ダーク・ファンタジー小説
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- リアルゲーム
- 日時: 2017/06/21 00:50
- 名前: 電波 (ID: iruYO3tg)
皆さん初めまして、電波と申します!
ここで投稿するのは初めてなので少し緊張しているのですが、よろしくお願いします。
また、文才ないのでうまく書けないかもしれませんがご了承ください!
それとそれと!
この作品には過度な暴力表現とグロテスクな描写が(たまに性的描写も)あります。それがダメな人は回れ右してください!
・注意事項
暴言や荒らしなどの行為はやめてください。
以上です。
・ゲームのルール
1.『全校生徒で殺し合いをする』
2.『期間は7日間。それまでに校内の生存者は2人にしておくこと。また、期間内に規定の人数に到達しなかった場合、全員失格。死刑になる』
3.『ゲーム途中に校外へと出た者は罪(ペナルティ)となり、失格となる』
4.『全校生徒にはそれぞれ戦うための異能(スキル)が配布される』
5.『殺し方や戦い方に縛りはない』
6.『校舎内に『鈴木さん』が徘徊する』
7.『クリア条件は2種類。1つ目は7日間以内に生存者を2人にすること。2つ目は校舎を徘徊する『鈴木さん』を殺すこと。その場合は、生存者の数に関係なくゲームがクリアとなる』
- Re: リアルゲーム ( No.90 )
- 日時: 2015/12/23 22:04
- 名前: 電波 (ID: JIRis42C)
氷の柱は無数に連なり、床に突き刺さる。その量は並ではなく勝平の姿が隠れてしまうほどにそれは覆い尽くされていた。まるで一種のアートのように氷柱は不規則に並び、そして月の光に照らされ美しく輝いていた。
その光景は見るもの全て魅了するのだが、桐ヶ谷はそちらに目を向けず別の何かに意識を向けていた。
「そこ」
彼女は瞬時に自分の右手から氷で作り上げた剣を生成し、振り向きざまに横に振り抜く。
彼女が言う「そこ」に彼はいた。
「ッ……」
勝平は背を精一杯仰け反らせ、横薙ぎからくる剣戟を回避していた。
しかし、桐ヶ谷はそれだけで終わらなかった。
剣を横に振り抜くその勢いを利用し、片足を軸にしてもう片方の足を上げ、回し蹴りを繰り出した。
「ぐっ…!」
回避の行動が間に合わず、勝平は彼女の蹴りをまともに受ける。
体がくの字に曲がり、そのまま一瞬宙へと浮かぶと床に叩きつけられた。そして、一回バウンドするとゴロゴロと床を転がりようやく止まる。
ゲホッ、ゴホッと咳や唾液が溢れるように彼から吐き出された。
「あら?能力使わないの?さっき氷が降ってきたときは使ってたじゃない」
苦痛に顔を歪める勝平に、女王は静かに言いながら近づいていく。
「何か狙いがあって使わなかったの?それとも使えなかったのかしら?」
しかし、勝平に答える余裕はない。
「まぁ、どちらにしろ。あなたの能力は把握したわ」
そう言うと、桐ヶ谷の持っている剣が禍々しくその形を変えていく。バキバキバキと一つの木から枝が分かれるように氷が広がっていく。
「あなたの能力は攻撃を通さず、その上姿を消す。なら簡単なこと」
パキパキ、勝平が倒れている床に冷たい何かが広がった。それは比喩ではなく、本当に勝平の倒れている所に氷が張っていた。
「……ッ」
動けない。
氷がしっかりと彼の体を固定し、こちらの意志では離してくれないようだった。
「動きを固定させてしまえば良いだけのこと」
桐ヶ谷は勝平の近くまでで立ち止まると、手に持っている剣を振り上げた。このままではもう終わり、そう思われた時だった。
「……げ……な……さい」
まるで別人のように震えた声で桐ヶ谷は勝平にそう告げた。
すると、さきほどまでガッチリと勝平の体を固定していた氷がすんなりとその効力を失っていた。
同時に彼女の様子にも変化があった。
「くっ………あぁぁあぁぁああ!!」
氷の剣を落とし、両手を頭に当てて絶叫する桐ヶ谷。その様子はどこか不気味であったが何はともあれ勝平にとってはチャンスでもあった。
勝平はすぐさまその場から離れ、彼女から距離を置く。
相手の様子はまだ絶叫し、痛みに悶えている。その間にまた戦略を練らなくてはならないが少し時間があったためか、痛みは多少和らぎつつある。
そのおかげもあって勝平の考えは割とスムーズにまとまっていく。
が、形勢は未だこちらに不利であることには変わりはない。
力の差で言ったら間違いなく桐ヶ谷の方が上になるだろう。しかし、そんな時でも勝平は今のこの状況を想定内だと言い切れる自信があった。
その自信のためか彼は少し溜め息を吐いた後こんな事を呟いた。
「ったく、体もイテェしメンタルもヤられそうだし、早く家に帰ってゲームやりてぇよ」
- Re: リアルゲーム ( No.91 )
- 日時: 2015/12/29 12:58
- 名前: 電波 (ID: JIRis42C)
遡る事三十分前。
「洗脳……?」
体育館の隅で伊吹が眉を寄せてそう言った。
「そうだ。奴らは洗脳または催眠状態にあるかもしれない」
あまり突拍子のない話に面食らったかのような顔をする伊吹。当然彼からしたらこんな話、いつもなら鼻で笑って切り捨てているところだがこんな状況にあるのであれば話が変わってくる。
「なんであいつらが洗脳されているってことが分かるんだ?」
「生徒会全員が操られているっていう確証はないが、確かな証拠は……」
そこで勝平は口を濁らせた。言うべきか言わざるべきかそれなりの葛藤があるのか少し考える素振りを見せた。
「心配するな、ここには俺とお前だけだ。聞いているやつなんて誰一人いない」
その言葉に背中を押され、言いずらそうに勝平は口を開いた。
「あいつ、つまり生徒会会長だが……」
話を聞きながら息を呑む伊吹。
「かなり優しい奴だ」
「はぁ?」
間の抜けたように伊吹はそう言った。 ほら思った通りの反応だ、と勝平は溜め息を吐いてこう補足する。
「公園で一人で遊んでる女の子に声をかけてたんだよ。遊ぼうって。今では考えられない程にすごい笑顔でな」
「たったそれだけで洗脳されてると?」
「ああ、そうだ」
伊吹は頭を抱えた。確かに勝平の言うことが本当ならすごく興味深い情報ではあるが、今はそれどころの話ではない。どうこの状況を打破するかが問題なのだ。
勝平もそれは承知でここで伊吹に依頼をする。
「物凄い賭けではあるが、お前のスキルで俺にスキルをくれ。場合によっては全てを救える」
「本当に賭けだな……」
勝平の言っていることは滅茶苦茶でさすがの伊吹も付いていけなかった。しかし、真剣な表情で自分を見つめる勝平を見て重い溜め息を吐く。
「分かったが、忠告するぞ。もしお前がしくじって殺された場合、俺はこのスキルでゲームを終わらせる」
その言葉にずしっと重たい物がのしかかってきた。伊吹のスキルはそれほどまでに恐ろしく容易い。下手をしたらこの世界を無くしてしまうかもしれない程に。
だから、事の重大さを勝平に伝えるために敢えてそう言ったのだ。
それでも勝平は答える。
「それぐらいのリスクが無ければヌルゲー若しくはクソゲーになってたよ」
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現在、絶叫を木霊する桐ヶ谷。その表情には先程までの冷静さの欠片もなかった。ただ吼える獣のように顔をクシャクシャにし、頭を両手で押さえている。
「……泣いて泣いて笑って……いない……いない……バァ…………痛くて…………笑っちゃって…………楽しい?」
それに相対する形で勝平は策を講ずる。
「距離が遠いが行けるか……?」
そんな事を呟きながら勝平はスキルを行使する。
瞬間、勝平の瞳から一瞬輝きが失われた。
『意識介入(デュアル・シフト)』
伊吹から作って貰ったスキル。名前の通り、相手の意識に介入する能力である。数秒間だけだが相手の意識を乗っ取れる。
使い方によっては自分は無傷のままで相手を撃退できることができるのだが、勝平の使い方はその斜め上だった。
「はっ…………!」
勝平は意識を取り戻すと、すぐに桐ヶ谷の方へと視線を移した。
「あぁぁあぁぁあああぁぁあぁぁあぁぁ!!!」
さっきより甲高い声で叫ぶ桐ヶ谷。
「やっぱり効いてるな」
勝平の作戦は順調だった。
彼が桐ヶ谷 綺麗を無力化させる作戦は至ってシンプル。ただ乗り移るだけ。それをひたすら繰り返すことが勝平の狙いだった。
勝平の考えでは恐らく洗脳されている桐ヶ谷の意識はグチャグチャになっている。言うなれば自意識と無意識が混濁し、自分のやっていることがたとえ間違いでも都合の良いことに置き換わっている状態にある。
そこで勝平が考えたのはグチャグチャになった桐ヶ谷の意識の中に飛び込み、意識を分離させることにあった。容量がいっぱいいっぱいの頭に勝平の意識を飛ばすことで、意識を少しずつだが戻していたのだ。
確率的にはかなり怪しかったが、うまくいったようで勝平もホッと胸を撫で下ろした。
しかし、
「苦しくて…………息して…………頼もしく……甘っ…………辛き……あははははっ!!」
支離滅裂な言葉を放ちながら、桐ヶ谷は自身に氷を纏う。ズズッと次第に桐ヶ谷の体を覆うとその氷は歪に形を変える。彼女の体を覆っている氷はハリネズミのように上半身から下半身まで無数の針で形成された。
そして、桐ヶ谷の顔付近を覆っている氷はまるで意思を持っているかのように独自に顔を作り上げ、その姿は勝平が少し後ろに引いてしまうほどだった。
「はっ……化け物が……!」
氷の顔はまるで鬼の顔だった。瞳は何もない透明なはずなのに、ハッキリとした殺意が伝わっていた。氷でできた歯を剥き出しにし、時折ガチガチと歯を震わせている。
「こんにちは……ありがとう……初めまして…………天気良いですねねね」
- Re: リアルゲーム ( No.92 )
- 日時: 2015/12/30 23:51
- 名前: 電波 (ID: JIRis42C)
一言でいうなら般若。もう少し付け加えるなら悪魔。そんな悍ましいオーラを冷気と共に体から流しながら、勝平を視界に捉えていた。まるで生きているかのようにケタケタと口を開閉させる。
「これはちょっとマズイな……」
勝平は目の前の状況に脂汗が滲ませながら呟く。
本来の勝平の計画では桐ヶ谷の意識を何度も乗っ取ることで、桐ヶ谷の中の自意識と無意識を分離させて自我を取り戻させるはずだった。
しかし、誤算が生じた。
彼女の中の意識が別れる際、勝平の意識がほんの僅かだが桐ヶ谷の自意識に流れてしまった。決して本来ならあり得るはずのない現象だが、何回も桐ヶ谷の中に入ったことでその性質が流れ込み、暴走。今のような状態になったと勝平は考えた。
「ボス戦で第二形態に突入かよ……」
そんな悠長なことを言える余裕はあるが実際のところ勝平にはあの化け物を打ち倒すような策はない。
思考を張り巡らせたところで、解決案が浮かんでくるわけでもない。
そんな時、相手の化け物が動きを見せた。
「天……キレイ…………もの…………血…だね……!」
氷の鬼はどうやって声を出しているのか、口をパクバクと開けて話す。
瞬間、鬼の背中からパキパキと音を鳴らして何かが飛び出す。
「……!」
勝平はその場から横に走りだす。さきほどまで勝平がいた場所は鬼が出した物で押し潰された。
勝平はチラッと自分が立っていた場所へ見る。鬼から出したものは氷で出来た腕だった。一掴みで人の体を持ち上げられるような巨大な手が床を押し潰していた。
勝平は足を止めることなく、鬼との距離を一定に保つ。走っている間、勝平が走っていた箇所は無数の腕が伸び、破壊を繰り返す。
( ヤバイ……)
勝平は追い詰められていた。
この鬼を撃退する方法が思いつかないことに。
本来なら『意識介入(デュアル・シフト)』により、相手の意識を乗っ取ればそこで戦いさえも始めさせないのだが唯一の相手が目を閉じた上に意識があるのかどうかも怪しい状態では対応のしようもない。
かといって勝平自身肉弾戦に秀でている訳でもなかった。
「……死ぬ」
今までそんなに感じていなかった死への恐怖を初めて実感する。
他人事のように見てきた他人の死が今自分の目の前にまで迫ってる。
「……死ぬ」
そう考えた為か、勝平の足は速度を緩めそして動きを止めた。恐怖かそれとも絶望したのか、それ以上動く様子を見せない。
そして、
「……飽き……着る……ヨシニィ……」
鬼がそう言いながら背中から伸ばした手を勝平に向けて放つ。
近づいていくその手に反応する事もなく、勝平の目線は前髪で隠れ静かに立ち尽くしていた。
まるで別の何かが存在しているかのようにユラユラと勝平の髪が静かに揺れる。
すると、異様な雰囲気を醸し出す勝平の口元が僅かに吊り上がった。
- Re: リアルゲーム ( No.93 )
- 日時: 2016/02/06 18:50
- 名前: 電波 (ID: JIRis42C)
鬼から伸びた手は一直線に勝平の元へと向かっていた。空を切り、一つの氷の塊が自分の命を刈り取ろうとしているのに勝平は突如口角を上げた。状況があまりにも最悪なものにも関わらず勝平はまるで友人と話をするかのように微笑んだ。
パァァァン!
伸びた手は何の前触れもなく砕け散った。ゴツゴツと相手を摩り下ろすようなデコボコの氷は空気の入れた風船のように膨らむと一瞬にして破裂した。と言うより、跡形もなく鬼の手は消えていた。
そして声の主はこう言う。
「倒れろ」
瞬間、その言葉に呼応するかのように鬼は体を床に勢いよく叩きつけた。ビクビクと体を痙攣させる鬼。必死の抵抗のためか、その行動は不気味さを感じさせていた。
「大丈夫か、唯腹」
落ち着いた声色でどこからか声が聞こえてきた。
「ああ、おかげで助かったよ。伊吹先輩」
皮肉気にそう言う勝平。先ほどのような笑みはどこかへと消え、そこには冷静な表情を浮かべる彼がいた。
「ふぅ、ヒヤヒヤさせやがって……お前が急に笑い出した時はマジで狂ったかと思ったよ」
そう言いながら、伊吹 和麻は勝平の横に姿を現す。
「このまま狂っても面白かったけどな。で、他の奴は?」
「そこでのびてるよ。何せ俺のスキルだったら一言言ってやればお終いだからな」
すると、怪訝そうな表情を浮かべて勝平は言う。
「ということはずっと覗き見してたってことか?」
「まぁ、そうなるわな」
二人がそんな会話をしているなか、鬼は次の行動を起こしていた。背中の氷を今あるありったけの量を腕に換算し、急速に敵を掃討する準備に取り掛かっていた。
——相手を殺してやるため。
——油断をしている今の隙に。
ただその念を感じさせるかのように、鬼は二人をジッと見据えていた。
「ところで伊吹先輩。一つ頼まれてくれないか?」
「おいおい、本来なら俺はこのゲームを終わらせてるんだぜ?頼み方に気をつけたらどうだ?」
「今度何か奢ってやるよ」
すると、はぁ…と呆れたように伊吹は溜息を吐いた。
「りんごジュースな?今度奢れよ?」
二人の間でその約束が交わされた瞬間、事態は動いた。鬼の背中から放たれた手が管のように伸び、狙いを二人に絞った。
「砕けろ」
届くかと思われた鬼の攻撃はいとも容易く伊吹の一言によって砕け散った。ガラスのように飛び散る氷を呑気に眺めながら勝平は口を開いた。
「あの氷の鎧を全部引き剥がせるか?」
「ああ、俺の言霊(パペット)があればな」
少し考える素振りを見せると、勝平は気だるそうな表情をする。
「じゃあ、あいつの氷全部は任せた」
「お、おい!」
言い終えると、勝平はすぐさま鬼の方へと走り出した。鬼も勝平の動きに反応するようにすぐさま体の至る所から氷の針を生成。
そして、射出。
全方向へとばら撒かれた針は当然、勝平の方にも襲い掛かった。
「砕けろ」
が、その針は勝平の体を貫くことはなくそのまま塵のように消えていった。
鬼は続けて、懲りもなく針を射出。
「砕けろ」
射出。
「砕けろ」
射出。
「砕けろ!!」
針が繰り出されるたびに伊吹はそれを全て打ち消して見せた。
そして、勝平と桐ヶ谷の距離が目と鼻の先まで迫ったことを確認すると伊吹は言霊を放つ。
「鎧消えろ!」
勝平は全力で走る。目の前で不気味に動いていた鬼の姿は瞬きしている間に消えた。後に残っているのは、誰もが理想とする少女の倒れた姿だった。
勝平は桐ヶ谷の方へと滑り込むように膝を着き、彼女を自分の顔が見える位置に抱き起こす。桐ヶ谷は脳に本来あるはずのない勝平の意識が混ざり込んでいる。洗脳事態は勝平自身さっき入ったことで確認済みなのだが問題はここからだ。
勝平の『意識介入(デュアル・シフト)』は相手と目を合わせない限り、その効果を発揮できない。しかし、彼女の意識はうっすらあるものの依然目を閉じている。このままではさきほどのような化け物がまた出てしまう。
現に、彼女の体は今も足のつま先から氷が伸びていっている。まるで宿主を食おうとするかのようにジワジワと範囲を広げていく。
それを見た勝平は迷わず彼女にこう言った。
「悪く思うな……」
彼女に一言、詫びの言葉を述べると彼女の柔らかな物を勝平の手で鷲掴みにする。そして、自分の唇を桐ヶ谷の可憐な唇へと慣れない様子で強引に押し付けた。
- Re: リアルゲーム ( No.94 )
- 日時: 2016/01/24 21:46
- 名前: 電波 (ID: JIRis42C)
桐ケ谷は半場意識が残っていた。自分が今どうなっていて何をしているかは分からなかったがなんとか生きていることは分かる。しかし、だからといってすぐに起き上がれる状態でもなかった。
体がまるで何かに引き寄せられるように動かない。ただ感覚は生きているようで彼女の左胸辺りが妙な違和感を感じる。それに妙に息苦しい。彼女の脳がどれだけ体に動けと命令をしても体はそれを拒否する。
困ったものだ…純粋に彼女はそう思った。敵に攻撃されることを恐れるよりも単純に自分の体が自由に動かせないことが彼女にとって悩ましいことだった。
この状態で取れる選択肢は…。
「……」
「……」
彼女が取った選択肢は一つ。
それは目を開けること、なのだが…。
目を開けた先にいたのは自分の唇を慣れないように押し付ける見覚えのある男子生徒の姿。本来の女子なら絶叫ものなのだが桐ケ谷は妙に落ち着いていた。印象で言うなら愛玩動物が主人に必死にアピールするような感じでありざっくり言うなら幼さの残った少年が頑張って起こそうとする姿が桐ケ谷の目にはそう見えたのである。
その時、その男子生徒と桐ケ谷の目が合った。
そこからの記憶は彼女自身曖昧だった。
次に彼女が目を覚ました場所はどこでもない体育館の中の一カ所。敷布団の上で横になり、さらにその上には掛け布団が掛けてあった。
窓から差し込む光は時間帯が朝だと伝え、体育館は避難者の声でざわざわとしていた。
桐ケ谷はそんな中、視線を周りへと移す。すると、彼女から見て右に生徒会副会長の村上。そして、さらに奥には生徒会の面々が未だ眠りについたまま布団の上で横になっていた。
「気が付いたか?」
ふと桐ケ谷の向いてる方向とは逆の方から声が聞こえてきた。彼女はゆっくりと視線を声の主に向ける。
そこにいたのは伊吹 和麻だった。
伊吹はポケットに手を突っ込み、複雑な表情で桐ケ谷を見下ろしていた。今まで散々な程に苦しめられてきた相手が弱った状態で目の前にいる。何人ものの友人がこの桐ケ谷 綺麗によって破滅させられてきた。
奥底に秘めていた怒りが沸き上がらないこともない伊吹だったが所詮はそこまでだった。彼女の弱った姿を見てそれが中途半端な所で止まってしまったのだ。
今一煮え切らない気持ちに吐き気を覚えながら、伊吹は冷静な表情で言葉を続ける。
「今までのことを覚えてるか?」
桐ケ谷は少し間を置くと、薄い笑みで答える。
「おぼろげだけどね…」
「どこまでちゃんと覚えてる?」
「ゲーム開始直後までは……覚えているわ」
「その時何があった?誰が洗脳した?」
「あまり質問攻めにしないでくれるかしら。安心しなさい、ちゃんと答えるから」
ほんのちょっとしたこと、彼にとって彼女のそういうちょっとした態度も気に食わなかった。いつも誰かを見下すような口調に態度。性格もそこいらの不良がかわいく思えるほどの冷酷さだ。弱っていなかったら今頃伊吹は桐ケ谷を殺しに行っているかもしれない。
前科があるだけその分、伊吹は彼女のことを信用しない。
桐ケ谷はそんな彼の気持ちを知ってか知らずか、話を始めた。
「放送が流れ終わってから少しして、全身黒装束の人が入ってきたわ」
その回答に伊吹は眉をひそめた。
「人数は?」
「一人…」
全身黒装束でしかも人数は一人。伊吹の考えられる結論からその人物は恐らく『例のアレ』だと推測した。
「そのあとどうなった?」
「分からないわ……唯一私が覚えているのはあの黒装束の人と目が合った瞬間、意識が途絶えたことだけ。たぶん操られたのはその時じゃないかしら」
「顔を見たのか?」
「いいえ、ローブで顔を隠されていたからあまりよく見えなかったわ。目が合ったって言ったけどそういう気がしただけで実際に顔を見たわけじゃないから…」
「そうか…」
これで何か考える素振りを見せると、軽く溜息を吐いて彼女に背を向けた。
「今でもお前のことが嫌いだが……今回は感謝はする」
非常に言いにくそうに、伊吹は彼女に礼を述べた。それに対し、桐ケ谷も皮肉気な笑顔を浮かべる。
「それはどうも。私も今回のことはあなた達に感謝するわ」
「気色わりぃな。なんだよ急に…」
「私やあの子たちを助けてくれたのでしょ?ならお礼を言うのが当然よ」
伊吹は一度振り向き、他の生徒会メンバーへと視線を向けると再び前へ向いた。
「そうかよ。なら勝手に感謝しとけ」
歩き出そうとする伊吹に桐ケ谷が彼の手の裾を掴む。歩を止め目を細めながら伊吹は後ろを振り返り、桐ケ谷を見つめる。
「それともう一つ」
「なんだ?」
鬱陶しそうに見る伊吹に桐ケ谷はこう言う。
「あなたのお仲間に責任を取るように、と伝えてちょうだい」
笑顔。
満面な笑顔。
その一切の曇りのない笑顔が狂気染みていた。今まで彼女に対して嫌悪感や怒りしか湧かなかった伊吹だが今の彼女の一言に背筋が凍った。決して自分に対して言われている訳でもないのにその迫力は相当なものだ。
「ああ…伝えておく」
桐ケ谷は伊吹が承諾するのを聞くと、裾から手を放し、そっと再び深い眠りについた。
伊吹はそのまま歩いていく。一目散にその場から離れていく。なるべく冷静を装いながら。
(あの女…洗脳は解けたよな?)
とにかく、厄介な相手に目を付けられた勝平に同情の念を抱く伊吹だった。
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