは役に立って見せると。過ちて改めざる、それこそが過ちだと古い古い昔に儒家も言っていた。
 ふと、カンナヅキはある事が気にかかった。ヤヨイ、ミナヅキ、ハヅキのグループだ。ウヅキ達は、多少諍いがあったとはいえ、交戦状態に陥り、勝利した。フミツキは自分たちの失態をフォローしてくれた。だが、残りの三人に至っては音沙汰が無い。すぐさまやられるようなことは無いだろう。しかし、あのハヅキがこうやって黙っているのは少し妙な話だ。
 ハヅキが静かなタイミングは大体二つ。一つは落ち込んでいて皆から鬱陶しいと言われる状態だ。正直ああのいじけている様は見ていてイライラとするといつも言われている。その内の一人がカンナヅキだ。うじうじしているのが苦手な彼女は、いつも寡黙なミナヅキが少しとっつきにくい。確かにキサラギもおとなしいのだが、彼女は話せば返してくれる。
 そしてもう一つの可能性、これだとあまり信じたくない上に、信憑性も薄いのだが強敵と交戦中だ。信憑性の薄い理由は単純、魔法を撃ち出す時や炸裂する時に放つ効果音が聞こえてこないのだ。
 しかしそれ以外では本当に煙たいほどに騒がしいのでやはりどちらかが当てはまるだろう。だが、共に行動している二人がハヅキをそんなに落ち込ませるような辛辣な言動を取るとは思えない。やはり、敵と交戦中だろうが何があるというのだろうか。
 しかしそこでハッと気づくことがある。ここはノロジーの本拠地。ノロジーは防御に関するシステムはピカイチ。小さな要塞のセキュリティはジェスターの大要塞と同程度のクオリティだ。攻撃面では数値がひっくり返るせいで両者に均衡が保たれているのだが。
 ノロジーの兵器の一つにMCSと呼ばれるものがある。かねがね噂にはなっていたが目にするのは初めてだ。MCS、マジックキャンセリングシステムと呼ばれる機械だ。属性同士が打ち消し、打ち消される性能を用いたシステム。設定した属性の波長を飛ばすことで相手の魔法を無効化する。旧型には危険性の少ない光属性のみ搭載され、光属性のみ打ち消せなかったが現在は闇属性も搭載されている。
 無属性魔法は、それがないからと言って何属性にも干渉されない魔法、そういう訳ではない。むしろ全ての属性に干渉し、干渉される不便なもので、例え相手が風属性でもその効力は及ぶ。

「ハヅキ、ミナヅキ、ヤヨイ! 聞こえてるか!? くそっ……反応がねぇ」

 カンナヅキが心底忌々しそうに舌打ちを鳴らす。ミスが二個も並んで続いたのでくしゃくしゃと髪の毛を掻きまわす。

「カンナヅキ、多分あいつらなら大丈夫だ。最悪ハヅキならワープで脱出できる」
「だけど、それが無効化されてるんだぜ? どうやって……」
「MCSは別名魔法障壁。形状は壁だ。だから今の状況はあいつらと俺らの間に壁があるだけだ。実際フミツキとは連絡が取れてる」
「そうか……なら良いんだが」

 先を削ぐ、そう言ったナガツキはスピードを上げる。存在を勘ぐられる前に部隊長を探しだしてカードキーを奪い取らないと後後面倒な事になる。上の方から強力な魔力反応がしているのは二人ともずっと感じていた。重苦しく、押しつぶすような濃厚な魔力。龍にまつわるようなこの感覚、例の龍人、もしくは部隊長のリュウヒだろう。
 どちらにしろこれはかなりの強敵だと察せられる。もしかしたらサモンで呼び出すような高等魔獣の可能性もある。だとすると二人ではどうともならない可能性がある。
 瞬間、ぷつりと上からの魔力反応が消えた。何事かと思い今度は意識を集中して探ってみる。しかし、何一つ気配が感じられない。ここには何かあると感じ取ったナガツキは考える。確かに高出力から一気に魔力を押さえ込むことも可能だろうが、それならば靄がかかるような取りこぼしの残存部分が現れる筈だ。
 それすらも感じられないほど消えたとすると、上にはこちらの探知能力を阻害するようなスキルや機械を使ったとなる。そのようなことをする方法をさらに考える。しかし答えは案外、簡単に出るものであった。

「そうか……MCS。上にあるんだ、MCSが。それで、一気に遮られて……。だったら上にいるかもな」

 魔力を無効化するシステムは、ジェスターと同時にノロジーの首をも絞める。ノロジーに所属する使者の扱うモンスターの攻撃の力の源も、魔力だからだ。だから無効化システムは壁のような形状を取っている。おそらく上の階にはそれが至る所に設置されているのだろう。
 魔法障壁は視認はかなり困難だ。かなり色が薄く、向こう側の景色が見えてしまうほどだ。だが、特殊なゴーグルをかければとても簡単に見ることができる。
 きっとそのゴーグルを向こうの兵隊は大半の者が持っているのだろう。

「もしかしてあいつら……大分苦戦してるんじゃねえの?」

 だとすると、こんな所でじっとしていられない。さっき探った感じでは真上の階層だったと二人は思い返し、アイコンタクトを取る。共に見粟っせ手頷き合う。好戦的な表情を取ったカンナヅキが炎魔力をその手の中に集める。それに便乗してナガツキも光と闇を混合させていく。ぶつぶつと詠唱が始まる。間違えて仲間を消し飛ばすことのないよう、威力は控えめ。
 最初にカンナヅキが炎で作った槍を放った。ファイス、炎で作ったラン“ス”だ。天上に突き刺さった瞬間、彼女は空中で十時を斬るようなアクションを取る。槍に込められた魔力が膨張し、炸裂。天上に穴を開ける。
 やはり上では誰かが闘っているようで、ちらちらと炎や雷、水が見えた。

「煌影一式・不死鳥<フェニックス>」

 白と黒の混沌とした鳥型の魔法が、天井を貫通し、人が通れる程度に穴を広げる。そこには、ハヅキとミナヅキとヤヨイ、そして全身を深紅の鱗で覆った人型の何かがいた。




                                              続きます

Re: Magicians' War——3/1最新話です—— ( No.25 )
日時: 2012/03/08 18:19
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: .P6acy95)

「なっ……人……? でも鱗が……! ナガツキ、こいつもしかして……」
「落ちつけ、多分こいつは龍人じゃない。トップが動くのは大体最後だ。……だとすると、こいつは何だ?」
「人型の龍だってさ。さっきミナヅキから聞いた」
「ハヅキ! お前ら大丈夫か?」
「何とかね。でもこいつ、強いよ」

 その、人の形をした龍に、カンナヅキは酷く狼狽する。何せ、自分たちが最も注意を払っている、この建物の中で最も実力と権威を兼ね備えている敵国の兵士、それが龍人だからだ。それならば相当に不味いと、眉間にしわを寄せて注意深く観察する。
 しかし、ナガツキはすぐに龍人ではないと判断する。見せられた写真に映る者と違う上に、こんな下の階層にボス直々に下りてきて闘う筈が無いと。それに同意するかのようにミナヅキは頷き、ハヅキが説明する。
 実は龍人は確かに体が鱗で覆われているが、それはほんの一部。鱗が無くて露出している部位もあるという話だ。全身くまなく硬いそれに覆われているのは純血の龍程度だ。だとすると、目の前にいるのは本物の龍。
 ミナヅキはよく、教室で一人で本を読んでいる。そのせいか、いつも知識を蓄え続け、こういう時にいきなり大活躍する。それにしても、この国にはかなり、異世界のモンスターにまつわるものが出てくるのだなと舌を巻く。向こうからこちらに連れてくるためには、サモンを使う以外の方法を知らない。だが、サモンは固有“魔法”の一種だ。使者の国、ノロジーが使える由もない。
 だとするとどうして召喚しているのだろうか。サモンを使う大魔導士が敵国に味方しているというのだろうか。その疑念をナガツキは振り払った。彼の身近にも、その魔法の術師はいるのだ。不用意に疑いたくはない。
 そんなナガツキの胸中を察してか、こっそりとミナヅキは補足を入れ、答えを示唆する。

「そう言えば、ノロジーの首都、グランデンバイナには異世界とこの世界を繋ぐ“ゲート”が、あるらしいわ」
「なるほど、そういう事か。心中お察しありがとさん」

 人型の龍、それが目の前の敵だ。だとすると、やはり一つ気がかりな点があった。いくら“ゲート”があると言っても、この個体は珍しいだろう。数はそうそういない。だとすると、一つの可能性が現れる。それを確かめるために、きっと人語も解せるであろう目の前の魔獣に問いかける。

「お前もしかして……龍人の父親か?」

 龍と人のハーフの場合、どちらが父親かで特徴が違う。どちらかと言うと、母体の影響を強く受けるのだ。写真は見せられているので、ここの長であるドラグニッシュの面は既に割れている。人間寄りだった。それは、父が龍であることを指している、それも、人型の。

「ほう……よく感づいたな」
「確率論だ。可能性がかなり高かった」
「うえっ! 喋った!」

 目の前の奴が嫌味な笑みと共に答えを返し、ハヅキが仰天する。まさか魔獣が口から言葉を発するだなんて、口にせずとも言いたい事は皆にも分かった。

「少女、貴様は馬鹿か。何ゆえの人型だ。人とは、二本の脚で歩き、道具を用い、言葉を従える者。それに近い儂とて、言葉を出せる」
「随分と高齢なんだな」
「安心せい。我らは人とは違う。年をとっても衰えはせん。衰えるのは、死ぬ前よ」
「そうかよ。あんたが、部隊長じゃないことを願うぜ」
「何故ぞ」

 そんなの、分かり切ってるだろう、それだけ言い残してナガツキは左手に、光属性の弓矢を錬成した。かなり簡易的で、形を象っているだけだが、矢を放つには充分。きりきりと、音を振り絞り、弦を引き絞る。
 もしも部隊長であれば、カードキーを持っている。すでにコクビャクのカードキーが焼き払われた後、残り二枚のそれはかなり貴重だ。それを壊さないように、闘わないといけない。

————ただ倒すだけなら、楽なんだよ。


 手元の光属性の矢に闇属性をミックスする。炎や水などの芸が取れない以上は、こうするより他は無い。きっちりと狙いを定めて撃ち抜かんとする。破邪の槍が、天を翔ける。
 それを見た龍は、「大層珍妙な遊戯だ」と得意げにして、姿を消す。だが、高速で姿をくらませても関係無い。彼らにとってはすぐに魔力で探知すれば良いだけの話だ。

「気をつけてナガツキ! MCSのせいで感知できない!」
「なっ……忘れてた……!」

 すぐさま辺りを見回すも、どこにも姿は見受けられない。焦りはさらに、視野を狭める。上空という選択肢を消していた。定石であるというのに。
 フローリングに映る影にハッとしたナガツキは、さっきまで隠していた羽を広げて悠然と舞う彼の姿を捉える。彼のブレスの発射準備は整っていた。

「最後に、自己紹介だ。儂の名前はリュウヒ。しがない一人の、部隊長じゃ」

 口ではなく、両手の間で圧縮した、高圧縮の炎に転換した魔力を凝固させる。暗黒の闇が、炎の中に溶け込む。ドラゴン固有の合成技だ。星の数ほどいるモンスターの中でも、ドラゴンがかなり恐れられる理由として、炎と闇を混ぜられることがあげられる。その二者は破壊の象徴、王たる種族にふさわしいものだ。
 同様に、違う種族にもほとんどの属性を打ち消す光や闇を混ぜられるモンスターもいる。しかし、光と闇を混ぜられるのは、一部の限られた魔法使いだけなのだ。

「水晶の柱、強固たる意志、指し示すのは……」
「ダメだミナヅキ、間に合わない! だからこれで行く」

 急きょナガツキは胸元のブローチを擦る。円を描くようにして、磨くように。突如、それは瞬く。込められた魔力が、中から迸る。光の紐は絡まり合い、ナガツキを護る繭となる。
 ブローチの石には常日頃からナガツキが少しずつ、万が一のために魔力が蓄えられている。白黒二匹の龍の絡み合う、その中心に。当然ブレス程度簡単に無効化する。荒れ狂う炎が晴れたそこに、何事も無くナガツキは立っていた。

「何じゃ。終いかと思うたのに。儂もまだまだ青いな。未だ決せぬ勝負が終わったなどと言うなど」
「お前さっき、これを珍しい遊戯とか言いやがったよな……」
「そうじゃ、それがどうした」
「それは、許さない。これは俺の希望を指す魔法だからだ」

 力強い眼光で、殺気立てて睨みつける。刹那、戦慄を感じたリュウヒはたじろぐ。若くしてこんなにも気迫を放つ人間を見たのは初めてだった。

「俺は龍族が嫌いだ。俺の生まれた故郷は滅ぼされた。異世界の王、最強の龍に」
「そうか。だが儂は知らぬ」
「必死に鍛錬したんだ。一魔法使いが勝てるために。そうして手に入れた希望だ」
「儂は知らぬと言うておろう」
「この石には、魔力を打ち消す力がある。だが、この混合属性に至っては、押しとどめて保存するしかできない。いかに強力な石であろうとも、封印が精一杯なんだ、相反する二属性の力は。それを、お前ごときには馬鹿にさせない」

 先程使ったのは、溜めこんでいたほんの一部。しかし今彼は、溜めている魔力を全て引き出そうとブローチに微弱な魔力を加える。
 それに呼応するようにして、封じ込められた力が全て、解放される。漏れだすようにして、魔力は段々と部屋中を立ち込めていった。


続きます

Re: Magicians' War——3/8最新話です—— ( No.26 )
日時: 2012/03/14 17:11
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Uo0cT3TP)


「……何じゃ、この感覚は……?」
「どうだ? 軽く身の毛がよだつだろう? 俺だって慣れちゃいないさ、この感覚は」

 部屋中びっしりと立ち込めた魔力に、思わず背筋に悪寒が走る。それは、ナガツキ一人だけの話でも、敵対しているリュウヒの話でも無い。この部屋、もしくはこのフロアにいる全員だろう。可能性として上げるならば上下の階層にも届いているだろう。莫大な量の、光と闇の混合属性は、辺りの人に不快さを与えるものらしく、カンナヅキを筆頭とする仲間の四人も冷や汗を流している。それどころか、恐怖からくる寒気に思わず体を震わせてしまうほどに。
 それにしても、常日頃から溜めていたとはいえ、どれほどの力をちっぽけなブローチに込めたのだろうかとリュウヒは危惧する。こんなものは一朝一夕で錬成できる量を遥かに上回っているからだ。最低でも一週間、能率の悪さによっては一年やそこいら。本当に、一日にちょっとだけ込めていたらやはり年単位の時間を必要とするだろう。

「して、その魔力には何の意味がある? 聞いておるぞ、その二属性の扱いにくさは。意のままに御することなど到底適わぬだろう。その上その多さでは、味方すらも巻き込むんじゃないか?」
「うるせえよ。使える者にしか分からない工夫があるんだよ」

 実は、二属性を混ぜる方法によっては、コントロールすることは容易い。まず、コントロールしづらいタイプは、普通に錬成するタイプだ。同量の光を闇に溶け込ませる。すると、威力は凄まじいが小回りの利かない大雑把で煩雑なものとなる。次に、多量の光に段々と闇を乗せていくパターンでは、造形能力が増す。天井を撃ち抜いた鳥型の魔法や、リュウヒに向かった射た矢が例に上がる。そして、未だに実戦では使った試しはないが、闇属性に少しずつ光を上乗せする場合だと、制御が用意となる。
 どうしてそのようなことが起きるかは、まだ解明されていないが、仮説ならば立っている。万物の形とは、光を持ってようやく知ることができる。色彩を決定するのも光だ。そして、闇属性魔法とは、確かに攻撃力も高いが、本来の使用目的は、相手の意識を混濁させることだ。刹那などの、意識を奪い、強制的に気絶させるようなものがサンプルとして挙げられる。意志や意識を司る属性、よって、己の意思どおりに扱いやすいのだ。

「フム……それは修行の賜物か。文書を読んで見つけた訳でもあるまい」
「そりゃそうさ。かつての使い手は戦場に引っ張りだこだぜ? 俺が普段のんびりしてるのは信じられないくらいさ」
「貴様の私生活など、儂の知るところではない」
「あんたその言葉気に入ってんの? 自分の知った事じゃあない、ってさ」
「訊いたところで、意味があるのか?」
「無いね。じゃあ、俺の持つ希望、そろそろ喰らってもらうか?」

 巨大な蛇が地面を這いずるような、薄気味悪い重低音が響く。魔力が空気を揺らして鳴動音を上げるのを聴くような日が来るとは、彼は今まで想像もしていなかった。それゆえに彼は、すぐさまこの状況に危機感を覚える。自分の持つあらゆる手段で、どう挑もうと目の前の青年には決して敵わないと。齢百はとうの昔に越えているのに、まだ二重にも達していない魔術師に敗北する時が来るとは、彼は予想だにしなかった。よって、この状況に陥り、彼の持ち合わせる選択は二つ。戦死するか、尻尾を巻いておめおめと逃げ帰るか。
 この場合、彼は後者を選んだ。何も一々この場で命を落とす必要性も無い。ノロジーという大国に、従う必要性も彼にはない。ならば翼を広げて逃げるだけだと、思い立つ。しかしこのまま目の前の連中が逃がしてくれるとは、到底思えなかった。
 交換条件は無いものかと、必死に考察する。彼らの目的は、彼の上司であり、息子である男から機密文書を奪取することであろう。それが分かっているならば話は簡単だ。上にいくための鍵でも渡せば良い。

「小童、鍵ならくれてやる。見逃せ。儂は貴様に勝てる気はせぬ」
「なっ……正気かよ?」
「死ぬ気は無い」
「なるほどな、さっさと鍵を渡しな」

 ナガツキがそう言うと、彼は翼を羽ばたかせた。勿論逃走用にだ。そのまま鍵を地面に投げ捨てるや否や、自前の腕力で壁に穴を開ける。真っ赤な鱗に包まれた体で、さっさと要塞から離れて行ってしまった。この光景に五人はあっけらかんとしている。ここまで恥を捨てた逃走は、かつて見たことは無かった。
 予想外の展開に絶句した面々だが、急に我に帰る。キーを手に入れた報告を皆にしなければならない。耳元にふと、フミツキの声が響いた。

<ナガツキ、鍵は手に入ったのか?>
「ああ、とりあえずな」
<私達も一応カナタから鍵を奪ったのですがね>
「すまねえなムツキ。でも何とかなったぜ」

 喋りながらナガツキは、周囲にまき散らした魔力を、もう一度ブローチに回収する。中央の宝石の色合いが、力を吸収するごとに強まっていく。うっすらとしたピンクから、怪しくて妖艶な紫色へと。今、ムツキがカナタを倒した、それと似たようなことを述べたのでもう部隊長は残っていない。もう、残すは龍人のみだろう。

「じゃあ、七階で集合だ。先に行って制圧しておく」

 口々に他のメンバーから了解との言葉が出る。この時、建物の外での出来事を彼らは知らなかった。



                            ◆◇◆


「あーあ、逃亡なんて考えるから、こうなるんだよねー」

 要塞のすぐ近く、森の中で一人の少年が退屈そうに座り込んでいた。茫然とした目で、あらぬ方向を見ている。彼の座っているのは、氷の塊だった。その中には、必死で抵抗しようともがいたであろう、一体の龍。それは、明らかに人型だった。真っ赤な鱗の、人型の龍。羽を広げたまま、凍てついている。
 途端に森の中を風邪が吹き抜ける。急激な温度変化の気圧差によって風が生まれたのだろう。銀髪が風になびいて、深い藍色の目が垣間見える。

「爺さんも怒るだろうなー。苦労して呼び寄せた魔獣が、命惜しさの行動で死ぬなんて」

 彼の左手の甲には『F』と、白い文字で書かれていた。

Re: Magicians' War——3/14最新話です—— ( No.27 )
日時: 2012/03/21 15:32
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: tBL3A24S)


「さて、全員揃ったか?」

 辺りを見渡して、十一人全員が集結したことを察したナガツキは、確認のために訊いてみる。揃っていると、各所から声が上がる。訊くまでも無く分かっていたのは確かだが、それでも一応聞いておきたかった、その声を。手違いが無いように。知らない間に零れ落ちているのは、どうにも怖くて、淋しくなってしまう。
 そしてナガツキはリュウヒから、ムツキはカナタから、それぞれ奪ったカードキーを取りだした。現在彼らが立っているのは階段である。七階と八階の狭間にある、大理石の壁に囲われた螺旋階段。この辺りまでたどり着くと、要塞というよりも地位の高い者の住む豪邸のように思えてくる。実質、ここより上の階に行くのは要塞の中で最も偉い龍人と、三人の部隊長ぐらいだ。一般の兵士は上がれない。住んでいるのはさっき挙げた四人の者、そしてその他の高位獣だ。
 壁の向こう側から、強力な魔力が感じられる。どうやらこの仕切りとなっている障壁には、MCSのように魔法を無効化する能力は持っていない。ただただ強固な金属でできているだけだ。しかし、少し叩いてみて解る、これは少々の魔法で壊せるほどに脆い素材ではない。それこそ、各々の得意属性の最大級の威力での一撃でしか壊せないだろう。フミツキのファイボ、ナガツキの光と闇の合成魔法、キサラギのフリーズキャノンなどだ。
 できるだけ、向こう側の連中に存在を察知されないように十一人は魔力の放出を押さえ込む。ナガツキの合図で一斉に魔力を溜めこみ、キーを開けてすぐに突入する算段だ。手加減は無用、どうせドラゴンなどが配置されているのだろう。
 待ち受けているであろう強力な魔物たちを想像し、緊張の糸を張る。ナガツキが右手を上げる、同時に十人の魔力量も急上昇、左手に持つカードキーを、ナガツキはスキャナー内部にスライドさせた。ピーという、高い電子音の響いた後に腹の底に響くような鳴動音を上げてその壁は開く。その途端に、全員でできるだけ強力な魔法を、内部に撃ちこむ。強力な爆弾が炸裂するような音と煙、そして炎と衝撃が内部で混沌と入り乱れる。強化ガラスが砕ける鳴き声も、劈くように耳の中に入り込み、静まった後に、煙が黙々と、モクモクと立ち込めて、メラメラと可燃物が燃やされている。燃やされたものが弾けるような、パチパチと五月蠅い音を鳴らす。内部に、生物の気配は無い。死んだものの気配すらも無い。

「……ここまでたどり着くとは、どのような大兵団かと思えば、まだ青い十一人の小隊か」

 何かに呆れるようにして呟きながら、たった一人で煙の中にシルエットが現れる。おそらくは、たった今降りてきたのであろう。だとすると、相当な速力。皆一様に目を丸くする、なぜならその影がいきなり、部屋中立ち込める煙を一瞬で払ったからだ。
 凄まじい風圧が身体の前半分を襲い、その場に留まろうと下半身に力を入れる者も、後ろに押さえ込まれる。どうしても体は浮き上がり、物凄い突風に後ろに飛ばされそうになる。どうやら、特技は速さだけではないらしい。魔法の威力に思わずゾッとしてしまう。
 風属性魔法は何属性相手にも強くなることはないので、class/seasonの中で使いこなそうと考える者は中々いない。唯一詠唱破棄を習得しているのはムツキだ。他の者はとりあえず使えるという程度。ただし、ナガツキ一人だけが苦手だ。
 煙を払った正体は、当然のごとく龍人。リュウヒと同じ赤い鱗が、側頭部と両腕、両足を覆っている。きっと胴体の一部も覆われているだろうが、服のせいで見えない。手元で渦を巻いているのは空気だろう。きっとこれは風属性の攻撃。

「えっと……あなたが龍人?」
「だとしたら、どうするつもりだ。ここに来た目的はなんだ?」
「機密文書の入手、分かっておろう」

 先陣を切って、話を斬りだしたのはハヅキ、相手が龍人であるかの確認を取る。濁すような答えで、しらを切ったようだが、きっとその回答はイエスだろう。そのハヅキを補足するようにフミツキが挑発するように吐き捨てた。龍人、ドラグニッシュの眉の端が数ミリ動く。権力者の割には感情的な人間のようで、所詮は闘いの中に生きる者かと納得する。
 ぐだぐだと話し合いを続けるつもりは毛頭ない、二人が会話を続けるうちに後ろの方でミナヅキは準備をしていた、勿論戦闘の。人差し指と中指を伸ばし、ぴったりと引っ付ける。他の三本の指はぴったりと折りたたむ。二本の指の間には一枚の呪符。行書体の漢字で、『浄化聖水』と、墨で書かれている。
 途端に、魔力を込められたお札は弾け飛び、その姿を消失させる。変わりに、ミナヅキの周りには小さな水弾が六つ現れる。これは、後の防御のために置いておくストック。次は攻撃の準備、それはカンナヅキにバトンパスする。
 もうすでに準備なんてとっくにできていた彼女は、左手を龍人に向けた。素早い動きに、前髪が赤と青の瞳の前で揺れる。

「アクアラ!」

 左手から、水属性に属性転換した魔力を放出させる。とてつもない水量のそれらは、空気中で螺旋運動を始める。その姿は、さながら海上に浮かぶ巨大な渦巻き。強大な水圧で、押しつぶし引きちぎる魔法。
 しかしそれに対してドラグニッシュは、リュウヒ以上に落ち着いていた。いや、どちらかというと落ち着いていないと可笑しい。言ってしまえばアクアラは、威力こそ高いがただの水属性魔法。光と闇の合成魔法よりも恐怖は薄い。それだけではない、階級がリュウヒよりも上の龍人、つまりは部隊長よりも強いはずのドラグニッシュだ。恐れる必要どころか、焦る必要性すらない。
 一つ、溜め息を吐き出す。そして、息を大きく吸う。体内でその吐息に闇と炎の力を孕ませる。そうして、膨大な熱量を持ったブレスを口から吐き出した。墨で空気中に塗りつぶすように描いたかのような、真っ黒な炎。透き通る青の魔力は、どす黒い魔力に塗りつぶされる。蒸発して、霧となる。
 それでも炎の威力は収まらず、突き進んでくる。これに対応するために、ミナヅキは控えていた。左手首の周りで待機している六つの水の球体の一つが、彼女の眼前に現れる。光属性の混ざった、鏡のようなその水は、ミナヅキの口元を写す。水は彼女の苦手属性だが、光が混ざっているので扱いやすい。

「展開、薄膜・水狼の毛皮」

 彼女を中心として、十一人を水のバリアが包み込む。炎はこれで完全に中和されて、無力化される。霧が辺りを立ち込めた。
 これにて、真剣にこの作戦の最後になる筈だった、闘いが始まる。

Re: Magicians' War——3/21最新話です—— ( No.28 )
日時: 2012/04/02 18:51
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 8Sk6sKy2)


「目暗ましが通用すると思っている所が甘いな」

 最初の登場時、爆炎を払ったのと同様に、風属性魔法が周囲一帯の霧を薙ぎ払う。ほとんど熱湯のような霧なので、龍人のように鱗で覆われていないclass/seasonにとってはそれだけでもう攻撃だ。それでも、弛まぬ鍛錬の成果か、その程度で根を上げるような者は居ない。それどころか、負けていられないと感情を高ぶらせる。
 一切戦意を削がれていないその姿に、龍人は今度は感嘆する。ただの青っ白い少年少女では、決してないのだと。一つの敵として認識出来たのか、彼は余裕を持った表情から緊迫した表情にその顔を変えた。一人、姿が消えているのに気付いたからだ。とりあえず十一人居たところまでは覚えている。それが十人に減っているのだ。
 定石と思われる後方に、龍人は振り返った。予想通りそこに居たのは、着物を着た青年だった、右手には、蒼い強力な炎。空気中の微細な塵が、瞬く間に黒い灰となって散って行くのを見届けて大体の威力を悟る。強固で熱に強い龍の鱗といえど、あの熱量には耐えきれないと本能が告げていた。
 背後に回り込んだフミツキの手元から球体状の蒼炎が放たれる。速度は速いとは言い難いが、最短距離で進んでくる。躱わさないといけないだろう。即席で作った水魔法ならば、瞬時に蒸発させられる。闇や光でも、おそらく燃やしつくされるだろう。顔面を狙うその炎球を、上体を逸らす。多少の熱に耐える鱗を貫くほどの熱気が、肉を刺してくるのを感じた。触れてもいないのにこの威力、凄まじいものだと呆れる領域にまで至る。しかしそれでも、回避は成功した……筈だった。

「ハヅキ、準備は出来ておるか?」
「詠唱完了! いつでもOKよ! 固有魔法、“ワープ”!」

 蒼い球体の真正面に内部を闇に支配されるワームホールが現れる。その空間に吸い込まれるようにして、炎は消えてしまう。
 何をしたいのかさっぱり分からない龍人は、放たれた言葉から戦略を考える。外れた場合に自分たちに襲ってこないようにするためには、元々撃つ方向を工夫すれば良かっただけの話だ。それに、消滅させる類の魔法ではない筈なのだ、ワープと言うからには。
 五感を持てる限り敏感にさせる。聴覚、視覚、果てには嗅覚まで。焦げ臭い臭いが右側から漂ってくる。大気を焦がす音も耳に届き、視線を右に走らせるとそこにあったのは先程回避した蒼い炎。
 さっき反応できた距離よりも遥かに近い距離から放たれたせいか、もうすぐ目の前にまで迫っていた。舌打ちをしながら、少々のダメージ覚悟で左手で弾き飛ばした。
 それでもダメージを軽減するために、強力な裏拳で一瞬で弾いた。部隊長との四人だけで行う作戦会議室が、さらに破壊される。ただでさえ焦げ付いているというのに、もはや次の一撃では蒸発してしまった。
 肉の焦げる嫌な臭いと、左手の甲を襲う鈍い痛みに顔をしかめる。一瞬触れた程度で大火傷を負う程とは、彼の想像以上だった。

「あっぶねー……失敗してたら私が死んでたよ」

 冷や汗を浮かべて身震いするハヅキに、ミナヅキがフォローする。その時はさっきのブレス同様に自分が護っていたと。
 それにしても浮かれているのか落ち着いているのかよく分からない連中ばかりが並んでいるなと、龍人は妙な気分になった。
 今度は自分から仕掛ける番だと、不敵に微笑む。先程体内で錬成した炎と闇の混合属性の魔力を、掌に集める。細く長い槍を一本錬成する。目の前の連中の表情が、次々に緊迫しているのを目に収めた彼は、一つの違和感を覚えた。一人だけ、口元が動いているのを。ちょっと茶色っぽい髪の毛の、黒い瞳の少年。

「不可視は……無敵」

 途端に、彼の姿が薄れていく。足の方から幽霊のように成って行くように、景色に溶け込んで行く。透明になって、見えなくなる。果てには頭部まで消えてしまいそうなその瞬間、ポツリと呟いた。

「“インヴィジブル×インビンシブル”」

 動揺する龍人の脇腹に鋭い蹴りが入る。靴の硬い感覚がするから、蹴りだと判断したが、確証は持てない。だが、かなりの威力であり、何か炎辺りの属性でブーストを掛けたのだろう。
 すぐに判断する。インヴィジブルと言っている辺り、周りから見えなくなる効果なのだろうと。ただ、その程度なら周囲一帯を薙ぎ払えば充分だと、十人の方に向き直る。未だに集団で塊続ける馬鹿のような奴らに、さきほど作り上げた黒炎の槍を投げた。
 瞬間、仲間思いであるのか、さっき姿を消した彼が現れる。着崩した制服からはためくシャツは、炎に当てられて少し縁が焦げていた。
 あのまま姿を隠して居れば良かったのにと、龍人は溜め息を吐く。人のために己の身を差し出すなど、理解の外だ。ニヤリと不敵にもう一度嗤った彼はもうすぐ焦げ死ぬであろう少年に冥福の言葉を心の中で捧げた。

「不可視は無敵、“インヴィジブル×インビンシブル”」

 今度は何をしようと言うのか、攻撃の目の前でウヅキはもう一度さっきの固有魔法を発動する。しかし、今度は彼の姿が見えなくなることはなく、それでも誰の表情にも動揺は浮かんでいなかった。
 槍が彼の体に直撃する。まずは一人始末できたと思ったのだが、おかしい現象が起きた。いつまで待っても彼を槍が貫く気配は無い。それっどころか段々、槍の方が短くなっていっている。何事かと思った龍人は観察する。強力な魔力が彼の体内、そして体外から体を護っていて、攻撃を弾いている。いや、そもそも体構造が変わっているようで、いかなる攻撃も受け付けていなかった。

「どういう……ことだ?」

 この日初めて、龍人から目に見える動揺を拝むことができた。



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