ダーク・ファンタジー小説

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〜竜人の系譜〜
日時: 2013/03/30 21:54
名前: Towa (ID: 6Bgu9cRk)

皆様はじめまして!

『〜竜人の系譜〜』は、御砂垣赤さん、
幻狼さん、瑞葵さん、Towaによる合作小説
です。

頑張って書いていきたいと思いますので、
どうぞよろしくお願い申し上げます(*^^*)


〜目次〜

†登場人物・用語解説†
>>1

†序章†『竜王の鉄槌』
>>2 >>3 >>4 >>5 >>6

†第一章†『導と手段』
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13
>>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>19 
†第二章†『路と標識』
>>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
>>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31 >>32
†第三章†『竜と固執』
>>33 >>34 >>35 >>36 >>37 

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.33 )
日時: 2013/03/29 23:04
名前: Towa (ID: a4Z8mItP)

†第三章†
『竜と固執』

 冷たい海に突き出した世界最大の国、サーフェリア王国。
初代国王バジレット・ハースが治めるこの国は、竜人と魔術を象徴として掲げる単一国家である。
近年急速に発展したため歴史こそ浅いものの、広大な土地、豊かな資源、そして小規模だが圧倒的強さを誇る軍事力により、サーフェリア王国は今やどの国からも一目置かれる存在となっていた。

「うぅ……寒いですね」
「国に入れば、結界が張ってあるから暖かくなるよ」
 肌を切り裂くような寒風に、スレインが震えて外套を頭までかぶった。
それを見て苦笑しながら、ルーフェンが答える。
サーフェリア王国は、場所によっては雪も見られるはずの北国であるが、領土全体を結界で覆うことで寒さから国を守っているのである。

 モーゼル街から出発して早5日。
冷たい潮風に耐えながらの船旅は、間もなく終わりを迎えようとしていた。
「あ、見えた。あれだよな?」
「うん、そうみたいだね」
目の前の水平線から、緑に覆われた大地が見えてくる。
甲板でキートと海を眺めていたフィオは、それを見ると興奮した面持ちで指差した。
すると、後ろで帆を畳始めた船員達の内一人から、声が飛んでくる。
「あと少ししたら、結界の中に入ります!揺れますので手近なところに掴まってください!」
いよいよ、船がサーフェリア王国の王都アメルファの船着き場に停まろうとしているのだ。
「ところで、結界って俺らも入れるのか?」
ふと疑問に思ってルーフェンに問うと、彼は微笑み深く頷く。
「サーフェリアの船に乗ってるから大丈夫、リークや僕もいるしね。この結界は、寒さや外敵から国を守るものだから、僕らがついていれば入れるんだよ」
そう聞いて、フィオは目の前に迫る船着き場と自分達の乗る船の間を見る。
(なんも見えないけど……この間に結界があるのか……)
そんなことを考えていると、船は早速結界に差し掛かったようで、ぐっと一時的に減速した。
しかしそれを自覚した頃には、船は再び勢いを取り戻しており、まるで突進するかのようにドンッと盛大な音を立てて、船着き場に止まったのだった。

 船員達に軽く礼を言ってから船を降り、一行は久方ぶりに陸地に下り立った。
その時彼らの頬を撫でた風には、もう肌を切り裂くような冷たさはなく、スレインはいそいそと外套を脱ぐ。
それから三人は、ルーフェンとリークの二人に先導され船着き場から少し歩くと、王宮へ繋がる大通りに出た。
魔術国家、竜人国家などと呼ばれるだけあって、空中にまで庭園や家が浮かんでおり、それはなんとも異様な光景だった。
一般の外国人が先程の結界を越えるには色々と手続きを行わねばならずかなり面倒なようだが、それでも観光客の足は絶えず、治安の良さもあって移住を望む者 も多いらしい。
それは、この不思議な光景を一度は見たいという好奇心からくるものもあるのだろうと、フィオは思った。

 通りには様々な店がずらりと並んでおり、溢れる人々はルーフェンとリークを見た瞬間次々と店から飛び出してきた。
「お、やっと帰ってきたぞ!」
「おかえりなさいませ、お二人とも」
「ぶっ、ルーフェン様、どうしたんです、その格好!また陛下に怒られてしまいますよ」
次々とかけられる声に、ルーフェンとリークは軽く手を振って答える。
そんな二人に先導されながら、フィオ、キート、スレインの三人は王宮の方へと進んでいった。

 そうして城門をくぐり、いよいよ城内に入ろうとした時、「——あ」と不意にリークが声をあげた。
「どうしたんだ?」
その声を不思議に思い、フィオが問いかける。
「ルーフェン、俺ら着替えないと。城内入るし」
「あ、そっか」
そう言って顔を見合わせ、ついで二人はフィオ達に視線を移した。
「俺達はローブに着替えないといけないから、ちょっと先に行っててくれ。客間は最上階の一番奥だからな」
「王様とか警備兵が来たらすぐに、さっき渡した僕の赤い耳飾りを見せるんだよ」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
軽く頷き、スレインは掌でルーフェンの赤い耳飾りを転がした。
それに対し二人は笑みを返すと、そのまま駆け足で城とは反対の塔の方へと消えていった。

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.34 )
日時: 2013/03/29 23:21
名前: Towa (ID: a4Z8mItP)

 王宮の外装は、思ったより質素な感じであった。
しかし決して寂れているという雰囲気はなく、むしろ悠然と構えるその姿には、威圧感さえ感じるほどだった。
また、国全体に結界が張ってあるためか、あるいは王宮内のことは宮廷魔導師達に任せているためか、人の出入りに多い割に警備が薄い。
よって、王宮は全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出しているのだった。

 重厚な白石で出来た城壁と木製の扉を見上げ、スレインは軽く息を吸い込むと、静かに扉を開けた。
中も外観からの予想に違わず落ち着いた雰囲気で、辺りでは神官や警備兵らしき人々が楽しげに話していたりしている。
その中で、大理石で作られた床を踏み、3人は客間に向かうべく最上階へと続く階段を目指す。
時々周囲の人々が不思議そうな視線を向けてきたが、特にそれに構うことなく進んだ。
すると、目の前まで迫った階段から、別の人間が降りてくることに気づく——と、次の瞬間。
「——っ!?」
突如背筋に走った殺気に、フィオは剣の柄に握った。
しかし、その殺気と共に風を切るように飛んできた何かは、剣を抜き払う前に3人の間をすり抜け、後ろの壁に突き刺さった。
反射的に後ろに振り返り、その壁に刺さったものを見つめる。
ちょうど針を巨大化させたような飛び道具——明らかに暗器だ。

 これから自分達が上がろうとしていた広い階段から、ゆっくりと降りてくる人影。
そして再び飛来してきた暗器を、今度こそはと剣を抜き弾くと、フィオはスレインの前に立った。
「おい!なんなんだ、てめぇは……!」
そうして見上げて、その襲撃者の姿を目にした途端、3人は息を飲んだ。
雪を思わせるような白い髪、すらりと伸びた背筋、深く刻み込まれた皺も含め恐ろしいほど整った顔に、瞳は炎のような紅色、まるで人間とは思えないような雰囲気を纏ったその女は、しかし美しいとしか言いようがなかった。
「だ、誰だ……?」
掠れた声で問うが、その答えは返ってこない。
その代わり彼女は、燃えるような瞳をこちらに向け、氷のような声音で言った。
「去れ」
「……は?」
鋭く放たれたその言葉を理解できず、ただ呆然と立ち尽くす3人に、老女は更に言い放った。
「これくらいのことにも反応できないくせに、剣なんて持つもんじゃないよ、鼻垂れ小僧が。分かったらさっさと去りな」
「…………」
フィオは硬直した。
(な、なんだこの婆さん……すっげぇ怖い……)
言い放っていることもももちろんそうだが、何より雰囲気が恐ろしすぎる。
力業で勝てる勝てない云々よりも、逆らってはいけないという謎の本能が働き、体が動かないのだ。
その横から、スレインが恐る恐る口を開く。
「あ、あの……私達、戦いに来たとかではなくて、その——」
「黙りな小娘。お前に話しかけた覚えはないよ」
「…………」
結局、鋭い眼光で一刀両断され、スレインも沈黙した。
ついで、キートがいつもの笑顔でその老女に近づく。
「おばあさん、少し話を聞いて下さ——っ!?」
が、その勇気ある挑戦も、暗器がキートの首の皮一枚のところを飛んでいったことで、敢えなく終了した。
「ふん、何をへらへら笑ってるんだい、気味の悪いガキだね。女の口説き方も知らないようなガキの話を、私が聞くわけないだろ」
「…………」
再び訪れた沈黙。
まさかスレインやキートまで黙らせるとは、本当にこの老女は何者なのか。
やはり着替え終わるのを待ってでも、ルーフェン達と一緒に来れば良かったと後悔する。
と、ふと老女の方から別の女の声が響いてきた。
「駄目ですよ、陛下!!王宮内で暗器使ったら危ないでしょう!!」
(((陛下——!?)))
その言葉に、三人はぎょっとして一斉にその老女を見る。
そういえば、と、以前ルーフェンが言っていた台詞を思い出した。

——サーフェリア王国の初代国王様はね、バジレット・ハースという女性で、もう68歳になるけどすごく元気なんだよ。
(((いや、元気というレベルではないけど……)))

そんなことを考えていると、先程この老女、改めサーフェリア王国初代国王バジレット・ハースに歩み寄ってきた女性が、こちらに視線を向けていることに気づき、3人も階段上の彼女を見上げる。
僅かに緑がかった黒髪を後ろで一つに編み込んだその小柄な彼女は、ガラス玉のような漆黒の瞳でこちらを見ている。
彼女の場合、凛とした表情を浮かべているものの美しいというより可愛らしいといった表現が似合いそうだった。
「貴女達……もしかしてルーフェンさんの?」
その言葉に、スレインははっとしてルーフェンから預かった耳飾りを見せる。
そして、話すことを許されたこの機会を逃すまいと慌てて口を開いた。
「そうです!私達ルーフェンさんとリークさんと、モーゼル街から来た者で……陛下にお話があるんです!」
それを聞いて、もはや震える子羊状態のスレインを見下ろすと、バジレットはふっと息を吐いて目を細めた。
「全く、とろい娘だね。それを早く言ってりゃ私だって攻撃なんぞしなかったものを」
「あ、も、申し訳ありません」
びくりと肩を震わせて謝るが、それを特に気にすることなく、バジレットはしっかりとした足取りで踵を返し階段を再び上がり始めた。
「ついて来な。どうせモーゼル街襲撃の話だろう」
「いえ、それだけではないのですが……」
「なんだって?」
「……なんでもありません……」
本来の目的は、スレインはシュベルテ王国からの使者としての役目を果たし、フィオは故郷で起きたことについて聞く、といったものだったのだが、今この場では言えそうもなく、スレインは押し黙った。



 「すみません、陛下は少し照れ屋なのです」
 客間へと続く階段を上がっている途中、自分より頭1つ分背の低い彼女——先程話す機会を与えてくれた漆黒の瞳の女性に声をかけられ、スレインはそちらに視線を移した。
「そ、そうなんですか……かなり過激な照れ隠しなんですね」
「ふふ、確かに。初めは皆怯えるんですよ」
ええ、今まであったどんな魔物よりも怖かったです、とは言わなかったが、それに近いことを一瞬言おうとして、スレインは慌てて口をつぐんだ。
「ところで……貴女は?」
先程から感じていたことを問うと、女性は少しだけ微笑み軽く頭を下げる。
「私は陛下に仕える宮廷魔導師が一人、グレイス・フィロンダと申します」
そう聞いて、スレインは少し目を見開いた。
言われてみれば、彼女——グレイスの胸にもリークのものと似た竜の記章がつけられているし、体も小柄ながら引き締まっていて無駄がない。
だが、まさか竜人の頂点に立つようなサーフェリア王国の宮廷魔導師に、女性がいたとは思っていなかったのだ。
そんな風に思考を巡らせていると、グレイスがふと、スレインのもつルーフェンの耳飾りに目を向けた。
「……そういえば、ルーフェンさんは元気でしたか?」
それに対しにこりと笑ってスレインは答える。
「はい。とても優しい方で……。何度も助けて頂きました」
「そうですか。それは、良かった……」
ふっと、グレイスの表情が緩んだ。
道端で爆睡していたことはあえて言わなかったのだが、そんなに彼らのことを心配していたのだろうか。
と、ついでグレイスははっとしたような表情を浮かべると、そのままバジレットの先へと駆けて行き、最上階のある一室の扉に手をかけた。
どうやら客間に着いたらしい。

ギィィ——……と音を立てて、扉が開いた。

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.35 )
日時: 2013/03/30 14:43
名前: Towa (ID: 6Bgu9cRk)


 客間、といっても客が優遇されるわけではなく、一行が案内されたのはあくまで王との面会場所のようなものだった。
室内も思ったより殺風景で、赤い絨毯や宝石の散りばめられた椅子などは置いてあったが、総合的に見るとアレスタス侯爵家の派手さには到底及ばない程度だ。
しかし、その簡素さこそが訪れた者に上品さを感じさせるのであり、国王バジレットの威厳を引き立たせるのだった。

 バジレットは、部屋の奥まで歩き少し高くなっている舞台のような場所に上ると、背もたれの高い椅子に座る。
そして、肘おきに手を置くと例のごとくこちらを睨むように見た。
赤い絨毯の上に立ったままの3人は、蛇に睨まれたかのように固まる。
「……で、話ってなんだい」
「…………」
咄嗟に言葉が出ない彼らを、バジレットは肘をつき無言で見つめていた。
しかし、この気まずい雰囲気を払拭せねばと、不意にフィオが口を開いた。
「俺達、モーゼル街の件についてはルーフェン……さん達に参考人として連れてこられただけで、本当は別の用件で来たんだ……です」
「ほう、別の用件?」
ひとまず聞いてくれそうな雰囲気に安堵しつつ、フィオはスレインと顔を見合わせた。
どちらの用件を先に出すか迷ったのだ。
しかし、よく考えればフィオの用件というのは宮廷魔導師達に宛てたものであって、国王に対するものではない。
直接国王への用件を持つのはスレインなのである。
そう判断し彼女に先に言えといったような素振りを見せると、スレインはそれを理解したようで前方に視線を戻し、口を開きかけた。
だが、バジレットがそれを片手で制し
、扉のほうを見つめ「入りな」と一言発す。
するとゆっくりと扉が開き、奥から一人の男が姿を現した。
「只今戻りました、王様」
手を顔の前で合わせ跪き、男は恭しく一礼すると顔を上げる。
その中性的な顔立ちと鳶色の瞳を見た瞬間、一同は既に固まっていた体を更に凍りつかせた。
「……誰?」
いや、逆に誰だか想像できていたがために体を凍りつかせたわけだが、信じられないといった風にフィオが囁いた。
薄茶色の柔らかな髪はちゃんと散髪されたらしく、あのだらしなく伸びた前髪や肩に付きそうな状態だった後髪は短くなり、頭の横で銀細工の髪留めに留められている。
青と白を基調とした華美すぎないローブは、あの短時間で着た割には細部まで手がこんだもので、その胸にはやはり竜の記章がついていた。
「帰ってくるのが遅いんだよ、ルーフェン。どこで道草食ってたんだい」
「いやぁ、少し手間取ってしまいまして……」
相変わらずのバジレットの毒舌に、しかしルーフェンは微笑み立ち上がると、フィオ達の立つ位置までやって来た。
頭をぽりぽりとかきながら掴み所のない笑みを浮かべる辺り、やはり着飾ってもルーフェンである。
「ふん、そんなチンタラしたやつに頼む仕事はないよ。報告が終わったらしばらく自室にでも引っ込んでな」
「そんな言い方しなくても……」
あまりの言い様に思わず口をはさんだスレインだが、それを聞いたルーフェンはくすりと笑うと静かに首を横に振った。
「スレインさん、今のはね、翻訳すると『仕事はこっちで片付けるから、しばらくは自室でゆっくり休んでてね』って意味だから。あ、耳飾り返してくれる?」
「え、あ、はい」
「くたばりたいのか、この鼻垂れ小僧」
例のごとく針のような暗器がルーフェンに向かって飛来する。
それをぎりぎりのところで避けながら、ルーフェンはスレインから返ってきた赤い耳飾りをつけると、バジレットに視線を戻した。
「いいんですよ〜王様、分かってますから」
「うるさい、黙——」
「あ!ルーフェンだ!おっかえり〜」
再びバジレットの毒舌が展開しようとしたその時、それを遮って扉が開き、今度は焦茶色の髪の少年——リークが現れた。
格好はグレイスが着ているものと特徴が似ており、先程までの旅装より多少動きづらそうではあるもののこれがサーフェリア王国の宮廷魔導師用ローブなのだと分かる。

 リークは、両手を広げて無邪気にルーフェンへと駆け寄ってきた。
それを受け止めようと、ルーフェンも両手を広げた、その時——。
「——と見せかけて俺様パンチ!!」
「ごふっ」
リークは、両手を広げた無防備状態のルーフェンの腹に思いきり拳を叩き込んだ。
そして、衝撃のあまり腹を押さえてうずくまる彼を見下げ、満足げに鼻で笑う。
「油断したな、ルーフェン!これで俺の3戦3勝だ!」
「またやられたかぁ……」
勝ち誇ったように腰に手をあてふんぞり返るリークに、微かに涙を浮かべるルーフェン。
その一方で、フィオ達はいつもと違うリークの様子に、違和感を感じていた。
(リークってもっとこう、なんだかんだで大人っぽい感じだったような……)
しかし、またしても勢いよく扉が開き、その奥から飛び込んできた第2のリークに三人は目を見開いた。
「おいカザル!!てめぇ留守中に俺の部屋勝手に入りやがったな!!中ぐちゃぐちゃだったぞ!!」
第2のリークがいい放つ。
フィオは、先程ルーフェンの腹に一撃を食らわせたもう一人のリークと彼を交互に見比べた。
「仕方ねぇだろ?俺のローブ繕ってもらってる最中だったからお前のを借りたんだよ。ちゃんと戻しといたんだからいいじゃねぇか」
「だったらちゃんと畳んで片付けろっつってんだよ!!箪笥に詰め込みやがって……おかげで皺だらけになっちまっただろ!!」
確かに、そういうリークの着ているローブは、あちらこちらに皺ができている。
が、フィオ達が気にしているのはそんなことではなかった。
言い争っている少年が、全く同じ二人ともリークだったのだ。
焦茶色の髪、猫のような鋭い瞳、少年らしさを残しつつもはっきりとした声音、全てが同じだ。
その事態にフィオ達が混乱しているのに気づいたのだろう、後から入ってきてローブの皺について文句を言っていた方のリークが、3人の方を見やりもう一人のリークを指差して言った。
「こいつはカザル・ラントレイ。俺の双子の弟だ。さっきまでお前らと一緒にいたのは俺だからな!」
その言葉に、ああ、と納得して頷く。
どうやら、皺について文句を言っていたのがリークで、ルーフェンに一撃を食らわした方がカザルのようだ。
「なるほど、リークさんは双子のご兄弟がいらっしゃったんですね」
「うん、本当にそっくりだったから、分からなかったよ」
「「けっ、こんなやつと一緒にしないでもらいたいがね」」
そんな二人の声が見事に合わさって、一同はやはり双子だと感心したわけだが、当のリークとカザルはむっとした表情を浮かべ、お互いをにらみ合っている。
しかし、その背後でバジレットが苛立たしげな雰囲気を出していることに気づいて、2人も即座に黙り込んだ。
どうやらこの双子も、バジレットには逆らえないらしい。
「で、ルーフェン?さっさとリベルテとモーゼルであったことを全て話しな。そこの3人のこともね。小娘、別の用件とやらはそのあとだ」
「あ、はい」
そう言われて、スレインは大人しく頷く。
「あとグレイス。エルダーとラドニス、アルディンはどこにいる?」
「アルディンは兵舎のほうにいるかと。エルダーとラドニスは自室か、まあその辺りにいると思いますが……」
バジレットの横に控えていたグレイスは、前方を見つめていた視線を国王に戻し答える。
「じゃあグレイスとカザル、5分以内にエルダー、ラドニス、アルディンの3人をここに連れてきな」
「分かりました」
「えぇえ〜俺かよ〜」
「文句あるのかい?」
「ありません、行ってきます」
そう言って2人は、扉から走り出たのだった。



Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.36 )
日時: 2013/05/03 10:13
名前: Towa (ID: xPtJmUl6)

 グレイス、カザルによって連れてこられた3人は、これまた特徴的な3人だった。
彼らが加わったことによって、警備兵を除き客室には合計11人が存在することになり、流石に立ったままはどうなんだろうということで室内には椅子が用意された。

「ほう、禁忌魔術による魔物の召還、か。で、その禁忌魔術とやらの始末も含め全部済ませたんだろうな?」
「はい、多分大丈夫だと思いますよ」
バジレットの威圧的な目に、にこりと微笑んでルーフェンが答えた。
「でも、禁忌魔術なんて公には知られていないはずの魔術ですよね?なぜリベルテがそんなことを知ってたんでしょう?」
グレイスが問う。
「それは分からないんだよねぇ。誰かが古代の魔導書をリベルテの人間に渡したか……それくらいしか考えられないけれど。ただ困るのが、禁忌魔術っていうだけに僕も詳しいことは知らないから、実際のところどういった魔術なのか分からないんだ。現に例の上位の魔物が出現した辺り、なぜか普通の魔物が大量発生したりしてない?ね、騎士団長さん」
ふっと目を細め、隣に座る金髪の青年に声をかける。
すると、その騎士団長と呼ばれた青年——先程連れてこられたアルディンは、すっと席を立ち上がった。
「ええ、確かにそうですね。まあその上位の魔物とやらが具体的にいつどこをどう通過していったのかが分からないのではっきりとは言えませんが、ここ数日でリベルテからの街道沿い及びモーゼル街付近で魔物が頻繁に目撃されています」
「そういや、モーゼルにはその上位の魔物だけじゃなくてクラーケンも出ただろ。……俺は見てないけど」
しっかりとした口調で報告を済ませたアルディンに続いて、ふてくされたようにリークが言う。
それを聞いたカザルが、隣で不思議そうな顔をして口を開いた。
「なに、お前クラーケン退治しに行ったんじゃないの?」
「行ったさ。行ったけど、その頃には通りすがりの旅人とやらがもう退治した後だったらしい——って、ん?」
ちょうどその時、ふとリークの目にスレイン、フィオ、キートの3人が映る。
そしてモーゼル町長の言っていたその旅人3人組の特徴を思いだし、あっと声をあげた。
「黒髪の女に青髪と銀髪のガキって……あっ!お前らか!」
「は、はい!?」
突然指を差され、スレインが慌てて返事をすると、ついでリークが苛立ったかのように自分の髪をかき回した。
「あぁ〜っ、ったく、お前らかよ〜。俺はわざわざそのためだけに——」
「黙れリーク」
「はい」
しかし、それはバジレットの一喝により呆気なく収まった。
この場にいるものは大抵この王には逆らえないようだが、リークとカザルはその中でも特にバジレットに弱いようだ。
それから、バジレットはフィオ達に視線を移し、ゆっくりと足を組み直すと言った。
「で?」
「…………」
「貴様らが倒したのか?」
突如として向けられたバジレットの目に、スレインがフィオとキートの方を見る。
クラーケンを倒したのはこの2人だ、と言いたいのだろう。
その視線に、フィオが仕方ないと言ったような様子で口を開く。
「……ああ、クラーケンは俺らが倒したよ」
「どうやって?」
「どうやってって言われても……普通に戦って、だけど……」
「魔術を使って、だよ」
どう答えていいか分からず口ごもったフィオに、キートが助け船を出した。
だがその言葉に驚いたようで、バジレットは軽く目を見開いた。
「魔術?貴様ら竜人か?」
「うん、フィオはそうだよ。僕もまあ、そんな感じかな」
「ほう……」
バジレットが目を細める。
竜人と聞いて興味を持ったらしかった。
しかし、それを知ってか知らずか、話はアルディンによって遮られる——否進められる。
「話を戻します。それで、クラーケンの様子で何か変わったところはありましたか?」
そう問われて、フィオ達はアルディンに目をやった。
「いや、特には……というか、クラーケンに遭遇したのはあれが初めてだったし……な?」
「うん。あ、でも……クラーケンの周りの海水だけ異常に濁ってなかった?」
「そうだったか?」
「魔物自体には異常はなかったということですね」
「「…………」」
そうして話をばっさりと切られ、フィオとキートは押し黙る。
「まあ考えられる原因としては、その魔物の邪気に他の魔物も引き付けられてるとか、そういうことでしょうけど……問題はモーゼル街ですよね。今の話だといつまた襲われるか分かりませんし……」
「ああ、モーゼル街の町長にはもうサーフェリアの正式な領土になったこと言ってきたから、ほっとくわけにいかないしな」
真剣な眼差しで言ったグレイスに、リークが付け足す。
それには、この場にいる宮廷魔導師全員が頷いた。
そんな中で、唯一宮廷魔導師ではないアルディンが口を開く。
「……私には魔術のことはよく分かりませんが、モーゼル街にもここと同じような結界を張ることは不可能なのでしょうか?」
それに対し、ルーフェンがあごに手をあて、少し考え込むような仕草をしてから答えた。
「う〜ん、ちょっときついかなぁ。今張ってある結界は頑丈だし、張り続けても現在進行形で魔力が消費されないものなんだけど、その代わり2、3か月かけて、薄い結界を何層も何層も重ねる必要があるんだよ。モーゼル街にも即席で張れないことはないけど、それだと張った人はずっと魔力消費しっぱなしだし、強度も保てない」
「じゃあもうモーゼル街の人達全員こっちに引っ越してきてもらえばいいんじゃないの?そしたら俺らの守備範囲だろ?」
緊迫した空気の中で、おちゃらけた雰囲気をまとったカザルが言った。
するとその横で、リークが呆れたような表情を浮かべる。
「お前は相変わらず馬鹿だな、カザル。モーゼル街から人がいなくなったら、交易滞りまくるだろうが!!」
「なっ、馬鹿って言ったか今!!クラーケン退治しに行ってのこのこ手ぶらで帰ってきたやつに言われたくないね!!」
「なんだとてめぇ!!それは仕方ねぇだろうが!!」
「黙れ」
「「すみません」」
再び喧嘩を始めようとした双子を一喝し、バジレットはついで奥のほうに座る若草色の髪をした巨漢を見た。
先程、グレイスとカザルに連れてこられた内の一人である。
「エルダー、騎士団何人か連れて、あんたがモーゼル街に行きな」
「……今からですか?」
「この話し合いが終わって、準備ができたらすぐにだ。海辺の魔物ならお前の雷魔法が一番効くだろうからね」
「……分かりました」
エルダーと呼ばれた巨漢は、ぼそぼそと低い声で返事をした。
その鍛えられた逞しい肉体は、もはや魔導師というより軍人のようだった。
「ルーフェン、結界は死ぬ気で張ってどれくらいかかる?」
「皆が協力してくれるなら、1か月半くらいですかね」
「じゃあ1か月でモーゼル街に結界を張りな」
「ぷっ、また無茶言いますねぇ王様は……徹夜で頑張りますけど」
「ふん、できるだろ、お前たちなら。とりあえずその1か月間はエルダーに街を守らせる。ま、エルダーが街に着くまでの数日間で街が滅ぶようなことはないだろうしね」
「……けど」
ちょうど話がまとまろうとしていた時、ふとエルダーが口を開いた。
彼は元来無口なのだろう、話すことになれていないようなその声音は、実に聞き取りづらい。
「……その上位の魔物っていうのがまた出てきたとき、どうすればいいですか?……リベルテがその禁忌魔術を知ってたってことは、他国も知ってる可能性もありますよね」
それを聞いた途端、全員の視線がルーフェンとリークに集まる。
するとリークはお手上げだと言った風に手をあげて、ふっとため息をついた。
「言っとくが、ルーフェンは別としてありゃあ俺達でも一人じゃつらいぜ。しかも街中となるとそれなりに魔力を抑えなきゃいかんしな。……あれに弱点とかないのか?」
背もたれに寄りかかり、脱力したような声でリークが問う。
「さあ、それは分からないなぁ。そもそもあれは僕らが勝手に魔物と呼んでるだけで、本当は人間の憎悪から生まれた念の集合体みたいなものだから、生き物みたいに弱点とかはないと思うよ。ごめん、僕の説明が悪かったのかな。あの禁忌魔術は人から発せられた念を集めて、形にするって言うものだから」
「では例えばですが、憎悪だけでなく幸福や快楽の念も可能なのですか?」
「理論上はね。でも強い念っていうのは、基本的に憎悪とか嫉妬とか、そういう負の感情のほうが多いからそれは出来るか分からないよ。まあ僕も魔方陣にあった術式から読み取っただけだから、断言はできないけれどね」
重い沈黙が部屋を包む。
もし再びあの魔物が現れたとき、やはり2人は宮廷魔導師が必要なのだ。
しかしこの広大なサーフェリア王国全体ですら宮廷魔導師は6人しかいないというのに、モーゼル街に2人も回すのは危険な行為だった。

Re: 〜竜人の系譜〜 ( No.37 )
日時: 2013/03/30 21:52
名前: Towa (ID: 6Bgu9cRk)

そんな雰囲気を感じながらも、バジレットはふんっと鼻をならすとフィオ達を一瞥した。
「そこの鼻垂れども、お前たちは戦った時のことを話せ」
自分達のことだと気づいて、フィオとキートは顔をあげると、お互い気まずそうに顔を見合わせてから答えた。
「俺達は、2人いても歯が立たなかった。攻撃を防ぐので精一杯っていうか……」
「そうか。ではサーフェリア国内の他の竜人を大量に送り込んでも無駄だな」
「…………」
はっきりと無駄だと言われて、2人は微妙な顔つきでいたが、否定もできなかったためただ沈黙を守る。
しかしその横で、ルーフェンがこの重苦しい雰囲気を払拭するような声音で言った。
「まあ、でもこれはそこまで心配する必要ないと思いますよ」
その声に、バジレットは目を細め半ば睨むようにしてそちらを見やる。
「なぜそう言える?」
「だって、あれを産み出すには必要なものが多すぎますから。まず沢山の生け贄、それなりの軍事力、まあこの場合は魔力ですね。あと巨大な魔方陣を描くための領土、そして魔導書。リベルテはもう全焼させたのであそこから情報が漏れることはまずないでしょう。それにもし何者かが意図的に情報を漏らしていたとしても、もう次に怪しげな動きをする国があったら私達が即気づいて対応できます。ね?ですから僕らは、とりあえずモーゼル街への守りを強化すればそれで問題ないでしょう」
「だが、最近魔物の動向がおかしいのは確かだぞ。モーゼル街にばかり気をとられていると、足元をすくわれかねん。特に南だ」
ふいに聞こえたどすの聞いた声の主に、全員の視線が集まる。
この中で最も目立つ宮廷魔導師——ラドニスだった。
先程部屋に入ってきたとき、フィオ達は彼を見て驚愕したのだ。
宮廷魔導師のローブは他と同じものの、フードを深くかぶり顔には鳥を象ったような面をかぶっている。
そして何よりも注目すべきはその異常な体格だった。
エルダーも十分がたいがいいのだが、それとは比較にならないくらい巨大だったのだ。
もはや椅子には座っていない——いや、座れない。
おそらく、フィオの4倍はあるだろうというくらいの巨漢ぶりだ。
「それはもう知っている。魔物が凶暴化しているという話だろう?」
「それだけじゃない。見たことのないような魔物が出現したり、大量の死骸が目撃されたりもしている」
「…………」
その話を聞きながら、グレイスは黙ったままルーフェンを見上げた。
それに気づき、ルーフェンは人差し指を口にあて何も言うなという合図を送る。
「ま、今回の件に関しては関係ないかもしれん」
「ああ、それについてはまた追々検討する。そもそも今は南の話なんぞどうでもいい」
ばっさりと言い切ったバジレットに苦笑しつつも、全員が軽く頷く。
「では、とりあえず話し合いは終わりに——」
「ちょっと待ってください」
と、ようやく話し合いが終結しようとしたその時、スレインの凛とした声が響いた。
ついでスレインは椅子から立ち上がり、バジレットの前に立つと恭しく跪く。
「ご無礼をお許しください、陛下。その、別の用件、についてなのですが……」
「それは後でと言ったはずだが?」
「ですが、今のことと、関連することなのです」
そういって彼女を見上げたスレインの表情は、真剣そのものだった。
これまでとは違う態度に、バジレットも目を細め、しばらくスレインを見つめる。
そして肘おきを土台に肘をつくと、鋭くはっきりとした声音で言う。

「良かろう。聞いてやる」


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