ダーク・ファンタジー小説
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- 【1/24更新】あなたの故郷はどこでしょう?
- 日時: 2014/01/24 17:34
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: CR1FbmJC)
二十三世紀、後に“地球界”と呼ばれる世界にて大発明が起こる。
そのテクノロジーは、“ゲートシステム”と名付けられた。発見されたばかりの未知の素粒子を用いることで、異世界への門を広げる技術。そして、そのシステムは、何十という世界を発見する足掛かりとなった。
その発明から、百年以上の月日が流れた。今では百を越える異世界が発見されている。その百年間で“地球界”から、あらゆるところに“ゲートシステム”が伝えられた。その結果、全ての異世界がお互いにリンクしあう事になった。
“地球界”とは、私達人間が所属する世界。科学が最も進展している世界でもある。その他にも、魔導師の住まう場所、超能力者の住まう世界、モンスターのひしめく巣窟など、多種多様な異世界が存在する。
最初は驚くべき大発明で、あらゆる人々はそれに期待の目を向けていたが、時代と共にその想いも推移していく。今となっては、誰もがそんなもの当たり前だと思うようになってしまった。丁度、飛行機で海外旅行に行くのが当たり前になってしまったように。
いつしか、あらゆる世界を脅かすような巨大な組織が出来上がっていた。それに伴い、その者達を駆逐するための全世界にまたがる警察機構まで生まれていた。
これは、広大な世界をまたにかける、記憶喪失の少年とその仲間による記憶探しの物語。
真実を知ることが、いつも優しいとは限らない。
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原案はちょっと前から出ていたのですが、イマイチ気に入るストーリーが思いつかなくて……。
ファジーで書きたいと思っていたのですが、もう既に二個書いちゃってます。
そのためこちらで書かせていただく事に。異能学園が終わったらファジーに引っ越すかもしれませんが。
冬休みの間はそれなりの頻度、それが終わったらゆっくり更新(もしくは小まめに少量ずつ更新)。
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、よろしくお願いしますね。
第一章“旅立ち”
第一話 ようこそ、ネルアへ
>>1>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>8
- Re: あなたの故郷はどこでしょう? ( No.4 )
- 日時: 2014/01/03 12:33
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: DHMZtM4G)
想像していたのより、ずっと大きなホールだった。やはり劇団と言っているだけあって、何百人、何千人の人を収納できるほどの大きなものだった。舞台もとても広く、背景や大道具なんかもとても壮大なものにできそうな、そんな大きさだった。
そう言えばと、俺はついさっき疑問に思ったことを尋ねてみた。
「入ってから、まだ三カ月なのか?」
「はい。でも、団長も他の皆もとっても良い人で。何だかずっと前からここにいたみたいです」
今まで何をしてきたのか、なんでいきなりこの劇団に入ろうとしたのか、訊きたいことはまだまだ出てきたけれど、とやかく質問するのは止めておいた。
だけども、そんな俺の心情を見透かしたのか、ルカは自分から喋り出した。
「小さい頃、お父さんがいなくなっちゃったんです。それでお母さんがあれちゃって何年か前から虐待されてたんです」
酷いことを言っているはずなのに、彼女は何食わぬ顔だった。それどころか、それも自分の一部であると言わんばかりに誇らしげにしている。
助けられたんです。そのように彼女は続けた。
「半年ぐらい前に。何界から来たのかは分からないけど、ホライズン候補生の養成学校の修学旅行でマナ界に来た人がいるの。その人が、私を助け出してくれた」
その後、どうにかして町をふらついていると、団長と出会った。衣食足りていない少女が今にも倒れそうにしているのを見て、団長は話しかけてきたらしい。
そんなに弱っているなら、どうかうちの劇を見て行きなさい。そしたら一発で元気になります、と。
「あの頃から、ずっと団長はそうなんですね。でも、だからこそ私は助けられた。だから……あなたもきっと団長が助けてくれると思います」
今日上映するのは、何の因果かは分からないが記憶喪失の騎士の物語らしい。そういう、天性の運命を手繰り寄せる才能というものが、団長にはあった。初めてルカが目にした劇は、母親に家を追い出された少女の物語だったのだから。
「まあ、私は自分で出て行ったんですけどね」
とてつもなく暗くて、重たい身の上話なのに、ルカは笑っていた。それどころか、俺を心配するぐらいの余裕まである。
ああ、だから彼女からは生きて行くための芯の強さを感じたんだ。改めてその事を痛感した俺は、ふと時計の針がかなり進んでいるのを目にした。
「あれ、もうすぐ上映時間じゃないか」
「ほんとですね。何かあったんでしょうか」
聞くところによると、もう既に舞台の上を劇のために準備し終えていないとおかしい時間になっているようだ。それなのに、舞台のうえは準備が完了していないどころか、始まってもいないらしい。
「二時間前には準備を始める筈なんですけど……皆の様子を見に行きましょう」
良からぬ事が起こっている。そう直感したルカは迷いなく席を立って控室へと向かう。ネルアの一員であるという証明書は持っているようなので、入れるらしい。
何の足しになるかは分からないが、俺も一応ついていくことにした。
俺の勘が正しければ、何か脅迫されている可能性が高い。俺の耳の中で、看板付近で聞いた不吉な音が思い起こされた。
「爆弾……ってところか」
この時、俺は記憶喪失だったせいでまだ自分の長所というのを理解していなかった。
同時に、自分自身の短所も。
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みじけー、とか思いながら投稿です。
まあ、何か起こったぜって感じなのでお許しください。
ホライズンについての説明はまた後々行います。
シリダクはファジーと比べて流れるのが遅いのでありがたいです。
向こうは一旦後ろに流れると探すのが面倒になるので……。
- Re: 【1/3更新】あなたの故郷はどこでしょう? ( No.5 )
- 日時: 2014/01/07 11:03
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: DHMZtM4G)
「どうしたんですか!?」
控室に飛び込むや否や、ルカは声を荒げてそう尋ねた。その控室はとても大きくて、相当多くの人間がそこに集まっていた。
団長と、きらびやかな衣装を着た人が何人か、そして“Horizon”という印の入った制服を着ている男が一人。おそらくこの男は警備員だろう。
「ルカ……」
「何があったんですか、舞台の準備できてませんし、お客さんも心配してます!」
「そうか、もうそんな時間なの……」
一目で、この人がヒロインなのだと俺にも分かった。落ち込んでしまって、少ししぼんでしまってはいるが、それでもこの人の放つ存在感は尋常ではなかった。
燃えるような赤の長髪、沈んではいるがきっと力強いであろう黒い眼光、少し鋭くも見える目の形、それなのに絵画に描かれていそうな美しい顔立ちで、劇に出てくる“美しいが気が強いお姫様”にイメージがぴったりだった。
そんな強そうな人が、いかにも意気消沈といった顔で項垂れている。一体何があったというのだろうか。
「脅迫状……と言えば良いのか、こんな感じだ」
何の役かは知らないが、役者の一人がルカに一枚の紙を手渡した。それに目を通していくにつれて、ルカの表情も次第に強張っていく。だ、ある一定のポイントでそれは怒りに変わったのか、眉間に皺を寄せてその紙を握りつぶした。
「何なんですかこれは!」
「ちょっとルカ、落ちつきなさい……」
見かねた団長がなだめようとするが、ルカの怒りも尋常ではなく、一向に収まる気配が無い。とりあえず、場の空気を変えないといけないな。そのためにもまずは、俺はルカが潰した紙をひょいと奪い取った。
全員の目が俺の方に向けられているのを感じ取り、狙い通りとほくそ笑む。こうでもしないと、皆下ばっかり向いて塞ぎこんだままだ。とりあえず、俺は嫌われ役になってでも顔を上げさせるべきだろう。
「お前、あのぶっ倒れてたガキか?」
「ガイ君静かに。乱暴な口を聞かない。お客さんですよ彼は」
「また団長は無償公開すんのかよ」
そう言えば、ルカも三カ月前に無理やりとはいえ無料で見せてもらえたんだっけ。どうやら、この団長は元気の無い人を自分たちの劇で盛り上げようとする癖があるらしい。
「まあ良い。これは俺らの問題だ。部外者はすっ込んで……」
「ああ、やっぱり爆弾か」
「……ろ。って、えっ?」
彼はいきなり間の抜けた声を上げた。えらくものものしい鎧とのギャップが凄まじい。鎧ということは、このガイという人が主役の騎士だろうか。
「やっぱり、って何だよ! つか勝手に読むなよ!」
鎧どころか兜もつけているから顔も見えない。だが、声音だけでこの人の苛立ちと焦りを感じていた。
それはともかく、俺はその脅迫状の細部まで目を通した。普通にそこいらにありふれている紙に、ミミズが這ったような汚い字で書かれている。読みとるのも困難だったが、何とか読めた。
『拝啓、ネルア一行へ
我々は境界人と呼ばれる組織です。あなた達も知らない訳がないでしょう。
我々は、あなた方の劇を中止させることを要求します。
理由を答えるつもりはありません。
ですが、要求を呑まなかった際は、すぐさま爆弾が爆発して、尊い観客の命が失われることでしょう。
何、我々は特別あなた方を嫌っている訳ではありません。
別の目的があるのです。
だからこそ、今だけこの要求に従ってみてはいかがでしょうか。
なお、爆弾はたった一つだけ。これだけは神に誓って本当です。』
「爆弾一個っていうのが嘘臭いな。一個除去したけど別のところでドカン、っていうのがあり得るな」
「おいてめえ、いつまで読んでんだよ!」
慌てて甲冑のガイさんが、俺の手元からそれを奪い取った。が、既に手遅れである。だってもう既にその中身は覚えてしまっていたのだから。
「何でお前そんなの分かったんだよ」
「玄関の看板の近くで、電子音を聞きとった。そしてこの不可解な騒ぎがあったから、二つが結びついて爆弾になった」
「えらい都合のいい解釈だな、お前が犯人だから知ってたんじゃないのか」
「無理ですよ、起きたのさっきでその後ずっと私と一緒だったんですよ」
「ルカはこいつを庇う理由があるだろう!」
今のその言葉に、俺は自分の耳を疑った。
おれが、ルカに助けてもらう理由があった。……それはなぜだ?
気になった俺はルカの方を見てみるが、彼女は俺と目を合わせようともしなかった。
「知りません! 私はネルアだって好きです! たとえ誰がやろうと、ネルアを脅かすなら絶対許しません!」
「ちょっと二人とも落ちついて……」
割って入ってきたのは団長だった。いつも通り、飄々とマイペースに事を運ぼうとしている。
「全く何なんですか二人とも、落ちついてください。爆弾さえ取り除けばいいんですよ。境界人の犯行声明には特徴があります。『神に誓って』と表記された場合は必ずそこで嘘をついてはいません。つまり爆弾は本当に一つしかない。逆に言うとゼロ個でもありませんが」
「じゃあ……誰が犯人であろうと玄関の爆弾さえ取り除けば良いってことか?」
「はい。それでは行きましょうか。大勢で行くのもあれですからね。ガイくん、ルカ、私、警備員さんと後は一応キミもきてください」
他の人達は適当に観客を誤魔化しつつ、準備をこっそりと始めるように。そう指示した団長は今示した四人の先導をするように控室の出口に向かった。
「さて、ショーまで時間はありません。私の中に舞台中止の選択は無い。みなさん、お互いに人事を尽くしましょう」
「おう!!」
その場の全ての者の声が重なり、大気を揺るがした。だが、俺はここでふと疑問に思ったことがある。
俺たちがこういうことをしようとしていると知れたら、その瞬間に爆発したりしないだろうか、と。
だが、今のところ異変が起きていない。この事から、俺は最悪の事態を想定し始めていた。
もしかしたら、解除できない爆弾かもしれない、と。
- Re: 【1/7更新】あなたの故郷はどこでしょう? ( No.6 )
- 日時: 2014/01/09 20:33
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Ro4jdKEa)
劇場の玄関に着いてすぐに、俺たちは爆弾の捜索を始めた。そこにたどり着いただけで電子音が聞きとれるほど、入口は静かになっていた。客は皆ホールの方に行ったようだ。
そのため、小さな電子音でも聞きとることができた。探索は比較的スムーズに行われている。
そんな中、ガイという男がふと疑問を感じたのだろう。誰に訊くともなくその疑問を口にした。
「そう言えば、爆弾しかけた奴ってどこにいるんだ?」
「えっ?」
「だって、上演したら爆発するんだろ? てことはスイッチ入れるやつがいるんじゃねえか?」
それも確かにそうだと、団長は首を傾げた。だが、そのようにリモートコントロールするとなると、この電子音は一体何だというのか。
ただしそれも、大体読めている。
「おそらく、上演時間が終わったその少し後の時間に爆発するようにタイマーがセットされている。上演せずにずっと探せばその内見つかるだろうから、上演しなければほとんど犠牲者は出ないんだと思う」
「なるほどな。その隙にしかけた奴は逃げられるのか」
「ああ。それに、犯行声明には別の目的のためにこんな騒ぎを起こしたという文章があった。本当に観客を殺したり、劇を中断するよりも大切な目的があいつらにはあるはずだ」
正直なところ、境界人というのを俺は知らない。もしかしたらただ単に忘れているだけなのかもしれないが。
そしてお探しのものはすぐに見つかった。
「ありました!」
見つけたのは警備員だった。四角い箱のようなものが、空気清浄機の中に仕込まれていたらしい。
タイマーを見てみると二時間以上経った後にゼロになるようだ。やはり、上演終了時刻に狙いを定めてきている。
「さてと……後は走って人気の無い所まで持って行けばいいな」
「お待ちください!」
さっさと川にでも投げ落とし、周囲に人が近づかないようにすれば安心だと思ったのだが、警備員の男がかたくなにそれを拒んだ。
「私はホライズンの一員です。アカデミー時代に知識を叩きこまれましたが、この爆弾にはおそらくプラスチック爆薬が用いられています」
「だから何だって言うんだ?」
何だか不穏な気配が漂い始めたな。そう思っていたら、しかめっ面のホライズンの男は、やけに真剣な顔でこう言った。
「下手に衝撃を加えると爆発する可能性があります」
その言葉に、団長の、ガイの、ルカの表情が強張った。警備員は肩についている無線機を手に取り、誰かと連絡を取ろうとしている。
「私はこれから上官の指示を仰ぎます。ですから、皆さんはくれぐれも慎重にそれを控室まで運んでください」
そう言ってその男はどこかへと駆けて行った。地図で彼が向かった方向を確かめてみると、警備控室や倉庫などが密集していた。
実際に上官の指示を仰ごうとしているようなので、俺たちは彼の指示に従うことにした。爆弾を丁寧に運び、何とか爆発させずに控室まで向かおうとする。
誰が持って行くかという話になり、責任者として団長が持つことになった。
「お前は信用ならん」
ガイは端的に俺にそう告げた。そして自分でそれを持とうとしたのだが、お前は手先が器用じゃないだろうと団長から止められたという次第だ。
「それにしても、なんか色々気になることがあるな……」
俺は静かに、頭の中でさっきからの出来事を再び辿った。脅迫状の中身、爆弾の設置場所。そういうのを細かいところまで考えて、考慮していく。
その中で、どうしてもこれが分からないというものがあったので、ルカに訊いてみた。
「なあ……境界人とホライズンって何だ?」
「そんな事まで忘れてるんですか? 仕方ないですね……」
境界人とは、複数の世界をまたにかける犯罪組織で、今の世の中でもっとも大きい“悪の組織”だった。あらゆる異世界のどこにも属せず、ゲートとゲートのはざまにある異次元に拠点を持つ。そのため、誰も追いかける事が出来なかった。
そして、そんな連中を捕まえるために動いているのがホライズン。全ての世界を管理する、最大の警察機構。こちらもゲートの中間にある異次元に本拠を構えている。
「つまりは、警察とマフィアってところか」
「小規模単位で言うとね。影響力はその比じゃないわ」
大体それで納得がいったので、もう一度自分の頭の中での思考に没頭する。犯人の狙い、それだけがまったく分からない。
「おい、どうせお前が犯人なんだろ?」
「いや、違う。犯人は大体分かってる。……いや、もしかしたらただの協力者かもしれないけど」
その返事に、ガイ達はひどく面喰らっていた。どうして分かったんだと、ガイが俺の胸倉を掴んで詰問する。手の欠陥が浮き出るようなものすごい剣幕だ。どうしてこんなにも、この人物は熱くなっているのだろうか。
「落ちついてくれ……。とりあえず、全員揃ってから報告する。一応犯人を取り押さえるように警備員が戻って来てからな」
俺がそう告げると、彼は渋々手を離した。その目からは、まだ疑いの色は消えていない。
だが、真犯人さえ発覚すればそれも変わるだろう。来るべきそのタイミングに備えて、俺はもう一度頭の中身を整理し始めた。
- Re: 【1/9更新】あなたの故郷はどこでしょう? ( No.7 )
- 日時: 2014/01/14 15:32
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: ET4BPspr)
「それで、誰が犯人だって言うんだ?」
控室に戻ってすぐに、団長は舞台の準備をしている団員を全て同じ部屋に呼びよせた。そのように、俺が団長に頼んだからだ。団長の頼みなら仕方が無いと、ぞろぞろと団員たちが集まってくる。
その間も、絶えずガイは俺の方を睨みつけてきていた。どうせお前が犯人なのだろうと決めつけるような視線だ。
そんな風に睨みつけられている俺を不安げにルカは眺め続けている。数分経つと、全員が控室に集合した。まずは最初に、団長が口を開いた。
「みなさん、舞台の準備は整いましたか?」
「はい。とりあえず最初のシーンは」
「開演まで後十分、慌てずにいきましょう」
今日が最終日で、大道具などは初日に組み立てたままほとんどそのまま放っておくので準備はすぐにできたらしい。その分ちょっと雑になってはいるが、演技で何とか誤魔化そうとしている。
さてそれでは、そう言って団長は話してのバトンを俺に渡した。そう言えば、こんな奴を養っていたなぁと覚えている団員もいれば、誰だろうと首を傾げる者もいる。
そんな中で、俺は団長からさらにハードルを上げられてしまった。
「名探偵の推理です、どうか聞いてみようではありませんか」
ちなみに、これはおそらく悪意などなく単純に楽しんでいたらしい。顔がこれ以上なく緩んでいて、笑い声もそれっぽく裏返っている。
他人事だと思って……。そんな苛立ちは見せずに、俺はその場で語りだした。
「えっと……その前に、四人の方に質問がしたいのですが、よろしいですか?」
「てめえ、時間がかかるような真似してんじゃ……」
「まあまあ、ガイ君。そうやって話の腰を折る方が時間がかかりますよ」
「でも……」
やはりガイからは突っかかってこられたが、まあ仕方ない。ただし、それをなだめるのは自分の仕事だと、白髪を触りながら団長はガイを説得した。
「では最初に、ガイさんへの質問です。あなたは、一時間前にどこで何をしていましたか?」
「ああ? お前、俺を疑ってんのか?」
「別に」
「役者控えのここで脅迫状片手に悩んでたよ。他の奴らが証人だ」
「分かりました。おそらくそうなのでしょう」
「当たり前だろうが」
舌打ちをしながら、彼はこちらに詰め寄ってきた。人を犯人扱いするなと喚きながら、俺の胸倉を掴もうと腕を伸ばしたが、他のメンバーから止められる。
結構血の気の多い性格のようで、このようなことはしょっちゅうらしい。周りの仲間から、いつになったら学習するんだと怒鳴られている。
「では次に、ルカに質問」
「えぇっ、私ですか?」
「出身地はどこだ?」
「えっと……マナ界です」
「分かった」
何だたったそれだけなのかと、彼女はホッと一息ついた。そもそも、ルカは犯人ではないはずなので、質問内容なんて何でもよかった。犯人に対する質問以外は、本題を誤魔化すための質問になるならば、何でも良かった。
「次に、警備員さん」
「はい」
「先程、アカデミーがどうこうと言っていましたが、どちらのアカデミー出身なのでしょうか?」
正確には、どの世界でしょうかと、言葉を変えて尋ねてみる。すると、頬を掻きながら警備員さんは弱ったような表情を浮かべた。
「何分田舎出身なもので……。言っても伝わらないと思いますよ」
「良いですから。どんな所かだけでも言ってください」
「かなり田舎ですよ。動力は自然だけ、魔法も能力も科学も進展していない。海が広い世界で、海賊が暴れています」
「カリブとかその辺でしょうか?」
「そ、そうです。えっと……よく知ってますね」
俺の発言が予想外だったのか、彼は目を見張って驚いた。ただでさえ大きな顔の大きな目なのに、いっそう丸々とデカく見える。
でも、これでようやく推測だけでなく証拠も提出できるだろう。よっぽどの偶然が起こらない限りは。
全ての布石を打った後に、俺は団長の方へと向き直った。まだ後一人に訊かなくて良いのかと尋ねたそうな団長だったが、俺はそんな考えを気にせずに、ちょっと笑みを浮かべながらこう言った。
「では最後に、団長への質問です」
- Re: 【1/14更新】あなたの故郷はどこでしょう? ( No.8 )
- 日時: 2014/01/24 17:33
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: CR1FbmJC)
不意に呼びかけられた団長は一瞬目を丸くしたが、すぐに落ちついた。何で自分が質問されるのでしょうかねぇ、そんな風に首を傾げている。
本人はそんな呑気な様子なのだが、ガイが俺に詰め寄ってきた。今度こそ、周りの静止を振り払って、俺の服をおもいっきり掴んで引き寄せた。頭が揺らされて、少し気分が悪くなった。
「てめえ、団長を疑ってんのかよ!」
「違う。訊きたいことがあるだけだ」
「ふざけんじゃねえ! もったいぶって最後に団長を呼んだってことはお前が団長を疑って……」
「考え直せ。誰よりも公演を行いたいのは団長だろ」
それを言うと、ぴたりとガイの手は止まった。俺にそう諭されてようやく気付いたようだ。確かに俺がこんな順番で尋ねたというのも理由の一つで、ガイの言うようにもったいぶって団長に問いかけた。だけど、その団長を犯人だと思いこんだのは、他ならぬガイ自身だ。
それを察した彼は口を止めた。彼は心の底から団長を信頼している。ちゃんと考えなおしたからこそ、暴挙を自らやめた。突き放すようにして俺の服から手を離して、忌々しげに俺を睨んだ。
「お前が団長を疑ってない証拠がどこにある?」
「それは、今からする質問で分かる」
これだけ団員が暴れているというのに、当の本人は悠々としたもので、欠伸をしていた。ようやく騒ぎが収まったと分かり、団長は俺の顔をまっすぐ見据えた。
「で、何の問いですかな?」
「はい、簡単な質問です」
俺は、警備員を指差した。
「あの人“カリブ界”出身らしいんですけど、そんな世界って本当にあるんですか?」
「……ああ、そういう事ですか」
これまでの一連の流れに合点がいったらしく、大きく団長は頷いた。それだけではなく、状況を全て呑みこんだために、真実をすぐに見抜いたらしい。やはりこの人は、マイペースなだけでもの分かりが良い。
「え、でも“カリブ界”って言ったのお前だろ?」
ガイが呆れたような声で話しかけてきた。だが、その問いかけには俺よりも早くルカが反応した。
「でも、この人異世界を知ってるはずないんですよ。記憶喪失で、自分がどこの世界出身か分からないんですよ。そもそも、ゲートシステムや異世界の存在すらも忘れているみたいで」
「記憶喪失? 何で今まで黙ってたんですか?」
団長、あなたの目の前で俺とルカは記憶喪失だと喋っていたはずですが。自分の世界に入り込んでいたからきっと聞いていなかったんですね。
だが、今はそれどころではない。閑話休題するためにも、最初に団長が話を戻し始めた。
「カリブ海という海は地球界に存在します。二十一世紀にはカリブ海の海賊を主役にした映画を放映していたそうですから、海賊もいらっしゃるでしょう。ただし、地球界は今や百余ある世界で最も科学の進んだ場所。田舎などどこにも存在しない」
「つまり、あんたの話は矛盾があるって訳だ」
俺達の視線は全て警備員の男性に向けられた。脂汗が彼の顔に浮かび、明らかに彼は動揺している。
「いや、そんな事は……」
「あんたが吐いた嘘はもう一つある」
往生際悪く言い逃れようとする彼を前に、もう一つのカードを切る。さらに墓穴を掘っていたのを俺は聞き逃していない。
「あんた、爆弾を見つけた時何て言ったっけ?」
「……揺らすと爆発するから危ないです……だったと思いますが」
「いや、それだけじゃない。“プラスチック爆薬だから”。そう言っていた」
それがどうかしたのかと、彼は強気に出る。
だが、彼の漏らした迂闊な発言はもう一つある。『アカデミー時代に知識を叩きこまれた』というものだ。
「おかしいな。プラスチック爆薬というのは極めて安定な物質で、ちょっとやそっとの刺激じゃ爆発しない。信管を使わないと起爆できず、ちょっとずつ燃える程度だ」
「いや、仕掛けの都合で……」
「あんたは“プラスチック爆薬だから”と言ったはずだ」
「言葉のあやですよ」
「アカデミーで叩き込まれたのにか? その程度の知識を間違って覚えているような奴を排出するアカデミーなのか?」
「いいえ、アカデミーは超エリート校ですよ」
横からルカが口を挟んだ。各世界で優れた頭脳、あるいは身体能力を持つ精鋭が集い、いつの日か巨悪を打つために日夜奮起する。それがホライズンの候補生だ。この手の知識は一般常識と同じレベルで頭の中にインプットされている。
「気付けよ、何言い訳しようとあんたもう詰んでんだよ」
まだ悪あがきを続けようとしていたようだったが、その一言で完全に言い逃れる努力を放棄した。もう認めるしかないと全てを諦めている。お手上げだと言わんばかりに、首を横に振る。
こんなもの捨ててやる。そう言わんばかりに今着ている制服を破るようにして脱ぐ。それをそのまま地面に叩きつけた。
「さすがだな。上層部が躍起になるのも良く分かる」
「何の話だ?」
「お前の話だ。何も覚えていないんだろう? だったら教えてやるよ。この世界のどこかにいるであろうお前をあぶり出すために今日の出来事を仕組んだ」
「……俺を、捜し出すために?」
「ああ。危険因子だからな。神を含め百八の異世界において、最も境界人を憎む者、それがお前だ」
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