ダーク・ファンタジー小説

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地下の帝国
日時: 2013/02/08 12:22
名前: 呉羽 (ID: OK7TThtZ)

〜プロローグ〜



…おや?
君も堕とされてしまったのだねぇ。

ふふふ、ここで誰かに会うのは久しぶりだなぁ。
君は、新参者の方かな?


くすくす。
おやおや、そんなに震えて…よっぽどここでの生活に不安があるように見える。


いやいや、怖がることはない。
住めば都という言葉があるだろう?
君もきっとそのうち慣れて「都」のように感じられるようになるさ。



…?
ああ、君はここがどこだかわかっていないのか。
なるほどね、ではさっきまでの私の話はよくわからなかったかな?
これはこれは失敬。

ふふ…面白い子が堕ちてきたものだ。


まあ簡単に言ってしまえば、ここは地面の下。
…地下帝国。罪人の帝国さ。
罪人はみなここに堕とされる。その罪の重さにかかわらず…ね。


罪人のすみかだからね。
法律なんてものは存在しやしないが、先ほども言ったように怖がることなどないよ。
自警団を作ってやっている輩もいるし。


生活面だって安心していい。
ここはほとんど外の世界と変わらない。
日の光はないが、食料は配給されるし、飲食店だってある。
まあ、買うにはお金がいるってところもそのまんまさ。


まあ、確実に外の世界よりは危険なことは間違いないがね。


頭のネジが2・3本ぶっとんじゃってるやつもいるからねぇ。
気を付けるがいいさ。
君のような子はそこらの変人に殺されて刑期終了を迎える前に骨になってしまうかもしれない。


おっと、怖がらせてしまったようだね。
申し訳ない。


大丈夫さ、刑期が終わればこんなところすぐにでも出られる。
それまでうまく逃げ切ればいいだけの話だ。


それにしても…君のような子がどんな罪を犯してここまで来てしまったのか、少し興味があるなぁ。

ああ、言いたくないならいい。
無理に聞いて、恨まれたりしたくないしねぇ。



おや、もうこんな時間か。
では、仔羊君私はそろそろ行くよ。

行きつけの喫茶店でねぇ、待ち合わせをしているんだが…。



…あいつ、忘れてそうだな。


…………。
まぁ、その時はコーヒーでもおごらせるとしよう。


では、仔羊君。また会えるといいねぇ。






それでは…、っと。


ああ、忘れるところだった。


何をって?
ふふふ…挨拶は大事だからね。しっかりしなければならないだろう?



新参者の君に…仔羊の君に最高の皮肉と最低の祝辞の念をこめて、






ようこそこの地下帝国へ。


————願わくばこの地下が君にとっての都であることを。





:::::::::::::::


あらすじ >>1

序章 >>2 >>7 >>9 >>10

壱話「駒1 瀬川帝徒」 >>22
  「駒2 大神蓬」 >>23

Re: 地下の帝国 ( No.19 )
日時: 2012/05/30 17:26
名前: 呉羽 (ID: NiQpbZW/)
参照: http://tikanoteikoku

>梓さん

わー!!
梓さんこんにちは。

いらしてくださりありがとうございます。

応援さんきゅです^^

Re: 地下の帝国 ( No.20 )
日時: 2012/06/05 22:37
名前: 愛河 姫奈 (ID: ZUrGQhyc)

始めました!
遅くなってすいません…見に来ましたよ☆


な、なにこの神文?!
俺のと比べ様になんないよ…^p^比べれない。


なんか、こういうダーク系の話は好きなんでいろいろと楽しみです^^

でゎノ

Re: 地下の帝国 ( No.21 )
日時: 2012/06/07 13:40
名前: 呉羽 (ID: NiQpbZW/)
参照: http://tikanoteikoku

お待ちしておりました★

ほめすぎです!!
でも嬉しいです。ありがとうございます^^

また来てくださいノシ

Re: 地下の帝国 ( No.22 )
日時: 2013/02/08 12:10
名前: 呉羽 (ID: OK7TThtZ)
参照: http://tikanoteikoku

壱話「駒1 瀬川帝徒」


地下帝国 第13番区 

ー喫茶店なでしこ店内ー





ざわざわと騒がしいそこでは、今日も忙しそうにウェイターの少年が駆け回っていた。

注文を取っては料理を運び、客の対応をしては料理を運び…。
せわしなく店内の端から端までを行き来し、汗を流していた。

彼の小柄な体躯が転がるように走り回るその姿は、——哀れにすら見える…。



忙しそうに働くのは彼だけではない。
店の奥にある厨房では彼よりも一回りも小さな麗香がせっせと手を動かしている。

彼女が動くたびに栗色の髪がぴょこぴょこと慌ただしく跳ねた。


3時の時間を過ぎたにもかかわらず、店は客であふれかえっていた。


休む間もなく働く少女たち。
それを…他人事のように見ている男が一人。

(めんどくさそうだ。)


そんなことを思いながら帝徒はのんきに湯のみに注がれた茶飲みほし、ため息をついた。

そんな彼に、目の前にいる白衣の男が言葉を投げかける。


「全くお前は、彼らを少し見習ったらどうだ?————つまり、働け。」

「却下。てめぇにンなこと言われる筋合いはねぇ。」


ぷいっとそっぽをむくと帝徒は頬杖をついて窓の外に視線をそらす。
その子供のような言動に白衣の男は呆れたように肩をすくめた。
そこには、あからさまな嫌味の念が込められている。

(こいつは苦手だな…。)

帝徒は胸の奥で舌打ちをする。
そんな彼の心を知ってか知らずか男は愛想のいい笑みを浮かべた。


珈琲を豪快に煽るその男の名は哥戌カラム
この地下帝国に存在する医者の一人だ。

白衣をまとい、丸井メガネをかけたその姿はたしかに医者に見えないこともない。

しかし、その白衣はしわだらけで、
手入れの行き届いていない黒いぼさぼさの髪と、
顎に不規則に生える無精ひげとが相まって清潔感を欠片にも感じられないのだ。

とっつきやすそうな笑顔とがっしりとした体つきはどちらかというとスポーツマンと言われた方がしっくりくる。



けっと不機嫌そうに唾を吐く帝徒に、哥戌はわざとらしい皮肉を述べた。


「あ〜あ。かわいそーだなぁ、麗香嬢。こんなタダ食い犬を拾っちまったばっかりに…。
自分の食い扶持作るだけでもここじゃぁ大変だってのになぁ…。」


「おい。…犬ってなんだ、犬って。」

ぎろりと哥戌をにらむ帝徒。

その視線に、犬だろうが。とかえして彼はからから笑った。


「ったく。ガキに食わせてもらってるなんざ、いい歳して恥ずかしいと思わねぇか?」


からかうようなその言葉に、帝徒は何も応えない。
めんどくさくなったのか、言い返せないから黙ったのか…。

どちらにせよ、哥戌の言い分は理にかなっているように思える。

帝徒自身もこの状況をあまり快く受け入れているわけではない。
年の離れた妹弟に養ってもらっているような罪悪感が胸の内にあった。

しかし、かといって自分は客商売は向いていないことぐらい承知している。
だから用心棒という名目でこの店に居座っているわけだが…。

「っけ、13番区の店に用心棒なんか必要あるかっての。麗香嬢も人が良すぎるぜ。」

そっぽを向いて大げさにため息をつく哥戌。

地下帝国には15に分割された区がある。
数字が大きいほど地上に近く、少ないほど深い場所にあり、深ければ深いほど治安が悪い。

この店の場所は13番区。
治安は外の世界とあまり変わらない。
…確かに、用心棒などはいらない区画である。


「おまえさんにゃ、2番区のほうが向いてるんじゃねぇの?」

「うっせ、1番区に堕ちて死ね。ヤブ医者。」

「っけ。ここから医者がいなくなってもいいのか?頭を使え、若造。」

帝徒の悪態に哥戌は余裕の笑みを浮かべた。
帝徒も負けじと哥戌を睨み付ける。

騒がしい店の中、一つの机を挟んで二人の男が火花を散らせた。


と、その時。
空気をカケラも読まない声が二人の間に割って入った。

「1番区ってどんなところなんですか?帝徒さん。」

その無邪気な声に二人が振り向くと、そこには公が立っていた。

自慢の白髪をかき上げながらやはり無邪気な目で帝徒を見ている。

「「…。」」

二人の間に沈黙が流れた。

「そういえば、2番区の話はよく聞きますけど…1番区はないんですよね〜。
 哥戌さんは何か知ってます?」

彼らの沈黙に気づかないのか、平然と話を続ける公。

その姿を見て、すっかり毒気を抜かれてしまった帝徒が大きく息をつく。
哥戌も苦笑いを浮かべた。

「いやぁ…公君。お前は将来、…結構大物になると思うぜ。」

「?」

珍しく疲れたような表情をする哥戌に公は小首をかしげた。

そんな二人に様子を見ながら、帝徒は自分の頭を乱雑にかき回す。
そして、先ほどの問いに対する答えを淡々と述べた。

「1番区にゃあ、何にもねぇよ。」

「何もない?」

公が訝しげな顔をする。
帝徒がうなずくと、哥戌がにやにやと笑った。

「そ。あるのは古びた洋館と噂話だけさ。」

哥戌の様子を見て、帝徒が深くため息をつき肩をすくめる。
また始まった…。と思いながら。

哥戌はこの手の噂話が大好きで、特に若い奴に語るのを生きがいとしている節がある。
主に怖がらせるのを目的として。

そんな哥戌の意図に気づかない公は興味津々の様子で、やや興奮気味に聞き返した。

「噂って…。どんな噂ですか?」

「まぁ。噂って言ってもいろいろあるけどよ。」

公の問いに待ってましたとばかりに哥戌は口元を弧の字に曲げた。
そして怪談を話すような口調で怪しげに続ける。

「たとえば、囚人マフィアの巣窟説。
 ここに収容された囚人が作ったマフィアの本拠地が集まる場所って説だ。
 この説が俺は一番妥当だと思うね。
 あとは怨霊説や管理人説、吸血鬼説なんてのもある。」

「へ〜。」

公はいつのまにか帝徒の隣の席に腰掛け、哥戌の話に聞き入っている。
帝徒は麗香が叱りに来るのではないかと厨房に目を向けたが、
麗香はやはり忙しそうに駆け回っており、こちらには気づいていないようだ。

「…。まぁ、いいか。」

隣では、哥戌の噂話が続いている。
帝徒は興味がないので、耳には入れず、湯呑みをあおった。

賑わう店の中、そこにはいつも通りの時間が流れていた。


と、
———その時。
突然、店内のざわめきが遠くなった…。


それは、視線。


「…っ!!」


あわてて振り返る。

その先にあったのは、いつもっ通りの喫茶店の入り口。
ざわざわとうるさいテーブルの先にはただ流れていく人の波があるだけ…。

ざわめきの音は元に戻り、隣からもまた、くだらない噂話が聞こえた。


「…。なんだ?今のは…。」


誰かが———見ていた。
もっとも、それに気づいたのは帝徒一人のようだったが…。


それは明らかな殺気をまとった視線だった。
13番区には似つかわしくない程の…。

視線はもうすでに感じられないが、しばらく帝徒はその扉の先をにらみ続けていた。

その視線に怯えたように店内の客が肩を震わせる。


しかし、帝徒の目にはそんなものは映らない。
ただ、扉を見続ける。


そこには何もいなくとも…。




::::::::::::::::::::::::::::::


「もぉ。公君、さぼっちゃダメでしょ!!」

「え?…ああ!!!ご…ごめんなさいっ!!」

「おお怖いこわい。」



人通りの多い道の端にそれは佇んでいた。

騒がしさがやまない店。
それを、光を一切映さない黒曜の瞳で見つめている。

「やっと見つけた。」

Re: 地下の帝国 ( No.23 )
日時: 2013/02/08 12:20
名前: 呉羽 (ID: OK7TThtZ)

壱話「駒2 大神蓬」




地下帝国 5番区

ーどこかの廃屋ー





薄暗い闇が広がっていた。


何の明かりもないその場所には、無造作に並べられた工業廃品が溜め置かれている。



時折聞こえてくる人工の風の音。
それに交じって、話し声がわずかに鼓膜を揺らした。



廃屋の隅、倒れて転がったドラム缶の影に隠れるように座り込んでいるのは、
少年のような幼い顔立ちに、少年とは言い難い雰囲気を纏った青年。
そして、その傍で寝息を立てている少女だった。



少女はしゃがみ込んでいる青年の脚の間に割り込むようにして彼に抱き着いているため、
その影は一つの生き物のようにも見えた。



「ええ、大体の事情はわかりました。請けたまわります。」



蓬はそういいながら小さくうなづいた。

片手に持った携帯電話からはあきらかに加工された合成音声が何事か続けていた。



それに蓬は無機質な相槌を返し、瞳を閉じた。



「報酬は後日受け取りに参ります。
 ご用意できない場合はこちらもそれなりの事はさせていただきますので、ご容赦ください。」



静かに言葉を吐き出すと、蓬は携帯電話をぱたりと閉じる。

無音の空間にそれはよく響き、コンクリートの冷たい床に吸い込まれた。



この地下で彼が商うのは「殺し屋」。

依頼主の依頼を受け、ターゲットを殺し、資金を得る。
報酬は高いが、危険な汚れ仕事だ。



蓬にとっては、それらのことはどうでもいいことなのだが。



先ほどの電話も、その『仕事』の話だった。


蓬は短く息をつき、後ろに転がるドラム缶に背を預けた。
ごつごつとした感触が背に伝わる。



ふと、視線を下げると、規則正しく深い息をする妹の姿があった。



蓬はそっと目を細めた。
自分の胸に身を預け、寄り添う彼の唯一無二の家族。


乾いた苦笑の音が漏れた。

どこか温かみと、ほの暗い闇を内包したその笑みは誰に見られることもなく、静かに消える。



安心しきった様子で眠る椿。
その表情は穏やかで、ひどく愛らしい。




しかし———。




彼は知っていた。

彼女がどんな存在なのかを。

彼女がどんな罪を背負っているのかを。



———おおよそ人とは呼べない生き物であることを…。



静かに蓬はうつむいた。


その表情には痛ましいほどの悲痛の色が浮かんでいる。



脳裏に焼き付いた凄惨な『過去』

笑い声と、無機質な白い部屋。

泣き声と、誰かの叫び。


そして———、一面の赤。



その記憶を振り払うように、蓬は幼い妹の体を強く抱きしめた。


ギリッという歯ぎしりの音が脳を揺さぶる。
その中で彼は耐える様に言葉を紡いだ。



「…守るよ。ずっと、俺が…君を。」



確かにそれは、腕の中の妹に向けられた言葉だ。

しかし、その声音は震えていて、まるで自分自身に言い聞かせているようにも聞こえる。


計り知れない思いを込めた言葉は続く。



「いつまでも、どこまでも、…たとえ俺の声が届かなくても。」


決意というには、それはひどく歪んでいて…。
でも、それでもまっすぐな…淀みない「覚悟」だった。



「…君が堕ちていくなら、同じところまで堕ちるだけだ。———だから…」



そこで、彼は言葉を切った。


そして己の周りの温度を急激に冷やす。


その瞳には先ほどの悲痛の色も、妹に向けていた仄かな暖かみのある色もない。

———ただ冷淡で、どこか機械的な、無機質な目。



「椿———。」



そう呼びかけながら蓬は椿の肩を軽く揺さぶった。


椿は薄く瞼を開けると、焦点の合わない眼をふらふらと彷徨わせ、小さく欠伸をした。

しばらくそうした後、片手で目をこすりながら蓬を見上げる。

そして無邪気にほほ笑んだ。



「にぃ、おはむぐっ。」


「静かに、しゃべらないで。」


いきなり口をふさがれて、目をぱちくりさせる椿。
そんな妹に蓬は小声でもう一度囁く。


「誰か、来たみたいだから。」



そういって蓬はドラム缶に隠れるように背を寄せ、入口のシャッターに目を向ける。


その様子を見て、椿はやった状況を理解したようで、大きくうなずくと自らの両手を己の口に当てた。


あからさまな忍び足で床をこするように数人が廃工場に入り込む。

隠しきれていない小さな足音が、それを示していた。



この廃工場は地下に根を張るマフィアや不良たちがたまに隠れて会合を開いたりする。

たまたま今日はそこに居合わせただけかと思ったが、違うようだ。


『足音を隠している』。つまり、それは自分たちの存在に気づいたうえでの行動ということ。



蓬の目がさらに細く研ぎ澄まされる。



「追っ手、みたいだ。」


椿が首をかしげる。


「だれかなぁ。」


「さぁ?恨みは買いすぎるくらい買ってるから…。——自警団の人とか?」


「マフィアの人かも。この前、わたしが『食べ』ちゃったから…。」


不安そうに言う椿の頭をなでながら蓬もため息をつく。


「…食い逃げ料金の取立てならいいんだけどな。」


「むぅ…、くろい服きてるからたぶんちがうよ。」


そんな会話を小声でかわしながら二人は脱出の準備をすすめる。



蓬は懐から一丁の拳銃を取り出すと慣れた手つきでたまの確認を始めた。

そして、まるで悪戯を始めるときのように椿に微笑む。



「これから少し仕事があるんだ。弾はあんまり使いたくない。だから、走れるか?」


その言葉に椿は楽しそうな笑顔を返す。


まるで、今からどこかへ遊びに行く子供のように。



静かにうなずくと、蓬は音もなくその場から飛び出す。


驚いて振り返る黒服…。
その頭をめがけて、まっすぐに構えた拳銃の引き金を躊躇することなく引いた。



低い叫び声を聞きながら、蓬は『依頼』の内容について考えていた。




「始末シテホシイ人間ガイルノデス。」




合成された声で紡がれた仕事内容。

それを蓬は頭の中で反芻させる。





「標的は、13番区『喫茶店 なでしこ』の…————。」


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