ダーク・ファンタジー小説

半死半生の冒険記 ( No.0 )
日時: 2020/04/11 10:06
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12739

初めまして。
最近まで読み専だったんですが、
ちょっと書いてみたいなと思い、書くことにしました

目次は、ある程度コメントが増えたら作ろうかと思ってます
文章力はあんまり自信がありませんが、読んでくれたら嬉しいです。

たま〜に、コメントの最初の部分に作者の呟きがあることがあります
コメントや感想は全然書き込んでくれても構わないです!是非!
見返した時に誤字脱字などがあった時はすぐに修正しますので、気にせずにお読みください……

※残酷な表現を使う場合がありますので、苦手な方はご注意ください

1コメに登場人物を書いてありますので、「コイツ誰だっけ……」ってなったら読んでください

目次
人物紹介 >>1 イッキ見用>>0-

プロローグ >>2-4 屋敷編>>5-7 ローナとの出会い >>8-10
悪魔との契約 >>11-12 冒険者の街 >>13-15 冒険者ギルドとクエスト >>16-18
アロマラット >>19-21 魔術師シーナ >>22-23 盗まれた魔法剣 >>24-26
パーティ結成(二人 >>27 閑話 >>28-29 バルク山 >>30-31

Re: 半死半生の冒険記 ( No.1 )
日時: 2020/04/11 10:01
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

こいつ誰だっけ……ってなった時用の人物紹介
登場人物 (新しく登場人物を出す時は追記します)

「アラン・ベルモンド」 16歳
アルベリク王国の子爵家でベルモンド家の三男
15歳の時、治すことは不可能で、かかった者は衰弱し続け、良くて2年で死ぬと言われている「魔血病」にかかった。
16歳の時に家を出て冒険者となった

「ローナ」 18歳………と本人は言ってる。
3大魔女の一人「常闇の魔女」
死にかけのアランに悪魔との契約を勧めた押し売りセールスマン

「くろ丸」 数百年は生きてるらしい
見た目は可愛い黒羊だが、本人曰く上級悪魔。
一人称が「僕ちん」と随分変わっている。アランと契約した悪魔

「エルマ」 21歳
冒険者ギルドの受付嬢
見た目もスタイルも◎。いつも行列ができる。

「バーン」 16歳
口は悪くて負けず嫌いだが、意外と素直。
炎を操る魔法剣を持っており、自分で炎剣のバーンと名乗っている

「ルーシー」 15歳
駆け出し冒険者。魔法使いで主なツッコミ役
世話焼きなトコがあって、アランとエリックの行動が危なすぎて仲間に入った(予定

「レヴァイヤ・デューク・レオニクス」 21歳
帝国騎士団の中でも優れた聖騎士隊の隊長様
ヤバいくらい強い。冒険者でいう所のLv7〜8ぐらい。ヤバい。

※また後で新キャラでたら説明増やすかもしんないです。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.2 )
日時: 2020/03/24 18:59
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)




──死んだほうがマシだ


そう嘆いた自分がいた



──絶対に生きてやる


そう叫んだ自分がいた





自分を笑うことしかできなかった


どうしても救えない自分がいた





けど、生きたいと思ってしまった






だから、抗った

Re: 半死半生の冒険記 ( No.3 )
日時: 2020/03/25 08:18
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

一言コメント「いちいち名前入れんのメンドクサイ……」

    ──────────────

『魔血病』
原因は不明。
体にある魔力が体外に漏れ、
生命活動に必要な魔力量が足りなくなる病気
数多の科学者が魔力が体外に漏れる原因、またはどこから漏れるのか
それはどうやったら治るのかと研究をしてきたが、何一つとして分かっていない
必ず死ぬ病気の代表例だ。




僕は15歳の時にソレにかかった。


運命という言葉が本当にあるとするのなら、
僕は誰よりも神を憎める自信がある



薄暗い部屋の中、ノック音が響く。静かにドアを開けて入ってきたのはメイド服を着たこの屋敷の使用人

「アラン様、お食事の用意ができました」

あくまで仕事。淡々とそう告げる使用人には、愛想なんてものはなかった

「……あぁ、花瓶の横に置いといてくれ。後、換気のために窓をあけといてくれ」

当然だ。むしろこんな状態の僕を見て、愛想笑いの一つでもできたら上出来だ。
機械のように言われた通り動くと、使用人は一礼してこの部屋を去っていった


痩せこけた頬、食べ盛りの少年にしては細すぎる腕
少し力を入れられたら簡単に折れてしまうだろう。

「………」


ヨロヨロと手を動かし、ベットのすぐそばの花瓶棚に置いてある食事を取る
パン・スープ・薄く分けられたリンゴ・水
貴族の食事にしては、あまりに質素な食事だった


食事中、上手く手に力が入らず、何度もスプーンを落としかけた


何もすることがなく、ボーっとしていると、
カーテンで閉められた窓の外から、賑やかな声が聞こえてくる

「……そういえば、今日はお茶会を開くってティナが言ってたな」

ティナ、というのは次女クリスティーナのことだ。
昔はよく遊んでいて、今でもたまに見舞いに来てくれる

Re: 半死半生の冒険記 ( No.4 )
日時: 2020/03/25 21:00
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

3時に開始のお茶会に向けて、たくさんの使用人がティーセットやお菓子を用意している
子爵のお茶会とは言え、同じ子爵、もしくは男爵の貴族が揃う。
貴族としての立ち振る舞いや、ドレスの豪華さなんかを見せ付けて、どれだけ金に余裕があるかを見せ付ける
ぶっちゃけ、僕が昔行ったお茶会はほとんどがそうだった。まぁ親しい貴族とのお茶会はもっとやんわりとしたものなのだろう

「……今の僕には関係ないけどね」

この状態では、出口にたどり着くことさえ厳しいだろう


昔はよく、稽古をしてくれた父上も、疲れた時に甘い物を用意してくれた母上も、時々見舞いに来てくれるものの、
兄にいたっては、元々あまり仲が良くなかったから、僕が魔血病にかかったと知った途端、腫れ物を触るかのような態度をしてきた

一度たりとも目を合わせてくれない


「…………」

しょうがないんだ。分かってるんだ。
これがどれほど理不尽な病気なのか、皆もう分かっている

3週間に一回、医師や白魔道士を呼んで見てもらっているが、全員が首を横に振って帰る
その金だって、何回も呼ぶだけで結構な額になるので、
2ヶ月に一回になった


分かってる、自分でも分かってる


「……分かっていても、辛いよ」

日に日に自分の力が弱まっていく感覚
暖かい熱が冷たくなっていく感覚
皆が諦めていると知って、一人突き放されたような感覚


「何で僕が」、なんて何回も思った。今でも思っている
どこからか湧いてくる悔しさに、拳を握る




腕を振り上げ、枕に向かって叩きつける

「クソッ!何でだよッ!!」


何度も


「──僕が何かしたのかよッ!!」




どれだけ力を込めて殴っても、羽毛一枚も飛び散らない

「……はぁ、はぁ」

僕は、このまま死ぬのだろうか
……いや、死ぬだろうな

1年たってこんだけ衰弱していれば、あと2ヶ月も持たないだろうな。


何かやれただろうか

何か残せただろうか


僕という命は、どれだけ軽い物なのだろうか



ベットの上で過ごした1年間、どれほど無駄な努力を重ねただろうか
薄暗い部屋の中で、風で飛ばされそうな命に必死にしがみつく僕は、どれほど見っともないのだろうか



このまま、僕というたった1人の人間が、世界から消える








ふざけんな



「………そんなこと」



そんなこと、認めてたまるか




「絶対に」





────生きてやる

Re: 半死半生の冒険記 ( No.5 )
日時: 2020/03/25 13:16
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

一言コメント「実は、さっきまでずっとプロローグやったんやで。」
第〜話「」って感じで書くので、目次のも見やすくなると思います

    ──────────────────────

第一話「計画」



夜の食事を終えて、再びベットにもぐり、
生きるための手段を考える



まず、このままでは駄目だ

死んでしまう

先週に医師たちが来たから次に来るのは2ヵ月後
それまでずっとベットで寝込んでいては待っているのは死のみ、そもそも2ヶ月耐えても助かるなんて微塵も思わない

最初は親も心配してくれたが、10ヶ月を過ぎた頃には僕が助かるという可能性を諦めて、形だけ僕を救う努力をしている
昼の食事のように、あまり僕にお金をかけない方法を探している
兄が提案した「あまり塩辛いものを与えない」「医師を呼ぶのは2ヶ月に一回」という提案も心苦しいフリをしながら承諾していた

そんな家に僕の未来はない

だから、この部屋から脱出する

出た所で、何も準備しなければそのまま野垂れ死ぬ
では、何か方法でもあるのかと言うと……


「……心辺りは、ある」


一歩間違えれば死ぬ、そんな方法だが。




最近、ずっと僕の体から漏れる魔力を観察していた白魔道士が、ある事を呟いたのだ
「……まるで、溢れてるみたいだな………。」

本人にとっては思ったことを口に出してしまっただけだろうが、その呟きは、
僕にとっては衝撃的なことだった。

体のどこかの小さい穴から少しずつ漏れて、段々と魔力量が少なくなり、やがて衰弱しきって死ぬ病気だ。
出てるだけなら、「溢れる」何て表現は相応しくない

だから、それから使用人に頼んで探した。



過去に魔血病になった者たちの、魔力量を。



使用人に頼んで調べてみると、魔術師、貴族が大半だった。
魔術師はもともと魔法への適正があって、魔力量が多い者がなる職業だ。
貴族は恵まれた血統から、生まれながらに何かの才能や、常人より魔力が多い者が比較的に多い。
と、感染した者はどれも魔力量が多くてもおかしくはない
一部、平民や詳細のよく分からない人も居たが、今の仮説で行けば、この人たちも魔力が多かったはず

「……まぁ、ただの仮説でしかないんだけど」


「なぜ魔血病になったのか」という、多くの科学者が挑んだ謎の答えは


「魔力量が多く、蓄積した魔力が本来なら流れるはずの魔力の道筋から溢れた」

魔力は体のどこでも流れており、魔力量の多い者の魔力の道筋はパンパンで
それが何かの拍子で破裂して溢れた、というのが僕の考えた仮説だ。

何故か誰もいないのにカッコつけた顔で言ってしまったが、あくまで仮説。
じゃあどっから漏れてんだよって話だが、知らないよ。それ探すの魔術師さんのお仕事でしょ。


長ったらしく言ったが、つまりは何が言いたいのかと言うと


「僕は魔力量が多い」


これで間違ってたらただのナルシスト。自分でも思った


結局、助かる方法というのは


「魔法を打ちまくって魔力量を最大限に減らす」

本末転倒と思われるかも知れないが、勿論考えて物を言っている


分かりやすく言えば、水が満タンに入った皮袋を手で持っているとして、
その皮袋の丁度真ん中に穴が開いたとする
当然水が漏れて、穴のの下ぐらいまで水は減るが、他に穴がないのだから、その穴より下は減ることはない。ということだ

それだったら、魔血病も魔力がある程度漏れたらそれ以上悪化しないんじゃないか。と思うのだが、
そんな簡単な話だったら「必ず死ぬ病気」なんて呼ばれてない。


白魔術師いわく、魔血病で漏れる魔力は、体外に出て行った魔力の穴を埋めようと魔力が集まり、また出て行く。
そんな蟻地獄みたいな連鎖が起こっているのだ。

だから、その集まる魔力さえ使い果たして、出て行かないようにする
単純だが、危険極まりない荒治療だ。

人間は、自力で魔力を作ることはできない。マナポーションだって、体にある魔力の働きを促進させて増やしているだけ。
だから誤って基盤となる魔力を使い果たすと、───死ぬ。


「………でも、これ以外に選択肢はないし」


この治療で死んだとしても、きっと遅いか速いかの違いだ。


残る問題は魔法をどこで撃つか、と、治ったらその後はどうするか、だ
魔法は貴族の者なら全員初級魔法を覚えるのが常識なので、一通り覚えている。
適正のあった属性の魔法は、中級まで。僕は炎に適正があったので炎の中級魔法はいくつか覚えている


「……これは、もう兄さんの庭でやればいいや。」

僕の数少ない楽しみだった食事を質素にした仕返しだ。
安心してください、炎は使いません。ちょっと水やりをするだけです。


この病気が治ったら、装飾品でも売って、どこか遠い町にでも行って気ままに生きよう。
……長い間ベットに縛られてたんだ。それくらい許されるだろう

実行は来週の伯爵様が開催するパーティの日。
当然僕は行かない、というか、行けない。
家に居る使用人も何人か連れて行くので、都合が良い
警備は門に2人と、屋敷の入り口に2人。
子爵の家はそんなものだ。まず、貧しい貴族には使用人も数えるぐらいしか雇えない。
屋敷の裏にある兄さんの庭は、警備の位置から遠いので、多少大きな音を出してもバレないはずだ

だが、見つかったら即アウト


自分に勇気づけるように、手を握る



「死んでたまるか」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.6 )
日時: 2020/03/25 22:21
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「え、閲覧数増えてなくない………?( ;゜Д゜)」
いや、更新はしますけども。

    ───────────

第2話「決行」



決行の日、
今日、僕が自分で自分の人生を変える日
絶対に成功させなくてはならない。そんな緊張のおかげで朝から意識がはっきりしていた

夜までは普段通りに過ごし、夜ご飯を食べた後に着替える
いつも通りに過ごせばいい

────────────────



「アラン様、食事の用意ができました」

何も警戒していない……、というより、無関心な使用人から夜の食事を受け取る
素早く済ませ、押入れから誇りかぶっていたある服に着替える


急所は硬い皮で守られ、それでいて機動性もある動きやすい稽古用の服だ


「……全然入ったな」

1年前の服だったので、着れるかどうか不安だった。
むしろゲッソリと痩せた分ダボダボだったが、そこまで機動性に影響はしないだろう。
ベルトである程度調節もできるので問題はない

旅に必要なお金として大銀貨5枚を腰にかけてある袋に入れ、護身用の短剣も、鞘を腰に引っ掛ける

おぉ、ちょっと冒険者っぽくなったのではないだろうか。
………こういうの、本当に久しぶりだな……。


「……って、そんな場合じゃないな」


窓の向こうから、両親やティナ達を乗せた馬車が門を通り過ぎるのが見える


屋敷には、警備と、数人の使用人しかいない。


数分たった後、僕は部屋から出た。
数歩歩いた時点で、すでに足はふらついている。


「……動けっ」


一歩一歩が小さく、数メートルが異様に長く感じる

壁にしがみつきながら歩き、手すりを使って階段を降りるが、
途中まで下りた所で耐え切れずに倒れ、転がるように階段を下りた

「がぁっ!!」



……裏庭まであと少しなんだ!!耐えてくれ!!!

「く、そ、ぉぉぉ」


全力で手に力を込め、何とか体を起こす。先ほどよりもっと不安定に揺れながら歩き、扉のドアノブを回す
唱える水魔法の感覚を必死に思い出す。魔法を使うのも1年ぶりなので、ちゃんと発動するか不安だが、
水の初級魔法、『水撃ウォーターショック』は比較的簡単な部類なので、恐らくいけるはずだ。

裏庭の中央まで歩き、誰も居ないのを確認し、腕を前にかざす。
腕に意識を集中させ、体の中から掻き集めるように魔力を搾り出す。


「水撃!!」

手に大きな水の球体ができるが、あまり速いとは言えない速度で飛んでいく


体から力が抜けていく感覚は消えない


「水撃!」

まだだ。
今度は水の量を増やして発動させる

「水撃!」

足がふらつく、が、まだあの感覚が消えない

「水撃!水撃!」

眩暈がする



「すいげ──「誰だ!そこで何をしている!」

!!?

不味い!警備に見つかった!
雲で覆われた夜空のおかげで、向こうもこちらもよく見えていない
裏口の扉の、反対の壁に向かってに向かって走る


が、


「ぐっ」

突然襲ってきた脱力感に足が限界になり、塗れた地面に倒れる


──追いつかれる。



こんな……、こんなことで終わってたまるかっ!!


「風撃!」


手に風を発生させ、無理やり体を起こす。
その勢いに任せ、全力で走る


壁まで走って再び風撃を放つ、地面に向けて強く。

「風撃!!!」


風の適正はないので、初級魔法を無理やり強くして撃っただけだ。


壁を飛び越え、着地をする際に再び風撃を放つ───が、風撃は出なかった
「!!?がぁっ!!」

発動するのに必要な魔力量がなかったのだ。


勢いを殺さないまま地面にぶつかる。先に出した右足は、地面に触れた時、変な音を立てて曲がった


「あああああぁぁぁ!!」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.7 )
日時: 2020/03/26 08:09
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「閲覧数1増えた………ッ!」
次から1コメントで1話にします。
文字数はだいたい3000〜4000ぐらいになるかと。

  ─────────────

経験したことのない激痛に思わず叫ぶ
苦痛で顔を歪め、折れた足を押さえる。

「……さっきまでポンポン出てたくせにっ」

適正じゃない風の魔法を強く撃ったせいで、通常より多く魔力を消費したのだ
急いで応急措置として手ごろなサイズの木の枝を靴に差込み、ズボンのすそを破ってその布で固定する。
不味い……、もたもたしていると出口から回ってくる警備兵に追いつかれる……

激痛を意識しないように手に力を込めて立ち上がる。足を引きずりながらとにかく歩く
裏庭の壁の向こうは森だった。夜には月光ぐらいしか明かりがなく、薄暗い。

「歩か、ないと………」

森を越えたら、草原があるはずだ。その草原を下ると、町が、あるはず……

──────────────

………どれだけ歩いただろうか。1時間、いや、少なくとも40分は歩いたはずだ

「おか、しいな……」

事前に調べた地図では、そこまで深い森ではなかったはずだ。
なのに、一向にこの森から出られる気がしない。

それに、さっきから視線を感じる。どこにもそんな気配は感じないが、不気味だ。
この道も、人が通れるくらいには間が空いていて、通れないこともないが、整備されたにしては雑すぎる……。


衰弱した体力はもう限界を超えている。足が時々痙攣して、倒れそうになる
「……くそっ」


朦朧とした意識の中、飛び出していた気の根っこに気づかず、足を引っ掛ける。
「ぐっ……」


急いで腕で体を起こそうとするが、もう体のどこからも力が出ない。
「………」

何度も腕に力を入れるが、今度はどう頑張っても力が出てくる気がしない。
うつ伏せの状態のまま、意識が飛びそうになる

「…………いたぞっ……!………捕らえろ……!」



かなり遠くから、警備兵の声が静かな森に響く





あぁ、ここで終わりなのか。
あんだけ入念に準備したのに、案外あっけないな。


………死にたくないな。でも死ぬんだろうな。


土を握り締めるが、起き上がれない。
このまま捕まって、死ぬまでベットにくくりつけられるのだろうか

怖さからか、悔しさからかなのか、目をから次々と涙が零れる




どんだけ足掻いたって、結局死ぬのに変わりはないじゃないか。
どんなに有名な医師を呼んでも、それは「死ぬ」という事実を強くするだけだったじゃないか
過去に魔血病にかかった人も、同じ気持ちで死んでいったのだろうか。

いや、医師や白魔道士を呼べない人たちは、「まだ助かる方法があるはず」という希望にすがることができる
それさえ知った者達にとって、ソレは、残酷なものでしかない。








「…………」


寝転がりって仰向けになる
何もかも諦めて、綺麗な満月をじっと見つめた




警備兵の足音が聞こえてくる。
後、数十秒もないうちに捕まるだろう



何度も湧いてくる悔しさに唇をかみ締めたとき




「─────やれやれ」




視界が、暗転した。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.8 )
日時: 2020/03/26 09:56
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第2話「ローナとの出会い」




熱が奪われていく感覚が消える。冷めた温もりが、暖かくなっていく。
久しく感じていない、自分の体温が、感じられる

失っていた、この感覚に泣きそうになる
ずっと浸かっていたい。これが夢なら、全力で寝続けてやる


しかし、それは外部からの刺激によって中断される
頬に何かを押し付けられているようだ。


「………ぁ」

目を開いて、最初に視界に入ったのは魔力を使って火を付けたランタン。眩しかったので目をもう一回閉じる。
ゆっくりと体を起こして周りを見渡す。
机や本棚、よくわからない瓶が置いてある棚に、衣装をギュウギュウに詰め込まれたクローゼット
壁は木の繊維が模様となっており、部屋の奥からいい匂いがする



「あ、起きた?」

青い刺繍が入った黒いとんがり帽子、同じく青い刺繍の入った黒いローブは、肩から足のつま先まで繋がっており、随分と長い
黒い衣装とは対照的な、穢れのない肩まで伸ばした白銀の髪、碧眼と、人形のように整った顔立ちをしていた。
随分若く見えるが、身長からして大人の女性に見える。
僕に声をかけてきた女性は、しゃがんで手に持っていた杖で僕をつついてたみたいだ。……ちょっと失礼過ぎるのでは。
彼女はそのまま立ち上がり、机の引き出しから何かを探し始めた

「………あの、ここは───「おーっと、その前にこれを飲みなさい」

謎の女性は、どこからか取り出した青色の丸いフラスコの瓶を投げてきた
咄嗟に受け取って瓶を眺めてみるが、……怪しい臭いしかしない

「え、いや、その」
「一時的なものだけど、それ飲まないと明日には死ぬよ。後、いくつか質問もさせてもらいます」

「──え」

「衰弱しきった体で無理な魔力行使なんてするから、穴、広がっているよ」
「……あ、穴ってなんですか」

「心当たりあるでしょ」
心の中まで透かされたような瞳で見つめられ、思わず俯く。……穴というのは、魔血病で発生した魔力が漏れる穴のことだろう
だが、その穴は非常に小さなもので、この彼女はその穴が広がっていると言った。──それは、見えているということなのだろうか。
にわかに信じられないが、嘘をついている様子はない

「いーから飲みなさい。はーやーく」
「………」

ええい、ままよ!
そこまで量はなかったので一気飲みしたが、口の中に入った瞬間に広がる味わったことのない強烈な苦味に吐きそうになる
急いで口を押さえ、何とか飲み込む。それを見ていた彼女は呆気にとられていたが、何故か拍手をして

「おお、豪快。私なら吐いてる自信しかないよ」

ならそんな物を飲まさないでくれ………、と思ったがいちいちツッコんでいれば話は進まないので飲み込むとする
まだ口に残る苦味に耐えながら、どうにか顔を保つ

「体のほうは……足が折れてたね。後で包帯もってくるから待ってて。具合はどう?」
「あ、はい。大丈夫です」

倒れそうなのに変わりはないが、ここに来る前よりずっと良くなった
椅子の上でだらけている彼女のほうを向いて、できるだけ真剣な表情を作って話す。

「さっき、この薬のこと、一時的なものって言ってましたよね。つまり、もう少し時間が経てば僕は死ぬ、ということですか」

ここがどこで、あなたは誰なのかも気になるが、彼女がさらっと言った言葉を逃さなかった
窓の外は暗く、ランタンの明かりが反射してるのでよく見えない
彼女は、しばらく考え込んだ後、指をこちらに向けて説明してきた

「うんうん。人の話をよく聞いているね。えとね、君が今かかっている魔血病は確かに『漏れ』が止まっている」

彼女が言った言葉に反応するが、黙ってきく

「けど、穴は塞がってないし、むしろ広がった。だから魔力が少し回復した明日にはその大きな穴からどんどんと魔力が漏れて、今みたいに弱りきった体じゃ、明日か明後日が限界ってこと」

「私が渡した薬は、魔力の流れ一時的に止める薬。あれ一本しか作ってないし、薬の効果が切れたら再び漏れは続くから死ぬ、ってこと」
「あの、」
「むしろ、そんな体でよく頑張ったねって思うよ。生きたいっていう相当強い意志を感じたもん」
「あのー」
「ん?何?」

流れるように説明をした魔血病については後でじっくり考えるとして、
さっきから台所でぐつぐつと音を立てて鍋の蓋を揺らしているのが気になって仕方がない

「火、大丈夫ですか」
「ひ?………て、あああぁぁぁ!!?」


髪の毛をいじってた手が止まり、顔が一瞬固まった後、
彼女は慌てて飛ぶように台所に走って魔力コンロの火を止めた




鍋の中身はギリギリセーフだったが、彼女の手は何も考えずに急いで触ってしまったので焼けどを負って泣いた
テーブルで向かい合わせに座り、
二人分の可愛いウサギのおわんが並べられ、それぞれにスープが入れられる
二人分?と思ったが、すぐに僕の分も入れてくれてると気づき、慌てて手を振る

「あ、いや、悪いです……」

「ただでさえ細いんだから、しっかり食べなさい。」
「そうじゃなくて、夜ご飯、食べました」
「嘘。全然お腹すいる人の体形だよ」

……いや、元々病気のせいで食えないんじゃい!
その後、何回か否定したが押し切られ、結局一杯飲むことにした。


………普通に美味しかったです



─────────────────────



夜はもう遅く、食器を洗った後、改まって彼女は真剣な表情でこちらを見てきた



「で、君はこれからどうするの?」



…………



どう、するのだろう。


残りの短い命で、何ができるのだろう。

生きるために頑張った
行動するのは遅かったが、一生懸命頑張った。


でも、無理だった



暗い顔でもしてたのか、彼女はため息を吐くと、咳払いをして
「あー、質問を変えます!」


「君は生きたいの?」

目をそらさず、真っ直ぐに向いてきた


───。



そんなの、決まっている

自分の心に聞いても、きっと帰ってくる答えは同じだろう






「────生きたい」



彼女は、その言葉を待っていたと言わんばかりに大きく頷き、カッコつけるように指を鳴らした




「じゃあ、契約しよう」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.9 )
日時: 2020/03/26 21:02
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第3話「お話」



「契…約……?」


思わず聞き返した僕の言葉に、彼女は手横にを振りながら話す

「まぁ、契約するのは私じゃないんだけどね。」

この部屋には、他に誰も居ない。じゃあ誰なんだと考えているのが分かったのか、
何かを言う前に彼女は持っていた杖で地面を叩いた

「その前に!まずは自己紹介からしましょうか。お互いの名前しらないし」


そう言えば、何も聞いていなかったな……
目覚めてからまず最初に思った疑問を思い出して、忘れる前に口に出す

「僕は、アランです。それで、……ここはどこで、あなたは誰ですか」


「うんうん。アラン君ね。それじゃあ……、面倒くさいから簡単に言うけど、ここはさっきまでアラン君が必死になって歩いてた森、カルジュラの森の中です。それで、私はローナ。わけあってこの辺に隠居しているただの魔法使いです。」

カルジュラの森は、確かに僕がさっきまで走ってた森の名前だ。
でも、カルジュラの森はそこまで大きいわけではないし、小さい頃に何度も行ったが、この森に一軒家なんてなかったはずだ。

「まぁ、家は隠蔽魔法で意識阻害をしていたから地図にも載ってないし、知らなかったでしょ。」
「………この家全体に魔法を?」

隠蔽魔法というのは、文字通り隠す魔法だ。まず使える者が少ないが、一軒家に丸ごとかけるような魔法ではなかったはずだ
当然、馬鹿みたいな魔力量も必要だし、それを今まで維持してたというのなら、にわかに信じ難い。

「……そういう属性の魔法が得意でして。」

「はぁ」

「とにかく!」

ローナは咳払いをすると、机から一枚の紙を取り出した。随分と古い、魔方陣のようなものが描かれた紙だ。
「魔術スクロール?」

確か、強い魔法を行使するのに必要な詠唱を紙に書いて簡略化したものだったはずだ。
今まで何枚か見たことはあるが、………こんなに複雑に書き込まれたスクロールは見たことがない。
一体どれほどの魔法を使うつもりなのか……、そんな不安を他所に、ローナは元気に説明を続ける


「そう!今から、君と契約する悪魔を召喚します!」

「あくま………悪魔!?」
「そうそう!あまり言いたくないけど、すでに君の体は限界に近いからね。無理矢理行使した魔力回路も崩壊寸前だし、長い間放置した漏れた魔力が魂まで侵食している。今は大丈夫だけど、後何日かしたら本当に死んじゃうような状態なの。だから、悪魔との契約内容に自分の魂の半分を悪魔に住まわせる!代償に魂を使う分、授かる力は大きいものになるし、魂の半分を住まわせることで体も今の状態から回復できるし、魔力回路も悪魔を住ませることで魔力が融合し、強固なものになる!どうよ!」

「ま、待ってください」

情報量が多すぎる………。人に聞かせる気はあるのだろうか。
今聞いたことを一つ一つ頭に入れて、次に質問を考える

「悪魔に住まわせるって意味がわかりませんし、まず第一に、何で普通の魔法使いが悪魔を呼び出せるんですか!」


悪魔の召喚は、魔法使いにとって禁忌のようなものだったはずだ。そんなスクロールを何故持っているのか気になるし、それに、何で悪魔についてそんなに詳しいのかも気になる

僕の言った疑問に対して、ローナは腕を組んでしばらく考え込んだ。
数秒、あるいは数十秒の沈黙が流れた後、ローナはゆっくりと口を開いた。


「………ふむふむ、もっともな意見だね。じゃあ、一つ話しをしよう」






「自分で言うような話じゃないんだけど………、三大魔女って知ってる?」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.10 )
日時: 2020/03/27 09:10
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「1話で4000〜5000文字ぐらいと言ったな、アレは嘘だ。」
2000文字ぐらいです……すいません。

───────────────────

第4話「魔女のお話」



「三大……魔女」

「そう。」

知っているも何も、小さい子供に聞かせる怖い本の代表作じゃないのか……。
火・水・風の魔女が居て、
夜遅くまで遊んでいると魔女に食べられちゃうぞ〜って親が子供に言うことを聞かせるために作られたお伽話
僕も昔母から聞いたし、この国では有名だ。

「本で、みたことがあります。」

「ふむふむ。じゃあ、どれくらいまで知っている?」


悪い魔女達が、互いに争ってるうちに強くなり、やがて国を無茶苦茶にしてしまうという本
だから、悪いことをしていると魔女達がやってきて、食べられてしまう
僕を知っている限りではこんな感じの話だったはずだ。

だが、ローラはこの話が気に入らなかったらしく、近づいてきて何故か僕の胸をポカポカ叩き始めた

「??…?」
「何だい何だい!その『子供が悪さしないように作られた童話』みたいな話は!」

いや、実際にそうなんですけど……。ここでそれを言ったらさらに怒らせてしまうので黙っておく

「何でローナさんが怒ってるんですか?」

「君はその魔女についてどれくらいしってるの!?」
あ、無視された。

「?……えっと、『炎獄のカミラ』、『嵐絶のソフィア』、『常闇のろー………な」


……あれ、ローナて名前最近聞いたな。あ、目の前の人じゃないか。ハハ、まさか、そんなわけ……


目の前の彼女はカッコつけるように杖をかざし、胸に手を当て大きな声で言った




「そう!私は三大魔女の一人!常闇の魔女ローナよ!」


───────────────────

常闇のローナ
氷、水、闇を操る魔女。かつてカミラと争い、とある草原を荒地にしたのは有名な話だ。
屋敷にも何本かそういう本はあったのである程度魔女については知っている

「……どう?ビックリした?」

驚いた、というより固まった僕を見て、何故か得意な顔をして聞いてきた
「……いや、びっくりていうか……、納得しました。」

この家にかかってるらしい隠蔽魔法も、何故もっているのか分からなかった悪魔のスクロールも、
常闇の魔女ということを信じるなら説明がつく。その話を信じるならの話だが。

「うんうん。話が早い子は嫌いじゃないよ!ただ、一つ知っていて欲しいのは……私は人間は食べません!ってか、私も人間だし!だいたい、そういうのはドラゴンとかに付けるべき設定でしょ!」
「あ、はい」

本当に食べられると思っているのは純粋な子供だけなんで安心してください……




椅子に座って杖を回し、改まって話しをしようとするローナさんを前に、僕は体の方が疲れているので横に寝かせてもらっている

「……まぁとにかく、私が闇魔法が得意なのは知っているね?で、闇魔法って言っても色々種類があって、悪魔召喚っていうのはその中でもちょっと特殊な部類に入るの」
「はい」

まず、闇魔法は光魔法と違ってあまりよく思われていないので、自ら覚えようとする者は本当に僅かだ。
だから図書館などに行ってもあまり闇魔法について書かれている書物は少ないし、
貴族は初級魔法を覚えるのが教育の一環なのだが、闇魔法は習わないことになっているので僕もほとんど知らない


「今日はもう遅いから召喚は明日だけど、呼ぶ悪魔は見た目はそんなに怖くないし、むしろ可愛いの。」
「え」
「それに、口調は普段は偉そうだけど、根は素直で、とっても優しい子なの!」
「悪魔なのに?」
「悪魔なのに!そもそも、悪魔全員が童話に出てくるような性格のイカれた畜生ってわけじゃないの!」

悪魔について熱く語るローナさんに、僕はある疑問を抱いた

「あの、会ったこと、……あるんですか?」
「そりゃ、何体も契約してるんだしあるよ。」

あるのか……。まず悪魔と契約してる時点で常識的におかしいと思いつつも、常闇の魔女ならおかしくはないかと納得している自分がいる
ちょっと感覚が麻痺してきてるかも……

「それと、呼びした時に過度に反応しないこと。優しく接してね?心がちょっと弱いから……」
「悪魔なのに?」
「悪魔なのに。姿は翼と角が生えた羊をイメージするいいよ〜」

ローナさんは椅子から立ち上がると魔法のランタンの光を弱くした
どうやらもう寝るらしい。……さて、僕はどこで寝るとするかな。
外で寝るのは流石に厳しいので、床を指しながら寝てもいいかを聞く

「あの、床でいいので今夜はここで寝かせて貰っていいですか」

すると、ローナさんは呆れたように頬を掻きながらため息を吐いた。

「あのね、確かに私は魔女だけど、病人を雑魚寝させるほど人情がないわけじゃないわよ。ちゃんとベッドで寝なよ。」
「でも、それだとローナさんはどこで……」
「適当にソファーで寝ているからいーよ。」


本当に……、人間味の溢れた魔女さんだな……。
ここで否定しても仕方がないので、有難くベッドを使わせてもらった

「ありがとうございます……」
「いいって。」




こんな話の後に大変申し訳なくなったが、ベッドはむっちゃイイ匂いがしました。
ほんと、すいません……

Re: 半死半生の冒険記 ( No.11 )
日時: 2020/03/27 20:00
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第5話「悪魔との契約」


翌朝、まだ朝日が出始めたばかりの早朝に起きたが、ローナさんはいなかった
衰弱感はまだ抜けていない。けど、昨日貰った薬のおかげで幾分か様態がマシになった。

けど、悪魔と契約しなければいずれ死ぬ。
ローナさんのお勧めだから不安ではあるものの、これまでの医師や白魔道士でも治せなかった魔血病と、今日でおさらばできるのではないかという期待のほうが大きい

「……悪魔との、契約か。」

可愛いぬいぐるみのあるベッドから出て、所々散らばったポーション瓶やスクロールを見て、夢じゃなかったんだと認識する
周りを見てもローナさんはいないが、外に出ているのだろうか。とりあえず折れた足が痛まないようにゆっくりと動かし、窓を見る

───窓から外を覗くと、謎の模様やどの属性にもない印がある、禍々しさを感じる大きな魔方陣を地面に描くローナさんの姿があった。

「───っ」

あれが、今から悪魔を呼び出すための魔法陣だろうか。

まず地面に描かれた魔法陣なんてダンジョンでしか見たことないが、……アレって人工的に作れる物だったのか。
朝早いんだな……って思ったが、本人は眠そうに目を擦りながら描いていた。

このまま見続けても何もないので、扉を開けて外に出る


「おはようございます」

「……んぅー、おふぁよ」

呂律が回ってませんけど……。大丈夫なのだろうか。

「これが……、僕と契約する悪魔を召喚する魔法陣ですか……?」
「ですですぅ。ただ、契約する際に全裸になって貰うので後で脱いどいてね。」

「はい。わかりま………………???」
今、この方は何とおっしゃった。
……いや、恐らく聞き間違いだろう。

「あの、よく聞こえなかったんだけど……」

耳に手を当ててもう一度聞く。……何故だろう、聞かないほうがよかった気がする。


「魔法陣描き終わったら全裸になってね。」


………………ふぅぅーーー

いや、恐らく何かの比喩だ。契約する時は心の中の邪念を一切残すなって意味に違いない。


「……何で?」

何故か冷や汗をかきながら聞いた質問に対して、ローナさんはさも当然のように答えた

「裸のお付き合いって言うじゃん。」

……………




僕は早々に痛いのを我慢して早足で逃げる。

知っていたと言わんばかりにローナさんに腕がガッシリ捕まれて動けなくなる

力じゃ流石に勝てるだろう…………何だコレ、全然勝てないぞ。


「いやだぁ!」

「やい、待つんだ少年。私は意味のあることしか言わないぞ。」

「じゃあ意味って何ですか!」

「悪魔を魂に表意させる際に、余計な物を見につけていると魔力が散らばって成功しにくくなるから、極力着る物は減らすの!」

意外とまともな答えが返ってきた、が。
僕はジトっとした目でローナさんを見た。信用するにはちょっと危険すぎる……。

「何だい、その疑いの眼差しは。」
「僕があまりそういうのに詳しくないのを知っててソレっぽく言ってる可能性も……。」

「私にそういう趣味はねぇーっ!少年!私を信じるのだ!それに、しゃべり口調も敬語じゃなくなったってことは、ある程度私を信用してるってことでしょ!?」

あ、そういえばそうかも。

「……すいません」
「おーぅ!直さなくていいよ!」
「いや、でも」

うーん……、でも、こんだけ助けてもらった人にタメ口は駄目な気がする。
すると、ローナさんはわざとらしく両手を目に当て、泣きまねを始めた


「しくしく………(チラッ)しくしく………」
「………」

……絶望的に下手だ。時折指の間から覗いてるのも微妙にウザったい……。

「あぁ、わかりましたって」
「よろしいっ!」

本当に、元気な人だな。
僕が話しをしたせいで魔法陣を描く手が止まっていた。
……ここは描いて貰うまでどこかで待っていたほうがいいな。


「じゃあ、その魔法陣ができたら脱ぎます。」


脱ぎたくないけど、覚悟を決めるしかない。
いや、まず変な事されるわけでもないんだし、悪魔と契約する覚悟を決めたほうがいいな。


「後で、ここら一体に隠蔽魔法かけるから、ちょっと時間かかるかも!」

─────────────────

「それじゃあ、あんまり見ないようにするけど、覚悟はいい?」

「はい」

ローナさんの一軒家の周りに広がる庭、そこに描かれた大きな魔法陣の前で、僕は全裸で立っている。
全裸と言っても、自分の男としての尊厳を保つためにパンツは許された。


「…………」



これで、僕の病気が本当に治ったとする。


いや、失敗する可能性を考えてもしょうがないな……



病気が治ったら、何をしよう。
今まで質素な食事だった分、味の濃くて美味しい料理も食べたいな。

ベッドの中に居た分、もっと色んな所を見てみたいな。

そうだ、治ったら冒険者になろう。元々、そのために大銀貨やナイフを持ってきたわけだし。



「……そんな心配しなくても治るよ。私が自信を持って言ってやろう!」
「常闇の魔女のお墨付きなら、安心ですね。」



「それじゃあ、行くよ。」


ローナさんが杖をかざして目を閉じる。辺りの空気が変わったように風の音が大きくなる。
光が吸い込まれていくように、周りが暗くなるのに比例して、魔法陣の中央がどんどんと黒くなっていく

「……これが……」

常闇の魔女の力。
肌をピリピリするように激しく魔力が動いているのを感じる。
一体どれほどの魔力がこの空気中を動いているのだろうか。

「地獄を駆け抜ける者 夜を支配するものよ 汝 夜を旅する者 闇の朋友にして同伴者よ 影の中をさまよう者よ あまたの人間に恐怖を抱かしめる者よ 悠久を持つ汝の庇護のもとに 我が友の声に答え 契約を結ばん」



中央に集まって言った黒い光は膨張していき、やがて僕の身長を超えていった
風は吹き荒れ、揺れる木の枝から飛んでいった葉っぱが魔法陣を囲むように舞っていく


「ふぅ……。完了!」

ローラさんは疲れたように大きく息を吐くと、かざしていた杖をおろした
いやまて、一仕事終えたぜっ!って感じで汗をぬぐってますけど、全然終わったようには見えないんだが!むしろ現在進行形で続いてないかこれ!

「あの……!全ッ然光がっていうか、……止まんないんですが!」

「だいじょーぶ。見てなって。」

大丈夫じゃ、ない!




しばらく魔力の膨張のような波は続いたが、やがて黒い光は平べったくなっていき、コンパクトなサイズになった。

「……これは何ですか?」

「それが悪魔だよ。手を近づけたら、契約は完了。」

「?」

言われた通りに近づいて見ると、黒い物体が僕の腕に絡み付いてきた

「うぉわっ!!」

絡みついた、じゃなくて、……張り付いた?
指先まで真っ黒で尖ったような指になり、黒く侵食していく黒い物体は、
肩の近くまで侵食してきたが、そこから先は普通の体のままだった。



次の瞬間、体の奥にゾっとするような、深く、冷たい寒気が襲った


「………ッ!?」

体の中心に虚無感を感じたのと、同時に何かが入ってくるような、奇妙な感覚だった。
大事な何かを、取られた……?あ、僕の魂を半分与えるって内容だった、な……。
覚悟はしていたはずなのに、心のどこかでまだ怯えている自分がいる、




身震いした僕を見て、近くにいたローナさんが声かける

「落ち着いて。融合しないと君の壊れた魔力回路がそのまんまだよ?」
「!……は、い!」



感覚がある程度落ち着いたその時、体全体に薄い炎のような青いオーラが現れた


オーラっていうか………、腕と足普通に燃えてないか!?
「ああぁっつぅ!!…………くない?ローラさん!これ何ですかぁ!」
何故か距離を置いていたローナさんに声をかける。

「それがたぶん呼び出した悪魔の能力何だと思う!とりあえず落ち着く!」






落ち着け僕……、これは契約だ。深呼吸をして、乱れた呼吸を正す。


息を整えていると、自分の右肩辺りに重みを感じた。
気になって見てみると、そこには、逆にこちらをじっと見つめてくる



羊がいた。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.12 )
日時: 2020/03/29 10:35
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第6話「大悪魔との自己紹介」



丸くシンプルな目に羊の口、小さな赤い角が生えていて、羊毛は黒く、尻尾はくるんとはねている

「全く。随分とちんけな人間とけーやくしてしまったようだな!」


……しかも喋った


「……ローナさん。これが呼び出した悪魔でしょうか。」
「待てい!コレとは何だ。お前ごときが我をもの扱いするでない!」

いちいちうるさい……。
ローナさんはポカンと口を空けていて、その後「あれ……角赤いんですけど……。スクロール間違えたかな……?」と独り言を言っている

「しょうしょう不満だが、僕ちんとけーやくしたからにはしっかりして貰うぞ!」
「う、うん」

僕ちん。
それと、所々舌足らずな感じがするが、適当に頷いておく。

「あの、ローナさーん?」

さっきから何かをぶつぶつ言っているローナさんに声をかける。
声をかけた後もしばらく何か考えていたが、やがて「………………可愛いしいっか!」と諦めたように笑顔になった


「とりあえず、この体に纏ってるオーラみたいなのを止めて欲しいんだけど……。後、何か僕の腕が黒いんだけど……。」


「なんじ!名は何と?」
ここまで綺麗なガン無視は始めてだな……。
肩に乗りながら姿勢変えるのやめて欲しい……。時々落ちそうになる……。


「アラン・ベルモンド。えっと、よろしく。」
「ふむ、いい名前だな!」

悪魔、と聞いていた割には、随分と優しそうな感じがする。
「そ、そう?」

「名前負けもいいとこだがな!」
「そ、そう……。」

………なるほど。今のうちに主従関係はきっちりしておかないとな……。

「君の名前は?」
「ないぞ」

え?悪魔ってそういうモンなの?よく分かんないな……。
隣では、吹っ切れた顔のローナさんが僕の肩にいた羊を抱き上げ、もふもふし始めた

「こら!おい女!僕ちんに気安く、触れ……触れ………ひゃふん」
「じゃあアラン君、名前つけないとね!」

「……そうですね。」


ローナさんにKOされた羊がだらしなく腕の中でもたれかかっている

いや、なんて言うか……、悪魔の召喚ってもっと禍々しいイメージだったのだが……、拍子抜けと言うか……。
いや、禍々しいよりかはこっちの方が気は楽何だけど……。


でも、名前か……。
話を進めないと、体に纏っているオーラを消してくれなさそうだし、早く決めよう


「うーん、……くろすけは?」

「「………」」

二人からジトっとした視線を感じる。さ、流石に安直すぎたかな。

名の無い羊をじっと見つめる。赤い角、黒い羊毛、丸い眼、はねた尻尾。全体的に丸い姿

「…………くろ丸」

我ながらイイ線いってるのではないだろうか。
悪魔だけど、何かペットみたいな感じだし、呼びやすくて特徴も捉えている。

「……まぁ、いいだろう!」

よし、何とか合格は貰えたようだ。ローナさんも頷いている


「それで……」

この僕身に纏っている炎のような青いオーラは何だろうか……。さっきから気になって仕方が無い。
ローナさんの言った通り、これがくろ丸の能力なのだろうか。
別に熱いわけじゃないのだが、何かこう……体の芯が轟々と燃えているような、不思議な感覚だ。
ぶっちゃけカッコいいのだが、いつもこの状態となると嫌だ

「あぁ、そうだったな。僕ちんの能力、『適正属性強化』と『魔力纏』によるものだ!」

僕ちん。……まぁ置いておくとして、

「これが……」


くろ丸の能力……。………うーん、強そうなのだが、
魂の半分を代償にして手に入れたにしてはちょっと地味だな……。

「魔力纏っていうのは具体的にどんなスキルなの?……後、この腕が黒くて硬いんだけど、これも君の能力?」

「纏っている時は適正属性の魔力行使にかかるまりょく量が減るのと、単純な身体きょーかもだ!腕は……アレだ、僕とけーやくした証って奴だ!」

纏っている時は、てことは、魔力纏は任意で始動できるんだな。
ちょっとカッコいいし、是非とも使いこなしたい。

腕は……契約した証、か。試しに右腕を指で叩いてみるが、随分と硬い。
「これってもしかして武器になる?」
「武器なるというか、普通はそういう使い方だな。指もえいりになっているだろう?どんな攻撃がきても僕ちんの力を超えない限りかすりきず一つもつかんぞ!」

相変わらずの舌足らずなのはもう受け入れるとして、
腕を何回か振ってみたが、別に以前のなんら変わらない質感だった。
いや、強いのは分かったけど、人前で見せるのはちょっと嫌だな……

「これって隠したりできないの?」
「いや、別に腕に力を込めてひっぱるようにすればできるが……、……かっこいいだろ?何で?」

こういうカッコいいのは人前でやるにはちょっと無理かな……。
腕に力を込めて、体の奥に引っ張るように魔力を集める。あ、できた。

さっきまでジーっと僕の手を見つめてたローナさんが、不思議そうな顔で再び元に戻った僕の手を見ている
「ほえー」
「ローナさんでも、こういうのは初めてなんですか?」

常闇の魔女が知らないことってあんまりないと思ってたから、この悪魔がそういう能力があるのを知ってて召喚したと思っていた

「魔力纏は見たことあるけど、今のアラン君みたいな色は見たことないよ。」

「我は数ある悪魔の中でもさいじょういだからな!」

さいじょういなのか。

「魔力纏も、任意で纏うことができるから、体の中心に魔力を集めるようにすると消えると思うよ。発動するときはその逆。」
「分かりました」

さっきので感覚は掴んだから、次からはすんなりと使えこなせそうだ。
ずっとローナさんに抱かれていた羊がモゾモゾと動き出し、脱出した。

「一通り我の能力については説明したな!何か聞きたいことがあれば後で聞くがよい!」


またこちらの肩に戻ってきた。……と思ったら消えた。
「って、えぇ!?」

「あー、落ち着いてアラン君。悪魔は魔力で作った仮初の姿で滞在しているから、今みたいに自由に消えたりすることができるの。」

あ、そうなのか……。まぁ常に肩に居られたら困るし、有難いのは変わりない



まぁ、これからよろしく



悪魔との契約にしては随分の緊張感のない時間だったが、


この時の僕はまだ、くろ丸がどれほど強い悪魔なのか分かっていなかった



ようやく顔を出してきた朝日が、木の葉の隙間を抜けてこちらに降りかかる。


────何か、新しく大きなことが始まりそうだ

Re: 半死半生の冒険記 ( No.13 )
日時: 2020/03/28 18:57
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「主人公の設定の肉付けだけに10コメ費やしたってマジ?」

────────────
第7話「旅立ち、そして到着」


本人曰く上級悪魔らしいくろ丸と契約を交わし、とりあえず着替える。
朝食を食べ終わってソファーでだらけているローナさんに向き合う。

「ローナさん、僕はこの森の奥の町に行こうと思う」

「お、巣立ちかい?この先の町って言ったら結構長い間歩かなきゃけないけど、冒険者の町だよね?」
「は、はい」

巣立ちって……。

……ローナさんには本当にお世話になった。
彼女が居なければ、僕は未練たらたらのまま死んでいただろう。

「感謝してもしきれないです……本当に……。」
「ははは、おーげさだね。」

大袈裟じゃないし、命を救ってもらって何もしないとなると、自分を責めるぐらいしかできなくなる。
……せめて、何かできないだろうか。

「いや、大袈裟でも何でもありません。僕にできることなら何でもしますよ!」



「……そうだね。じゃあ、常闇の魔女は美女で優しくて天使!って町に行ったら広めて信者増やしといて。」
そんなことでいいのなら
「分かりましたッ!!」

元気よく返事をすると、ローナさんはソファーから転がり落ちて慌てたように否定してきた

「あぁー!嘘嘘!何もしなくていいから!」
「へ?そうですか……?……いや!やっぱり何かさせてください!」

こればかりは譲れない。

「う、うーん……。本当にいいんだけどなぁ……。じゃあ、町に行った時に美味しい食べ物でも奢ってよ」
「分かりました!いくらでも!……ん?………えっと、行くんですか」

「うん。週に何回か必要なものを買いにいってるよ。」

え、じゃあこのさよなら会みたいなのは必要なのだろうか。
結構頻度高いし。

「あ、そ、そうなんですか……。」

「後、会った時にくろ丸ちゃんをモフモフさせること!」
「いいですよ。」

別にそれはいいかな……と返事した途端、頭の奥から声が響いた

『おい』

「うわっ!」

このちょっと高い子供の声みたいな声は昨日聞いた、くろ丸……?
突然驚いたような反応をした僕を見て、ローナさんが不思議そうに見てくる

「??どうしたの?」

「あ、いや。何か変な声がした気がして……」


『変な声とは何だ。この偉大なる僕ちんに失礼だぞ!』

気のせいじゃなかった……

「頭の中にくろ丸の声が響いているんです……」

「……あぁ、なるほどね。知能の高い魔物との契約にはよくある契約内容だよ。」
「?」
「心の中で会話ができるってこと。」

「……これってずっと続いたり?」

それは、ちょっとやかましいな。
だが、僕の答えとは裏腹にローナさんは賛成の意見だった。

「いや、むしろ便利なんだって。悪魔と契約してるのがバレたら大変なことになるし、声が漏れないっていうのは相当便利なんだよ?」
『ふふん!軟弱な人間に少し気を使ってやったのだ!有難く思え!』

確かに、そう考えると普通に助かるな。
実物でコミュニケーションが取れない分、ウザさがちょっと増したが……

『何だとぉ!』


一人の時も騒がしくなりそうだ


──────────────────

ローナさんの家の庭にて、もう出発しようとしていた。

「さぁ少年!今から行くのは血気盛んな野郎共がわんさかいる冒険者の町!覚悟はいいかー!」

「大丈夫です。」

慌しかったせいで全く触れていなかったが、今僕が着ている服は冒険者っぽい大事な部分はがっちりと守られた服なのだ。
大銀貨もナイフもあるから、街に着いてもしばらくは寝泊りできる。

「お、準備がいいね。何もなかったらある程度渡すつもりだったんだけど」
「大丈夫です。」

ちょっと甘やかしすぎではないだろうか……
この森には魔物はいないし、大きな草原まで半日ぐらいで着く。
冒険者の町はそこからそう遠くはないので、日が沈む頃には着いている予定だ。

今から行っても早歩きで行けば予定通り着けるはずだ。
余分なものは持ってきておらず、腰に大銀貨が5枚入った皮袋と、貴族の護身用のナイフがかけられている。
くろ丸と契約した時に侵食された腕が十分に武器として使えてしまうので、ナイフの出番が来ることはほぼ無いだろう……
この腕、本当に硬い。激痛を覚悟で目を瞑りながら岩を叩いてみたが、全く痛みを感じなかった。さらに鋭利だ。それでいて任意で元に戻せるので本当に強い。

自分の腕をぐーぱーしながら魔力を込める。腕は一瞬にして黒く染まり、純粋な武器へと変わった
それを見たローナさんが、興味深そうに触ってきた。

「お、使いこなしているねぇ」
「いや、まだまだ分からないことだらけです。でも町に行った時の頼りにすると思います」

今の僕なら、冒険者の町に行っても通用するのではないだろうか。腕を元に戻し、今度は強く握る

それを見たローナさんが満足そうに頷き、




「じゃ、転移するね」

「え」


──視界が、暗転した

Re: 半死半生の冒険記 ( No.14 )
日時: 2020/03/28 21:51
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第8話「冒険者の街バルトライン」


目の前の木に隠れるように表示された魔法陣。周りは所々木があるのどかな草原
目を凝らさなくても見えるぐらいには近い町。

「??ここって……?」
「とうちゃーく!」

僕が状況が飲み込めない中、ローナさんは隣で元気に両手を挙げて背伸びしていた
さっきとは打って変わって周りが明るくなったが……、昔何度か見たことある風景だ

「まさか、これって………、転移魔法?」
「いえす!昔は飛んでたんだけど、いちいち来るの面倒くさいから結構前に魔法陣を木に貼り付けたの。」

おかしいな、転移魔法なんて童話でしか聞いたことがないんだが……
……………もう何も言うまい。
当然、予定より無茶苦茶早く、まだお昼にもなっていない。
けど常闇の魔女ってだけで説明がついてしまうの不思議。


「じゃ、私は先にいつもの店に行ってるから、後は自分の足で頑張りたまえ!」
「あ、はい。」

ローナさんが当たり前のように跳んで行ったのはもう触れないことにして、
この距離じゃ、町まで十分とかからないだろう。本当に速い………。

文字通り飛んで行ったローナさんを目で追いながら、僕は達観した顔で呟いた
「剣士やめて魔法使いなろうかな……」

……いや、いくらなんでもアレは無理だ。一生修行しても同じレベルにはなれないだろう。
ゆっくりと広大な草原を歩き始め、さっきから静かなくろ丸に話しかける

「ねぇくろ丸。綺麗な草原だね……」
『僕ちんは眠いから話かけるでない……』


ぐすん、一人だ。
……ってか、悪魔って睡眠必要なのか。




バルドラインは冒険者の町と言われるだけあって、冒険者に非常に人気が高い。
他の町にはないダンジョンも大きな資源となっており、観光としても人気で、その賑わいは王都にも負けず劣らずだ。
そんな常に旅人や観光客が詰め寄る町で、僕は一人、入り口で困っていた

「あー、次の人が待ってるから早く通行許可書と身分証明となるものを見せてくれ」
「……え、あ、っと……」

恐らく門番なのだろう鉄のかぶとを着た鎧姿の男性が、面倒くさそうに頭をかきながら言った
やばい。何それ聞いてない。後ろに並んでる人の視線が痛い……。



「すいません……持ってないです。」


──────────────

貴族の時は、子爵ってだけで二つ返事で入れたのでまず通行許可書という存在自体知らなかった
無い場合は別の部屋で手続きを行い、大銀貨2枚を払って発行するらしい。

「はいよ、これが通行許可書だ。くれぐれも失くすなよ?」


勿論手続きを余儀なくされた僕は大銀貨を2枚払った。これで3日分の飯代は飛んだ


「……………はい。」

ん?待て、身分証明には手続きは要らないのか?
次に同じようなことが起きればたまったもんじゃない

「あの、身分証明とかって、手続き要らないんですか?」

「あのな……、わざわざ金を払いたいのか?お前さん、見た目からして冒険者になりに来たんだろ?ギルドで冒険者として登録するならそれが身分証明になるし、最初の登録に金はかからない。それがこの町の条例だ。」
「あ、そうなんですか!?」

「……知らないかったのか?」

そ、そんな呆れたような顔をせんでも……。いや、今のは僕が馬鹿だったな……。



「ありがとうございました」

お礼を言ってから部屋を出る。
……さて、残りの大銀貨は3枚。大切に使わないと……。


こうして、色々とあったがやっと街に入ることができた

Re: 半死半生の冒険記 ( No.15 )
日時: 2020/03/29 10:22
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第8話「くろ丸の姿」


冒険者の街、バルドラインは都市と見間違われるぐらいには発展している。
ダンジョンに入って一攫千金を狙うものや、ここで商人として大成を目指す者も大勢いる。

色々なお店が立ち並ぶ大通りで、想像以上の人通りに困惑している。
店の前で大きな声で宣伝している人や、真昼間から飲み暮れているおっさん達の声が常に響く。

「……どうしよっかな」

『おい、先に冒険者ギルドとやらに行けなきゃいけないんじゃないのか。』

うわっ!急に声だすなよ……。
あ、でもそうだったな。でも僕道知らないよ?

『僕ちんも知らない』

詰んだかも。


ずっと通りの真ん中で立ち止まっていたからなのか、後ろからおばさんに声をかけられた
「そこの坊や!美味しいオークの串焼きでもどうだい!」

「!?え、あ……」

恐らく目の前の屋台を経営してるおばさんだろう。
おばさんの声とは思えないもの凄く大きな声で宣伝してきたので耳が痛い。
耳を押さえながら首を振る

「だ、大丈夫です」
「そんな細い体で何言ってんだい!もう一本つけるから買いなって!」
『僕ちんも欲しいぞ』


…………お前どうやって食うの?

─────────────

結局4本買い、屋台についてあった長椅子を借りている
隣には黒い髪の美少年が元気に串焼きを頬張っている

「うまいぞ!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ!もう一本あげちゃうよ!」

くろ丸である。
待ってろと聞いた時は「悪魔が堂々と出ちゃ不味いだろ!」と焦ったが、
今は僕の隣からボンッと煙を出して現れた謎の美少年に困惑している

串焼きを黙々と食べながらもう一本お代わりしたくろ丸をチラチラと見る

角もないし、あのシンプル過ぎる羊の顔からは考えられない綺麗な美形である。
服は僕と似たような戦闘用の服に布の部分を増して悪魔っぽいダークな装飾品をつけたような服で、正直カッコいい。

最初出てきた時は誰だよってなったが、開口一番に「僕ちんにも寄越せ!」と串焼きを素早く奪ってきたのですぐ分かった

「よ、よし、そろそろギルドに行こうよ!おばさん、はい!」

くろ丸の腕を引っ張りながら残り3枚となった大銀貨を1枚渡す。
お釣りの銀貨を6枚受け取り、席を立つ。

「毎度あり!」

早歩きでその場を離れようとしたが、そこで、冒険者ギルドの場所を知らないこと思い出す
「あ、おばさん!冒険者ギルドってどこにあるか知ってますか?」

屋台に戻って再びオークの肉を焼いていたおばさんに聞く

「なんだい、あんたこの街に来るの初めてだったのかい。冒険者ギルドはこの大通りを真っ直ぐ行ったら噴水広場があるから、そこを右に曲がってずっと進むとあるよ!」

よし!ナイス僕!
屋台のおばさんに手を振りながら向こうにある噴水へと歩く。



大通りは人が多い。隣に美少年がいたらそりゃ、目を引くわけで……
噴水広場を曲がり、ギルドまでもう少しの道の途中で、おまけで貰った串焼きをまだ食べているくろ丸に質問をする

「……その姿って何?驚いたけど。」
「……むぐ、うん!これはな、仮初の姿の一つ、むぐ……、だ!」

「へ、へぇー……」

何だそれ。超羨ましい。
………いや、仮にも貴族の血が流れている僕も普通の人より顔は整っている、……はず。


「はぁー。もう何でもありだな……」

「ふ、どうだ?僕ちんの凄さにようやく気づいたか?何ならドラゴンにもなれるぞ?」
「やめろ」

ドヤ顔で街を恐怖に貶めようとするくろ丸の頭にチョップする

「いた!この僕ちんに何するのだ!」

「串焼きの分はしっかり働いてもらうからなー」
「あれは美味かったぞ!」

感想聞いてるんじゃないぞ……。
上級悪魔ならもうちょっとちゃんとして欲しい所だが、今は残念な姿しか見ていないので株はどんどん下がっている

「あれが冒険者ギルド、かな。」

くろ丸と話していたうちに見えてきた冒険者ギルドは、想像以上に大きかった。
2階建ての古そうな木造建築で、横幅だけでも家が丸ごと3つぐらい建てれそうな距離がある。

近くまで来ると、僕が大きなギルドの外観を見上げている隣で、くろ丸は目を擦りながら姿を消した

「では、僕ちんは寝るとしよう。」

こ、こいつ……っ
……食っちゃね生活の気分はどうですか。

『最高だな!』

そうかい。


大銀貨も残り2枚だし、急いで登録して何か仕事しないと明日にはお金が無くなりそうだ。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.16 )
日時: 2020/03/29 22:25
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「やっと登場人物が増えるよ!今まで何してたんだろう!」
※1コメの人物設定にくろ丸を増やしました

   ──────────────────────

第9話「冒険者登録」


冒険者ギルドは一階で大体の窓口が揃っている。
無数の紙が張られたクエストボード、よく分からないランキング表みたいなのももある
仕事から帰ってきた冒険者が酒を飲むため、大きなテーブルもいくつかある。
クエストを受けるための窓口は2つあり、素材換金や魔石換金も別々に1つずつある。
受付人は男女一人ずつで行っているが、隣が美人な受付人なので依頼を受ける人がそこばかりに集まっている。

「うわ、凄い行列だな……」

明るいブラウンの髪に、ぱっちりとした青い目で、緑色の受付の制服を着ている。
肩は肌が出るようになっていて、そこから見える綺麗な白い肌が色っぽいが、恐らく20代ぐらいの女性だろう。
当然人気だ。あれ何人並んでんだろう……。ギルドは相当広いのでまだ余裕はあるが、ざっと見ただけでも20人ぐらい並んでるぞ……。

「絶対時間かかるよな……」

見なかったことにして隣の受付に並ぶ。受付人は男だったが、
隣の行列を見て同じことを考えた人達がここに並んでいる。並んでいるのは2人だけなのでさっきとは偉い違いだ。

「うわ、さらに並んでる人が増えた」

あの行列を知っておきながら新たに列に加わった人に軽く引きながら順番を待っていると、
前の方から何やら揉めたような声が聞こえてきた

「ここはお前みたいな小せぇガキ来るとこじゃねぇんだよ!」

「ガキじゃねぇし!冒険者ライセンスが銅色ってことはおっさんはレベル3か4程度だろ!でかい口叩く余裕あんのかよ!」

一人は、酒でも飲んだのか、顔を赤くした皮鎧のおっさん冒険者と、
もう一人は燃えるような赤い眼をした赤い髪の少年だ。凄いなアレ、服も真っ赤だ。
おっさん冒険者は口を大き開いて怒鳴っていたが、赤い少年はそれに怯むことなく返した

周りに居た冒険者は止めるような様子はなく、むしろ興味深そうに二人を眺めていた
え、止めないの……?

赤い少年に口答えされたのが気に障ったのか、おっさん冒険者はさらに顔を赤くして怒鳴りつけた
「何だと!?冒険者がどれだけ危険な仕事かも知らないクソガキに何が分かる!」

相当お怒りの様子のおっさん冒険者は拳を握っており、今にも殴りかかりそうだ。
野次馬が小声で「面白そうだぜ!」と煽るようになり、どんどんとヒートアップしていく。
近くの受付人は「早く終わんないかな……」と言った感じでどこかを見ている。


「そこまでだ。」

両者がいつ殴りかかってもおかしくない状況の中、前に居た男性の受付人が静かに割って入った
「ギルド内での喧嘩沙汰は罰則があるって知ってるのか?つか、おっさんはそれくらい知ってるよな?お酒飲んでるとか理由になんないからな。これ以上騒ぎを起こすのなら俺も上に報告する必要ありそうだな……」

ピタっと止まったように動きを止め、赤い少年もおっさんも、顔を青くして頷いた



……………



「………となります。はい次の人ー」

何事も無かったように受付が再開し、ギルド内の空気も元に戻った。
おっさんはバツが悪そう舌打ちして出て行った。

すぐに順番が回ってきて、僕の番となった。

「あの、さっきの凄かったですね。」

「何、いつものことだぞ。あんなんいちいち気にしてたらキリが無いし、坊主も早くここに慣れたいなら無視すればいいぞ」

受付の人は特に威張ることなく普通のことのように言った
まぁ、そうなんだろうけど……。

「で、何しに?」

「あ、冒険者登録したいんですけど」

冒険者になるだけでもそのライセンスが身分証明になるのでかなり有難い。しかも無料だったはずだ。

「ん?……ああ、登録な。ちょっと待っといてくれ」

受付人は一旦奥の方に向かうと、登録の手続きであろう書類を持ってきた
荒くれ者が多いギルドの中ではかなりの常識人だな……。

「名前と、書ける所まででいいから下の項目を書いてくれ。書き終わったら判子の枠の右に血を一適垂らしてくれ。」

う、血が必要なのか……。
下の項目は、使う武器や出身地などがあった。

差し出されたペンで早速書く。


名前は、どうしようか
仮にも子爵家から家出して来た身だ。流石にそのまんま名前を書くのは不味いな。

うーん……。



アレンでいいや。

───────────────

「ほい、これがライセンスだ。その冒険者ライセンスは初回登録は無料だが、なくした時は大銀貨3枚払って貰うからな。」


そんなに高いのか。ちょっと分厚い鉄の板にしか見えないが、受付人が言うには魔法陣が組み込まれているらしい。
その後、受付人からギルドについてあれこれ説明され、無事に登録が完了した。

差し出された銅のライセンスには、右上に自分の顔があり、
その左に名前や情報が簡単に乗っており、その下にはLv1と表示されている。

「ありがとうございます。それで、早速クエストを受けたいんですが……」

正直もう金がない。食っちゃねをしている悪魔のせいで食費がかさむのだ。
少し驚いた様子の受付人は、二つあるクエストボードのうち、緑色の方を指して答える

「お、そうか。なら緑のクエストボードから受けたいクエストの紙を持ってきてくれ。」

緑?さっきちらっと見たが、採取やお手伝いクエストが主なクエストだった気がする。
その隣にある赤色の討伐クエストじゃ駄目なのだろうか

「赤は駄目なんですか?」
「駄目だ。赤はレベルが3以上じゃないと受注できない。……あぁ、まずレベルについても説明しないとな。」

そう言えばさっきも耳にしたな、レベル。



「えーっとな、レベルというのは……」


ギルドが定めた、個人の強さや戦績を評価し、数字で表したものらしい。
レベルに応じて難易度の高いクエストを受けれるようになり、逆にレベルが低いと雑用みたいなクエストしか受注できない。

一般的にはLv1〜3までが初心者で、ライセンスは銅。中堅と呼ばれるLv4〜5は銀。Lv6〜7は金。
Lv8以上となると、国から紋章が貰えるらしい。

Lv3〜5の冒険者が全体の割合の中でも最も多く、6〜8は本当に一握りだそうだ。
Lv9〜10はもはや童話に出てくるレベルで、ギルドの長い歴史の中でも2人だけらしい。

Lv6〜7まで来ると立派な上級者と呼ばれ、かなり有名になる。
Lv8の冒険者は英雄扱いで、冒険者の街と呼ばれるバルトラインでも3人のみだ。

Lvは、クエストをこなしに時はライセンスに記録されるため、こなしたクエストが一定の成績になると上がるらしい。
その審査を行うのも当然ギルドで、同じLvの難易度のクエストをやっても上がらず、Lvを手っ取り早く上げるには自分のLvと同等のクエストを繰り返すか、もしくは以上の危険なクエストこなさなければいけない。

「……と、まぁ簡単に言えばこんなもんだ。」
「細かく説明してくださって有難うございます……」

すると、受付人は少し呆れたような視線を隣の行列に向けた

「いいってことよ。……隣があんだけ人気じゃ、暇な時が多いし。」
「た、大変ですね。」
「むしろ暇だ」
「は、はは……」

確かに、見向きもしないもんな……

「そういえば、お名前は何て言うんですか?」
「エルマだよ。」

ん?女性の名前?
あ、隣の受付嬢の名前か。

「違います。あなたの名前です」
「あぁ俺?ジェラルドだよ。」

ジェラルドさんか。よし!お世話になりそうだから覚えておこう。
普通にいい人だし、この人相手なら面倒事も少ないだろう

「後から名乗ってしまいすいません……。僕はアラ……アレンです。」
「おう、よろしく」


無事に登録が終わった……!しかも常識人ゲット!

真新しいライセンスを見ると、冒険者になった実感が湧いてくる
よし!まずは雑用クエストだ!

Re: 半死半生の冒険記 ( No.17 )
日時: 2020/03/30 09:02
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「勉強……しなきゃ……」
あと、簡単にお金について話すと、
銅貨が十円で、銀貨が百円、大銀貨が千円、金貨が一万円、大金貨が10万円、白銀貨が100万円って感じです。
ありきたりな単位ですいません………
現実では国ごとにお金の単位は変わる物ですが、異世界では世界共通の通貨としています

────────────────


第10話「お手伝いクエスト」



「はい、これが掃除用具ね。この廊下と、階段、あと窓全部拭いたらまた声かけてね」
「はい!」


渡されたのは使い古したボロ雑巾を5枚と、水の入ったバケツと頭にかけるナフキン

そう、お手伝い(ざつよう)クエストである。

クエストを受注して来たのが、もうずっと前からあるらしい老舗の宿屋。
部屋6つをまたぐ長い廊下は、これ全部拭くのか……と思うと見るだけでやる気が失せる
女将さんであろうおばちゃんは「じゃあ頑張ってね〜」と言うと、手を振りながら消えていった

「はぁ……」

階段も結構な高さあるぞ……窓も多いし、いつ終わるんだこれ………
これでいてクエスト報酬金が大銀貨1枚である。ゲロ不味クエストだ。
Lv1だとこれくらいのクエストしか受注できないので、我慢するしかない。
できるだけ早くレベルを上げようと近い、

ため息を吐きながら雑巾を絞って廊下を拭き始めた


……………


一体どれくらいの時間を拭き続けただろうか

「腰いったぁ………」

床を拭くので、屈む必要があるのだ。その体勢でずっと作業を続けているので腰への負荷が半端じゃない
でももう少しで廊下は終わる………ッ!階段はもう少し楽な姿勢でできるはずだ!窓はもっと楽な姿勢のはずだ!



違った。階段も体勢キツいわ。
さっきと同じようにしゃがんで拭くと危険なので、一段一段拭くのに最適なのが膝を折って拭く姿勢なのだが、
膝が痛い。

「はぁ、はぁ、これ……、重労働って言ってもおかしくはないぞ……」

定期的に膝を休めるために座っているが、疲れがどんどん溜まっていく。


窓は楽だったが、他の二つの作業の疲れが溜まっていたのであまり違いを感じなかった




「女将さん……おわ、り、ました………」

雑巾を洗って伸ばし、綺麗にたたんだ状態で渡す
おばさんは「礼儀正しいわねぇ〜」と嬉しそうに頷くと、

「よし、2階も終わった時に報酬渡すけど、特別に晩飯もつけてやる!」


「え」

死刑を言い渡された囚人のように、呆然とした


───────────────────



お手伝いクエストは、色々な種類がある。迷子の子猫探しや、荷物運び、今日みたいな掃除の依頼
疲労いっぱいの顔を水を貰って綺麗なタオルで洗い、ピッカピカになった廊下で倒れるように寝転がる

「二度と、しない」


頭の中に呑気な寝言が響く

『むにゃ……むにゃ……や、僕ちんはもうお腹いっぱいなのだ……やめ……ふへへ……』


ぷちん



いつまで寝てんだこの食っちゃね悪魔ぁ!!


『!?!!何だ何だ何なのだ!?』

強制的に呼び出し、寝ぼけた頬を強くひっぱる



──あれ、今どうやって呼び出した?


……まぁいいや、今それよりこのぐうたら悪魔の躾が先だ。
『や、やへろ!はひふるほだ!?』


─────────────

「お疲れさん!たんとお食べ!」
「ありがとうございます。」

夕暮れも過ぎ、辺りも暗くなってきたところで約束通り晩飯を頂いていた。
宿の飯ってだけあって、ボリュームもあっていつもより大分豪華に感じる。


これが、仕事をするってことなのか………!


今日の頑張った自分を思い返し、一口一口味わって食べる。
やばい、泣きそう

「美味しいです……!」
「ピッカピカにしてくれたからね!おかわりも自由だよ!」

『僕ちんも、欲しい……』

まだ寝言を言っている食っちゃね悪魔を無視しておかわりをした。
その日は、代金を払って宿に泊まらせてもらった。飯代は抜きだったので、安くすんだ。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.18 )
日時: 2020/03/31 12:06
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第11話「同伴者募集」


「お、帰ってきたか。」


ギルドに戻り、ライセンスを受付人のジェラルドさんに渡す。
相変わらず隣は凄い行列だな……。エルマさんだっけ、絶対疲れるだろうな……。
ライセンスを更新し、クエストの記録を残すためだ。

「無茶苦茶疲れました……。宿代が安くなったのは助かりましたけど、もうしたくないです」

「ははは……。」

ご飯も美味しかったが、あの重労働は無理だ。天秤にかけるまでもない。
ジェラルドさんは苦笑いしながらライセンスを受け取ると、一旦奥の方へと向かい、石のような板を持ってきた

「これは……?」

「ライセンスを更新する魔道具だ。……アレンがレベルアップするまでは、後5回雑用クエストをこなさないとな……。」


「………マジすか。」

あの地獄のような作業を5回も……?
「………やだなぁ。……何か方法ないかな……」

想像しただけでも血の気が引いた僕を見て、ジェラルドさんはポツりと呟いた

「………ないこともないけどな」

!?

「何ですかそれ!教えてください!」

思わず身を乗り出すように質問した僕を見て、ジェラルドは一歩下がりながら否定する
「あぁ待て待て!ただの独り言だ!何でもない!」

「いや何でもないことないです!教えてください!」

…………

ジェラルドさんはため息を吐くと、諦めたように話した


「……俺が今から言うクエストは雑用クエストとは違って死ぬ危険性のあるクエストだ。それでもか?」

いや、雑用クエストって言い切っちゃった駄目でしょ……。実際そうだけど。


「元々冒険者なんて職業を選んだんですから、死の可能性なんて付き物だと思っています」

実際に、冒険者は常に死と隣り合わせの職業だ。(雑用クエ除く)
上手くいっていた冒険者が何かの拍子で死んでしまうことは珍しいことでも何でもない。
ベットの上で冒険者になるために何度も本を読んだのでよく知っている。
ジェラルドはしばらく僕の目を見てきたが、僕は目を逸らさなかった。

「……よく分かってるじゃないか。……分かった、話すよ。」
「ありがとうございます!」

「……Cランクの中でも下級に位置するアロマラットだ。見た目は小さい緑のネズミだが、森の草むらの中に生息しているから見つかりにくい。単体ではすばしっこいだけであまり殺傷能力はなく、個々で行動することが多いため難易度は低い。だが!それでも魔物だ。殺傷能力は低いが、ないわけじゃない。調子に乗って草むらに飛び込んで死んだ奴もいる。特に今のような春の季節だと、繁殖期が近いから興奮している固体が多い。当然難易度は上がるし、雌と雄が一緒に行動していることもある。」

な、長い……。けど、これは初心者にとっては重要で有難い情報なので、黙って聞く
ジェラルドさんは一息つくと、苦笑いしながら続けた

「プレッシャーをかけるみたいで悪かったな……。報酬は少ないが難易度も低い。今回はそのアロマラットの討伐だ。討伐部位は尻尾、別に一匹でもいいが、最大5匹までなら報酬が上がる。」

「わかりました!」


「ただし!条件がある。」

早速赤いクエストボード向かおうとした僕を手で制す
何だろう。門限とか?

「……俺はお前みたいなちゃんとした冒険者に死んで欲しくない。最低2人以上で行け。パーティが作れたらなお良しだが……。」

う、意外とハードル高いな……。Lv1の冒険者と組む物好きはいないだろうか……
くろ丸に頼る気満々だったが、人前で悪魔の能力は使えないよなぁ……

「……わかりました!すぐに作っちゃいます。」

────────────────


「Lv1?何かの冗談かよ」

「他を当たれ」

「こっちは忙しいの!」

「悪い」

「こっち見んな」

「………(聞こえないフリ」



死にそう。
軽く5人ぐらい当たってみたが、見事に失敗している。

何だよ、最初は誰でも初心者じゃないか。もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃないか。

『Lv1で行くクエストなのだから、ゴブリンかスライム程度だろう。僕ちんにとっては虫けら同然だが、何で二人以上が必要なんだ?』

雑魚と呼ばれるゴブリンも、剣を握ったこともない一般人にとっては十分な脅威だからね……
冒険者は戦って魔力を吸収するから強いだけで、戦闘経験が浅い層のLv1だと死ぬ可能性は十分あるんだよ……

『この僕ちんと契約した男がゴブリンに負けるようでは泣くぞ。』

今の今まで何の役にも立っていない食っちゃね悪魔に言われたくないな。

『なっ……!それは戦闘機会がないからだろう!ええい!さっさとゴブリンに戦いに行け!あんな虫けらなど2秒で消し去ってくれるわ!いや、2秒もいらん!』

だから戦うのに二人以上というのが条件なんだって……


「誰か、一緒に来てくれる人いないかな……」


その時だった
遠い目で周りのテーブルに座っている冒険者を眺めていると、後ろから声をかけられた

「その話、乗った!」

驚いて振り返ると、
燃えるような赤い目に、同じく赤い髪。意識しているのか、服も赤い、
さっきおっさん冒険者と喧嘩していた赤い少年がいた。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.19 )
日時: 2020/03/31 13:13
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「フリック?知らない子ですね。」(すいません……ッ!)
後で人物紹介のトコも修正しときます……

─────────────────

第12話「炎剣のバーン」



「?えっと……?」


赤い少年は、僕を指を指しながら腰に手をあてて言ってきた
「一緒に来てくれるってこと?」

「そうだ!感謝しろ!」


どこかくろ丸に似てる感じがするな………。
それはともかく、一緒に来てくれるのは有難い。
立て続けに断られて少し心が折れかけていたのだ。

「ありがとう、断られ続けて参ってたとこなんだ……。僕はあら……アレンッ!名前は?」
「俺はバーンだ!お前の使う武器種は何だ!俺は魔法剣だ!」

ドヤ顔で背中にかけてる剣の鞘を触る。


魔法剣?知ってる知ってる……本でよく見たよ。
……ダンジョンで手に入れることができる武器だっけ。

くろ丸が呆れたように訂正する。

『全然違うわい。ダンジョンで宝箱などに入っていることもあるが、別に人工的に作ることもできる。剣の素材となる物に魔力を通すことによって生まれた特殊な力が備わった剣のことだ。』

………くろ丸ってもしかして詳しい?

『僕ちんが何年生きてると思っている。軟弱な人間とはデキが違うのだ!』

はいはい。

「お前の武器種は何だと聞いている。……ちなみに俺は魔法剣だ!」

無視されたのが気に障ったのか、眉をひそめならもう一度聞いてきた

「あぁごめん。僕は短剣使いだよ」
「その腰にかけてる綺麗な短剣か、……まぁ俺の魔法剣のほうが凄いけどな!」

主張が激しいな。

「それは……凄いね。」
でもそれって大声で言っていいのだろうか。

『馬鹿だなこやつ、さっきから後ろの雑魚共が反応しておるぞ。』

お酒を飲みながらパーティらしき男の冒険者達がちらちらとバーンの背中の剣を見ている。
……よし、さっさとクエストこなして別れようか。絡まれてはたまったもんじゃない

「じゃあ、クエスト受注したし早く行こう?」

──────────────────

木々が生い茂った森の中、整備された草のない道を歩く。
草むらならもうすでに周りにあるのだが、もう少し歩くと広い草むらがあるらしく、
そこでなら結構な確率で出会うことができるらしい。

「そういえば、その魔法剣ってどうやって手に入れたんだ?」

無言のまま一緒に歩くのもなんなので、軽く話しを振ってみる

「いや、これは親父がダンジョンで手に入れて、受け取ったものだ。あんま詳しくは言わないぞ。」
「へぇ、お父さん凄いんだね。ダンジョンってことはBランク以上の人だったの?」

「まぁ、な……」

Bランクともなれば、ある程度の魔物は倒せるので安定した生活を送れるはずだ。
実は結構裕福だったりするんだろうか。

「アロマラットはすばしっこい魔物だと聞いたけど、バーンは大丈夫か?その剣重そうだけど。」

普通の剣にしては全体的にでかいし、両手剣にしてはかなり細い。
魔法剣は扱ったことがないので詳しくないが、小さいアロマラット相手に大丈夫なのか心配だ。

「……ふっ、俺を誰だと思っている。炎剣のバーンにかかればネズミ如き丸ごと燃やしてやる!」

さっきみたいにドヤ顔しながら魔法剣を触っているバーン様にチョップをかます

「いてっ!何すんだよ!」
「森で迂闊に火属性の魔法を使うなボケ。」

というか、禁止されてなかったっけ。見つかったら即アウトなので釘を刺しておく。
葉っぱに燃え移っただけでも、この木と木の間隔が狭い森じゃ、一気に広がるのは火を見るより明らかだ。
……火だけに。

「魔法使うにしても火属性意外でよろしく。」
「いや、俺は火意外は使えないぞ……」

「……とにかく、火属性の魔法は禁止されてるから絶対に使わないこと。」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.20 )
日時: 2020/03/31 20:42
名前: ・ス・ス・スR・スm (ID: X1kgwzZ6)


第13話「緑鼠と炎の剣」



アロマラットは緑色のネズミだ。殺傷能力が低く、個々で行動をすることが多いためそこまで脅威度が高いわけじゃない。むしろ低い
だが、厄介な部分もある。一つはすばしっこいくて、体も小さいので捕らえにくい。

もう一つは

「だぁー!全ッ然見つかんないぞ!!」

前かがみの姿勢が続くため、結構キツい。
さっきからずっと草を掻き分けていたバーンが、苛々した声色で愚痴を吐く

「見つかりにくいんだよ!草の色と同じじゃねぇか!」

そう、もう一つの厄介な点は、
アロマラットは緑色で、草と同じ色なのだ。
こういった所に生息するアロマラットは草と保護色になるため、とにかく見つけにくい

「時間かかるだろうなぁ……」

助けてくろ丸。

『……アロマラットは木の実を主食としている。木の実がなる木を重点的に探すのだ。』




結果から言うと、くろ丸の言う通り木の実がなる木にたくさんいた。
ただ、見つけた後の僕たちの行動が馬鹿だったのだ。

広い草むらの中、必死になって走り回る


「そっちに2匹行った!」

「分かった!……ってどこだ!?」


『……お主ら、もしかしなくても馬鹿だろ』

バーンと一緒に草むらを駆けっこしてる僕の頭の中に、くろ丸の呆れたような声が響く

こいつ(バーン)が悪いのだ。発見した後に突っ走るとか、アロマラットが警戒するに決まってるだろ!

『その後アランが躓きそうになって蹴飛ばした石が見事に巣穴に入ったのを僕ちんは見逃さなかった』

しゃあないじゃん!走らないとあいつ巣穴に突撃してたんだよ!?

運悪く蹴飛ばしてしまった石が見事に巣穴に入り、攻撃されたと思った中にいたアロマラットの親子が一斉に飛び出してきたのだ。
草むらに逃げ込まれ、音は近くからするのに、四方八方から音がするのでどこに居るのか分からないのだ。

腰にかけていた短剣を引き抜き、どこから飛び掛ってこられても対応できるように構える。
流石に状況が悪いと思ったのか、くろ丸が冷静な声で指示を出す

『右斜め前の木の下に一匹、バーンの半歩後ろに一匹、真下に一匹』

何で分かったのか知らないけど了解!……って真下!?

「うわぁっ!?」

反射的に下から飛び出してきたネズミの突進を倒れるように避ける。
勢いを保ったままネズミは再び草むらへと潜ろうとする

「逃がすかっ!」

倒れる間際にネズミに向かって短剣を伸ばす。手応えはあった!
後ろ足に重傷を負ったネズミは空中を回るように重力に従ってそのまま落ちる

再び短剣で刺す。今度は頭を狙ったので絶対死んだ

「一匹やった!」
「よくやった!」

一匹を仕留めた後、他のネズミは急に動きが早くなった。

「くそっ!……この!」

バーンはけん制するようにやたらめったら魔法剣を両手で振り回している。

カシュッ

「痛っ!」

アロマラットが流れるように爪で引っ掻き、バーンの足に切り傷ができる

カシュッ
「このっ!」

アロマラットは止まらず、もう一度しかけてくる
カシュッ
「痛いって……」

「言ってんだろうが!!」
もう一度しかけようと、草むらから飛び出してきたアロマラットの眼前には、

『──ほう』

轟々と燃える炎の剣があった

頭を切り込まれ、燃やされ、アロマラットは断末魔を上げて地面に落ちた
さっきのアロマラットより小さかったので、恐らく子供だろう。

残った一匹のアロマラットは激怒したように鳴き声を上げながら爪で切りかかる

バーンはそれを知っていたかのようにアロマラットが飛び出してきたタイミングに合わせ、再び炎の魔法剣を振りかざした


「ッてぇー……。だいぶ貰っちまったぜ……」

ゆっくりとバーンに近づき、とりあえず頭にチョップした
「うーん、3歩歩いたら忘れてしまう頭でもしてるのかな。火属性魔法はあれだけ使うなって言ったじゃん。Lv1の僕らが罰則食らったら冒険者ライセンス剥奪もはりあえるんだぞ?分かってる?」
「……火魔法じゃなくて火の武器強化だ」
「エンチャントでも、結果的に燃えてしまったら同じだよ!」

「……燃えてない」
「僕が水魔法を放ったからね。バーンは自分で火魔法意外使えないって言ってたよね。」


チョップされた頭を抑えながら、イタズラがバレた子供のようにバーンはそっぽを向いた

正直、かなり焦った。ネズミを切ったバーンが決めポーズ取ってる間に、火はアロマラット二匹の死体からかなりのペースで広がっていたのだ。
後数十秒もしたら他の芝や木に燃え移っていただろう。
咄嗟に水魔法を放ったおかげで難を逃れたが、もっと火が広がっていたら水魔法の適正がない僕では鎮火は……
………魔力を多めに使ってたくさん行使したらできないこともないが、
山火事になっていた可能性は十分にあった。

ぶっちゃけもっと叱りたいところなんだが……


……しょうがないなぁ


「………はぁ。まぁ、お疲れ様。最後のはカッコよかったよ。」

このまま拗ねられたら困るので、適当に褒めておく。
あの短時間で2匹を討伐してくれたのは事実だもんな……。

バーンは一瞬呆けた顔をしたが、僕が言った言葉を理解すると、いつもの調子でドヤ顔してきた
「だろ!」

「とりあえず、討伐の証となる尻尾は自分で切っといて。他の素材は換金して自分で狩った分だけ貰うってことでいい?」
「いいぞ!」



アロマラットの処理を始めたバーンの、その背中にかかっている魔法剣を見つめる
珍しく、驚いたようなくろ丸の声が頭の中に響く。

『あのバーンってやつ、もしかしたらとんでもない大物に育つかもな。』
うわ、くろ丸が誰かを褒めてるのって新鮮だな……

『失礼な。僕ちんは凄いと思った人は素直に褒めるんだぞ』
へー、意外。たしかに、最後のタイミングの合わせは普通に凄かったもんね

『まぁ、僕ちんならもっと鮮やかにねじ伏せていたがな』
そのいちいち挟む自慢ってどうにかなんない?
『なんない』
さいですか……


「終わったぞ!」
焦げたアルマラットの死体と、尻尾を持ったバーンがこちらに声をかける

「んじゃあ、先に帰っといて。僕は後4匹狩るから。」
「……一匹の追加報酬銀貨5枚だぞ?日が暮れるまでしたいのか……?」(※日本円で500円です

個人個人でクエスト受注しているので、途中でどっちかが先に帰っても問題はないはずだ。

それに悪いけど、ウチには食っちゃね悪魔の分も食費がかかるんだ……。
だから最大報酬の大銀貨2枚と銀貨5枚までやるつもりだ。

「大丈夫。すぐ終わらなかったら諦めて帰るから。」
「?そうか。気をつけろよー」

幸い、まだお昼前なので十分間に合うだろう。
バーンと別れると、自分の頬を軽く叩いて気合を入れなおした

「後4匹頑張るか……」


『頑張るのだ!』

……いや勿論お前も手伝えよ?

Re: 半死半生の冒険記 ( No.21 )
日時: 2020/04/01 11:33
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「いちいち名前かかないといけないの面倒くさいな……」
13話の時の名前がバグってます。お前誰だよ。

─────────────────

第14話「悪魔の力と魔力探知」


今日、アロマラットの討伐で試したいことがあった。


呼吸を整え、腕に集中し、魔力をかき集める
腕は黒く侵食し、鋼鉄の禍々しい腕となった。

『だいぶ慣れたようだな。』

……まーね。まだよく分からないけど。
これって、契約の証だっけ。

『そうだ。この偉大なる僕ちんの強力な魔力を契約したお前に与えているのだ。』

くろ丸より強いやつ意外の攻撃は受けないって言ってたな……
それにこれ、地味にかっこいいんだよね。闇のオーラって感じがして。

「アロマラットなら通用するよね。この腕」
『何を言っておる。あんな虫ケラはおろか、もっと力を入れればドラゴンの鱗だって貫通できるわい。リーチだって魔力を込めれば伸ばすこともできる』

ど、ドラゴン……。もう規模が凄いな……。
というか、そんな機能もあったのか。

『まぁじっくり試すがよい。………左前の木の根元に1匹。その後ろの木の上に一匹だ。』

いや、お前もやるんだよ。

伝えたから後はヨロシク、みたいな声でアロマラットの位置を伝えてきたくろ丸にツッコみを入れる
早く帰りたいし、あと少しでお昼になるなってしまう。お腹が空いた状態でクエストをするのは嫌だ。





「うわ、本当に伸びた」

くろ丸の言うとおり、魔力を込めて指が伸びるイメージをしたら、触手のように真っ直ぐと先端に向かって細く伸びた
しかもアロマラットを貫通した。

でもこれ、ちょっと、なんていうか………。……これは封印しておこう。


討伐したアロマラットの尻尾を指で切り、硬化していない方の手で掴む。
隣には、すでにアロマラット3匹の死体の上でかっこつけながら四足歩行のくせに仁王立ちしている黒羊姿のくろ丸がいた。

「は、はや」

「こんなもの、僕ちんにかかればちょちょいのちょいだ!」
「そっか」


ふと、気になっていたことを口に出す

「毎回どうやってアロマラットを見つけてんの?」

アロマラットは草に隠れていて、しかも同じ色のため、短時間で3匹も見つけて倒すのは相当難しいはずだ

「ん?別にただの魔力探知だぞ。」
「……ローナさんも言ってたけど、それどうやんの?」

さっきまでローナさんの存在を忘れていたな……、街に買い物に来てたんだっけ。
一度も見なかったけどもう帰ったのだろうか。
忘れていたことに内心かなり罪悪感を感じながらも、くろ丸の方に向き直る

「それも知らないのか……。今の時代の冒険者は一体どうなっておるのだ……。はぁ、まぁいい。今から簡単に言うからよく聞いておけ。」

逆に昔の冒険者って皆魔力探知使えてたの……?確かに、一昔前が冒険者の黄金期って呼ばれているらしいけど。

「………」

次の言葉を待っていると、
急にくろ丸が思いついたように黙った

「ん?どうしたの?」


羊姿のくろ丸は、かなりわざとらしくお腹を抱えながらペタりと倒れこんだ


「お腹空いたなぁ……」

………なるほど。情報には対価が必要ということか。
急にふてぶてしく見えてきたくろ丸に、全力で嫌そうな顔を作りながら言った。

「……後でオークの串焼き2本」
「6本寄越すのだ。」
「無理、3本」
「5本」
「よ、4本」

あれ以外と高いんだぞ!

「……うむ!ではまず最初に、体のどこからでもいいから魔力を波のように放出するのだ!あまり魔力を込めすぎてはいかんぞ!」

大きなため息を吐いてから、くろ丸を殴りたい衝動を抑えて言われた通りにする。
はいはい、体外放出ね。それくらいならでき──

「あれ……」
以外と難しい?

魔力の調節は幼い頃から初級魔法の訓練で身に付けているので体外に魔力を飛ばすことはできているのだが、
何かに当たった感覚しか感じなく、波のように出すことができない。

くろ丸は構うことなく話を続ける
「では、次にその魔力の波を薄くする。それで物体にぶつかる感覚、反動によって起こる感覚ある程度分かるはずだ!後は、それが何に当たったのかを理解するだけ。要するに慣れだな!」

「…………」

で、できない。
さっきからずっと魔力を調整しているが、波ができない。
何かにぶつかった感じや、サイズはある程度分かるのだが、それが何なのか全くわからない。

ずっと黙り込んでいる僕を不審に思ったくろ丸が、体勢を変えて声をかけてくる
「どうした?…………もしかしてできてない?」

何かを察したくろ丸の顔がにやけている。その顔にチョップを食らわして、晴れやかな笑顔で告げる

「よし、アロマラットは5匹やったし、帰ろう。」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.22 )
日時: 2020/04/02 11:04
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第15話「ワイルドピックと魔術師」


無事にアロマラットを5匹討伐できたので、それぞれの尻尾を切って予備の皮袋に入れる
皮袋は本来小物を入れるものなので、もっとちゃんとしたポーチを今度買おうと思った。

「にしても……」

これだけで大銀貨2枚と銀貨5枚。昨日の掃除という名の重労働に比べると、遥かにマシである。
命と隣り合わせの職業ってよく言うが、逆に一攫千金もありえる職業なんだよな……

ホクホク顔で素材と一緒にギルドまで運ぶ。
「魔力探知の練習でもしとくか……」

面倒くさいが、習得できた時のリターンを考えるとやっておくべきだ。
魔力を体外に放出し、波を意識して飛ばす。……が、やはり難しい。

まぁ、いつかは使えるようになるだろう。




木、木、草、木、草、草
帰り道、とりあえず慣れるために魔力探知をしまくり、サイズが分かったものから名前を当てる
草、木、木、……これは、………何だ?

さっきまでの感覚とは違う、何か柔らかい立体物……
わからなかったので目を開けたが、誰もいない

『もうちょい前のほうだぞ。目を凝らしてみぃ』

くろ丸の言うとおりに前方に目を凝らすと、何やら豚っぽい物陰と……
その豚っぽい物陰の前で、怯えたように腰をつかせた……

「……人?」

え、誰だかしらないけど、状況的にヤバいんじゃないだろうか
魔力探知を解除し、体格が1メートル強ある豚っぽい魔物に向かって走る。
くろ丸!あれ何!?

『ワイルドピックだな。名前通り雑魚のくせに好戦的だが、突進ばっかしてくるので対処は簡単だ。たが、あの鼻の上にある角をいかした突進の威力は馬鹿にならない。……僕ちんからしたら、かゆいぐらいにしか感じないけどな!まぁ、Lv1〜2の冒険者では、相当なダメージを食らうだろうな。ただし肉は美味い。』

相変わらず詳しいな。
そう伝えると、くろ丸が頭の中で自画自賛を始めたのでくろ丸を無視し、ワイルドピックの所まで走る

走りながら腕に集中し、魔力を込める。そろそろこの腕に技名でも付けようかな……。


ある程度人影が見えてきた。転げまわるように怯えながら突進を回避しているので、あまり見えにくいが、
紫のローブに、シンプルな杖、腰にいくつか装飾品のあるので、恐らく魔術師だ。
顔はフードを被っているので見えない。というか、避け方が本当に必死そうだ。

あ、木の根っこに足引っ掛けたな。
それをチャンスと見たワイルドピックが一気に突進してくる

不味い!あの体勢だともろに食らってしまうぞ!

「どりゃあ!」
牽制にもならないが、注意を引かせるために近くに転がっていった握りこぶしぐらいの石を投げつける
「ヒブィッ!」

運良く頭に当たったみたいで、ワイルドピックは一瞬怯むと激怒したようにこちらに向かって大きく吠えた

「へ?」
「下がってて!すぐ仕留めるから!」

状況が飲み込めていない魔術師は呆気に取られているが、
ワイルドピックは僕を標的に変えたようで、ギロリとこちらを睨んでくる


「フビイィィィ!」

物凄いスピードで突進してくる、が、あまりにも一直線だ。
さっきまでもう少しまともな精度だった気がするが、怒りでよく考えていないのだろう
軽く横に回避して、距離を取る。突進した後にワイルドピックは再び足を地面に擦り、突進しようとしている

『今ので分かったと思うが、こやつは単調だ。次で仕留めれるだろ?』

うん。次で仕留める

「ブヒイイィィィ!」

方向が定まったワイルドピックが勢いよく突進してくる。
僕は黒く侵食した腕を構えて、じっと突進を見つめている



「───そこ!」

スシャッ

突進のタイミングに合わせて軽く横にステップし、真横から腕を伸ばして引き裂く
自分の腕が汚れるのはもう慣れないと仕方がないのだが、この肉を抉る感覚はまだ慣れそうにないな……。

頭を切り裂かれたワイルドピックは、その後も突進を続けていたが徐々に勢いを減らし、やがて地面に倒れ付した
水の初級魔法で水を生成し、腕を洗う。
汚れてない方の腕でペタりと座り込んでいる魔術師に向けて手を伸ばす
女の子座りってことは、……さては女の子だな!?

「ふーっ、大丈夫だった?」
「……え、あ、うん。」

僕の予想は正しかったようで、澄んだ女性の声だった。
困惑したような様子をしながらも手を握り返してきたので、悪くは思われてはないだろう

「大変だったね」
「……いや、本当に助かったわ。ありがとね」

ん?さっきから僕の腕を見ているが、何かついているのだろうか。
そう不思議に思っていると、頭の中でくろ丸が呆れたように呟いた

『アランは、僕ちんに人前で悪魔の力を見せるなー!って言ってなかったか……?』

あ。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.23 )
日時: 2020/04/03 10:15
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コント
シーナ「その腕って…」
アラン「君は知り過ぎた。消えてもらう。」
とはなりませんのでご安心ください。
後、閲覧数が200越えてました!ありがとうございます!

────────────────────
第16話「魔術師シーナ」


やばい、どうしよう。状況が状況だったから油断してた!うっかり悪魔の力を見せてしまった。
悪魔召喚って魔術師にとっての禁忌じゃなかったっけ……!?

とりあえず腕に集中していた魔力を戻し、腕を元通りの肌色にする。
急に腕が変わったことで、魔術師は再び驚いたように小さく声を上げた
僕は至って冷静で落ち着いた振る舞いで、何事もなかったかのように話しかける

「ん?僕の腕がどうかしたの?」
「えぇ……!?いや、さっきまで……」
「な、何が?それより、怪我はない?一応回復魔法は使えるけど。後、ワイルドピックの素材は貰ってもいいかな」
こうなったら押し切ろう。

「勢いで誤魔化そうとしてない?」

バレた。

「……よくわかんないな」
「でもさっき思いっきり見たんですけど」
「………気のせいじゃないカナ」

………





僕は今、姿を現した黒羊姿のくろ丸と一緒に土下座している。
いや、あいつは土下座を全力で嫌がったので土下座をしているのは僕だけだな。
だからくろ丸は土下座している僕の背中の上で寝転がっている。後でしばこう

「何でもするからこの事は黙っておいてくださいッ!!!」
「………」

これで断られたらもうどうすることもできない。
顔色を伺うようにゆっくりと顔を上げると、ローブのフードを取った魔術師がいた。

肩あたりまで伸ばした透き通るような水色の髪に、端整な顔立ち、紫のロープと対照的な白い肌と、
随分と可愛い女の子だった。
「わ、分かったから顔上げてって。」

魔術師は少し髪を指でイジりながら、横目で話してきた。
僕は背中に乗っていたくろ丸をはたき落としてゆっくりと立ち上がった

「………助けて貰っておいて、その人の秘密をバラすことなんてしないわよ。……よく分かんないけど、その腕ってバラされたら困るんでしょ?」
「うん。ありがとう」

良かった……、なんとか回避できたようだ。

「いや、お礼は私が言う方なんだけど……、まぁいいや、私はシーナ。まだまだ初心者だけど、Lv3の魔術師をやっているわ。あなたの名前と、……その羊さんは?」

どうやら、シーナはくろ丸のことが気になっていたらしい。
コイツにさん付けしなくていいっすよ。たぶんそういう意味じゃないけど。



「僕はアラ……アレンッ、Lv1の、一応短剣使いです」

いい加減、偽名も慣れないといつかバレるな……。
「で、こいつは……、えっと、……うーん。……ペット?」

結構力を入れてくろ丸が足を叩いてきた

『おい!いくらなんでもこの僕ちんをペット扱いとはいい度胸だな!初めての経験だ!』
しょ、しょうがないじゃん……!あのまま「契約した悪魔です」って言っちゃ駄目じゃん!

「なんか羊さん怒ってるみたいだけど……」
「お、お腹が空いているんだよきっと」

力を更に込めてきた。一発一発は痛くないけど、同じ箇所をずっとぺちぺちされてるので以外と痛い。
シーナは何故かジトっとした目で見てきたが、その視線を無視して先ほど倒したワイルドピックに近づいた。
皮を短剣できって、血抜きを始める

「素材は半々でいい?」
「い、いや、流石に取らないわよ。助けて貰っただけだし」

よし!金欠なので有難く頂こう。ワイルドピックの肉は料理としてもよく使われるので、ワロマラットより素材換金で貰えるお金は多いはずだ!
でも、流石に全部取るのは気が引けるな。

「本当にいらないの?」
「いらない!ていうか、別に倒せないわけじゃないのよ?今日はたまたま後ろから不意を疲れただけで」

後ろからって、ワイルドピックの突進ってかなりの威力なんだけど……

「大丈夫?」
「咄嗟に防御結界を張ったからかなり軽減したし、別にもうなんともないわよ」

なら良かった。
ただ、頭の中で一つの疑問が浮かんだ

「でも、シーナって魔術師なのに何でソロなの?」

魔術師なら僕と違ってどこも重宝されるので、適当に声をかければ入れてもらえる気はするが、何故ソロなのだろう。
魔術師はパーティに入って後方から攻撃魔法や支援をするのが普通だ。剣士と違って近接戦は苦手なので、ソロだと危険度も増す。
すると、シーナは困ったように苦笑いしながら話始めた

「あー………、ほら、私ってアレじゃん?美人さんじゃん?」
「だね」
「いや、そこはツッコみなさいよ……。魔法職の私は確かにどこでも入れたんだけど、……パーティからちやほやされるっていうか……」

なんだなんだぁ?5回立て続けに拒否された僕への当て付けかぁ?
贅沢な悩みだなー。と思ういつつ、言葉を飲み込んで黙って聞く

「魔術師としても大切にされたんだけど、皆私と接し方が違うっていうか……」

………?

「……過去に男性が2人女性が1人のパーティに入ったことがあって」


………あぁ、大体読めた

「そーゆーことね」

断ち切るように話を割った僕に対し、シーナはまた苦笑いをした
「早めに理解してくれて助かったわ。そーゆーこと」


あらかた作業が終わり、ワイルドピックの素材を整理しながら、
僕はシーナに向き合って言った。




「じゃあさ、僕とパーティ組まない?」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.24 )
日時: 2020/04/03 18:03
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第17話「失われた魔法剣」


「……話聞いてた?」
「聞いてた」

突然のパーティ勧誘に、目をぱちくりさせた。
勿論聞いてるし、大体理解した。

「つまりシーナが嫌なのは、自分の容姿のせいでパーティ内の人間関係が崩れるのが嫌なんだよね」

……これ、改めて言うと凄い内容だな。
シーナは戸惑ったように小さく頷く

「そう…だけど。……そもそも、あんたもソロでしょ?」
「うん、一人ぼっちです。でもパーティの結成に必要な人数は2人以上10人以下だよね」

つまり、2人だけでもパーティは結成できる。
実際に、2人だけのパーティで活動している有名な冒険者もいる。
後は、人気のない職業同士で組む場合も多く、別に珍しいわけじゃない。

「それに後一人、パーティに入ってくれそうな奴を知ってるんだ。」
「?」

今日知り合ったばっかなんだけど……。でも今日だけでアイツがどういう奴なのか分かったし、
信用するには時間が少ないけど、その時はその時だ。

「……で、どう?魔法職があるだけで戦いも大分楽になるし、是非来てほしいんだけど……」

シーナはしばらく腕を組んで悩んでいたが、急に吹き出したように笑い
僕が腕で持っていたくろ丸を抱き上げ、もふもふし始めた
『ん?何だ?』

「そーだねー………」


「考えとく。」




断られるより断然上出来だ。あの場で答えを出してもらうより、じっくり考えて入ってもらったほうがいい。
ギルド内の、素材換金窓口で、持ち帰ったアロマラット五匹の尻尾と他の素材を渡す。ワイルドピックもついでに渡す
ワイルドピックの素材を持ち帰るのに1時間かかったのは内緒だ……。
疲れた腕を適当にほぐしていると、入り口から先に帰っていたバーンが慌てたように駆けつけてきた
どうしたんだろう、かなり必死みたいだけど

「バーン、むっちゃ急いでるみたいだけどどうかしたの?」

「アレン!き、聞いてくれ!」

窓口のおじさんに素材分の金を受け取り、腰にかけてある皮袋にしまう
視線は変わらずバーンに向けたまま、話を聞く




「俺の魔法剣がなくなったんだ!」



………知ってたぁ

──────────────────────

冒険者ライセンスの更新した後、お腹が空いてたので屋台で休憩してた時、食べるのに夢中で奪われたのに気づかなかったらしい。
場所は屋台が立ち並ぶ屋台通りの、魚焼きの店でのことらしい。
確かに、あそこは休憩場所のすぐそばに路地裏があったので、恐らくそこで盗まれたんだろう。
魔法剣なんて貴重なものを持っておいて、どうしてそんな無防備なのだろうか……

「つか、何で奪われたの気づかなかったの?背中にかけているなら、流石に気づくと思うけど……」
「ずっとかけていたし、肩も痛かったから外してたんだ……!探すの手伝ってくれ!」

あ、そうだ。

「魔法剣見つかったらさ、僕のパーティに入ってくれない?」

ついでに勧誘しとこう。我ながら性格悪いなと思いつつ、これもパーティ結成のためだと割り切る
バーンは一瞬呆気に取られていたが、すぐに顔を取り戻した

「ああ!勿論だ!」

交渉決定だ。


さて……、
くろ丸ッ!魔力探知だッ!魔法剣には魔力が宿っているから、火属性の魔力を探すんだッ!


『……最初から僕ちんを頼る気マンマンじゃないか。しょうがない、パパっと終わらせて約束のオークの串焼きを早く僕ちんに奢るのだ!』
いえっさー!




魔法剣は、以外とすぐに見つかった。
長い路地裏の中央あたりの扉。薄汚れており、中からは下品な笑い声が聞こえてくる。
窓から見えるだけでも、20人以上は人がいる。しかも、どれもトレードマークのような、剣が二つ交わった背景の真ん中に大きく宝石が書いてある、特徴的な三角巾を着ている

明らかに彼らの物じゃない、豪華な装飾品や、高そうな武器や防具が色んな所に飾ってある。

「お、おいアレン。ここって……」


「……まるで盗賊のアジトだなぁ」
『逃避するな。見ての通り盗賊のアジトだ。』

よし、帰ろう。人数差は10倍以上だ。こんな奴ら相手に殴りこみなんて僕には到底できない。
……バーンには悪いけど、あの魔法剣は諦めてもうしかない。命と天秤にかけるなら断然命の方が重い

『こんな奴ら、僕ちん一人で……』

いや……!いくらなんでも無理だって!帰ろう!
オークの串焼き5本にしてやるから……!

僕は何も見なかったことにして、静かに裏路地を立ち去ろうとしたその時

「おいてめぇら、そこで何をしている」

裏路地の出口には、中に居た奴らと全く同じ服装の、ガラの悪そうな男が3人いた。

「ふぅぅぅーーーーー………」




詰んだ

Re: 半死半生の冒険記 ( No.25 )
日時: 2020/04/04 13:13
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「目次また更新しなきゃ……」
気づいてる人はいるかも知れませんが、目次を追加しました。
今のとこ毎日投稿!でも6日から学校だから更新ペース落ちるかもしんないです……!
後、目次と一緒に作者プロフィールも作ってみたので、是非!(隙あらば宣伝)

2000文字ぐらいで収めたかったんですが、色々と詰め込んで2500以上になってしまいました……
まぁでも、某小説サイトだと1話の平均文字数は4000〜5000って聞きますし!?大丈夫大丈夫!

(長くなって)すいません……。


第18話「盗賊団と聖騎士」



やばい、どうしよう。何も思いつかない
チラリと隣に視線を向けるが、バーンも固まったように口を空けたまま動かない

「……あ、う」


「おい、さっさと答えろ。何してんのか聞いてんだよ!」

黙り込んでいた僕たちに、恐らく盗賊の仲間であろう男はさらに怒鳴りつける
僕はいつでも戦闘に入れるよう、短剣に手をそえて抜刀の体勢に入る。

『やる気か?僕ちんはいつでもいけるぞ。』
いや、むしろ出ないほうが助かるかな……

『何だと!?』
違う違う。

確かに、くろ丸なら目の前の3人ぐらい倒せるだろう。……でも、そうなったら確実に仲間を呼ばれる。
さっき部屋の中を見ただけでも20人以上はいた。悪魔の力をこんな大勢の人がいるところでは使えない。
最悪、大通りまで抜ければ誰か異変に気づくだろうし、ここは頑張って逃げ切るしかない。

僕は、敵に気づかれないように隣だけに聞こえるような小声でバーンに話しかける

「……バーン、僕が抜刀したら全力で大通りまで突っ走れ。そんで、騎士団でも警備兵でも何でもいいから声をかけてきてくれ。」
「ふ、ふざけんな。……俺様に仲間を一人置いて逃げろっていうのかよ!」

焦ったように小声で声を荒げるバーンに対し、僕は冷静な声で諭す

「……逆に武器がないのにどうやって戦うんだよ。足止めぐらいなら5分……、いやごめん、やっぱ3分ぐらいならいけるからさ」
「……け、けどよ」

「なぁにコソコソ話してんだ!こっちの質問に答えないってことは………そういうことでいいよな?あぁ!?」

盗賊の一人が声を荒げ、腰にかけているカットラスのような短剣に触れる。
ったく、こういう奴らって決まって短気だよな………

「……10秒数える。バーンは先に逃げろ。そして助けを呼んできてくれ」
「……お、おい!」


「……10、9、8、7、」

腰から短剣を引き抜く、いつもの戦闘態勢に構える
それを見た盗賊3人は、笑みを浮かべて同じように抜刀する

「話が早くて助かるぜ」

「……6、5、……ごめんゼロ!走れ!」

盗賊がこちらに向かって短剣を構えて走ってくるので急いでカウントダウンを止める。
バーンは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに顔を引き締め、全力で盗賊と反対方向の出口に走っていった

走り出したバーンを見て、盗賊の一人……Bでいいや。左に居た盗賊Bが投げナイフのようなものをバーンの背中に向けて投げる
「逃がすかよ!」
「させるかよ!」

その投げナイフを持っていた短剣で弾く。丁度真上に弾いたのでついでにキャッチ

「これ要らないなら貰うよ、っと」

右に自分の持っていた短剣、左に受け取った投げナイフを構える
決めポーズみたにしているが、今のは我ながらカッコよくないだろうか。

………くろ丸と契約してから、反応速度と敏捷さも上がった気がするな
盗賊は怯むことなく、むしろイラついたようにギロりとこちらに視線を向ける

「カッコいいことしてくれるなぁオイッ!」

『ちゃんと前見ろ。』
「あ、っぶな!」

すぐそこに盗賊3人の走ってくる姿があった。
ギリギリまで迫っていた盗賊Aの縦に振り下ろされた短剣を咄嗟に弾く。

弾いた後、そのまま無防備な腹に向かって蹴りを入れる。
後ろに下がって距離を取ろうとするが、右にいた盗賊Cが同じ短剣で追撃をしてきたので、しゃがむように回避する。
反撃が怖かったのでそのまま転がるように背後に回り、距離を取る

転んでもタダでは起きてやんないぞ!

「そこ!」

背後に回った後、盗賊Bの足に下段蹴りを入れて転ばせる。
盗賊Bは倒れる時に頭打ったようで、頭を抑えてもだえている


アレ……?以外といける?


そのまま後ろにステップし、体勢を整えようとする、

順調に思えたその時、

「このクソガキッ!」
「うわぁっ!」

倒れていた盗賊Bは僕に向かって手を伸ばし、皮鎧のズボンを掴む。
受身を取れず、そのまま崩れるように横に倒れる

……あ、やっば

それをチャンスと見た右後ろにいた盗賊Cが容赦なく蹴りを入れる

「おらよッ!!」

「がふっ!?」

わき腹に激痛が走り、押し上げられた胃から嘔吐感が込み上げてくる
不味いッ!

ズンッ!

立ち上がろうと手に力を込めるが、その上から足が勢いよく踏みつけられる

「……う、ぁッ!」

踏みつけられた手が変な音立てる。激痛から力が入らない。
何とか目線を盗賊のほうに向ける。
盗賊Aと、倒れていた盗賊Bがゆっくりと起き上がり、近づいてくる
その後ろのアジトから、次々と仲間らしき人達が出てきている


……本気で、やばいかも。



真ん中の盗賊Aは体についた土埃を払うと、うつ伏せになって倒れる僕の背中に足を乗せる

「身なりからして冒険者。……Lv3か4ってとこか?ただのガキかと思えば以外と手こずらせやがってッ……」

盗賊Aは、手に持っているカットラスを倒れている僕の首元に添える。
鋭利な刃物を近づけられ、頭が危険信号を出している。

そのままカットラスを振り上げ、狙いを定めるように手を泳がしている
「まぁー、勉強になったろ?ベルクード盗賊団に逆らうとどうなるかってな!」



くろ丸の、怒ったような声が響く

『もう我慢できんッ!!出させてもら「──そこまでだ」』


そこに被せるように、よく響く声がした

『んぅ!?』


くろ丸は、出鼻をくじかれたよな、戸惑った声でうろたえた
痛みを堪えて顔を動かす。路地裏の暗さに慣れていた目が、急な光によって眩む

誰だ?

足を乗せていた盗賊も、警戒したように下がってじっと見ている
「誰だてめぇ!」

段々と光に慣れ、姿が見えてくる。
バーンが呼んでくれたのだろうか、随分と早い。
……後でお礼言わないとな……。


「こんな路地裏で少年に恫喝とは関心しないな」

凛とした、路地裏全体に響くような声がする
まず目に入ったのは黄金に輝く光を放つような髪と、綺麗な碧眼に整った顔立ち。
次に、すらりとした長身に存在感を放つ、真ん中に盾と剣の紋章青が入った騎士服のようなもの。

あれは……帝国騎士の紋章だったはずだ。子爵だった時に帝都にも何度か行ったから見かけている
でも、僕が見た帝国騎士より、大分服装が豪華なような……


「てめぇが誰だって聞いてんだよ!」

盗賊Aは痺れを切らしたように怒鳴る。
だが、後ろにいる盗賊のうちの、何人かは察したように顔を青くして黙り込んでいる


颯爽と現れた男は、顎に指を当ててゆっくりと言い放った



「そうだな……、聖騎士っていったら伝わるかな?」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.26 )
日時: 2020/04/05 11:07
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者「ぼくにねぇみんぐせんすをもとめないでね」
明日から学校だぁ……


第19話「聖騎士レオニクス」




帝国には聖騎士隊という帝国騎士団を統べる最上位に位置する騎士隊がある。
『聖騎士』は、帝国騎士団の中で優れた騎士が実績や信頼を得て皇帝から授かる称号だ。
ある者は竜を殺し、ある者は数多の戦争で活躍し、ある者は武勇や名声により授かった
帝国の男性なら誰もが一度は憧れる騎士の中の騎士。

それが、聖騎士






「なっ……!?」
『何だこやつ!?』

盗賊Aは驚愕の表情を見せ、怖気ついたように一歩下がる
後ろの盗賊達から色んな声が聞こえてくる。
盗賊Aはすぐに振り向き、後ろの盗賊達に怒鳴りつけるように指示を出す

だが、その声も震えが滲んでいる

「……い、急いで伝達係に伝えてこい!緊急Bだッ!」

緊急Bとは、何かの作戦の名前だろうか。

盗賊団は、我先にと逃げる者や、テンパってワタワタと動き回っている者がいて、
統制もロクに取れていないようだ。何人かは何故か屋根に上って逃げようとしている。
ただ、聖騎士はそれ止める様子はなく、ただジッとアジト見つめている


すると、聖騎士の後ろから聞きなれた声がした

「──大丈夫からアレンっ!はぁ……はぁ……、後…おっさん……速すぎ……」

「バーン!大丈夫じゃないけど助かった!」

息を切らしたようにバーンは壁に手をつけながら、呼吸を整えている
そこで、バーンの魔法剣が盗まれていることを思い出す

「……あっ、バーン!魔法剣がまだアジトの中だ!」

「分かった!」

踏まれた右手を引き戻し、左手で立ち上がろうとする。
蹴られたわき腹から痛みが走り、再び倒れる
それを見たバーンが慌てたように寄ってくる

「だ、大丈夫かアレン!?」

「……おっと、すまない!まずは君の救助が先だったね……」


聖騎士は何かを呟くと、左手を僕に向かってかざした

「……?」

聖騎士の左手から緑色の光が放たれ、僕の体を包むように纏う
さっきまで感じていた痛みが緩くなっていき、体が暖かくなっていく

「……回復、魔法?」
「初級だけどね……。気休め程度だから、無理はしないほうがいい。」

初級にしては効果あり過ぎじゃないだろか……?
初級っていったらアレだぞ。かすり傷負った時に使うような魔法だぞ。

「後、バーン君だっけ。魔法剣は僕が取りに行って来るから君は待ってて」
「え、あ……」

聖騎士はそういうと、ゆっくりと部屋の中に入って行った

「……中にまだ人いるんじゃ」



バギンッ ドゴッ ガッシャアァンッ!
「……こ、こっちに」ガンッ ドンッ!
「ひっ」バキッ!「……く、くんなああぁぁ……」パリンッ!



『まぁまぁだな』

「………」

何か、大地震があった時の家みたいな音するんだけど……
中で何が起こっているのかを想像しながら、痛みも大分マシになったのでゆっくりと起き上がる

「……も、もう何もしない!本当だ!……」

ガッ……ドンッ

乱れた服を手で直していると、扉と一緒に盗賊の一人らしき男が吹っ飛んできた。
見事に気絶していているが、死んではなさそうだ。

はは……やっば。

バーンと目を合わせて苦笑いしていると、中から入っていった時と同じ足取りでゆっくりと聖騎士が出てきた
手には赤く、黄色の紋様が入った鞘に、宝石のついた柄がある剣

バーンの魔法剣だ。

「バーン君の探し物はこれかな?」
「おぉ!それだそれ!おっさんありがとな!」

「……おっさんって呼ばれるような歳でもないけどなぁ」

バーンは魔法剣を受け取ると、確かめるように素振りを始めた
聖騎士はバーンが素振り始めたのを見て、僕のほうに向き合った

何か、言わなくては。

「本当にありがとうございました!……えっと」

……名前なんだろう。
聖騎士なんて誰もが知ってるから名前さえ聞けば思い出すと思うのだが……

「レオニクス」
「え」

「レヴァイア・デューク・レオニクス。それが僕の名前」

「はあぁぁぁぁ!?」

素振りをしていたバーンが仰天したように反応する。

「あー、あれね。うんうん。」
……あらやだ。伝説の聖騎士隊の隊長さんじゃないですかぁ!
バーンさっき思いっきりおっさんとか言ってたけど死刑確定なんじゃないかな。

「と、とりあえず土下座……」

駄目だ。もう子爵じゃないけど、子爵だったとしても天と地の差があるようなお方だ。
……そう言えば僕、先に名乗らせちゃったんだけど……侮辱罪で死刑だろうか。
やだなぁ……。死にたくないなぁ……。

「んんー!?何で土下座!?いいっていいって!」

地面に手をついて頭を下げてきた僕に対し、レオニクスさんは慌てて体を起こしてくる
あぁ、イケメンって性格と比例しないと思ってたけど違うんだ……。

「さ、先に名乗らせてしまってすいません……。僕はアレンです」

「そんなことか……。別にいいよ!僕はそういうの気にしないから!」


あぁ、もう信者になるわ。
とりあえず素振りを再開したバーンの頭を引っぱたいてお辞儀させる

「バーンもお礼、言わないと」

「ん?……あぁ!おっさnべふっ!?……レオニクスさん、ありがとな!」

こ、こいつ……。途中で一回叩いたのに堂々とタメ口……。
レオニクスさんは、何故か小さく吹き出して笑った

「うんうん、元気だね。」
「はい……、馬鹿がすいません……。本当にありがとうございました」
「馬鹿って誰だ!」
「お前だよ」

「じゃあ、僕は戻るからまたどっかで会おう。それと、もう路地裏とか、危険な所に行っちゃ駄目だよ?じゃあね」
「はい!気をつけます」


路地裏を抜けて大通りに出る。レオニクスさんはまだ調べることがあるそうで、もうしばらく残るそうだ。、
やっぱり大勢の人がいるので所々から声がするな……。
後ろからバーンが背中を叩いて肩を組んできたので、とりあえず受け止めて一緒に歩く。
まだお昼過ぎだが、今日はもう疲れたし、適当にブラブラ歩くのもアリかな……


『どうでもいいが早く僕ちんにオークの串焼きを奢るのだ!はーやーく!』

居たんだ。

『!?』

Re: 半死半生の冒険記 ( No.27 )
日時: 2020/04/07 10:09
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「昨日更新サボってすいませんでしたあああぁぁぁ」
リアルでちょっと色々ありまして……。週末は2回投稿するつもりなんでゆるちて……
レオニクスこと、レオさんは後で人物紹介に増やしておきます。


第20話「パーティ結成」



この街に来てから3日目。
まだ3日しか経ってないとも言えるが、いかんせん内容が濃すぎて1週間に感じる今日この頃。
アロマラットのクエストを達成した後、ロクに受付人と話しもせずにバーンの魔法剣を探しに行ったので怒られてしまった。

相変わらず行列のできている隣の受付に苦笑いし、別にいないわけでもないけどやっぱり人が少ないジェラルドさんの列に並ぶ。
冒険者ライセンスを更新し、右上にある数字が変わっていることに気づいた

「Lv……2。」

なんか、パっと変わったから実感ないな……
けど、これで赤クエストボード、言っちゃえばもっと危険なクエストに挑むことができる。
冒険者ライセンスをボーッと見つめている横で、バーンもLvが上がったとはしゃいでいる。

「本当は昨日のうちに伝えたかったんだけどな……。まぁ、おめでとさん」

受付人のジェラルドさんが困ったように苦笑いしながら小さく拍手してくれた。
「これでLv2だ。今までは緑のボード、雑用や一般人でもできるような討伐クエストしか受けれなかったが、Lv2以降は赤の赤ボード、言えば本格的な討伐や採取、指名依頼なども受けれるようになった。簡単に言ったが、わからないことがあったら聞きに来い。」
「はい!頑張ります!」

隣ではしゃいでいたバーンが、興奮したように声を上げながら肩を組んでくる

「アラン!早速赤いクエストボードから何か行こうぜ!」

僕も今すぐに行きたい所だが、まだ大事なことが終わってない。
「の前に、ジェラルドさん、パーティの結成をしたいんですけど……」
「ああ、パーティね。おーけー、ちょっと待ってろ。」




「この石版は?」

ジェラルドさんが奥に行って持って来たものは、ライセンスを更新する時に使う石版に似たような物だった。

「ここにパーティに入る人の指紋を読み込んで、パーティ名を中央の四角いところに書くんだ。」

相変わらず仕組みがよく分からないけど、ここはそういう物だと飲み込む。

「パーティ名、か……。」

ぶっちゃけ何でもいい。

……そもそも、パーティ名というのはある程度実績や信頼を得て周りに認知される。
パーティ結成の際にどのパーティもパーティ名は決めるのだが、Bランク以上になってから覚えられることが多く、
そのため、あまり成長の見込みがないCランクのパーティ名など誰にも認知されない。(だからパーティ名だけ派手なCランクパーティなど良くある)
重要ってわけではないが、適当につけたらそれはそれで呼ばれる時に困る……

どうでもいいわけではないが、それっぽい、カッコいいパーティ名にしたいな……
バーンがたくさん閃いたらしいので、とりあえず聞くとする

双炎ツインフレイム!」
「却下。カッコいいけど、別にこの先も二人だけってわけじゃないだろうし……流石に」

炎獄ヘルフレイム!」
「僕の要素皆無なんだけど。」

「炎剣と短剣!」
「だっさ」

駄目だコイツ。
そういう僕も何一つ考えていないのだけど。なんかこう、イタいパーティ名は後々後悔しそうだしなぁ。

うーん、どうしたものか。
こういうのって、以外と簡単なものでもいい気はするけどな……

龍……火炎……花…剣……白……うーん、何か違う。

イタすぎず、単純すぎず……
と考えていると、ジェラルドさんが珍しく呆けたような声を出した

「あ」

振り返ると、何やらバーンが石版に向かって書き込んでいる。
突如、機械的な声が石版から聞こえた

『Cランクパーティ名「超炎魔焔絶剣」を新たに登録します。──登録完了しました。』


────はぁ!?


「よぉしっ」


ガッツポーズを決めたバーンの頭に思いっきりチョップし、両頬をつねる
ジェラルドさんは何故かお腹を押さえて肩を震わせている。何故だろう。

「よし、じゃない」
「は、はひふんだほ!」

「何すんだよ、じゃないよ!僕のセリフだよ!」

まず超炎魔焔絶剣って何……。意味わかんないし語呂が悪すぎる……。

「はっほいいはん!」
「かっこよくない!5年後とかに絶対後悔するタイプの名前だよこれ!」

さっきからずっと笑っているジェラルドさんに、睨むように質問する

「ジェ、ジェラルドさん。これって変更できないんですか……?」
「……すまーん!」

「あ、ちょ!?奥に逃げんなー!」


………その後、何度も石版をイジったが、変更はできなかった。

こうして2人組のCランクパーティ「超炎魔焔絶剣」は新たに誕生した


────────────────
作者コメント「超炎魔焔絶剣ッッッ!それはッ!特に意味はないッッッ!」

Re: 半死半生の冒険記 ( No.28 )
日時: 2020/04/07 21:13
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

ほいっ!昨日の分!これで許してつかぁさい!
(真面目な話、学校が始まったら毎日更新は厳しいかもです……)

閑話です。主人公視点じゃないのでそこには注意を。
とりあえず書きたい設定を書きまくったので、ネタというよりシリアス寄りですね。



第21話「最悪の予兆」




「ジェラルドさん、このクエスト受けたいです!」

「分かった。……ほい、今回のクエストはお前らが普段行っている森の奥の、バルク山だ。おうとつの激しい傾斜面や隠れるものがないから、当然危険度も増す。持ち物や地図をちゃんと確認してからいって来い。」
「分かってます!行って来ます!」

最近冒険者になったばかりの、明るい白髪の少年と赤い少年にに手を振って送り出す。
Lv2となり、赤クエの受注が可能になった今が、一番駆け出し冒険者にとって危ない時期なので、しっかり注意をする

俺はジェラルド、この冒険者の街バルドラインでギルドの受付人として働いている。

受付人というのは、ただクエストを受注しにくる冒険者を待つだけの仕事じゃない。
日に日に積まれていく書類の整理や、クエストの取り寄せなどもあるが、厄介なのは……

「──お前が抜かしたんだろうか!」
「何ほざいてやがる!元々俺が居た所をお前が割り込んできたんだろうが!」

冒険者同士の喧嘩の仲裁だ。
もう20年もこの街で過ごしたわけで、冒険者にこういう輩が腐るほどいるのも、もう慣れた。
別に慣れたからって、怖くないわけではない。筋肉ムキムキの大男の喧嘩なんて関わりたくもないのだが、
放置するとそれはそれで厄介なことになる。殴り合いで椅子やテーブルが折れるのはしょっちゅうある。
別に弁償させるのでどうでもいいのだが、……周りにいる暇な冒険者が煽るのだ。
火に油を注ぐようにワイワイされるので、無視して自然消滅を狙ってもたいがいが大事になる。

だから、そうなる前に受付人という立場を利用して鎮火する必要があるのだ。

「んだとぉッ!?」
「あぁ!?上等だゴラァ!」

「──冒険者規約第6条、ギルド内における暴力沙汰は如何なる理由があろうと禁じる。」

「……んあ?」

「そうだな、罰則は金貨5枚か冒険者ライセンス剥奪、もしくはその両方が課せられます、と。」
「………」
「金貨5枚って、高いよな。払いたくないよな。冒険者ライセンスもなくなっちゃったらギルドからの支援は一切受けれないしクエストの受注も無理だ。そんなんで生計は立てれないよな。」

「………」
「つーか左のおっさん、この指導も二回目だよな。2回目以降は反省の色がないとみなして罰則も厳しくなるって知ってた?」


……さて、堂々と啖呵きったけどこれで逆上されたら「上に報告する」という最終切り札を使うしかない。
頼むッ!いい年したおっさんなんだから分かってくれッ!怖いの無理ッ!



「………………チッ」

よし、何とかなりそうだ。

「どうしてもエルマさんの列に並びたいならジャンケンだ。……それでいいな?」
「……わーったよ。クソッ」

─────────────────

「はぁぁぁ、疲れた」

別に冒険者同士のいざこざなんて珍しくもないが、こう毎日されると精神的にくるな……
今は、ギルドの関係者のみが入れる休憩室で、1時間の休憩を取っていた。
自分の肩を適度に叩いていると、同じテーブルに水の入ったコップが二つ置かれる。

「ジェラルドさん、お疲れ様です!」
「あぁ、エルマさん、お疲れ様です」

元気に挨拶してきたのは、いつも俺の隣の受付口で行列を作っている美人受付嬢こと、エルマさんである。
渡されたお水を有難く頂き、何か話題になるものを考えていると、向こうから話を振ってきてくれた。

「さっきは大変でしたね……」
「……まぁ、大変っちゃ大変ですけど、これも俺の仕事の一つですし。」

「でも、エルマさんも凄いですよ。冒険者の行列を毎日こなしてるんですから」

本当に凄い。俺なら半日でギブだ。
それでいて、こんなに元気なのも更に凄い。
俺のあまり考えずに行った褒め言葉に対し、照れたように手で否定する。

「そ、そんなことないですよ。」

美人は居るだけで徳だ。
荒んだ心が浄化されていく……



しばらく、他愛もない話で時間を潰していると、
エルマさんが急に真面目な顔をして聞いてきた

「……そういえば、聞きました?」
「ん?何ですか?」


「バルク山で、緑竜が確認されたらしいです。それも、死体の状態で。」
「なっ……!?」

何で、そんな大事がギルドに伝わってないんだ?緑竜は竜種の中でも弱い位置にあるが、それでもBランクの上位モンスターだ。
その緑竜を越える魔物が街の近くで出たとなれば、当然大騒ぎになる。

こちらの疑問が分かったのか、エルマさんが慌てたように訂正する。
「あ、でも!この情報が入ったのは今朝のことなので知らなくてもおかしくはないですよ!」

「……調査クエストは?」
「もう司令部が出しました。Bランク以上で受注可能。もしその魔物を捕らえることができれば報酬は金貨100枚。その魔物に関する情報提供で金貨1枚。帝国騎士団の方も調査しに来てるらしいです!」

金貨100枚……。多い気もするが、
まぁ、緑竜を超える魔物となれば妥当な値だろう。
最悪、Aランクモンスターである可能性もある。

「……そうですか。後で調べておきます」
「ただの噂かも知れないですし、そんなに気をつめなくても大丈夫ですよ!」

「でも、緑竜の死体があったのは確かなんですよね?」
「それは、そうですけど……。あぁ!急に怖くなってきたのでやめてください!酔っ払った冒険者の報告だし、う、噂だー!」


酔っ払いの証言かよ……

彼女の言うとおり、ただ見間違いかもしれない。


……ただ、何なのだろう。



いつにも増して嫌な予感がする

Re: 半死半生の冒険記 ( No.29 )
日時: 2020/04/08 22:04
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「一回書いたの全部ボツになりました」(死んだ目
遅くなってすいません……。でも萎えてたんです………。
まだ閑話続くので、主人公視点に戻るのはもうちょい先です。
とあるおっさん冒険者の視点です。


第22話「調査クエスト開始」



「ガンズ、お前も調査クエストを受けるのか?」
「あったりめーよ。こんな美味しいクエストを受けずにいられるかよ」

緑竜を倒したとされる未確認魔物の討伐で金貨100枚、その魔物に関する情報提供だけでも金貨1枚。
ギルドが何考えてんのか知らねぇが、俺にとっては美味しいクエストだ。
隣にいる、弓使いのエイクが興奮したように声を上げる

「噂じゃ、あの『天地雷鳴』にギルドが直々に指名したらしいぜ……?」
「へぇ……、面白そうじゃねぇか」

あのAランク様がねぇ……。いったい何が出ると思ってるんだか。
だいたい、緑竜は竜種でも下位に位置するドラゴンだ。俺はソロで討伐したことがあるし、
自慢じゃないが、俺は『豪腕のガンズ』として有名だ。Lv6の俺が、今更緑竜如きに何をビビれと言うんだか。

調査クエストを受注し、集まったBランク以上の冒険者で入り口に人だかりを作る。
受付人のジェラルドが先頭に立ち、腕を上げて注目を集める。

「あー、一旦静かに。……これより、調査クエストを開始する。点呼すっから、今から自分のパーティ名が呼ばれた奴は反応しろ。いいな?」

次々にパーティ名が呼ばれ、聞いたことのあるパーティや、全く知らないパーティもいる。


「……次、『静寂の狩人』、『豪腕鉄血』、『花鳥水月』。以上、全員いるな」

全員……?
そこで俺は、ある名前が呼ばれていないことに気がついた

「おい」
「ん?何だ?」

「天地雷鳴が来るって聞いたんだが、いねぇのかよ」
「……いつもどこから情報が漏れてるのか知りたい所だが、……彼女達は先に行った」
「はぁ!?じゃあ電光のレベッカに先を越されるじゃねぇか!さっさと行かねーと報酬すらないぞ!」

俺の声に反応した他のBランク冒険者が賛同の声を上げる。
冗談じゃない。無駄足なんてごめんだ。

広まった野次に怯むことなくジェラルドは落ち着いた様子で説明する

「行く前に説明だ。いいか、今回行くクエストはただの調査クエじゃない。あの緑竜だってやられている。調査対象の魔物は最低でもB+、……最悪はA+の可能性もある。調査隊も何人か同行させるから、くれぐれも油断しないように。……後、帝国騎士団も来ている。それくらいの事態だと思って行動しろ」

A+級の魔物が出るという最悪の予想を聞いて、Bランク冒険者の何人かが不安そうにしている。
無理もない。Aランクモンスターってだけでも、街が滅ぶ危険性は十分ある。

思わず静まった空気を見て、ジェラルドが面倒くさそうにため息をはく

「……オイオイ、まさかベテランの冒険者共がビビってんのか?安心しろ。あの天地雷鳴が来ているんだ、ヤバい奴らが来ても大丈夫な戦力だ。気楽に行け、とは言わないが、そんな深刻そうな顔すんな。」



「では、行って来い。」


ある者は自身ありげに、

またある者は神妙な顔つきでバルク山へと向かった





一方、その頃アラン達は


「ワイルドピッグって、もっと森林の中で住んでるのかと思ってたぜ」

「生息地が他の魔物に比べて比較的広いからね。まぁすぐ見つかるでしょ。」



クエストのため、バルク山へと足を運んでいた

Re: 半死半生の冒険記 ( No.30 )
日時: 2020/04/09 20:44
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第23話「魔力汚染」



まだ調査隊が派遣される前のこと
めでたくLv2になった僕たちは、解放された赤クエを早速受注していた。
適正難易度もLv2〜3と、今のレベルに適しており、十分に戦えるはずだ。

「今回お前らが受けるクエストは、いつも行ってるウルリア森林の奥、バルク山だ。」
「はい!」

勿論知っている。というか、この辺りの地形なら冒険者になる前に全て頭に入れてる。
バルク山はあれだ、なんか、荒々しい山だったはず……。

「そこに住んでいる魔物は比較的ランクの低い魔物だらけだから、油断せずに挑めばいけるはずだ。だだ、稀に地渡りしてくる竜もいるから、……まぁ、祈っておけ」
「急に不安になってきました……」

竜とか、僕たちが逆立ちしても勝てそうにないよ……。
地渡りというのは、竜に限った話でもないが、そこに住んでいた魔物が何かしらの理由で場所変え、前までいなかったはずの魔物が新たにやってくることである

「来たとしても緑竜だけだ。本当に稀だし温厚だから、自分から攻撃しかけるようなことさえしなければ大丈夫だよ」

「俺の魔法剣なら、竜の鱗だって貫通できるしな!」
「はいはい……」

汚れた短剣の鞘を洗い、持ち物を確認する。黒パン、水、地図、お金が入った皮袋
バルク山は少し遠いので、昼飯の分も入れてある。日が暗くなる頃には帰れる算段だが、もしものために黒パンは4つある。
ただ、黒パンは硬いので大丈夫だが、皮袋の中がパンパンなのでそろそろちゃんとしたポーチが欲しいな……。

よし、このクエスト終わったら奮発してちょっと高いポーチ買おう。
自分へのご褒美を考えて、出発前にやる気を出させる


「じゃあ、行ってきます」
「おう」


───────────────────────

バルク山までは、ウルリア森林から整備された道があるので、それに沿って進めば確実に着ける。
アロマラットのクエストで散々お世話なった、見慣れた森の中をサクサク進み、バルク山へと着く。
草木が生い茂る森から急に荒々しい山が出てくるので、急に景色が変わったように感じる。

森を出たとき、肌に粘りつくような嫌な悪寒がした
一瞬のことだったが、あの悪寒はしばらく消えそうにない

「………?」
「?どした?具合悪いのか?」

……気のせい、か?


僕の前で鼻歌を歌いながら歩いていたバーンが何か見つけたのか、急に立ち止まって屈んだ。
つかさっきの歌、帝国騎士団の軍歌じゃん……。帝国騎士に憧れているのだろうか。


「おいアラン!足跡あるぞ!きっとワイルドピックのだ!」
「ん……だね。」

相変わらず声のでかいバーンに対し、控えめな声で返事する。
他の魔物に気づかれるからボリュームは下げて欲しい。

僕の声が小さかったのが気になったのか、バーンが心配そうな顔で見てくる
「……なぁ、やっぱ具合悪いんじゃないのか?無理ならまた明日にするか?」
「あぁ、心配させちゃってゴメン。今日声がガラガラだから、ボリューム下げてるんだよ」

……バーンにはあんま心配をかけたくない。
ちょっと無理にでも元気にしよう。

「そうか。ならいいぞ!ワイルドピックはこの近くにいるはずだ、気を引き締めて行くぞ!」
「おー」



……ねぇ、くろ丸

『……ん?どした?』

なんか今日、空気が変っていうか、空気中の魔力?が嫌な感じなんだけど。


なるべく無視してるが、やっぱりさっきからずっと嫌な感じがするのだ。
バルク山がそういう場所なら割り切るしかないが、ここまで来ると変に感じてしまう。
くろ丸は、やれやれと言った感じでため息を吐くと、簡単に説明してくれた。

『アランはあれだな、精神系の魔法攻撃への耐性がないんだな。それで、魔力量も多いから余計に感じるんだな。』

??どゆこと?何かされてるの?

『……微弱にだが、この辺り一体に邪悪な……いや、狂った魔力が大量に放出されている。そのせいで空気中の魔力が汚染されているのだ。』

へ、へー。そうなんだ。
……それってもしかしてヤバい?

『やばいな』

…………昼飯抜きな。

『!?ぼ、僕ちんにかかればあんな奴、2秒で懲らしめることができるぞ!』

あんな奴、ってことはやっぱり黒幕がいるのか……。
よしっ


無視しよう。

『……?倒す流れだと思ったんだが。』

嫌だよ。そんなの僕たちの仕事じゃないでしょ。
ちゃんとクエストとして出すなら、くろ丸がしてあげてもいいけど……

『いや、僕ちんがやるんかい。』
いえす。


くろ丸と話ながら歩いていると、前にいたバーンが驚いたように声を上げた。
「お!ワイルドピックがいたぞ!あっちの大岩の、裏…に。……ん?」

最後の方、バーン声が疑問系に変わったので気になって近づいてみる
「どうしたの……って」


まず目に入ったのは、ワイルドピックの下に作られた血溜まり

次に目に入ったのが、


ワイルドピックを膝の上に乗せて食べている、大きな黒い熊の姿があった。
口には、血と、何故か紫に発光している汚い涎、目は異常なほど血走っている。
額に赤い×印があり、丸太ほど太い腕は、本で見たことがある。

バルク山の主、グランドベアーだ。


はは、お行儀悪いですこと……


揃って固まったように動けないままでいる僕たちに、熊は食べかけのワイルドピックを持ったまま、こちら見ている。
そして遅れたように、さっき感じた悪寒が走ってくる。

「ぐっ………」

……こいつかよ!
『コイツだな。』

熊はのそりと起き上がり、持っていたワイルドピックを放り投げると、地面を揺るがすような咆哮を飛ばした

グオオオォォォォォッ!


………行くんだくろ丸ッッッッ!つか助けてくろ丸ぅッ!!

『……はぁ』

Re: 半死半生の冒険記 ( No.31 )
日時: 2020/04/10 23:37
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コメント「夜分遅くに申し訳ございませんッ!」
それとお知らせ:人物紹介と目次を更新しました。
後、タイトル変えようか迷ってます……。半死半生の要素が冒頭しかないので……。
変えたとしても、「〜の冒険記(※旧題:半死半生の冒険記」と書くのでご安心を。
戦闘描写が相変わらず苦手です……。


第24話「喰ラウ者」



グランドベアーは咆哮を上げた後、四足で狼のように身軽に走ってきた

はっや!……って違う!
くろ丸、我を守りたまえぃ!

『いや、バーンがいるから力は見せられん。頑張るのだ』

本当にコイツヤバいんだって!B+が僕に倒せるわけないだろ!
前を見ると、所々生えている小さな小木や石を無視するように熊が猛烈な勢いで突進してくる。
少しでも触れたら僕じゃ吹き飛ぶので大袈裟に横に回避する。

だが、


「バーン!避けろ!!」

「……ぁ」

未だに固まって動けないバーンに、無慈悲に熊は突撃していく。

「やめろぉッ!」

咄嗟に腕に魔力を込め、瞬時に集中させて黒く染める。
そのまま指を伸ばし、触手のように熊に向かって伸ばす

『おいっ!』
知るかっ!

黒く侵食した指は、勢いよく熊に向かって伸び、毛皮を貫通して太い足に突き刺さる
届いたっ!つか刺さるんだ!
グランドベアーの分厚い毛皮さえ貫通するくろ丸の力を見て、少し自信が沸く
……足を怪我しているから、さっきみたいな速度は出せないはずだ。それなら僕でも……


───しかし、熊は傷口を気にも留めずに、再びこちらに向かって吠えた

全ッ然怯まないんだけど……。痛くないのか……?
『おい、集中しろ。また来るぞ』


さっきの何ら変わらぬ速さで熊が突進してくる。

当然、足に負荷がかかり、足にできた傷口が大きく広がる
血は溢れ、見るからに危険な状態だが、それでも熊は足を止める気配はない


「…は……」

狂気すら感じるその行動に、呆然としてしまった。
その一瞬で対処が遅れ、突進が直撃する

「……しまッ!?」

突進が直撃する前、何とかガードが間に合い、強化した腕で押し付けるように防ぐ。
ある程度の痛みは覚悟したが、流石というか、腕に痛みは全く感じないが、衝撃で体が持ちこたえれずに吹き飛ぶ。
熊はそれをを逃さず、追撃するように乗っかってくる。

「がっ……ぁ」


体が裂けそうな質量が乗っかり、意識が飛びそうになる

全身を力ずくで押さえられ、締め付けられた骨が悲鳴を上げる
目の前には目が血走った黒い熊の顔、そして何故か紫に発光している涎



……あ、死ぬ。



意識が不安定になり、抗おうと力を込めていた腕が少しずつゆるくなっていく


完全に落ちかけた視界の隅で、何かが光った。
……炎…?



次の瞬間、怒号と共に燃え盛るような巨大な炎を纏った剣が横から薙ぎ払われる。

「どきやが、っれええぇぇぇぇ!!」


渾身の魔法剣は、グランドベアーのわき腹に深く刺さり、転がるように熊は吹っ飛んでいった。

「はぁ……はぁ……、これで…いったろ……。大丈夫かアラン!」
「大丈夫じゃ……ないかな……」

「大丈夫だなっ」
こいつ



くろ丸が、安心したように一息つく

『まったく……心配させるな。』

くろ丸も、ゴメン……
『まったくだ。』
うーん。


薙ぎ払った魔法剣を鞘に直し、バーンがゆっくりとグランドベアーの死体に近づく。
よく分からないけど、相当ヤバい奴のはずだ。ギルドに戻って報告するべきだな……
この森の張り付くような空気も、まだ残ってはいるが、だいぶ和らいだ。

「とりあえず、これどうやって持って帰ろうかな」

これ、というのは勿論熊のことである。サイズが大きいの帰りの距離を背負って歩くのは相当厳しいだろう……。
「うげ……アランはコイツを持って帰るつもりなのか?」
「うん。B+ともなればだいぶ貰えると思うし。固体としては……かなり変だったけど。」

恐らく、今日のことを伝えればギルドの方から徹底的に調べられるはずだ。
そう思うぐらいには、この固体は色々とおかしかった。


そこで、死体の状態を調べていたバーンの手が止まる。

いつもとは対照的な、かなり控えめな声で呟く
「……………なぁこれ」
「ん?」



「まだ生きてるっぽいぞ」

次の瞬間、腹の裂けた熊が、両手を上げて僕たちに遅いかかかってきた。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.32 )
日時: 2020/04/13 07:52
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

おはようございます。

そしてまず、3日ほど何の更新もなくて、申し訳ございません……!

言い訳させて貰うと、緊急事態宣言もあって高校の入学式が中止になって、説明会になったんですよ。
それで5月6日まで休校になり、その間は週に一回しか登校日が設けられなくなったんです。
当然課題も出されて、さらに自転車通学の試験もあったので、一昨日は勉強と課題に追われていました。

ところがどっこい、教育委員会の方から感染拡大が早まってるぅ〜なんちゃらかんちゃらで、週に一回の登校日も無くなって、
新たに予定が変えられたんです。急遽明後日の(今日の)午後から新たな説明会+申請書等の提出+課題の配布+学校指定の衣類の配布と代金の渡しと、今日も忙しかったんです……

その間の1日は、どっかのバカが流した「マスクが入荷されたらしい」とかいう情報を親が信じて手当たりしだい何店舗か回ってきたんです。
ぶっちゃけ、ストックないので焦ってるんですよ……。消毒して使い回しするにも限度がありますし。
それとクラス内でのアドレス交換や書かないといけない書類やらなんやら……

以上の理由と、あと疲れたので早めに寝た、というのもあります(汗
出された課題や自転車通学のテストもまだ終わってないので、今後も少し更新ペースが遅れることもあるかもしれません。
小説のほうもストック尽きたので……(ボソッ

現状はそんな感じです。何はともあれ、更新をサボってたのには変わりありません。本当に申し訳ございませんでしたっ!

明日からは更新再開致しますので、今後とも見て頂けたら幸いです。寝ます。
パトラッシュ……僕は何だか疲れたよ………