ダーク・ファンタジー小説
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- はきだめと方舟 [短篇集]
- 日時: 2014/01/29 18:43
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: a0IIU004)
はろーはろー
小さな声を紡いでいこうよ
□どうも、柚子といいます。
□あてんしょん? 短い文を書いたり、詩を紡ぐ。
■書きもの
君に酔いしれて(>>001) Special Thanks ⇒ Ms.Shiati
切っ先(>>002) Special Thanks ⇒ Mr.Taros@
からっぽらっぽ(>>005)
◆紡ぎもの
夢物語(>>003) Special Thanks ⇒ Ms.Yugen
からっぽらっぽ(>>005)
▼書きとめ
空らしからぬ(>>004)
□予め
[束縛的事情]
[もう一人、きみが居て]
[黄昏日記]
[そしてまた、]
□Since 2014.01.16
- Re: はきだめと方舟 [短篇集] ( No.2 )
- 日時: 2014/01/17 20:59
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: RUlYESDE)
ねぇ君。次は一体何を刺すつもりなのかしら。
暗い暗い夜道の中、私が見つけた貴方は鋭い光を放っていた。憎しみに満ちたその表情は、全てを消してしまいたいと願っているようで、私は一瞬にして魅せられた。ぞくぞくとした背徳感とともに、私の隠れた欲望が競り上がる。
ハッとして目を覚ますと、横には見慣れた恋人がいた。彼も私も一糸纏わぬ、生まれたままの姿。シーツに包まれた彼の厚い胸板に寄り添うようにして、私はまた目を閉じる。たまたま仕事の休みが被り、昨日からずっと一緒だった。
所謂恋人同士で、結婚も視野に入れた交際。同棲して三年目が、今日。だから、敢えて休みを合わせた。
「……え?」
胸板に頬をつけると、ぬちゃ、と聞きなれない音がした。眠りに付いたときと変わらない表情の、彼。不思議に思って胸板から頬を離すと、彼の胸から血がどくどくとあふれていた。
昔見た、刑事が殉職するシーンを思い出す。発砲された弾丸を体に受け、一言叫んだあの有名なシーン。手で頬に触れる。ほんの少しだけ粘度のある血が、頬に触れた手を赤く彩った。
「ね、和馬。大丈夫? ねぇ、和馬ったら……返事してよ、和馬……」
出した声はか細く、震える。突然のこと過ぎて、私は事態が飲み込めていないままだ。私は立ち上がり洗面所で手を洗う。爪の間に血は入っていなかったみたいで、少しだけ安心した。
濡れた手をタオルで拭き、急いで服を着に、部屋へ向かう。青いワンピースを着、携帯電話で『110』のボタンを押した。快活そうな男性に、先ほどまでのことを逐一詳しく告げた。
自分でも驚くくらい冷静に事象を説明したが、そのことで変に疑われてしまったらどうしよう、という考えがよぎる。いいえ、そんなことないわ。自問自答をして、今更湧き上がってくる恐怖心に蓋をする。
できる限り和馬のことを気にしないようにした。扉一枚隔てた向こう側に、亡くなった和馬が横たわっている。昨晩眠りに付いたときに、彼の胸には傷は一つもなかった。その胸に私は頬をつけて寝たのだから、この事実に間違いは無い。
数分ほどして、家に警官達がやってきた。テレビドラマで見た鑑識も、実際にいた。私は部屋の中央にある小さなテーブルに座り、事情聴取を受ける。安い同情の言葉を何度か聞いた記憶しか、事情聴取をしても残らなかった。
憤慨とも失望ともいえる感情が、からっぽになった私の心を満たし始める。それもそうよね、と感じながら私は近くのスーパーまで買い物に来ていた。
彼が大好きだったハンバーグを作ろう。
そう思い立ったのは、事情聴取を受けている最中だった。彼との記念日に、私はハンバーグを作って彼を喜ばすつもりだったもの。挽肉や玉葱をカゴに入れて、レジで会計を済ませる。
昼近くまで寝ていたから、色々なことが終わった今は夕方だった。冬場は直ぐに陽が落ちてしまって、外は真っ暗。私は持参したエコバックに品物をつめて、スーパーを出る。
ひんやりとした外気に、肩を小さくしながら帰路を急いだ。出来るだけ早く。低いヒールをかんかんとコンクリートに打ちながら歩いていくと、ふと夢で見た情景を思い出した。
「ねぇ、君。次は一体何を刺すつもりだい?」
聞こえた声は、夢とは違って男の子のものだった。夢で聞いた声は女性のもので、柔らかい声色。男の子の声は、まるで私を咎めるようなものだった。何をしたでも無い私を、憎しみのこもった声で咎めている。
後ろを振り返ってみると、声の主らしい少年が私を睨んでいた。
「次は、一体何を刺すつもり?」
あからさまに、私に対して憎悪を向ける。まったく意味の分からない私は、ただただ少年の言葉を聞いていた。これが夢と一緒なら、私は、私を見つめる鋭い視線に魅せられる。
どうしてか分からないけれど、私は魅せられる。じっと視線を交わしていると、少年はまた口を開いた。
「一体何を刺すつもり?」
その声はだんだんと苛立ちを覚え、私を見る視線も一層鋭さをます。瞬間、私はぞくりと背筋に鳥肌が立ったのを感じた。この少年に向けられる嫌悪が、とても心地いいと思う。いけない、そう思っても少年の声には、人を惹き付ける何かがあった。
「私が、何を刺すっていうのよ」
やっとのことで出した声を聞き、少年は少し落胆した表情を見せた。何も覚えていないんだ、と言いたそうな悲しげな表情。呆れたように少年は、口を開く。
「何も刺さないつもりなの?」
少々の間があってから、私は頷いた。少年は私に、殺しをしろと言っているのだろうか。少年を見れば、真面目な顔をし、私をじっと見る。私の行った決断は間違っていると、言いたいのかもしれない。
「貴方は、私に何を求めているのよ」
「薄汚れた背徳感と、それを伴うエクスタシーの代弁」
呆然とした。何を言っているのか全く分からない。少年の声は、また深い憎しみを纏っている。全く分からない少年の気持ちに、私は嫌気が差し始めた。
「何が、言いたいのか分からないわ」
そう言い、私は歩を進める。相手にしている時間などない。家に帰ってハンバーグを食べながら、彼を思い出さなくちゃ。食べ終わったら、彼の家族に、私の家族に連絡をしなくちゃいけないの。
少年は、歩き出した私を追っては来なかった。少年の視線が、私の背中にぐっさりと刺さっていることしか、分からない。
「」
少年の声らしき音は、言葉として認識できないまま空気の中に吸い込まれた。気にせず歩き続ける私は、小さな違和感に足を止めた。何だか、頭がくらくらとする。強すぎる快楽の波に拐われるときのような、甘美な朦朧感。
そのまま、私はアスファルトの地面に突っ伏した。皮膚が擦れて、じんじんと痛む。それでもなお続く朦朧とした感覚がなんなのか、漸く知ることができた。
「次は、何を刺すつもりだい?」
少年の声に、私は静かに目を閉じた。
ゆったりとゆっくりと、一度瞬きをして。
■切っ先
—————
鋭い感情は、気づかぬ内に自分をも飲み込んでしまっている。
鈍い脳内は、気づかぬ振りで自分を守り続けてしまっている。
—————
親愛なる@伯爵に、言葉以上の感謝と喜びを込めて。
たろす@さんにいただいたお題『切っ先』より、『切っ先』。
- Re: はきだめと方舟 [短篇集] ( No.3 )
- 日時: 2014/01/21 21:16
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: B6dMFtMS)
月下双樹の花音 確かにうつろった
移ろい映ろう花音が 小さくゆらりと揺らめいた
太陽高く上る香
月光低く下る奏
花魁道中 はらひらり
将校連中 ふらりらり
三味線奏でり 歌拾い
くるり廻った 十二反
艶やか袖の残り香に 花を埋めたは夜の夢
降らせた 赤い契と触れた
白く細い 筋金に
過ぎ行く時を思うだけ
ふらひらり
はらりらり
くるりと廻った 十二反
袖に紡ぐは 赤の景
◆夢物語
—————
以前雑談スレッドのほうで書かせていただいたもの。
悠幻さんより『くるくるとした雰囲気』とのことで、作成。
悠幻さんに心からの感謝を込めて。
- Re: はきだめと方舟 [短篇集] ( No.4 )
- 日時: 2014/01/26 20:58
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: 7lLc0QEy)
空を、見上げた。
その空は、僕が見た初めての空。
きっと他の人が見れば、「空じゃない」って口を揃えて非難するんだ。
それでも、それは、僕にとっては普通の空。空らしからぬ、空であることは、明白なんだ。
▼空らしからぬ
- Re: はきだめと方舟 [短篇集] ( No.5 )
- 日時: 2014/01/29 18:50
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: a0IIU004)
小さなカバンにいれたかんかんが、からーんからーんと音をならした。
それを聞くと、なんだかたのしくなってきて、あっついどうろの上でぴょんぴょんと跳びはねる。
すると、からからーんからんからーんと、さっきとはちがう音がした。
今思えば、あのかんかんには大切な何かが詰まっていた。
——ような気がする。
一人暗闇で、目を覚ました。いつからか、僕は暗闇で生きていた。頭がしっかりと働かないまま、パソコンの電源を入れる。この暗闇にいるのは、僕とガラスケースの中に棺おけに収められた状態の、等身大の人形。
人と関わることを、極力避けていた。パソコンのブルーライトを遮断する眼鏡をかける。僕は日々、外界の情報を収集するのに専念していた。パソコンのカレンダーは、僕に春であることを告げる。気付けば、季節は二度も変わっていた。
机の上に置いてある袋の中からコンビに弁当を取り出し、食べる。特別美味しいとも不味いとも感じないそれを、機械的に飲み込んだ。静かな部屋に、お茶や弁当を嚥下する音だけが鳴る。
暗闇で生活をするようになってからというもの、感情と呼ばれるものを消失してしまった。欲望も、気付いたときには感じなくなっていた。
『メッセージヲ、ジュシン、シマシタ……メッセージヲ、ジュシン、シマシタ……』
普段ならない機械音に、僕は驚いた。思った以上に大きな音量で、つけていた大きなヘッドフォンから耳に流れてきたからだ。急いでメッセージを開く。そうしないと、延々と機械音が流れ続けることになる。
送られてきたのは音声ファイルで、差出人は不明。ネットウィルスかもしれないとは思ったけれど、好奇心に負け、ファイルを保存する。保存は直ぐに終わって、僕はそのファイルを開いた。
開始数十秒は、静かなノイズが響く。アナログテレビの砂嵐より静かな、少し心地の良いノイズだ。
からん。
ノイズに紛れて、一つ音がした。すると、その音が鳴ったのを機に、からんからーんからからーんと様々に音が鳴る。その音は、不確かな僕の思い出に確かに刻まれていた。失ったと思い込んでいた感情が、ふつふつを湧き上がってくる。
それと同時に、暗闇に囚われていた僕の時間を取り戻さなくてはいけないと、無意識に感じた。そう感じるとすぐに、体は動き出していた。机の上の財布を手に取り、暗闇から飛び出す。
外界も等しく暗闇で、その中を只管走っていく。黒猫が、飼い主の恋人に手紙を届けたように。走って走って、走った。数分ほど経って、こうこうと看板が照る二十四時間営業の店に駆け込む。
真っ直ぐに向かった目的のコーナーの棚を、上から下までじっくりと探す。あれがあるかどうか、まだ製造されているのかどうかが、分からないから。何分か探して、やっと見つかったそれは、昔と何一つ変わらないラベルだった。
それを見ただけで、何故か瞳が潤んだ。懐かしくて、温かい記憶が、戻ってきたような気がする。それを手に持って、レジに向かう。会計を済まして、店を出た。
暗闇に紛れて、僕は静かに瞳に溜まった雫を外に出す。一度出すと延々と零れ落ちるそれは、今までの僕を労っている様だった。ポケットにはいったそれは、からんからーんと僕を応援してくれている。
家に帰り、それをあけた。一つ口に含むと、甘い甘いいちごの味がする。幼い頃の僕が舐めたものと、同じ味だ。この味を舐めたとき、僕は特別悲しんでいた。その甘さに、優しい母親のようなものを求めていたのかもしれない。
からんからんと音が鳴っていた空っぽの心を、それは満たしていてくれる。無くした時間を取り戻すように、ゆっくりと幼い頃に戻っていっている気分だ。涙を流しながら食べたこれは、優しく僕を包み込む。
からんからんと、心は音を立てなくなった。
からんからんと、それは音を立てなくなった。
■からっぽらっぽ
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以下、原案。
振ると からんと音がする
きっと心も 同じ音
振れば からんと音が鳴る
寂しい音は 少し鈍い
嬉しい音は とてもきれい
そんな音が つまってる
からっぽらっぽ
スキップすると 鳴ったんだ
嬉しい音が 聞こえない
寂しい音も 聞こえない
何度ふっても からっぽらっぽ
聞こえない
涙を流して 振ってみて
からっぽらっぽ 聞こえない
◆からっぽらっぽ
- Re: はきだめと方舟 [短篇集] ( No.6 )
- 日時: 2014/02/02 10:36
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: O35iT4Hf)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=15057
複雑ファジーで書いていた【レミリアへの手向け】という短編スレッドのほうに、移転することにします。
こちらで読んで下さっていた方々、有り難う御座いました。
参照から、複雑ファジーのほうへ飛べます。
ご愛顧、有り難う御座いました。
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