ダーク・ファンタジー小説
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- Wild but Safe! 危険だが安全!
- 日時: 2013/07/16 19:15
- 名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)
きらめく水底にそれを見つけたとき、何かとても素晴らしいものかと思った。
思わず体が反応して、落ちているものに飛びついてしまう癖が出て、泉に飛び込んだ。
心臓が激しく跳ね動き、酸素を余計に消費していく。
ただ僕はぎゅっと口を結んで酸素がなくなって行くの我慢して深くもぐり続けた。
水深が深くなるにつれて水中に差し込む太陽の光がカーテンのようにひるがえる。
僕がオーロラを知っていたなら、きっとオーロラだと思ったことだろう。
だがあいにく僕にはオーロラなど、どこか遠くのことについての知識は全くない。
あるとしたら床の磨き方や、窓の拭き方、いずれも奴隷として雇われて必要なことしか僕は知らない。
だから必死に深い底にもぐって、拾い上げたそれが何なのか、僕はまだ知らない。
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Wild but Safe! 目次
第一部 『 Wild but Safe 』
前編:>>001-018
中編:>>019-055
後編:>>056-77
Cast:>>78
第二部 『 Lunatic but Stability 』
前編:
中編:
後編:
第三部 『 Separat but Resumpt 』
前編:
中編:
後編:
流血表現有
部の最後にCastが乗ります
- Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.78 )
- 日時: 2013/07/13 15:05
- 名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)
第一部 「 Wild but Safe 」 CAST
◆アリスト
奴隷として人生を送る15の性別不明の子供。
親方と共に二人で屋敷に暮らしていた。両親の思い出は、ない。
長い金髪を左耳の下で黒いリボンで止めている。親方から作業服と支給された瞳と同じ緑のチュニックを着ており、皮製のズボンの他にはぼろぼろの茶色い革靴のみしか所持品はない。
司祭様によって体内に悪魔を閉じ込められる。
指輪をはずすという契約によって死の間際救われる。
◆マクバーレン
アリストを赤子のときより15年間育てた街一番の大金持ち。
悪魔に憑かれたアリストをかばった結果、司祭により処刑された。
◆エリオス
マクバーレンと共謀して詐欺をして設けていた金持ち。
アリストが泉から引き上げた悪魔の封印された箱の封印を解き、悪魔に取り付かれた。司祭様によって救われる。
◆トルテ
本名トラロッテ。ケーキ屋の娘でアリストを慕う。齢10あまりだが少し大人びたところを持ち、芸術家になることが夢だった。
◆フォーテュン・フォン・ジロア
街にたった一人の最高司祭様。通称司祭様。悪魔をアリストの体内に閉じ込め、殺そうとする。マクバーレンを断頭刑に処して殺した。
信仰心が異常に高く、なんとしてでも悪魔を滅しようと躍起になる。
◆黒頭巾
司祭様の手で結集された悪魔を殺すための集団。聖水と聖油を常に持ち、胸元には十字架が光っている。すっぽりとかぶった黒頭巾のほかは、通常の司祭服。
◆ジヴリ
本名エミール・グリヨ・ド・ジヴリ。赤茶色の髪に紳士的な清潔な服に身を包む16の少年。カバンを背負い、手には赤黒い大型本を抱えている。自身を悪魔研究家の第一人者と名乗り、アリストを追ってきた。
72の悪魔にイヤに詳しい。
◇ベレス
激怒の王。72の悪魔の主導権を握る4悪魔の内の一人。青い馬にまたがり手には楽器を持って現れる。高貴な身分ゆえ呼び出されるのを嫌い激怒しながら出てくる。友愛をつかさどるほか、ノアの子供に数学を教えたこともあるほど数字に強い。他にも能力があるが不明。
◇ブエル
献身の癒やし手。淡い紫色の修道着に身を包み、左目の下に黒い星が小さく描かれている。少女の姿をするがれっきとした悪魔。本当の姿、というものがあるらしい。癒やしてもらったものは毎晩北極星に祈らなくてはならない。
◇グラーシャ・ラボラス
血を欲するもの。燕尾服にシルクハットの紳士服を身に付けるが、両手には鋭い刃物を持つ。血液を芸術的だと賞賛し、血液を見ると性格が豹変する。口には牙があり、背中にはコウモリの羽がある。殺戮以外にも能力があり、変身できるらしい。
◇ベリト
契りを求めるもの。真っ赤な鎧に身を包む好青年。72の悪魔の契約をつかさどり、契約の証を回収する。契約だけではなく、すべてのものを黄金に変える能力を持っているが、特定の条件下において命令しないとウソをつかれ、なぶりごろされる。
◇ハジェンティ
豊穣なる牛。ケンタウロスのような姿の落ち着いた老人。角が生えている。錬金術の能力を有しており、液体を他の液体に。物体を他の物体に変えることが出来る。実は人間になると、狩人の姿をした褐色の肌を持つ青年になる。
◇フラロウス
荒猛なる火。巨大な炎を纏ったヒョウの姿。敵を炎で焼け付くし、エクソシストや聖職者を忌み嫌い、優先的に彼らを襲う。ある特定の条件下に置くと、大人しくなり悪魔の知識について教えてくれるが、条件外だと襲われる。
◇パイモン
炎をつかさどる者。呼び出されるのをひどく嫌い、激怒して出てくる。人になつくことは無く、仕事を終えるとすぐに消える。常に火炎柱を身に纏うのでまともにその姿を見ることが出来ない。その間からかろうじて見える限り、人の姿を取っている。
◇アイニ
猫は戯れる。桃色の髪の間から猫の耳を生やしている可愛らしい悪魔。
だが放火を好み、常に松明を両手に所持している。都市を丸ごと焼き払う能力のほかに、弁護する能力を持っている。どの条件下においても常にうそを吐き続けるので、あまり信用できない。
- Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.79 )
- 日時: 2013/07/19 19:17
- 名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)
第二部『 Lunatic but Stability 』
「ジ、ヴリ?」
「うん、そう」
「悪魔研究家の・・・?」
「そうだよ、何か聞きたいの?」
アリストが小さな声でおずおずと尋ねると、ジヴリは当たり前のように答えてくる。
その賢そうな褐色の瞳は好奇心できらめいている。
アリストは殺気立つ悪魔達の方へ一瞬視線をやると、かすれた声でたずねた。「やけに悪魔のことに詳しいね」
ソレを聞くとジヴリはにっこりと微笑み、当然だよと胸を張る。
赤茶色の髪と同じブーツのつま先で、軽やかに体の向きをアリストへと向ける。
ジヴリが居ることによって何処と無く黒い森—シュヴァルツバルトに花が咲いたかのような雰囲気がある。
「僕は悪魔に興味心身なんだ」人差し指を立てたジヴリはアリストの左手の薬指にはまる指輪篭手を撫でた。
「これはエンゲージリング、従属指輪だね。ソロモン王が持っていたものだよ」
「ソロモン王?」アリストが首を傾げるのと同時に悪魔達がかすかに反応を示す。
「そうだよ、ソロモン王。とても賢い王様で、夢に出てきた神様に知恵を授けてもらったんだ。そのとき神様に手渡された指輪が、今君のつけている従属指輪だよ」
へぇ、とアリストはしげしげと自分の左手の薬指を眺める。木にもたれかかって座り込んだアリストの横になれなれしくジヴリは座り込む。
アリストの傍にジヴリがうろちょろするたびに悪魔達は張り詰めた殺気を立てる。
現在悪魔達にとってアリストは命そのもの。はかなく弱く、すぐ散ってしまう花のような命である。アリストを殺されれば悪魔達の命も散る。
大切な命の傍を見知らぬ不審者がうろつけば、悪魔達にも緊張が走る。
「その指輪のおかげでソロモン王は宮殿を建てて、悪魔を一方的に利用して王の座を守り続けたんだ。そしてあるとき悪魔にだまされて指輪を奪われかけた、そのときにソロモン王は悪魔の脅威に気づき、その指輪を使って悪魔を封印することにしたんだ」
ジヴリの紡ぐ紀元前の物語の結末はこうだ。
悪魔を恐れたソロモン王は指輪と真鍮と銀を混ぜ合わせ、ひとつの箱を作った。その中に72悪魔を閉じ込め、蓋をした。
そして彼らが二度とこの世にはびこらぬように、だれも知らない深い泉の中に箱を沈め、悪魔を封印したのだと。
「だけど、君が封印を解いて悪魔達はこうして蘇った。悪魔研究家にとってこれほどおいしい話はないよ。解いてくれてありがとうね」
ジヴリは奇妙な含み笑いをし、アリストに笑顔を向ける。
アリストは笑い返せずに、ただ沈黙して足元を見つめた。
悪魔の封印を解いたせいで、今までの生活は消え、親方は死に、トルテというたった一人の友達に会うことも叶わない。
「まぁいいじゃないの、お仲間さんは死んでしまったけど、サミジーナを召喚すればもう一度会えるんだし」
ジヴリは落胆したアリストを慰めるようにその悪魔の名前を口にした。
アリストがハッとしてジヴリの顔を見つめると「ソロモン4柱のサミジーナ。殺された使者の魂を呼び出す悪魔だよ」とそそのかすように微笑んだ。
- Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.80 )
- 日時: 2013/07/23 18:29
- 名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)
「サミジーナ、それはね」ジヴリは手に持った書物を開くことも無くすらすらと諳んじてみせる。
「殺された使者の魂を呼び出し、サミジーナを召喚したものに夢の中で再開させてくれるんだ。とんでもなく印象的な再開になるだろうけどね」
意地悪そうにクツクツと笑うジヴリにアリストは不安げに視線を向ける。そして不安げにつぶやく。「僕の体の中にサミジーナはいるの?」
すると少しあきれたようにジヴリはこちらに視線を向けた。わかりきったことは質問するなという少し冷たい一面が垣間見える。「当然だろ、呼びかけてみたら?」
「サミジーナ?」恐る恐ると言った口調でその名前を呼ぶと、鼓動のひとつがかすかに飛び跳ねるのを感じた。
ちゃんといる、と確信したアリストは出てきてくれるように呼びかけるが、サミジーナはその姿を現すどころかアリストを無視しているようだった。
「だめだ、反応してくれない」とアリストが情けなさそうに言うと、ジヴリを親の敵のように睨んでいたベリトが唇の端を吊り上げて微笑んだ。
「ともかく、契約の証が先ですよ。タダ働きなど割に合いません」
言ってベリトは構えていた斧を引きずってこちらに歩み寄ってくる。
「ベリト、やめ、ひっ!?」
ベリトから逃げようと立ち上がろうとしたアリストの体内から、伸びた沢山の悪魔の手がその動きを封じ込める。
青白い手もあれば雪のように透明な真っ白の手、逆光のように黒い腕や大地のような茶色い手も見える。
それらがアリストが背もたれにしていた木の幹に食いつき、地面に爪を突き立ててアリストの体の動きを封じ込める。
ぎょっとしたジヴリは慌てて飛び退り、数え切れない腕が体から伸び出ているグロテスクな光景を息を呑んで見つめる。
「斧はやめてよベリト、せ、せめて鍛冶用のペンチにしてよ!」
アリストはがんじがらめにされて必死に抵抗するが、ベリトは優しそうな笑顔のまま斧を構えて笑う。
「だいじょうぶ、手元が狂ってもブエルがいますよ。数分痛い思いをするだけですよ」
「ぼ、ぼくは従属指輪の持ち主なのにっ 何で言うこと聞かないの?」
泣き叫んで悲鳴を上げるアリストの左手を押さえて、ベリトは微笑みながら斧を振り下ろす位置を確かめながら笑う。「さぁ、何ででしょうかねぇ?」
「ジヴリ助けてよ!」アリストはジヴリに助けを求めるが、ジヴリは赤い本を広げ、少々青ざめながらその光景の記録をつけている。
従属指輪を所持する主人の言うことを聞かない悪魔に疑問を持って記録をすることにしたようだ。
「うっ」斧が振り下ろされて篭手に重い衝撃が走る。篭手は硬く、そのたびに柔らかいアリストの手の甲に痛みが走る。
だがベリトは諦めるつもりはないらしく斧で何度も叩ききろうとする。
すると体から伸び出る手のひとつが一度引っ込み、日本刀を引き抜いて少し震える声で言う。「ベリト、やっぱり日本刀にしましょう。僕らも手が痛いです」
そこでようやくアリストの身体を覆う手の左手の甲が真っ青に腫れ上がっているのが見えた。斧を振り下ろしているベリトの左手にも同じ晴れが出現している。
「ほぉ、そうか、悪魔はアリストの体内に封印されて命を共同に使用しているから、アリストがケガをするとそのケガも悪魔に跳ね返るわけだな?ふぅん」ジヴリは完全に実験結果を記録するように赤い本にペンを走らせる。
そして不思議そうな顔をすると迷惑そうな悪魔達の視線を気にせずに疑問を口にする。「それじゃ悪魔が怪我をしたらその怪我はアリストに跳ね返るのかな?」
試したくて仕方がないという口調のジヴリはそこでふと口をつぐんだ。
次の瞬間、弓矢が飛んできてアリストの頭上にカツリと突き刺さった。
- Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.81 )
- 日時: 2013/07/27 17:31
- 名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)
「今度は何?」アリストが頭上に突き刺さった矢を眺めていると、ジヴリが急に本を閉じて、アリストに叫んだ。
「まずいよ、さっきの黒頭巾の連中が追いかけてきてる!」
ジヴリの声に、アリストは街の方角を見つめ、少しひるむに首をすくめた。その指の先、森の入り口近くに黒いづきんをかぶった集団が武器を構えてこちらに攻め入ろうとしているのが見える。
「これはこれは逃げないと」ベリトがつぶやいた途端、アリストの身体を縛り付けていた手が体内に引っ込み、体内から数人の悪魔が飛び出してくる。
日本刀を持ったグラーシャもいれば、先ほど司祭たちと戦っていた猫耳を生やした少女、アイニもいる。あとは見たこともないようなあくまで、人の姿ではなく緑色の巨大なヒョウが唸り声を上げている。
「フラロウスだよ、あれ。はじめてみるんでしょ」ジヴリに助け起こされたアリストは、ジヴリにその緑色のヒョウの名前を教えてもらう。
ヒョウが鳴けば口から炎がほとばしり、その鋭い瞳孔は憎き司祭たちを見つめてひどく憤っている。悪魔達いわく、聖職者をひどく恨む悪魔らしい。
「フラロウスがいれば多分しばらくはだいじょうぶだよ。はやくシュバルツバルトの中に逃げよう。僕は君が死んでしまうと、悪魔の研究が出来なくて困るよ」
手を引かれて走ると、ブエルやベリトが後方支援しながら追ってくる。
本を抱えて走るジヴリの先導で、黒い森の中に、アリストは飲み込まれていった。
- Re: Wild but Safe! 危険だが安全! ( No.82 )
- 日時: 2013/08/21 13:57
- 名前: 哩 (ID: aTTiVxvD)
「ねぇ、悪魔研究家って・・・例えば何か喚びだしたりできるの?」
思った以上に足の速いジヴリにアリストは行きも絶え絶えに話しかける。
ジヴリは森を駆け抜けながら、ちらりとアリストの顔を見て微笑んだ。何か見透かしたような怪しいその笑みは悪魔のようだ。
「サミジーナを召喚したいんだ?あの首ちょんぱされちゃった人に会いたいんだ?」
「首ちょんぱって・・・」
ジヴリの無礼な言葉遣いに嫌な顔をしたアリストだったが、今ここで頼れるのはジヴリしかいない。安易に機嫌を損ねるような発言は避けたいところだ。
「サミジーナを喚び出せるの!?」
「まぁ・・・儀式をすればね」とジヴリは走りながら笑う。
「悪魔の名前がわかれば必要な魔方陣もわかるし、なにより従属指輪があるからね。いいよ、僕も勉強になるし、やってあげる」
そして振り返ると、にっこり微笑んだ。
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