ダーク・ファンタジー小説

Re: 【シリアス・ダーク】memorys…【短編集】 ( No.1 )
日時: 2015/09/21 20:45
名前: Re:rate (ID: UcGDDbHP)

一作目。

主人公の名前は斎藤秋。もう一人のキャラクターの名前は明智美柑。読み方などは読む内に分かります。
文才やストーリー構成のセンスには乏しいですが、少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。






『写真部の恋』


昼食を終えた昼下がり。秋はぼうっと屋上から空を見上げていた。
もう授業はとうに始まっている。それでものんびりとした空気と雲一つない晴天、なんとも言えない心地良さから彼はその場を動こうとはしなかった。
秋は写真部の一年だ。体験入部の際に先輩達の撮った美しい風景や人物…その全てに魅せられ、入部を決めた。

『君は君らしい、自分が納得出来るものを撮れば良いんだよ』

入ったばかりの当初、不安で一杯だった秋にそんな言葉を贈ってくれた部長の事を、今でもずっと覚えている。
だがもう三年だった為、は大学などの受験の事もあり退部した。それでも秋は、その時の先輩の笑顔が忘れられなかった。

「あれ〜?君、もしかしてサボり?」

ふと眠気が襲い、目を閉じかけたその時。
色白で茶色の長い髪の毛を風になびかせる、とても可愛らしい女の子の顔が秋の目の前にあった。
よく見るとそれはこの高校の制服で、それでも今の季節は秋。
それにも関わらず夏服という変わった格好の彼女は、秋の中に強く印象を残した。

Re: 【シリアス・ダーク】memorys…【短編集】 ( No.2 )
日時: 2015/09/22 09:54
名前: Re:rate (ID: UcGDDbHP)

一作目二話。






「サイトウ…アキ…?女の子みたいな名前だね」

近くに置いていた秋のスケッチブックに書いてあった名前を読んだのか、ふとそんな事を口にする。
写真部なのにスケッチブックなんて可笑しいと思うかもしれないが、美術の授業の一環だ。好きな風景を描くなんて骨の折れる課題を、秋は屋上でやろうとしていた。
絵が特別得意という訳ではないが、中学の頃の美術の成績はほぼ満点。美術部にも勧誘されたが、絵を描くのが好きという訳でも、何に魅了された訳でもない為入らなかったのだ。

「いや、シュウだよ。サイトウシュウ」

彼女の言った自分の名前に対して訂正すると、申し訳なさそうに苦笑いして、シュウ君ね、とそれを復唱した。

「あんたこそ…名前なんて言うんだよ」

此方も呼び方に困る為、名前を訊く。だがそんな物は建前にしかならなく、秋はただもっと相手の事を知りたかっただけだった。

「私?…アケチミカン、三年だよ!」

そういって笑う相手。漢字では"明智美柑"と書くらしい。
意外にも先輩だった美柑に、今までの態度を考えて少し申し訳なくなる。

「先輩でしたか…すみません」

咄嗟にそう言って謝ると、相手はにこりと笑う。
その様子に、秋の胸は高鳴った。顔が熱い。
何故この笑顔にこんなに惹かれるのか。
部長と似ていたからか?
いや、違う。

それ程に、この人の笑顔は美しかったからだ。

誰にも真似の出来ない、誰のものとも比べられない程にきらきらとして明るく見えた。
正直、この気持ちにこういう呼び名を付けて良いのかは分からない。このような感覚は初めてだったから。
だが、これが本当なら

秋は今、確かに"恋"をした。



Re: 【シリアス・ダーク】memorys…【短編集】 ( No.3 )
日時: 2015/09/21 21:24
名前: Re:rate (ID: UcGDDbHP)

一作目三話。





それからというもの、秋は午後になると毎日屋上に通った。
二人で会っては他愛もない会話をし、笑い合った。
相変わらず美柑の笑顔は綺麗だったが、たまに触れ合う手は冷たかった。
何度か、何故冬服に替えないのかと訊いた事がある。すると決まって、微妙な顔をしてはぐらかされるのだ。
そんな事を繰り返して、月日は重なった。
美柑と会うのは楽しかった。毎日色々な、違った景色を見られる気がしてわくわくした。
勉強を教わったり、秋の撮った写真を一緒に眺めたり。時には一緒に、心地の良い…でも少しだけ冷たい風に吹かれながら眠ったりもした。
秋は美柑の変わらない笑顔を見るのが、いつの間にか好きになっていた。
そしてそれを実感する度に、大切な日々だと改めて感じるのだ。

そんなある日だった。



美柑と会う時間も終わり、部室に来た時の事。
秋は顧問の出していた一枚の写真に、目を留めた。

「先生…これ…」

「ん?あぁ…これか?お前が入学する二年前の三年生だよ。あんまり人に言えたもんじゃないが…真夏日に死んだんだ」

顧問が何を言っているのか分からない。
目の前が真っ暗になり、気持ちがざわつく。

「あぁ、ちょうど今の三年…赤澤がいるだろう?そいつが一年の時に撮った写真だ。名前は確か…」

やめろ
頼むからやめてくれ

聞きたくない



「明智美柑、っていったか…?」




写真の中の彼女は、何時も秋に見せる眩しい笑顔で写っていた。









Re: 【シリアス・ダーク】memorys…【短編集】 ( No.4 )
日時: 2015/09/21 20:50
名前: Re:rate (ID: UcGDDbHP)

一作目最終話。








「明智先輩、幽霊だったんだな」

全てを知った秋は、美柑に話を持ちかける。
何故いつも夏服だったのか?真夏日に死んだ幽霊だったからだ。
冷たかった肌にも、今は何の疑問も持たない。

「あぁ…うん。まぁね…」

苦笑いを浮かべながらぽつぽつと話し出す美柑。秋はそれをただ黙って聞いていた。

「まだ赤澤君は写真部に居るよね?私、好きだったんだ。
だけど、赤澤君に好きな人が居るって知って辛くなったの。」

次第に美柑の表情が曇っていく。秋は美柑の手を握り、続けるように促した。

「ん…有難う。
その内、友達だと思っていた子には変な噂流されて…虐め、っていうのかな…嫌がらせとか色々受けてさ。
でもね、死ぬ…飛び降りるつもりはなかったんだよ?馬鹿らしくなって戻ろうとした時に足を滑らせただけ」

「そうだったんですか…」

「うん。それでね?落ちる時って全部が凄くゆっくりに見えるんだ。
あぁ、死ぬんだな…とかそんな実感が湧くだけで、死にたくないとかは不思議と思わなかった。
なのに私、もう二年間もずっと此処に囚われてるんだ…赤澤君が最後に撮ってくれた写真、ずっと思い出せなくてさ」

「それって…これの事ですか」

そう言った直後、秋は懐から一枚の写真を取り出した。
赤澤が撮ってくれたという、二年間も美柑を縛り続けていたあの写真を。

「…ッ…これ…って…」

美柑の目から、涙が溢れる。

「これ、明智先輩ですよね?赤澤先輩が撮った写真ってこれの事じゃないんですか?…あんたは笑顔の方が良い。それじゃないと、赤澤先輩に示しがつかないでしょう」

全てを思い出したように、涙を溢しながらも笑う美柑。
あぁ、これだ。そう秋は思った。

秋はやはり、この人の笑顔が好きなのだ。

「ぅん…そうだねッ…有難う、秋君…
そ、そうだ…!鉛筆、貸して…?」

何をするのかと疑問を抱きながらも鉛筆を渡すと、何やら壁の一角に書き込んでいる様子。
それを覗き込むが、見ては駄目だという合図をされる。
書き終わったらしく、鉛筆を返される。
すると、美柑の身体が足の方から順に上に向かって消えてきている。

「何これ…幽霊の成仏ってやつかな…?」

本人すらも驚いた様子だが、すぐに此方を向き直して軽く咳払いをする。


「ぇと…ちょっとの間だったけど有難うね。凄く楽しかったよ…ッ…!!」

そう言ってまた、泣きながら笑う。
すうっと消えていく相手に、秋は特別何をしようなどとは考えなかった。
ただやっぱりあの笑顔が忘れられなくて、その場に立ち竦んだ。
ふと鉛筆で何かを書いていたのを思い出してその一角に向かうと、其処には文字が書いてあった。

「はッ…此処まで本気にさせといて…何が幽霊だよ…ッ…」

思わず涙が溢れる。
その文字…言葉を、自分の中でしっかりと受け止める。


『最後に君に出逢えて良かったよ
本当に有難う、秋君

バイバイ』






少し肌寒い秋の空気に包まれた今日。
秋は





初めての失恋を経験した。