ダーク・ファンタジー小説

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アリエナイ世界。【コメ欲しくてたまらん&危険】
日時: 2013/02/28 23:10
名前: 栞 (ID: 9RoM5lpe)



誘拐された。物心ついた頃から数えてこれで九十九回目だ。

 学校帰りに背後からスタンガンを当てられるいつもの手口。金属バッドで殴られた時に比べれば痛みは少ないのでかなり楽。
 試しにぱちぱちと瞬きをしてみた。アイマスクかなにかで覆われているのだろう、視界は暗く光はない。外そうにも両手首は金属的なもので拘束されていて動かせない。
 ならば助けを呼ぼうと口を開いたところで、噛まされている分厚い布に唾液を吸われて不快なだけ。
 足だけは自由に動かせるが、足の裏にコンクリートの感覚があるということは靴は脱がされているらしい。
 確信にも似た嫌な予感がして足を少しだけ伸ばす。

「っ……」

 指先にぴりっと痛みが走った。そのまま足を強く押し付ければ、コンクリート打ちっぱなしの床に広がる液体の感覚。出血した。
 左右に動かせばじゃらじゃらという音に比例し出血の酷さも増す。数秒の間そうすれば静かな溜息と共に自虐紛いの行動を切り上げ、御堂みどうはゆっくりと上半身を起こした。
 どうやら周りには細かいガラスの破片が散らばっているらしい。あるいは散らされていると表現するべきか。これでは歩いてこのコンクリート部屋から出るのは不可能だ。
 鳶島とびしま御堂。男子。高校二年生。特技、ピーチ姫より誘拐されること。そんな風に自分を揶揄してきたクラスメイトを思い出して溜息を吐きたい気分になる。
 あと一回で三ケタに突入だなんていっそお祝いパーティーでも開いてやろうか。
 心の繋がらない両親は来なくとも血の繋がらない義妹なら来てくれるかもしれない。ご丁寧に、くす玉なんかも準備して。

「……起きたのね」

 呑気に構えていたところを聞きなれぬ女の声が遮った。慣れた事で特に驚きもない。
 それでも一応のリアクションとして肩を揺らせば、ざりざりとガラスを踏んで女が近付いてくる音。反響の具合からしてそう広い部屋でもないらしい。
 なんて余裕ぶっているといきなり視界が明るくなった。どうやらアイマスクを取ってくれたらしい。
 明るくなったと称したものの、部屋に電球の類はない。
 雨風しのぐ役目をかろうじて果たすひび割れた窓。そこから差し込む月明かりだけが光源だ。広さは学校の教室と同等かそれ以下。
 どうやら女は後ろからアイマスクを取ったようで、安っぽい手袋をしていること以外に容姿は知れなかった。

「状況が飲み込めていないだろうから説明してあげる。君は私達に誘拐されて、これからどこかの悪趣味な金持ちに売り飛ばされる。家には帰れない。わかった?」
「…………」
「ああ、このままじゃ喋れないか」

 女が首の後ろで布の結び目をほどくのを感じながら、軽い絶望感に苛まれる。今度は人身売買組織か。

Re: アリエナイ世界。【コメ欲しくてたまらん&危険】 ( No.1 )
日時: 2013/02/28 23:12
名前: 栞 (ID: 9RoM5lpe)



 家に帰れないのは構わない。
 妹は悲しんでくれるが親はむしろ涙を流して喜ぶだろうし、何年か前の誘拐犯に自宅監禁されたときはこのまま住み着いてやろうかなんて血迷ったくらいだ。

 だけど。

 さすがに人身売買ともなると甘いことは言ってられない。
 女の発言から推測するに、内臓パーツでバラ売りではなく生身で売られるのだろう。
 悪趣味な金持ちということは倒錯した性癖の持ち主である可能性が高い。
 ならばこちらの運命は、このまま売られるか麻薬ドラッグ漬けにして売られるか。大穴で洗脳されるかの三択だ。
 どれにしても明るい未来は待っていない。

「——あの、お姉さん」

 布が離されたと同時に話しかける。
 年齢がわからないので、予想より若かったときのためにおばさん呼びは控えた。
 怯えているとでも思ったのか、女は質の悪い愉悦を声に滲ませて「なにかしら?」と反応する。

「ぼくを買い取るのって、どんな人達なんですか」

Re: アリエナイ世界。【コメ欲しくてたまらん&危険】 ( No.2 )
日時: 2013/02/28 23:22
名前: 栞 (ID: 9RoM5lpe)

 落ち着き払った様子の御堂を見て、つまらなさそうに舌打ちを一つ。
 どうやら彼女自身にもサディストの気があるらしい。男子高校生の泣き顔など眺めても面白くないだろうに。

「拷問狂の財閥御曹司に、自分の息子と同じくらいの年した子供にしか興奮できない六十超えの社長夫人。そうね、あと有力なのは……死体愛好家のショタコンじいさん」
「死体愛好家——」

 どうやら、貞操よりも命を心配したほうが良さそうだった。
 死んでからホルマリンの中で老人に愛でられる趣味は持ち合わせていない。

 だがしかし、この状況で自分に何ができるのだろうか。
 特に格闘技も習っていないし、いざという時のためにナイフを隠し持ったりもしていない。
 そもそも人身売買に手を出すくらいの相手なら拳銃なりなんなりで武装しているはずだ。仮にナイフがあっても三秒で蜂の巣にされるのがオチだろう。
 
 過去にこの手のピンチは無かった。
 今までの誘拐犯はこぞって好意的というか、むしろ一般人よりこちらに丁寧で、男に使う言葉ではないがお姫様扱いしてくるタイプばかりだったのだ。
 もちろん中には乱暴を働いてくる誘拐犯もちらほらいたのだが、蹴ったり殴ったりではなく年齢制限のかかる意味だった。
 単なる暴行ならむしろ両親が筆頭格。それでも殺されそうになったことはない。
 過去に経験がなければ活かせるようなアイデアが降って湧いてくるはずもなし。

 ——なんというか、行き詰った。

 あくまで冷静に、沈着に、平坦に、鳶島御堂は己が身を諦めた。
 仕方がない。世の中に裏ルートで売られる人間が何人いるのかは知らないが、自分もその中の一人になっただけだ。
 この状況が怖くないわけではないが誘拐に慣れがあるぶん人より恐怖心は薄い。
 サディスティックな欲求の捌け口にされるか、いかれたコレクションの一部に加えられるか。
 行く末はわからないが、自分の人生はこんなものなのだと割り切ってしまおう。

 願わくば、自分の不幸が誰かの幸せでありますように。
 たとえ自分が不幸でも、それで誰かが幸福なら、いつかは自分もそうなれるかもしれない。
 ——なんて幻想を抱いたままで人生の幕を引ける。
 そんな風にゆるく死を覚悟して、長めの瞬きを一つ。

Re: アリエナイ世界。【コメ欲しくてたまらん&危険】 ( No.3 )
日時: 2013/02/28 23:27
名前: 栞 (ID: 9RoM5lpe)

すいません、複雑のほうに移転します。よかったら見てください。

Re: アリエナイ世界。【コメ欲しくてたまらん&危険】 ( No.4 )
日時: 2013/03/01 16:21
名前: 栞 (ID: 9RoM5lpe)

「アリエナイ世界に生きて。」です。
良かったら見てください!

通販 腕時計 ( No.5 )
日時: 2013/07/29 20:02
名前: 通販 腕時計 (ID: A7lopQ1n)
参照: http://www.get-ba.com/

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