ダーク・ファンタジー小説

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悠久のカナタ(SF)
日時: 2012/07/11 00:31
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/

・あらすじ

悠久の時が流れる世界「エミリア」に住まう人々は、みんな不思議な力を宿した宝石を所有していた。一つは「テレパス」と呼ばれる通信能力。残りは……。

・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・終焉へ向かうプレリュード篇

 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の一 >>01
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の二 >>02 >>03
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の三 >>04 >>05 >>06
 序 章 〜終焉へ向かうプレリュード 前 篇〜 其の四 >>07 >>08
 第一章 〜再会と旅出〜 其の一 >>09 >>10
 第一章 〜再会と旅出〜 其の二 >>11 >>12 >>13
 第一章 〜再会と旅出〜 其の三 >>14 >>15
 第一章 〜再会と旅出〜 其の四 >>16 >>17
 第一章 〜再会と旅出〜 其の五 >>18
 第一章 〜再会と旅出〜 其の六 >>19
 第一章 〜再会と旅出〜 其の七 >>20 >>21
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の一 >>22 >>23
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の二 >>24 >>25
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の三 >>26 >>27
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の四 >>28 >>29
 第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の五 >>30 >>31

(2)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の三 ( No.27 )
日時: 2012/07/02 21:30
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/14/

 ——首都「エストレア」第十一階層。
 白衣を着た人間の姿が目立つ、このエリアは研究所しかないと言っても過言ではない。
 そこに場違いな格好をした四人組が堂々と歩く。

 大聖堂がある第十階層と違い、上には何も遮るモノが無い最上階……。
 見渡す限り青い景色が広がっている。
 視線を下界に向けると雲海が広がっており、雲より高い位置にいるのだと思い知らされる。

 トウヤたちは初めて足を踏み入れる第十一階層に心を躍らせながらも案内モニターに映し出されている道筋通りに足を進める。
 この先に彼らが求めるモノがある……。

 しばらく進んでようやく辿り着いたドーム型の大きな施設——パーソナルジェム研究所に彼らは教皇からの許可書を提示しながら中へ入って行った……。



 ——首都「エストレア」第十階層、大聖堂執務室。
 ミュリアの色気に惑わされ、昇天したクライヴ教皇は未だにその状態のままだった。
 彼らが去って、しばらくすると、トウヤの予想通り——メガネを掛け、きっちりとスーツに身を包む、いかにも融通が利かなそうな堅物女性が執務室に訪ねて来た……。

 「——失礼します」

 「コンコン」と、軽く扉にノックをしてから、入って来た堅物女性——ミヤは正面に広がっていた光景を目にして「はぁ〜」と、額を押えながら嘆息を吐く。
 そして、そのまま昇天している教皇の傍まで近寄ると徐に教皇の首根っこを掴んで、力の限り揺らした。その際に、彼女が身に付けるイヤリングが揺れ、そこに装飾されている銀色の宝石が「キラリ」と、煌めく……。

 昇天して魂が出てしまっているかも知れない老いぼれにさらなる仕打ちを仕出かす彼女の表情は淡々とした冷めたモノで。
 その行為がしばらく続き、突然「ゴホっ!」と目覚めた教皇がむせ返り、それを見てミヤは掴んでいた手を離した。

 「……わ、ワシを殺す気かっ……」

 「はぁはぁ」と、荒い息遣いになる教皇の言葉にミヤは小首を傾げる。

 「——教皇様。いち秘書たる私が教皇様を殺害して何のメリットがあるとお思いですか? 私はただ天に召されかけていた教皇様に蘇生術を施したに過ぎません。それを凶行だと勘違いなされられるとは思いも寄りませんでした。もし、私が蘇生術を施していなければ、教皇様はあのまま天に召されていたかも知れません。そのため、褒められはしても、非難される覚えはありませんね。それともう一つ——」

 「ああ、それ以上聞きとうない。ミヤちゃんの話は一々長い……」

 子供のように耳を押えながらミヤの話を遮る教皇。
 その態度に大きく嘆息を吐きながらもミヤは唐突に視線を後方に向けた。
 それも普通に向けただけじゃなく、身構えて……。
 教皇もミヤが向ける視線の先——入り口辺りを見据えながら、表情を強張らせる。

 「——もう、怖い怖い……。それが久しぶりに会う、子供に向ける顔ですか?」

 軽い口調でそう話しながら、ゆっくりと教皇たちの元へ歩みを進め——そして、あらわになったその人物を見て、堪らず二人は驚きの表情を浮かべた。

 「——お、お主……」
 「——生きておられたのですね……」

 「——お久しぶりです。お爺様、ミヤちゃん」

 不敵に微笑みながら銀色の長髪の青年が——クラウスが育ての親の元に現れた……。

(1)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の四 ( No.28 )
日時: 2012/07/03 21:16
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/15/

 ——パーソナルジェム研究所、第一ラボ。
 研究所を訪ねたトウヤたちは第一ラボにある休憩室に通されていた。
 そこで研究所所長たる「キリク」の到着を待っていた。
 トウヤたちはキリクの知り合いで、まさか所長の地位にまで昇り詰めているとは思ってもなく。少々驚いている次第である……。

 「——はぁ〜。キリクが所長ねぇ〜。変な気分だな」
 「全くね。あのチビスケがパーソナルジェム研究所の所長なんて、世の末よ」

 トウヤとアリスが愚痴を溢していると「コンコン」と、扉にノック音が鳴り。
 そのまま「ガチャ」と、扉が開いて、そこからアリスとそうそう変わらない小柄の白衣を纏った少年が現れた。

 「——やぁ〜。皆、久しぶりだね」

 小さく手を振りながら現れた白衣の少年——キリクに一同は揃って腹を抱えて笑いこけてしまう。

 「ははは! キリクのその格好、似合わねぇ〜!」
 「ぶっかぶかじゃない、アンタぁ!」

 トウヤとアリスがキリクの事を指さしながら涙を浮かべて笑い。
 残りの二人も笑みを浮かべる。

 「そうかい? 僕は結構、似合うと思ったのだけど……」

 そう話すキリクの服装はアリスが言うようにぶかぶかだった。
 ワンサイズ、いやツーサイズ大きめのモノを着用しているのか、白衣の裾からは手は出ておらず、下に履いているズボンも裾を地面に引きずっている有様……。
 不格好なキリクの姿に一同は爆笑したのだ。

 「——まっいいさ……。しかし、君たちも相変わらずだね。トウヤは今でも変態紳士なのかい?」
 「当たり前だ、コノヤローと言いたい所だが……」

 と、徐に女性陣の顔色を窺い始めたトウヤにキリクは「やれやれ」と息を吐く。

 「——ユウは相変わらず、無愛想だね」
 「ほっとけ」

 「——ミュリアは未だにあの変な口調を続けてるの?」
 「他人の口調にケチつけないでくださる?」

 「まぁ〜いいけど——アリスは相変わらず、ちっこいね」
 「アンタが言うな」

 一通り再会の挨拶を済ませた所でキリクはある事に気付き、部屋を見渡す。
 だが、キリクが求めるモノは見当たらなかった。


 「……ねぇ〜、一つ聞くけど——クラリスは?」

 この投げかけに一同は表情を曇らせて、口ごもり。
 彼らの反応で大方の予想がついたのか、キリクが感慨深く頷いた。
 すると、トウヤがポケットからクラリスのリングを取り出し、それをキリクに提示すると——彼の目付きが豹変した。

 「——これは……」

 リングをトウヤから受け取ると——食い入るように見つめ始めたキリクに、一同は『やれやれ』と嘆息を吐く。
 彼は昔から自分の興味を引くような対象を目にすると周りが見えなくなり、自分の世界に入り込んでしまうきらいがある。ただ、そういう性格だからこそ今はこうして研究者になっているのかも知れないと、トウヤたちは思っている。

 「——ふむ、強制的に契約が切られている……? いや——ただの加護不全……?」

 ぶつくさとリングを見つめながら独り言を話すキリクにトウヤたちは『相変わらずだなぁ〜』と、ほくそ笑む。
 しばらくして、キリクは小さく息を吐いて、リングをトウヤに返す。
 そして、徐に顎に手を添え、眉間にしわを寄せて思案顔になった。
 そんな彼にユウが、

 「……で、何か分かったのか?」

 真剣な面持ちでそう投げかける。

 「——う〜ん、分かったと言えば、分かったと言えるけど……。ただ、一つ——納得出来ない疑問が残っているんだ。それを解消すれば、あるいは……」
 「その疑問って言うのは何だ?」

 キリクのはっきりとしない言葉にトウヤが嘆息交じりに投げかけた。
 その問いにキリクはトウヤたちの事を真剣な眼差しで見据え、

 「……これ、やったのは誰だい?」

 低い声色で尋ね返した。
 彼の言葉に一同は表情を曇らせる。が、小さく息を吐いてトウヤがキリクを見据えて、

 「——クラウスさんだ」
 「……なるほど。彼が、ね……。なら、納得だね」

 トウヤの言葉にキリクは感慨深く頷きながらそう呟く。と、再び自分の世界に入り込んでしまった。
 だが、クラウスがやったと彼に伝えた所で何も説明を受けていないトウヤたちには何の事か分からず、小首を傾げてしまう。

 そんな彼らの反応に気付いたキリクは「ふむ……」と、どこから説明すれば良いのかと模索し始め、何か妙案が浮かんだのか。手を「ポン!」と、叩いた。

 「——うん、所長権限を駆使してトウヤたちを僕のラボに案内するよ。そこなら君たちにも分かりやすく説明出来ると思うから」
 「……良いのか?」

 突飛な発言にトウヤは心配そうに尋ねる。
 所長とは言え、部外者である自分たちを重要施設に連れ込むなんて暴挙がもしバレたりしたら、ただでは済まされない……。
 だが、

 「——そこん所は大丈夫。ほら、君たちは教皇様の許可を得て、第十一階層(ここ)に来てるんでしょ? もしバレたとしても——許可書を発行した教皇様の責任って事で丸く収まるよ」

 と、キリクは不敵に微笑みながらそう告げた。
 この言葉に一同は鼻で笑って軽く受け流し、小さく合掌する。

 ——ジジイ……あばよ、と……。

 「——なら、そうと決まれば。キリクの仕事場に行くとしようかね」

 リーダートウヤの言葉にユウたちは力強く頷くと、さっさとそこに向かわんと部屋から出ようとした所——キリクからお呼びが掛かり、その足を止めた。

 「ん? どうかしたのか?」

 トウヤが首を傾げながら問いかける。

 「——せめて、白衣だけでも上に羽織ってくれないかい?」
 「白衣集団の中で私服姿は不味いと……」
 「うん」
 「了解——と、言いたい所だが、白衣なんて今は持ち合わせてないぞ。家に帰ればあるにはあるが……」

 何気なく口走ったトウヤのこの言葉に女性陣並びに残りの男性陣も顔を引きずりながらドン引きする。メイド服の件もそうだが、そんなモノまでも所有しているとは『この男は……』と、彼の嗜好に引くばかりであった。

 そうとも知らず——なぜ、皆が揃いもそろって自分の事を見つめながら顔を引きずっているのか、理解出来ずにトウヤは徐に首を傾げた。

 「——ゴホン、白衣の件なら心配しなくともこっちで用意するから。君たちはここで待機しといて」

 と、キリクは淡々と話してから白衣を取りに部屋を出て行く。
 部屋に残されたトウヤたちは談笑をしながら、彼が戻って来るのを待ち続けた……。

(2)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の四 ( No.29 )
日時: 2012/07/03 21:18
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/15/

 ——パーソナルジェム研究所、キリクのラボ。
 ここは巨大なドーム型となっている建物のちょうど中心部に位置し、薄暗い空間のど真ん中には天体望遠鏡が備え付けられている。
 それを食い入るように見つめる白衣の人物は観測結果を逐一、宙に漂うモニター内のデータベースに打ち込む。

 そして、一番目を張るのはやはり——天体望遠鏡を中心にして床一面に映し出されているこの世界「エミリア」の世界地図である。

 ちょうど、天体望遠鏡がある位置に首都「エストレア」があり、各都市には目印として赤い斑点が点滅していた。もちろん——鉱山都市「ラカルト」や「シアクスの森」聖都「マギア・テラ」なども映し出されている。

 「——どう? 僕のラボを見た感想は?」
 「ああ、正直驚いた……」
 「らしい事やってんだな……」

 トウヤとユウはキリクの研究室を見て、何を行うための場所なんて事は正直の所理解していないものの、目に映る光景に圧倒されるばかりだった。
 アリスとミュリアの二人は床一面に映し出されている世界地図に目を奪われている。
 綺麗に映し出された自分たちが暮らす世界に……。

 「——さて、そろそろ本題に入ろう」

 初めて見る光景に呆けているトウヤたちを後目に話を切り出すキリクは、徐にズボンの裾をたくし上げて、右足に身に付けているアンクレットを披露する。
 そのアンクレットには煌びやかに装飾された白色の宝石の姿があった。

 「——パーソナルジェムの機能、性能はもう説明しなくともいいよね?」

 キリクの投げかけに一同は力強く頷き返す。

 「——じゃ〜仕組み、存在意義については……うん、まずそこから説明するよ。じゃないと、クラリスのリングの説明が出来ないからね」

 と、キリクは裾から手を離すと——その手で今度は部屋の中心部にそびえる天体望遠鏡を指さした。
 トウヤたちはその指先を辿って、それを見据える。

 「あれで僕たちはあるモノを観測しているんだ。あるモノと言ってもただの流星、流星群なんだけど……。僕たちはそれの事を——嘆きの選別(リリスの涙)って呼んでいる」

 その言葉にトウヤとユウは表情を強張らせた。

 ——嘆きの選別(リリスの涙)。

 「クラトリアミラージュ」が起こる直前にクラウスが口走った言葉——「リリス=エミリア」にも「リリス」と付いていた。

 これは偶然なのだろうか?
 あるいは……。

 「この嘆きの選別(リリスの涙)はある条件下で降り注ぐんだ。と、言ってもこの時、この瞬間にも降り注いではいるんだけどね……」
 「で、そのリリスの涙ってのと、クラリスのあのリングの件はどう関係するってのよ」

 アリスの問いかけにキリクは「ニヤリ」と、不気味に微笑む。

 「うん。それを今から実証実験するから。えっと——そうだね〜。トウヤ、ユウ、ミュリア……。誰でもいいから、僕を殺してみて。方法は問わない。首を切り落とすなり、心臓を撃ち抜くなり、何をやっても構わないよ」

 突飛なキリクの発言に一同は目を見開き、驚きの表情を浮かべてしまう。
 実証実験のために友人を手に掛けるなんて事は出来る筈がない。
 たとえ、それで証明出来たとしても……。

 しかし、キリクは、

 「どうしたの、皆? 何を躊躇う事があるの? この世界に生まれ。今もこうして生きているのだから、この世界の理は十二分に理解出来ているでしょ?」

 淡々とそう話すキリクに、トウヤは堪らず頭を掻きながら、

 「——いや、あのな。『殺せ』て、言われてはいそれと人を殺すような玉じゃないぞ、俺たちは……。それに一々お前に説かれなくとも分かってるって——この世界の事は、さ」

 少々神妙な面持ちでそう話した。

 「——ふむ。人として当たり前の考えだね。だけど、今は非情になってもらわないといけないかな。後味悪いかも知れないけど、それぐらいの事をしないと実証実験としての意義が無くなっちゃうからさ」

 相変わらずの口調で話すキリクに、トウヤは「ダメだこりゃ……」と、額を押えて溜め息を吐いてしまった。
 そんなキリクの態度にただ一人——覚悟を決めたとばかりに真剣な表情を浮かべて、先方の事を見据えている者がいた。


 「——なぁ〜、キリク。それでお前が言う、実証実験とやらが証明出来るなら俺が介錯してやるよ」

 そう冷たく言い放ったその人物——ユウは身に付けるネックレスに触れ、刀と拳銃を顕現させ、それを徐にキリクに向ける。

 「お、おい。ユウ、やめとけって」
 「そうよ。やめなさいってば」
 「私も二人の意見に賛成ですわ」

 トウヤ、アリス、ミュリアが説得してみるが——ユウの決心は揺るぐ事が無く、そのままキリクに近寄って行く。

 「——あっ、ユウ。その前にちょっと準備があるからいいかな?」
 「……ああ」
 「お〜い。そこの望遠鏡を覗いてる君〜」

 これから殺されると言うのにキリクは緊張感ゼロの軽快な口調で、手を振りながら観測員の事を呼ぶ。

 「——わ、私ですか?」
 「うん、君だよ。大至急、映像を世界地図からチューナーたちの部屋に切り替えてくれないかい?」
 「は〜、分かりました」
 「よろしくね〜」

 「ふぅ〜」と、小さく息を吐いて、キリクは改めてユウに視線を向けた。

 「——皆、僕を殺ったら躊躇う事無く、映像を見てほしい。そこに全ての答えが隠されているからね」

 彼のその言葉に一同は力強く頷き、それを見たキリクは瞳を閉じて徐に両手を大きく広げた。

 「さぁ〜ユウ。思い切って殺(や)って!」

 「コクリ」と、ユウは頷くと鋭い目付きでキリクを見据えながら躊躇う事無く、彼の心臓を目掛けて左手に持つ刀を突き刺した……。

(1)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の五 ( No.30 )
日時: 2012/07/07 00:23
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/16/

 床にキリクの血液が滴り落ちる……。
 心臓を貫かれたキリクは吐血しながらも、苦痛の表情を浮かべる事無く。笑みを溢したまま床に倒れ伏せた。
 そんな目も当てられない、凄惨な光景に一同は立ちすくんでしまう。
 実証実験とは言え、幼い頃からの付き合いである友人を手に掛けたのだから……。

 だが、ユウは立ち止まらず。キリクの言いつけ通りに床一面に映し出されている映像に目を向けた。
 彼が観測員に指示した通り、そこには世界地図では無く。どこかにある研究所内のとある一室が映し出されており。そこには番号が書かれたプレートを胸に付けた囚人服のような白い無地の衣服を身に纏う老若男女、様々な人々が映し出されていた。

 その映像にユウは違和感を覚えた。

 ——いや、覚えざるを得なかった……。

 映し出されている人々の表情に全くと言っても良いほどに生気を感じられなかった。
 目も虚ろで、ただその場に存在している人の形をした「モノ」だった……。
 我に帰ったトウヤたちもすぐさまその映像を目にし、ユウと同じような感情を抱く。

 ——その直後。

 映像の中にいる人物たちの一人から突然、血液が噴き出る。
 ちょうど、ユウがキリクを貫いた位置から……。

 ただ、突然の事に状況が理解出来ないトウヤたちは、ただただその者の行く末を眺める事しか出来ず。
 そのような状況下でもなお、映像の中の者たちは感情などをあらわにせず、ただその場に有り続けるだけであった……。

 しばらくして、胸から出血した者は息絶え。白衣を着た研究員たちがその場に駆け寄ると——亡骸に敬意を表すように丁寧に一礼をし、祈りを捧げる。
 そして、亡骸をその場から回収して映像から見切れた……。

 その一連をトウヤたちが呆けながら見つめていると、突然——。


 「ゴホっ!」

 と、誰かが咳き込み。そこにはキリクの姿があった。
 すると、死んだとばかり思われたキリクが徐に立ち上がって、身体を「パキポキ」と、何事も無かったように鳴らした。

 「——ふぅ〜、結構痛いものだね……」

 少し痛みが残るのか、ユウに貫かれた胸を労わるようにそう口走るキリク。
 その労わる胸には付着しているはずの血痕や傷跡は無く、綺麗さっぱりとしており。

 ——我に返ったトウヤたちは思わず驚愕してしまった。

 だが、それはキリクが蘇えった事に対してではなく、自分たちが見ていた映像内で起こっていた出来事に対してだった……。

 「——なぁ〜、キリク。一体、何が起こったって言うんだ?」

 この謎を解き明かさんとトウヤが徐に口を開いて、そう投げかけた。
 その問いにキリクは、

 「——悠久の祈祷(エミリアルシステム)と、僕たちは呼んでいる。って、言っても彼女自身、どう思っているのかは定かではないけどね……。しかし、こうもあっさりと成功するとは君たちは運が良いね……」

 トウヤたちを見つめ、頷きながら話すキリクに何の事だかさっぱり分からない一同は小首を傾げてしまう。
 そんな彼らにキリクは呆けた表情を浮かべた。
 それはトウヤたちに対してではなく、自分自身に対して……。

 「——ごめんごめん。説明がまだだったね……」

 「ゴホン」と、一つ咳払いをしたキリクは表情を強張らせて、トウヤたちを見据えた。

 「——彼らは調律士(チューナー)と呼ばれる存在……。この悠久の祈祷(エミリアルシステム)の言わば——燃料、生贄、代替品、消耗品なんだ……」

 淡々と語った彼の言葉にトウヤたちは表情を歪め、キリクの事を睨みつける。
 最初からこうなる事は分かっていたと言わんばかりにキリクは清々しい表情で彼らの事をほくそ笑み、話を続けた。

 「だけど、僕たちは彼らに敬意を払っている。彼らのおかげでこうして僕たち——この世界に住まう民は悠久(えいえん)を約束されている……。ほら、君たちだってギルドの仕事で負傷した時はお世話になってるでしょ?」

 と、キリクはトウヤたちが身に付けるアクセサリーを一つ一つ、見やる。
 しかし、彼が本当に見ているモノはアクセサリーに装飾されている宝石だった……。

 自分だけの貴石(パーソナルジェム)……。

 彼らが所有している——この世界に住まう人々が皆、生を授かったその時に顕現する自分だけの貴石の事をそう呼ぶ。
 この宝石のおかげで「テレパス」と言った通信能力。固有技能と言われる自分だけの奇跡のような能力にその媒体となる装具などを扱う事が出来る。

 しかし、パーソナルジェムの本質的な性能から言えば、それは微々たるもの、オプションでしかない。
 そう——パーソナルジェムを所有しているこの世界の民は死なない。
 老いもしない。
 ただただこの世界で永久の暮らしが約束されている。

 したがって、この世界には死の概念と呼ばれるモノが著しく低い。が、決して死なない事は無い。パーソナルジェムの力が失えば、必ず死んでしまう……。

 それとパーソナルジェムのおかげで老いはしないが、調節する事は出来た。
 見た目は年配だが、中身はまだ子供。その逆もしかり……。ずっと、若者の姿でいる者もいれば、年相応の姿でいる者もいる。
 これに関してはもう自己判断、個人の裁量に委ねられていた。
 トウヤたちはこの世界に生を授かって、まだ数十年しか経っていない。そのため、年相応の姿だと言える。

 「——おい、キリク。その言葉から察するに彼らが俺たちの身代わりになっている、と言う事だよな?」

 何か感づいたのか、トウヤが探りを入れるように投げかける。
 この問いにキリクは不敵に微笑んだ。

 「——うん、そうだよ。さすが、トウヤだね。勘が鋭い」

 キリクの返答にトウヤは胸糞悪そうな表情を浮かべながら、舌打ちをし。
 勘の良いアリスもこのやり取りで大体の事を把握し、トウヤと同じように表情を歪め、舌打ちをする。
 そんな二人に対して、未だに状況が理解出来ていないユウとミュリアは揃って小首を傾げていた。

 その二人の姿に、

 「やれやれ」

 と、額を押えたアリスはいつもながらの態度——腕を組み、憐れな二人を見据えて、

 「——良い、二人とも。よ〜く聞くのよ。アタシたちとアイツらは連動している。アタシたちが傷つき、どれだけ深手を負おうが全てアイツらにフィードバックされ、アタシたちは無傷で生きながらえる事が出来る。それがたとえ、心臓を貫かれようが、首を切り落とされようが、このパーソナルジェムがある限りね……。ホント、胸糞悪いシステムよ。でも、今になって考えればそれぐらいの代償があって当然の事よね。だって、神の力と言っても過言では無い、力を授かっている訳だし、ね……」

 「ふぅ〜」と、一呼吸入れ、さらに続ける。

 「それにこの理論から行くと、アタシたちの老いの進行度合いも全てアイツらにフィードバックされているわね。アタシたちが若い姿であろうとし続けると、アイツらが代わりとなって年老いて行く……。そして、本来あるべき人間の天寿を超えてもなお、生きながらえている輩の代わりとなって死んで行く者もいる……。キリクの言う通り——アイツらの犠牲の上でアタシたちの暮らしが成り立っているのよ」

 アリスの説明でエミリアルシステム、チューナー……。そして、パーソナルジェムについての構造を理解し、ユウとミュリアは自ずと表情を曇らせた。

(2)第二章 〜調律士と呼ばれし者〜 其の五 ( No.31 )
日時: 2012/07/07 00:24
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n1184bd/16/

 「うん、アリスの分かりやすい説明で大体理解出来たようだね。僕たちは彼ら——調律士(チューナー)たちの犠牲無しでは生きられない。まっ、これはさすがに言い過ぎだけど……。でも、彼らのおかげで助かっている者がこの世界にたくさんいるのは事実だよ。自分だけの貴石(パーソナルジェム)の加護不全(プロテクトエラー)による死以外で亡くなる事はまず無い。どれだけ医療技術が発達しようが、治せない未知の病がこの世には一杯ある。だけど、この悠久の祈祷(エミリアルシステム)、自分だけの貴石(パーソナルジェム)の力のおかげで調律士(チューナー)たちが身代わりになってくれている。人間には不可能の事を可能に昇華させる事が出来る絶対的な力……」

 キリクはパーソナルジェムの絶対的な力に魅せられているのか、目を輝かせながら力説する。これも彼の性格の範疇内、自分が興味を抱いたモノはとことん追求し、知識も長ける。——が、それ以外になると並み以下になってしまう。

 その例として、衣服であったり、味覚であったりと……残念な面がある。
 しかし、それはアリスにも言える事で、彼女もどちらかと言うとキリクと同類。
 彼のように研究者にはなっていないものの、似たような所が多々あった。

 ——似た者同士の二人……。

 「ねぇ〜、キリク。さっきアンタが言っていたリリスの涙って、何?」

 アリスのその投げかけに、キリクは静かに頷き返す。

 「……ああ、そうだね。うん……嘆きの選別(リリスの涙)はこのシステムの根本となっている、彼女の——リリス=エミリアが選別する際に流す、涙とされているんだ。その選別って言うのが、さっきの調律士(チューナー)たちの誰が僕たちの身代わり、犠牲となるのかを選ぶ事……。そして、ここはその嘆きの選別(リリスの涙)を観測し、各地にいる研究者たちに通達する役割を任されている。それについてはさっきの映像で大体の事を理解してもらえたと思うけど……」

 「——なるほど、リリスの涙が空に流れる時。チューナーの誰かが俺らの身代わりとなっている事を知らせる、さしずめサインって事か……」

 静観していたトウヤが顎に手を添えて、頷きながらそう呟く。

 「……うん。そして、僕たちは彼らの行く末を見届け、息絶えた者を丁重にもてなす……。それがここ第十一階層にいる人間全てに課せられている最重要事項。クライヴ教皇や枢機卿たちも彼らを埋葬する際には必ずと言っていいほどに立ち会っているよ」

 静かに語ったキリクは徐に瞳を閉じて、深く息を吐いた。
 最高権力者たる教皇と枢機卿と呼ばれる教皇の補佐的存在が三人。
 そんな彼らもチューナーたち一人一人に敬意を表し、その行く末を案じている。

 「だけど、正直びっくりしたかな。さっきも言ったけど君たちは運が良いよ。調律士(チューナー)と言ってもさっきの映像の中にいたのはごく一部。世界各地には僕たちが把握していない調律士(チューナー)もいる。だから、あの映像にいた者の中で事が起こるとは限らないから運が良い以外の言葉が見つからないよ。——まっ、たまたま他の作用の影響で映像の中にいた者が選別されたのかも知れないけど」

 キリクのいつもながらの夢の無い発言に一同は揃って「やれやれ……」と、落胆し、張り詰めていた空気が少し和らぐ。

 「まぁ〜大体の事は分かりましたけど——私たちはクラリスのパーソナルジェムの件でここへ足を運んだ事はお忘れなく……」

 微笑みながらミュリアがそう話し。
 その言葉にトウヤ、ユウ、アリスは気の抜けた表情をさらしてしまう。

 本来の目的であるクラリスが「なぜ、眠りについてしまったのか……」その原因はクラリスのリングに装飾されているパーソナルジェムが本来あるべき姿からかけ離れた黒ずんだ姿に変貌してしまっているからではないかと、それを究明するためにパーソナルジェム研究所まで足を運んだトウヤたち……。

 だが、その前にパーソナルジェムの仕組みなどの途方も無い話を聞かされ、それどころでは無くなってしまっていたの事実だった。

 しかし、今は一通りの説明が終わって、一段落がつき……。
 目的を果たす時ではないのかと、一同はキリクに熱い視線を送った。
 その視線に応えるべくキリクは力強く頷く。

 「——色々脱線したけど、クラリスのリングに装飾されている自分だけの貴石(パーソナルジェム)は強制的に加護が遮断されている。これを解消すれば彼女は目を覚ますよ」

 彼の言葉にトウヤたちは堪らず安堵の表情を浮かべる。
 この世界には流行り病があった。

 それは突発的に起こる加護不全(プロテクトエラー)と呼ばれるパーソナルジェムが正常に働かなくなると言ったモノだった。
 一度患ってしまうと最後、死に至る病である。施術などの処置は何の意味もなく、ただいつか来る死を待ち受けるしかない、未知の病である。

 ——それともう一つ。

 この世界の住民は外的、内的損傷は無くとも、パーソナルジェムが破壊されれば、その者は必ず死んでしまう……。

 「——で、具体的にはどうすればいいんだ?」

 一旦、安堵の表情を浮かべたものの、どういった処置を施せばいいのか、教えられていないトウヤたち。その代表でユウが徐にそう投げかけた。

 「そうだね〜。悠久の祈祷(エミリアルシステム)を破壊するか、術者たるクラウスをどうにかするしかないね。もし、術者が死んでいれば、とっくにクラリスは目覚めている事だし……」

 淡々と話したキリクの言葉に一同は表情を曇らせる。
 その中で一人——トウヤは何か違和感を覚えたのか、彼だけ顎に手を添え、眉間にしわを寄せて思案顔になっていた。
 しばらくして、その違和感が解消されたのか、トウヤがキリクの事を神妙な面持ちで見据える。

 「——なぁ〜キリク。つかぬ事を聞くが、このエミリアルシステムの件はあの人——クラウスさんは知っているのか?」

 トウヤの問いにユウ、ミュリア、アリスの三人は目の色を変え、揃ってキリクに視線を向け。
 問いかけられたキリクはバツが悪そうな表情を浮かべながら、頭を掻いた。


 「——うん、彼も知ってるよ。だから、こそ……なのかも、ね……」

 キリクの返答にトウヤは激しく頭を掻きながら、苦々しい表情を浮かべてしまった。
 他の三人は納得と頷いていたが、キリクの言葉でトウヤはクラウスがやらんとしている事が分かってしまったのだ。
 それについてトウヤはユウ、ミュリア、アリスに説明せんと柄にも無く真剣な表情を浮かべて、彼らの事を見据える。

 「——ユウ、ミュリア、アリス。俺の話をよく聞いてほしい。クラウスさんは——」

 「大変です! 所長!」

 慌ただしくキリクのラボに入って来た研究員。
 その者に話を遮られ、トウヤは堪らず舌打ちをする。

 「どうかした?」
 「今すぐ、ニュースを見てください!」
 「え? あ〜、分かった。そこの君〜。映像を一般チャンネルに切り替えてくれないかい?」

 と、キリクは観測員に投げかけ。観測員は映像を一般チャンネルと呼ばれる映像に切り替え、業務に戻る。
 切り替わった映像にキリクは目を向け、そこに映し出されている光景に思わず、彼は立ちすくむ。様子がおかしいキリクに違和感を覚えたトウヤたちも彼に倣って映像に目を向けると——キリクと同じような様相になってしまった。

 それもそのはず、彼らが向ける視線の先には、見慣れた人物が映し出されていたのだから……。


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