ダーク・ファンタジー小説
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- 吸血鬼と暁月【楽園の華 連載中】
- 日時： 2013/02/10 15:25
- 名前： 枝垂桜 （ID: hVaFVRO5）
目次
序章 >>01
第1章 迷子 >>02 >>03 >>04
第2章 吸血鬼 >>05 >>06 >>07 >>09
第3章 素顔 >>13 >>14 >>19
第4章 悪魔、死神─── 襲来 >>20 >>21 >>22
第5章 薔薇の夜会 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>30 >>31
第6章 ファウスト王、薔薇に消える >>32 >>33 >>34 >>35
第7章 隠された記憶の奥底へ >>37 >>39
第8章 旅立つ沙雨 捕まる朱音 >>43 >>44 >>48 >>50 >>52 >>54
第9章 毒漬け >>58 >>60 >>62 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68
第10章 魔導書 霧亜 ロア >>72 >>73 >>76 >>78 >>80 >>81 >>83
第11章 皐月と言う女 久遠と言う化け物 >>84 >>88 >>89 >>90 >>91 >>92 >>93 >>94 >>95
第12章 そして女神は誰に微笑む >>96 >>97 >>98 >>99 >>100
最終章 >>101
間章 【其之一 >>70 >>71】
【あとがき】 >>103
≪第２部 【短編集】≫
没作 『吸血鬼と暁月』 最終章 バッドエンド編>>104
番外編 『吸血鬼と暁月』 脈打つ過去 >>105
番外編 『吸血鬼と暁月』 温かい静寂 >>106
番外編 『吸血鬼と暁月』 罪と嘘 >>131
第二部 本編『吸血鬼と暁月 楽園の華』
>>107 >>108 >>109 >>110 >>111 >>112
>>114 >>116 >>117 >>118 >>119 >>121 >>122
>>123 >>124 >>125 >>127 >>130 >>132 >>134
オリキャラ募集用紙 募集は終了致しました
第二次オリキャラ募集用紙 募集は終了致しました
メイド＆執事応募用紙 募集は終了致しました
第三次オリキャラ募集【楽園の華編】 募集は終了致しました
オリキャラ
如月 時雨(椎名 様より) >>11
大神 天狐 >>12 (マーチェリー 様より)
マーチ・アントリーヌ(清水 様より) >>17
神威 寧々(akari 様より) >>18
涙樹 アネッサ(味付け海苔 様より) >>23
【ヨーロッパ】
オリオン・ポイル(マーチェリー 様より) >>41
霧亜 ロア(フライント 様より) >>45
シャルーゼ・クライディン(パルスィン 様より) >>51
神威 桔梗(akari 様より) >>55
輪廻 シエル(倉内さん 様より) >>61
李園 (味付け海苔 様より) >>38
【幽霊界】
ルーチェ・フラウアンティ・クオイダー(slica 様より) >>75
クロネ・ヴェルトリート・アネス(倉内さん 様より) >>82
ルリア・インフィニティ・アルケニー(シュバリエ 様より) >>85
【楽園の華】
鏡氷 ミラル(不思議な国のなんとかさん 様より) >>115
ジャスティン・エルヴィーテ(シルヴァ 様より) >>126
月闇クロ(Dr.クロ 様より) >>128
インフェンド(マスベル 様より) >>129
ヴェリス・アシッド(マリスルーン 様より) >>133
感謝です。ありがとうございます！
───────────────────────────
序章
それは──夏のある晩のことであった…。
今の歴史に残るほどでもないが、この村では昔、ある武将と農民の戦いが起こった。
もちろんのことであったが、只の農民が何百の兵を持つ武将に敵うはずもなく、その戦いは武将の勝利に終わるかと思われた。
しかし、突如現れた"人間ではない"男によって武将の兵は全滅。
武将はすべての兵を失い、村に火をかけて、自らは自害して、この世を永遠に去った。
勝利を収めた農民の被害も酷いものであった。
村を一つ失い。家を失い。財産でもある畑や田を失った農民達は、飢えて死ぬ者がほとんどであった。
残りの人間10人を下回った頃、"人間ではない"男は、愛した娘の首に噛み付き、その娘を連れて村を去っていったそうな…。
- Re: 吸血鬼と暁月【楽園の華 連載中】 ( No.138 )
- 日時： 2013/02/16 10:46
- 名前： 枝垂桜 （ID: hVaFVRO5）
「さすが───私の朱璃」
イヴは嗤った。
＋ ＋ ＋
「───……！」
一瞬、幻を見たかと思った。いや、実際幻だったのだろうが。
楓をずっと睨みつけていたら、一瞬だけ楓の顔が悲しみに歪んだのだ。その悲しい顔には見覚えがある。そう。忘れられない。今朱璃が追っている真実。
その悲しそうな顔は朱音に似ていた。
目を見開いて呆然としていると楓がにたあっ、と笑う。
ぞっ、と背筋が冷える。
慌てて振り向くと、そこには牙をむくＪＪが跳びかかって来ていた。
すでに避けれる距離ではない。次に来る衝撃に身を構えて、思わず目をつぶる。しかしいつまでたっても体に痛みはやって来なかった。
何事かと思い、目を開けると、そこにはミラルが立っていた。
「すみません。遅れました」
ミラルの目の前には自分の牙で傷ついたような傷を負っているＪＪがいた。
「私は攻撃こそできませんが、相手の攻撃を跳ね返すことが出来るのです」
なるほど───鏡の精霊ならではの技だ。
「ヒャ──ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ！！！！」
突如、室内にかえでのヒステリックな笑い声が響く。
血桜に胸を貫かれ、弱り、地に倒れても尚笑う彼女の姿は至極不気味だ。
「これで勝ったと思ったらだめよぅ。ざぁんねんだったわねぇ、私は〝ニセモノ〟。本物はもう朱音を連れて逃げたわぁ！」
「何……！？」
「無駄よ。今からじゃ間に合わない」
走り出そうとした朱璃をイヴが止めた。
「だけどイヴ！」
「見て」
イヴは細い人差し指で何かを指す。その先を辿ってみると、そこには目を開けたままぴくりとも動かない楓がいた。口元に微笑みを浮かべたまま、目も嬉しそうに笑っている。
本当に君の悪い女だ。
少しすると、体にビキッとひびが入る。そのひびは見る見る広がって、次の瞬間音を立てて割れた。
「本当に偽物だったのね。さて、本物はどこに行ったのかしら？」
「楽しそうだね、イヴ」
うきうきの様子である彼女に怒りを覚えた。なるべく落ち付いているように見せたつもりだったが、言葉には嫌味っぽさが残ってしまっていた。
「そんなに怒らないでよ。悪かったわ、ごめんなさい。───さて、この犬、どうする？」
イヴは視線をＪＪに向ける。ＪＪはミラルにやられて動けなくなっている。
「─────殺す？」
「だめだよ」
朱璃が近寄って行く間に、ＪＪは犬の姿から人の姿に変わった。驚いて足を止める。
「やっぱり悪魔の使い魔ね。外が夜になって、元の姿に戻ったのよ」
「使い魔……」
「朱璃様、どういたしますか？」
突然ＪＪはむくりと立ち上がり、体の力を振り絞って大きく跳ねた。そして窓ガラスを破り姿を消す。
「愛想のない犬ね」
「自分で帰ってくれて助かったよ。………僕たちも帰ろう」
その屋敷から出ると、そこは隠れ家のある森の近くだった。
朱璃たちが出ると同時に、幻のように屋敷は空気に溶けてなくなった。
「そうだイヴ」
「なに？」
「────情報屋を呼んで。彼女の力が必要だ」
「分かったわ」
イヴは頷いて見せた。
─────────────────────────────
マリスルーン様、嬉しいお言葉ありがとうございます。
やっと更新できました！
個人的な解釈はどんどんしちゃってください！ もう好きにキャラクターたちを弄んでもらって結構です。
自分的にもかなり考えさせられる小説なので、頭を使います(> <)
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
- Re: 吸血鬼と暁月【楽園の華 連載中】 ( No.139 )
- 日時： 2013/02/15 23:45
- 名前： マリスルーン （ID: 2zWb1M7c）
すげぇや、分身を作れるなんて・・・
私も分身が作れるなら代わりにあれこれやらせたいです・・・
分身の不気味さと言ったら、私鳥肌立てちゃいましたよ・・・
今後の展開が待ち遠しいです！
- Re: 吸血鬼と暁月【楽園の華 連載中】 ( No.140 )
- 日時： 2013/02/20 21:50
- 名前： 枝垂桜 （ID: hVaFVRO5）
「ねえ」
「何だい？」
「君は医者なのだから、煙草を吸うのはやめてよ。けむたい。僕は煙草は苦手なんだ」
白髪のロングヘアに黒の悪魔の翼。黒のチョッキに青のネクタイを締め、同じ色のジーンズをはき、黒い革靴。その上に白衣を羽織っている。角が生え、するどく赤い目。手には黒のグローブ。
沙雨とは旧友の仲であるこの少女───否、少女の姿をしてはいるが、元々は中年男性だったらしいこの医者は、ジャスティン・エルヴィーテ。
会うのは実に数百年ぶりである。
「適度な喫煙は体にいいのだよ。それよりも沙雨君。君はまた馬鹿みたいにケガをして」
「失礼だねジェス。ケガしたのはとても久しぶりだよ」
「そうかい？ 沙雨、顔色が優れない。ちゃんと寝ているか？」
「さっきまで布団の中だったよ」
「だめだ」
と言って、ジェスティンは沙雨に布団をかぶせた。布団の重みがずしりと体に加わる。
「安心したまえ。……朱音君は、きっと帰ってくるよ」
「ジャス、それでも僕は……」
「沙雨君。君は元気でいるべきだ。朱璃君が朱音君を連れて帰って来た時、君が弱って寝込んでいては、本末転倒であろう？」
「でもジャス。君は朱璃が危険に身を投じているのに、僕に黙って眠っていろ、というのかい？」
「そうだよ」
「はっきり言うね。君は」
さも当然だというようにけろりとしている。
待つという至極シンプルな行動がこんなにも苦だったとは知らなかった。今の沙雨には「待て」と言われても、つい動き回ってしまう子供の気持ちが良く分かる。
「だけど君は、そこまで暇ではなさそうだね」
「そうだね。……吸血鬼の王はしつこい」
そう告げるとジャスティンは爽やかに「ははは」と笑った。完全に他人事だ。
「もういっそ王サマになってしまえばいいじゃないか」
沙雨は耳を疑う。驚きを隠せぬまま、ジャスティンを見つめた。彼も少女の眼差しで沙雨を見ている。
「驚いたか？ もちろん冗談なのだよ」
「………ジャス。君って人は」
「沙雨君は体調が戻ったら、吸血鬼界に行って、ちゃんと王に自分の意志を伝えて来るといい」
「もちろん、そのつもりだよ」
「もう僕も疲れたんだよ」と沙雨は目を伏せる。吸血鬼であるはずの沙雨にとって、本来の色ではない深い青。
沙雨は一言で言うと〝吸血鬼らしくない〟
近くにいて沙雨を見ていると、どうしたってかれが吸血鬼である事を忘れてしまう。本能である〝血への欲〟も彼は薄い。その狂った遺伝子を朱璃も受け継いでしまったため、朱璃もまた〝吸血鬼らしくない〟。否、らしくないどころではない。朱璃はもはや『異常』の域である。なぜなら、朱璃は生まれてから一度だって、血を欲しがったことはないのだ。
沙雨はただ怖いのだ。自分にかかった「呪い」は永遠に自分だけのもの。他人が味わう事はない。そう思っていたのだから。
しかし吸血鬼がどんなに嫌悪するこの「呪い」だって、沙雨にとっては逆に都合が良い。かつては嫌いだったこの目だって、今は「宝」に近い。
「うーん。君もかわったねぇ」
顎に手を当てて考え事していたジャスティンが唐突に顔をあげた。
「昔の沙雨君は〝無敵〟って感じだったけど、今は違うね」
「僕は弱くなったよ」
「そうことではないのだよ。言い方が悪かったね。そうだなぁ。………〝孤独〟。そう、昔の君は〝孤独〟だったんだよ。でも今の君からは〝孤独〟のにおいはしない
それと君は強くなったよ。昔より何倍も。よく文書なので目にする言葉だけれど、他人を思い、そのために武をふるう者は、この世で一番強いのだよ。───お分かり？」
「ジャス」
「うん？」
「昔からだったが、君は人の〝心〟まで癒してしまう医者だね。すごいよ」
沙雨は軽く笑った。
──────────────────────────
今日学年末テストが終わりました！ これからはちゃんと更新します。
マリスルーン様
また返事遅れてすみません！ なんか毎回謝っている気が……ごめんなさい。
コメントありがとうございました。励まされます！
- Re: 吸血鬼と暁月【楽園の華 連載中】 ( No.141 )
- 日時： 2013/03/06 23:57
- 名前： 枝垂桜 （ID: hVaFVRO5）
乱暴に扉が開かれ、一人の青年が姿を見せた。
ダークブルーの着物に黒い髪。えりあしと前髪が長く、前髪は少し目にかかっている。その間からのぞく目の色は透き通った銀だ。
銀の瞳は何かを探している様子で宙を泳ぎ、沙雨を捉えてそのまま止まる。
「飛冷？」
青年の名を飛冷と言った。
その美しい風貌は、沙雨の亡き友、水袮久遠と瓜二つ。ただ一つ、目の色が久遠とは違った。
実際、彼の体には久遠の魂が宿っている。かの閻魔大王の元で大王秘書をしており、現在は地獄宮の大臣の一人でもある。
元々は５００年の契約だったが、自らの意志で大王に永遠の忠誠を誓った。大王の命令で、人間界にいながら、沙雨の様子を見ている。
「沙雨、大変だ」
そこまで言ってまた別の人物が入ってくる。ファウストに仕える涙樹アネッサだ。
「沙雨君は人気者だねぇ」
と呑気なことを言っている人も、ここに一人。
「沙雨さん、お知らせが……。と、先にどうぞ」
「悪いね。───沙雨。ここ最近、地獄に大量の魂が堕ちてくる。その日死んだ魂が天国に行かず、すべて地獄に堕ちている」
「どういう事だい？」
「───万魔殿がナイトメアに乗っ取られた」
「な……ッ！」
言葉を失った。
『万魔殿』とは、死んだ魂が一番最初に行く場所である。そこで天国に行くか、地獄に行くか、または幽霊界に行くか決まる。
万魔殿は地獄のすぐ上にあるため、万魔殿がなければ魂は審判にかけられることなく、自動的に地獄に堕ちる。とても大切な場所なのだ。
そんな場所が乗っ取られた。飛冷はそう言った。
「君もこのこと関連だろう？」
「まあ……・はい。───それでファウスト王はナイトメア討伐の軍を出したのですが、一軍として帰って来ないのです」
「すまないが地獄は俺以外、地獄の外には出れない。だから、こちらは支援できない」
「ナイトメアの数は正確に把握できてはいません。───朱璃君がどこにいるか分かりますか？」
その言葉を聞いた途端、沙雨の目が細められる。
「……朱璃？」
「恐らく、アカネさんは万魔殿にいます。ならば朱璃君には協力して頂きたく」
ナイトメア族は元々、戦闘用種族であった。軍には、最前線隊としてナイトメア族のみの編成で作られた軍もあったほどである。
そんな種族にほとんど能力のない幽霊族が何百人単位で軍を組んでもも、ナイトメア側にしてみれば片手が余ってしまう。
地獄の者たちの力は借りられない。吸血鬼界は今慌てている。沙雨は体調が良くない。だとしたら、朱璃を頼るしかない。───最も、ナイトメアを殺し朱音を助け出すことが彼の目的なのだから、断られることはないだろう。
「何かご不満でも？」
「……いや、朱璃は今、僕の手から離れている。だから僕の意見を聞く必要はないよ。……だけど教えてくれて嬉しいよ」
「いえ、仕事ですので。それでは私はこれで」
アネッサはくるりと踵を返すと、すたすたと歩いて行った。しかし、扉の近くまで行くと、ぴたりと止まる。
「あの」
「うん？」
アネッサは少し照れた様子で、
「花染衣、に……よろしく言って頂いてもいいですか？」
「ああ、もちろん。彼もきっと喜ぶよ」
アネッサは安堵した様子で、今度こそ部屋を出て行った。
- Re: 吸血鬼と暁月【楽園の華 連載中】 ( No.142 )
- 日時： 2013/04/06 23:37
- 名前： 枝垂桜 （ID: hVaFVRO5）
「やあ、待っていたよクロ」
楓のコピーと対決してから三日。その後、朱璃が絶対の信頼を置いている情報屋闇月クロに、楓やナイトメアの情報集めを依頼していた。
過去にも何度か依頼したことのあるこの情報屋の情報網は極めて特殊であり、写真や名前さえあれば一日でほとんどの情報を集めてくる。
「お代は〝いつもの〟で良いかな？」
「ええ。───いえ」
瞬間、彼女の特徴である赤と藍のオッドアイが暗い色に染まる。同時に伏せた顔と共に腰まで届くツインテールが揺れた。
「クロ？」
彼女は黒系の服が好みであり、いつもお代として服を差し出していた。本来ならば目を輝かせてもらうのだが、今日は様子が違う。
クロはリビングにある椅子に腰を下ろす。朱璃が座ったと同時に、
「……ごめんなさい」
「え？」
「『楓』や『ナイトメア』について探したのだけれど、『楓』は何も分からなくて『ナイトメア』は貴方が知っているであろう情報しか分からなかったわ」
「そう……」
やはり彼女ほどの情報屋でも彼らの情報を集めるのは安易ではないようだ。
「だから今回はお代、いらない。……というか、もらえない」
「クロが動いたことには変わりないのだから、持って行きなよ」
『そうよ。せっかく用意したのに』
ふわりとイヴが姿を見せる。
「いえ、役に立たなかったのなら、動かなかったのと変わらないです」
「じゃあこれは僕からのプレゼントだ」
クロの前に箱を差し出す。
「で、でも」
「いいから。いつもありがとう、クロ」
「………」
クロはおずおずと手を差し出して、箱を受け取る。数秒後、嬉しそうに顔が緩んだ。
「朱璃様」
りんと清んだ声が朱璃の名前を呼んだ。声の主はミラルだ。
「〝彼〟が目を覚ましました」
「そう。良かった」
「───貴方、誰？」
低い声でクロがミラルに問う。
「ああ。貴方が例の情報屋ですか。
初めまして。幽霊界から王の命令で参りました。鏡氷ミラルと申します」
ミラルが自己紹介すると、クロは納得した様子で警戒心を弱めた。
不意にミラルの後ろから押さない少年が顔を出した。
銀髪の髪は綺麗なのに、ぼさぼさになっているせいで台無しだ。
「おはよう。体調はもう良い？」
「う、うん……大丈夫」
か弱く、おどおどした声だった。
彼は三日前にこの屋敷に戻ってくる途中、道端で倒れていたのだ。それから三日間、ずっと眠り続けていた。
「名前は？」
「えっと、ぼくはイフェンドだよ……」
「彼は名前以外の記憶をすべてなくしているそうです。それでしばらくここに置いて欲しいと言っていました」
「もちろんだよ」
「本当……？ ありがとう……！」
ふわりと優しい笑顔を見せた。
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