ダーク・ファンタジー小説
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- 白夜のトワイライト【完結版】番外編を書くのが楽しすぎる……
- 日時: 2013/07/30 11:19
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
- 参照: 参照1000突破! 記念企画、イラスト・挿絵募集してます!
世界は不都合だ。
救われた命、消えた命、理不尽な死、理不尽な世。
最期には消えていく存在だと知りながら世界に生かされている気がした。
だとしたら、僕達はゴミで、世界はゴミ箱なのかもしれない。
酷いな、と僕は小さく呟いた。
——————————
【前書き】
初めまして、が多いと思われます。遮犬と申すものです。
このたび、大幅な変更点を加えていますので、リメイクではなく、あくまで完全版として再投稿させていただくことにしました。
この作品は、一年半前ぐらいでしょうか。そのぐらいの時から連載を続けていた作品ですが、内容等が矛盾していたり、設定や進行も多くミスが見られた為、修正で何とかなるとは思えなかったのでもう一度こうして連載を再スタートさせていただきます。
予定としましては、この作品の完結を含め、続偏と過去偏も用意していますが……この完結版の完結だけでも相当な日にちがかかることは必須なので、書くかどうかはまだ未定です;
ですが、またもう一度再スタートということで、元から読者として読んでくださっていた方々、そしてこれから読んでくださるという方々含め、頑張って書きたいと思いますのでどうか応援を宜しくお願いいたします><;
ちなみに、シリアス・ダークの元の小説とは大幅に設定が変更している点が多い為、あくまで新連載としてみていただければ嬉しいです。
2013年新年のご挨拶……>>51
参照1000突破記念企画「イラスト・挿絵募集」……>>73
〜目次〜
プロローグ
【>>1】
第1話:白夜の光 (修正完了)
【#1>>4 #2>>5 #3>>6 #4>>7 #5>>11】
EX【>>13】
第2話:身に纏う断罪 (修正完了)
【#1>>14 #2>>15 #3>>18 #4>>19 #5>>20】
EX【>>21】
第3話:過去の代償(白夜の過去前編) (修正中)
【#1>>22 #2>>23 #3>>24 #4>>25 #5>>26 #6>>27】
EX【>>28】
第4話:訣別と遭逢 (修正中)
【#1>>29 #2>>30 #3>>31 #4>>34 #5>>35】
EX【>>36】
第5話:決められた使命 (修正中)
【#1>>37 #2>>43 #3>>46 #4>>49 #5>>53】
EX【>>58】
第6話:罪人に、裁きを
【#1>>65 #2>>70 #3>>77 #4>>80 #5>>85 #6>>87】
EX【>>89】
第7話:ひとときの間
【
【番外編】
『OVER AGAIN〜Fire Work〜』
予告編
【>>59】
【#1>>90 #2>>91 #3>>93
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】久々更新&第6話完結しました! ( No.88 )
- 日時: 2013/07/23 16:47
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
>>86
>>エルセさん
おおおお! お久しぶりですー!
長らく自分もパソコンを触ることが出来ず、更新が滞ってしまってました;
禁止令ですか……! 夏って貴重な季節ですものね……(ぇ
親の目にバレないように頑張ってください;
久々に書いたので、不手際な部分が多かったんですが、何とか6話完結まで持ち込みました……!
個人的にスッキリしない完結なんですが、そろそろクドい気がしてきましてwもういいだろこれって感じでこの辺りでストップです。
白夜が何の能力覚醒したの? とか、人がいない理由が汚された土地? 死の風? 何のことですかwwってなると思うんですが、後々明かしていくって言うことで今回は勘弁してください;
……と、まあ、面白いと再び言っていただけるような作品作りを心がけていきたいと思いますので、どうか応援の方宜しくお願いします!
それでは、改めてコメントありがとうございました!><;
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】久々更新&第6話完結しました! ( No.89 )
- 日時: 2013/07/24 18:34
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
「復讐……か」
思わず、呟いた。
降り続ける雨の中、子供と女が座り込んでいる。それも、木々が薙ぎ倒され、車が横転したり木っ端微塵となっていたり、地面が抉れていたり、惨状と呼ぶに相応しいこの光景の中に、たった二人を残して。
この二人が怪しいのは全く変わらない。だがしかし、この少年の言う復讐という言葉が自分と無意識に重ね合わせていた。
母親を殺され、姉を殺され、弟を殺された。三人を殺したのは実の父親であるが、父親も被害者だった。
無理心中を図ろうとした父親の無念。黒獅子と最期にもらった"どうしようもない感情を押し付ける相手"の名前。ただそれだけを、それだけを生き甲斐としなければ普通でいられなかった自分がここにいる。臆病な自分が、こうして人に拳銃を向けていたのだと。そう思えば思うほど、何故か自然と拳銃を下ろしていた。
「そうか、復讐者か……」
小さく呟いて、銀髪の少年に目を向けた。
「奇遇だな。俺も同じだ。俺も……殺したいほど、憎い奴がいる」
殺したいと願わなければ、追いかけなければ自分の存在意義が無くなってしまう。自分は父親を殺した。殺してしまった。正当防衛だったとはいえ、実の父親を。あんなに優しかった父親を、バッドで、何度も何度も、なんども。
脳裏に浮かぶあの光景。血の海。全てが血で染められたあの光景。自分の血が全て流れていったかのような喪失感。何もかもがやりきれない、やり場のない悲しみが常に付き纏う、そんな世界の中で、一人もがいていた。
「何が何でも、やり遂げなきゃいけないんだ……俺が"ここにいる為に"」
自分は今どんな顔をしているのだろう。どうしてこんな偶然会ったばかりの、それもこんな場所で、こんな——悲しい顔をした銀髪の子供に言ったのだろう。そう、ふと思った。
優輝の表情を見て、どこかで見たような懐かしさがあった。それは、隣にいる銀髪の少年と最初に出会った時のこと。あの時、確かにこのような表情をしていたと、春は記憶の中で思い返していた。
この日上 優輝という人物にもあるのかもしれない。心に抱えた、大切で、残酷なものが。
「……どうでもいいことを話した。気にしないでくれ。それで、君たちは何でこんなところにいる?」
我の返ったように優輝は話を戻した。勿論、復讐者と聞いたところで何がどう変わるわけでもない。この場所にいる理由にもならない。
「私たちは……」
そこで初めて春が口を開いた。今まで黙っていたのは何かわけがあるのか、どうなのかと優輝は言葉を待つ。
「この街の汚染状態を確かめにきた調査員です」
「何……? 汚染状態ということは、ここは……」
「はい。死の風によって侵食されています。住民は既に避難しています」
「なるほど……それで住民が誰も……」
もっともらしい素性に多少納得するが、それでこの惨状の言い訳がつけたとは思えない。だが、住民が誰もいない理由は確かに辻褄が合う。けれど、この街に入る前に襲ってきた人間達は能力者ではない。つまり、普通の人間だ。なら彼らはどうして死の風が蔓延した土地にいたのか。
「……ところで、貴方は……?」
春からの突然の質問によって思考が途切れた。優輝は言い忘れていたかといわんばかりに表情を変えて名乗る。
「あぁ、申し遅れた。武装警察第三部隊所属、日上 優輝だ」
「第三部隊……?」
武装警察だということは想像は出来ていたが、第三部隊の肩書きに春は引っかかった。
確か、どこかで聞いたことがあるような気がする。第三部隊には、そう、"絶対に相手にしてはいけない者"がいたはずだ、と。
そこで優輝の後方から光が少々煌めいた気がした。それが何か分かるまで数秒、またそれが分かった頃には遅い——
「伏せろ!!」
どこかで聞いたことのある声と共に何物かが春と白夜を押し出し、一瞬にして透明となって周りの風景と一体化する。その一瞬の間に元に二人がいた場所には氷の槍が激突していた。
「な……ッ!」
爆音と共に氷が弾け、驚きを表した優輝は思わず仰け反る。
氷の槍が刺さった状態を見て、優輝が真っ先に辿り着く人物は——
「八雲部長!」
優輝の後方には八雲 涼風がいた。特に外傷は見られない様子で平然と尻餅をついた優輝に近づいて行く。
「また部長って呼んだね、優輝君?」
「あ……いや、ですから、仕事中ですし! それに、もう少しで俺に当たるところだったんですから! 許してくださいよ、それぐらい!」
「あはは、ごめんね? いいよ、許してあげる。……それにしても、逃げられちゃったね。気配が完全に消えてるよ。なかなかの能力者みたいだね」
「そう、みたいですね……」
まだ聞きたいことがあったが、逃げられてしまったのならば仕方が無い。ここで追うとしても、まだ武装警察としてやらなければならない重要な任務。失踪した特殊部隊の捜索が残っているのだから、下手に自分勝手な行動は出来なかった。
「あ、そういえば……橋本さんは?」
「いえ……そういえば、分かれてからまだ合流してないですね……連絡いれましょうか?」
「んー、千晴ちゃん達に連絡とってもらうことにするよ」
「あ……二人共、大丈夫なんですか? 突然連絡が途絶えて……」
「本部から連絡が来たから大丈夫。ちょっと色々あったみたいだけど、二人共無事に戻ってるみたいだよ」
「そうですか……良かった」
と、連絡を送る為に八雲が用意し始めた。
橋本とは合流する手筈だったが、優輝は少しの違和感を感じていた。言ったことは守るはずの橋本らしくない行動だったというのもあるが、もっと他に何かあるような気がする。
とは言っても、ここで考え込んでも仕方ない為に橋本と連絡が取れ次第に事を聞けば良いと思うことにした。
「そういえば、さっきの二人組だけど」
「あぁ、調査員って言ってましたけど……」
突然の八雲の問いかけに優輝は相槌を打って対応する。
「調査員は調査員でも、エルトールだからね。この惨状とか、色々聞きたかったんだけど、さ……」
「やっぱり、エルトールだったんですか?」
「ん、女と子供でも関係ないからね。それに、あの中の子供の方は……」
子供の方、と呼ばれて優輝が思い返すのは復讐者と口にしたあの表情。見た目は子供でも、そうではないような、不思議な感覚を覚えたあの銀髪の少年。
「あの子がどうか……したんですか?」
「んー……この一連のことに関わってる気がしてね。それに、最近噂になってるあの"銀髪の子供"かもしれないと思って」
「噂?」
そこで涼風は少し考えた様子をとると、数秒後に小さく溜息を吐いて言葉を続けた。
「何年か前に騒動起こしてたみたいなんだけど、ベイグランドとして活動している中で銀髪の少年単体で凶悪能力犯罪者を倒し、その都度あることを必ず質問している」
「……もしかして」
優輝の中に浮かぶのは、一つ。何故か、何の接点もないように思えていたはずなのに、
「……"黒獅子"と呼ばれている者を質問しているらしいよ」
ぴったり、重なった。
「あの子供が……?」
——復讐者だ。
「一年前ぐらいにエルトールに所属したって聞いてるよ」
——復讐だ。
「ただ……あの銀髪の子供は何か、雰囲気が違う」
——すべて、全てを断罪する。
「関わらない方が私は良いと思うよ、優輝君」
——俺の……この手で、必ず……!
「あの少年からじゃなくても、もっと他に——
「少しでも。……少しでも、手がかりがそこにあるのなら。あの少年が何かを知っているのなら……」
あぁ、そうだ。俺も——
「すみません、八雲部長。俺は、"復讐者"です」
必ず、掴んでやる。"自らの罪"を"断罪する為に"。
——————————
元にいた場所から遠くまで逃げ延びてきたところで、一体化した陽炎が解けて三人の姿が空間から飛び出した。
「はぁ、はぁ、はぁ……ったく、二人共何してんだよっ」
まず最初に口を開いたのは秋生だった。
春と白夜を間一髪で助け、秋生の能力の一つである"零旁"を使い、ここまで逃げ延びることが出来た。
「ええ、少し……。とは言っても、月蝕侍こそ傷塗れではないですか」
春の指摘した通り、秋生の傷は馬鹿に出来ないほど無数の傷を負っていた。切り傷や擦り傷、様々な傷によって身体は満身創痍と言っても過言ではない。
「あ……あぁ、これはちょっと、な。……ところで、白夜光は大丈夫か?」
話を逸らすかのように白夜に話を切り替えた。だが、それに深く追求せずに春は秋生に合わせて白夜を見やる。
「あぁ……心配ない」
と、ただ一言だけ小さく呟いた。
その様子に春は少々何も言えないように口を深く閉ざしている姿を見て、秋生も何らかのものを二人から感じ取った。
「何があったか分からないけど……とにかく無事で——」
「無事では良かったかもしれないが、断罪はどうした?」
秋生の言葉を遮った声は白夜と春の者ではない。全く別の人物からの声だった。
「凪さん……ッ!」
秋生が喉を詰まらせるようなリアクションをしてその無表情を極めた凪へと顔を向けた。
「完全に逃げられたようだ。八雲涼風と交戦中している最中を見つけ、乱入を考えたが勘付かれたのか突然逃げ去った」
「ということは……任務失敗、ということですか」
「あぁ。私がいながら不甲斐無いが、この街が閉鎖状態だったということが先ほど分かった。ここにはまだ何かあるかもしれない。それが分かっただけでもディスト様は構わないと言うだろう」
「え、もう報告書、書いたんですか?」
「当たり前だ」
実に普通のことだと言わんばかりに何行も字が並ばれた用紙が何十枚も凪の手元にはあった。それを見て絶句する者は秋生ただ一人だけであるが。
「帰ったら任務失敗による報告書等をみっちり書いてもらう」
「そ、そんな……! 結構頑張ったつもりなんですけど……」
「月蝕侍、諦めなさい」
「あ、ああぁぁ……!」
アンダー直通となっている隠しエレベーターのドアを開き、凪を先頭に中に促す。
「帰りましょうか……エルトールに」
誰に言ったわけでもなく、春はそう呟いた。
隣にいる銀髪の少年にもそれは届くように、と。
【あとがき】
お久しぶりです、遮犬ですっ。
特別にあとがきとして書かせていただくというのは、参照1500突破も重ね、やっと第6話完結した喜びのあまりです;
本当にありがとうございます!
そんなわけで、第7話は何か色々ごちゃごちゃして急展開続きだったわけですけど、より世界観といいますか、普段の日常が詰まったお話です。
いわゆる休憩です。生暖かい目で見守っていてください(ぇ
とか、7話のことを話しましたが、番外編もスタートしていきますので、どうかそちらの方も応援いただけると嬉しいです。
文章力、及び物語の進行が未だにスムーズといかず、更には亀更新という……もうオワッテル駄犬ですが、どうぞこれからよろしくお願いいたします。
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.90 )
- 日時: 2013/07/25 00:32
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
- 参照: 久々の連続更新ですb 番外編スタートしました!
——世界は残酷だ。
当たり前のように生きて、当たり前のように暮らし、当たり前のような人々の中で、何も知らずに生きていけたら。
私は、嘘を吐かずに済んだのかもしれない。
『OVER AGAIN〜Fire Work〜』
『……——本日未明、ベイグランドの抗争が各地で勃発し、その活動内容は能力者の人権に対する内容を主に、"能力都市"の開発中止を訴えかけている模様——……』
テレビの中の20代後半の女性アナウンサーが決められた台本にそって言葉を紡いでいく。それが誰かに届くか届かないかも知らないまま、ただ仕事を言い訳にして無責任にも世界の事情を話している。そんな風にしか小日向 葵(こひなた あおい)は思えなかった。
「あははっ、先週の見た?」
「見たよぉー。面白かったよねー。最近、あんな面白いバラエティー番組なかったし……」
「え、違うよ結衣! ほら、火曜日にあった……」
「あれれ? 火曜日にバラエティー番組って……」
「違う違う! バラエティーじゃないよ! 結衣ってほんと、バラエティーしか見ないよね!」
小洒落た喫茶店の中、テーブル席に座る三人の中に葵はいた。
最近の学校生活の中でよく話したり遊んだりするようになったのは、目の前で意気揚々と話す新島 朱里(にいじま あかり)と岸畑 結衣(きしはた ゆい)の二人だった。
活発でスポーツが得意でいつも元気のある朱里とは対照的に結衣は運動がダメだがそのおっとりとした性格に加え、誰もが口を揃えて天然と呼ぶ逸材だ。
「えー、葵ちゃんも見るよぉー。ね、葵ちゃん」
「あ、え? えっと……ごめん、テレビ見てたっ」
「あ、出た! 葵の聞いてないクセ! 聞いてるように見えて聞いてないんだから参るわ……」
「あはは、ごめんごめん……」
朱里が行儀悪く頼んでいたミックスジュースを音をたてて吸い上げると再びミックスジュースを頼んだ。
「そういう朱里は、ミックスジュース好きだよね……」
「分かってないねー葵は! ここのミックスジュースだからいいんじゃない!」
ウェイトレスさんが近づくまでに声をあげて注文するので、女の子としては多少活発すぎるところではあるが、朱里の容姿は普通に女の子として演じていれば何を言うまでもなく、美人な部類に入るだろう。
その為、入学当初はこの豪快な性格に気づかず朱里に告白して色んな意味で撃沈したのは言うまでもない。更に言えば、朱里は全く彼氏を作ろうともしない。縁は相手から腐るほど寄ってくるが、どれもこれも断り続けているのだ。
結果、朱里に対する好意を向ける場所がなくなった男達は自らファンクラブなるものを密かに結成し、彼女が様々な部で助っ人として活躍する際には必ず応援に行っている。
「お待たせいたしました、ミックスジュースです」
「お、きたきた! あ、二人も頼まないの? 今日は最初に言ったと思うけど、私の奢りだからね? 遠慮しないで頼みなよ」
ウェイトレスがミックスジュースを置くや否や、ストローでそれをかき混ぜながら葵達に言った。
スポーツ万能ながらどの部活にも入部していないのはバイトをする為だった。本人曰く、自分の為だといっているが本当のところはまだ知らない。何やらそのバイト代が今月いつもよりも多かったらしく、それで葵達を喫茶店に誘ったのだという。
「いいよぉー朱里ちゃん。私、ちゃんとお金持ってきてるから」
「いやいや、そういうことじゃなくてね、結衣? お金持ってきている持ってきてないじゃなくて、私が奮発してあげるって言ってるわけですよ。素直に従ってよ。ほら、葵もっ」
といって朱里はメニューを押し付けてくる。
かれこれ入学してから一ヶ月は経つが、これほど短期間で仲良くしてもらった例は他にない。その分、葵は二人に感謝の思いが強くある。しかし、それだけ"辛くなっている分"もあった。
「うーん……それじゃ、お言葉に甘えようかな」
「さっすが葵! 結衣と違って話が分かるねぇ!」
「うー、朱里ちゃんっ、そんな言い方しなくてもいいじゃないっ」
「いや……そんなことで涙目になられても……ごめんごめんっ、私が悪かったよ、結衣! ほら、早く選んで!」
「えへへっ、じゃあオススメはなんですかぁー?」
「オススメは……! もち、ミックスジュースです!」
結衣の性格をよく理解して朱里は上手く会話を運ばせる。だからこうして仲良しでいられるんだと葵は思った。
そして、自分もそういう風な関係でありたい。そういう風であって欲しいと、思いながら。こんな風な日常、こんな毎日。ずっと続いてくれれば、と心から願っていた。
「あはは、朱里はそればっかりだよね」
「や、本っ当に美味しいんだって、ここのミックスジュース!」
「じゃあ私これで〜」
「え、結衣ちゃんこれにするの?」
「うんっ。すっごく美味しそう!」
「ふふん。どうやらようやくここのミックスジュースの良さが……」
得意げに朱里が結衣の指したメニューを見た。しかし、そこには想像だにしないものがあった。
「か、か、かぼすジュース……!?」
確かに結衣の指は薄緑色をした爽やかな色合いの飲み物向けられていた。中にはかぼすの実が入っており、暑い梅雨の時期にはピッタリな飲み物だった。
「あー、確かにスッキリして美味しそう! 私もこれに——」
「ちょっ、ちょっと待てーいっ!! 二人共、私の話聞いてた!? 特に結衣!」
「聞いてたよぉー?」
「じゃあ何でかぼす!?」
「美味しそうだから」
「そ、そりゃそうだね……はは、ははは……」
もうダメだと思ったのか、朱里が意気消沈した様子でミックスジュースを寂しく啜った。
結衣の天然には時々本当に驚かされることがあった。おっとりしていながら、自分の意志をしっかりと持っているような印象が葵には当初の方からあったのである。それは勿論、朱里も同じようだった。
「全く……結衣には敵わないわ……。あ、葵はどうする?」
「私もかぼすジュースで」
「葵もかいっ!」
こうして笑っていると、何もかもが幸せに思えてくる。こんなに純粋に笑えたのはいつぶりだろう。
「あ、ところでさ、葵」
「うん?」
丁度ウェイトレスさんが二人分のかぼすジュースを届け、二人してそれを飲もうとストローに口をつけたところだった。
「葵って、彼氏いるの?」
「ぶふっ!!」
かぼすジュースが片方、勿論葵の方が吹き零れた。更にはむせ返す葵に朱里は丁寧にも紙ナプキンで零れたかぼすジュースを拭いた。
「げほっ、げほっ! な、ななな、急に何っ!」
「いあいあ、別に隠すことでもないでしょーに」
「そ、そりゃ、そ、そうかもしれないけど……」
「えー? 葵ちゃん、彼氏いるのー?」
「な……! い、いないよっ!」
結衣からの横槍に無駄に焦燥感が煽られる。
「えー、本当にぃー?」
「ほ、本当だってば!」
朱里のニヤニヤとした表情に首を必死で横に振りながら抗議する。
「ふーん。じゃあ……」
それから数秒後、朱里は笑顔で言葉を付け足す。次は何が来るのかと変な汗をかきそうになるのを感じながら待っていると、
「今度、蛍見に行こう!」
「え……?」
突然、話が全く別の方向にいったので何が何だか分からない状態の葵を差し置き、隣に座る結衣はかぼすジュースを嬉しそうに飲んでいた。
また、それとは"違う思い"が葵の中には存在したが。
「いやー、蛍見に行こうって誘われちゃっててね? それで何人か集めて行こうってなったんだけど……どうかな?」
「えーっと……それは、いいんだけど……それと私が彼氏いるかどうかって、何か関係あったの?」
「あぁ。その行くメンバーの中に男子が何人か混じってるから、別にいいのかなぁーって」
「なんだ、そんなことか……。その男子って、クラスの?」
「うん、そうだね。知ってると思うけど、仲岡とか、坂井とか……冴木とか!」
朱里から聞いた三人の名前は一ヶ月前から転校したばかりの葵でもよく知っていた。
特に、その中でも冴木 俊一(さえき しゅんいち)とは隣の席ということもあり、また転校当初、最初に話しかけてくれた人でもあった。
「あの三人なら知ってるし、大丈夫だよね?」
「あ、うん、それは大丈夫だけど……いつ行くの?」
「来週の土曜日辺りかなぁー。早く行かないと蛍の季節は終わっちゃうしね」
「6日後ね。分かった」
「よっしゃ! 結衣も聞いてた?」
「んー? なあに?」
「……また一から説明かー」
ずっとかぼすジュースによって自分の世界に入っていた結衣に頭を抱えながらも朱里はどこか嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
『……——ベイグランドの抗争は拡大しつつあり、何区かの侵害が及ぶ可能性があります。また、昨夜の××区で起きた殺人事件の犯人が凶悪能力犯罪者である可能性が浮上してきました。隔離都市東京内に侵入する危険性を予知し、武装警察は繰り返し警備にあたっています——……』
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】連続更新&番外編スタート! ( No.91 )
- 日時: 2013/07/25 16:49
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
- 参照: 番外編。
夕暮れが差し掛かり、喫茶店の中もそれに包まれてきた頃。ようやく三人は喫茶店が出ることになった。
「あー、今日は飲んだ飲んだぁ……」
「朱里は飲みすぎだよ。ミックスジュースだけ4杯も……」
「それだけ美味しいんだから、いいってことよ!」
無邪気な笑顔を葵に向けて浮かべる朱里。
既に会計を済ませ、三人は外に出ていた。夕暮れの光が一面に包み込み、それが暮れるとたちまち暗闇に変貌する。まばらにどこかしらの建物に光が灯り始めていた。
「朱里ちゃん、今日はありがとぉー」
「全然! 二人共全く頼まないもんね……奢るって言った私からすると少し奢り足りないなぁ」
朱里の考えはすぐに表情に出る。それはたった一ヶ月からの付き合いでも葵はよく分かっていた。
朱里は渋い顔をして結衣の言葉に受け答えした。とは言っても、すぐに笑顔に戻るのでそれは照れ隠しのようなものに近かった。
「それじゃ、ちょっと遅くなっちゃったけど……また明日学校でね!」
「うん、本当に今日はありがとう! 朱里!」
「じゃあねぇ、葵ちゃん」
「って、本当にいいの葵? 送っていかなくて」
「あー、うん、全然平気! ここから家近いしさ」
朱里と結衣は家が近いところにあるが、葵の家はそうではなく、ここからだと二人と逆方向の位置にあった。
「最近変な人多いから、本当に気をつけてよ? 何か不審な奴を見かけたらすぐ私に連絡とか……」
「あはは、本当に大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね、朱里」
「うー、私にも連絡してね? 葵ちゃん」
「結衣ちゃんが一番危険そうだからどうかな……」
「全く。葵は可愛いんだから、変な奴に付きまとわれそうで心配だわー」
「そ、そそそそんなことないよ!」
毎度毎度、自分のことに関しては拒絶反応が酷い葵は頭を左右に何度も振って朱里の言葉を否定する。
「ふふ、そーゆうとこが可愛いわ。……あ、やばい! バイトの時間に間に合わないかも!」
「あれれ? 朱里ちゃん、日曜日はバイト休みじゃなかったのぉ?」
「いつもはそうなんだけど、今日は同期の子がシフト変わってって……! とにかく、急がないと! ごめんね、葵! ほら、行くよ! 結衣!」
「わ、わわっ。あ、また明日ね、葵ちゃんっ。ま、待ってよぉー」
慌ただしく朱里は走り出し、結衣は足がもつれそうになりながら追いかける。しかし、その速度は天と地ほど差が違う。その結果、朱里が結衣の手を引いて再び走り出し、葵に手を振りながらその場を立ち去って行った。
それを苦笑しつつ見送った葵は身を翻して二人とは正反対の方に歩いて行った。
夜道は電灯と周りの建物から漏れる光、そしていつの間にか暮れた夕焼けに代わって月の光が一面を照らしていた。
特に歩いたというほど歩いてもいなかったが、既に夜が訪れ、葵の周りには人気もさほどない。
ここ、隔離都市東京は区分ごとに地域が分かれ、一般の人間のみで生活をしている。といっても、その中に複数の能力者が混じっているが、原則として能力者が一般の人間に混じることは"犯罪"となる為に隠れて過ごしている。隠れてまで、過ごしたい者もいる。
薄暗い夜道を一人、女子高校生が歩いている姿は危なっかしいといえばそうだろう。
しかし、それは"普通の女子高生ならば"という話である。
「……どうしたの?」
葵が突然呟く。闇夜の中から、その言葉に誘われたかのようにして人影が一つ浮かび上がった。
梅雨の季節は温度がそれなりに夏に近づいてきており、今でも十分に暑く感じられるほどだった。しかし、葵の前方に浮かびあがった人影の正体は、全身ジャージで包ま、頭には男性用と思わしき帽子を被っていた。
身長は、葵よりも少し小さい。葵もそこまで身長は高くない為、相手は中学生ぐらいの歳に見える。髪は肩を少し越すぐらいで、闇に染まるほど綺麗な黒髪をしていた。
「ニュース、見た?」
声は見た目相応ぐらいの女の子の声だった。顔はあまり見せたがらないのか、俯き加減であまりよく見えない。
「……見たよ、一応」
少し詰まった様子で葵が少女の声に応える。どんな表情をしているのか分からないまま少女は立っていた。
「こんなところで、大丈夫なの?」
「大丈夫。この辺りに人はいない」
「……でも暗いし」
「全然暗くない。明るい」
明るいと口に出す少女だが、実際外にいて月の光や周りの街灯ぐらいでは薄暗いのに変わりはない。
「それは弥子ちゃんが暗いところ好きなだけでしょ?」
「違う。暗い方が話し易いからいるだけ。好きではない」
「私は明るい方が話し易いんだけど……」
「そんなんじゃ甘い。"人間"の中で生きていくのは難しい。隠しきれるわけがない」
「私たちだって、"人間"だよ。……弥子ちゃん、何かあったの?」
葵の言葉から数十秒の間が生まれた後、弥子と呼ばれた少女の口が再び開いた。
「近頃、ベイグランドの動きがおかしい。何かしようとしている」
「地方のエルトールの動きは?」
「それはない。全く動く気配もない。やっぱりあいつらは頭がおかしい。何がしたいのか分からない、ただの、人殺しだ……!」
明らかなエルトールに対して嫌悪感を抱く気持ちを吐く弥子を見つめて少しの間沈黙が訪れる。
それから再び口を最初に開いたのは弥子だった。
「変な騒動を起こされて私たちの身に危険が及ぶといけない。それに、最近の殺人事件には凶悪能力犯罪者も出てきている。どういう目的か分からないけど、そいつは……」
「……そいつは?」
「……東京にいる隠れ能力者を殺してまわってる。殺し方とか、色々僕の記憶から判断して……"最悪の能力者"が当てはまった」
一呼吸おいてから、弥子はその名前を口にする。
「その名は——スケアクロウ」
——————————
闇夜の中、一つの家の屋根に一人の影があった。
「……準備できたか? がきんちょ」
『で、出来てるよ! ……あ、出来てます!』
その影の正体は、一人の男だった。
月の光も雲に隠れて辺りは薄暗いよりもずっと暗い。
無線機のようなものを口に近づけて話す男のもう片方の手には、長く程よく太い一本の"棒"が握り締められていた。
「本当に出来てんだろうな?」
『だ、大丈夫だって! 今までヘマしたことなんか……!』
「あるだろうが。お前のせいで俺がどれだけ窮地に追い込まれたか分かるか? それと、タメ口を利くんじゃねぇ、がきんちょ風情が」
『う……このっ、言わせておけば! 俺のおかげってことも少しは——ッ!』
「バカッ、うるせぇ!」
無線機から発せられた大きな声は静かな場所ではよく響く。男が止めるのも遅く、何より後ろから気配を感じた瞬間に素早く横転する。
その瞬間、とてつもない大きさの岩石が男の元いた場所に激突する。
「うおおっ!」
衝撃が横転して避けた男にも伝わり、屋根から転がり落ちていった。
闇夜の中、屋根の上に立つ人物はただ一人。口元を歪ませ、男が落ちる様子を見守っていたのは先ほど岩石を飛ばした張本人だった。
「ッはっはぁぁあ! なんだぁ? 今のは虫けらかぁ?」
舌で口元を舐め、右手には巨大な岩石を持つ大男がそこにいた。
巨大といっても、男の身体を優に超えるぐらいであり、男の身長も大柄で2mは近い。横幅も大きく、筋肉で固められた男の腕は楽々と岩石を持ち歩いていた。
「そんなものでこの"岩石剛腕"の服部 権蔵(はっとり ごんぞう)は倒そうなどと、考えるものではないわぁ!」
「……ったく、やかましいな、あんた」
「……あ?」
首を回し鳴らしながら首に手をかける闇夜の中に再びもう一つの人影が舞い降りていた。
「さっき落ちていったように思えたが……ありゃ気のせいかぁ?」
「あぁ、残念ながらそれは俺だ。ったく、やってくれやがったな。首が無駄に凝っちまった」
「ぶはははは! 面白い男だぁ! わしを殺しにきたのか? 誰から頼まれたのかは知らんが、お前もどうせ"同業"だろう? どうだ、わしの仲間に—ー」
「あー、悪い。俺を"あんたら"みたいなのと一緒にしないでくれ」
「……ふんっ、何をぬかす、小僧が。わしらに残された道はこの程度しかないだろう」
「だから——あんたらと俺を一緒にすんな」
棒を握り締め、男は不敵に笑う。
「ぶはははは! ……どうやら仲間になる気はないようだな。小僧、惜しい度胸と態度を持ち合わせていたが……残念ながら、"相手が悪かった"」
「——ッ!」
権蔵が岩石を投げつけ、それを素早く左へ移動して避ける。だが、その一瞬の隙に権蔵は急接近する。
「うぉぁらぁあっ!」
「っ、チッ!」
右手の剛腕に握り締められた岩石を男の頭上目掛けて振り下ろす。それを間一髪後ろに引いて避けると、右手に持っていた棒を振るい、権蔵の顔に打撃を与えようとするが、
「甘いわっ!」
権蔵の左腕がそれを防ぐ。酷く鈍い音が闇夜の中に鳴り響いた。
左腕の骨が折れたかと思いきや、権蔵の左腕には木々や瓦礫が張り付いていた。よく見ると、周りの屋根のあちこちが穴を空いている。
「なるほどな……その腕が磁石のような役割をしているわけか」
「ぶはははは! そうだとしたら、とは考えた方がいいのぉ!」
「……くそっ!」
男の後方から凄まじい勢いで岩石が飛んできていた。腕が岩石やその他木材などを引き寄せることは分かったが、それがどれほど範囲に及び、またどういう効果を生み出せるか。
権蔵の右腕に引き寄せられるように、どこからともなく岩石は生み出され、そしてそれは右腕に。その道中、"誰がいようとも関係はない"
何とか避けようとするが、普通の大きさではない岩石は男の頭を掠らせた。速度がそう速くないおかげで威力こそ不十分かもしれないが、頭に掠らせただけでも損傷は大きい。
その勢いのまま、男は横転し、屋根の上に転げ倒れた。血が屋根に付着し、男の頭からは血が流れ出ていた。
「なんじゃ……案外呆気なかったのぉ」
男の腹部に足で踏みつけ、権蔵は再び右手に岩石を手にしていた。
「安心せぇ……誰だかわからんように、顔をぐちゃぐちゃに潰してやろう。お前が死んだということは見ただけでは誰も判別できなくしてやるからなぁ、ぶはははは!!」
「……余計なお世話だっつーの」
「あん?」
男は、閉じていた目をゆっくり開ける。それは、そこにあったのは——淡い赤色に染まった瞳だった。
「お、まえ——ッ!」
権蔵が何かを言う前に、男は棒を持ち、そしてとてつもない速さで岩石を持った右腕を突いていた。一瞬の内に右腕は骨の折れた音が鈍く響き渡る。岩石や木材を集結させるよりも、それは速い。
「うがぁっ、あ、ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「喚くな、うるせぇ」
いつの間に立ち上がったのか、男は痛みによって苦しみ膝をついた権蔵を、見下していた。
目は、紅色。その冷徹な表情は、目の前の命を、"見下していた"。
「や、やめ……!」
「だから、うるせぇよ」
棒で権蔵の頭を殴る。よろける権蔵の胸部に突き刺し、嗚咽を吐かせる。
それから、右足を折り、左足を折り、左腕を折り。軽々と人の骨が折れ、砕け、割れる音が続き響き渡った。そのたびに、権蔵は喚きまわり、そのたびに、男は冷徹な表情で言った。
「うるせぇよ、"害虫"が」
痣だらけとなり、血塗れとなった権蔵はもう為す術がない。全身の感覚が麻痺し、何も感じることが出来ない。
「た、だのむぅ……! いのぢだげば……!」
「……あぁ、そうだ。冥土の土産に。一つ教えといてやろう」
「た、だのむ……! がねならあ゛るッ! どうが、どうがだずげ……!」
棒を子供の玩具のようにくるくると回して血だらけのまま命乞いをする権蔵に向けて棒を構えなおす。
月夜の光が再び姿を現し、辺りに薄く光が散らばる。それに伴って男の表情も権蔵には見えた。
その表情は、紅色の瞳をし、まるでこの状況を楽しんでいるかのように——嗤っていた。
「俺は榊。てめぇらのような"薄汚い異常者"をぶっ殺す————"人間だ"」
そのまま、棒を振りかざし、権蔵の顔面に向け、
「や、やめ゛——ッ!」
——————————
『っておい! 大丈夫!? 榊にぃ!』
「その呼び方はやめろって言ってんだろうが、ぶっ殺すぞがきんちょ」
『そ、そんな怖い声で言わなくても……それで、どうだっ……どうだったんですか、榊さん!』
「どうだったんですか、榊さん、じゃないだろボケ! お前、自分の仕事はどうしたんだよ」
『あ……いや、その。見つかっちゃったから、もういいかなって……』
「お前、本気で俺を怒らせたいようだな」
『すみませんすみません! 怖かったんです!』
「……はぁ。もういい」
『……えっと、仕事は終わったんですか?』
「あぁ……仕事終了だ。ちと頭に一発掠らせちまったけどな」
『って、結構やばかったんじゃないの!?』
「やばくねーよ、このがきんちょが! 二言目には敬語忘れやがって! お前、帰ったら本気でしばくぞ!」
『ご、ご、ごめんなさい! でも早く帰ってきてください! 料理が冷めるよ!』
男の子供の声を黙って聞いてから、小さく溜息を吐く。
『もしもし!? 聞いてるんですか!?』
「あー……わかってるからうるさくすんな。……今から帰る。…………って、お前さっきまで料理作ってたの?」
『あ……』
「……すぐ帰るわ」
『ひぃぃっ! ごめんなさい、ごめんなさい!』
月の光にあてられ、榊と呼ばれる男はまたの名をこう呼ぶ。
——"魔女狩り"と。
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.92 )
- 日時: 2013/07/30 15:54
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
- 参照: 今回、ちょっと長めの6000〜7000文字です。番外編。
「おはよー!」
「おはよー、二日ぶりー?」
他愛もない会話が溢れ、学校と呼ばれる場所が存在する。
同じ制服を着て登校する彼らにとって、"当たり前の世界"。
「おはよっ、葵!」
靴箱から上履きに履き替えようとしていた葵に声をかけてきたのは、朱里だった。
いつも通りの明るい笑顔に、昨日会ったばかりだというのに"安堵のため息"を聞こえないように吐く。
「うんっ、おはよ、朱里!」
「葵ちゃんー。私もいるんだよぉー? おはよぉー」
「結衣ちゃんも、おはよっ」
いつものように、挨拶を交わす。昨日別れて、今日また出会う。それが当たり前のことなのかもしれない。葵にとって、それはとてつもなく儚いものだということを知らずに。
「いやー、もう少しで遅れるとこだったんだけどねー」
「そうなの? あ、そういえば朱里今日は早いね?」
「まあね!」
「どうせ、結衣ちゃんに起こされたんでしょ?」
「う……」
「葵ちゃん、よく分かったねぇー? 私が朱里ちゃんの家に着いた時、まだ起きてなかったんだよぉー」
「言うな! それを言うんじゃないよ!」
慌てて結衣の口を押さえるが、全く意味はない。それにただ笑い、葵は二人の元気そうな姿にまた少し安堵するのだ。
それは、昨日弥子から聞いたことが引っかかっているせいもあった。
——————————
「スケアクロウ?」
弥子の言葉を繰り返す葵に、弥子は小さく頷く。
「聞いたことがないかもね、まだ葵は」
「私がここに来る前にいた能力者ってこと?」
「簡単に言えばそう。……だけど、それ以上に理解できない"記憶"がある」
「どういうこと?」
「それは……スケアクロウは、"一度死んだ"はずなの」
弥子の言葉がやけに重く感じた。一度死んだ人間が、生きている。そんなことは普通では有り得ない。しかし、能力者は普通ではない。
「それは、何かの能力?」
「違う。スケアクロウにそんな能力はないし、その他の能力者もそんな能力が"あるわけがない"。人の生死を変えることが出来る能力があるとしたら……想像も出来ない」
能力者が人間の生死を操るようになったら——それこそ、能力者は人間ではなくなってしまう。
「スケアクロウは既にこの地区に近づいてきてる。もしかすると、貴方にも危害が及ぶかもしれないと思って忠告しにきた」
葵は何もいえなかった。そんな危険な存在が、すぐ近くにいるとは到底。先ほどまでの楽しかった時間とは、到底——かけ離れすぎた現実がそこにありすぎて。
「貴方も——"能力者"なんだから」
——————————
「葵ー? 早く行こ!」
「葵ちゃーん、行こうー?」
朱里と結衣の言葉でふと我に返る。
「うんっ」
短く返事をして、葵は二人が待つ階段に向かって駆け出した。
不安に、押し潰されそうになりながら。
——————————
梅雨の時期も中盤を超え、夏に向けて暑さも増していく青空の下。
武装警察、東京支部は今日も働き続けている。
特に今日は暑さが増し、コンクリートも地区を途絶するかのように並び建つ"白い壁"に囲まれた建物が武装警察、東京支部である。
いつどこで能力犯罪が発生しても対処出来るように各地区に拠点は備えられているが、本部はこの東京支部になる。正式な名称は、武装警察東京本部となる。支部という呼ばれ方をされているのは一般的にどこの地区に備えられた武装警察でも支部と呼ばれている為、統一しているのだ。
そんな武装警察東京本部に一人の若者が近づいてきていた。
「ここか……」
若者は何の躊躇いもなく、本部の中に入っていく。ただ一言、確かめるように呟きを残して。
中に入ると外の暑さが嘘のように取り払われる。クーラーが稼働しているようで、全体的に冷気が行き届いているようだ。
若者は迷わずに突き進むが、途中困ったように立ち止まる。
何せ、武装警察東京本部はとてつもなく"広い"。
支部との絶対的な違いはその広さと設備にあった。
ビルのように長く、大きくある本部には直接能力犯罪と対抗する捜査員達とそれらの情報を分析し、まとめる役目である調査員達が存在している。
捜査員は要するに能力者と直接接することになったとしても対応できるほどの肉体、そして精神面を兼ね備えた捜査のエリートであり、逆に調査員は能力者についての分析を行い、より効率よく捜査員達の捜査が捗るように調査する役目を担っているのだ。
この二つの職種が入り混じり、そしてそれぞれに別々の仕事スペースが設けられているのはこの東京本部でしかない。その他の支部ではこういった大きく分けられて取り扱われることは全く無いに等しい。
この広さはそういった環境面を考えたこともあって各部署もそれぞれ分けられている。
捜査員といっても、仕事は細かく分けられる。それもまた分担され、仕事内容によって部署も異なる。
若者は細かく分けられた部署とこの広さに迷っていた。
「あ……すみません。今日からここに勤めることになった者ですが……」
「は、ははは、はいぃっ!?」
仕方なく若者は通りすがりの女性調査員に声をかけた。が、普通の反応ではない。明らかに動揺し、驚きと共に興奮しているような様子だった。
それもそのはずで、理由は若者の容姿にあった。
端整な顔立ちに黒髪の短髪、長身で細身に見えながら実際は鍛え上げられた全身の筋肉。そしてはっきりとした清らかな声が爽やかな印象を後押ししていた。
しかし、若者は自身の容姿のことなどまるで気がつかず、また相手の異変にも気づかないまま話を続けた。
「特殊能力課の凶悪犯罪者担当部署はどこに……」
「そ、それは、ここをまっすぐ行って、も、もらって……すぐそこのか、階段を、あが、あがって……!」
「分かりました。そこまで教えていただけたら大丈夫です。お忙しい中失礼いたしました」
「あ、い、いえ……」
あまりにシンプルすぎる回答だったが、それに不満を漏らすこともさらに聞き出すこともせず、若者はその場を離れた。
女性調査員はその後、赤面状態のままどこから沸いてきたのか数々の女性調査員らから長い長い質疑応答の時間が待ち受けていることを知らない。
もちろん、そんなことを若者も知るはずがなく。すぐさま先ほど聞き出せた道筋を辿って行った。
階段を上り切った辺り、意外にもそのシンプルな内容通りに受付らしき場所が見えてきた。その後が分からない為、若者は受付に向かって歩き始める。
「あの……」
もう後一歩のところで受付にいる女性担当者に声をかけるところ、
「おいっ! こっちだ!」
突然の呼び声に反応し、その方に顔を向けると、年配の男が手招きして若者を呼んでいた。
「ちょっと! 柴崎さん!」
女性担当者が年配の男に向け睨みつけた。この女性担当者の頭には目の前のイケメンが声をかけてくれるところだったというのに、それを邪魔してくれた、という風な考えをしていることがどこか年配の男、柴崎 藤吾(しばさき とうご)には分かっていたのか角刈りの頭を申し訳なさそうに掻きながら、
「すまねぇな、安田。しかし、こいつも初めてなもんで、さっさと自分の居場所を確保させてやってくれ」
「ふんっ、まあいいですよ! ……あのっ、私、安田 紗枝(やすだ さえ)っていいます! 受付なんかしてるんですけど、私実は——」
「はいはい、後でだ安田。ほら、行くぞ新米」
「あ、はい。すみません、後で……」
柴崎に引かれ、若者は安田に軽くお辞儀をしてから柴崎の後を追っていった。
取り残された安田は呆然とその様子を眺めた後、
「もぉーッ! 柴崎のおっさん! 分かってないんだからー!」
不満げに怒りを口に出して地団駄を踏んでいた。
「ったく、安田のやつ、聞こえてるっての。……いやぁ、悪いな」
「え? 何がですか?」
柴崎の言葉を何のことかさっぱり、といったような感じで問いかける。
「お前、その容姿だとあんなのばっかだろ? とはいえ、その中でも安田は基本的にイケメンだったら自分からああやってくるから気をつけろよ」
「? はぁ……」
理解していない様子は放っておいて、廊下を歩きながら柴崎は話を切り替えた。
「お前が本部に来るのはそろそろだと思ってて受付の方に顔出したんだ。これから配属される部署は入り口から最も近い。その意味は、最も速く出動しなければいけないからだ」
柴崎が言葉を一旦止め、立ち止まると、目の前には目的の場所があった。
一見普通の部屋のようだが、大きな扉が全開に開けられている。大きくスペースのとられたその内部はそれにふさわしく広いのだろうと容易に想像がついた。
「着いたぞ。ここが特別能力課の中でも特に熾烈を争う重要な部署——凶悪犯罪者担当部署だ」
慌ただしく動き回る人員がいる中、どこかのんびりとした空気が漂うそこは、若者が想像していた"それ"ではなかった。
もっと能力者に対してまじめに、必死に働いている場を想像していたのだが、そういった感じには到底見られなかった。
「あー……先に言っておく。ここの奴らは皆"変わりもん"だ。"能力対策学校、通称アカデミー"を卒業したものなら当初気に食わないことが多い。だからまあ、気にするなよ」
「それは……はい」
「よし。じゃあ自己紹介でもしとくか。入れ」
柴崎の言葉に導かれるように一礼し、若者はその中に足を踏み入れた。
「本日より、凶悪犯罪者担当部署にてお世話になります、成宮 始(なるみや はじめ)です。よろしくお願いします」
そしてまた一礼する。綺麗に整った礼は完璧そのものだ。それを見た何人か、そして慌ただしく動き回ってそれをちゃんと聞けていない者もいる。
と、そこで突然、乾いた音が広い室内に響いた。それはまだ成宮が礼をし終えていない、礼の最中でありながら、一人の男が両手を頭上にあげてゆったりとしたリズムで拍手をしていたのだ。
「はい、おめでとちゃーん。アカデミー出身らしい"ご挨拶"だこと。そんでもって、わざわざこんな部署に来るってことは、余程のバカか、正義感の強い坊ちゃんか……」
「おい。錦、控えろ」
「なんだよ、俺は事実を言っただけだぜ?」
成宮がそこでようやく顔を上げて錦と呼ばれた男を視界に捉えた。
両足を癖悪く机の上に乗せ、人を小馬鹿にするような目つき、痩せた顔つきに細身の体型をした黒髪で若干長髪気味の男がいた。
ただ、その男、錦の眼光は常人のそれではなく、一線を逸脱したかのような鋭さを兼ね備えたものを成宮は言わずとも感じ取っていた。
「わー! 格好いいおにいちゃんだー!」
手足をバタバタさせて無邪気な笑顔を浮かべてはしゃぐ"子供のような体型をした"男か女か判別のつかない白髪の者がいた。
「あいつは深山 麗(みやま れい)。この中でも一際特殊なのかもしれねぇが……腕は確かだ」
「あの子……何歳です?」
「あれでも一応20歳なんだ。分かると思うが、少々の……な」
「……"後遺症"ですか」
小さく呟き返す二人が目を離した隙に、深山はいつの間にか成宮の手を握り締め、顔を見上げていた。
「ねぇ、何のお話?」
「……いや、何も」
その目は、鈍く灰色に濁っているように見えた。手は冷たく、成宮の手を握り、何故か怖気のようなものが奔っていった。
「後は……そこで忙しくしてる眼鏡のが」
と、柴崎が声をかけた途端、慌ただしく書類を運んでいる、まるで少年のような風貌をした眼鏡をかけた人物が動きを止めて成宮の方に顔を向けた。
「岸谷 忠(きしたに ただし)っていいますっ。紹介遅れました……」
ぎこちのない笑顔を浮かべ、右手で眼鏡をあげて言った。左手には大量の書類が積まれており、また急いで右手を書類の方に伸ばしてあちこちの机を行ったり来たりしている。
「俺達の処理担当はほとんど岸谷がやってくれている。だからああしてあちこち行ったり来たりしてるんだけどな。……後、ここにいないのは守屋 雅(もりや みやび)と……」
「私、安田 紗枝でーすっ!」
成宮たちの後ろから突如声をかけてきたのは先ほど受付にいた安田だった。
元気よさそうに笑顔と一緒に右手を挙手している。
「お前……受付は?」
「だってつまらないし、受付! 私がいなくてもぜんぜん大丈夫っていうか……」
「そういう心持がダメなんだろうが……」
呆れたように頭を抱えてため息を吐く柴崎。
「あの、柴崎さん。もしかして彼女も……?」
「あぁ……安田も、凶悪犯罪者担当部署の一人だ。岸谷のように調査員をやってもらっている反面、捜査員としても動ける、良く言えば臨機応変に対応出来るやつだ、これでも」
「あーっ! 柴崎さん、これでもっていう言い方は酷くない!?」
「そうか? なら聞くが、柴崎のおっさんっていう言い方も酷くはないか?」
「う……聞いてたんだ……」
申し訳なさそうに顔を伏せる安田。そんな安田を放っておいて、柴崎は頭を掻きながら成宮に再び顔を向ける。
「以上、とりあえず俺達の"班"はこんなもんだ」
「班……?」
「あぁ、説明されてなかったか? 部署は一緒でも、それぞれ班によって分かれていてな。基本的なデスクワークはここでやるが、ほとんど班専用の会議ルームで話し合うことが多い。だからわざわざここで集まったのは偶然じゃない。成宮を出迎える為に、一応な」
「あ……すみません、皆さん。お忙しい中……」
「本当だぜ。こちとら最近噂の"血雨"や"岩石剛腕"、それに"奇行"や"スケアクロウ"も出てきてやがる。なのにこんなことで時間を……」
「いいじゃないか錦。年々上昇しているが、実際にアカデミーでの特訓後、凶悪犯罪者に直接立ち向かうことを選ぶ若者は少ない。その中でもアカデミーで"首席五役"をとった男が我が班に来てくれたわけだからな」
アカデミー。正式名称は対能力強化学校。
武装警察に入る為に通るべきのひとつとしてアカデミーが存在している。
そこは対能力を目指し、それに合わせた肉体・精神の向上に合わせ、実際に能力者と対面した時の対処法など、能力者に対してのエキスパートを目指す、いわば武装警察の登竜門のようなものである。
もちろん、一般からでも募集はしているが、アカデミー卒業者は即戦力は間違いない。さらに最初からエリート扱いで一般よりも上級階級からのスタートになる。ただし、その道はとても険しい。
アカデミーの卒業者は年々ベイグランドや凶悪犯罪者などによる事件が多発する中で増えていってはいるが、未だに人員は足りない。
その理由とは、単純に"能力者によってその数を減らされるからである"。簡単に言えば、能力者と戦い、殺され、殉死する者が後を絶えない。それほど危険な仕事であることは間違いなかった。
アカデミーを卒業するメリットは成績がよければ仕事が選べることと、一般で入るよりも立場が優遇されるということだ。ただし、アカデミーに入る為にはまず"一般人であること"が必須条件ではあるが。
「といっても、先ほど錦の言うように切羽詰っているのは確かだ。俺達の他にほとんど誰もいないのはそれぞれ捜索にあたっているからだ。初日ですまんが、早速会議を始める。無論、成宮も参加しろ」
「分かりました」
「って、おいおい待てよ! こんな新米を会議に参加させんのか? まだ研修だろ!」
「先ほど言っただろ? 成宮はアカデミーを"首席五役"で卒業した。こいつの能力は、計り知れない」
そのアカデミーの中でも、特に優遇をされるのが全成績トップである"首席"。
首席とは、卒業する者たちの中でも特に優秀とされる者に与えられる称号。そして、その中でも五人の首席匹敵クラスとされる者たちにその称号は与えられている。首席は五人いるが、それぞれが群を抜いて"優秀"。それ以上はないという意味でもある。
成宮はそれほどの価値があり、また身体能力や能力者に対する適応もトップクラスであった。
「ちっ。練習と本番じゃ、比べ物になんねぇよ」
まだ愚痴を言っている錦を後にして、柴崎は成宮を見つめて数秒経った後、後ろを振り返り、言い放つ。
「柴崎班、会議を行う。全員速やかに移動しろ」
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